トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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章全体で四つに区切るとちょうどよかったので章のサブタイを10話まで変更です。

E3すごかったですねー、新型パワーアーマーにハンドメイド武器の数々、地面から現れるモールラットにラッドスコルピオン・・・他にもオープニングシーンの公開まであって燃えます、年内発売なのでまた試験で単位落とす学生が頻出しますね。

とまあ、E3でパワーアーマー着用方法が発覚したのでいつぞやのロイズ君パワーアーマー着用シーンも修正しよう(´・ω・`)


第三章:呪われたグラディエーター 18話

 

 

 

 

 じゅうじゅうと、肉の脂が熱されては燃えて消えていく。

 フライパンの上では厚切りにされたベーコンが気泡を吐いており、フライパンとの接触面から立ち上る白煙は豚肉特有の脂っ気を含んだ、空腹の肉体にボディブローを与えんとばかりのそそる匂いを立ち上らせては男達に唾を飲ませた。

 

 かまどの前に立ち、こうこうと昇る煙を顔に浴びてもなお動かない、調理に没頭するのは二人の男でスクライブ・ロイズとレンジャー・ティコ。ティコの年齢は伊達ではないと鬼気迫る真剣な顔と、ロイズの冷や汗を垂らしながらも目を背けない顔。

 

 そしてフライパンを握り、今まさに返そうとするロイズの手にすっと手を重ね止め、ベテラン然としたティコは言うのだ。

 

「相棒、ベーコンはな、大雑把な野郎に見えてかなりデリケートな・・・レディなんだ」

「で、でも」

 

 返そうとしていたフライパンを止められ、手を離しながらロイズは応える。

 ティコは指先でちっちっ、としながら話を続けた。

 

「手を出すにゃ遅すぎても早すぎてもいかん、最高のタイミングでこそ最高の結果を得られるってもんさ」

「じゃあ、いつだって・・・」

「フフッ、相棒、少なくとも今ひっくり返しちゃいかん、今ひっくり返したら」

 

 

 

「―――俺が作るより多分旨くなる」

「そらっ」

「おおっ!相棒は俺のアイデンティティを奪う気かっ!?」

「知るか!昼飯できたぞちみっ子!テッサ!運べ運べ!」

 

 頭を押さえ嘆くティコを放置して、ロイズはフライパンからベーコンを人数分取り出すと横で作っていた目玉焼きを上に乗せ、更に盛ってはお昼だお昼だと寄ってきたアルや、匂いにつられてようやく起きたテッサに渡しテーブルへ運んでいく。

 

 なおベーコンだけはかまどを使っていたが、これは電気コンロではベーコン本来の旨味を出すには不足なのだとするティコのこだわりだ、結果として、これは元来ロイズが持っていた料理得意と合わせてちょうどいい味付けをもたらし、ベーコンの味は最高に引き締まっていた。

 

「さっすがロイズさん上手いなぁ!今度味付け教えてくださいよぉ!」

「君を婿に貰える家は幸せものだよね、多少家事をサボってもできる夫がいるんだから」

「ちみっ子は今度教えてやるとして・・・テッサお前、それ褒めてんのか?」

 

 さらっといつのまにか椅子に座り、フォークとスプーンを両手に持って食事を待ちわびるテッサと、焼きあがったベーコンの塩気のちょうどいい匂いを嗅いで喜ぶアル、ロイズもまたひととおり準備を終えるとピンクのエプロンを脱ぎ、椅子に座る。

 

 それからティコが戻ってきて席につくと、ちょうど時計がその日の境界を跨いだことを指し、ぼぉーん、と一日二回だけ鳴る鐘を鳴らす。それにどことなくロイズは、また訪れた休日をこれからどうやって潰すか想像しながら手を合わせ、この世界の流儀であるらしい食事の挨拶をするのだ。

 

 本来は神に祈る、神に食事を告げるだけの簡素なものであり、特に信奉する神のいない者は挨拶だけなのでこの場面でそれを行なうのはテッサだけだ、他の面子はテッサが月の神であるルナへ十数秒ほど祈るのを見届けると、いただきますの挨拶と共に食事に手を付ける。

 

 だが一方のロイズは出遅れた、また先の考え事の続きが始まったのだ。

 今日は何をしようか、活気に勝る青年はやることが多いのだと、食指はどこまでも伸びるのだとばかりに想像を巡らせる。

 

 家の中で趣味の読書に没頭してもいい、故障したガラクタを修理して色々と作ってやるのもありだろう。

 それとも外をぶらついて、こっそり溜め込んだ資金で買い物でもしてやってもいいだろうか、この世界の工芸品や、ようやく読めるようになってきた書物など興味の対象は無数にあるのだ、それが終わったら、数日ぶりにドラム缶の風呂にまた入りに行ってもいいかもしれない。

 

 食事の後に広がる無限の世界へ思いを馳せながら、ようやく自分の手が止まっていたことに気付いたロイズはまずは食事だと、目の前で肉汁をその内に溜め込んだ、自身の身体に流れるアメリカ人の血を滾らせる肉切れを口に運んで―――

 

 とんとんと、玄関扉が叩かれる。

 一同はそれに反応し、扉へ目を向けたのち顔を見合わせた。

 

「・・・ん?お客さんですかねー?珍しいなあ」

「あの大男達くらいしか来ないからねえ、入ってもいいよ!」

 

 首を傾げ玄関扉を見るアルと、扉越しの相手に向かって侵入の許可を叫ぶテッサ。

 するとゆっくりと扉が開いていき、やがて、外の世界が露わになる。

 

 そこにいたのは、

 

 

「・・・ネコミミ?」

 

 ゆらゆらと、扉枠の端から白色の髪と耳、頭の上の白い猫の耳だけを出す誰か。

 その姿に誰もが首を傾げ、思い当たるフシを探し始める、だがロイズだけはその中すぐにピンと来た、記憶に新しくつい直近に苦い経験と楽しい経験の両方を共に過ごした、自身を慕うファンの少女であった。

 

「ゼノかっ!?」

「やっ、あったりー!来ちゃったよロイズくーん!」

 

 ひょこっと顔を出し、笑顔をロイズに向ける少女、ゼノ、彼女は以前と同じ柄は地味目、色はそれなり目立つ普段着のまま、扉枠に手を掛けていた。

 

 ロイズはそんな彼女を見て安心すると、席を立って彼女へと向かおうとする。

 

「そういやオレから来いっつったもんな、まあいいや、上がってけよ、そんな広くはねーけど椅子なら一つ余ってるしそれに、昼まだだろ?なんなら今からちゃっちゃと作って・・・」

 

 

 そう言いかけたところで、ロイズは見る角度が変わったことにより扉の陰から見えるものが変わったことに気づく。だがそれにそちらも、”扉枠からのぞく耳”も気付いたかというように、ひょこっとゼノと同じように耳を伸ばした。

 

 見ればその耳はゼノの猫の耳とは違う、荒々しく、そして髪質もどちらかといえばざんばらで手入れがあまり行き届いていない虎の耳と虎色、虎柄の髪だ。

 それにロイズは少しだけ首を傾げ、それから記憶の海を泳いでその景色に該当するものを、十数秒ほど探してようやくサルベージする。

 

 思えばそれとの出会いは数日前に行われていた、それはまさしく、自分もまだ恩義を感じて返していない彼で―――

 

「超獣のおっさんか!」

「うむ!よく気付いてくれな白銀闘士ロイズよ!ははは!」

 

 ロイズが指差し呼んだことに気付いた超獣、ウグスト・ラゴンはがははと笑いながら、おちゃめにも耳を出していた姿から身体も出し、扉枠にかがみこんで顔を見せると笑う。身の丈は猫背でなければ3mに届きそうなその体躯は、ログハウスに入るには少しばかり過剰だった。

 

 身体は外に出し、外から見つめるウグスト・ラゴン、そして扉枠に手を掛けて入ってこようとはしないゼノ。

 ロイズがそれを見ていると、ゼノはにーっと、笑って招き猫のように手招きをする。その姿から彼らの”用件”を察したロイズは後ろ髪を掻くと、すっと後ろを振り向いて彼らを無視し食事に更けるテッサに目を向けた。

 

「テッサ、オレのメシの残りやるよ」

「ボクを大食漢か何かと思ってるの?」

「じゃあグール」

「おう任された、次こそお前より美味いベーコン焼いたるからな・・・じゃあ行って来い相棒、たっぷり骨休めな」

 

 既に察していたとばかりに皿を寄せ、手を振って見送るティコにふうっと笑い混じりの息を吐きながら、今度は忘れないと傍にあった財布をつかんでポケットにねじ込むと、ロイズはゼノとウグストの導きに従って日の当たる外の世界に足を踏み出す。

 

 階段を階下に降りるなり隣から腕に組み付いてきたゼノと、耳に痛い笑い声を吐きながら握手を求めるウグストに応じながらロイズは、今日の予定はこれで潰れたな、とため息を吐きながらしかし、不服さとは無縁の表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 商店街の手頃なカフェに席を取り、三人で座る。

 

 ロイズや小柄なゼノはともかく、巨漢のウグストが小洒落た店の雰囲気に合っていないような気がしたがそれでもこの街、他にも似たような面子な席を囲んで顔に似合わぬ乙女じみた話をしているために違和感は、奇妙な一体感にかき消された。

 

「急にごめんねぇ、でもお昼まだだったと思ってたからそれなら誘っちゃおうと思って」

「別にいいけどよ・・・ああ今度は奢らせろよ、いつまでも女の財布のヒモに頼ってちゃスクライブの名折れだってんだ」

「う~、ロイズくんやっぱりいい人だぁ・・・じゃあわたし、一番高いの頼んじゃう!」

「お、おぉ!?いいぜ、どんとこい!いいよ来いよっ、払ってやる!」

 

 目をキラキラとさせメニューに目を通し、指先でなぞった品の最も高いものを記憶に保留し次へと滑らせていくゼノに、財布を見ながら意気やよし、何が来てもいいぞどんと来いと胸を叩いて冷や汗混じりに強がるロイズ。

 

 一人腕を組んで座るウグストはその滑稽な様に、相も変わらず大笑いをしていた。

 

 ゼノがメニューを最後まで見通してようやく、大銅貨(1,000)が何枚もいるような高級メニュー見つけチラチラと、ロイズに催促するように、確認するように視線を送る。

 

 ロイズはその視線を受けまた、いつでもこいよ、オレもいいよとサムズアップを彼女に送るとにっと、ゼノは笑顔一面になり店員を呼ぶため手を上げ振った。そうなると残るのはウグストで、ロイズは彼にここに来てようやく話しかける。

 

「ウグストのおっさんはいいのかよ?」

「うむ?某はそうだなぁ・・・特に決めておらんからゼノ嬢と同じものをもらおうか!」

「ヒエッ・・・」

「ははは!心配せんでも某のぶんくらい自分で払う、安心するがいい!むしろ全員分持ってやってもいいぞ!」

 

 大笑いしながら気前よく言うウグストの声はやかましく、ロイズもいいです、と断るとその姿勢を褒め称えるウグストの声がまた耳を痛めに来る。

 そうしているとゼノがあれよこれよと一人で注文を済ませてしまい、あとに残った彼らは適当な話題を作り出すと場を静めまいと、とりあえずは口を開くのだ。最初の話題はロイズからで、質問だった。

 

「それで、なんでウグストのおっさんとゼノが一緒にいるんだよ?・・・お前らそういう関係とか」

 

 冗談めかしていて、実際冗談なのだ。

 だが唐突に投げかけられた爆弾に融通の効かないらしい二人は、互いに真剣な反応をするとロイズに返してみせた。

 

「ちょっとロイズくぅん!わたしこう見えてずっと独り身なんだよぉ?ウグストさんとはついさっき会って、買い物を手伝ってもらったの!ほら、いろいろ、色々!」

「その通りだロイズ、某とゼノ嬢は偶然会った身でしかない、それに某には妻も子供も既におる、勘違いとはいえそのような軽薄な口ぶりをされては少し、不名誉であるぞ!何かを言う時は、それが相手の―――」

「わ、悪い・・・冗談のつもりだった」

 

 買い物袋を見せ慌てて返すゼノと、表情を苦くして真剣に諭しに来るウグスト。

 これを続けられてはかなわないと、ロイズは慌てて手を振り気を引くと冗談だった、自分が悪かったと素直に認め納得した二人の前で、はあっとため息を吐いてうなだれたのだった。

 

「まあそれでね、お話してる間にロイズの話題になってぇ」

「それで、今日の昼餉に君を誘おうという話になったのだロイズ!某も君とはちゃんと話をしてみたいと思っていたし、いい機会であったな!魂、磨いておるかロイズ?」

「あー、そういや住所教えてたんだったなー・・・ってかそれ挨拶かよっ」

 

 そうは聞いていたが、いざ来られてみると驚きは確かにある。

 地下バンカー生活では尋ね人は部屋がいいとこであったし、それ以外は書庫だ、自分の家にわざわざ誰かが足労してくるというのはなかなか彼には新鮮であった。

 

「それでここってことか、何だかその、いい思い出ねーんだよなぁ」

「うん、でもあの時むちゃくちゃにされたからまた・・・最初からやり直そうって思って」

 

「鉄壁テストードのことは、その意味でも、彼らの意味でも残念であったなロイズ・・・いい戦士達であったのに」

「知ってたのかよ?」

「某をいくつだと思っている、君よりもずっと彼らとの付き合いは長いさ、それこそあのフラティウ達が来る以前から戦っていた好敵手ぞ」

 

 闘技場のトップは、本来彼らと我らが取り合っていたのだ、と厚い胸をぽんと叩き言うウグスト。

 極厚で鍛えあげられた胸板はさながら太鼓のようで、景気のいい音を鳴らすとロイズは噴き出した。

 

「ははは!皆某のこの芸には笑うのだ!気に入ったかロイズ!」

「もういい、もういいって!何でんな音なるんだよ、おかしいだろ!なあ、やめろって!」

「すっごーい!わたしも叩いていい?」

 

 目を輝かせて男の胸板を見るゼノと、喜んで胸を貸すウグスト。 

 そのやり取りを笑いを抑えながら見るロイズと言う不思議空間は、自然と目を集める。

 

 だがそれが収拾をつけたころ、一転ウグストは深く黙りこみ、それからゆっくりと話をし始めた。

 話題は少し前、この場所で三人が巡り逢った時に対峙していた戦士たち――― 今は一人が死に、残りの面子が拘置されている鉄壁テストードの面々であった。

 

「・・・ともあれ、彼らのような優秀な戦士がこのようなことをしでかすとは実に悲しいことである。とはいえだ、某にも責任がある」

「どういうこったよ?まさか連中のやらかすこと知ってたとでも?」

「半分な」

 

 即答。

 

 ―――その言葉には、さしものロイズも落ち着いてはいられない、目線が鋭くなり、椅子からゆっくりと立ち上がる。

 

 戦闘姿勢にいつでも入れるとばかりにかかとは浮かし、視線をしっかりと彼に向け次の言葉を待つのだ。ロイズの急な変遷にゼノは目をまんまるにし、ウグストはなおも腕を組んで目を閉じるのみ。

 

 しばしその硬直が続き、ゼノがあっちへこっちへ目を泳がせる中、ようやくウグストが話を続けた。

 

「―――彼らの、魂の”穢れ”が続いていたことに、気付いていた」

「・・・ンだよそれ?心でも読めるってか?」

「それほど器用ではないさ、だか某は魂を鍛えているうちにふとそのような”目”を手に入れての・・・人間の魂がどのような波を持っているかを、読み取ることができるのだ。直近の彼らはとても・・・”苦しんでおった”」

 

 テーブルの上で肘をつき、手の甲で口元を隠しながらウグストは話を続ける。

 

「内外に対する失望、絶望・・・特にあれは”妬み”と言って良い、それが日に日に強くなっていくことに一抹の不安を覚えていた。せめて、もう少し早く同じ戦士として悩みの一つでも聞いてやってやれば・・・」

「・・・おっさんは悪くねーよ、あれは元からああだったんだ、恨んだらそいつをぶっ殺さねーと済まねーような、んなやつだった」

「ありがとうなロイズ、だが悔やんでも悔やみきれんのだ、彼らは魂に穢れを持っていたとはいえ優秀な戦士であったことに違いはなかった、名声を得るに相応しい男達であったのだ、だから尚更な」

 

 心から悔しいのだろうと、ウグストの口ぶりを見るとロイズは思わずにはいられない。

 見れば、ゼノも耳をぺたんとさせ俯いていた。

 

 ロイズはカップに水を注ぐと、一気に飲む。

 それから喉の調子を整えると、話を切り開いた。

 

「だからよー、オレらがぶっ潰すべきはそいつらをそそのかしてあんだけのことをやらかした『灰色髪』ってヤツだろ、悔やんでても仕方ねーさっ」

(まこと)であるな、やはり黒幕は奴に違いあるまい。だが奴は姿も見せず正体の一切が不明の強敵である、相手をしようとするならばロイズも十二分に警戒されよ、灰色髪が直接誰かを害したという話は聞いたことはないが、気にするに越したことはない」

 

 

「―――灰色髪、かぁ」

 

 そこで、真剣に話し合う二人に割りこむように唇に指を当てたゼノが声を出す。

 それにロイズもウグストも、知っているのか、とばかりに期待の視線を彼女に送った。

 

「いやいや!そんな深いことじゃあないよ?ただわたしちょっと前まで色々歩きまわってたから話くらいには聞いててさっ!だから、そうだねぇ・・・」

 

 思い返すように空を見て、ようやっとゼノは思い出したとばかりに耳をぴんと立てる。

 それにロイズもウグストも、体ごと彼女に向けて耳を傾けた。

 

「二年前に農村のルーラルで疑心暗鬼からの惨殺事件があって、その四年前には北西の街のいくつかで魔獣飼いが魔獣を放って住人を惨殺する事件があって・・・上げてくとキリがないけど、針路を見るとここってその次になってもおかしくないんだよね」

 

 言うゼノの顔はいつもの笑顔ではなく、不安げだ。

 目を合わせずなまま、ゼノは言葉を続ける。

 

「それでなんだけど、ハイイロ髪がまず誰かに取り入る時、それは何か立場を持っている人なんだって、貴族さんのお嬢様だったり、魔獣飼いの室長だったりって、だからきっとここに来てるなら―――」

「そいつらを警戒しろってことか・・・くっそ、何人いるんだか」

「ご、ごめんね?」

「謝るなよゼノ、むしろありがとよ、お陰で情報が増えた」

 

 口元に笑顔を浮かべゼノに向けてやり、無意識に伸びたその手で頭を撫でてやる。

 

 ロイズとしては本当に、降って湧いた庇護欲からしてしまったことだったがそこは流石猫というべきか、ロイズの撫でる手をあるがままに受け入れとろとろに、テーブルに突っ伏してまでそれを受け入れるゼノ。

 

 それを暫く続け、ふと向けたウグストへの視線で彼が微笑ましく見ていたのに気付いたロイズははっと気づくと、残念そうに潤んだ目で見つめてくるゼノを見ないようにして手を外す。それから何とも言えぬ空気を肌で感じたのち、彼は話題をとにかく変えようと、話を振るのだった。

 

「そ、そういやおっさん、オレの魂の波ってのもホラ、見えるのかよ?」

「む?まあさっきから見ているぞ、なんというか君のは・・・」

 

 ロイズの言葉を受け、じっと集中しウグストはロイズに視線を送る。

 目を細めると、彼の目には彼の身体から立ち上るオーラのようなものが見えてきて、それに彼はにっと笑った。

 

「君のはいい、実に純粋な正義感に溢れていて、それでいて純情なのだろう?奥手と見える」

「そういうのはいいってっ!」

「ははは!まあ冗談はここまでにして君の魂は・・・」

 

 ウグストは更に目を細め、集中する。

 ロイズの魂から立ち上るオーラが更に細かく見え、彼はそれに口元の笑みを戻すのだ。

 

「・・・何か違うのだ、他の者と、形は同じだ、だが色が違う、まるで―――」

 

 

「―――違う世界の存在かの・・・」

 

 言いかけるが、止まる。

 そこで横合いから声をかけられるのに目を向けると、給仕の女性が注文した料理を運んできたところであった。

 

 ウグストは景気良くチップを払うと、その実に巨大、並みの人間ならば食べきれるか怪しい”パッフェ”をゴトリ、ととてもガラス容器入りのパフェの立てるとは思えないような音を立て、テーブルに置く。

 

 その大きさたるや普通に座るゼノの顔ほどに届いてしまい、ロイズのソールズベリーステーキのライスセットがとても小さな肉塊に見えてしまうほどの威容であった。

 これにはゼノも予想外で顔を固まらせ目をまんまるにする、一方でウグストは体格が大きいだけにこのサイズを目にしても対して驚かず、むしろ、まるで甘いモノを目にした婦女子のごとく満面の笑みで両手を合わせ食事の挨拶をするのだ。

 

「・・・ゼノ、食えないなら少しくらいもらっても」

「だっ、だいじょうぶだよぉロイズくん!甘いものは別腹っていうし!」

「たぶん本腹差し置いて別腹に全部入るけどいいのかよ・・・?」

 

 圧倒的食事量の暴力を前に、ロイズも顔を青くする。

 だがゼノは逃げない、退かないとばかりにぱんっ、と手を合わせると、いただきますをしてその山脈に手を付けるのだ。

 

「そういやゼノ、くん付けしなくってもいいって前に言ったぜ」

「でもこっちのほうが呼びやすくってさぁ」

「・・・じゃあいっか」

 

 何気ない会話をスパイスに挟み、甘味の濁流への緩衝材とする。

 そうしていると彼へ、横合いから声がかかった、口元をクリームに濡らしたウグストであった。

 

「ところでロイズ、君のつけているそれを良ければ見せて欲しいのだが・・・」

「ん?ああ、オレのフィスト?別にいいけどよ」

 

 ロイズは言われるなり、腰元に取り付けているフィスト二つを別に好きにしろと、ウグストに手渡した。

 いつ戦闘状態になってもいいように、パワーアーマーを着ていない時は特に彼は武器を持ち合わせているのだ。よく同僚が持っている9mmピストルや10mmを持っても当てられる自信がなく、ならばと持っている二つの機械拳、ハイテクフィスト。

 

 今日のところは、右手のパワーフィストが損傷しているために代わりに持ち合わせているサタナイトフィストと、左手用の強化型パワーフィストの一対であった。

 

 ウグストは受け取ったフィストをまじまじと見ると、その精巧な作りや激戦を抜けてきたことを示す細かな傷跡、そして手ははまらなかったが内部のグローブ部分の構造が手に負担をかけないように造られていることに感心し、ほおっ、と息を吐く。

 

「実にいい魔道具であるな・・・これを作った名匠はさぞ腕がいいのだろう」

「あっ、スイッチには触らないで下さいよ、マジ当たったら洒落に・・・」

「む?」

 

 言った途端、タッチの差でガシャコンっ、とパワーフィストのプレスが弾け出す。

 そのプレスは見事にウグストの腕を叩き折る手前で止まっており、そのギリギリの様には当のウグストも、ロイズも、ゼノですらぴんと表情を張って固まっていた。

 

「・・・まあ、何もなくて良かったッス・・・」

「う、うむ、もう少しちゃんと聞いてから受け取った方が良かったな、うむ・・・ところでこれ、貸してはもらえぬか?知り合いに腕のいい魔道具職人がいてな、ぜひ調べてみたいのだが・・・例は払おう」

「官給品だし使うからちょっと」

「・・・うむ、ならば仕方あるまい」

 

 申し訳なさげに断るロイズに仕方ないと、フィストを返すウグスト。

 残念そうなその素振りをパッフェにがっつくことでごまかすと、そう時間が立たないうちに完食する。

 

 だが結局ゼノはその全てを平らげることができず、ロイズと、ウグストとで分けあい、なんとかその量を減らしたのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 ―――森を進めば光は量を減らし、量を減らした光の陰には大小様々な生物がひしめきあっている。

 

 岩の裏にはびっしりと蟲が、葉っぱの影には一匹の蝶が、枝と枝の陰には尻尾の多いリスが寝ており、樹木の傍には大柄なツノジカが懐に子供達を抱えて寝入っている。多種多様な生態系がこの世界の森のなかにも見られ、それは今この場に訪れているティコにも、年甲斐なく新鮮味を感じさせた。

 

「んなもんだから、ついつい自分でも狩ってみたくなるんだが、ここはな」

「え?どうかしましたダンナ?」

「別になんでもないさ、何かあったら嬢ちゃんを守ってやるってことさ」

 

 小首を傾げ、ティコの独り言に言葉を返すのはアルベルト、アルだ。

 普段通りの戦闘装束のティコと同じように、彼女もまたそれなりの準備をもって彼とともに、森の中に潜っていた。

 

 その手には22口径LR弾、対人用に使うには少しばかり心許ないが足を止めるのには、そして至近距離でなら殺傷にも十分な貫通力を持つ、大人の手のひらには不釣合いなくらい小さい弾を使う銃が握られており、安全装置はかかったままとなっている。

 

 スタームルガー、とも呼ばれる拳銃だ。

 かつてアルはこの銃を持って人命を奪ったためにいい記憶はないが、その時は一人だった。信頼するティコが傍にいるならいいと、彼女はこの銃を手に狩猟へと訪れていた。

 

 森をゆっくりと、音を立てないように歩き、しばししたころ。

 ティコのハンドサインに従って足を止めたアルは、その場で隣に並んだティコに目を向けた。

 

「いいか嬢ちゃん、銃ってのはなかなか便利なようでこれまた結構不便なもんなんだ、弾がなけりゃ撃てんし弾が切れたら隙ができる、慣れが肝心なのさ。こっちの戦い方は剣と盾みたいだが、敵が多すぎるんならそっちのが良かったりするかもな」

「でもすっごく強いですよダンナの武器、あの大盾をあれだけ釘付けにできるってそうそうないですよ」

 

 アルが思い返すのは、ほんの数日前の戦闘だ。

 信頼するティコの導きに従って自分達は逃げ、災難を逃れたからよかったもののあれは阿鼻叫喚だった。涙と嘔吐物にあの”痛む煙”の風下の座席が塗れ、一時はその対処に会場がかかりきりとなっていたほど。

 

 その中にあって、その痛い煙の中を平然と歩き”じゅう”をもって鉄壁テストードに圧勝を決め込んだティコの頼もしさは、彼女の中に再び熱い何かを、闘争の血液かもしれない、そんなものを滾らせた。

 

「5mmでもあれだったからな、5.56mmあたりなら薄っぺらい鋼板くらい貫通できたかもしれんなぁ。まあともあれ、ありゃ使ってた武器の相性が良かった、ショットガンだったらなかなかそうはいかんかった」

「うーん、いろいろ種類があってさっぱりですけど、ものによってはダンナでも苦戦するって」

「そうさ」

 

 言うとティコは、アルの後ろに回って彼女の身体を抱くようにその手を手と合わせる。

 彼女の身体に直接触れ、そのうえで銃の構え方を教える目的であったし、以前にも同じことをやってはいたがそれでも、ティコに抱かれる形となった彼女の心に赤みが差さざるを得なく、その影響は頬にも見えてくる。

 

 後ろにいるティコには見えなかったし気付きもしなかったが、内心喜びの大きいアルはその心のまま、ティコの教授を受け続けた。

 

「この22口径は・・・まあ最弱ってほどじゃないんだが、威力に欠けてな、代わりと言っちゃなんだがなまじ小さい分取り回しが効く、それに軽くて持ちやすいしなにより、こいつはオートピストルだから連射も出来る」

「ってぇーっと?」

「嬢ちゃんみたいな小さい子が身を守るのに使うのにはちょうどいいってことさ」

 

 そう言うと、一拍置いてティコは話を続ける。

 その手はアルの頭に置かれていて、ゆっくりと撫でられていた。

 

「嬢ちゃんは今後も、俺らと来るんだろう?」

「はい、決めましたから、ふつつかものですが・・・」

「はは、嬢ちゃんはジョークもうまいな」

 

 ジョークじゃありませんよう、と抗議するも、笑うティコには流される。

 そうしていると、撫でるティコの手が止まり、頭に置かれた。

 

「だからきっと、今後も血生臭いことが起こる。俺の人生はそんなもんだったからな、巻き込んで申し訳ないとも思うが・・・だからこそ、嬢ちゃんにゃ事が起こった時にゃ自分の身を自分で守ることをできて欲しい」

「ダンナ・・・」

「何も今すぐ人を殺せるようになれってことじゃないさ、ただ、少しずつ慣らそうってな。嬢ちゃんは剣を振るにゃちと小さいし、ナイフの扱いに慣れてるわけでもない、CQCなんざもってのほかだろ。使うなら銃以外にないってのがある」

「“じゅう”、使いこなせるかなあ」

 

 できるさ、とぽんぽんと、頭の上においた手を柔らかに上下させる。

 そしてアルの銃へ手を移すと、その手で導き安全装置を外させてやるのだ。

 

 シャコン、と音が鳴り、その手に持つ凶器は命を奪う準備ができたことを示した。

 

 

「とりあえず、命を奪う、その練習だ。どんな生き物でもいい、奪うことに慣れておけば万が一の時に結構冷静になれるようになる、まずはあの・・・えっと、リスから始めよう、尻尾が多いがリスだろ多分、帰ったら焼いて食おうや」

「リス、食べられるんですか?」

「これがなかなか、串焼きにしてみりゃいいもんなのさ、ほら嬢ちゃん、安全装置の外し方は覚えたな・・・そしたらそう、両手で構えて、そうだそうだ、いい子だな・・・そら」

 

 少女の手を導き、22口径の鋭い槍の先端を少し離れた木の上で眠るリスへと指し示す。

 アルは引き金に指をかけ、ティコの合図を待つ。

 

 リアサイト、フロントサイト、その垂直線が指し示す射線がリスの土手っ腹を示した瞬間―――

 

「今だ、引け!」

「ッ!」

 

 力強い手に照準を固定されたまま、アルがするのは引き金を引くことだけだ。発射された弾丸は銃口から小さく火を吐くとともに空気を裂きやがて、間抜けに寝ていたリスの鼻ちょうちんを心臓ごと割ってやり、その衝撃にリスの身体が樹から落ちる。

 

 他にもいたのだろう、仲間の一匹が唐突に命を奪われたことに群れはいっせいに樹の中へと隠れていき、ティコはというとアルを離れ一人、落ちたリスを拾い上げるとアルの元まで戻ってきて、尻尾をつまみ血を滴らせるその姿を、アルにありありと見せてみせた。

 

「どうだ嬢ちゃん、よく当てたろ?」

「うえ・・・慣れませんねぇ・・・あっ」

 

 しゃがんでいたから、吊り下げられたリスを見るとアルは見えてしまう。

 樹上から見下ろすリスの群れ群れだ、その一匹一匹に表情は無かったがアルには無意識的に、その表情に恨みが差しているように見えて仕方なかった。

 

「うぅ・・・」

「慣れるんだ嬢ちゃん、慣れるために・・・そうだな、奴らに向かって挑発してみろ、”あたしはお前らをいつでも殺せるぞ!”ってな」

「でもなんか」

「やってみりゃいい、案外吹っ切れるぜ」

 

 後ろめたさやどことない罪悪感が包む中、アルは天秤にかけ、そして信頼するティコの言葉に比重を置く。そして少しの震えが差す中深く、すうっと息を吐くと樹上をきっと睨んでやり、ひと思いに溜め込んだ言葉を吐き出した。

 

「やいやいチビのリス共っ!あたしがあんたらの仲間を殺してやったんだっ!悔しいなら降りてきて噛み付いてみなよ、どうしたんだい、なあっ!?」

 

 アルの高い周波の声色が響くと同時、リスはいっせいに更なる樹上まで逃げていきやがて見えなくなる。しばし睨みを止めなかったアルであったが、ティコに肩を叩かれるとようやく帰ってきたようであった。

 

 アルはその様と、血塗れのリスを見比べてしかし――― 何とも言えぬ、興奮を味わった。

 恐怖が勝利への高揚に塗り替えられたかのような、奇妙な感覚だった。

 

「ダンナ・・・」

「いい気分だろ?あと数匹狩ったら卓を囲んで今日のメシにして・・・ああそうだ、ドラム缶の風呂にも入って帰るか?ありゃいいもんだ。ま、なにはともあれよくやってみせた嬢ちゃん、22口径は結構弾が余ってるからな、しばらく慣らしてそれから―――」

 

 ティコは言うと、懐から一丁の拳銃を取り出す。

 

 それは22口径よりも大きく、しかしティコが使うレンジャー・セコイア(45-70ガバメント)よりもずっと小さい、デザインも黒地に茶色のストック、小奇麗にまとまっている感がある拳銃、M&A 9mmピストルであった。

 

 戦前M&A社が製造した拳銃でNCRの兵士にも持ち運びの良さから、10mmと比肩しサイドアームとしてよく使われているもので22口径よりも威力があるにも関わらず、それよりも軽い拳銃であり、子供が使うにもそれなり十分な取り回しを持つ銃であった。

 

 貫通力はまだまだ少ないが、そのぶん人体に対する破壊力は大きい。

 言わば22口径を使った、次の段階として使うのに相応しい銃と――― そう言えた。

 

 

「こいつを使えるように、そうなってみようか」

 

 これを持つということ、即ち。

 

 頷くアルと、また銃を懐に仕舞うティコ。

 二人の狩り(デート)は日が沈みかけるまで、ずっと続いていた。

 

 

 

 





参考なまでに、

http://fallout.wikia.com/wiki/Silenced_.22_pistol
22口径ピストル

http://fallout.wikia.com/wiki/9mm_pistol_%28Fallout:_New_Vegas%29
9mmピストル

22口径って実際出番ないんだよなぁ
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