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―――目蓋がゆっくりと、億劫そうに開く。
ひとえに頭の重さのせいだ、飲み過ぎた、とティコは思いながら上体を起こし、そこで膝元にアルが頭を載せ、心底幸せそうに眠っているのに気づく。それを微笑ましく眺め眠るアルの頭を撫でたあと、ゆっくりと、起こさないように彼女の頭の下の自分の膝と手頃な、脱ぎ散らされた衣服を畳んで枕にしてやるとすり替える。
それから立ち上がると、彼はふわぁ、っと大きくあくびをし身体を伸ばし、肩を回すのだ。思った以上に痛む頭は、昨夜の飲み比べの自身の常勝無敗っぷりを、死屍累々と地面に寝ている酒飲み達の身体が語っていた。
「っあー・・・こりゃひでえ、今日の街は回んねぇなぁ、まあ連日祭りになるだろうし、いまさらか」
それだけではない、見れば酒場の床は、テーブルは、椅子はびっしりと倒れた酒飲み達で埋まっているのだ。
ティコは日が昇ってからだいぶ経って起きたらしいので多少少なくなってはいたが、昨夜に見た人間の多くが見覚えありかつ、高鳴るテンションに帰りどころを忘れてしまったのだろう、酒瓶を胸に抱え、時に吐瀉物にまみれて赤いまま寝ている。
彼の道連れたちも同様で、アルはいつの間にか猫のように丸くなってすやすやと寝息を立て、テーブルの上ではテッサが上半身を下着姿に大の字で眠っていた、鼻メガネなんて滑稽なものをつけているあたり相当盛り上がったのだろうが、あいにくと覚えがない。
フラティウも壁に背をつけ腕を組み、笑い顔のまま眠っていてシェスカはその横で彼の肩に頭を預けている。いないのはバラッドだから、彼は彼で起きない彼らに先んじて家にでも帰ったのだろう、優秀な男である。
そして―――
「相棒、相棒、起きろよ」
「―――ッぅ・・・グール」
「“特別試合”ってやつは今日だろう?相棒が負けるとは思えんが・・・俺も呼ばれてるんだったか、遅れるには少し料金が高いんじゃないのか」
「うぅ、みんなオレ酒飲めないの知ってて勧めてくるんだからよ・・・うー・・・まだなんか火照る・・・」
眠気眼、髪も顔もくしゃくしゃのロイズは、顔をわずかに赤らめている。
飲めないくせに無茶をしてアルコールに手を出したこの若い青年に苦笑しつつ、その手をとって引いてやるとロイズは起き上がり、身体を回してポキポキと骨を鳴らし、今なお残る疲労に大きくあくびをする。
「その割には楽しんでたじゃねぇか相棒、”どこまでパンチで壊せるか選手権”なんて一体何時間やってたんだ?」
「剣は折ったし盾も折ったし石も砕いて・・・うー覚えてねー」
「まあともあれ、着替える暇もなさそうだぞ相棒、汗臭いのは我慢して早くしとけ」
「あ?何言って・・・って」
ティコの言葉を受けてはっとしたのだろう、時間だけでも確認しようと手元のPip-boyを覗きこんで眠気眼を半開きにしてダイヤルを操作する。だがそうする彼の目は、少し、いや一気に開いていき―――
「時間やっべえ!おいおっさん!胸ペタ!起きろよ間に合わねぇぞ!」
「フラティウさん、シェスカちゃん・・・うわっ、まだ寝てるの!?あっ、ロイズは起きてるか!ほらみんな早くして!ねえ!」
飛び起きたロイズが壁に背もたれをかけ眠るフラティウをがくがくと揺らし、彼が起きるのにつられてシェスカもゆっくり目を開く。そこにバラッドが既に準備を終えたらしい格好で戻ってくると、時計を見て四人は大慌てて酒場から駆けて行くのだ。
騒ぎに気づいた街の人達や酔いつぶれた男達が手だけ、上体だけを起こしながらその姿を見送り、同時にティコもコンバットアーマーとヘルメットをかぶり、銃を背負って走りだす。
それでも今なら何だって勝てる、そんな予感を胸にして。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
パーミットの闘技場はひとつだが、似たような場所がないといえばそうも言わない。
一等市民区に入ってしばらく、中心と外郭のちょうど間っ子あたりまで行くと、一種の公民館、市民館のようなものがあってそこが今回の、彼らがこの街に受け入れられるかを決める”特別試合”の会場となっていた。
これからこの街に住まうことになるかもしれない、身分は卑しくとも自身の召し抱える騎士や兵士よりもよほど強靭で洗練された技術を持つ彼らを一目見ようと、または見定め将来的に勧誘でもするのだろう、もしくは単純に暇なのか。貴族の面々も彼らが訪れた一報を聞くなりわざわざ家から飛び出してきて、道を歩む彼らに目を向けていた。
ロイズはその視線の嵐にやはり少ししどろもどろとしながら、髪の後ろを掻きごまかす。だがどことない違和感も感じるのだ、それはなんというか、彼らの突き刺してくる視線が以前までのそれとは違うような、まるで―――
「物見るみてぇ」
「貴族のお偉方というのは得てしてそうなのだ、権力闘争が強いところに行けば行くほどそうなる傾向にある。我慢してじっと歩くといいロイズ、彼らに目をつけられると厄介ではある」
「あたしに手ェ出したらまあ実家がただじゃおかないし、あいつらも弁えてるでしょ」
首落とすくらい余裕よ、とさらっと呟くシェスカに、物騒だなあとバラッドが答える。そうしているとようやく、魔法処理を施したらしい、豪奢なレンガ造りの見上げるような市民館が見えてくるのだ。
ステンドグラスが窓に嵌められ入り口は綺麗に掃除がなされ、その両端を固める警備兵の装備も仕草も一級品に違いない。警備兵もまるで久しぶりに自分達と同じ身分の者を見て安心したといわんばかりに敬礼し、口元に笑顔を浮かべ一礼しひそかに『頑張ってください』と囁くと、また職務に戻る。
そんなささやかな善意に気分がほぐされたようになりながら、彼らは中に入るのだ。
とはいえどちらに行けばわからない、一番前に出ていたのは好奇心が年甲斐もなく強いティコであったが、そんな最中、近寄ってくる影があるとピンと来たのだろう、彼はその案内人にいつもの調子で声をかけるのだ。
「ようお参りいたしましたぜお兄さん、待合室は?ポップコーンとコーラ、それに暇つぶし用のホロテープはどこだい?年を食うと結構感性が鈍るから、退屈なコメディアンのテープでも結構――― あいたっ」
「マナーくらい守りなさいよこの黒兜っ!」
シェスカにぴょんと頭をはたかれ、悪い悪い、と謝る彼だが反省の色は伺えない。
その様子にいつもの彼で変わらない、緊張はほぐれたとばかりに笑う一同だったがとたん、案内人はごほん、と咳をし場を静める。
そして”上品な”笑みをしながら返すのだ。
「コーラ、というものは存じませんが・・・申し訳ございません、少々皆様が時間を”お取り違えになった”ようなのですぐに試合の方を始めたいのです。お水が一杯欲しいと言うのでしたらすぐにご用意いたしましょう、でもアルコールは・・・やめておいたほうがいいと思いますね」
「おぉ・・・ブラボー、ブラボー・・・負けたぜ」
見事に彼らの遅刻と、ティコとフラティウから抜けない酒臭さを皮肉った回答をぶつけてくる案内人は、笑顔の裏で不機嫌さを隠せていない。彼らがあまりにも遅かったことに上司あたりから絞られでもしたのだろうか、これは返す言葉もないとティコは賞賛の拍手を送った。
そうすると、黙ってついていくほかない。
会場への扉はすぐそばにあって、両開きにしてくれた警備兵にまたどうも、どうもと感謝の言葉を送りつつくぐると既にそこは戦場なのだ。
”市民館”とは名ばかりなのではないかと言うほど広く、会場の床は強固で堅牢な石材が用いられている、というより内壁や床まで全部大理石だ。滑ることこのうえないが、外壁にレンガを用いる反面内部に大理石を使うという発想は、内部に訪れた人間を二度驚かせる粋なデザインに違いなかった。
四方には観客席が設けられており、そこにはすでに身分がまるで以前の闘技場の面々とは違う、豪華なドレスや上等な服に身を包んだ貴族方が座っていて、シートはどれも布張りのチェアで座り心地が想像できてやまず、されど彼らも人間だろう、暇を持て余しているとばかりに談笑に包まれていた、しかしそれも、
「上品だよな、やかましくねーもん」
「当然よ!下々ってのとはまるで違うの、話し方ひとつひとつにマナーがあるのよ・・・今度、教えてあげましょうか?少しはそのやかましい話し方、治るんじゃない?」
「ならオレやかましくていーやっ!」
いーっと挑発的にシェスカをおちょくるロイズと、触発されて睨みつけるシェスカ。
一応彼女はその”貴族”でも上等な身分に値するはずなのだが、長年教育を受けずその場から離れるとこうなるのか、と脇で見ていたバラッドやティコは思ってしまう。
そんな視線にぴくりと反応したシェスカの返す視線に目をそらしながら、しばしやかましくしていると一転、場が静まり返るのだ。
闘技場なら歓声が過っただろう、だが色がついて見えるほど強固な魔法障壁、安全性を疑うよしもないそんな領域の内側で主賓が訪れた瞬間静まり返る人々を見ると、やはり彼らがきちんとした教育を受けていることも感じさせる。
そうしていると、司会らしき人物がぱたぱたと忙しそうに向かいのゲートから走ってくるのを目にする。
その服装も上等、というよりは嫌でも目立つように金目の多い装飾をされているのが目につき、ティコは見ろよ、成金だぜ!と指差し言う。その指を無礼でしょとシェスカが下ろし、同様何か言いたげなロイズが全く動じないフラティウの方をチラチラ見ていると、司会が暗転、照明が落ち司会が喋り始めるのだ。
開会の合図は手短で、そして饒舌だった。
『あ、あー、この折はお忙しいところお集まりいただきありがとうございました!参加者の皆様もお集まりになられたことですし、ようやく試合の方、開始することができますね・・・しかし、もう少しばかり早く来ていただければとは思いましたがっ』
観衆が笑い、言い返せないロイズ達はそれぞれの癖を見せる。
ロイズが頭の後ろを掻き、ティコがこめかみを掻くと話は続くのだ。
『おやおや!しかし笑ってはいけません!彼らは今度我々の仲間入りをするかもしれないのです、彼らを欲しがっている方もおられるでしょう?彼らがどちらか・・・名誉ある身分をお探しであるのなら、その気品を見せつけておやりなさい、きっとあなたを主君だと認めます』
「勝手言いやがって」
「まあ、隠居生活には悪くないかも、とは思うが・・・」
「そのときはあたしの実家が拾ってあげるわ、間違っても変なとこ行かないでね?」
「・・・僕だけ置いてけぼりになりそうだなあ・・・」
ささやかに選択権の薄いモノ扱いされていることを察するとロイズはバツの悪い顔をし、しかしこの世界としてはそれも選択肢のひとつになるのだろう、フラティウやバラッドは一瞬考える顔をする。
『・・・っと、少しお話が長かったようで!では参加選手の紹介と”相手”の紹介を行いましょう!さあ、各参加者方は前へお願いします!』
司会の言葉とともに、湧く観衆、暗闇の中であると誰が誰かよく分からないものだから、はしゃぎたくもなるのだろう、とティコは思いながら前に歩いて行き、司会に止まって、と言われる場所で止まる。
いくつもの遮蔽物が設置された舞台の、その手前であった。
闘技場と同じシステムを使っているのだろう、そのデザインは闘技場同様のものであり、ここでも”死なないから存分に戦え”とささやかれているような気がしてならないと、ロイズは微妙な気持ちになる。
そうしていると、照明が切り替わった。
舞台全体を照らしていた照明から一個人、フラティウを照らすように切り替わったのだ。
ティコが思い出せば、自身が売った200年持つパイロットランプ照明が相当に高く売れた記憶があり、照明の魔道具というものもバカにならない値段だと聞いていたのでこれほど巨大なものならばどれほどの価格になるのかと思いつい試算してしまう。
しかし結局、元の比較対象がわからなかったのでやめた、不毛だったのだ。
『“黒の剣士”! 古今東西、名を聞いた方は多いでしょう!装甲悪鬼、大王サソリに”ピューターベア”!我々の生活を脅かす魔獣の数々を仕留めてきた豪傑が今、隠居か?名誉のためか?この街の闘技場を勝ち抜いてきたッ!呪い剣がなくともその剣技は健在っ!フラティウ・ドムアウレアだ!』
「ふふ・・・隠居する場所が欲しいというのもあるが・・・ぬぅぅぅぅん!!」
褒められて悪くはない、と軽く笑ったあと、ファンサービスとばかりにフラティウは背中から大剣を抜きぶんっ、と振る。
ベルセルク無き今、彼が使っている剣は一本の大剣だ。大きさは呪い剣ベルセルクと同じ程度であるものの、その色はまるで呪い剣とは完全に決別する意思を示すかのように、光り輝く銀地となっていた。
洗練された一振りに、観客が湧く。
その声がおさまると、司会は紹介を続ける。
『“バーニング・シェスカ”!かの炎神ガイウスの孫娘っ!一級の貴族のお嬢さんが旅だったは花嫁修業か、それとも祖父を超えるためかっ!?鋼をも溶かす炎で幾多の敵を残酷に葬り、立ち塞がる相手は全て灰燼に帰す!それを至上の笑顔で見つめるのだ!炎神の片鱗は見せつけているぞ!フランシェスカ・パレ・ガイウス!』
「ちょっ!なんであたしばっかりそんな残虐姫みたいな・・・はあ、もう慣れたわ」
「ところでお前、鋼溶かすとかできたっけか?」
「・・・試してみる?」
「やめとく・・・」
にいっと笑ってロイズに誘いかけるシェスカに、別に何も違わねえじゃねえか、と心の中で思いそっと仕舞っておくロイズ。シェスカもまた、魅せつけるように炎の渦を上空に飛ばしてフラティウに続く。
そうなると―――
『“ウィップローグ”!バラッド君だ!地元の男がよくここまで勝ち進んでくれた!私もここの出身として鼻が高いっ!鞭を持たせれば敵の襟首を縛り上げ、ナイフを持たせれば百発百中!目立たない?当然だ、ローグが目立ってはいけない!今日は頼むぞバラッド・ヤーノシーク!』
「ぼ、僕も何かやらなきゃならないのかなぁ」
困るのはバラッドだ、先の二人が目立っただけに負けず劣らず何かをしなければという感情に駆られてしまい、彼はナイフを取り出すとジャグリングを始める。
本人は”大丈夫かな”といった不安を抱えながらであったが、実のところ一番器用な彼のやらかしたことであったためにその芸としての洗練は結構な手前で、歓声は小さく『おおっ』といった一声だけであったが十分に人の目を引くことには成功した。
それを聞いて、負けてはいられないとロイズも拳を掲げる。
『皆様方も期待していることでしょうッ!“白銀闘士”だ!全身鎧!しかし武器は剣も斧も、魔法ですら無い!魔道具の拳ひとつで徒手空拳を武器にただ敵を殴って、殴って、殴り倒す!豪快極まりないその技術は洗練も欠かさない!スクライブ・ロイズ君に今日もよろしく!』
「うっしゃーっ!」
思い切り拳を地面に叩きつけ、右手のディスプレイサーグローブから衝撃波を発生させる。
一気に粉塵を巻き上げた衝撃波、舞台前をほこりと砂煙だらけにしたロイズだったがそれらは魔法障壁によって観客席には届かず、されどその『ド派手な前座』に人々は湧いた。
「ごほっ、ごほっ!少しは周りのこと考えなさいよこの脳筋童顔!」
「おっ、お前らが盛りあげるからこっちのノらざるを得なかったんだろ!」
『ごほっ・・・続きをしても』
砂煙が晴れた頃、続く言葉を言おうと要求するのは司会で、それに答えるのはティコ。
どうぞ、と言うと彼はピストルをホルスターから引っこ抜き、くるくると回す。
『“助っ人”で黒衣の狩人と最近では二つ名も名高い!今回の試合、先の功績を認められ助っ人としての参戦を認められた男、レンジャー・ティコ!市民権は得られないが賞金は出るぞ!使う武器は・・・”じゅう”?何だそれはっ!?どこから来た?何をしていた?じゅうとは何か?経歴一切不明!しかしスクライブ・ロイズの相棒だ!』
「よいやっそーのー、バンッ!」
言うと同時にくるくると回していた
天井は柔らかそうだし、構造上上には誰もいないだろう、むしろバレないだろう・・・と認識しての彼の”芸”であったが弾け出した銃弾は天井まで届いたあと―――
「・・・おっ」
「・・・あっ」
「あぁ・・・」
パリン、と音を立て、天井の照明の魔道具を割る。
ぱらぱらと、ガラスが音を立て降り注ぐ様にその場は静まり返り、ティコですら動けない状況だ。むしろ彼の心中としては”動いたら時間が動く”の一心でなんとかこの場を長引かせようとして、そして、
「・・・賞金とかいらんから、これ直すのに使ってくれや」
折れた。
それにより一応場は収まったものの、ティコは内心ヒヤヒヤものだ、いくらかかるか分からない高級品をうっかり壊してしまったから無理もない、自身に投げかけられる仲間たちのなんとも言えない冷ややかな視線など気にするよしもない。
だがそうしていると、救いの手にも思えるか、予備の照明が点灯し自分達とはまた逆の、反対側のゲートを照らす。そこには、自分達が紹介を受けている間に暗闇からこっそり訪れていたのだろう、”対戦相手”の姿があり、その姿にフラティウ達は一様に目を剥く、”人間ではないのか”と。
だがその姿形、人間ではない異形。
それらにはティコとロイズは、一様に同じ反応を示した。
頭を抱え、眉間にしわを寄せなんとも言えぬ表情をする、なぜならそれらは自分達の記憶に懐かしい―――
「・・・ロボット相手かよ・・・」
「んな接近戦じゃ勝てるワケねぇなぁ・・・歴代の人らは。左端からプロテクトロン―――」
ウェイストランドを今も主人無くし歩きまわる、ロボット達であったからだ。
まず彼らの目に留まったのは”プロテクトロン”。
以前もこの地区で追い回された記憶が新しい、この古い映画で見たようなずんぐりむっくりの体型、蛇腹アームと三本指の手が目立つこの紺色のロボットは、戦前、読んで字のごとく”防衛”のために各所に配備されていた警備ロボットである。
現実の警備員が交通整理や施設管理をしているのと同様、彼らもまたオフィスの侵入者選別を行うなど幅広く、手にレーザーを積んだその火力は今でこそ物足りないものの当時としては遅い足に光速のレーザーと、十分な性能であった。
しかしいかんせん”旧式”であり新型、もとい完全体である完全な人間型をした攻撃型プロテクトロンの配備によって代替わりするはずであったが、その前に『世界戦争』が起きてしまったがために今でもウェイストランドを歩いていたり、時には狂い、時には忠実に200年前の命令を実行し続けているウェイストランドでもメジャーなロボットである。
そのため大した脅威にはならないのだが、ティコとロイズの視線を動かす先には―――
「・・・アイボットかぁ」
丸っこい外見、過剰なまでに取り付けられたアンテナ、機体下部のレーザー砲塔がまぶしいアイボットもまた、ウェイストランドのアイドル的ロボットであった。
滅多に見られることはなく、それも全てかつてウェイストランドを席巻した組織”エンクレイヴ”のお手製もしくはやはり滅多に見ない、戦前の放送受信用アイボットがほとんどであり、そちらにはレーザーは装備されていない。
となるとこれらを配備したのはかつてのエンクレイヴであったのかと、”恐らく”この地に存在するVaultにはエンクレイヴが手を加えているのかと、記憶に残るティコにも、歴史を本から覗いたロイズにもほんの少しだけ表情を苦くする。
とはいえ、これが戦前の最新型、自力で高所までの飛行が可能な上カメラも搭載し、テーザー銃を搭載した軍事用モデル、かわいいとはお世辞にも言えないフローティング・アイボット型であったなら相当な苦戦を強いられたであろう、それでないだけはマシだと、記憶でそれらと闘った経験を持つティコは安堵した。
だが、
「問題はこいつかねぇ」
「うちにもいたけどよ、こいつは絶対に・・・相手したくねぇ」
プロテクトロン二機、アイボット二機、そして残る一機。
恐らくウェイストランドでも最強格を誇る、軍事用、民間警備用ともに猛威を振るい、戦後も主なき状態でひたすらに地上を歩き殺戮を続ける”警戒ロボット”。
セントリーボット、それがその名前だ。
四本のローラーつきの脚部により俊敏な移動が可能、かつ強靭な装甲を誇り旋回速度も良好。
それに加えなにより脅威なのは、腕部のミサイルユニットとガトリングレーザーだろう、レーザー系火器として最高峰の火力を誇るガトリングレーザーを、ロボットの核動力をいいことに好き放題撃ちこんでくるのだ。
センサーも良好であり、ウェイストランドを歩いていて遠方からこの機体にミサイルを撃ち込まれた、という話も少なくはないもので、デスクローのように繁殖はしないまでも強力なこのロボットは、ウェイストランドでも特に恐れられる存在の上位に食い込む。
これだけの機体を持ち出し、かつ命令を聞かせるということは、ティコとロイズは推理してやまない。例のIDカードの権限というものか、それとも元々そういった趣向用なのか――― そうしているうちにだろう、彼らは司会の話を聞きそびれたらしいのだ。
司会は手を上げて、今まさに振り下ろさんとばかり。
気づいた時、既に―――
「試合、開始っ!」
ゴングが鳴り、あわてて二人は動くことになる。
まず真っ先に叫ぶのはティコで、動くフラティウ達を制するのだ。
「隠れろォっ!」
「・・・な?しかし速攻を・・・」
「いいから―――」
言う前に、フラティウに赤い閃光が飛びかかった。
瞬間、彼の身体が一瞬にして灰になり、次いで光の粒子になってはまた蘇生し、ここは特殊な構造なのかぺいっと舞台外に排出される。
さすがはレーザーの雨あられ、数を揃えればあの黒鉄の鎧ですら一瞬で溶かしあの大男すら灰に返すのだ。そんなことを言っている間にもまた、つい出していた頭あたりに一気にレーザーの雨あられが降り注いでティコは急いで遮蔽物に身を隠す、なるほどこれが用意されているのはそのためか、と納得した。
向こうを見ればバラッドが目をまんまるにして隠れていて、シェスカも同様だ。接近戦の最高戦力の片割れを失ったのだから無理もない、通常の相手ならこの時点で苦戦を強いられる可能性が出てきたかもしれなかっただろう。
そして後ろでは利口にもロイズが突撃を諦め隠れていて、その顔は悔し顔であった、フラティウが一瞬にして仕留められたことの悔しさと、理不尽なまでの相手の火力に対する憤慨であった。
「相棒、お前が突撃しないとは驚いた、さすがにありゃきついか?」
「このT-51bにゃ硬化処理がしてあるし銀アブレーションコーティングもバッチシ、けどよ、あの雨あられはムリに決まってんだろ、穴だらけになって灰にされるのがオチだってよ、ちっくしょー・・・」
「はは、でも相棒、思わんか?」
「・・・まあ」
遮蔽に隠れながら、ティコは背にしたAK-112の安全装置を解除する。
そして横を振り向くと、ヘルメットの中で笑い顔をしながらロイズを見るのだ。
ロイズはその視線とは目を合わせず、しかしいざ戦わんとヘルメットをかぶりがっちりと嵌める。
「・・・前の奴らよりずっと弱い」
「だろ?なら簡単だ、パルス・グレネードがありゃ一網打尽なんだが置いてきちまって・・・でもま、んなもんなくたって十分だよな」
「じゃあオレが何すりゃいいかはお前が教えろよ、オレは――― わかんねー」
「はは、速攻あるのみだな・・・よっし」
ロイズが拳を握り、ぐっと屈んで出方を待つ。
それに信頼を感じたティコはまた逆を向くと、声をかけるのだ、それはシェスカ、炎の魔法使いだった。
「なあ、赤い嬢ちゃん!」
「なあに?シェスカって名前あるんだけどー?」
「それは悪い、シェスカの嬢ちゃん!得意の炎を撒いてくれるか?だいたい――― 俺が通り抜ける間隔を空けるくらいで頼む!」
「・・・っはぁ、別にいいけど、無駄にしたら許さないわよっ!」
「約束は守る男だ、次にバラッド!」
「はっ、はいっ?」
今まで一度も感じたことの無かった、というよりはこの世界の戦闘の常識を覆す光景にトリップしていたのだろう。すっとんきょうな返事を返すバラッドに、ティコは合図する。
「弓を頼む!あのずんぐりむっくりな奴の――― 頭を狙ってくれ!」
「はいっ!・・・手が震えるなよ、僕!」
各員がティコの合図に従って動き、状況開始だ。
震える手をバラッドは抑え、シェスカはマナを集め、ティコは顔を出すと銃撃で応えるのだ。
唯一ロイズだけは動かないがそれでいいと、それもわかっていると互いに目で納得する。
銃撃が無防備に浮きながら、遮蔽物の裏に潜む彼らを狙いに来たアイボットの一機を撃ち落とし爆散させたころ、バラッドが弓を引き、そして射る。空気の層を突き破って飛ぶ鋭い鏃は銃とはまた違った、洗練された技術によって一線の射線を狂うこと無く進んでいき、そして―――
「ビンゴ!」
「当たったっ!」
矢の先端は、プロテクトロンの一機の”頭部”を破壊する。
されどプロテクトロンは動きを止めることなく、まだ動き続けるのだ。
ぎっこんぎっこんと、のろさ極まりない足を動かすプロテクトロンの姿に、これにはバラッドはどうしたものかと、効いていないんじゃないかと不安げな視線を現場指揮官ティコに送るが、彼はそんな彼をなだめるように、見ていろ、と合図する。
―――途端だろうか、そのプロテクトロンは、
『距離1,20に敵機確認、強力兵器を使用し排除します、繰り返ス―――』
狂ったわけではない、ただ淡々と、彼は”90°回転”し真横を向くのだ。
”コンバット・インヒビター”、頭部の敵味方識別装置を破壊されたプロテクトロンにはもはや彼らと味方を区別する能力がない、するとその銃口の先はどこに向くか、当然、真横にいた自身と動型のプロテクトロンへと向けられる。
刹那、命中精度に欠ける代わりに威力の高い、プロテクトロンのレーザーは彼に殺到、表面装甲を溶解させ至近距離から放たれたレーザーの嵐は反撃の隙を与えるまもなくその腕部を切り離し、脚部を折る。
それでもなお、相手から熱量が完全に消え去るまでレーザーの射撃をやめないが―――
『味方機のコンバット・インヒビターの損傷を確認、及び味方機への損害甚大により排除に移る』
―――そのプロテクトロンもまた、レーザーの嵐によって一瞬にて破壊される。
そのレーザーの主は紛れも無く、セントリーボットそのものだ、一瞬だけ反撃をしたものの圧倒的火力の前にプロテクトロンはなすすべもなく、ドロドロのバラバラ、鉄塊と化して地面に転がった。
次いで残ったアイボットが遮蔽を越えてレーザーを撃ち込みに来るもロイズが飛び上がり、自慢の拳を上から叩きつけまるで、ボールをバウンドさせるように破壊、残骸がシェスカの焚いた炎壁に飛び込み溶解していく。
そうなると、残るのはたった一機のみ。
セントリーボットは遮蔽から飛び出たロイズへレーザーを見舞うが、されどロイズの着用しているT-51b改良型は表面の銀アブレーションコーティングによる鏡面処理のみならず、化学薬品による硬化処理もされた特別モデルだ、通常モデルなら切断や表面の溶化を免れないレーザーの嵐もわずか程度なら弾き返し、表面がほんの申し訳程度に煙を噴いた程度で済む。
しかし現実にそれを受けるロイズとしてはヒヤヒヤものだ、青筋立てながら遮蔽まで戻ってくる。
そして現場指揮官に次の判断を仰ぐのだ、遮蔽に隠れている以上セントリーボットもレーザーは撃ってこない、炎壁があるから近寄ってくることもしない、進退窮まる状況だ。だがティコは策があると、彼に耳打ちするのだ。
「―――ってなわけだが、やってくれるか相棒?」
「・・・オレが死んだらお前も一回死んでくれよ、それでおあいこだ」
「怖いねえ!だがそれくらいの賭けのが気持ちがいい!シェスカ!そのままで頼む!バラッドは相棒と!」
「ひえぇ!僕もかぁ!」
”無茶な作戦”はいつものことだと、頷いたロイズはぐっと拳を握る。
仲間を待機させ、ティコは相棒へ合図を送ると一気に動き出す。
移動の方向は両方、ロイズが遮蔽の多い場所に走り、ティコは遮蔽にぐっと隠れる、対照的だ。
そしてバラッドとロイズはやたらめったらと、遮蔽の間を行ったり来たりしてはセントリーボットを撹乱するのだ。なまじセンサーの感度がいいだけにその狙いは早く、次から次へと矢次早にレーザーが撃ち込まれては外れ、弾かれてゆく。
かといってセントリーボットも弾数無限というほど甘くはない、システムが現状の不毛さを受け入れると、セントリーボットは”次のモード”へ移行するのだ。遮蔽や周辺物ごと相手を吹き飛ばすためのモード――― 左手のミサイルを正面に向ける。
だが―――
「そいつを待ってた!」
―――ロイズはその瞬間、”セントリーボットの正面に立つ”。
そして煽るように中指を立て、その照準レーザーの思うままに心臓部を射ぬかせるのだ。
無機質的なシステムが”逃げない相手”の思考などを読み取るよしもない、セントリーボットはただ相手を『狙いやすい相手』だと認識し、ただミサイルの背に火を付け撃ち込もうとするのみ。
発射されたミサイルはロイズと距離を詰めていき、そして、
「虎の子ぉ!V.A.T.S起動ッ!」
切り札を、起動する。
刹那、スローになっていく視界、迫ることが手に取るようにわかるミサイルの軌道、進路予測。
―――ロイズはそのミサイルを、スローの視界の中身体を動かしてかわす。
背面のずっと遠くではミサイルが魔法障壁に防がれ爆散し、大きな煙を上げていたが正面のみを見据えるロイズにはそんなもの、もはや見えていない。ミサイルを打ち切り、虎の子の切り札を失った上モード切り替えのタイムラグに囚われたセントリーボットへ一気に迫るのだ。
一歩、また一歩、V.A.T.Sは既に切れている、時間との勝負、彼は炎壁を無理矢理抜けて走る。
彼は鬼気迫る表情で、右手を正面に向けようとするセントリーボットへと駆け寄って、そして―――
「―――ポチっとなっと」
その声が聞こえた瞬間、彼は安堵の表情を浮かべ足を止めるのだ。
するとどうだ、待てど、待てどセントリーボットはレーザーを見舞っては来ない。
むしろ”動かない”のだ、そして見ればその目は光を失い、駆動音も停止している、システム停止の合図であった。
「・・・っひやひやしたぁ・・・!もうやりたくねーよこんなの・・・グール!」
「許してくれや相棒、ちと熱くて手間取った・・・まあ勝てたんだからよしとしようや」
とたん、現れるのはティコだ、ステルスボーイで透明になっていた彼が姿を現すと同時、会場はどっと湧く。未知の装備に未知で対抗した彼らの姿は人々の好奇心や、その意欲を満たすに値したのだ。
そうして二人でぐっと拳をぶつけあっていると、駆け寄ってくるのは待機していたシェスカにバラッド、そして意識を取り戻したフラティウだ。彼らは二人の芸当の構図がさっぱり分からないらしく、しきりに聞き出す。
ティコは特に隠すこともなく、話してみせた。
「いや別に、なんてこたないさ。スイッチを切ったのさ、後ろから背筋をつーっとな」
「スイッチ?」
「心臓とか脊椎を切ったって思ってくれりゃいい、またつけりゃこいつら動き出すから語弊はあるかもしれんがな」
「はぇ~・・・まだまだ知らないもの多いなぁ」
顎に指を当て、機能停止したセントリーボットを見つめ、それを叩いてカンカン鳴らすティコに慄くバラッドにシェスカ、序盤に倒れてしまったフラティウも自身をふがいない、と自嘲しながら会話に加わる。
だがそれでも、全員の意思はひとつだ。
この勝利は、つまり―――
「―――でもこれで、オレら全員ここに入れるってこったか!」
「・・・ああ、そうだ、実に長い道のりであった・・・回り道もした気がするよ。ロイズ、それにティコ、君達の協力は大きい、感謝している」
「よせやい俺がやったことなんざ、いつもと変わりゃせんさ、言われて殺す、それだけさ」
「そう謙遜するな・・・っと」
喜び、互いに讃え合い、この場所に生きる権利を手にした、栄誉を手にしたことを互いに嬉しがる。彼ら、フラティウ達にとっては長きに渡る戦いの成果であったから、その嬉しさはひとしおだった。
そうしているとだろうか、とてとてと、寄ってくる影がある。
ティコが真っ先に気付き、その影に視線を送った。
『あの、少しよろしいでしょうか?あなた方に興味を持って、ぜひこちらで職を用意したいという方がいまして・・・』
すべてが終わったと、緊張の糸を切って談笑する彼らに寄ってくるのは司会だ。
ちょっと前までこの勝利をずっと祝う言葉を送り続けていたが、どうやら終わったらしく、しかし用事であるらしい、一通の手紙を持って彼は彼らに近寄ると、それを渡す。
「職?んな、俺らは日雇いで十分だろ」
「お前はそもそもこっちに来れないだろグール、呼んでやるけどよ・・・まあ読めよ」
話の内容がいまいち理解できないような一同であったが、封をぴりぴりと不行儀に空けると中から出てきた一通の文を読み込むのだ。なおティコであったが、読めないのでロイズに渡し、しかし彼も独自のニュアンスが理解できなかったのでシェスカに渡す。
堂々めぐりでたらい回しにされた手紙を受け取り得意げな顔をしつつ、シェスカは読み上げる。
だがどうだろう、読んでいくごとに彼女は少しづつ、嬉し顔から不機嫌な顔になっていくのだ。
彼女はそれからしばらく読み上げたあと、心底悔しいといった顔をすると手紙をロイズに渡す。
そして内容を一字一句読み上げるのだ、唐突にそのずさんな扱いをされたロイズはいかんせん理解が追いつかなかったが――― 手紙の内容を聞いてもなお、追いつかなかった。
「スクライブ・ロイズ殿、
貴殿の異界に関する知識や道具の数々を見込んでお願いしたいことがある。
私は異界の研究をしている者で、その造詣の深い者をかねてより助手として迎えたいと願っていた。そこに君の到来だ、まるでそう、雨の日に光り輝くサン・エルフの運び屋を見かけたときのような僥倖と言っていい。
君のために、助手としての席を設けようと思う。
無理強いはしない、だがもしその気があるなら――― 一等市民区の異界史研究所に来てくれるとありがたい、場所は”28番目の金庫”地下四階、あとは案内図を見てくれればいい、君を待っているよ、できるだけ早くお願いだ、ハリィ!
一等市民区”一級”研究員 異界史研究所長 セネカ・アンナ
P.S
駄目でも君の力は借りたい!私の名前を言えばこっちに来れるようにはしておくからお願いね!早く!ハリィハリィ!」
一字一句違いない読み上げで、その内容は紛れもないロイズを指す。
だがなぜだろう、その文面になんとも言えぬ――― 寒気をまた、ロイズは感じた。
天を見上げれば銀髪のエルフや白猫耳の娘が笑っているような、そんな―――
「・・・一級?
「おいそれとなれるもんじゃないのよ・・・うーっ、なんでこんな奴がーっ!」
今なお理解が追いつかないロイズに、うーっと唸ってその地位の向上を悔しがるシェスカ。ティコやバラッド、フラティウはこぞって彼を讃えているが、それでもまだなんとも頭に情報が叩き込めない彼は、しばしボケっとするのであった。
ロイズは―――
「―――オレ、また戻るのかぁ」
記憶をたどれば、思い出すのは古い日の書庫整理の役職。
彼はその記憶を懐かしいと思いながらも、嫌だなぁ、と溜息を付くのであった。
参考なまでに
http://fallout.wikia.com/wiki/Floating_eye_bot
・フローティング・アイボット
初代から登場して、設定上なら現在も動いているはずの軍用アイボット。
偵察用に幅広い行動が可能であり、ED-Eなどと違い高所の飛行も可能、なお初代では攻撃回数がおかしい数値になっており、ハメられることもしばしばだった上大抵はMr.ガッツィーと登場したので厄介極まりなかった。
プロテクトロンにセントリーボット、アイボットはいつもの彼らです。