トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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12744字。


第三章:西の森を行け 25話『ログ:200年前』

 

 

 

 

「レイズ」

「ん?もうするのか?もう少し考えても・・・」

「そう言うってことは引きが悪かったんだろう?早く見せてごらんよ、さあ」

「ってぇ・・・かなわんなぁ、ほら」

 

「はーいまたポンコツの勝ちぃ~、っちぇーイカサマ使ってんじゃないですかー?」

 

 街のほどなく目立たないところに目立つ一軒のログハウス、もう住み始めて一ヶ月を越えた我が家は実に心地よい匂いに包まれ、肩の凝る労働から帰ってくればふと香る安心感に脱力し、ついベッドに飛び込みたい衝動に駆られる。

 

 だが娯楽の少ないこの世界、暇は暇だ、夜分の時間を潰すために、彼らは今日も寝る前のトランプゲームに興じていた――― が。

 

「イカサマしてるのはティコの方だろう?ボクは誠心誠意、正々堂々立ち向かってるだけでなーんにも不正の類なんてしてないつもりだよ、さ、チップをよこすんだ」

「その運の良さはイカサマ同然だぜテッサ!なんで俺が長年鍛えたダーティーな技の数々を根こそぎ披露してんのにそっちにいい引きばかりが来るんだっ!?強運とか悪運とかそんなもんじゃねぇ、まさしく幸運の女神の・・・」

「自分からイカサマ公言してるじゃないかティコ!それでもやってあげてるのはひとえにボクの、月の神のように温厚で輝かしい心のおかげだと思って欲しいね!だいたい君のほうがただでさえ経験に富んでるんだから――― はぁ」

「・・・はぁ、お前の考えたこと、分かったよ」

 

 論議に耽るのも中断し、二人は互いに目を合わせるとその目の中に写る、ここにはいない誰かのことを見透かしてまた、ため息を吐く。たった二人のポーカーゲーム、つまらないことこのうえなく、楽しかった頃を思い出して彼の名を呼ぶのだ、そう、

 

「相棒ぅ~・・・カモになってくれぇ・・・」

「ロイズぅー寂しいよぅ・・・」

 

 背もたれに身体を預け脱力するティコと、前のめりに身体を突っ伏して共に同じ相手を想うテッサ、二人がまたため息を吐くと、アルが気遣いなのだろう、ポットから紅茶を淹れて二人に寄越す。

 

 二人はそれをずず、っと飲んでみると、またため息を吐いた。

 むしろティコも突っ伏したので悪化していた。

 

 

「ロイズさんが向こうに移り住んでから、呼ばれないとあたしらは行けませんからねー、ロイズさんが色々調べてくれることは祈って、あたしらはあたしらのやることやりましょー・・・それにしても仕送りしてくれるあたり、ほんとによく出来た子ですよねロイズさんって」

「自慢の相棒よぉ、はぁ、たかが壁一枚地盤一枚隔てただけだってのにこうも遠くに感じるなんてな・・・まあ俺は自由に行けるんだが」

「それすっごく近いと思うよティコ」

 

 突っ伏して、今はどこか遠い地面の下に埋もれているであろう相棒に思いを馳せるティコに対し、天井に吊り下げたパイロットランプ照明にたかった羽虫を光の魔法で消し飛ばしながら、テッサが言う。アルはお盆を持って待機だ、いい子であった。

 

 それからしばらく、空気はそのままに時間が経った頃、アルが空気を打破するように、はっとしたようにつぶやいた。

 

「そういえば、ダンナも最近は仕事じゃなくって、行動変わりましたよねー・・・えーっと」

「ゴブリンの拠点探しに行ってるんだっけ?今まで帰ってきた者がいないっていう」

 

 

 つぶやいたアルの言葉に返すのはテッサ、ほんの冗談のつもりだったが、実際その通りなのでアルは血相を変える。

 

「ダ、ダンナ!?危なっかしいことはよしてくださいよぅ、ダンナがいなくなったらアタシぃ」

 

 ばっとティコに詰め寄って、その腕を取るアル。

 するとティコは突っ伏した姿勢を解き、彼女の頭を軽く撫でた。

 

 ヘルメットは外しているから、にっと笑うとそれが分かるのだ。

 

「心配すんな嬢ちゃん、俺を誰だと思ってる、100年戦ってきた誰よりも腕っ節に自信のあるレンジャーだぜ」

「でも」

「大丈夫、嬢ちゃん残して死ねるほど薄情じゃないさ。それにな、俺は睨んでんだ――― ゴブリンって奴らが”異界の道具”を持ってんなら俺らの故郷、それがつながってるってな。だから調べなきゃいかん、危険かもしれんがそれでも、相棒だけに働かせてるわけにゃいかんのさ」

 

 言うティコは、確固とした信念を持っている、そう言わんばかり。

 それにアルは、自分の慕う人がどうしても自分は曲げない、信じた者のためなら危険に自ら飛び込んでいくことも厭わないジェントルであることを思い出すと、しかし彼の実力、その確かな強さに安堵しかれの手を離すのだ。

 

 そして無くなった紅茶をまたポットから淹れる。

 だが一方で、唇を曲げてつまらなさそうにしていたのはテッサだった。

 

「はぁ、見せつけられると悲しくなるよね、はぁ」

「どうしたテッサ、何かあったか」

「別に?・・・でもちょっと悲しいというか、いい加減って思うこともあるよね。君達、帰りたい故郷のことを隠してるけどさ、でもさんざんヒント出して、それが核心的なものだったとしてもひたすらひた隠しにしてたまらないんだもの」

 

 やんなっちゃうよ、とティコの真似か、手をひらひらさせるテッサ。

 しかしなおも言葉の意味が理解できないティコは、その言葉に更に踏み入る。

 

 するとテッサはまた唇を曲げ、ティコの顔に指先を押し付けるようにして言い放った。

 

「ボクは知識人だよ?並みの人よりずっと切れるって自覚してる。もう君達の故郷がどこかなんて、分かってるんだよっ。だからそろそろアルベルトにも、ボクにも、しっかりと教えてくれたっていいじゃないか。どうせ旅の道連れなんだろう?旅先が分からないのに旅を続けるっていうのはなかなか、不安なものだよ?」

「うおぉ・・・なるほど、お前が見た目以上に聡明なのを忘れてたよ、テッサ」

「どういう意味だい?」

 

 見た目通りの意味さ、と答える。

 

 するとテッサは拗ねたようにぷうっと頬をふくらませるが、まあいいと、頬を元に戻して頬杖をつき、ティコを片目だけで見据えた。ティコはその仕草を見て言い逃れは出来ないな、と察する。

 

 それから彼女に視線を合わせて、返すのだ。

 

「解ってるならコトの重大さ、ってのは結構分かるとおもうだろうさ、テッサ。だから言うに言えなかった・・・今までは」

「表沙汰にすることじゃないってのはまあ思ったけどね、珍しいなんてもんじゃない、王都から使節団が寄ってたかって来て、この街でも一等市民区から逃してもらえないさ・・・でっ、今までってことはつまり?」

 

 挑発する言い方に、表情、見た目は麗しい娘がするのだからたまらない。ティコはそれにまたも、かなわないな、と両手を上げるとキッチンに行っていたアルを呼び寄せ、咳をひとつ、こほんとさせる。

 

「・・・俺らの秘密ってのを隠しておいて悪かった、だが、もう少しだけ隠させてくれ・・・まあ、なんだ。相棒が帰ってきて、時間が取れそうな時があったら――― その時に、濁してたあれやこれや、全部話させてくれや」

「なら、それまでは」

「死ねん、ってことでどうだ?危ないことはさせてもらうが、またおいそれと死ねない理由はできた」

 

 危なっかしい言い分だ、だが笑っていうから、テッサもまた敵わない。

 ティコはテッサが真似するように両手を上げて、アルが嬉しそうな顔をするのを見届けると適当に、積み上げられたトランプカードの山札からなんとなく、一枚だけを無造作に引っ張りだした。

 

 

「―――ハートのエースだ、縁起がいいな」

 

 ひらりと、裏返してカードを見せるティコ。

 へへっ、と笑ってそれを山札に戻そうとするが、それを制し我も、と手を突っ込むテッサ。

 

 彼女もまた、一枚だけを引っ張りだすと彼に見せつけるのだ。

 

「・・・ジョーカーだね・・・もう一戦、するかい?」

「冗談じゃねえさ、かなわねぇな・・・むしるケツの毛ももうないさ」

 

 

 トランプカードの束をテーブルに放り、ティコはそのままベッドに身体を投げ出す。

 テッサはすっかり冷めた紅茶にまたお澄まし気味に口をつけ、アルは明日の献立をどうするかとキッチンをうろうろしだすのだ。

 

 

 また夜は更ける。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 ―――誰もが寝静まったことを確認する、自分の上司でもだ。

 

 

 誰もがいなくなり、動いているのは巡回ロボットとやる気のない雇われ警備兵のみ。ロイズはそんな夜分に一人、のそりとベッドから出て動き出すと、こっそり自身の職場まで赴いた、ある目的のためだった。

 

「・・・誰もいねーよな、警報装置なんてごめんだぜ、っと」

 

 ターミナルを起動させ、Vaultの武器庫のロックを解除する。

 再びロックをかけることは可能であったから、試しに見ておきたいと、怖いもの見たさの側面があっての行動だった。

 

 地下Vaultのもっと深いところで解錠音が聞こえたような気がすると、彼はこっそりと、巡回を続けるMr.ハンディ達の目すら可能な限りくぐり抜け、エレベータを使って下層まで降りると目的の場所へと一目散、Pip-boyのマップもあったし、彼自身物覚えがいいもであっというまだった。

 

「ロックは開いてるから、あとはスイッチを―――」

 

 機械扉を開いて、中に足を踏み入れる。

 

 武器庫の位置はドアの開閉が遠方から見えないような階段下の専用区画に設けられていたが、念のため閉ざしておこうと後ろ手にスイッチに手を掛け―――

 

「なっ・・・!」

 

 それすら忘れるほどに、彼は目の前に広がった光景に圧倒された。

 

 

 広がる光景、二階層に造られた構造は他のバンカー系施設となんら変わりはないが、それでも圧倒されるのはその武器の数々の多さだ。見知った、もしくは見知らぬ銃器や白兵戦用の武器まで、多種多様な装備品がその湿気の感じられないひんやりとした空気の中で、誰にも触れられることなく安置されていた。

 

「ここの連中が一人ひとつ持っても余るんじゃねーかコレ、やっぱあの時開かなくて正解だった・・・」

 

 直近にこの場所の存在に触れた時に行った判断を自身で賞賛しつつ、彼は一歩、足を進める。多種多様に武器が並べられているが、特に数が多いのは素人にも扱いやすく、かつ威力を誇る10mmサブマシンガンや長距離での撃ち合いに強いハンティングライフルだろうか。

 他にも見れば、取り扱いが難しいが精度と射程に長けるマークスマン・カービン、弾をばらまくのには都合のいい分隊支援火器、ライトマシンガンなど強力無比な銃器の数々が鎮座している、ただ経年劣化のせいか、いくつかには状態にガタが来ているものも見られた。

 

「っとっ」

 

 彼は並べられた白兵戦用武器のところまで足を運ぶと、その中から一振りのハンマー、スーパースレッジを引き抜き手に握る。

 

 ハイテク機器のハンマーたるこのスーパースレッジは、内部の機構により目標に命中した際”二重の衝撃”を与える一撃必殺の戦槌だ。その威力はパワーアーマー越しにすらやかましい打撃音を響かせ、身の丈3mのスーパーミュータントの腕にヒビを入れるに十分な威力を持つ。

 

 それを見ていると、ふと、自身が以前に戦った”超獣”を思い出し、なんとなく素振りをしてみたくなるのだ。

 

 ロイズは当初の目的からは外れていないと、これも調査だ、と割り切ると心の向くまま、手頃なスペースを探して武器庫内をうろうろとしだすのだ。そしてちょうどいい休憩スペース、かつてここにいた誰かが設けたのだろうそれを見つけて目を輝かせると、そこに赴きそして―――

 

「―――ッ!」

 

 ―――その場所に横たわる、一体の人骨を見つけた。

 

 

 人骨はぴちぴちのVaultスーツがぴったりと張り付いていることで、そのあばら骨や脊椎のラインを余すところなく外部に見せつけているが、そんな高尚な趣味はロイズにはない、目につき、そして彼に手に取らせるのはその手に握った一挺のライフルと、その傍らに置かれた一枚のメモだった。

 

 200年、ライフルはその肉体が風化する時に、蒸発する水分や腐食する肉体によって運命を共にしたのだろう、錆付きが他の銃器とは比べ物にならないほど多く、そして遺体の頭蓋骨を見ればその銃が彼の運命を決めたことを表すひと穴の穿孔が穿たれていた。

 

 ロイズは彼の魂に目をつむって祈りを捧げたのち、その傍らに置かれたメモに目を走らせる。幸いにもメモは風化の影響がなく、むしろ風や湿気すら無縁のこの場所にあったことによって、多少床の汚れが染み付いているものの十分に読めるに値した。

 

「どれどれっと・・・これって・・・」

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 多分もうダメだろうから、最期に記す。

 

 何が”地下の楽園”だ!Vault-tecめっ!こんなことになるなら地上で核の炎と、ペットのアンディと運命を共にすれば良かった、こんなことになるなら!あの”霧”は何だ!?Vaultの機能が段階的に停止して、とどめにポンコツ共も動かなくなったと思ったらあの”霧”だ!

 

 この珍妙な世界に来たのがいけなかった、この世界の住人なんてのを迎え入れたのがいけなかったのか!?あの化け物どもは今もここのドアを叩いてる・・・ロックがそう簡単に外れるものかマヌケ!だが、つまりだ。

 

 ジョージの奴が自分が先導して外へ脱出するとか通信を入れてきたが、ここまで攻められたぶんじゃあどうせお陀仏だろう、あの数を相手に何が出来るんだってんだ――― せめてポンコツ共を再起動できたら。

 

 最期にウィスキーを一杯飲みたかったがくそっ、武器庫はアルコール厳禁だ、あるわけがねぇ。

 

 脱出は絶望的だ、このまま奴らがターミナルの使い方を身につけたらその時は・・・くそっ!奴らにやられるくらいなら自分からだ!死んでやるよ、くそっ!(Fuck)

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 記されたのは壮絶な、ある男の最期。

 ロイズはその言葉の数々の意味に理解を及ばすこと叶わないながらも、このヒントは無駄にならないと思って、自分が知らなくても、理解できる”相棒”がいると信じて、そして畳むとポケットに滑りこませるのだ。

 

 とりあえず、ここはまだ危険だと、それだけはロイズは理解できた。

 この世界の住人に与えるには不相応なおもちゃだと、そこだけ分かったのなら―――

 

 

「いっ!?」

「ふむふむ・・・ロイズ君、私を出し抜いて抜け駆けするつもりだったのかい?いやあ~舐められたもんだ!私ほど研究熱心な女が、本格的に睡眠するなんてそうそうあるわけないだろう?仮眠中に色々いじくり回されるとさすがに気付いちゃうよぉ」

 

 ロイズは背後の気配に気付いて振り返った。

 そこにいたのが敵であるとかなら殴り倒せばよかったし、ロボットならスイッチを切ってやればよかっただろう。だがそこにいたのは一人の女性、自分が”寝ている”と判断し安全と認識し、こっそりと置いてきたセネカ・アンナが腕を組んで立っていた。

 

 まさか尾行(つけ)られていたとは、とロイズは後悔し、頭の後ろを掻く。

 それにささやかな勝利を感じたのだろう、好奇心の塊たる研究者はロイズの隣まで寄り、そして大手を広げてこの空間を見回して目を輝かせた。

 

「すっごいねえ!また開いたんだね?ここは・・・”じゅう”だけじゃない、知らない”じゅう”や・・・あ、君のそれハンマー?そんなものもあるんだね、じゃあさしずめここは―――」

「武器庫だよ」

「だよねー?いや、すっごいねえ!異界の文化では分からないところがいくつもあったけど、これだけの”じゅう”の使い方が分かったのならきっと彼らの文化を理解することが容易になるはずだよ!これだけあるならいくつか分解してもいいだろうし、そうすれば工業レベルってものも分かる!素晴らしいよね!」

 

 手を合わせ、目は光らんばかりにきらっきらと、緑の髪が輝くばかりに言うセネカ。ロイズはその姿を見てしまったと、自分の能力が、脳力が足りなかったと唇を噛むと、セネカの方を向く。

 

 それにどことなく、寒気を彼は感じて、

 

「じゃあさっそく明日にでもこれは評議会に報告しないとね!これだけの強力な武器が使えるようになれば、魔獣やゴブリンとの戦いもずっと円滑になるはずだよ!いやあ、研究資金も増えるし―――」

「―――待った」

 

 待ったをかける。

 セネカはそれに反応し振り向き、ロイズへ目を向けた。

 

「グールと契約したはずだろ、”使い方”は絶対に他人に漏らさねーって」

「・・・ああ、そういえばそうだったね、忘れてた」

「おいおいっ、忘れられちゃ困るんだよ、なんてったって―――」

「ロイズ君」

 

 まるで諭すように、上から見下ろすように、優しげな口調でロイズの言葉にセネカは差し込む。

 

「武器の歴史ってものは、常に進化していくものさ、それに」

「それに、何だよ?」

「君がここを開けちゃった以上、もう隠し立てはできないだろう?報告するしかなくなるわけだ、隠しっぱなしにしておいてバレた、となると傷は深くなる一方だろう?なら報告して、使い方はわかりません、でいいんじゃないかな?それであの狩人君との契約も守れる」

「・・・閉められるぜ」

 

 返すロイズの言葉、セネカは頭を抱える。

 彼女の中では功績への欲と、道義が闘っているのだろう。

 

 ロイズはそう考え、彼女に任せるままにするのだ。

 

「でもでもロイズ君、同じ研究者としてはここを手放すなんて惜しすぎないかい?なまじ君達は異界の道具を保護、保管する組織なんだろ?ならここを解放して、手中には私達がおさめておく、それが一番いいんじゃないかな?管理するんだよ、必要とあらば持ち出すかもしれないけど、被害を最小限におさめるにはそれがいい・・・研究資金も入るしねっ」

「現金だよなぁ、同じ研究者(スクライブ)としてはわかるけどよ、でもそいつは受け入れられねー、ここを開いたのが自分の責任だったとしてもだよ」

「どうしてだい?」

 

「・・・ああいう、お偉いってのに武器を持たせてまともに機能するとは思えねー」

 

 思い当たるフシがあるように、ロイズは低くゆっくりと、言う。

 セネカはそれにまた頭を抱える、どうしても、彼を説得したい様であった。

 

「だから”武器”はこっちで管理するんだろう?使い方は知らぬ存ぜぬで通せばいいじゃないか、”じゅう”が強力無比なのは理解してるよ、この前教わったからね。だからさ、私に任せておいてくれないかな?上役を説得するのは得意なんだ、だから、ねっ」

「・・・うー・・・」

「肯定ってことでいいのかな?じゃ、私はもう戻るよ、明日が楽しみだね」

「おっ、おい!」

 

 呼び止めるが、セネカは振り返らない。

 

 ロイズとしては歯がゆく、というよりこれほどまでにこの女性が強情であるとは思わなかった。自分が弁論に弱いのは自覚していたが、それでもこうまで言い負かされ、しかもそれが絶体絶命を呼び込んだとしてはシャレにならない。

 

 それにこれ以上話そうとしても、彼女はうまいことかわすだろう。

 

 どうするかと、ロイズは頭の中で思索する。

 いっそ扉を閉めてしまおうか、彼女には開けられないようロックしてしまえばいい――― そうなると、追われる身になってしまうのがオチだ。ならば今ここで彼女を始末?バカを言うな、そこまで堕ちてはいない。

 

 ロイズが考えが及ばす――― しかしふと、振り返った先に面白いものを見つけた。

 なるほどVaultならこれがあってもおかしくないのだ、そう思い納得すると、その”じゅう”を拾い上げ、今まさに部屋を出ようとしていたセネカを呼んだ。

 

「セネカ!こっち向け!」

「ん?なんだいロイズ君、今更何言ってもおそ―――」

 

 瞬間、青色のリングが彼女の顔を”直撃”する。

 

 とたん何が起こるのか、何も、起こらない。

 ただ見て取れるのは、彼女の目が半目になりうつらうつらと、まるで眠りに落ちる寸前のようになってしまったということだけだった。

 

 

 ”メスメトロン”、ロイズが使った一挺の”じゅう”、もどき。

 Vaultに時折あると有名な、催眠装置の一種だった。

 

 元々はVaultの暴徒鎮圧用装備として、Vaultのトップ”監督官”や治安維持隊”オフィサー”が使うことを前提とした催眠波発生装置であるのがこのメスメトロンであり、つまり銃とは似て非なる。

 

 大きなブラウン管ディスプレイに引き金をつけたような奇抜な外見のこの武器は、照射した相手を酩酊状態のようにし、その最中にあることないことを吹き込むことによりまさにその嘘八百を、”相手に真実だと思わせる”ことにより暴徒鎮圧に役立っていた。

 ただしこれは逆手に取られてしまい、酩酊状態中に爆弾首輪を取り付けることにより、対象を奴隷として捕らえるための道具としても使われておりウェイストランドではあまり好まれるものではない。

 

 更に一説では対象が発狂することもあるらしい、加え頭部が破裂することもあるらしかったが、ロイズとしてはそんなのあるわけない、そんな危険なものを実用化するわけないと眉唾ものの噂だと吐き捨てていた。

 

 

 うつらうつらと、無防備にその身体を晒すセネカは、ロイズが近寄ると彼の目をぼうっと、少し頬を赤らめて見つめるのみ。その顔に顔を寄せると、ロイズはそっと、耳元で囁くように彼女に告げるのだ。

 

「―――トイレは階段上がって右、それから左行ったところだろ、間違えんなよ」

「ふぁ~い・・・」

 

 酩酊状態だから、言葉は刷り込まれても正気に戻ったりはしない。

 そうしていると、開いた扉の先から何者かが近寄ってくる気配し、ロイズは再びメスメトロンを構える。

 

 しかしすぐに解いた、Mr.ハンディであったからだ。

 

「おや、ロイズ様?お久しぶりです、Mr.フォートウォースです、セネカ嬢は・・・あらら、ずいぶんと飲み過ぎたのでしょうか?よろしければすぐに精製水をお作りいたしますが・・・」

「いや、いいんだMr.フォートウォース。こいつはただの夢遊病患者だから部屋まで連れて帰ってくれよ、頼む」

「かしこまりました、それとロイズ様、武器庫への勝手な侵入は控えていただけると―――」

「ああ、それなら」

 

 ロイズはポケットから一枚のキーカードを差し出す。

 先の遺体のポケットに、一枚だけ入っていたものだった。

 

「オレはメンテナンス部の人間で、権限がある、これでいいか?」

「かしこまりました、アメリカ人のロイズ様がアメリカ産の武器を手入れしてくださるのなら我々も安心して背後をお守りすることができます!ではセネカ嬢はお任せください!女性のエスコートに関しては特に厳重にプログラムされております!」

「頼むぜー」

 

 手を振り、胴体部からジェットを噴射してうつらうつらとふらつくセネカの手を握りMr.フォートウォースが武器庫を出て行くと、彼はふう、っと溜め込んだ息を吐き安堵するのだ。それからもう一度だけ彼は振り返る。

 

 眼前に広がる”凶器”の山、それらを目に入れ、彼はつぶやくのだ。

 

 

「・・・やっぱもうしばらく、封印しとくかぁ・・・」

 

 言葉を最期に、こっそりいくつかはくすね、彼は武器庫を出て、そしてキーカードでロックをかける。また機会が手に入るその時まで、ここはこのままにしておこうと、そう思う彼だった。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 メスメトロンを受けたセネカが研究所でようやく目覚め、それから自分が何をしようとしていたのか思い出しトイレに向かい、誰もいなくなった部屋。ロイズはポケットから一枚のキーカードを抜き出すとターミナルに通し、ログインを済ませる。

 

 武器庫はしばし封印すると誓った彼でも、見ておきたいものがあったからだ、それはきっと、このターミナルの中に存在すると確信し、彼はコマンドをいくつも経てようやくそこへと、辿り着く。

 

 メンテナンス部の人間、かつてここにいた人間の、”200年以上前”に書いたログ。歴史の闇に埋もれて、誰も使えず、誰も見られず叫びを封じ込められていた誰かの心の内がここにありありと綴られているのではないかとロイズは思って、ログの一番上にコマンドを合わせエンターキーを押した。

 

 とたん、ログが羅列される。

 200年の歴史が残した、今は存在しない男の声がそこには綴られていた。

 

 

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Sat 10/23/77 23:18 ロブ・テイラー

 

 今日は最悪の日だろう、ついに起こってしまったのだ、誰もが予期し、しかし起こるはずないと心の何処かではずっと祈って日々を過ごしていた核の冬が始まり、そして地上は焼きつくされた。自分は見ていないが、Vaultの計測機の数値が表す限りでは外はもはや人間の歩ける状態にあるまい。

 

 Vaultへの入植者は、Vaultへの交通が入植前に破壊されたことによりVaultへ来れなくなったことが通信で届いていた。あれからしばらく、何の通信もなければVaultの扉を叩く音もしない、恐らく皆焼かれてしまったのだろう――― なぜ私のような老骨が生き残ってしまったのだろうか、メアリー、ベラ、無事でいれば・・・。

 

 気がかりなのは核爆発の警報がVault内に鳴り響いた瞬間、一瞬だけ無重力状態を経験したことだろう。核の衝撃が一瞬Vaultを沈下させたのだろうか?もはや誰も知るまい、とりあえず、Vault内に他に誰かいないかを調査するつもりだ、メンテナンス部の人間は皆いたはずだからきっと、まだ生きているだろう。

 

 

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Sun 10/24/77 9:27 ロブ・テイラー

 

 この馬鹿のように広い、ホテルじみた場所を歩くことどれだけ経ったか、しばし仮眠をとり6時からずっと歩き回って仲間を見つけ、彼らにも協力を仰いでもらったから思った以上に早く探索が終わった。

 

 メンテナンス部の人間は25人全員いた、これは幸運だろう。他にもカジノエリアのディーラーやプールエリアの掃除人がいて、計29人、だがこの広いVaultでただ一人でなかったことが幸いであっただろう、孤独なままだったら私はそのまま衰弱死していたからだ。

 

 っと、待て、ブロンソンがVaultの扉を叩く音が聞こえたと言っている。

 まさか外に生存者がいたのか!?今日の日記はここまでだ!

 

 

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Mon 10/25/77 20:55 ロブ・テイラー

 

 驚いた、Vaultの扉を強制解放して出た先じゃ、地獄絵図であったからだ。

 化け物どもが跳梁跋扈し共食いをしていた、しかも中空に空いた穴からそいつらがひっきりなしに出てくるのだ、一体何だ?時空間の乱れ、なんていうSFであるやつか?ブロンソン達が備え付けの銃器で応戦しているが突破されるのも時間の問題だ、近いうちにVaultの内部まで蹂躙されるかもしれん。

 

 この騒ぎの最中、押しかけた200名近くの”村人”達を収容することに成功した。村人っていうのはつまり村娘みたいなカッコした連中ばかりがいるもんで、アメリカ人らしいのは一人もいない。連中まるで違う言葉を話すもんだから会話が成り立たん、しかし中にゃ・・・サムライやカウボーイもいた、カウボーイは訛りがひどいが英語を話せる、西部開拓時代の奴だって話だ。

 

 本当にSFみたいなことが起こっちまったのか?

 

P.S.

カウボーイの銃を銃器マニアのジョニーがM&Aの9mmと交換したらしい。

見たところ西部開拓時代のピースメーカーなんてもんだそうだ、わからん。

 

 

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Sun 11/14/77 20:32 ロブ・テイラー

 

 よっしゃあっ!ジョニーの奴がセキュリティボットを起動させた!セントリーボットもあるぞ!巡回モードでVault内に侵入した奴と外部の奴らを手当たり次第殲滅するように調整したらしい、もうしばらくすりゃお日様の光を浴びれるってもんだ!

 

 そういやこのVaultすごいな、生産プラントのおかげで食糧には困らん、なんでも色々試作品のあれこれを積んでるって噂だが、肝心の監督官も来なかったから分からずじまいだ、近いうちに下層まで降りて調べてみるか。

 それはそうと、”村人”たちともだいぶ打ち解けてきた、血の気の荒いのは多いが、子どもたちはチョコレートで懐柔してやりゃいいしプールで泳いでりゃゴロツキみたいな奴とも仲良しになれるもんだ、悪かないな。

 

 サムライは話しかけても何も言わんで座ってるしあんまり物を食わん。

 カウボーイはいいやつだ、流れもんらしいから出れたら旅に出るらしい。

 

 ディーラーの奴はロボットにイカサマのやり方を教えるのに熱心で、プールの掃除屋は毎日ぐうたらだ、無気力っても言うか。まあ無理もない、俺も家族から引き裂かれてしばらくは落ち込んだ日々もあった。

 まあ喰っても減らないだけ色々とあるみたいだし、とうぶんはここにいていいだろう。それにしても生産プラントが気になる、何を材料に生産してやがるんだ?

 

 

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ログ:エラー

ログ:エラー

ログ:エラー

ログ:2078年11月18日、表示。

 

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Fri 11/18/78 17:25 ロブ・テイラー

 

 今日は・・・最悪の日が、またやってきた。

 Vault-tecが何をしようとしていたか、もっと疑うべきだったのかもしれない。

 

 多くは生き残ったし、セキュリティボットの再起動に成功したおかげで”村人”達は半分が生き残った・・・戦った俺達はたった6人だよ、生き残りは。一人は残りの村人みたく”化け物にされちまった”。そういえばジョージが脱出するみたいなことを通信していたがどうなったんだろうか、あれから姿を見ないから奴らみたいに・・・考えるのはよそう。

 

 俺はここを出るつもりだが、”村人”達はここに居着くらしい。なんでも外よりは安全だと、王都とかいうところに売り込むつもりらしく、この快適なところはきっと人が集まって大きな街になるってそうだ。勝手にしろ、また起こるぞ、俺はもう戻らん、また同じ轍を踏んじまえ。

 

P.S.

王都ってことに行くのも良さそうだ、Vaultでさっきいいものを見つけたから持っていけば道中は安全だろう。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 ―――ログは、そこで終わっていた。

 

 

 ロイズはただ、じっと、動かない。

 だがそれからしばらくしてようやく口元を押さえると、ターミナルを睨みつけるのだ。

 

「・・・やっぱりだ」

「ん?どうしたんロイズ君?あ?また何か開けてくれるの?別にもうちょっと遅くてもいいんだよ?」

 

 セネカが帰ってきて、ロイズの肩に寄りかかるがそんなもの、もはや気にも留めていない。入ってきた情報にある確信と、そして覚悟を決めるに十分な、そんな感情を抱く。

 

 ウェイストランドでVault、という単語を出せば、それは知識によって三段階に分かれるだろう。

 

 よくわからないもの。

 この世の楽園。

 

 

 そして――― 実験施設。

 地下シェルターの名前を借りた非人道的実験施設の役割を持った場所、それが多くのVaultであった。もちろん”管理Vault”と呼ばれる非実験用もあるにはあるが、それでもこの、Vaultのナンバーから推測するに。

 

 ロイズは既に知識によって、Vaultが何らかの実験施設ということは知っていた。

 この場所は既に役目を終えたとばかり思っていたが――― なんとなく、背筋を走るものがあるのだ。

 

「このVaultには、まだ何かがある・・・?」

 

 疑いは晴れない。

 とたん、彼は背中から何かが駆け上がってくるような、追い立てられる感情を抱くのだ。

 

 

「だったら―――」

 

 ―――自分が、自分達が、暴くしかない。

 そう、思う。

 

 ロイズはただそのままじっと、きっと”何もないこと”、それだけを願っていた。

 

 

 






参考なまでに、

http://fallout.wikia.com/wiki/Mesmetron
メスメトロンでレイダー団とかエンクレイヴキャンプ強襲はみんなやるよね!元々東海岸のはVault13のものらしいけどいったいなんでまた外部にあんな流出したのか。
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