ほんとはもう一シーン入れたかったけど長くなりすぎちゃうので切って次回に統合。
「―――事情は分かった、相棒」
ログハウスの壁によりかかり、腕を組んで一言言うのはティコだ。
テーブルの椅子にはロイズが座っており、その向かいのテッサも目をぱっちりと、アルもお盆を抱えたままロイズの話に耳を傾け、そして驚いているのだろう、目をまんまるにしていた。
「・・・Vaultが実験施設ってのは知ってたけどよ・・・でも、もう最初の一回で終わってるかもしれねーから心配しなくていいかもしれねーんだけど、念のため」
「俺らに話しておこう、ってこったか、殊勝だ相棒、一人で抱え込まんのはいい、特に俺は・・・Vault探索にゃプロだぜプロ」
ぐっと親指で自分を指さして、普段とうって変わる、語りの少ないロイズを元気づけようという心意気なのだろう、任せとけ、と軽く笑ってティコは言う。
実際のところ彼はVaultを探索したことは一度や二度ではない、”かつての相棒”の故郷だったVault13を始め、ミュータント・マスターとの決着をつけた禁断のLA Vault、戦後テラフォーミング装置G.E.C.Kにより再生したVault8は外周しか回れなかったものの、それ以外にも旅の途中、たまに見かけてはいくつか探索を繰り返していた。
Vaultはどれも実験設備が残っていたり、住民の内乱によって仕掛けられたトラップが野ざらしになっていたり、果ては現地の野生動物が棲家にしていたりと危険は多かったがそのぶん、戦前の貴重な機器や武器が手に入る可能性も高く、ある種宝の山だ。
彼は幾度と無くVaultに潜っては死にかけたが、そのぶん実入りも多かった、彼が時折朝まで飲み続け、潰れて財布をスられてなお明日の飯にありつけたのはひとえに彼の、Vaultを突破できるほどの能力の証左とも言えるだろう。
ロイズの背中を叩き、きっと何もないさ、と励ます彼。
すると向かいのテッサが、口元に指を当てながら話に加わった。
「しかし驚いたね、貴族や王族ですら享楽に耽る地下の楽園なんて銘打たれた場所が、”異界”の人間達の人体実験施設だなんて。技術が行き過ぎると好奇心も比例して抑えが効かなくなるってことなのかな」
「違いねぇ、加えて人間が多すぎるんだ。貧富の差が大きくなったり人が増えすぎて手が回らなくなったり、そうやって権力者ってのから見て”死んでもいい奴””死んでもバレない奴”が出てきちまうと、倫理は成果と費用対効果の大きさに埋もれてなくなっちまう、一人殺せばキャップ・・・金貨100枚って言われたらどう思うか、だろうよ。それにな」
ティコは少し溜めると、ふう、っと息を吐く。
そしてちらりと、テッサを見た。彼女は期待をこめた視線を送って、にっと微笑むのだ。
彼女が彼の秘密を知っていることはうすうすと知っている。彼がこれから言うことに、期待していることが含まれていると察したのだろう、地頭はこれでいいのだ、おまけに好奇心の塊なものだから、一度推理されるとそう簡単には逃がしてもらえない、ティコは覚悟を決めると、話し始めた。
「“こっち”じゃあどでかい戦争があったのさ、世界中が焼きつくされる”核戦争”がな。そしてそこから逃れるために皆が逃げた場所が・・・」
「“ボルト”ってことだね、なるほど、地上が焼きつくされ誰も助けが来ないのをいいことに、か。外道の法だね、その口ぶりからすると”そっち”の人間はほとんどが死に絶えたんだろう?”カク”ってのがどんなものかは想像しにくいけど、残り少ない人間も共倒れに――― そんなことを考えた人は」
「地獄に堕ちろ、って思うよな、まあそれも200年以上前の話なんだが。俺は世界が燃えて、それでも地上で生き残ったレンジャー部隊の爺さん達が作った街で生まれた孫息子ってわけさ、つまり―――」
ティコはテッサと話を続けようとする。
だがそこに割り込む声があった、アルだ。
彼女は話についていけませんと、両方を手で制し、説明を求めるのだ。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ二人とも!アタシ何の話をしてるのかわかりませんよ?世界で戦争?200年前?待ってください、王国が平定されて600年以上、内乱や外部との小競り合いはあっても世界戦争なんて」
「・・・お利口だな、また一つ知識が増えた。ああ、嬢ちゃんにも分かりやすいよう話すか、テッサは解ってるんだろ?」
アルの言葉に割り込み黙らせ、ティコはテッサを見る。
彼女はようやくと、待ちわびていたと嬉しそうにぶいっとピースサインを送った。
「ようやく”こっち”と”そっち”なんてわかりやすい表現を使ってくれたんだ、ねたばらし間近じゃあない?早いとこ全部吐いてすっきりしちゃいなよ、ボクは少なくとも覚悟はできてるし――― 君達が口封じにボク達を消すようなのじゃない性善だってことは、十分理解出来てるからさ」
「ってことだ相棒、お前もいいか?」
ロイズを見る、カップにつけていた口を離す。
ロイズは後ろ髪を少し掻いて悩む素振りを見せた後、彼と視線を合わせた。
「いつかは話すことになってたんだろ、どうせだよ。むしろ今から色々やることがあるってのにお互い隠しとくのもなんかこう・・・むず痒いっつーか・・・あーっ!もう全部話してスッキリしようぜグール!もう隠しとくの疲れたっ!」
「ははっ、血の気の多い相棒にゃ隠し事は肩が凝るか!じゃあいい、みんなテーブルに集まれぃ!」
ティコが合図すると、全員がいっせいによってたかって集まって、テーブルに座す。
とはいえロイズとテッサは最初から向かい合って座っていたため、ティコとアルだけであった。
四人が向かい合うと、ティコはテーブルに前のめりになって寄れ寄れ、と合図する。それに全員が顔を突き合わせてさあさあ、とはやしたてるのだ。一人、テッサの顔がすぐそばに寄ったために頬を赤らめるロイズがいたが、そんなスケベ少年のことなど気にもとめずに話は進む。
すうっと息を吐いて、吐く。
覚悟が決まった合図を最後にし、ティコはゆっくりと口を開いた。
「実は俺らな・・・さ、相棒続けてくれ」
「い、いいとこでオレかよ!?ったく・・・テッサ近い!・・・じゃあ言うぞ、オレらはそうだよ、オレらの故郷は―――」
今度息を吸うのはロイズだった。
彼もまた、覚悟を決めたのだ。
「―――ウェイストランド、”異界”って呼ばれる場所なんだよ」
言い切り、刹那、沈黙が場を支配する。
なんとも言えぬ空気、誰とも動き出せず。
アルは目をまんまるにし、テッサは一人にやにやと、ティコは腕を組み鎮座しロイズはまた後ろ髪をせわしなく掻きながら居心地の悪そうにその場でじっとしているのだ。四者四様、淀む空気を打破せぬまま時は過ぎる。
それからしばし、無言の空間が支配するのだ。
それにやはり失敗だったかな、とロイズが思い、ひとまずテーブルに座ろうと―――
その瞬間、テッサが笑った。
「くっくっくっ・・・!」
「・・・うおっ、どうしたよ?」
「―――っはっはっはっ!!」
笑い、それを通り越した大笑いだった。
ロイズもティコもアルも、急なそれには圧倒され、そして何も言えなくなる。だが分かるのは、その笑い声には含みや裏表といった”裏切り者的”な要素は欠片も見えず、ただひしひしと、彼女が心の底から笑っているのだという嬉々とした感情だけが身体にぶつかることだった。
ティコも組んだ腕を解いてぽかんと、ロイズは口をマヌケに開いて見ているのみ。となりアルも引き気味で、しかしその見た目美しく、ちょうどいい程度に未熟な熟れ方をしたエルフの少女の笑顔は自然と、彼らから毒気を抜いていった。
ひとしきり笑うと、テッサは笑い涙を拭いて彼らを嬉しそうに見る。それから自身も隠すまいと、感情そのままに彼らに言葉を投げかけるのだ。
「いや、すまない、取り乱してしまったね?いや、ボクすっごく嬉しくて・・・ボクが好奇心と知識欲に取り憑かれていることは知ってると思うんだけど、ね?」
「お、おう・・・大丈夫かよテッサ?水飲むか?ほら」
「うん、ありがとうロイズ、君のこと好きになれそう」
「・・・勘違いさせるなよ?」
ロイズが差し出した手元の水を差し出すと、テッサは垂れることも厭わず一気に飲み干す。その際彼女が好青年の勘違いを誘発する言葉をぶつけたがそこは慣れ、彼は彼女を捌く方法程度、既に心得ていた。
テッサはそれでもなお、笑顔を収める気配はない。
むしろロイズをじっと見つめるので、ロイズはじりじりと後ろに下がっていく始末だった。
「いやあ、異界のことなんて分かってないことが多いだろう?だからね、この世の誰も知らない知識の深淵を最初に覗いたのがこのボクで・・・それで!そんな人達がボクを拾って、故郷まで送り届けるって言ってくれたことを改めて思うと嬉しいんだよ!運命的で、幸運だねって!」
テッサは大手を広げると空の向こう、天井越しの月を向くように身体を動かす。
そして彼女は手を合わせると、祈りを捧げるのだ。その姿はさながら彼女の美麗さが相まって聖女のようで、本来の彼女を知る彼らからも、どこか神聖な、月の光が届いているかのように見えて、
「ああ、月の神ルナよ感謝します・・・!ボクの幸運をこんな素晴らしい機会に使って頂いて!・・・君達といられるのはほんの短い時間かもしれないけど、ようやく言ってくれたね!これからは隠し事も恨みっこもなしだって、ああロイズ!ボクから離れないでおくれよ!」
「やめろ!寄るな寄るなー!」
「ははは!面白い、カメラがあったら写真を撮っておくんだが・・・ってもテッサ、当分はセネカお嬢がこいつを借りてるんだぜ?その辺はどうよ?」
テーブルを飛び出してロイズに飛びつこうとするテッサをロイズは引き剥がそうとし、ティコは先のテッサかくやとばかりに大笑いをする。
そんな最中ぽっと出た疑問を茶化すようにぶつけると、テッサは振り向きなんのことはないと、そう言わんばかりの表情を浮かべた。
「でも彼女がロイズの話を聞けるのはほんのしばらくだろう?ボクは彼ともっと長くいられて・・・ああ、そうだ!ロイズ、帰り道が分からなかったらボクの故郷に住まないかい!?父様にも婿探しをせがまれてたんだ、君ならいいよ!ちょっと寒いけど一緒に暮らそう、さあ!」
「やめろー!オレはロストヒルズに帰るぞ!何が何でも帰るっ!はなせー!」
やいのやいのと、一進一退の攻防を続けるロイズとテッサ。
力ではずっとロイズが上のはずなのに、彼女を突き飛ばせないのはひとえに彼の女性への気遣いと下心、その両方だろう。ティコはその点を察しているからなおも大笑いが止まらず――― ひとしきり笑い終えると、自分を見つめる一人の少女に気がつくのだ。
アルだった、彼女は何を言ったらいいか、それが分からない様子でティコへ視線を向けては逸らし、それをずっと続けていたのだ。
ティコは彼女が言葉を出せないことを察すると、自分がその戦端を開いてやろうと自ら彼女に声をかける。近寄って、頭をなで、いつもと変わらないのだと、そう彼女に教えてやると彼女は自分から言葉を紡ぎだした。
「・・・ようやく分かりました、ダンナ、いつか帰っちゃうってそういうことだって」
「・・・俺は別に残っても構わんのだがね、嬢ちゃん、どうだ?」
「ッ!本当ですか?それなら―――」
ぱあっと顔を輝かせて、ティコを見るアル。
だがティコはその額に指先をちょんと当てて制すのだ。
「―――でも、俺はこいつを送り届けなきゃならん、旅の道連れに死なせるにはここはちと故郷と遠すぎるんだ。俺は流れもんだし、今更・・・官給品返しに行くのもなあ、殉職扱いされてるだろうし・・・葬式にはマリアッチ楽団を呼んで盛大に、がいいかね」
「何だかよくわかりませんけど、でもダンナが残ってくれるならいいです!アタシついていきます!」
アルは彼を見上げると、じっと真剣な目で見据えるのだ。それから彼の手を取る。
「でも今すっごく、運命的なものも感じてるんです!どこか違う世界の人達が偶然サンストンブリッジに来て、偶然アタシ達と出会って、助けてくれて――― これって運命だと思いません?偶然にしては出来過ぎてると思うんです、だからアタシがダンナと会うのも、きっと」
「そうかもなあ、俺も嬢ちゃんと会えて嬉しいぞーうりうり」
恋焦がれるような視線をアルは送るが、ティコの彼女を見据えるそれは娘へのそれと道義だ。
小さな少女はそれが不満であったが、それでもまだずっと、この思い慕う人と一緒にいられるとそう思うと、自然と顔が綻んできて持ち上げられ高い高い、と遊ばれるこの感触も、悪くないように思えた。
―――そうしてしばらく、再び空気は引き締まる。
話題がもうひとつあることに気付いたからだ、話し手はロイズで、ティコはまた腕を組んで壁に寄りかかった。
「じゃあよ、Vaultのことだけど」
「・・・俺も協力して、色々やってくれってことでいいんだな?」
「まあそうだけどよ、でも何があるか分からないから・・・」
「細心の注意を、か。分かってる、実験設備を起動させる条件があるかもしれないからな、となるとやっぱりカギになるのは―――」
ぐっと、顔が引き締まる。
Vaultを統括するのに、必ず存在するものがある、そこには全ての情報が――― 全てを決定する権限が存在する、精密機械のるつぼ、電子頭脳の首魁、それが、
「―――メインフレーム」
「最下層までのロックを解除することが重要になるから、時間はかかると思う。200年何もなかったから一朝一夕に何かが起こるとは思えないんだけどよ、でも”今”だから不安なんだよ、なんてったって」
「―――灰色髪、かな?」
言い切るのはテッサで、ロイズも頷く。
正体不明、されど凶悪、唯一の判明点は灰色の髪――― きっとこの街で自分達の最大の敵になる者のシルエットを思い描く。
それだけで、ぐっと歯を食いしばりたくなるのはロイズだった、肌でその脅威を感じていたからだった。
「奴がVaultのあれこれを知ってるとは思えねーけど、なんか胸騒ぎがすんだよ。セキュリティボットを魔法で乗っ取れるかもしれねーし、鍵だって開けられるかもだからきっと・・・だから、奴に手を出される前にメインフレームにたどり着いて情報を全部引き出して、実験がまだ続いてるなら永久停止したい、奴に使われる前に」
「長い道のりに・・・いや、もしかするとそうでもないかもな、だが困難なのは間違いねぇ、協力するぜ相棒、何かあったらいつでも呼んでくれ、無線はつけっぱなしにしとく。エナジー・セルや充電パックなんざ滅多に使わんのだから、無駄遣いしてもバチゃ当たらんだろ」
「家のことはアタシに任せて下さいよー、みんなの帰る場所は守っておきますよー」
「知らないことがあったらおいで、ボクが教えてあげる・・・最近ここの歴史も頭に入れた」
「ありがとよ、たぶん一人じゃ辛かった・・・だから―――」
ロイズはぐっと拳を握りしめ、誓う。
自らの出自が示した誓い、それを心に。
「―――この世界でもテクノロジーを悪事になんて使わせるかよ。それだけは、絶対に」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それから街を歩く、”壁”の内側の豪勢な街を。
ロイズとテッサ、ティコにアルも交えて四人で歩き、とりあえず今日は気分転換でもしようと、街並みを見て心を和めようと、ただぶらぶらと一等市民区、上流の人間だけが歩くことを許されるその街並みに足を踏みしめていた。
”戦前の街”に訪れた際興奮していたテッサは普段の街並みにも興味が移っているのか、あちらこちらを見ては足元に転がる小石に転がりかけ、街灯に頭をぶつかりかけてはロイズに引き戻されている。
ロイズも改めて眺めてみる街並みは新鮮で、明確に設定された回収サイクルにより廃棄物処理も万全、そのおかげか空気もそれとなく淀みが薄いことの証明か、深く呼吸してみるとこころなし晴れやかになる気分になんとも来てよかった、といった気分になった。
アルはティコにべったりだが、ティコはティコで、長く生きた彼は彼なりにこのレンガ造りの街並みを見回して、かつての、故郷の街々もこんなふうに建材が初歩的だった時代があったな、と懐かしむ。
地下下水道が完備され、浄水施設から水を引くことにより上下の水道が双方とも完備されているこの街は清潔で、街を流れる用水路をのぞきこめば水は泥がたまらない底が見える程度には澄んでおり、下水と完全に分断されているため臭いも少ない。
時折大雨で溢れることはあったものの、それでも水質、廃棄物処理、空気、治安、どれをとっても”一等”の名に相応しい街並みがそこにはあった。
「ムーンエルフの街は魔道具と月のマナに頼りきりなところがあったけど、こういった人の発想の賜物で動いている街ってのもいいね、綺麗で整然としてて、
「あー、オレも同感、バンカー暮らしが長かったから初めてボーンヤード見た時なんか跳ねちゃってよ、あー・・・今思うと恥ずかしー。でもあんな小さなレンガいくつも重ねてよく家なんか作るよな、どれだけかかるんだろ」
「散歩するだけで楽しくなるくらい綺麗な街ってのは気分がイイね、あとは警備ロボットがぶち壊してくれなきゃいいんだが。地図を見る限りじゃそろそろ東の広場か、さあ嬢ちゃん、いい店があったら買い食いでもして帰ろうか」
「はぁいダンナぁ、でもお金使い過ぎちゃ困りますよ?いくらロイズさんのおかげで収入上がったからって、ここ物価がひどいんですから使い過ぎちゃすっからかんになっちゃいます!」
思い思い、思ったことを話してれば気持ちも自然と落ち着いてくる。
そうしているとふと、一行は小さな広場に出る。中央に噴水が設けられた、街にいくつかある待ち合わせ場所のようなもので、そんな待ち人来ずで暇を持て余す人々から暇という悪魔を奪うために降臨した大道芸師がジャグリングをしているから、ついつい彼らも近寄ってしまうのだ。
無駄遣いをするなと言われた矢先であったのに、周りの身なりの良い人々が大銅貨を投げ入れていくものだからついつい、ティコとロイズも負けじと投げ入れ頭を隣に控えていた女二人にはたかれる。
そうしていると、またその場にふらりと、大道芸に惹かれてきた暇な男二人が寄ってきた。いや、もしかすると暇ではないのだろうか、公務の執行中を表す紋章を胸に光らせる彼ら、一行は彼らと目を合わせると、彼らも目を合わせて指を差してくる。
そう、ついこないだまで一緒に居た、彼らは―――
「フラティウのおっさんにバラッド!こんなところで!」
「ロイズか!そのぶんでは、上手く研究所に取り入れたようで何よりだ、ティコも久しいな」
「おぅ飲んでるか大男?最近張り合いのある相手がいなくって寂しかったんだぜ?」
男三人、肩を組んで友誼を図り合う、闘いによって結ばれた絆はたった二週間程度では不滅だ。
「アルちゃんとテッサも久しぶり、ロイズは最近どうしてる?僕達も仕事があってあんまり会いに行けなくてさぁ」
「最近めっきり夜が静かになって寝過ごしやすくなりましたよ・・・あーいえ、やっぱ静かすぎて眠れないんです、ロイズさんが居た時のほうがずっと騒がしくて楽しかったって思いますよ、ええ!」
「そうだよねえアルベルト、最近ゲームのカモになってくれるロイズがいないからさぁ、二人だけのポーカー・ゲームなんてつまらないことこのうえないし・・・あっ、バラッド君今度やりに来ないかい?手加減するよ?できないけど」
「や、やめておこうかな・・・」
茶髪の優男も女二人に声をかけ、久方ぶりでも全く変わっていないことに安堵すると引き下がる。
「それでなんだ、おふた方はここで何を?あの赤毛の元気のいい嬢ちゃんも見当たらないみたいだが」
「ああ、シェスカは、我らとは違う待遇で扱われてな・・・
「へぇ、持っとくものは権利と身分だねぇ、それで、お前らは何を?」
「僕達は、はは・・・」
苦笑、というにふさわしい笑みだ。
フラティウとバラッドは目を合わせた後、胸元につけられたバッジ、そして腕章をティコ達に見せた。
「なになに・・・読めんっ!」
「“警備隊臨時編成遊撃隊”ねぇ・・・つまり王都の剣神がやってるような特別遊撃ってやつなわけかな、ずいぶん名誉あるお仕事に就けたじゃないか大男さん、職に貴賎はなしって言うけど、貴賎があってそれに従ってやってると思わないとやってられないよね・・・貴賎どちらにせよ。もう隠居できるんじゃないの?」
「はは、エルフのお嬢さんは相変わらず口が辛い、だがそんないいものではないさ、我々をここに縛り付けるための方便か何かだろう、我はまだ隠居はせんよ、ここはなんというか・・・」
読めずに投げたティコのさじを拾うように、テッサが付け加えるとまたフラティウは苦い顔をする。そして再びバラッドと目を合わせるのだ。
「暇なのだ、こんな場所に侵入してくる命知らずはいないし、いてもあのからくり達が簡単につまみ出す。我とバラッドはただぼうっと、街を歩いているのが仕事だよ、曰く”からくりは融通がきかない”らしいからいなければならないらしいが、こうも、な」
「本当にやることないんですよ、あっても雑用をさせられたり探しものとかそんなもので。いい加減に鈍っちゃいます、ああ、あの闘いの日々が懐かしいなあ・・・っと、いけない、あの血の気の多い場所に中てられたのかも」
何もないのが、一番ですよね。と笑いながら言うバラッド。
だがそこで、思い出したようにもう一言付け加えた。
「―――”異界の魔獣”は割と頻繁に出てくるんですけどね」
「じゃあ全然暇じゃねーだろ?むしろ命がけじゃねーの?ものによっちゃオレらも結構苦戦するんだぜ?」
「いや、それがね・・・あっ」
会話はそこで途切れた、バラッドがティコ達の背後に何かを見つけた、というような目をして、腰元のナイフに手を掛けたからだ。
はっと、その視線を受けてティコ達も背後を振り向く――― そこでは。
「・・・言うとおり、頻繁に出るんだな」
「下がってろよちみっ子、テッサ、前衛はオレらが」
久方ぶりに出会ったような気のする、”裂け目”。
中空に突如現れたそれは広がっていき、その存在に気付いた人々も、大道芸など放っていちもくさんに物陰や近くの商店に身を隠しに行く。だがティコとロイズ、特にロイズは私服ながらも果敢に戦闘用意を済ませるのだ。
刻一刻と経つ時間、それはやがて――― 切り開かれた裂け目から一匹の”魔獣”を現出させるに至る。
”ジャイアント・ラッドスコルピオン”、もう一ヶ月以上前になるか、ティコが一度相手をし仕留めたミュータント生物が、空間をハサミで切り開いて表舞台に身を乗り出すのだ。ティコも持っているのはピストルだけで、ロイズはパワーアーマー未着用、まさしく苦戦は不可避であろうか。
テッサも後ろに下がって光弾を中空に出現させ、アルは下がってその後ろに隠れる。
するとジャイアント・ラッドスコルピオンは目の前の柔肉、獲物を認識し、そこへ足を進めようとするのだ。そうなると当然、後ろに守るべきものを控え、ロイズの闘争精神はピーク間近、彼はいざ闘いへ赴こうとし―――
「ロイズ、違うんだ、下がって!」
「ティコも下がれ、危険だっ!」
その襟をバラッドと、フラティウに引っ張られて後ろへ下がらせられるのだ。
興ざめで、これにはどうしたものかと、血の気の多いロイズは後ろのバラッドをひと睨み、ティコも何がどうしたと諸手を上げる。
「どうしたってんだよ!戦わなきゃここの人達にも!」
「違うんだって!だから話を聞いて―――」
必死に前へ出ようとするロイズ、それを止めるバラッド。
闘う準備のできた男を止めるには、当然理由が必要なのだ。
一進一退、その最中なおもジャイアント・ラッドスコルピオンは前進を続け――― そして、その途端、”理由”は訪れる。ジャイアント・ラッドスコルピオンへと無数の赤い閃光が四方八方より飛来したからだった。
これにはロイズ達も目を剥き、一瞬のうちに視界を覆い尽くさんばかりの閃光がラッドスコルピオンの甲殻を赤く焼き、関節を裂き、目を弾けさせ、まるで茹で蟹のように真っ赤に甲殻から湯気を立ち上らせるようにしてしまう。
刹那、ロイズ達は理解してしまうのだ。
この無数の閃光は――― レーザー、つまりその出所は。
目を奪われ周りが見えていなかったことにようやく気付き、周りを見渡す。視界を埋めていた赤い閃光は既に無くなり、かわりに埋めていたのはいくつもの飛翔体、球形の精密機器が空にいくつも浮かび、その砲口から熱煙を立ち上らせていた。
「アイボット、それにセントリーボットまで・・・」
「ね、危なかったでしょ?彼ら見境なく敵を見つけたら撃ちまくるもんだから巻き込まれないよう逃げるのがせいいっぱいで・・・はぁ、本当にやること、ないんだよね」
でも強いんだけどね、と無力感は認めるようにバラッドは言う。隣でティコを押さえていたフラティウも彼を離すとバラッドに賛同し、苦い顔をして頭を掻いた。
「・・・我々の役目がないものも困るものだがな、特に以前が闘い詰めだったこともあって・・・高ぶった心を鎮めるのに毎度苦労するよ、ベルセルクをもし今持っていたら、また暴走していただろうな」
「や、やめてくれよ・・・パワーアーマーの性能低下があれから治んねーんだから、今度やられたら勝つ自身はねーぞ・・・って、あれだけの警備ロボットがあるのにここの連中は壁の内側しか守らねーってことか?胸糞悪いな」
「貴族には貴族の事情がある・・・というには確かにそう思えるが、だが下町は下町で案外上手く回っているものさ、異界の魔獣は生け捕りなら当然、死骸でも高値で売れるものだからな、下々の男たちの生活を支えるのにもいいし、腕を鍛えるにもちょうどいい相手なのさ」
「うー・・・納得するしかねーか・・・うー」
この街の安全の裏で、自分がついこないだまで住んでいた街の危険がおざなりにされているという現実にそこはかとない反抗心を覚えてしまうロイズだが、フラティウに諭されてやむなく納得する。
それから彼は思い出すと、フラティウの”呪い剣”の影響が完全に取り払われたかつい疑い、目でじろじろと彼を見るのだ。なまじ自分で相手をし、こっぴどい目にあわされたものだから慎重だった。
するとフラティウは大笑いし、ロイズにぐっとサムズアップを見せる。
ロイズはその大振りな仕草に圧倒されると、だがもう大丈夫だと納得してみせた。
「はは、心配ご無用、呪い剣ベルセルクは君が完膚なきまでに破壊してくれたからな。本当に感謝している、っと!さて、ではそろそろ我々も巡回に戻るとするか!ではロイズ、それにティコと少女たち、用があったらいつでも警備詰所に来てくれ!」
「おうよ!また会おうぜ大男!また飲みに行こうや!待ってるぜ!」
手を振ってフラティウとバラッドは、ジャイアント・ラッドスコルピオンの死骸を引きずってその場から立ち去る。そうするともうなんでもなくなったと、隠れていた人々が集まってきては元の日常に戻るのだ。
彼らは上空を飛翔し帰っていく球形兵器の編隊に賞賛の声を送り、また日常へと戻る。
つかの間の日常かもしれない、だがティコもロイズも、今を楽しもうと。
ふと足を止めて、ジャグリングに目を向けた。
この街は、退屈までに安全であると、そう願いたかった。
(´・ω・`)なおサソリも茹でたり焼いたり、熱処理するとしっかり赤くなるそうです、所詮甲殻類ですね、機会があったらぜひ食べてみたいと思います。
ラッドスコルピオンの毒腺ばっかりアイテムに出てますけど、次回作じゃ肉も食べたいですね、きっと美味しいと思うんですよ。ボリュームもありますし、ちょっと大きくて固そうだけど。