トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

63 / 91
10777字、運がいい。
もう少し書きたかったけどキリがいいのでここで、珍しく場面転換がないです。


第三章:西の森を行け 29話『Vault in Vault out』

 

 

 

「離れんでくれよ金髪お嬢、だいたい21.7ヤード(20m)以上離れられてから助けを求められても、たぶん三回に一回はそっちに当たる」

「誰が貴様に助けを求めるか・・・と言いたいところだが、あいにくと長剣を持ち合わせていない、こんな場所で使うとは思ってもいなかったからな・・・頼んだ、ロイズ君の相棒ならば彼並には強いのだろう?」

「期待してくれて構わんが、装備の質によるな。距離21.7から始めるとして、パワーアーマー着たあいつと正面から張り合ったらどの距離でも俺はあいつにゃ負けるさ、だがそうでなきゃ俺が外さん、勝つな・・・っては思うが、どうかね、期待裏切ったかい?」

 

 ティコとアニーアの二人もまた、地下Vaultを歩いて探索していた。

 

 ふと横に目を向ければロイズの向かった区画と同様、施錠されたドア、その横の窓ガラス越しに無造作に置かれた物品の数々や、警備員用なのだろうか、ベッドの置かれた宿舎が見える。だがティコは彼とは違い、クラッキングに関する技能はてんで持ち合わせていないため無視し、またアニーアとの会話を楽しむことにした。

 

「なるほど、やはりロイズ君は鎧あってこそあの強さということか・・・研究所のセネカが彼の鎧を調査していると聞いたが、何ら成果が上がってこない、あれもまた、異界の代物というわけだな、彼女の研究はきっと我々により強力な軍事成果をもたらしてくれるに違いない」

「まあパワーアーマーを調べ尽くすなんぞ俺でも結構きついぜ金髪お嬢・・・ところでなんだが」

 

 ティコは顎に指を添えると、彼女に聞く。

 

「ロイズ”君”ってのはなんだい?相棒が可愛いのは分からんでもないが、年頃のお嬢ちゃんが男の名前を呼ぶには少しばかり違った感じがするんだが」

「うっ・・・また無意識に呼んでしまっていたか・・・まあいい、このさいだ、君を彼の相棒と見込んで話す、見返りはもらうぞ、つまりな―――」

 

 すうっと息を吸い、吐き、顔はほんの少しだけ赤らめ目線はどこかおぼつかなく、アニーアは扇子で口元を隠すとぼそっと、

 

「―――彼の、ファンなのだ」

「・・・あぁ?」

「彼の、闘技場時代からのファンなのだっ、それでいいだろう?彼の戦う姿だけではない、勝利の瞬間に見せた笑顔も、何者にも諦めない心も――― すべてに魅せられたのだ、だから」

 

「・・・ここに来た理由が何かあると思って、聞こうと思ってたんだが、まさか」

 

 これにはティコも立ち止まってしまい、なんともどうしたものかと頬を掻く。アニーアは扇子で顔元を隠しているが、顔は茹で途中のタコのように赤色化一直線だ、それでも口調を崩さないのは彼女のプライドが、乱れる心を上回っていたからだろう。

 

「最初はゼノちゃんと遊びに来ただけだったが、裏手に行く君達を見つけてな、興味本位で追いかけたのだよ。もう彼に会う用は無いから僥倖だとな。そうしたらお前に手を引かれて今に至るというわけだ、引かれるなら彼のほうが良かった・・・」

「そいつは申し訳ないな」

 

「ともかく!私は彼に会いたかった!それだけでついてきた、その何か悪いことでもあるか?・・・っと」

 

 話を止め、アニーアは完全に立ち止まるとぱしっ、と扇子を閉じ、そしてティコにつきつける。彼はその仕草に彼女の鋭く尖った羞恥心の槍が彼に見返りを求め、さくっと逃さないように刺し込んできたのだと察すると彼女に正面から相対し、続く言葉を待った。

 

 

「・・・ここまで言わせたのだ、見返りはもらう」

「なんだって?今とっても・・・笑顔になりたい気分なんだが」

「ならもっと笑わせてやろう、まあ、簡単なお願いなのだ、その・・・」

 

 目線をどこかに向け、合わせない。

 しばし巡った末、彼女はようやくと、またすうっと息を吸い吐きしてから口を開いた。

 

「近々、父上の60歳を記念する催しがあってな・・・そこに、その」

 

 もじもじとしながらも、なおも続ける。

 

「君達、を・・・誘いたい、君達は・・・フラティウ・ドムアウレアやバーニング・シェスカ、紅炎の黒刃達に君達はいまやここの人気者であろう?だから十分に資格はある、だがそうなるとロイズ君も来るわけで・・・でも私の口から言うのはその」

「気恥ずかしい、ってか?」

「うう・・・そうだ、だから君の口から頼んで欲しい、場所や日程はおいおい伝える、だから頼む、君を彼の相棒だと見込んで頼みたいのだ」

 

 そこまで続け、うう、っと唸ってアニーアは黙りこむ。

 ティコはしばしその様子を眺めていたが、しかし、突然に、

 

 

「―――っはっはっはっ!」

「な、何がおかしいっ!?」

「いや、いや、なっ」

 

 急に笑い出したティコにまた顔を赤め、扇子でびっと指すアニーア、ティコはひとしきり愉快そうに笑ったあと、そんなんじゃない、悪気はないと彼女に弁明し、しかしヘルメット越しの顔から笑いが取れないまま話し始めた。

 

「いや、正直こっちも何か裏があるんじゃないかとな、疑っちゃいたんだ、だがまさかその裏ってな後ろ弾ぶちこんでやろうってなんじゃなくって、ただのミーハーな女の子の照れ隠しってな、はっはっはっ!」

「か、構わないであろう!?それよりどうした、返事はどうした?これで首を横に振るなど私が馬鹿みたいではないか!?」

「はっはっは――― いや、大丈夫だ、承った。しかし相棒もモテると辛いなぁ!テッサはジョークだろうが、あの猫娘といいあんたといい!女運がいいんだか悪いんだか!俺もグールの女からは好かれるもんだが、若いころとは違って滑らか肌とは縁遠いから羨ましいなあ!」

 

 ひっひっひ、とまた笑いがぶり返してきたティコを見て、もうこの男はどうにもならないと感じたのか扇子で口元を隠し、彼が収まるのを顔が赤いまま待つアニーア。

 それからしばらく、ティコが収まるが、一転、何かを思い出したのか、自分こそと決断したのか、話すことがあるといった様子でふと立ち止まると彼女を向く。

 

「っと」

 

 ピストルをくるくると回し、心底緊張は解かれた、といった素振りをすると続けるのだ。

 

「女が心の中さらけ出してくれたんだ、昔はホワイトデーには三倍返しにするっつーのが通説だったらしい。つまり見返りは足らんだろう?だから俺もあんたに――― あんたみたいなのだから、教えてやりたいことがある。心して聞いてくれや、ちと残酷かもしれんがね」

「残酷・・・?」

「ま、このVault・・・”28番目の金庫”のことさ、こいつはな、俺と相棒がその道のプロだから知っちまったことなんだが、つまり―――」

 

 アニーアとは違いすうっと息は吸いも吐きもせず、冷静に淡々と、ティコは話す。

 

 

「―――元々実験施設だった場所さ、少なくとも200年前に何かの実験があんたらの便利グッズに成り下がってる”からくり人形”やらか何かの手で行われて、記録によっちゃ・・・人口の半分は死んでる、当時のだとそうだな・・・100から150ってトコか」

「・・・真か、と聞きたくなるな。なんら証拠はあるのか?」

「あるにはあるが、金髪お嬢達はこっちの字は読めんだろ?相棒が見つけ出してくれたログに書かれてたモンだから俺も信ぴょう性って意味じゃ確信に至らないし、なによりそれがまた行われるかって意味じゃなおのことわからん」

 

「その口ぶりだと、君は」

 

 訝しむ目だが、確信も交えた目だ。

 ティコは”当たりだ”と指を指すと、答えた。

 

「俺らはこっちの字が読めるもんでね?・・・ワケは聞かんでくれ、ややこしくなる。だがこれで、ちった俺らのやりたがってることが分かってくれたんじゃないかって俺は思ってる、金髪お嬢が聡明なお嬢様だってんなら、尚更な」

「・・・正義感に溢れた君達のことだから、二度その”実験”が行われないようにと?」

「分かってくれて何よりだ、俺と相棒が、旅に出んでここに残ってる理由のひとつでもある・・・ああ見えて底抜けに――― ま、昔の相棒ほどじゃないが、でもお人好しで自己犠牲っつーもんに躊躇わない男だから、ここにいる羽振りのいい連中を見捨てて寝覚めが悪くなるなんぞごめんってこったさ」

 

「だが、それがいつとは限らないのではないか?そんなに急かさなくとも」

「そうは言うがね、奴さんいるだろう?えーと、”灰色髪”だったか、あれが何もせんとも限らんからな」

 

 あっさりと言い切るティコ、アニーアは頭を抱え、ううむ、と唸る。

 

「それが真なら、この場所を封鎖して住民や旅行者を追い出さねばならん・・・だが、しかし」

「一朝一夕にゃできることでもなきゃ、回っちまった経済を止めるってのはお偉いさん方が許さんだろう?なあに、だから金髪お嬢、ここはただひとつ、黙って任せて欲しいってことなのさ。俺と相棒が謎を解明するまであんたは俺らのやることを黙って見ているか・・・知っていることがあるなら、教えてくれてもいい」

「あいにくと、君達の助けになれそうなことはなさそうだよ、私でもね。だが父様なら・・・いや、よそう、余計に色々教えるのもまずいであろう?」

 

「聡明で助かる、だがどうしようもなくなったときゃ・・・”お偉いさん”のあんたに任せることもあるだろうさ、だが・・・なければいいことを両者納得ってことで乾杯、ああ、酒は飲めないタイプかい?」

「あいにくと、ワインを嗜むくらいはできる・・・今度の催しでは宜しくな」

「そりゃ期待できるねえ、じゃあ、行こうか」

 

 互いに会話を閉じ、またティコはピストルを構え正面、十字路の両端、長い通路の後ろのどこか、ありとあらゆる場所を警戒し、時には先行しながらひとつひとつ不安要素を潰しつつ進んでいく。

 

 アニーアもそれに追従し、されど彼のようにスニーキングに長けているわけでもないからおっかなびっくり、されど風格は優雅に、いかなる危険が待っているか分からなくとも、聡明で賢明な彼女は彼の命令には忠実に従い、彼とともに歩んでいくのだ。

 

 そうしていると、彼らもまた最奥部へと辿り着く。

 ティコ達が向かった最奥部の部屋、機械扉がやはり開け放たれていたことから内部が外からでも見て取れる部屋。

 

 

 防具保管庫――― 恐らく警備オフィサー用のものを収めた部屋であった。

 

 

「・・・鎧にしては柔らかいな、異界の人間の服か?それにしては前に見たのよりも・・・」

「たまにVaultスーツ着てる奴はいるが、あれとは違う。こいつは立派な鎧の一種だよ、Vaultオフィサー用の奴と・・・コンバットアーマーか、ウェイストランドじゃ珍しくもなんともなかったが、こっちでお目にかかれるとは思わなかった、これだけ売っぱらえば当分酒飲んで暮らせるなっと」

 

 ぽんぽんと、棚に安置されているアーマーの数々に触れて懐かしむティコ。

 

 コンバットアーマーとはティコのレンジャーコンバットアーマーの前形とも言える装備であり、戦前ではある程度、使用、所持に許可が必要であったために出回りは軍用は警備、その他の数少ない諸目的に限られたものの、高い信頼性を持った防弾アーマーであった。

 

 ウェイストランドでは人口が当時に比べ減り、加えその米軍が残したものが多く出回っているためにそこまで珍しくもないものではあるが、それでもその性能に見合って需要は大きく値段はそれに準じて高額に違いはない。

 防弾ケブラー繊維で全体を覆い、セラミック装甲プレートを内部に仕込み打撃、斬撃に対しても活用する高い防御力はやや重いものの、敵の銃弾や暴徒のナイフから兵士の身を守るのに十二分に役立ち、今もなおミュータント生物に力で劣る人間が、彼らと戦う手助けとなっていた。

 

 背中にごていねいに”28”と書いてあるからここの備品用に生産されたのだろうと考え、ティコはVaultオフィサーの服も見る。

 使われた形跡こそないものの、経年劣化でどちらもある程度繊維に損耗が見られており、使うにはまだまだ十分であるかもしれないがそれでも、かつての栄華を取り戻すことは到底叶わないだろう。

 

 ティコはそのうち綺麗なものをひとつ、ふたつ見繕うと、背中のリュックにしまいこむ。これは何かあったら持ち帰ろうとそのあたりにぬかりないティコが持ってきていたもので、少しばかり散財することになったものの縫製のしっかりしたものを用意していた。

 

 その様子を見ていたアニーアが、彼に語りかける。

 興味の対象はおおよそ、彼と同じその”鎧”にあった。

 

「持っていくのか?これが鎧だというなら、我が家の騎士に装備させたいと思うのだが・・・少々奇抜な外見だが、これがロイズ君の装備しているような・・・えーっと、”ぱわーあーまー”ほどの性能を有しているのなら軍事的に有利であろう?」

「馬鹿言っちゃいかん、パワーアーマーは特別も特別だよ、あれを手に入れるために戦争やってる奴がいるくらいさ。まあでも、コンバットアーマーくらいなら持ちだしても相棒も何も言わんだろう、こいつはすごいぞ、金属背負うよりずっと軽いし矢だろうが剣だろうが割と行けるぜ」

「ほう、それはいいものだな・・・こちらは?」

 

 アニーアはVaultオフィサー用のアーマーに目を移すと、手にとって見せる。

 

「分厚い布の服だ、やめとけ」

「布の服か・・・肩も足も出して寒いのに、厚着にする意味がわからんなぁ」

 

 ティコの言葉を受け、そっと棚に服を置くアニーア。

 ティコはリュックに入れた二着程度のコンバットアーマー、計50ポンド(22kg)を超えていたが鍛えの入った彼は特に気にするでもなく、ひょいと背に背負ったままずかずかとそのまま足を踏み入れていく。

 

 そうすると、再びまみえるのは一枚の扉。

 横にターミナルが取り付けられており、その扉には―――

 

 

「LEVEL4、たぁずいぶんとご丁寧で・・・」

 

 更なる下層、自分たちがここへと訪れた目的がさも待っていましたよ、と無傷で鎮座する様に、ティコはほくそ笑みそっと、周囲の警戒だけは怠らず歩み寄る。

 

 ―――だが、その警戒が仇となったのだろうか、後ろを歩くアニーアの盾になるようにして位置していたティコは、完全な油断を見せていた。周囲に警戒するロボットも、カメラもなければセンサー類も見当たらない、それが、

 

「ッ!」

 

 ドアの管理を司る、首をもたげていたターミナルの後ろにわずかにだけのぞいていた、一本のアンテナに気付くのを遅らせて―――

 

 

「金髪お嬢ッ!!」

「なあッ!?」

 

 刹那、”ターミナルが爆散”し、破裂したブラウン管のガラスが周囲に散弾のように飛び散る。

 

 ティコは背を向けて飛び、アニーアを抱きかかえるとそのまま彼女の頭が地面にぶつからないよう手で抑え接地、滑るようにして身を地面に押し付けるのだ。柔らかい豊体の感触や少女の抜け切らない甘い匂いに彼は包まれるが、そんなもの二の次だ、彼女をしっかりと抱きかかえ”絶対にその身体が彼から出ないように”する。

 

 瞬間、ガラス片が辺り一面の物々に当たって飛びすさぶ、それはティコも例外ではなく、彼の足や腕のプロテクターをかすめ彼のジーンズはトレンチコートに小さな切り傷を与えた後、彼のリュックにいくつも刺し込まれて大きな衝撃を与えた。

 

「ッ!こいつを背負っておかなきゃ重症だったなっ!」

「ど、どかんか・・・ああ、いや、訂正する・・・助かった、狩人ティコ。よもやこんな危険が潜んでいようとは・・・」

「納得してくれてなによりだ、金髪お嬢。だがしかし、こいつで・・・」

 

 運良く重症は免れ度、穴だらけとなったリュックやかすり傷から血の流れるジーンズを見てうへー、と声を上げながら、彼はしかしこれをしていなければ甚大な被害を受けていたと、なまじ魔法などという不思議医療が効かない身体であることを思うと良かったと、そう感じながらターミナルを見る。

 

 恐らく遥か昔に何者かが他者の侵入を阻もうと、予め細工していたのだろう、グレネードとセンサーモジュールを用いた簡素なトラップに自分が引っかかってしまったことにこめかみを掻きつつ、彼はその残骸に目を通すとなおのこと嘆くのだ。

 

 ターミナルはひしゃげ、カードリーダーこそ無事だったかもしれないがそれはつまり、自慢の相棒のクラッキングで下層への扉を開けなくなってしまったことを意味していた。

 

「参ったもんだ・・・相棒がキーを見つけてくれていりゃいいんだが、俺じゃどうにもならん」

「つまり私達の冒険はここで終わり、ということか・・・さて、では戻って彼らの帰りを―――」

 

 ティコが嘆き、アニーアが疲れ気味に言う。

 その矢先―――

 

 

「・・・んだこりゃ、まさか」

「良くない事が起こったと、それは私にも・・・」

 

 ―――視界が赤に包まれる。

 

 

 Vaultの警報装置が鳴り響いたのだ、警報には警告も含まれており、その文面から察するに今回の事案はひとえに、彼らがターミナルを破壊したことに由来するようで、ティコは諸手を上げてまた、うへー、っと鳴く。

 

 アニーアのほうも口元に当てた扇子の裏では冷や汗を垂らしていて、視線はティコに向いていた、彼を頼っているのだ。

 

「走るぞ、金髪お嬢、こうなった以上強行突破でどうにかするか――― 警報を止める以外にない、どっちにしろ相棒達と合流せんといかん・・・ついてこれるか?」

「乗馬に剣技、魔術に読み書き算術全て身についておるわ、だがティコよ・・・嘆かわしいが私を守ってくれ、剣を持たぬ私は無力だからな」

「よしきたお嬢っ!合図には従えよ!来るぞっ!」

 

 ティコが言った途端、一度閉めた扉を開け放ってくるのは一機のMr.ハンディタイプ。警告を発し、勾留を求め彼らに向かってにじり寄ってくる。

 

 このまま素直に従えばおそらくは、独房入りで済むのだろう、だがティコには気がかりになった言葉があった。それは彼らが無機質に、テンプレート的に言い続ける言葉で、その中に存在したひとつの単語、とどのつまり、

 

『警報作動、警報作動、レベル4への経路へ不正侵入しようとしている者を確認、監督官の指示あるまでカードキーを持たぬ対象を独房へ隔離するように、繰り返す―――』

 

「―――監督官がどこにいるって!?」

 

 

 刹那、ティコが銃口から火を噴かせ、同時倒れるハンディ。

 

 そうなると当然ネットワーク上で共有された脅威レベルの情報が、各ロボットへと通達されるのだ、ティコはアニーアへ合図をし後ろからついてこさせ、十字路を曲がってロイズ達の向かった区画へと一目散に走ると頻繁に投入されてくるハンディを撃ち貫きつつ進むのだ。

 

 ティコが自信をもって言えるピストルの有効射程は21.7ヤード(20m)がいいところで、Vaultの長い廊下も中腹程度に位置していれば、両端を狙うには十分なほど。加えハンディタイプは武器という武器は持ちあわせておらず、簡易火炎放射器と円ノコがいいところ。

 

 有効な条件下では戦闘が当然有利に進み、ティコは怒涛の進軍を進める。

 しかしだ、それも長続きはしないのだ。ティコがリロードを終え再び別の十字路に差し掛かったところ、彼らの前に現れたのは新手だった。

 

 

「セントリーボットかっ!?」

「街を回っている”四つ足騎士”かっ!?」

 

 互いに違う名を呼ぶが、認識は一緒だ。

 待ち構えていたのはずんぐりむっくりの胴体、四つ足のローラー脚、騎士を思わせる格子つきの顔に赤い目と、セントリーボットで最強最悪、少なくとも西部ウェイストランドの頂点に君臨するロボットの尖兵であった。

 

 

『対象脅威レベル5、即時排除を決行―――』

「容赦してくれなさそうだ、金髪お嬢、後ろ見張っててくれ!俺が相手するっ!」

「わ、分かった!無理はするな!」

「もとより!」

 

 言うと同時、共に十字路に隠れてセントリーボットが放ったガトリングレーザーをやり過ごす。

 

 放たれたレーザーの惨禍はその射線上に偶然割り込んでしまった哀れなMr.ハンディを一機溶解させてしまうもしかし、もはやなりふり構わないのだろう、構わず前進をしようとする。ティコはそれに対し、ピストル、レンジャー・セコイア(.45-70ガバメント)の連射を見舞った。

 

「くたばりなっ!」

 

 45口径、ライフルカートリッジの衝撃は拳銃弾などよりもずっと大きく、ライフリングで回転し、コリオリ力すらほぼ役割を全うしない近距離で放たれると寸分の狂いなく命中しセントリーボットの装甲を大きくへこませる。

 しかし致命打まで一歩足りない、すると、セントリーボットはとうとう更に攻撃手段にもなりふりかなわなくなってのであろう、右手のガトリングレーザーの砲門を下げると、左手を上げる。

 

 つまり、この閉所で自分が爆風に巻き込まれる危険を顧みずに、ミサイルを使うつもりなのだ。おおざっぱな危険予測、もしくは損傷した回路が導き出した狂気の特攻が実現しようとしていた。

 

 ティコはその瞬間戦慄し、そして顔つきを一気に引き締める。そして彼が使うのはいつものように一発一発リロードすることではない、最初から弾丸が込められた五発装填の、滅多に使うことのないスピードローダーだった。

 

 あっというまにリロードを終えると、その銃口を再びセントリーボットへ向けるのだ。

 

「当たらなきゃお陀仏、当たれば・・・!」

『ターゲット、確認、ユニット、点―――』

 

 

 銃口を合わせ、それに合わせるようにセントリーボットもレーザーサイトを合わせようとする。

 

 だがティコの方が早いのだ、合わせた銃口はミサイルポッドを指し、その殺戮兵器が火を噴く前に照準を合わせ引き金を引くと、刹那の時間に尖った弾丸は空気をねじりきり、火がついた瞬間のミサイルに穴をぐるぐると、ねじり切るように開けてしまう。

 

 瞬間―――

 

 

「うわっと!」

「きゃあっ!?」

 

 ティコが遮蔽に隠れた瞬間、一瞬だけ遅れて凄まじい爆風が通り抜ける。

 それは爆炎に一拍遅れて煙も彼らの隠れていた十字路の道にまで飛び込む。

 

 もちろん彼らも無被害ではなかったが、それでも咳き込む程度、状況の終了を感じ安堵した。

 

「つくづく、街を歩く彼らがいかに役に立っているかを実感した、今度使用人に言って磨いてやらなければな」

「そりゃあいい、今度アブラクシオクリーナーを貸してやるよ、ピッカピカだぜ?」

 

 ジョークを挟み、安堵を安心へと変えるのだ。

 ふうっと一息をつき、ティコは再び銃弾を込めなおす。

 

 それからアニーアの手を引き、時間はないとまた動き出すのだ、だが―――

 

「いいっ!?」

「な、なんと!?」

 

 向かう先には更なるセントリーボット。

 ふと横を振り向いても、そこにもセントリーボットが立つ。

 

 ここは十字路で、言わば十字砲火の形を取られてしまったのだ。

 一瞬の安堵だけではない、彼らはロボットだ、敵の場所などあっとういうまにセンサーとネットワークで割り出してしまうのだろう、これにはしまったといった顔をしティコは銃を構えるが、とても相手にできる戦力ではない。

 

「・・・金髪お嬢、こいつを打破できる魔法とか、あるかい?」

「あいにくと私の適正は炎だけであるが・・・バーニング・シェスカのようにはいかないぞ」

「万事休す、ってこったか・・・」

 

 絶体絶命、狼は遅れているようだが、前門の虎は逃げても後門までに追いつかれてしまう。

 

 ティコは銃を握って歯を食い縛るが、それもまた無意味。いかなる人間でも科学の叡智には敵わないのだと、圧倒的な威圧感をもって迫ってくるセントリーボットはまさしく、ブリキの処刑人のよう、だがそれはブリキでも、鉄より硬いブリキの兵隊なのだ。

 

 

 迫り来るセントリーボットは、その砲口を彼らに向けて、そして―――

 

 

『―――警報解除、金庫室からの入電、侵入者は侵入者にあらず、操作盤の損傷は事故と判明。全ての警備ロボット及び戦闘用セントリーボットは即時、持ち場のメンテナンスウィングでメンテナンスを受けるように、繰り返す―――』

 

 

 ―――止まった。

 

 

「ど、どうした――― ッ!・・・相棒か!」

「金庫室、と言っていた、急ぐぞ狩人!」

 

 その砲口を下ろし、ようやくと止まった機械仕掛けの処刑人はくるりと踵を返すと帰っていく。

 

 それに状況の終了と、次いでその状況を引き起こしたのが、今遠くどこかにいる彼の相棒であることを感覚で察したティコとアニーアは、のろのろと動くセントリーボットをどかして一目散に駆けて行くのだ。

 

「どけ俗物!」

「どきなブリキ人形ッ!」

 

 カンカンと、鉄張りの床を駆けあっちか、こっちか、それともあっちかと手当たり次第に部屋を探していく。ティコに比べ持久力の足りないアニーアに考慮して休みを入れ、かれこれ15分程度が経った頃だろうか――― ようやくと、その場所を見つけるに至った。

 

 

「ここが金庫室か・・・ガッチリ閉まってるが・・・相棒は行っちまったのか?」

「彼らがここであやつらを止めたというなら、私達を待たないはずが・・・っと、あれは?」

「・・・ああ!」

 

 ティコが声を上げ、アニーアが指さしたものに近寄る。

 拾い上げると、それは一本の戦槌であった。

 

 ”スーパースレッジ”、ロイズがここに来る時背に背負っていた、一本のハイテクウェポンに違いなかった。

 

「相棒の武器がここに何で・・・っと、ありゃあ・・・?」

 

 驚く間もなく、彼らには再三の事態が引き起こされる。

 ガガ、っと、ノイズ混じりのスピーカーが音を発したのだ。

 

 耳を凝らしてよく聞いてみると――― それは聞き慣れた、青年期に到達したばかりの男の声、彼の相棒たるロイズの声であった。

 

 彼は耳を澄まし、その音に耳を傾ける。

 相棒の生存に、ひとえに安堵したのだ。

 

「―――グール、聞こ――てるか・・・?聞いとけ、オレは今金庫室の中にい―――」

「相棒!?金庫室の中だって・・・!?」

 

 ノイズ混じり、ところどころが途切れた音だった。

 

 だが聞くなり、今まで冷静さを失わなかったティコがずんずんと、金庫の扉まで寄るとどんどんとその扉を叩く。だがされど金庫室の防爆扉、手で叩いた程度の音はその裏にまで、まるで届くことはなかった。

 

 ゆえに、スピーカーから流れる言葉は彼の意に反するまま続く。

 

「たぶん内側か――出られねー、だからお前に頼んでいいか――― セネカのところまで行ってくれ、セネカは―――る、電子ロックピックがあるからきっ―――と、ここを開けられる」

「・・・あのお嬢のところか、電子ロックピックたぁ・・・懐かしいな」

「頼む、悔しいけどお前だけ―――頼り――だから、あと多分一時間半しか持たねーから―――早く助けに来いよグール・・・もう一度、言うぜ―――」

 

 声のトーンはいつもより小さく、それはきっと、彼が金庫室の暗闇の中で恐怖していることを想像させた。ティコはそれを受けると、ぐっと拳を握る。そして時間を無駄にするのはよそうと、踵を返すとアニーアのことも無視して走りだすのだ。

 

「ちょっ!狩人!?私は―――」

「そこにいて見ててくれ!相棒が何か伝えたら覚えててくれ・・・っ!だからここは、俺に任せろっ!」

 

 

 自分が全て請け負うと、そう宣言して”狩人(レンジャー)”は走りだす。

 紛うことなき全力疾走、通りがかりのMr.ハンディを突き飛ばしてでも、彼は駆けるのだ。

 

 走れば再びエレベータに、そしてそれは階上へと登って行くが今の彼はとても――― その時間すらもどかしかった。

 

 

 




(´・ω・`)でも実はVaultセキュリティアーマーって防刃ベストなんですよね。でもだから剣でぶった斬られて生きてるかって考えるとそりゃさすがに無理だ。

(´・ω・`)それにくらべてコンバットアーマー、特に強化コンバットアーマーにもなると電気にレーザー、爆発プラズマまでかなりの範囲にダメージレジストが入る上放射線抵抗+20なので実はすごい強固なアーマーなんですあれ、NVだとなんかパッとしないカッコ悪さだけどあれ初代からああなんです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。