(´・ω・`)どうも、ぞんぞんびよりと通称される難民を火炎放射器で焼き払うごときアニメに爆撃されて満身創痍になったとおもいきや、ゾンビのごとく身体が動いてしまいお近くの書楽によろよろとイラッシャイマセバリケードを越えて侵入、原作を購入してしまった私です。
たぶん不幸な女の子とか傷とかそういうのが好きなダメなタイプなんだと思います、この小説ではそんな鬱展開はきっとないと信じたいのですが、影響を受けやすいタイプなので時勢によっちゃうかもしれなくて怖いです。
ね、めぐ姉。
「ちっ!抜けたグール!頼むッ!」
「お茶の子さいさいってなぁ!」
パワーフィストを正中線に突き出し、ゴブリンの頭骨を木っ端微塵に砕いたロイズの真横を新たなゴブリンが抜けていく。その向かう先には、足を怪我し身動きを取れなくなった母子だ、されど―――
「ここから先は通せんぼだ、また来週!」
その進路上に立ちふさがるのは一人の男、黒ヘルメットから覗く赤いアイピースはぎらりと輝き、内にコンバット―アーマー、神秘の鎧を秘めそれをトレンチコートで覆い隠す姿はまさに死神、魔人のよう。
ティコは10mmサブマシンガンを片手で構え、射線を感覚でアバウトに合わせると、おおよそゴブリンとの身長差、それにより射線が微妙に下を向くようになったタイミングで引き金をぎちっ、と引いた。
刹那、10mmフルメタルジャケットの嵐が見舞われ、ゴブリンは全身余すところなく穿たれると一瞬、ぐりんと白目を剥くより先に絶命が訪れる。街中での戦闘、しかし外れた弾も射線が下を向いていたために地面に刺し込まれ、流れ弾の一発が前で戦うロイズのパワーアーマー、その足をカンッ、と弾けただけで済んだ。
「うあっ!?グ、グール!あぶねーだろッ!もっと狙えよ!?」
「悪い悪い相棒!まあ相棒なら大丈夫だってな!ほら、なんともない!」
仮にも銃弾、肝の冷えたロイズがゴブリンに裏拳を叩きつけながら振り返り、抗議の声を上げるがティコは笑って弁明する。
事実、銃弾が命中したパワーアーマーの脚部には、かすり傷にも満たない小さな傷しかついてはいなかった。
「ってなぁーっ・・・っと!」
後ろから振りかぶられた鉄斧の一撃をすっとかわす。
パワーアーマーの防御力をもってすればそんなものは蚊に刺されたようなものであったが、避けるよう心がけることに越したことはなかった。そして勢いのままにバランスを崩したゴブリンをロイズは目で追うと、その頭の上から拳槌を叩き込んでやる。
フィストの機構の働かない部位による軽めの一撃であったがそこはパワーアーマーの膂力。軽乗用車並の出力を誇る電源、モーター、そこから来るパワーアシストによる拳槌はもはや上から大金槌を叩きつけたごとくであり、見事、ゴブリンの頭部をすり鉢のように半分にまで潰してみせた。
その金剛力士のごとく圧倒的戦闘に、母子の子供は目を輝かせてはしゃぎ、その側に立っている長身の相棒も年甲斐もなく拍手を送るのだ。だがぶいっと、気を良くしてVサインを送るロイズの後ろ、またすり抜ける影があった。
「あっ!逃げた!?」
「キルレート2:3・・・ならこれでおあいこってな、任せとけ相棒!」
すり抜け、逃げようと走る最後の一匹のゴブリン、ゴブリンの本能としてはいかなる相手にも立ち向かい、そして無謀にも、蛮勇にも死んでいくのが性であったがいくらかはこのように、恐怖心に苛まれる個体もいた。
されど容赦などない、相手を殺しに行くと言うことは、殺される覚悟も必要なのだ。それをよく理解しているならきっと、闘いに来て逃げる相手の背中を追う躊躇はない、腰抜けめ、とあざ笑う感性すらあろう。
大丈夫、こっちの聖なる矢はずっと速く、駆け抜ける身体を追いすがる。
ティコは武器を
瞬間、10mmサブマシンガンも顔負けといった勢いでゴブリンの胴体部に大穴が開き、走っていた勢いのままに転がると斃れるのだ。ティコはそれを見届けるとヘルメットの隙間からふうっと硝煙を吹き消し、くるくると、背後の母子に見せつけるようにピストルを回すと腰元にしまった。
それから彼は、母子へ向く。
そして呆然と竦むだけの母と、戦闘の興奮に幼心にハイになってしまっていた子供に向かってしゃがみこむと、怪我をした母の足を診て、子供の頭を撫でる。元来面倒見のいい彼だからこそ、風貌に似合う威圧感はこの瞬間だけ消していた。
「ボウズ、よく逃げないで母ちゃんと一緒にいたな、偉いぞ」
「う、うん・・・!おじちゃんもすごかった!・・・ああ!お母さんがケガしたんだ!ねえ、早く治療術師さんのところに・・・」
「まあ待ちなボウズ、ちと見せてみな・・・どれどれ」
慌てる男児の頭をまた撫で、ティコはじっくりと母の足をまた診る。
やはり小さな切り傷で、毒を塗られた心配もない、命に別状のあるほどの傷ではなかった。
きっと立てないのはショックで腰が抜けてしまっただけなのだろうと見繕うと、けれど感染症がないとも限らない、早めに治した方がいいと考え母の切り傷に手持ちの、またも以前にアルからプレゼントされた花柄のハンカチを巻き付けるとその身体をひょいと持ち上げる。
「あっ・・・」
「おいおいお母ちゃん、こんな皮剥け男に顔赤くしてちゃいかんだろう、旦那にやってやりな」
「・・・ありがとうございます」
持ち上げられたことが気恥ずかしかったのか、顔を赤くした母を得意のジョークで落ち着かせてやり、そのまま歩いてゆくティコ、彼は歩く最中にもう一度振り返ると、彼の相棒に声をかけた。
「相棒はボウズを頼む!俺は先に治療院に行ってるから、後からついてこいっ!」
「わ、わかった!」
有無を言わせず言い切ると、ティコは駆け足で母を運んでいく、銃を背負う生活を長年経験した者にとっては女一人抱えて走ることは余裕に違いない。それをロイズはぼーっと見送ると、ふと、自身を見つめる視線に気付いた。
「・・・お」
「にいちゃんも、カッコよかった!」
「ありがとなボーズ、このへんあぶねーからあいつらんとこ早いとこ行こうぜ、ほら」
手を伸ばすと、男児はロイズの手を受け取る。
グローブ越しに小さな手が触れ、この小さな命を守り切れたことにロイズは小さな満足感を抱くとすぐ、彼の歩調に合わせてゆっくりと歩み出す。
「にーちゃん知ってるよ、闘技場の”白銀闘士”だろ?おれも前に見たことある、カッコよかった!」
「うー、そいつはどーも・・・また恥ずかしさぶり返してきた・・・ッしかし」
ロイズは苦い顔をし、ふと、後ろを振り返る。
死屍累々のゴブリン、それらは何も、今日久方ぶりに訪れたわけではなかった。
そして時を同じくして――― 彼の相棒も、同じことをつぶやいていた。
『―――どうにかしないといけないよな』
”手紙”を受け取ったあと、ロイズとティコの二人は共にその内容に関して考えをぶつけあい、短い協議ののちようやく結論を出していた。
結果は”乗らない”、以前似通ったことに巡りあいこっぴどいめに遭った記憶が抜け切らないティコは、元々乗り気であった気質がかえって慎重になり、ロイズも元々人命が関わるでもなければ慎重派であったために時勢がよく、意見が一致した。
それに誘い出すための罠にしては稚拙すぎて、なんとも魅力を感じない。差出人の名前も書かれていなければ彼らの言う”真実”とは何かすら分からない、不明確な点が多すぎるのに一人でふらっと行って帰ってくるにはリスキーすぎている。
誰かが攫われたわけでもなく行く理由はなく、手紙は棚の奥にしまわれ陽の目を浴びることはもうないと、思われていた、その時だった。
それからおおよそ一週間ほど過ぎた頃だろうか、しばらく行われていなかったらしいゴブリンの襲撃が、久方ぶりに行われた、のはまだいい。
その散発的な襲撃が日をまたがない頻度で、何度も街パーミットに対して行われ続けるようになったのだ、おまけにそれらは全て、民家や非武装の人間の多いところを重点的に狙う傾向が強く性質が悪かった。
死傷者も増え、警備の人数も増やすために街の負担は増え、そのために早急に税は引き上げられかつ、治安も悪くなっていく。
当然世論はゴブリンの早急な討伐を要求するが、されど彼らの拠点は今なお分かっていない。それに押し寄せる襲撃に対し反攻作戦のために割ける人員の確保も難しい、敵の拠点が分からずしらみつぶしに森を探すことになるのなら、なおさらだ。
それにゴブリンと言えど、確認されている”亜種”、ゴブリンメイジや大型種オーガなどが相手となる可能性もあり、迂闊な人材を用いることも難しい。
連日町役場では会議が行われ、そのたびに誰も彼もがにっちもさっちもいかない状況に唸る。
―――闘技と異界の街パーミットに、暗雲が立ち込め始めていた。
だが、ティコとロイズの二人は違う。
母子を送り届けたあと、ログハウスに戻ってきた二人は沈痛な面持ちで卓に向かい合う。手元に広げるのは例の”手紙”で、互いにその指し示す道の先を想像しては、やはり、といった顔をしていた。
ううむ、と唸った後、ティコから口を開く。
「位置で言いやぁ間違いなく、”西の森”の奥だ・・・ってこた、そういうことだよな相棒」
「・・・一人で行くつもりかよ」
「相手方がそれを望んでるってこた、この散発的な殴り込みはそういう意味なんだろう、狩人ティコをさっさと差し出せって・・・理由はわからんが、でももう一つ分かったこともある」
ティコはくるりと手紙を回すとロイズの方向へ向けるのだ。
そこに記載された一文、それにロイズははっと気付く。
「これって!」
「気付いたか相棒、どうして俺も文字が読めるのかって思ったが、こいつ英語だ。つまり俺の憶測が正しけりゃ、こいつを差し出したのはとんでもなく頭が良くて英語も使えるバイリンガルゴブリンか、あるいは―――」
一拍置く、その間にアルがお盆の上に載せて差し出してくれたお茶を手に取り、ずずっと啜った。
「―――俺らと同じ世界の誰かで、俺らの正体に検討つけてる奴だろうさ」
「俺らと・・・」
沈黙が、包む。
しかししばししたところで、横からぬっと手が伸ばされる。
「・・・うーん、ちょっと貸してみて」
「ん?ああ、テッサ、どうした?」
横合いから声をかけたのはテッサで、手紙に興味を示すとティコから受け取る。彼女はそれを両手で持つと、じっと目を細め一言、魔法の呪文をつぶやいてみせた。
「“エル・ヘルメス”」
瞬間、テッサの青の目がぼうっと光り細めた目からこぼれる。
それが間もない程度の時間続いたあと、テッサもまた、ううん、とうなった。
「何やったんだよ?テッサ」
「手紙にマナの痕跡がないかって確かめたんだ、ボクの家系が持っている魔法のひとつでね、もしマナに適正のある人間が触れたらその属性がわかるっていう使いドコロに困ってたものなんだけど、ううむ」
手紙をテーブルに置き直し、彼女は続ける。
「確かに、”マナに適性のない者”を見分けるのには使えるねえこの魔法、今までは大なり小なり、マナが一切使えない人なんていないし触れたものにマナを残さないなんてかなりの高等技術だったんだけど、つまり」
「つまり・・・?」
「ティコみたいに、一切マナが使えない、影響を受けない人間ってのが他にもいるってことだろうね。もしかするとゴブリンって種族自体に魔法が使えないってことも考えたけど、それはゴブリンメイジが否定してるから・・・いやあ驚いたよ、世の中、でも君達がそういった人種が存在することを証明してるからね」
暗に、彼らの考えを肯定し証明してみせた銀髪の少女は、頬杖をつくと行儀悪くもお茶をすする。それにティコとロイズは再び考えこむと、時間が過ぎる、そうすると出されたお茶も冷めてしまい、それを甲斐甲斐しく赤毛の少女、アルが換えるのだ。
「あたしはダンナのやることにはもう口出しませんよ、そりゃあんまり無茶なら足に縋りたくもなりますけど、でもダンナ頑固で一人走っちゃいがちなところあるじゃないですか。もちろんダンナがお強いことは知ってるんですよ?でも・・・いつでも生きて帰って、欲しいです、わがままかもしれませんけど」
「心配かけて悪いな嬢ちゃん、俺もまだまだ長生きするつもりだよ、今だって・・・嬢ちゃんのうんまい夕飯食べに帰れない日は涙が出そうだ」
「またまたぁ」
「はっはっは」
グールのジョークは人間には理解しがたい、とはウェイストランドでも言われる。傍から見れば惚気にも見える、小さな少女と大きな
「・・・ボクたちもするかい?」
「冗談じゃねー」
「きっついなぁ・・・ま、ともあれ、決めたのかい?どうするか」
頭を下げ撫でるかい、とばかりにするテッサをやんわり押しのけるロイズに、テッサは問いかける。そうするとアルを撫でくりまわしていたティコも会話に戻り、ごほん、と咳をするとううむ、とうなるのだ、アルを膝に乗せたままであったからいかんせん威厳というものには欠けた。
「・・・このさいだ、誘いには乗ってみようと思う」
「グール、でもよ」
「心配すんなよ相棒、可能な限りの武器は持って、ステルスボーイもちゃんとしてくさ、門前払いを食らってもあの頭の悪い小人から逃げられないほど鍛えは鈍っちゃいない。それに俺らにゃ耳寄りかもしれん、賭けてみる価値はあるだろ」
ピン、と一枚銀貨を弾きテーブルに転がすティコ。
それはテッサの元に届いて彼女の細い指にくるくると回された。
「ボクに振られてもちょっと困るかなぁ」
彼女はまた銀貨を弾く、今度はアルの手元に届く。
彼女もまた、くるくると回し、撫でる。
「アタシはダンナの意見を尊重しますよ」
にっと笑ってぴんと弾く、それは綺麗な放物線を描いてロイズの懐に飛び込み、彼はあわわと慌てて受け取った。
視線が集まり、ロイズはそれになすがまま射抜かれるのだ。ロイズはしばし悩む素振りを見せ、唸ったあとようやくようやく、答えを出せたとばかりに手元の銀貨をティコに投げ渡すと、あからさま素直でない表情で答えた。
「・・・わーったよ、勝手に行けよ、でも一日経って戻ってこなかったらオレは勝手に追いかけるからなっ」
「十分だ相棒、さて、なら覚悟も決まったところで・・・何もこの遅い時間に行くもんでもないだろう、確か今日は―――」
ぽんと手を叩き、思い出したとティコは言う。
「あの金髪お嬢に呼ばれたパーティーがあったな、そろそろ時間だろう。ゴブリンの本拠地かもしれん場所だ、あのお嬢に一言お前から願えば助けも借りられるかもしれん、前夜祭がてらに飲めるだけ飲んでおこうや」
「なんでオレから言うとなんだよ?」
「気に入られてるみたいだぜ?」
間を空けると、ロイズはひらひらと手を振った。
「まっさかー」
「女心は男にゃわからんって奴だろうさ、ともあれ、今夜は楽しまないとな」
言いたげなロイズに向かい、二日酔いにならない程度には節制するさ、とは先手を打って、ティコは立ち上がる。それからロイズとアル、銀の髪をくるくる弄っていたテッサに向けてフォーマルな服に着替えるよう催促すると、自身はぐうっと身体を伸ばし、一息ついてからログハウスを出たのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
パーミット一等市民区の街並みの全てが、”戦前の街”や一軒家で埋め尽くされているわけでもない。何者かのいたずらで内装修復中の市民館もあれば、裁判所、商館のような施設も存在し都市機能を十分に果たしている上、値の張る高級商店街はロイズがつい足を踏み入れることをためらうほどだ。
その中にまたそびえる建物が一軒の屋敷、ティコが”金髪お嬢”と呼んで憚らないアニーア・クラ・トゥルスの住まう、上は首が痛くなる三階建て、横は首が振りきれる幅の大きな屋敷。
今宵は窓から灯りが漏れるその大広間において、アニーアの父の生誕を祝う催しが行われ、アニーアの誘いによってフラティウ、シェスカ、バラッドら”紅炎の黒刃”と共にロイズら一行も参加していた。
だが―――
「見世物にされるのが納得いかねー」
「仕方あるまいロイズ、我々のような身分の低い者が呼ばれるということは、つまりそういったわけがあると・・・まあ、我らはすぐに飽きられて良かったではないか」
「まあなぁ・・・バラッド、芸が多彩なばかりになあ」
ドレスや紳士服を着こなし、時に時勢に合わせた奇抜なファッションをする貴婦人らがグラス片手に語り合い、反面並べられた料理は無作法なのか食べる暇がないのが貴族社会というものか、あまり手が付けられることなく悲しいかな冷めてゆくパーティー会場。
久方ぶりの闘技場上がりの者ということで、フォーマルな服は着せられずさんざん演舞を見世物にされたロイズとフラティウは談笑しながら、ロイズは来たら来たで”白銀鎧”、パワーアーマーを着て戻ってこいと突っ返されたことを根に持っているのか料理の数々を貪っている。
だが視線を二人が移せば、彼らが余興として演舞、ロイズの場合全くの無知であったので格闘技の型を手当たり次第に見せて喜ばれた場において、今、というより今までずっと芸に執心しているのは茶髪の優男バラッドだ。
彼はなまじ芸が多彩、顔がいいということで貴婦人方や暇を持て余す紳士の人気を買い、休む暇なくずっとジャグリングだの手品だのを披露し続けていた。その中にはロイズがつい教えてしまった、アメリカ産の指が消える手品だのがあったから妙な罪悪感も感じたがたぶん気のせいだろう。
「消えるコインとか教えてやったら一稼ぎできたかな」
「今度教えてやってくれ、君と会えなくて寂しがっていたよ」
「・・・男に好かれるシュミはねーんだけどなー、まあちょっとオレもたまに話したかった」
三本足のターキーを適当に切り崩しながら、ロイズは言う。
フラティウもまた手頃な食事に手を付けると、ロイズははっと気付いたように話を切り出した。
「そういやフラティウのおっさん、明日明後日って空いてるかよ?手伝ってもらいたいことがあってよ」
「警備隊としての仕事があるのだが、まあ君の頼みならたまの休暇くらい申請してもみよう、急であるが我らはどうせ臨時であるからな、融通が利く・・・して、いったい何の用事かな」
「ちょっとよ・・・」
ひと通りロイズはフラティウに事情を説明してみせる。
話し終える頃にはフラティウは苦い顔をしていたが、その顔はどちらかというと、ロイズら二人に対して向けられていた。
「・・・罠かという可能性は考えなかったのか?」
「そうかもしれねーけどよ、ゴブリンの本拠地が分かってオレらも知りたいことがわかるかもしれねービッグチャンスだって思うんだよ。だからおっさんらに協力して欲しいんだ、あいつがもしヘマして帰ってこなかった時――― 取り返しに行くのに一人じゃ心細い」
「ふふ、君が弱音を吐いてくれるとは、信頼されてるということかな」
ぎゅっと拳を握って言うロイズに、フラティウは苦笑して言う。
それから彼はにっと、強面の顔の口角を上げ、ぐっと親指を立てサムズアップして彼に応えた。
「任せてくれるといいロイズ、この白剣もしばらく使う機会がなく悲しんでいたところだ」
「ありがとよおっさん、あんたを誘えば胸ペタもバラッドもついてきてくれるんだろ?それだけいりゃ百人力だよ」
「まあ、シェスカは嫌だと言ってもついてくるだろうな、我々の出る幕がないのが理想なのだろうが、万が一の時は任せてくれ」
背中にのぞいていた、ぎらりと輝く白銀の剣。黒剣、呪い剣ベルセルクの代わりに彼が手にしたそれは会場を包む魔道具の絢爛な光によってなおのこと迫力を増し、男心に猛るロイズの喉をごくりと鳴らす。
当のシェスカはというと、ああ見えて身分が優秀なので多くの貴族方に囲まれているのだ。髪色通りの赤かと思えば紺のドレスで意表を突かれたが、それが勘違いされたのか、ふと目が合うとつんと顔を逸らされる。
だが彼はそれに安心を感じると、彼に手を振りその場を離れた。
「じゃ、オレグールに伝えてくるから、また後でなフラティウのおっさん」
「ああ、我もまた・・・おや貴婦人方、何用か・・・ぬっ、そんなに触ると危ない―――」
近寄ってきた物好きの貴婦人方に取り囲まれたフラティウを後にし、ロイズは部屋の端に立っているティコに寄ろうとする。
だが直前、彼の前に立ちはだかった人影ひとつ、彼は足を止められた。
腰に手を当てなんだなんだと、見ればそれは赤いドレスに金の髪をポニーテールにまとめ、薄くのった化粧によって端正な顔つきはますます艷を増す一人の女性。扇子で口元を隠す姿は上品で、近寄ることも神聖な気品を漂わせる。
嗅げば漂うは濃厚な女性の香り、フェロモンとも言うべきか。
見た目との相乗効果が生まれるそれは男の心をがっしりと掴む―――
「―――アニーアじゃねーか、そういや」
「主催の娘なんだがなぁ、まあ君だから許すとするか」
ロイズの無礼な振る舞いは本来叩きだされてもおかしくないものだが、アニーアの度量によって許される。それをつゆ知らず、ロイズは笑って彼女の側に寄るのだ。
アニーアは少しだけ赤くなり、扇子で顔を隠すと彼に話しかけた。
「どうか、楽しんでいるか?そうあるものでもないから、今宵は贅の限りを尽くした料理や酒を集めたのだが」
「酒はちっとオレ、弱すぎて何やらかすかわからないからやめとく・・・あっ、でも料理めっちゃうまかった!あのギョーザみたいな奴とか肉汁たっぷりだし、ターキーも皮にじっくり味練り込んであるし!あとで作った人教えてくれよ!」
「ふふ、酒で暴れるとな・・・君になら何をされても」
「え?」
「え?」
互いに首を傾げ、きょとんと見つめ合う。
それから互いにまた、何もなかったと察すると会話を続ける。
「ま、まあそれは良かった。見世物になったことは私も想定外だったが、父上がどうしても見たいと言ってな。謝ろう、ロイズ君には客人として楽しんでもらいたい、部屋を貸すから脱いできたらどうだ?その鎧では動きづらかろう?」
「もうパワーアーマーは身体の一部だし、このさいだから訓練がてらにこのまま動いてみっよ――― っと、アニーア、そうだ、頼みたいことがあったんだ」
「ロイズ君は私に?はて・・・ふふ、念願だな、なにかな、君のためなら骨を折ろうぞ」
「いや、オレのためっつーかさ」
ロイズは目を、部屋の端で突っ立っているティコに向ける。
するとつられてアニーアも彼に視線を映すのだ、気恥ずかしいのかドレスコードに見合う服のないことに気後れしているのか、こっそりと彼は酒瓶だけを手に、まるで警備兵のフリでもしているように本物の警備兵の隣で並びたち、彼を酒の誘惑に誘っていた。
「・・・あいつが、ゴブリンの本拠地から誘われた、かもしれねー」
「・・・並々ならぬな、それが事実なら、明日にでも―――」
「いや、明日じゃなくて明後日にして欲しいんだよソレ」
「―――なぜか?」
アニーアの疑問はもっともで、街の怨敵を征するまたとない機会に待ったをかけられることである。
だが実際のところ、ロイズからの懇願であったから彼に思いを寄せるアニーアは無条件に信じただけであって、彼女が彼の父親にこの情報を基に掛けあっても兵を動かすことは叶わなかっただろう。
ロイズはアニーアの質問を受けると、くるくると指先を回して悩ましく答えた。
「あいつが誘われたからよ、とりあえずは誘いに乗って一人で行くって聞かねー、でも罠の可能性もあるから、もし戻ってこなかった時に、その時に」
「・・・私の力を以って、兵を動かして欲しいと、そういうことか・・・なるほどね、利用されるのは嫌いだけど、ロイズ君ならまあいい。とはいえ私とて動かせるのは私兵と、動くかわからないが騎士団をけしかけることくらいだ」
「フラティウのおっさんたちも協力してくれるっつーし、それで十分だよアニーア、お前が首を縦に振ってくれて良かった。いいダチ持ったよな、オレって」
「友達、か」
―――そのひとつ上になれないのは、お互い様か。
アニーアはつい思ってしまい、苦い笑いがこぼれる。
そうしてお互い納得すると、ロイズはまた、場を離れようとするのだ。
しかし、アニーアはまだ話があるというように、彼の手をとって引き寄せた。ロイズはパワーアーマーを着ていたために重く、かつ身長差があったために耳打ちしようとしたアニーアは、彼にこれでもかというほど寄る形になってしまう。
その姿はまるでアニーアが、ロイズの頬にキスでもするかのように見え、周囲の面子は囃し立てるも遠くで見ていた彼の父は顔面蒼白。当のロイズとしても赤くなるほかなかったが、しかし、アニーア自身はこれでもかというほど、真剣な顔つきだった。
「―――アニーアッ」
「誰にも聞こえてはならないからな・・・少し耳打ちしたかった、聞いてくれロイズ君」
目つきは鋭く、ちらりと周囲を伺う。
見ようによっては長いベーゼだから、止めに来る人がいるかもしれないと、アニーアは言葉を早めた。
「君達が求めている、最下層への鍵・・・かもしれないものを、父上が持っているのを見つけたのだ、以前な」
「え!?カ、カードキーとかパスコードとかそういう」
「私達が普段持っている、ハンディ達が”かーどきー”と呼んでいるものと同じ形をしていたから多分そうだろう・・・場所は”28番目の金庫”第一階層、父上の部屋だ。難攻不落だよ、周囲を警備兵が固めている」
「・・・じゃあどうしろってんだよ?」
突然の秘密の暴露、その意図も見えない行動に、ロイズはつい語気を強く問うてしまう。
「排気口の留め具を外しておいた、そこから侵入すればいい、金庫の番号は”4269”で開けられる、鍵はない」
「・・・ダクトを通って行けって?誰が・・・」
「いるではないか、可愛らしい娘が」
「・・・あ」
アニーアが向ける視線の方向にロイズも目を向ければ、見えるのは小さな赤毛の少女。
短い赤毛はほどよく女の子っぽさを残しており、全体的に赤めの衣装はこの場に合わせて新調したのだ、それなりかかったがそれなり様になっていて、テーブルの料理をこそこそとひったくっては食べていなければそれなりいいとこの娘だと見られただろう。
料理を運んでくるコックや給仕に料理の秘訣を子供ゆえの幼気さで聞き出そうとするあざといアルは、少し離れたところで何人もの紳士の下心に囲まれるテッサとはまた対照的な形で、この場を楽しんでいた。
「大丈夫なのかよ」
「からくり人形どもは融通が利かん、裏方に行かなければどこにいようと”かーどきー”・・・手形を持っていれば通れると来た、だから危険はないだろう。明日の夜7時から9時までまた催しがある、その間はいないから、な」
「・・・なんでそこまで、オレたちに?」
「なんでって、それは―――」
―――言ってしまおうか。
乙女の心を奥にしまいきれず、アニーアはロイズから離れる。
この場だ、それに思い切ったことをしてしまったのだ、この際は―――
アニーアの心がゆらぎ、唇を無意識的に動かしにかかるのだ。
「君の―――」
言いかけた唇が、直前で止まり、また動き出そうとする。
その瞬間はとても長く―――
―――破砕した正面玄関の音に、かき消されるには十分だった。
「うわっ、うわぁぁぁ!?」
正面玄関からの唐突な闖入者、否、侵入者、それは小さな小人の列で手には思い思いの獲物を持つ。
紛れも無くゴブリンだ、警備兵や居合わせていたフラティウが瞬時に応戦し、巨剣の振り回しによって一刀両断されたゴブリン達は何者の命を奪うことなく、戦果を掲げることなく両断され、場を血に濡らす無礼を働く結末に至る。
だが、
「ぐううぅぅぅぅっ!?」
野太い、フラティウの声が苦悶に疼く。
見れば彼の巨体は受け止めた衝撃によって、受け止めた巨剣をびぃん、と震わせ大きく地面を擦り吹き飛ばされていた。
見れば、それと対面していたのは更なる巨体。
ゴブリンの比ではない、人間とゴブリンの対比がそのまま人間を下位に置いたかのように転化するほどの巨体だ、全身は装甲とも呼べる鎧にまとわれ、間からはゴブリンと同じ緑の、分厚い皮膚がのぞく。
そう、ゴブリンの比ではない、その存在が更なる進化を遂げた稀有な姿―――
「ヘビーオーガだっ!!」
誰が叫んだか、それがその名前だった。
だがなによりも、別の誰かが叫んだ、その存在がこの場にある意味、
「―――なぜだ!なぜ!」
外には騒ぎの一声すら聞こえなかった、街の強固な防衛戦からは何の連絡もなかった、この鈍重な巨体が街のど真ん中を闊歩しているというのに、誰もそれを知らせに来なかった、とどのつまり――― 外の世界では”戦いすら感知されなかった”のだろうか。
即ち、
「・・・“誰も気付かなかった”!?」
その答えは誰にも分からず、更に別の通路からもゴブリンが侵入してくる。
退路を絶たれ戦場と化した場に虚しく響いた叫びに、答える者はいない。
巨体の振り下ろした巨大な木槌が警備兵の男を盾ごと叩き潰し、真っ赤な流血をカーペットで汚す。後ろにかばわれていた身なりの良い参加者も哀れ、その次の目標へと舌なめずりを受ける立場にされるのだ。
振り上げられた木槌、腰の抜けた男。
叩き降ろされる一撃を止めるものなど―――
「だっしゃああぁぁぁっ!!」
―――一人、いた。
ガキッ、と金属板を叩きつけたごとく音が響き、刹那、木槌が中空で受け止められたことを誰もが認識できるようになったタイミング、横合いから叩きつけられた拳が木槌を退かし、次いで駆動する鋼の拳がヘビーオーガの、その筋肉質に盛り上がった土手っ腹を一撃、生で叩き込む。
ロイズだ、T-51bパワーアーマーの膂力で木槌を押し返した彼が正面から闘いを挑んだのだ。
「おっさんここは任せて逃げろっ!守んのはあいつに任せるから!」
「ひいっ、ひい・・・助かった青年!」
背中にかばった、腰を抜かした男が生き残りの警備兵に肩を貸され逃げ、大広間の端に集まっていくのを目で追う最中、ゴブリンがそれを追いすがろうとし駆けるのだ、ロイズが裏拳で一匹の鼻先を潰し殺しても、格闘だけでは止めるに難い。
だが、刹那、弾ける閃光と炎が噴出した瞬間、駆けたゴブリンが全て穴を穿たれ斃れる。
パーティーの参加者達を背に守り、銃を引き抜いていたティコがレンジャー・セコイアの大口径弾を得意の
「気ィ抜くなよ相棒っ!」
「そっちは任せたっ!あのデカブツは任せとけよ!」
「あいにく
互いに阿吽の呼吸で位置を任せ合い、獲物を奪われたことに怒り心頭なのだろう、ロイズは兜の隙間で怒りの目を見せるヘビーオーガとメンチを切る。その巨体は彼が見上げるほどに大きかったが、しかし心は、意志はちっとも圧されていないのだ、握る拳は少し空け、右手を前に、左手を胸元に。
彼が本気を出す時に見せる、ボクシングスタイルへの構え。軸足は乱さないようにし、踏み込む足はいつでも貴様の顔を打ち上げられるのだと、挑発するようにぐっぐと動かすのだ。
ヘビーオーガが木槌を思い切り振り上げる。
ロイズはそれを開戦の合図とすると、演舞のためにヘルメットをかぶっていなかった、急な闘いに臨んだその姿のまま、にっとヘビーオーガの大口開けた憤怒の表情によく見えるように笑って踏み込んだ。
「―――オレに殴られたい奴から来なっ!!」
決め台詞を容赦の振り切りとし、彼は跳ぶ。
重い一撃を避け叩き込んだ一撃、それは更なる闘いへのゴングとなった。
※1
ファニング…引き金を引いたまま、撃鉄を起こしまくり連射を行う連射方法。いかんせん命中精度に欠ける。ほとんどパフォーマンス用だが、西部劇時代の数撃ちゃ当たるとも言える。
公式で初代~NVまでの紹介ページが新たに作られたみたいで。
これで多くの人が旧作に興味を持ってくれると幸いですが、買うならSteamでたまーにセールをしているのでそこが狙い目です、通常でも十分安いですけど。