トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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(´・ω・`)バイトの人手が足りないって動員されてたわけで
(´・ω・`)しばらく書けなかっただけで実はこれ一日で書き上げました。



15762文字です。


第三章:西の森を行け 33話『ふたつめの真実』

 

 

 

「コーヒーはいかがかな?機内に残っていた貴重品だが、せっかくの客人だから出そうと思うのだが」

「・・・ミルク、あるかい?」

「はっはっは!見た目に似合わず甘党かティコ!待っていろ、雌モートから搾りたてのものを持ってこよう」

 

 実にフレンドリーに、嬉しげに、輸送旅客機から外へ出て行くロンサムジョージ。その実に奇抜というか、なんとも拍子抜けする振る舞いにティコは頭がこんがらがるような気分になって、今一度、彼らの”種族”のことを思い出した。

 

 

 

 ―――スーパーミュータント。

 

 かつてのアメリカが創りだした、生命を理想的な方向に強制進化させるという冒涜の極み、強制進化ウィルスこと”FEV”。西海岸で行われかけた人体実験はかつての英雄、B.O.Sの創始者たるロジャー・マクソンによって食い止められたものの、東海岸、Vault87において戦後行われた実験に続くように、西海岸でも長き時を経てそれは人間を蝕んだ。

 

 ウェイストランドで最も知られているのは恐らく、西海岸、かつての”ザ・マスター”によるスーパーミュータント軍だろう。

 

 かつて、偶然にもFEVによって超越生命体となったザ・マスター、リチャード・グレイはFEVにより変異した生命体を理想的な生命体と考え、漂流者を長きに渡り拉致、投与したFEVによって強靭な肉体を持つスーパーミュータントへと作り変えることで戦力を増強、さらなる戦力補強のためにウェイストランドへ手を出し始める。

 

 結局それはかつての英雄、そしてティコのかつての相棒、”Vaultの住人”によって食い止められ、ザ・マスターの死によって終結を迎えたものの、それでもウェイストランドに残った爪痕は今なお大きいのだ。

 

 旧式のパワーアーマーを引きちぎる膂力、弾丸を通さない強靭な表皮、3mを超えるまでに発達した頑強な骨格、個体にもよるが聡明な頭脳も持ち合わせ、緑色や黄色、灰色の体色は人間のそれと大きく変わったことを知らしめる。

 

 

 細胞構造は人間であったころとよく似通っているものの、有糸分裂が通常より15%ほど早く終わりかつ、劣性遺伝子を完全排除したDNA鎖は病や毒に対し即座に免疫を作り出しそれらによって命を落とすことはない。

 細胞分裂と細胞の死がほぼ釣り合っているために事実上の不老も獲得していることも目に余り、かつての”ザ・マスター”の選民思想を引きずり人間に牙を剥いているスーパーミュータントは今なお多数存在する。

 

 唯一、不老不死の代償として与えられた”生殖ができない”という点を除けばまさしく理想的な生命体と言えよう。ティコの目の前でミルクを入れたコーヒーを手に持って、陽気に鼻歌を歌っているのはそんな生物なのだ、ほどよい緊張感が彼の神経を張り詰めさせる。

 

「まあ、そう気張らなくても構わんぞティコ、私は君に対し危害を加える予定は今のところないのだからな。君が得意の44口径銃を抜き向けてでも来なければ、君が私を茶化そうと拳一つ上げる気はない」

「リサーチ済みってわけか、だが残念、44口径じゃなくって45口径さ、ビッグだぜ」

「45口径のリボルバー?珍しいものを使っているな、ティコ。私は.308口径のライフルが昔は得意だったのだが、最近では指が引き金に入らなくてな・・・やれやれ、この姿もいいことばかりではないよ」

 

 はは、と笑い、自身もまたブラックコーヒーを口に含むロンサムジョージ。彼はそれにふうっと息を吐くと、心底リラックスした様子を見せる。

 

「うむ、やはり美味い・・・これを毎日飲んでいた頃が懐かしくて仕方がない」

「相棒は毎日飲んでるぜ、Vaultで製造されたとかで、真っ黒いのをゴクゴクとな」

「ほう!コーヒーの生産プラントもあるとは・・・これでもう一つ、あの街を手中に入れる理由ができたな!喜ばしい!」

 

 手をぱんぱんと叩いて、喜ぶロンサムジョージ。

 その顔をまた、ティコは見る。少し前までよく見ていた歯がむき出し、顔はしかめっ面のそれとは違い彼の顔は、おそらく人間のころの面影を残している。”成功作”であるスーパーミュータントの特権だった。

 

「お前もあの街をどうこうしようってタチか、やっぱり”試練”だとか”取り戻す”だとかなんともわからん御託を並べてる、あのギギって奴の同類かい?同じウェイストランドの出身としては、そこんとこふかーく聞いておきたいもんだな」

「ウェイ・・・ストランド?」

「・・・ああ、昔アメリカだった場所ってのは、今じゃそう呼ばれてる」

「ふむ、“荒れ地”とはさながら的を射ているのだろうな。なるほど核の炎はあのあと全土に及び、その結末はアメリカ、その終焉というもので幕を閉ざしたと・・・なるほど、悪いニュースだが、いいことを聞けたよティコ」

 

 物思いに耽るようにして、じっと目を瞑るロンサムジョージ。

 ティコはそれに何も言わずに待つ。

 

「ふふ、忘れがたきふるさとももうなし・・・か、ある意味では振り切れた。さて、では君の聞きたいことを教えていこうか、時間はたっぷりあるのだ――― まずは、時を遡って私がかつて脆弱だった頃の話からしようか、子供の頃の話のようで少し気恥ずかしいが」

「時間はたっぷり、ねぇ」

 

 ティコとしては、かれこれ半日近く歩いているためもう半日経って朝が来れば彼の相棒と、彼の相棒の協力者達が押し寄せる算段になっている。だがいかんせん、”手紙”に書かれた場所の更に別の場所に自分がいるとなったらどうすればいいか。

 

 そのあたりの算段も立てなければならない分、少しだけ考える時間を設けるに越したことはない。ティコは快いふりをして、話を聞くことを彼に伝える。

 

「まあ頼む、ゆっくりでいい、久方ぶりに長話も悪くないさ」

「そう言ってくれると嬉しいよ、ゴブリン達に昔の話をする時はいちいち噛み砕かなければならないからな。細かい説明抜きに話ができる相手は実に何年ぶりか・・・ごくたまにここを見つけ出してくる腕利きがいるが、皆死んでしまったからな」

「おーこわ」

「スタンフォード監獄実験、というものを知っているか?ティコ、特定の状況に置かれた人間はその状況にあわせた精神構造に精神を変化させる、ということを証明したものでな。私もそう、ゴブリンの指導者として居座る内にそれに相応しい振る舞いをするようになったというだけだよ」

 

 地の性格は当時と余り変わっていない気がするが、と笑いながら言う。

 

「では話そうか、私はかつてあの”大迷宮”、Vault28のメンテナンスを行う人間として働いていたVault-tecのしがない下請け技術者であった。まあ給与は悪くないし待遇もそれなりだ、このVault28は設計上立地が少し街と離れていたから通勤は面倒だったが、それでもいい暮らしだったよ」

 

 そのせいでこんなことになったんだろうな、とひとりごちるロンサムジョージ。彼はそのままにっと笑い直すと、話を続ける。

 

「その日、運命の日と呼ぼうか。私は十数人の技術者と共にメンテナンスのためにVaultに入った、なまじ大きいVaultであったからそれでも一日かかる作業でな、人数が必要だったのだ・・・それが外界との別れとなるとは私も思わなかったさ」

「・・・その日が」

「そう、核が落とされた日であった。だが不幸にも、このVaultへ向かう途中の道が崩落してしまっていてな、人々はこの場所へ避難できなかったのだよ。結果、”居住者”となったのは我々十数名と他に仕事のため入っていた幾人かの人々、それだけだった、が―――」

 

 ぴんと指を立て、天を仰ぎ見る。

 ティコはつられて天を見てしまい何もないことを確認すると、また頬杖をついた。

 

「―――そこで”異変”が起こった。恐らく道を逸れた核がこの小さな街郊外のVaultに直撃したのだろう、一瞬の無重力のあと――― このVaultもまた、虚空を彷徨い世界の壁を超えた、我々と同じ放浪者(ワンダラー)となってしまったということだ」

「最悪の出会いだな」

「ああ、全くだよ。だが悪いことばかりでもなかった、我々が強烈な振動に頭を打ちながら苦心して到着したのは辺鄙な田舎村、パーミットでな、そこでだ、我々が見たものは大量の”怪物”、まあ今では私も大概怪物なのだが・・・」

「ちげぇねえ、夜中に子供が見たらちびっちまう」

「ふふ、そうならないようゴブリン達にはたびたび姿を見せているよ、でだ・・・」

 

 ロンサムジョージは話を続ける。

 

「これはSFに造詣の深い私の予測なのだが、あの場所は時空が乱れていたのかと思う。恐らくだが”時空の裂け目”とは核のような強烈なエネルギーが発生した際に偶発的に起こる時空間のねじれのようなものなのだろう、今でもアメリカに・・・ああいや、ウェイストランドだったか、そこに小さな裂け目が起こっているのはかつての核戦争という膨大なエネルギーの流入を皮切りに、その余波が今なお2つの世界をつないでいるということなのだろう。まあ、今は時の乱れは無いと見える分マシだが」

 

 サムライやカウボーイが来るなら歓迎なのだがな、とまたジョーク。

 ティコもそれには少し受けがよく、共に軽く笑った。

 

「我々が訪れたパーミットの村は、時空の乱れにより恐らく”今”のウェイストランドとつながっていたのだろう、戦ったよ、おびただしい数のミュータントと。幸い備え付けられたおびただしい銃器のおかげで我々は生き延びた、そして救助したのだ、何百人もの村人達をな」

「・・・なるほど」

「つまり、こう言っては何だが彼らの先祖を救ったのは我々だ、理解してくれるだろう?・・・だが、この話にはずっと続きがある、もっと血塗られた、過去の伝説とも呼べる生臭く悲しさしか残らない、かつてを生きた人間達が封じ込めた話がな」

「そいつがあの金属ジャラジャラのゴブリンの言ってたって?」

「そうとも、もっとも彼は又聞きした伝説を語る語り部でしかないから現実味には欠けるだろう、だから私から話そう、当時の、血生臭い”事実”を」

 

 ロンサムジョージはにっと――― にやりと笑い、手を組んで膝に置いた。ティコも、足を組み替えると頬杖をついた腕を反対に組み替える。

 

 それからロンサムジョージがまたコーヒーを淹れ直したあと、ミルクをどばっと注がれたミルクコーヒーを渡されたティコがその冷めた濃厚な牛乳臭に少しばかり、これは多すぎると言わんばかりの目線をロンサムジョージに送る。

 

 彼なりの気遣いだったのだろうか、ヘルメット越しの視線が通じなかったようで、仕方なしにティコはそれに口をつけた。

 

「Vault28は”楽園”だった、最初こそ食糧の確保に苦心したものだが、次第に何らかの生産プラントを備えていることが明らかになり働かずとも十分な食事が得られ、娯楽施設は揃い住居も健康も全てが揃っていた。・・・ゆえに外を追われ内部に住まうことになった数百人の村人たちは自然とカーストを作っていったのだ、一極集中した各種施設、それに近しい者ほど高く、遠い場所に住む者は低く」

「・・・思えや、今もそんな気がしてたな」

 

 自分の相棒やその仲間達が、それらとそれとなく遠い場所に住まわされていたことを思い出し説得力を感じる。彼はまた頬杖をつき直すと、話に耳を傾けた。

 

「―――だが、反面”武器庫”や”施設中枢機能”はそれらと離されていた・・・思えば、”戦え”ということだったのだろうな。Vault-tecと言う親会社のことはいけすかないトップエリートの集まりだと思っていたが、もっと疑っていれば良かったのかもしれん」

「続きが気になるな」

「ふふ、すぐに話すさ、そう急かすな・・・村人達との生活が続き、言葉も話せるようになってから―――」

「待ってくれ、言葉を話せるようにってのは・・・」

「うむ?そりゃあ違う世界の言語なのだ、覚えるほかなかろう?いきなり話せるようになるってわけでは・・・」

 

 ロンサムジョージの言葉を受け、ティコは椅子から身を乗り出して待ったをかける。彼が言うとおりなら、200年前の時点では異界、”ウェイストランド”から現出した人間は言語を覚える必要があったということなのだ。

 

 では、自分たちは一体。

 ティコの顔のしわがまたひとつ増える。

 

 世界というフィールドがそんな好都合な翻訳機を用意してくれるだろうか、世界がそんなに都合のいいものであろうか、もしかすると――― 何者かの介入があった、その結果なのかと、そんな疑問を残して。

 

「・・・どうした?ずいぶんと考えこむ様子だったが、質問があるなら何でもいいぞ?」

「ああいや、大丈夫だ、こっちの話でな。続けてくれや」

 

 心配そうに覗きこむロンサムジョージに、手を振って返す。

 ロンサムジョージはそれを受けると、またゆっくりと話を続けた。

 

「ふむ、では・・・一年以上が過ぎた、そんな頃だった・・・Vaultの機能が停止したのだ、”半分”な」

「半分?なんでまた」

「それを私に答えろというのは中々手に余る、恐らく”メインフレーム”までたどり着ければ真相を知ることが可能なのだろうが・・・だが問題はその後の話だよ、牙を剥いたVaultという牢獄が、我々に課した試練、その顛末だ」

「・・・それが」

「そう、”緑の霧”さ」

 

 ぱあっと、身振りで霧を表現するロンサムジョージ。

 ティコはそれに頬杖をつくのをやめると、やや前のめりになった、興味の対象だったのだ。

 

「セキュリティボットの機能が停止し武力を失った彼らがおおよそ武器庫を開けたのだろう、それがきっと引き金であったのだ、すべての”条件”を揃えるためのな。その瞬間、機能の半分が停止したエリア、そこで機能復旧のために奮闘していた私の頭上から”緑の霧”は降り注いだ。同じようにその階層にいた村人たちも全てがだ、とたん―――」

 

 ふうっと息を吐き、目を瞑る。

 ロンサムジョージはひとしきりそうしたあと、ようやっとティコと目を合わせて話し始めた。

 

「―――私の身体に変化が生じた、気を失うほどの激痛が伴い、意識も薄れかけていく最中で自身の肉体が更に大きく、強靭に変化していくのを感じたのだ、やがて・・・今の姿になったのを鏡で見届けたのはどれだけ時間が経った頃だっただろうな」

「スーパーミュータントへの変化ってこったか・・・”潤滑(ディッピング)”は痛みを伴う、っては聞いた」

「スーパーミュータントか、響きがいいな、そう呼ばせてもらおう。そしてだ、周囲を見渡した時にそこにいたのは村人達ではなく・・・ゴブリンだった。そうだ、ゴブリンは”緑の霧”によって―――」

「・・・FEV」

「ぬ?」

 

 ティコが言葉に差し込むと、ロンサムジョージの話がふっと止まる。

 

強制進化ウィルス、(Force Evolution Virus)FEVだ、そう呼ぶのさ」

「なるほど、進化か!それはいいことを聞いた!私も時折自身の身体がどのようなものであるかに疑問を抱いていたのだが・・・”進化”であるなら響きがいいな!ははは!なるほど人間を超えた者が私であったか!」

「ずいぶん嬉しそうじゃねぇか、つまりアメリカはお前らみたいなのを作る研究をしてたってこったぜ?恨みゃしないのかよ」

 

 心底嬉しそうで、ティコも反応に困る。

 しばし笑った後、失礼、と一言添えてロンサムジョージは話を続ける。

 

「・・・君も、浅からぬ因縁があると言うことかな?」

「まあ、ずいぶん前の話だがな・・・お前みたいのを何十何百と殺して回った頃があったって話さ」

「おぉ、それは実に恐ろしい話だ。君を敵に回してはいけないな!はっはっは!」

 

 言いながらも、ロンサムジョージにはちっとも怖がる様子がない。

 

「私は愛国者でね、アメリカが戦中危機に瀕していたことは知っているかな?ああ、知らないのか。あの頃のアメリカは酷かったよ、民間人に銃を突きつけて”志願兵”にするほどに兵士は足りなくなり、石油資源は枯渇して深刻なエネルギー不足になっていた。だからこそアメリカは戦争に勝ちうる兵士が必要だったという話なのだろう?恨みはしない、悪いのは敵・・・中国だ、そうだ」

「中国ってのがどんな国だったのかはよく知らんが、お前さんも大したタマだねぇ」

 

 やや呆れ顔でティコは答える。

 

「まあ慣れだ、話を続けよう――― ゴブリン達も自分たちに何が起こったか、理解できなかったのだろう。彼らは見た目巨人である私に恐れおののいたが、話を聞いてくれた、そして互いの状況を確認し同じ境遇に陥った村人たちを探しに行ったのだ・・・実に村人の半数がゴブリンと化していた、涙を流す者もいれば怒りに震える者もいた、そして混乱する彼らは”指導者”を求めたのだ・・・当然、私になった」

「続けてくれ」

「ふむ、そうして集まった彼らを率い、私は更に地下へ潜った、彼らと同様姿を異形に変えられた者がいれば助け、無事であった者がいれば・・・状況をより良く知るために・・・思えばそれが間違いであったのだ、私は今でもその選択を悔やんでいるよ」

 

 うなだれ、心底悲しむ素振りを見せるロンサムジョージ。

 彼は顔を上げるが、悲痛なことを思い出すその表情のまま続けた。

 

「手分けして人々を探した・・・しかし時間が経つに連れ、聞こえてきたのは銃声と叫び声だった」「ああ・・・なるほど」

「分かるだろう?彼らは我々を見た瞬間、剣を振り上げ銃を握ったのだ。話している言語は同じで耳を傾ければ話は分かるはずだったのに!乱闘が始まった後、私も金庫室へ辿り着きそこでかつての同僚たちに出会ったさ、だが―――」

 

 ロンサムジョージは鎧の肩口を外し、見せる。

 そこには薄く、銃槍が刻まれていた。

 

「今なお消えない傷痕さ、この身体になってもな。元々は私がお気に入りにしていた.308口径の銃弾だったが、まさか使われるとは。彼らは撃ち込んだのだ、まあ無理もない、だから私は言葉をかけ立ち止まり、必死に説得をしようとした、だが」

 

 更に鎧を外す。

 彼の身体には、無数の銃槍が刻まれていた。

 

「“なりたて”だったから今でも傷が治らないのかもな、彼らは9mmや10mmを立て続けに撃ち込んだよ・・・だが豆鉄砲だった、この肉体には銃弾すら通らないのだ。だが痛くて、怖くて・・・そして悲しくて、それから・・・怒りが湧いてきた。なぜこれほど歩み寄っているのに銃を向けるのかと、そして―――」

 

 ぐっと拳を握るロンサムジョージ。

 ティコはその素振りで既に察していた。

 

「―――そこから先は鮮明に覚えている、頭骨を握りつぶし、内臓を引きずり出し・・・全員を無残に殺した、思ったよ、この身体はこうも簡単に武装した人間を殺せるものなのかと。それからは湧き出る怒りのままに一直線だ、銃と剣先を突きつける者達に対し、私はゴブリン達を率いて戦いを挑んだのだ」

 

 

「簡単に追い詰めることができた、彼らが隔壁を閉じて閉じこもることがなければな。私は・・・ははっ、恥ずかしながら指が大きくなってしまったために上手くタイピングができなかったものでね、時間がかかりすぎてしまった・・・この身体もいいことばかりではないな、本当に・・・」

 

 

 ロンサムジョージはふうっとため息を吐く。

 その素振りには後悔と、無力感、そのどちらもが篭っているような気がした。

 

「恐らくメインフレームを操作したのだろう、セキュリティボットが再起動したのはそれからだ――― 当然、我々は”異端者”としてレーザーを向けられたよ。完敗だった、館内放送を駆使しゴブリン達に呼びかけ、あと一歩のところで我々はVaultを追われてしまったわけだ。そして何日も森をさまよい歩き――― この場所に辿り着いた」

「で、それからは今に至ると・・・」

「まあな、故にゴブリン達はあの場所を憎み、同時に恋焦がれているのだ。先祖の無念を晴らすべく、あの場所を――― 聖地を手にすることを悲願として200年の時を経た。私もその一人だよ、かつてのアメリカを感じられるあの場所に、かつて正式に迎え入れられたのは他でもない我々、最後の生き残りである以上事実上私一人だ。ゆえに手にする権利があると思っている」

「つーてもよ、時の流れは残酷だ、あの場所はきっと今を生きる人間達が今って時間に取り込んだ風景の一つにしかならん。どんなに足掻いてもあの場所はそれでしかないんだよ・・・分からねぇか、スーパーミュータント」

 

 諭すように、言う。

 ロンサムジョージは言葉を受けるも、すぐに返した。

 

「それなら我々の時間にしてしまえばいい・・・ところでティコ、ゴブリンのこと、もっとよく知りたくはないか?」

「急だな、だが興味が無いと言いやぁ嘘になる」

「それでこそ話し甲斐がある・・・単刀直入に言うと、彼らは”この世界の人間”の進化系だ、故に次世代の生命体とも呼べる性質を手に入れている」

 

 コーヒーを飲み終えるロンサムジョージ。

 一方のティコは、半分まで減らした冷めたミルク溜まりをくるくる回し、なんとも手を出しづらそうにしていた。

 

「まず彼らが人間と対比して進化したと思われる部分は・・・そうだな、”繁殖力”、”魔法への耐性”、”頭脳”だよ」

「そう思えん要素が出てきた気がするんだが、眉唾ってわけじゃ」

「まあ聞け、彼らは無性生殖が可能でな、手頃なスペースを与えて放っておけば勝手に増えてゆく。おかげでこの谷一帯を埋め尽くすほどになり、時折兵士として出征させ口減らしをしなければならなかったのは悲しいことだが、これが第一だ」

 

 次に、と付け加え、ロンサムジョージは指を杖のように振った。

 

「次に魔法への耐性と適正、私は使えないから正直うらやましいのだがね、彼らの細腕であれだけの力を出せるのはひとえに魔法による身体強化のおかげだよ、更に耐性を備え、この世界で覇権を握る魔法という概念に真っ向から勝負を挑める。稀な個体だが強力な魔法を行使可能なメイジも誕生するのはいいな」

「あの赤髪胸ペタお嬢ちゃんには焼き払われてたみたいだが」

「バーニング・シェスカのことか?あれは例外だよ、パワーアーマーも、業火の中でそう持つわけではあるまい?」

「あーなる」

 

 ロイズが金網の上であつつ、とタップダンスを踊る光景を想像し、容易であることを感じるとティコは頷く。すんなりと話が通ることに気を良くしたのか、ロンサムジョージはまたにっと笑って話を続けた。

 

 だがその前にティコが言葉を差し込む。

 

「だが頭脳ってのはどういうこった?俺の相手にしてきたものばかりじゃあどうも、その片鱗は感じられなかったが・・・」

「ふむ、その前にゴブリンの寿命が20歳程度だという話は知っているかな?」

「ああ、さっきゴブリンから聞いたが、そいつと何の関係が―――」

 

 

 首を傾げるティコに、ロンサムジョージが先手を打つ。

 

「―――ゴブリンが兵士として使い物になるまで、二年から五年ほどあれば可能なのだ」

「・・・は?」

「つまりだ、統率のとれた部隊を組み上げるのに数年だけあれば事足りるのだよ、それも常に数は増え続ける。実に頭がいいではないか?長年の功とは行かないが、それでも数、質、力、全てにおいて申し分ない兵士だよ、ゴブリンという生き物はな」

 

 なんと、とティコは驚嘆する。

 

 人間ならば兵士一人を訓練するのに、銃を持つため最低でも十年以上、法を守って18まで待っていれば尚更だ、そこから歩き方、銃の持ち方、匍匐、命令系統、その他エトセトラ、訓練過程を何年も積ませてようやく使い物になる兵士が完成する。

 

 それはひとえにウェイストランドの兵士の訓練過程が複雑で、それが必然となっている世界であるからなのだろうが、それはこちらでもそう変わらないだろう。しかも剣と盾が主流だ、振り方一つ覚えさせるのも結構な鍛錬がいるのだ。

 

 それをたったの数年で成し遂げ、かつ”進化”し続ける。

 生まれながらの兵士、生まれれば更に生み続ける、ゴブリンとはそんな生き物なのだと、ティコは驚きに頭を抱えた。

 

「思わないか?このままゴブリンの数が増え続ければきっとその軍隊は何者にも負けないものに仕上がると――― だがいつかはこの場所もパンクしよう、ならそのために、快適な拠点が必要だとも」

「・・・お前、まさか」

「理由のひとつに過ぎないよ、ティコ。だが”進化”した生命体である我々がこんな暗い谷底で燻っているなど惨めに過ぎまい?故に我はある思想に辿り着いたのだ、そう、ゴブリンという進化した生命体によって人間が我々から奪い去った尊厳を――― 逆に奪ってやる、”虐げられた者”の恨みをぶつけてやろうと」

 

 ロンサムジョージは拳を高々と掲げ、言う。

 その思想、その名前、それは―――

 

「“ユニティ”」

 

 ―――統一思想。

 

「ゴブリンで地上の都市をひとつひとつ蹂躙し、そして奪い去る。そして人類の主要都市を地上から軒並み消し去ってやるのだ、現人類には2つの選択を与える――― ”緑の祝福”か、”飼い殺し”かだ。今いる者を無理に皆殺しはしまい、だが今の代だけで死滅してもらおう、子孫を残すのは禁止とする」

 

 演説でもするように、力強く言い放つロンサムジョージ。

 ティコも少しばかり気圧される。

 

「それを続け、人類種をゴブリンで”統一(Unity)”するのだ。進化した生命体に寄る地上支配、実に素晴らしい楽園になるに違いない・・・遥か遠くに見える”紫の霧”もいずれ増える我らの数の前には到底敵うまい・・・ふふ」

 

 

 不敵に笑うロンサムジョージ。

 ティコはそれに言いようのない不快感を覚える。

 

 ”ユニティ”

 

 それはかつてザ・マスターが掲げた思想の名前で――― 自分がかつての”相棒”と共に潰した計画に他ならなかったからだ。スーパーミュータントだけを至上の生物とし、他の生命体を滅ぼす恐るべき計画、その顛末は―――

 

 

「ところで、君はいくつかな?戦前生まれには見えないが・・・」

「151ってとこか、戦前の話は爺さんから聞いたってだけの、しがない”グール”さ」

「グール?君のことは調べを見てよく存じていたが、そう呼ぶのか・・・”悪鬼”とはなんとも」

「ただの呼び名さ、放射能を受け続けた人間がなる成れの果てだよ・・・ほら」

 

 ティコはヘルメットを外す。

 

 すると下から現れるのは”皮剥け顔”、放射線という地獄の業火に焼かれた――― 虐げられしものの、顔。

 

「おぉ・・・」

「満足したかい?聞くことは聞けた気がするから、そろそろ帰りたいんだが」

「む?帰る気なのか?それは少し早い、少しばかり質問と・・・誘いがある」

 

 にっと笑い、目を向けるロンサムジョージ。

 ティコもヘルメットを外した鋭い、黒い瞳のまま彼の目を、じっと見据えた。

 

「質問だが――― 君は、その姿で今までどれだけ虐げられてきた?」

 

 急な話で有った。

 だがそれを聞いた途端、ぐっと、心に刺し込まれる。

 

 ここに来てからというもの、”大やけど”で通してきたグールの身体だ、ああ見えて優しい相棒と、これでも慕ってくれる赤毛の少女、理解のある銀髪エルフ、彼らに囲まれて気にせず生きてこられたが、それまではそうでもなかった。

 

 酒場にいれば時に喧嘩を吹っかけられ、受けて立てば味方は敵より少ない。自慢の格闘技で打倒すれば次は数を増やして来れば、それも打倒しレンジャーの身分をちらつかせれば陰口が飛んでくる。

 

 かつての部下からの心象も実のところ大して良くない、あの輸送部隊にいたのも、プロパガンダも兼ねて好き者を集めただけの部隊だ。快適だったが、征く先々で巻き込まれたトラブルを密かに処理していたのは記憶にあたらしい。

 

 コンプレックスに違いはないのだ。

 

 そう―――

 

「―――日常的に、くらいはな」

「だろう?人間とは実に醜い、姿形が変わっただけで銃を、剣を、怒りを向けて叫ぶ。彼らに与する理由などあるか?ティコ。そこで君に誘いをかけたい、つまりだ、我々はこれからあの街に大々的な侵攻をかける、故に―――」

 

 立ち上がり、一礼するロンサムジョージ。

 ティコは座ったまま、それを見上げた。

 

「―――君に、我々の手をとってもらいたい」

「・・・んだ?」

「情報が集まってくるに従って、君の姿が鮮明に浮かんだよ。銃器を使い、しかし人間とは違う者―――共に“虐げられし者”だと、だから同胞としての願いだ、君も欲しいだろう?自身の”楽園”が、誰にも何も言われず、ぐっすりと柔らかいベッドで眠れる場所が、気心のしれた仲間達と共に過ごす時間が――― そのための場所が、欲しくはないか?」

 

 

 甘美な誘い、かもしれない。

 グールとしての自分の居場所、その誘惑。

 

 ティコははあっとため息を吐くと、それに一考して、

 

「ジョージ」

「うむ」

 

 ロンサムジョージに呼びかける。

 口からは思いの丈を、心からの思いを。

 

「欲しいよ、自分の場所とかな、風来坊だったからNCRに落ち着いたがいかんせん退屈で窮屈って気はしてた・・・昔の相棒と別れてからはずっと、そんなのばかりだ、この姿って呪いが俺を少しばかり卑屈にさせたって気も、少しする」

「・・・うむ、答えは決まっていると」

「ああ・・・当然だよ」

 

 

 ぐっと溜め、ティコは答える。

 彼の口が動いた瞬間、ロンサムジョージはその大きな表情をにこやかにさせ―――

 

 

「断る」

 

 

 ―――口を閉ざさせた。

 

 

「今の俺にはな、ちっと強情で冗談通じないが大切で可愛い相棒もいりゃ、この皮剥けの顔をイヤだって言わんで抱きしめてくれる小さなレディもいる、それに、故郷までの道すがらを一緒に共倒れしようぜって約束した奇抜なエルフ嬢もいる・・・俺は俺を曲げなかった、常に正義と人のために戦ってきた・・・俺を受け入れてくる場所は」

 

 ぐっと、握った拳からひょいと出した親指で自分を指さし、ティコは言い放つ。

 

「・・・俺の帰る場所は、少なくとも今はあるんだ、ぐっすり眠れるベッドも、気心の知れた仲間も、背中を任せられる相棒も――― 俺の”善意”は確かに受け入れられた。お前さん、少しばかり努力が足りんじゃないかい?歩み寄る・・・そんな、”がんばり”ってのが」

「・・・よくないな」

「良くなくて結構だ、俺はどっちにしろ、世界が俺を受け入れてくれるうちはお前さんらに手ェ貸す義理はないぜ。レンジャーの仕事ってのはな、”名誉ある仕事”と”暴君への反抗”がモットーなんだよ、暴君に手ェ貸して名誉を失うなんぞレンジャーの名折れよォ」

 

 きっぱりと、決別を言い渡す。

 

 例え目の前の強敵がパワーアーマーを引き千切る化け物であっても、言い切っておきたかった。自身の存在はそんなに悪いものではないと、自分は今の状況を、”今の価値観”できっと幸せと認識していることを――― 失いたくないことを。

 

 ロンサムジョージはその言葉を受け、うなだれる。

 ティコはその姿をじっと見据え、彼の対応を待つのだ。

 

 しばしその状態が続いたあと、ロンサムジョージは顔をゆっくりと上げ、閉じていた目を開いた。

 

「なるほど、残念だよティコ」

「・・・ここで戦うかい?」

「いや、私は君にいい友人になってもらいたかった。手を下すのはしたくない・・・そこでだ」

 

 ばっと、ロンサムジョージが手を挙げる。

 途端―――

 

 

「―――っと、こいつは盛大な歓迎で」

「なあに、危害を加える気はないさ」

 

 次から次へと、ゴブリンが湧いてきてはティコを取り囲む。

 手には鉄や銅の剣を、槍を握っており、その切っ先をティコに向けて静止するのだ。

 

「・・・時間だ、もう決行の時だと・・・協力者、ええと確か・・・”灰色髪”としか覚えていないな。彼女がVaultに細工をしてくれているはずだよ、それに乗じ全軍をパーミットの街へと進軍させる、君には―――」

「―――首が落ちても、魂魄百万年恨んでやるさ?」

「ふふ、そうではない、いくら君とはいえど・・・街が堕ちれば心変わり程度はするだろう?それを黙って見届けて、その上でまた選択してもらいたい――― 君の大切な者達が、その時に生きていればいいな」

「ッ、てっめぇ!」

 

「そう怒るなよティコ、少しばかり牢の中で静かにしてもらうだけさ・・・おっと武器は預かっておくぞ?牢番を撃ち殺されてはたまらないからな、大事な家族なんだ・・・じゃあティコ、また数日・・・一日でも堕ちてしまうかもしれないな、ゆっくり休んでいてくれ・・・正直君ほど一対多で強力な障害もそうそうないのだ、おいそれと帰せん」

「・・・ド畜生め」

 

 もはや抵抗は無駄、とティコも悟ると、銃器の数々をロンサムジョージに引き渡す。彼は尻をゴブリンに叩かれるティコを笑顔で見送ると、輸送機の奥へと消えてゆく。ティコは己の詰めの甘さを呪いながらも、知り抜いた情報、それらを頭の中でまとめ―――

 

 最後に一つ、問いをぶつけるのだ。

 

「なあジョージ、聞きたいんだが”攻略法”ってのは」

「む?ああ、ギギが言っていたのか?それは当然・・・」

 

 ロンサムジョージは向き直ると、にっと笑う。

 

 

「もう一度”同じ事”が起こればあっというまであろう?」

「ッ!」

 

 言葉にならない言葉がティコの口から漏れる。

 すぐさまティコはまた尻を叩かれ、また歩いて行くと―――

 

「ああ、そうだ!ティコ、きっと条件なのだが―――」

「・・・ああ?」

 

 またも、足を止められる。

 とうとう苛立たしげに返すティコ、対しロンサムジョージは陽気に応える。

 

「言った通り、一つ目は”武器庫の解放”、二つ目はきっとだが全体に人間を行き渡らせること、だ、そして三つ目は”一定以上の人数の増加”だと私は睨んでいる――― そうだ、いいことを教えておこう」

 

 

「今、”灰色髪”が人を集めているそうだ、つまり三つ目の条件は解放されることになる・・・つまり」

 

 ロンサムジョージは一拍溜めると、更なる言葉を続ける。

 それはとても不敵な笑みの中にあり、声色はこころなし、意地悪そうにも思えた。

 

 

「・・・君達は、いくつ解放してくれたかな?」

「・・・!」

 

 思い返すはいくつもの事柄、相棒が開いた武器庫と、長い時を経て集まった人々。だが選民的でいかんせん一度に多量の人数の集まらなかったあの”Vault28”に、もし人さえ集められるのなら――― ティコの脳裏に戦慄が走る。

 

「ま、待てッ!」

「何を言ってももう遅いさ、次の答えを期待しているよ、ティコ」

 

 四肢をゴブリンに組み付かれ、組み敷かれる。

 やがて引きずり入れられた牢はとても暗く冷たく――― それなのに、時の流れが短い気がした。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 パーミットの街のログハウスに、集まっている人々が居た。

 

 中心にいるのは白銀色のパワーアーマーを着たロイズ、左腕に取り付けられたPip-boyをじっと見据え、そのまま動かないでいる。もうかれこれ一時間はこうなのだ、そんなものだから、彼の周りに集まった人々の中にはちらほらと、退屈げにしている者も現れていた。

 

 だが、やがてロイズが口を開く。

 

「―――時間かっ・・・」

 

 短い一言、だがその波動はぐぐっと伝播する。

 

 最初に声を上げたのはフラティウだ、オールバックの髪型を、戦化粧にするかのように整えてロイズの言葉とともに白銀の巨剣を引き抜く。

 

「・・・ティコが帰ってこなかった、ということは何か問題があったと見て間違いなさそうだ。そのために我々が集まったわけではあるが・・・できれば、こうならないほうが良かったと思っているよ」

「わかってら、フラティウのおっさん。クソッ、だから無茶しないでとっとと逃げてこいって」

 

 嘆くのはロイズ、彼は顔を上げると周りを見渡す。

 

 彼の周りに集まっているのはおおよそ二十人といったところだ。フラティウ、シェスカ、バラッドら”紅炎の黒刃”の面子が三人、残りはロイズがアニーアに頼み込み用意してもらった騎士団の面々と私兵であり、森を進むことを前提としていることを伝えられているだけあって軽装備となっている。

 

 ロイズはそれらを一瞥して、その誰もが戦い慣れている顔であることに安心すると、ぐっと顔を彼らに向けて叫んだ。

 

 

「ごめんみんなッ!グールの奴、やっぱ帰ってこなかった!無茶すんなって言っても聞かない奴だと思っちゃいたけど、でもそれでもあいつに何かあったに違いねぇ!何も無ければいい!それが一番だ!でも!」

 

 一拍おき、続ける。

 

「あいつは多分”ゴブリンの本拠地”に行った!この街にちょっかいかけてくるいけすかない奴らのことを少しでも知ろうって!少しでもこの街の助けになろうって一人で行ったんだ!それで帰ってこなかったッ!・・・でもきっと生きてるかもしれないんなら、助けに行きたい!そのために集まってもらったッ!場所が場所だからタダじゃ済まねーかもしれねーけど・・・それでも!」

 

 元々感情的であったから、ロイズの目が少し潤む。

 実際心配なのだ、既に”相棒”となっていた者の生死が定かでないことに、大きな不安があった。

 

「オレは一人でも行く!もしついてきてくれるって人がいるんなら!頼む!手ェ貸してくれ!」

 

 心の丈を、思いのまま叫ぶ。

 その叫びのあとはしばし沈黙が包んだがしかし――― やがて、声が上がっていった。

 

 たいまつの灯りに輝く白銀剣、闇に溶け込む黒の鎧、フラティウが一番槍だった。

 

「我は彼と、君に恩義がある、これで返せるのなら幾らでも君の背に追従しよう、我が剣捌き、呪い剣に頼らずとも君に劣りはしまいて」

 

 ぐっと胸に手を当てるフラティウ。

 身の丈六尺半の大男が自信をもって応える姿は実に頼もしく、ロイズもサムズアップで応える。

 

「あのゾンビ男にはフラティウ様を助けてもらった恩があるし?まあアンタのことも悪く思ってないしー・・・それに!街を悩ませたゴブリンを退治した!って偉業じゃない?ちょっと手助けしてあげてもいいかなって!」

 

 続くはシェスカ、自慢の赤髪をかきあげ、見せつけるようにする癖はいつものままだ。彼女もまた賛同すると、手に持った新しい木杖でとんとんと肩を叩いてロイズにアイサインを送る。彼はそれを受けると、自身もアイサインで承る。

 

 すると、その傍から出てくるのはバラッドだ、彼はにこりと笑うと、胸に手を当てる。

 

「僕も行くよ、ティコさんには前に助けられたし・・・ロイズ一人を行かせるなんて心残りになっちゃうからね」

「バラッド、助かる!」

 

 ぐっとその手を握ってロイズはバラッドと目を合わせる。

 バラッドは森の歩き方を知っている男だから頼りになるだろう。

 

 そこから更に目を動かすと、並び立つ、整列するは十数名の武装した戦士達だ。

 騎士団、私兵隊、双方が並び立ち、ロイズに敬礼を送っていた。

 

「アニーアお嬢様の好まれたお方、主に恥じぬようお守りいたしましょう!」

「パーミット騎士団支部、第12分隊、これより”白銀闘士”スクライブ・ロイズへの協力に入ります!ようやくゴブリンを打倒できることを一同歓喜しております!」

「お、おう!頼りにしてる!オレについてきてくれ!」

 

 騎士達の目がきらびやかに輝いているのは、ロイズの先の偉業を知って絶対的な信頼を寄せているからなのだろう。

 

 十分な戦力だ、”人間戦車”たるパワーアーマー兵を筆頭に、戦略兵器の魔法使いに一騎当千の戦士と訓練された兵士が囲う。ゴブリンの戦力がどれほどのものかは知らないが、それでもむざむざやられるほどの人力ではあるまい、とロイズはつい笑みを浮かべる。

 

 それから彼は、背負ったリュックにきちんと物を詰めていることを確認するのだ。どれほど歩くかわからないから、食糧も、水も、治療薬もすべて万端の状態にしておいた、パワーアーマーだから全員分背負ってもまだ軽い。

 

 ロイズはすべてが万全なことを確認すると、全員に向き直る。

 

 そしてすうっと息を吸うと、叫ぶのだ。

 開戦の合図、朝日が登り、その顔を照らしたのと丁度だった。

 

 ただ一人を救うための作戦、犠牲が出ればその時点でペイはできなくなる無謀な作戦。

 

 

「―――行くぞッ!」

 

 

 

 騎士、兵士、戦士――― 彼らはそれを承知で、ただ己の使命を全うするために歩み始めた。

 

 

 

 

 





 ディッピングでどんな感じにスーパーミュータントが出来上がるかを見てみたい方は、初代Falloutのバッドエンドを見てみるといいと思います。設定上ではそれなり期間を経て誕生するはずなんですが、少なくともVaultの住民さんで作ってみると割とあっというまに身体が大きくなるようです。
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