トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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(´・ω・`)どうも、SPOREで
https://kie.nu/2FTq
みたいなの作ってたら時間かかりました。

16023字。


第三章:Vault28の監督官室から 35話 『戦場の火蓋』

 

 

 

 走る。

 

 走る。

 

 疲れて歩く。

 

 

 走る―――

 

 

「相棒、Vaultのことだが良いニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?」

「悪い・・・あっ、ストップ!やっぱいい方からで!」

 

 一行の足が歩きに移行したタイミングで、キリがいいとばかりにティコが切り出した一言。言葉を受けたロイズは彼と顔を見合わせ、少し悩むと苦い顔、続けてもっと苦い顔をしながら彼に答えた。

 

「セキュリティボットが起動してるなら、ゴブリンの連中なんざあっというまに追い払える。現にずっと昔に同じようなことがあって、その時に俺らの愛する無機質な兵隊さんは大活躍してくれてたって寸法だ、ロブコ様々だな」

「マジで!?じゃあよかった・・・動いてるもんなっ!悪い方は?」

「Vaultの実験が再稼働したらセキュリティボットが全部止まっておじゃんってだけだ!それで多分、今ごろみんな止められてる!例の灰色なんとかって奴のせいでな!おまけに実験は多分FEV散布だ!ボヤボヤしてねぇで止めに行くぞ相棒!」

「ちっくしょうっ!たまには運が向かねーもんかよ!」

 

 更に速度を上げて、後続を振り払ってまでひたすら先行して走る、走る、走る―――。

 

 やがて見えてきたのは赤い空、近寄る度に色を増し、やがては舞い散る灰が目に見えるほどになった頃、彼らはようやく急ぎ足を止めた。否、足が凍ったのだ。森を抜けた先の街、木造りのログハウスやバラックが立ち並ぶ下町、その街並みは今や火炎に覆われ、一方的な破壊が現在進行形で行われていた。

 

 ほんの昨日には静寂と虫の音が夜を、人々の喧騒とざわめく風が昼を盛り上げていた街は見る影もなく、緑の小人、緑の巨人、緑の魔術師たちによる破壊と略奪が横行する地獄絵図。

 ふと見れば、死体もがちらほらと見えるのだ。それは戦いに敗れた兵のものであったり、逃げる選択肢を奪われたただの罪なき街人であったり、身体に無残にもつけられた傷痕はその壮絶な死を物語る。

 

 そしてその亡骸に残された尊厳ごと笑いに笑うオーガの脚が踏みつぶし、一人残った震える街人に向かって戦槌を振り上げた瞬間―――

 

 

「やっろォ・・・ッ!!」

「止めねぇぞ相棒!好きなだけ殴れ!」

 

 ロイズが飛び出し、ティコがピストルを構える。

 

 刹那の時間に空を切り裂いた弾丸は勝利の感覚に酔いしれたゴブリンの間抜け面を、後ろからぱっくりと切り開いてやるのだ。同時に駆け抜けた鉄騎兵がその鉄拳をオーガの真後ろから勢い良く叩きつけてやる。

 

 先の戦闘では苦汁をなめさせられたものの、以前の邂逅とは違い”全力全開”の装備を身にしていたロイズの拳、ディスプレイサーグローブから放たれた衝撃波はオーガの鎧を貫通し、内臓をぐちり、と目に見えぬように潰してやると、オーガは身に何が起こったかも理解できぬまま斃れるのだ。

 

 続けざまに撃ち込まれる拳と弾丸がゴブリンの一個小隊が殲滅されるまでにおよそ二分かからず。震える街、血塗れの道、怒りに震える正義の剣は燃え上がり、彼らに疲労を感じさせないほどの活力を与えてすらいた。

 

「あんた、なあ、あんた大丈夫かよ!?」

「ああ豊穣神ノリィよ、感謝します・・・!助かりました、騎士様、狩人・・・様?」

「なんでも構わん、何が起こったか簡潔に説明を頼めるか若いの、悔しいが今帰ってきたばかりでな・・・俺の知る限りこの街は、こんなに赤色が濃くはなかった」

 

 燃え盛る炎と、家屋や地面についた血を見てティコが言う。

 それから街人が体についた煤と土を払うのも忘れ立ち上がると、あとから追いついたフラティウ達や騎士隊が合流するのだ。それを機に、街人の周りを囲うと街人は少しばかり気圧されるが、すぐに話し始めた。

 

「つい八時間も前、夜を迎えたばかりの街にゴブリンが強襲してきたんです。みんな夕飯時だったから気が緩んでて、そこに一気に何百・・・何千もいるのかも、ゴブリンやオーガが次から次へと雪崩れ込んできて・・・」

「八時間も?あんたは?」

「自分は地下室に隠れていたんです、ずっと震えて、身を縮めて見つからないようにと・・・それで、頃合いを見計らって逃げようとしたら奴らに見つかって・・・本当にありがとう、ありがとうございます、騎士様!」

 

 こらえきれずに流した涙を地面に落としながら、ロイズの手を街人はつかむ。

 

「別にオレ騎士ってわけじゃ・・・あー、まあいいや、しっかし数千、少なく見積もっても数百が攻めてきたってワリにはいくらなんでも少なすぎる・・・どっか別の目標に・・・まさか」

「俺も今想像したところだ相棒、あのデカブツが言うとおりなら、奴らの目的は多分あの街、壁に囲まれたお偉いさんの街を根こそぎ奪い去るこった・・・ここにいるのはあくまでもハイエナか”掃除役”の下っ端ってとこだろうな、こいつは道考えないとヤバそうだ・・・それよりも」

「ああ、オレらの家を見に行きたい。みんな!ちょっと寄り道させてくれ!その人とか、街の人を見かけたら途中で保護してく!それと、壁の周りは多分あいつらでいっぱいだろうから誰か中に入る道知ってる人いるか!?いたら手上げてくれっ!」

 

 ロイズが呼びかけるとすっとすかさず騎士隊の長が手を上げ、ロイズと向き合った。

 

「彼らの目的が街を”奪う”ことだというのなら、反対側の門は手薄か、そも攻めていない可能性がありましょう。素直に街の兵が撤退してくれれば奴らの思惑通りというのなら、一方向に熾烈な攻撃をかけている可能性があります」

「仮に数百いるとして・・・」

「二百、三百程度ならば我々で容易に突破ができましょう、ここにいるのは”白銀闘士”と”黒の剣士”、そしてなにをかくそうあのガイウスのお孫さんです、一対多の戦闘をなにより得意とする面子が揃えば・・・正門は無理でも、裏門を開かせるくらいの道路掃除はできるというもの」

 

 言い終えた後隊長が剣を胸の前に携えると、部下達もその場で同じようにするのだ。ロイズはティコを見る、彼は耳元にサムズアップを決め、いつでもいいとばかりに銃を引き抜いていた。

 

 フラティウも白銀剣を肩に担ぎ、シェスカも並んで杖を同じようにしている。

 バラッドも笑い、騎士隊も、私兵隊の面子も覚悟を決めた笑みで誰も彼も、ロイズへと目を向けるのだ。

 

 ロイズは研究職(スクライブ)だ、指揮官(パラディン)ではない、むしろその手の仕事はティコが適任であっただろう。

 だが彼に集まる注目は、彼に自然と責務を感じさせる。ここにいる誰もが、自分を信頼して、その行動を待っているということを、自分の今まで成し遂げてきた全てのことが、今を形作っているのだ。

 

 ロイズはそれにちょっとした武者震いを覚えながら、顔を上げて目を瞑るとしばし佇む。だがやがて顔を下ろして眼を開くと、集まった全員を一瞥し、それからにっと笑った。

 

「分かったっ、街の脇を通ってなるだけ気付かれないように裏まで一直線で行くってことでいいよな・・・グール!」

「わーってる、分隊指揮は俺のほうが適任だ、お前に比べちゃ信頼薄いかもしれんが、まあ任せとけ、ついでに露払いもやっちゃる」

「助かる、じゃあ全員準備いいなっ!行くぞッ!一人も欠けんなよ!」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 結論を述べると、彼らの住み慣れてきた一軒の家屋、十四畳のログハウスは無残にも焼け落ちていた。

 

 それを見た時はしばし呆然としたものだがそこは冷静なティコ、肉の焼ける臭いがせず、暑さに耐えて持ち上げてみた残骸の中に死骸が顔をのぞかせていないこと、家畜モートと一緒につながれていたキャンパー荷車ごと彼らの武器類が消えていたことから、アルとテッサが直前に無事逃げ出すことに成功したことを察し深く息をついた。

 

 この下街は既に戦場から焼け野原へ移行する段階であり、夜の闇に煌々と灯りに照らされた煙が上がる。

 街をめぐっても死体以外には見られなかったために恐らく、街の人々が城壁に囲まれた一等市民区へと避難したのだろうと悟った彼らは、予定通り街の反対側、北門へと向かっていた。

 

「全力全開の装備だからいいけどよ、武器みんなオシャカになってたらこれからどーしようって思った」

「俺も弾薬なしにゃ辛いからなぁ、本格的に弾が足りなくなった時ぁ、そんときゃお前さんが名実ともに俺らの最高戦力だぜ相棒。ナイフと槍の腕にゃ自信があるが、それもパワーアーマーにゃ勝てんしな」

 

 ここまでに幾らかあった戦闘で持ち込んだぶんが全滅したために今は空っぽになった、ホルスターに入ったピストルをとんとんと叩きながら、ティコは手に持ったAK-112を肩に担いでロイズの肩をぽんと叩く。

 

 事実補給線がないこの状態で弾薬を失うことは、銃を失う以上に戦力がガクンと下がる悲劇だった。

 

「目測5,000!ゴブリンとオーガの群れです!すごい数だ、500はいますよティコさん!」

 

 しばし走っていると目のいいバラッドが、遠くに見えてきた敵の群れから数を概算、一行に伝えて苦い顔をする。

 近づくにつれ、その群れは城の門を叩いて破砕しようとする側で、城壁の上では街の兵士がかけられようとする梯子を力いっぱいに叩き折り、城壁を叩くオーガ達に槍と矢を見舞っている姿が鮮明に見えてくるのだ。

 

 一行は足を止めず、一気に雪崩れ込むべく突撃姿勢に武器を構える。

 

 そんな中、先手を打ったのはティコとシェスカ、二人だった、二人は脇にそれ進む道を剣士と闘士達に譲り、同時、シェスカの赤い髪が炎のマナに照らされ真っ赤に輝き魔法陣が出現、熱を持って顕現する。

 

 そして炎の龍が現出し、高く高く登って行った瞬間、ティコも手に持つグレネードライフルの照準をおおまかに群れの中心となるよう合わせ、炎の龍が舞い降りる瞬間に引き金を引き榴弾を放った。

 

「燃え尽きなさいっ!」

無様に吹っ飛びな(アディオス)!」

 

 先行して着弾したのはティコの40mmグレネードで、群れの中央に着弾すると半径10m程度に炸裂した爆風と衝撃波が一匹のオーガを半分にしてやり、ゴブリンを木っ端微塵に砕いてやる。破片もそれなりの範囲に広がり、特に密集していたためにゴブリン達は多大な被害を受ける。

 そしてそこに、泣きっ面に蜂のごとく振りかかるのはシェスカが生み出した青い、炎の龍だ。上空に渦を描いて飛んでいった龍はティコのグレネードの着弾点に落着し、その余りある熱を地を這うように広げていく。

 

 広がった熱は一気にがら空きの足元から燃え広がり、実に半数、250ほどのゴブリンとオーガを包むと黒焦げの焼き肉に変えてやるのだ。焼き肉と言えど正味、彼らを食うのはごめんだ、とティコとロイズは思って苦笑しつも、ティコは大混乱に陥ったゴブリンの中隊に対し更にグレネードの雨を降り注がせたあと、バトンタッチをするようにロイズ達の突撃に合わせて射撃を中断した。 

 

「だっしゃおらぁっ!一人残らず殴り飛ばしてやるッ!」

「我が剣捌き、お見せしよう!続くぞロイズ!」

「騎士隊!武器を風で包め!彼らに続くぞ!」

「私兵隊も彼に引けを取るなッ!お嬢に恥じぬよう奴らを切り伏せよ!」

 

 先鋒にロイズ、フラティウを置き、混乱し散ったゴブリンやオーガを彼らが殴り、切り倒すのに追従して騎士隊の面子がシールドバッシュから一斉に風の魔法を展開し広範囲にダメージを与え、私兵隊の面々も彼らには及ばずと見惚れる剣技をもってゴブリンを仕留め、オーガはロイズとフラティウが叩き潰していく。

 

 後方で逃げようとしたゴブリン達は無視するか、追撃できそうならばシェスカの火炎弾とティコのグレネードによる曲射が、降り注ぐ災厄のごとく始末し次から次へとばっさばっさと数を減らしていくのだ。

 

 そのまさしく、一騎当千の武将に率いられた無敵の兵による無双とも呼べる有り様は、城壁上で梯子をかけてくるゴブリンを追い払っていた兵士がふと手ぶらになってしまい、一時我を忘れ呆然と見、敵に寄られて初めて意識が戻ってくるほどであった。

 

「まだ!まだかよッ!とっとと尻尾巻いて逃げろッ!お前らの相手してる場合じゃねーっ!」

「かーっ、弾もう少し持ってくれば良かったか・・・AKもいい加減に銃身がもたんな・・・」

 

 次から次へとキリがなく、雪崩のように本能のまま襲いかかってくるゴブリン達を捌いていくたび、ロイズのグリーズド・ライトニングに弾き飛ばされたゴブリンはドミノ倒しのように他のゴブリンを巻き込み、ティコに顔面を集中的に撃たれたオーガも表情がわからないほどにされたあと、倒れていく。

 

 実に三十分はかかっただろうか、ティコもすっかり弾切れを起こし、最後は奪いとった槍で得意の槍術を見せるようになり怪我人も出た頃、ようやくと最後のゴブリンが逃走、その背中を炎弾に焼き払われがらんどうになった北門において、勝利の歓声が上がったのだ。

 

 見れば城壁の兵士達が上げている声で、それを見て彼らもまた、顔に笑みを浮かべると兵士たちに手を振って応えた。

 

「“白銀闘士”のロイズ殿以下、ゴブリン本拠点偵察隊だ!たった今戻った、防衛ご苦労であった!城壁を開けてもらえるか!」

「騎士団の、分隊長殿ですか!?ご無事でなによりです!今お開けします!街の中も安全とは言えません!お気をつけて!」

 

 歓声が落ち着かぬ中、騎士隊の隊長が城壁の兵士に呼びかけると、しばしの時間をもって城壁が少しだけ開けられ、ロイズ達も入ってゆく。

 だが凱旋するにはまだ早く、問題は山積みだ。しかし疲労は疲労、ひとまずは休みと腹ごなしでもしてから戦いに臨まないと持たないのだと、ティコの提案で彼らは街の中央、人々が避難しているというエリアに移動したのだった。

 

 

 

 騎士隊と私兵隊の人間達はすぐにそれぞれの指揮官の元に戻る旨を告げ別れ、ロイズ達は二等市民区からの避難民でごったがえしている街の広場へと訪れる。聞くところによると街は現在いくつかのセクションに分かれ、おおよそ南門に構築された防衛線を戦場としその後ろに兵士達の指揮テント、その後ろに今いる避難民達を抱えているらしいエリアがある、との情報をもとに、ひとまずティコ達は身内の安全を確認するのだ。

 

 足の踏み場も辛い避難民達の間に抜けつつ、横道をあちらへこちらへと動いてはきょろきょろと見渡す。

 そうしてしばらく時間を費やした頃だろうか、あろうことか、兵士達の指揮官がいるテントの真横に、あくびをして眠る一匹のモート、それに取り付けられたキャンパー荷車を見つけ、慌てて彼らはテントをくぐったのだった。

 

「じょ、嬢ちゃんいるか!?なんでまだこんなところに・・・」

「ああっ、ダンナぁ!帰ってきてくれたんですねっ!アタシダンナが帰ってこなかったらどうかと心配で心配で・・・」

 

 くぐるなりぴょこんと跳び、ティコにぎゅっと抱きついて摺り付くのはアルで、ティコもそれを受け止めるとひとまず安心する。後ろからテッサも歩いてきて、さらりと兵士たちの目を引きながらロイズに話しかけた。

 

「君達のことだから大丈夫だって思ったんだけど、まあ余計な心配だったかな。でも帰ってきてくれて嬉しいよ、街はこんな有り様だから・・・」

「あったりめーだろっ、こんなんでヘコたれるタマじゃねーっての!でもテッサ、何でお前らこんなとこにいんだよ?ここって指揮官用テントじゃねーの?」

「ああ、そこは彼女が便宜を計ってくれたんだ、紹介するよ、まあ君も知ってると思うけど」

 

 一歩テッサが下がると、前に出てくるのは一人の女性。

 金髪ポニーテールに赤めの軽装服、アニーアだ。彼女はロイズを見て何か安心したような表情を見せた後、ロイズのすぐ前に寄った。

 

「ロイズ君達のことだから、帰ってきたらすぐに戦線復帰するとでも思っただけでな。身内と武器は一番いいところに置いておいた方がいいだろう?私もこれだけの惨状、手をこまねいて見ているだけというのは歯がゆかったのだ」

「サンキューアニーア、やっぱお前いい奴だよな」

「ふふ、君のおかげだ・・・まあともあれ、簡潔に情報を話そうか。戦況を知れば自分がどこに行くべきか、決めやすいというものだろう?」

 

「まさしくそうだ、我々も己の力を見せつけるに相応しい場所に赴きたい」

 

 アニーアの言葉に続くように、野太い、男の声がテント内に響く。

 

 フラティウだ、少し遅れてテントにフラティウ、シェスカ、バラッドの三人が入ってきたとたん、テント内の兵士が湧く。事実上、何年もこの街の最高戦力であった面子が顔を現したのだ、目に見えて士気が上がり、フラティウも会釈で返す。

 

 彼らはアニーアがロイズ達を連れて向かった、街の全図を備えたテーブルに自分たちも並び、全員が集まったあとアニーアはこほん、と軽く咳をすると話し始めた。

 

「現在二等市民区は彼らの一斉攻撃により完全に陥落、私が全責任をとることを引き換えに貴族達を黙らせ町人達を一等市民区に避難させ、我々は一等市民区の門へ防衛線を敷き街の防衛に尽力していたが・・・」

 

 アニーアはううむ、と唸る。

 

「大量のオーガとメイジに門は突破され、門の前に陣を敷かれた。今は街の一割が制圧されたも同然の状況だ。街の魔術師隊が魔法攻撃と魔法防御、騎士隊が防御、その他民間からの有志と街の兵力四百が攻撃にあたり彼らを押し返しているが、戦況は悪化の一途も同然だ。一応伝令を遣わせ国軍を呼びに行っているから一週間耐えれば国軍が来てくれるだろう、そうすれば挟み撃ちだ、勝てる。だが―――」

「―――それまで耐え切れないってことだね」

「・・・ああ」

 

 口を挟んだテッサの言葉を肯定するアニーア。

 テッサは髪を撫でると、思わしげな表情をした。

 

「ボクも分かるよ、一日足らずで街がひとつ墜ちて、もう一つの街も既に圧されている――― なら七日なんて持たない、絶体絶命だ、だから」

 

 ぴんと指を立てて、横薙ぎに、ここにいる全員を指さした。

 

「これだけの”規格外”な戦力が揃った今、大反攻作戦に出ようってことだろう?あんまり軍事には聡くないけどわかるよ、信頼できる将軍がいれば兵の士気も上がる、士気が上がれば敵に勝てる・・・ここが踏ん張りどころってわけだね、わかるよ、ロイズと大男、今日からしばらくは君達が将軍ってわけさ」

「責任重大ってのはわかったけどよ、どうしたんだよ急に、テッサ?普段は寝っ転がって本読んでるのがせいぜいのお前がいきなり饒舌に喋るなんてよ・・・悪い予感じゃねーよな」

「なにも、ただボクも手をこまねいて見ているのはたまらなくなったってだけさ・・・戦うよ、それにボクの運の良さは知ってるだろう?この前のカジノだって、君が来なければボクはジャックポットを引き当てて大金持ちになるところだった」

「う、うー・・・いやあれは偶然だろ!偶然・・・偶然だよな・・・」

 

 直近の苦い記憶に悩まされながら、ふふん、としてやったりな顔をテッサに向けられるロイズ。だがテッサはまあいいさ、と髪をかきあげながら、足元に置いておいたらしい大きな獲物を、ごとり、と持ち上げた。

 

「てかテッサ、お前どうやって戦うんだよ・・・まさか、そいつかよ?」

「当たり前だろう?だって君達が腐らせてるんだ、少しくらいいいじゃないか、なにせこれは武器なんだ、こういう時に使う、そのための―――」

 

 テッサは獲物を持ち上げ、肩に担ぐ。

 華奢な身体に不釣合いな大きさが、アンバランスな魅力を醸し出していた。

 

 

「―――これ(レーザーライフル)だろう?最近面白い使い方を発見したんだ、やっぱりこれはボクととても相性が良かったみたいでね、まあ楽しみに見ていてくれたまえ、はっはっは!」

 

 戦地へ向かう興奮と新しいおもちゃを使う興奮が相乗したのか、急にテンションを上げて笑い出し、テントに敷いたゴザへと去っていくテッサ。しばし卓を囲む面子はそれに呆然とした後、再三の会議に移る。

 

「ともあれだ、現状防衛する箇所は一箇所しか無い、君達が北門を一掃してくれたおかげでな。そうなると戦力が今なんとか拮抗している南門付近の防衛線に全戦力を投入することになる、そうなれば容易であろう、なにせここには”バーニング・シェスカ”もいるのだ、何十人分に相当する強力な魔術師がいれば戦況は傾くに違いない」

「魔術師じゃなくって魔法使いよ、お嬢様!まあいいわ!あたしがいれば百人千人万人力よ!童顔!指くわえて見てなさいっての!」

「なんでこっちに振るんだよ!別にいいだろ!得意分野がちげーんだよ!」

「なあに負け惜しみぃ?」

 

 きーきーと、やかましく声を上げ言い合う二人。

 しばし言い終えたあと、互いの保護者がそれを止めた。

 

「すまないティコ、うちのシェスカは少しばかり気性が・・・」

「頭下げんでくれ大男、うちの相棒も可愛いんだが挑発に乗りやすいところがな」

 

「うー・・・何でオレの保護者みたいに・・・」

「あっはっは!おっかし!あっはっは!」

 

 不満足なロイズと、それを見て笑うシェスカ。

 それにロイズはまた食って掛かろうとするが、ティコがそれを遮るように言葉を重ねた。

 

 

「だが金髪お嬢、俺らはあいにくと戦闘には参加できん、やることがあってな」

「ほう?それには興味がある、今街の防衛をする他に重要なことが?」

「気持ちはわからんでもないが、やっとかんともっと酷いことになるってだけでな。話すと長くなってたまらんから端折るが、そう、こいつは例だ、ただの例なんだが―――」

 

 ティコはぐっと溜めてから、言う。

 

「―――Vault・・・”28番目の金庫”でゴブリン誕生の儀式が行われる、とかだったらどうだい?もちろん、生贄は中の人間全員だ、全員が成り代わっちまう」

「なっ・・・!まさか、今日のあれは・・・!」

「なんかあったか?」

 

「今日の朝3時程度だったか、まるで夢遊病のようにな、二等市民区、一等市民区問わず多くの人間があの場所に入っていったのだ。門兵もまるで”覚えていない”との一点張りでな、だがまさか、なるほど・・・その”儀式”のために何者かが・・・」

「・・・”灰色髪”ってやつかい」

「恐らくは、だがなるほど、だが・・・」

 

 アニーアはティコへと目を向ける。

 その目は主に”なぜそれを知っているか”を聞きたそうなものであった。

 

 ティコはそれを手で制すと、自分から口を開く。

 

「ワケが聞きたそうだな、だが話すと長くなるんだ、後の後にしてくれ。ともかくそいつを止められるのが俺と相棒だけで、時間がもう無いかもしれんってことだ。だから俺と相棒はそっちに向かわせてもらう、上手くいきゃ状況もひっくり返せるはずだ、期待しててくれていい」

「それなら、私は君達を信じよう、では采配だが」

 

 ティコの言葉を信じたアニーアが、地図に手を添えると指を指していく。一同とも、真剣な顔をしてそれを見守るのだ。

 

「フラティウ殿とシェスカ嬢、バラッド君、それにテッサリア嬢も・・・本当にいいのか?君は私の知るところ・・・」

「構わないよ、それに民を守るのがそういった人種の役目だろうに?」

「分かった、ではテッサリア嬢も街の防衛線、へ参加してくれ。そしてロイズ君とティコ殿は―――」

 

 

「―――大変だぁ!」

 

 

 アニーアが言いかけたところで、声が響く。

 響いた声がとても鮮明に、自分達に向かって聞こえたものだからすぐに彼らはそれが、自分たちに向かってかけられたものだと分かりその方向を向く。見た先、幾つもの視線は一人の女性へと向けられた。

 

 テントをくぐり、走ってくるなり兵士に止められるのは一人の、ショートの緑髪の女性。頭にはベレー帽をかぶっており、身につけた白衣は紛れもない、パーミット異界研究所所長、セネカであった。

 

指揮官テントに急に闖入してきたものだから兵士が羽交い締めにして外に放り出そうとするが、それをロイズが制すると彼女に駆け寄り解放させる。

 だが一息すらつかないようにして、セネカは彼につかみかかると必死の様相で話すのだ。見れば白衣についた汚れは払われておらず、額から流れる汗も目にかかっている、それは彼女が身なりの一片も気にせず一心不乱にここまで走ってきたことを表していた。

 

「た、大変なんだ!大変って・・・ふう、はあ、ふう」

「待て待て!落ち着けってセネカ!何が大変なのかわかんねーよ!どうでもいいから呼吸整えろ!ほら、ひっひっふー・・・」

「私はまだ妊婦じゃないよ!君のほうが混乱してどうするのさ!ともかくだ、聞いてくれ!」

 

 セネカは息を整えると、胸に手を当てながら話し始める。

 一同もセネカの方を向くようにして、注目が集まった。

 

「私はその、異界の乗り物である”くるま”ってものを探すために、街の中央からちょっと外れたところにある”スクラップヤード”で調査してたんだ・・・使えるものがないかって、そしたらそこにもゴブリン達が現れて・・・急に、急になんだ、今まで誰もいなかった場所に急に出てきて、そしてっ」

「待て、車って・・・エンジンは、エンジンはあるのかよ!?まさか・・・」

「えんじん?」

「動力だ!車の後ろに何かでっかい箱みたいなもんが入ってなかったかよ!?」

「ああ、あれか!そうそう、やっぱりあれが動力なのか!確かにあったよ、手付かずのものが―――」

 

 その瞬間、ロイズと、ティコに電流が走った。

 二人は顔を見合わせると、あからさまに”まずい”といった表情をとる。

 

 

「グール・・・」

「皆まで言うな相棒、もし、”もし”奴らの狙いがそれだとしたら合点も行く、確かにこの街の人間を皆殺しにするにゃ一番手っ取り早い方法だろうよ。それにゴブリンってのがFEVの産物なら――― 放射線に耐えてもおかしかない」

「急がねーとまずいんじゃねーのか・・・クソッ」

 

 スクラップヤード、そして車、そしてエンジン。

 

 三つの単語がつなぐのは、ウェイストランドでもたびたび見られる光景だ。

 基本的にウェイストランド、もとい旧アメリカで製造された車というものは資源不足から原子炉を搭載しており、当然のように核燃料を積んでいる。それは核戦争で車体がそのまま放置され長きを経た今にあっても特性を失っていなかった。

 

 単刀直入に言えば、核動力車のエンジンに対し甚大なダメージを負わせれば、それは小規模な核爆発を引き起こすのだ。

 されど小規模といえど、半径数十、数百mを吹き飛ばすには容易で、放射能汚染の範囲は更に広がる。おまけにタチの悪いことは、複数の車が密集している場所でそんなことが起これば当然のように連鎖爆発、一度に解放されたエネルギーは半径数キロを巻き込むにも十分だろう。

 

 一等市民区は直径で2kmもない。

 

 即ちスクラップヤードに密集した車全てが爆発すれば。

 本能に忠実で、命懸けで戦いに臨むゴブリンが訪れれば。

 

「それだけじゃないよロイズ君、ティコ。”現れた”ゴブリン達はだいたい200くらいかな・・・半分がスクラップヤードに向かって今は闘技場の人達が食い止めてる、半分はあの”ボルト”に向かってる。先頭を歩いていたのは確か緑色の巨人だった、間違いない、あれが親玉なんだよ」

「ロンサムジョージの奴、ここに来て出てきやがったか!」

「相棒、奴さんミニガンを手放しちゃいなかった・・・まだ持ってて、弾もあるって見ていい。おおよそ目標は内部の制圧と戦力の分断ってとこだろ、Vaultの使い方をよく知ってるあいつが立て篭もりでもしたら――― 血の雨が降る」

 

 だんっとテーブルに拳を打ち付けるロイズと、額に手を当てるティコ。

 反応は対照的でも、気持ちは一緒だった、あの憎き緑のスーパーミュータントはまたも、先手を打ってきたのだ。

 

 ただでさえ少なかった時間が、更に少なくなる。

 ティコはアニーアに詰め寄ると、彼女が握りマップに置こうとしていた、戦力配分のための駒をひったくり、自身でもって動かし始めた。

 

 

「な、何を!?それは作戦に必要不可欠で・・・」

「すまん借りる!相棒!大男!えーいその他全員!この通りに動くぞっ!」

 

 伊達に小隊長を務めていたわけでもない、ティコはあっというまに戦力配分を決め、全員を召集した。

 

「まず大男!バラッド!お前たちはスクラップヤードに向かってくれ!何が何でも置いてある車に触れさせるなよ!もしエンジンぶっ叩かれて壊されでもしたら――― その時はこの街が根こそぎ消し飛ぶ、冗談じゃない」

「任されよう、だがしかし・・・街を一つ吹き飛ばす爆発とは、聞きしに及ばないものだ、現実なのか?」

「そ、そうですよ、まさか街にずっとそんなものがあったなんて」

 

「萎縮してるとこ悪いが、現実だ。幸いだったのは今まで誰もそれに手を出さなかったところだろうよ、いつ爆発してもおかしくなかった・・・これが終わったら、どこか遠い場所で処分せんといかんな」

 

 こめかみを掻きながら、ああ怖い、と震えるふりをする。

 バラッドとフラティウも、ふと、冷や汗が垂れていた。

 

「次!テッサと赤い魔女ちゃんは防衛線の支援に行ってくれ!」

「ようやくボクの新魔法が試せるってことだね?楽しみだよ、少し飛び出しちゃうかも」

「死なん程度にな!」

 

 レーザーライフルに頬ずりし、見た目に反した艷を見せるテッサ。

 ティコはそれにほんの少し引くと、せめて危なくないように、と念を押した。

 

 すると、シェスカが食って掛かる。

 

「ねえ!なんであたしはフラティウ様と一緒じゃないの?お守りするのも、されるのも―――」

「お前さんの範囲魔法ってやつが万が一引火でもしたらたまらんからだ、それになにより、範囲を攻められるなら防衛線上の敵を焼き払ってもらうことが一番効果的だ、今回の作戦の成否はお前さんにかかってるぞ!よっ、英雄!」

「そ、そう?そんなに言うならやってあげる!見てなさいよー?あたしの青い炎の前に、オーガだってメイジだって焼き払っちゃうんだから!」

 

 ティコにおだてられたシェスカが身体をくねらせていい気分になるのを見届けて、ティコは更に配置を決定するのだ。

 

 残ったのはただ二人、相棒と、そして自分だった。

 

「相棒、お前さんと俺だが・・・」

「わーってる、あいつをぶっ倒すんだろ?前は負けたけどよ、今度はバッチシ―――」

「―――いや、すまんが違う、お前にゃ別の役割を頼みたい」

「・・・は?」

 

 予想していた答えとは反する回答を得て、すっとんきょうな顔をする。

 ティコはそれに軽く咳をしてごまかすと、言葉を続けた。

 

「お前はVaultに向かってくれ、メインフレームまで入ってセキュリティボットを再起動させれば、それだけで俺達の勝ちだ。パワーアーマーなら奴らのど真ん中を強行突破できるだけの能力がある、露払いは俺がやるから・・・」

「ま、待て待て!じゃああのデカブツはどーすんだよ!まさか―――」

「ああ、俺がやる、俺一人でだ」

 

 はっきりと言い放つティコ。

 ロイズはそれに歯を噛むと、彼に詰め寄った。

 

「・・・どーしてだよ」

「第一に時間がない、仮に”条件”の達成があったんなら恐らく・・・カウントダウンにしちゃ遅い、多分だが24時間だと仮定した話なんだが、それならきっとあと四時間が関の山だ、休んで、あいつらを突破して、隔壁を開きつつ進んでいったらそれこそ間に合うかわからん」

「休みなんてっ」

「馬鹿言うな、寝てすらいないってのにこれ以上無茶しちゃ身体壊すどころじゃすまんぞ相棒。30分だけでもいいから休め、俺からの忠告だ」

「う、うう・・・」

 

 唸り声は不服ながらも、一歩引き下がったことは納得を告げる。

 ティコはそれに安堵の息を吐き、話を続けた。

 

「第二に、あいつは俺に執着してる。それなら俺が相手をすればその場に釘付けにできるはずだ、それに――― なんとなくだが、あの哀れな妄執巨人は、俺が引導を渡してやらなきゃならん気がするんだ、なんとなく、だけどな」

「なんとなくで、納得しろって?」

「そこは俺を信じて任せてくれるか、相棒の度量に任せるさ。ともかくそう言うことでいいな」

 

 ロイズは目をつむりしばし苦い顔をしたあと、きっぱりと、覚悟を決めたかのような顔に変わって頷く。肯定と受け取ったティコは彼の頭をぽんぽんと叩き、後ろを振り返った。アルがいて、一枚のカードキーを差し出していた。

 

 

「これ、使うってことですよね?」

「お利口だ嬢ちゃん、待っててくれ、きっと奴らを根絶やしにして帰ってくる・・・武器、運びだしてくれてありがとな、おかげで奴さんに手加減なんて無様な真似せんで済みそうだ」

「待ってます、いつもそうですから」

 

 腰を落として、ぎゅっと抱きしめる。

 受け取ったマスターキーは更にロイズへ渡され、彼は器用にパワーアーマーの首元の隙間から手を差し込むと胸ポケットにしまう。

 

 それに全員の準備が終わると、ティコは言い放つのだ。

 開戦の合図にはまだ早い、しかし覚悟の台詞だった。

 

 

「よし!全員30分後に出発だ!短い時間だが休んでくれ!絶対に生きて帰って来い!死んでもマリアッチ楽団の葬式なんざ挙げられんし、二階級特進だってさせてやれん!いいか!死ぬなよ!無茶すんな!」

 

 言うと同時に、どっと座り込む。

 彼自身も、彼の相棒も、疲れていたのだ。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 ―――一歩。

 

 

 ―――また一歩と踏みしめる。

 

 

「ふふっ・・・」

 

 足元を靴越しに通る感触、それは柔らかい土や、石の敷材のような不完全なものとは違う。裂け、割れているとはいえどコンクリートの感触を足に感じ、ロンサムジョージはつい、顔が笑っていることに気付いた。

 

「実に、実に懐かしい・・・帰ってきたぞ、Vaultよ、帰ってきたぞ、我らに進化を与えた神殿よ、帰ってきたぞ・・・!」

 

 足を地面に打ち鳴らし、ゴブリン達の足を止める。

 

 総数は百と少し、分隊を分断したためにやや戦闘には心許ない数であったがそれも、彼という強大な存在によって無数の戦力に等しかった。

 

 現に―――

 

「“街”の人間達よ!尻尾を巻いて逃げるならば命だけは見逃してやろう!我々の目的はそこにある!これは忠告だが、早いところ街から出て行くことに越したことはないぞ!命は大事にするものだ!民主主義国家アメリカの人間である私は、協力的な人間ならば笑顔で送り出そう!」

 

 野太い、人間のものではない、咆哮にも聞こえる叫び。

 

 Vaultの前を固めていた兵士や民兵、闘技場くずれ達はそれに恐れおののく者もいて、特に士気の低い民兵や現金な闘技場崩れの中には彼の言うとおり、武器を捨て尻尾を巻いて逃げていく者もちらほらと見られた。

 

 彼は今身体を大きく見せるために背筋を伸ばしているから、その背丈は実に3mに届く。緑の巨人が見知らぬ、未知の武器を携え百の軍勢を街の中心に進軍させてきたのだから、今戦うべく残っている者は既に退路を絶たれていると判断した者か、街を愛しそれに殉じようとしている者ばかりだった。

 

 ロンサムジョージはしばし待ち、とうとう逃げようとする人間がいなくなったのを悟ると、ふう、と残念そうに息を吐いてミニガンを構えた。

 

「残念だ、では我らの歴史の礎になって頂くとしよう」

 

 兵士達は、木づくりの盾を構えて攻撃に備える。

 剣も携え、いつでも斬り合いに転じられるのだ。

 

 だが刹那、ミニガンが火を噴いた。

 電気発火の鞭が尻を蹴飛ばし弾丸の火薬を弾けさせ、秒間数十発に及ぶ弾丸はライフリングの回転に従って全てがその射線上のあらゆるものをなぎ払うため飛翔するのだ。5mmの弾丸は、木製の盾を木っ端微塵に砕き肉をえぐり、骨を破砕させ内臓と脳を破裂させる。

 

 右へ、左へ、また右へ、数十人がいただろう、未曾有の”大虐殺”は、ものの数秒のうちに行われたのだ。

 

 

「骨のある者はいないのか?・・・ああ、骨も砕けてしまったな、失敬」

 

 ちりぢりに散った死体の上を歩くのは気が引け、ゴブリン達に蹴りださせる。

 そうしていると、彼はふと思うのだ、これほどに作戦を上手く行かせる協力者と、その力が素晴らしいと。

 

「“灰色髪”だったか、顔を見せぬのは礼儀に反するとは思うがそれでも素晴らしい力よ、これだけの軍勢を誰にも気づかれることなく、これだけの人垣の中核に侵入させられるのだ・・・彼女の協力があれば、街だけに及ぶまい、王都とやらもいつか落としてくれよう」

 

 にっと笑みを浮かべ、野望を頭に浮かべる。

 

 この街を奪えば、ゴブリン達の数と質、それは更に強固なものとなる。手始めにこの国を、大陸を手に入れ、世界を新人類たる自分たちで溢れかえさせる野望が見えてくるのだ、そこに障害はもはや無く、唯一の懸念だったVaultの扉は開いている、それも外から開けられる仕様だ、自分だから知っているのだ。

 

 ―――そこでふと思う。

 

「出来ることなら、彼らと一戦交えたかったものだ・・・まあ、今更追い付いてきたところで何が出来るという話だが、それでもロイズ君は名誉の中に殺し、ティコは同胞として手を下したかったという気持ちは心残りだ・・・同郷の者としてな」

 

 

 手にしたミニガンを下ろし、しみじみと思うロンサムジョージ。

 

 だが考えても仕方ないと、彼は足を進めた。

 あの扉をくぐれば目標は半ば達成される、どの場所に”緑の霧”が散布されるかも知っていれば、あの場所がいかに強固かも知っている。この街を核の炎に包み再興する計画も、ゴブリンあってこそ。

 

 Vaultの内部にいれば、懸念することはない、外の陣にいるゴブリンも生き残るだろうし、ゴブリンがある程度の広さの場所にいさえすれば、あとは勝手に増えて兵力もあっとういうまに元通りになるのだ、数千の軍勢の半数以上を捨て駒としたこの作戦は、ゴブリンという種族あってこそのものだった。

 

 彼は一歩、また一歩、先ほどより濡れて不快になった道を足早と、進む。

 

 

 ―――だが。

 

「・・・む・・・?」

 

 振り向くと、自身の身体に一点の赤い点が浮かんでいるのを目にする。

 

 それはゆらゆらと動き、されど右へ左へ動いてみると自分へとついてくるのだ。知る限り”レーザーポインター”というものであり、それを使えるのは恐らく――― 彼はその発信源を見るべく顔を上げ、そして、

 

 

「おのれっ!!」

 

 一瞬の躊躇いもなく、彼はミニガンを構えると空中に向かって掃射した。

 

 向ける先は一本の飛翔物、”ミサイル”と呼ばれるものであり、ジェット噴射の瞬発力が凄まじい勢いで迫ってくるのを彼のミニガンの掃射が迎え撃ち、なんとかと間近、直撃する前に空中で爆散させる。

 

 だがその衝撃波はゴブリン達を遅い、実に悪い場所で爆発したために五分の三は熱と衝撃にひしゃげ、崩れるのだ。

 

 

 ロンサムジョージは悟った、何が起こったのかを。

 ロンサムジョージは悟った、何が訪れたかを。

 

 ロンサムジョージは悟った――― これから何が起こるのかを。

 

「ふはは・・・はははははっ!!来てくれたか!嬉しいぞ!」

 

 

 笑うロンサムジョージ。

 その視線の先には、一人の男が――― 否、目を移せば屋根に乗る彼の真下に、別の男もいた。

 

「ったーっ!ミサイル撃ち落とすとかデタラメだろ!相棒すまん!失敗だ!プランBで行くぞ!」

「ああ!?聞いてねえよんなもん!」

「強行突破だ!俺があいつは抑えるから・・・お前は前だけ見て走れッ!」

「あー・・・ああもう!死んだら恨むからなー!」

 

 ミサイルランチャーを放棄し撃ち込まれる弾丸を屋根から飛び降りて避け、ロイズのすぐそばに着地したティコはロイズに発破をかける。

 

 ロイズはその言葉に拳は構えずに、ただ走る、そのためだけの姿勢を取ると一気に駆け出すのだ。同時、ティコもAK-112を発砲しロンサムジョージを牽制すると、ロンサムジョージも弾を放ちながら位置を変えてVaultの、頑丈な鉄壁を遮蔽物に備える。

 

 両側から弾丸が交錯し、背筋が凍る思いをしながらもロイズは駆け抜け、ゴブリン達を跳ね飛ばしロンサムジョージが遮蔽に身を隠した隙を見て一思いに、前のめりに駆け抜けるとVaultの扉に入っていく。

 

 その背を狙い撃とうとすれば、ティコの弾丸が背中に刺さるのだ。

 

 ロンサムジョージは後ろを振り返り、ようやく姿を表し歩み寄ってきた、黒衣のレンジャーに凶悪な笑みを見せる。

 ティコもまた、ヘルメットの内側で歯を食いしばった笑みを作ってやると、彼に銃口と共に返すのだ。

 

 

 ―――戦いの火蓋が切られ、街という戦場に火を着けた。

 

 

 

 

 





参考なまでに、
Vault-wikiより
http://fallout.wikia.com/wiki/Grenade_rifle

・グレネードライフル
 ブーマーのクエストで手に入ってお世話になるタイプの人が多い気がします。グレネードは持て余すからじゃんじゃん使っていけるし、けど微妙に威力に欠けて後半はあんまり使われなくなっちゃう悲しい武器な気がします、先手打って大打撃叩き込むならミサイルがいいですし。

(´・ω・`)明日から二日ほど旅行に行くのでその間はまず更新できません、二日で更新は最盛期テンションの時くらいですが・・・。度々旅行で拾ったネタを使っていたりするのですが、また旅行先で面白いネタ拾ったら次の話はもっと面白くなるかもしれません、では!
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