>Fallout Shelter
>このアイテムはお住いの地域では・・・。
(´・ω・`)
(´・ω・`)
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分家だけどお盆忙しかったです。
ついでに今度は右足を捻挫しました、踏んだり蹴ったりです。
(´・ω・`)ついでにこれがSPOREじゃ限界でした。
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久しぶりのファンタジーメイン回です。
13917字。
街の防衛線は強固で、街の風土上精強に鍛えられた兵士と負けず嫌いの民兵、名誉を挙げようと現金に戦う闘技場常連、更には闘技場運営の召喚士、街に配備されていた騎士達もが集まりゴブリンによる雪崩れ込むような攻撃を凌げていた。
―――が、それも今まで。
どれほど屈強で土を噛み身体を、技を鍛え上げてきた人間達と言えど、無限にその力を発揮できるわけではない。
当然いずれは疲弊し、判断力も、腕の力も、飛びすさぶ矢を見抜く目もあらゆるものが鈍るのだ。特にゴブリン達に対し数で劣り、交代要員をほぼ持たない状態で戦っていた街の兵士達は既に、数をいいことに次から次へと休みのない攻撃を仕掛けてくるゴブリンやオーガ、ゴブリンメイジ達の前に確実に押されていた。
「騎士ゲイル、騎士ロテス、討ち死に!」
「なんと二人も!・・・とうとう限界が近いと言うことか・・・!」
ゴブリンメイジの放った氷の渦を、疲労による集中力の乱れと扱えるマナの量の限界から捌ききれなかった騎士の訃報が届き、騎士隊長は頭を抱える。
事実、最前線の指揮テントの中からも、外では次から次へとひっきりなしに負傷者を載せた担架が運ばれてくるのが見え、それは戦いが始まった当初よりも遥かに数を増やしていることが見て取れていた。
「隊長、このままでは防衛線は再び突破されます!そうすれば・・・」
「皆まで言うな・・・ほぼ円形のこの街だ、後退すればそれだけ防衛する箇所は増え、人手が割かれる・・・そしてもう割ける者はいない、後退は事実上の敗北を意味する。もしこのまま下がるのなら街の全員を北門から脱出させ、街を放棄することになるが・・・」
重い沈黙と、のしかかるような責任感が彼を潰そうとする。
対処が可能ならばどれだけ出血を強いられようが喜び勇もう、それが騎士たるもの。
されど既に見える未来は狭まり、選択肢はわずかに落ち着いてしまっている。武人としてはきっと、戦い抜くことこそがあるべき姿なのだろう、しかし、未来に血塗られた街が見えるとするとどうしても、気が引けてしまう。
「どうにもならないのか・・・王国軍の到着は?」
「まだ六日、早馬を駆っても二日はかかるでしょう、我々はそれまで」
「分かっている、死守しなければならなかった。だが既に士気は地に墜ち兵は疲弊し、街道は血に塗られている・・・本来防衛するべき城門は、既に突破されているのだ。遅かれ早かれ、我々は敗北を喫するだろう、故に―――」
ぐっと歯を噛みやるせなさを噛み殺し、騎士隊長は目を瞑った。
「―――我々がすべきことは、一人でも多くの人間をここから逃すことだ。歴史上稀に見る撤退戦、か、歴史書に私は敗戦の将として未来永劫名を語り継がれ笑われるのだろう、だが甘んじて受けよう、今を生きる人間を生かすこともせず無駄死にさせては、それこそ愚の骨頂であるからな」
「隊長」
「分かっている」
騎士隊長は、深く息を吸い、吐いた。
そうすることでせめて心を落ち着け、覚悟を決めようと、未来に自分の名前が笑われる不名誉を甘んじて受けることを受け入れようと――― せめて今を生きる者の命だけでも、明日につなげようと。
彼は覚悟を決め、盤上の駒を後退させ―――
「―――君は」
「んなカッコつけなくていいのよ、黙ってあんた達はあたし達の花道を空けてくれればいーのっ・・・後はあたしに任せりゃいいのよ、こういう時に弱い人たち守るのが、あたしみたいな貴族の仕事でしょ?おじいちゃんならそう言うわ」
靡くのは真っ赤な長髪。
まるで揺らぐ炎のようで、身にまとった青い軽装ウィッチドレスとのコントラストは静と動、二つのきらめきを醸し出しているかのようで目を引き奪う。手に持った木杖は埋め込まれた宝石と合わせ、豪奢さと荘厳さを同時に感じさせた。
フランシェスカ・パレ・ガイウスが盤上の駒を動かそうとするその手に手を重ね、無理矢理元へと戻したのだ。騎士隊長は突然のことであっけにとられ、彼女にされるがままに駒を握った手を離す。
そうしていると彼女の隣に並び立つように、もう一人が立った。
流れるような長い銀の髪と、幼さを残した美貌が目を引く、テッサリアだった。
「諦めるのはまだ早いよ隊長さん、今ボクの仲間達が、この街をどうしても救いたいって言って聞かなくって戦ってる。たぶんボクの知る限り”白銀闘士”さんはたった一人だと思う、けどそれでも彼らはどれだけ傷ついても、諦めて膝をつこうとはしないはずさ」
「“白銀闘士”・・・知っている、闘技場でつい最近に大立ち回りを見せ、現役最強と謳われたフラティウ・ドムアウレアと超獣ウグスト・ラゴンを制したというあの・・・彼もまた、戦ってくれているのか」
「なんだ、結構詳しいんじゃないか」
改めてこの街は闘技の街なのだなあ、とテッサは顎に手をやる。
騎士隊長は、テッサの言葉を受けるとぷるぷると震えだした、諦めようとした自分を恥じていたのだ。
彼はテッサとシェスカを向くと、問う。
「魔法使いフランシェスカとエルフのお嬢さん、ならばどうすればいい。既に我々は限界なのだ、私の指揮で捌ききれる限界が既に目の前まで迫っているのだ・・・どれだけ指揮をこなそうが、地力で負けていてはどうにもならん」
「それを考えるのはあんたの仕事でしょーよ?・・・だから、あたし達が地力になるのよ」
「・・・君達が?」
「魔法使いナメんじゃないのよ?そうねぇ、だいたい――― これぐらいは消し飛ばせるわよ、一発で」
シェスカが指でつーっと、テーブルに置かれたマップ上にぐるりと円を描く。それは実に、一度の発動で二百を超える相手を巻き込めるのに十分な範囲であった。騎士隊長は驚き目を剥き、次いでテッサにも向く、シェスカでこれなら、共に立ち上がったテッサも、という期待の心であった。
「ボク?ボクはねぇ・・・まあ少し弾が”散る”から当たるかどうかはわからないけど――― これくらい?」
つーっと、やや悩ましい軌道でテッサも円を描く。
その範囲は、シェスカの魔法すらも超えた半径を記録していた。それに一番驚いたのはほかならぬシェスカで、彼女に眉間にしわを寄せた目を向けると訝しむように見る。
「いつのまにんな魔法身につけたの?あたしだってやろうと思えばそれくらいできるけどさぁ・・・それにしたって、魔法使いでもないあんたが」
「ノンノ、
「なーんか頼りないわねぇ、まあいいわ・・・それで騎士隊長さん、任せる?どうする?」
腰に手を当て、指差してシェスカが問う。
テッサも持ち込んでいたらしいレーザーライフルを背負い直すと、いつでも出られるとばかりに笑いかけるのだ。
騎士隊長の思考に、期待と、一抹の不安がよぎる。
こんな幼気な少女たちに任せてしまっていいのか、だが彼女らの言うとおりなら――― いくつもの悩みと疑問が頭に浮かぶ。戦地に戦士を送り出す判断を下すのは自分だが、いつだって判断だけなのだ、別の街では勇み足に自ら剣を抜いて斬り込む団長もいるそうだが、自分の役割は昔からこうだった。
だがふと、テントの外にまた一人と、傷ついた者が運ばれていくのを見た瞬間、そのうめき声が耳に届いた瞬間。彼ははっと気付いた、考える時間はないのだと、既に時間はないものだと。戦いたいと望む者に戦いの場を譲れないなど、指揮官としては――― 失格だと。
やがて彼女らと騎士隊長との間に沈黙が流れ――― それはすぐに、打ち破られた。
「―――君達に、賭ける、この街を、戦っている戦士達を、頼む・・・!」
「あいっさー!さーぁ行くわよ銀髪エルフ!全部あたしが仕留めるからあんたは後ろで見てなさい!ぜーんぶ焼いたげるんだから!」
「お言葉だけど、ボクも死体を横に寝てられるほど神経が図太いわけじゃないんだ、とっても華奢で繊細な女の子なんだよ。君こそボクの射線に入らないでくれたまえ、
彼女たちは、後悔を振りきった男の視線を背に受け、後ろ手に手を振りテントを出て行く。
戦地に赴くにはあまりにも軽く、あまりにも頼りない。
だが駆けて行く彼女たちはとても、勇ましさに溢れていた。
降り注ぐ炎が魔法障壁に弾かれ、頭上で消え去る。
それに背後の守りがまだ万全であることに安心すると、構える盾越しにひっきりなしに衝撃を見舞ってくるヘビーオーガに剣を向けるのだ。されど自分でも分かるほどに息は荒く、筋肉は弛緩しかけている、限界を迎えているのは既に騎士たる自分自身で理解できていた。
既にこの場所に設置された木づくりの防御柵は突破されており、残るは人間自身が盾になることのみ。状況も既に限界が近く、されど騎士たる者だからこそ、戦いを止めるわけにもいかなかった、自分が倒れれば、次に斃れるのはより弱き背後の者だ。
ヘビーオーガの腹部に刺し込まれた剣が鎧の隙間を縫ってその分厚い表皮を貫いたことにわずかな高揚感を覚えると、火の魔法を発動して剣先を伝導、オーガの体内を蹂躙してやる。
残り少ない使えるマナを振り絞っての一撃が鎧の中の、ヘビーオーガを真っ赤に燃え上がらせたことに更なる、一時の勝利への安堵と高揚を覚えると、ふと顔がにやつき――― そこで、気付かないほどに来ていたのだろう、肉体の限界が足元をふらつかせ構えた盾を解かせてしまったのは不幸だっただろうか。
だがより不幸だったのは、ヘビーオーガの規格外の耐久性だ。伊達に”重量級”などという名前を冠しているわけではないということだったのだ、鎧の中から昇った火に既に表情も分からないくらいに顔も、手も、鎧の隙間から覗く皮膚も焼けただれているのにもかかわらずヘビーオーガは、戦鎚を振り上げていた。
まるで本能が全てに
「なっ・・・」
声を漏らす時にはなんとかふらついた足を戻していた、だが遅かったのだ。
ヘビーオーガが断裂し爛れた筋肉を振り絞り、勢いのままに振り上げた戦鎚は私の頭部へと重力に従ったまま振り下ろされて―――
―――瞬間、赤き閃光がヘビーオーガを撃ち貫いた。
更に瞬間、ヘビーオーガは真っ赤に輝いたかと思った後、一瞬にしてそう、”灰の山”と形容すべきものへと姿を変えたのだ、振り下ろされた戦鎚はそれにより軌道を変え私の真隣に落ち転がり、後に残った鎧は灰の山が崩れると同時に地面にガシャリ、と重い音を立てて落ちる。
何が起こったか、自分でも分からなかった。
一瞬で敵を灰に変える火の魔法、閃光、故に私はつい後ろを振り向いて―――
「よっし命中!ボクの腕も悪くはないだろう?」
「ほんとに分からない道具よねぇ・・・”じゅう”だっけ?大量生産できるなら軍事バランス崩れるわよ、誇りも名誉も全て押し潰しちゃうじゃない、遠距離から相手を蹂躙するなんて・・・あたしが言えたことじゃないけど」
「違いない、でも話してる暇はなさそうだよバーニング・シェスカ、さあ、一発大きいのを頼むよ」
レーザーライフルの命中弾がヘビーオーガを灰燼に帰したことにぐっと握りこぶしを作って喜んだテッサは、シェスカに呼びかける。シェスカも既に魔法陣を展開し、溢れ出る火のマナに包まれているほどには準備万端であり、呼びかけた次の瞬間、シェスカはお決まりの杖をくるくると回す動作を見せると間髪入れずに己の自慢である上位魔法を発動させた。
「名づけてブルー・ドラゴン!」
発動と同時にまばゆく光る魔法陣、そして現出する”青い龍”。
ロイズからの教授で生み出せた高純度の炎、真空の刃に包まれた青の龍は自陣の中にあっても周囲の人間がつい恐れおののいて身を引いてしまうほどの高熱をもって、高く高く天へと昇る。
その圧倒的な存在感は敵味方双方がつい剣を打つ手を止め、互いに空を見上げてしまうほどのものだ。
されどその大きな顎が向かう場所は見上げる目の、その場所そのもの。つい我を忘れ存在に見入ってしまったゴブリンは、その龍が自らを喰らいに突進してくるのに気付いた頃には、既に逃げ道を失っていた。
「アアアアァ!!」
元が人間だったのなら、叫びも人間に近いのだろう。
誰もそれを知る由はなかったが、原始的な不快感がそれを聞く戦士達の間に広がる。集団のど真ん中に直撃した炎の龍は彼らを食らいつくさんとばかりに地面を這って一気に広がり、足元から地獄の業火で焼きつくすのだ。
唯一対処できたのは魔法防御壁を展開できたゴブリンメイジであったかもしれないが、それらは特に重点的に、直撃コースで始末できるようシェスカ自身が狙ったために炎の龍を受け止めきれず、結果ごく一部を除いて焼却される結末を迎えた。
圧倒的な破壊、蹂躙、魔法使いとはかくも恐ろしいものか。
闘技の街を生きる人間でも、ついその赤い髪が靡く姿に震えを感じてしまう。
だがその”踊り食い”の場の向こうから、更なる敵がまるで向こう見ずと言わんばかりに猪突猛進に地を踏みしめ向かってくるのが見えた瞬間、兵士も騎士も、姿勢を改め再び戦闘姿勢を取る。前衛を担うのは騎士隊の亀甲隊形で、防御に特に適した形だった。
―――だが。
「ごめんね、よかったら魔法防御を展開してもらえるかな?」
「・・・?」
銀髪のエルフ、テッサの急な呼びかけに騎士はややうろたえる。
されど横にシェスカが並び立っていたことに察すると、騎士は仲間たちに呼びかけいっせいに魔法防御を展開した。力に対する信頼だった。
それに魅力的に微笑むと、テッサはレーザーライフルを構える。
向ける方向は、上空、騎士隊の亀甲隊形のやや前方上だった。
「エル・フォトス」
短く呪文を唱えるとともに、上空に出現するのはひとつの光球。
まばゆく輝く光球は小さく、頼りない、光球はその身から一片の光弾を撃ちだすとゴブリンの一体を弾き飛ばすが、威力に欠けるのかすぐに立ち上がる。その悪く言えば、無様な魔法には周囲の人間は拍子抜けし――― されど、テッサだけはただ、嬉しそうに笑んだ。
「方向はこんなものでいいかな・・・さて、やりますか」
光球が光弾を吐き出さず中空に浮くだけになった後、テッサは構えたレーザーライフルを光球へと向ける。
そして引き金を引くのだ、マイクロフュージョン・セルから給電された核熱の電力が銃身に巡らされた電気コードを通って内部機器へと収束していき、プリズムレンズを通して寸分狂わない精度のレーザーを大気中に照射する。
照射されたレーザーは上空の光球に着弾すると消え去り、だがとたん、光球はあたかもレーザーを”吸い取った”かのように膨らみ始めるのだ。それはレーザーをテッサが撃つごとに顕著になっていき、いくつかは外れていた最初とは違い大きく、的が大きくなるにつれ命中精度は更に向上し、飛躍的に光球は膨らんでいく。
それがまばゆく赤々しいまでに巨大な、小さな太陽のごとく様相を呈するようになったころ、ようやくテッサは満足気にくびれの薄い少女じみた腰に手を当てて笑み、光球を見上げる。その意図が理解できないシェスカは彼女に首を傾げて聞いてみせた。
「・・・ねえ、何したの?自分の魔法に攻撃して、暴走させようとしてるようにしか見えないんだけど・・・」
「いやいや、それでいいんだよ、暴走させてしまうんだ。レーザーって言うのは本当に素晴らしいよ、この一瞬の閃光に誰も成し遂げられなかったような、究極的な熱が詰まっているんだ。それをフォトスに詰めることができれば―――」
説明するときのテッサは自慢気で、満足気で。
シェスカはまくしたてる勢いに気圧される。
「ボクも内側から爆発しそうになる力を封じ込めることを長時間するのは骨が折れるからね、昔からフォトスの魔法でそれをやろうとした人たちは時間がかかりすぎて結局失敗してたけど、つまり短い時間にそれをこなせればそれは・・・究極的な力にもなる」
「究極的な・・・?」
「そうさ、レーザーならそれができる。見てごらん、今にもはちきれそうだろう?つまりボクもはちきれそうなものだから早めにネタばらしはさせてもらうけどね?さっきの光弾は射出方向の確認ってだけさ、つまり―――」
テッサはレーザーライフルを構える右手とは逆の、左手を高々と掲げ、そして。
「―――こうすればいい」
パチン、と指を弾いた。
「・・・なっ!」
「驚いただろう?これがボクの考えだした新しい魔法さ、魔術と”科学”の融合・・・名付けるなら”魔科学”とかどうだろう?論文を出すのは退屈だからやらないけど、知識の深淵に触れるのが何よりの楽しみなボクとしても、新しい知識を生み出すのは実に・・・」
言い続けるテッサの目の前では、更なる蹂躙が場を支配していた。
膨らみ赤く仕上がった光球はまるで砲台のごとく、無数の赤混じりの光弾をゴブリン達に向けて打ち出したのだ。まさに足の踏み場もない、雨のように隙間のない光弾が幾度と無く降り注ぎ、シェスカの炎の龍に対しメイジには防がれていることから威力は知れれど範囲は更に広い。
オーガなどは更にひどく、被弾面積がなまじ大きいものだからレーザー光の熱を内包した光弾を身体に無数に受け次々と斃れ、ゴブリンも弾を受けた瞬間に燃え上がっては暴れ、付近の仲間を巻き込んで更に炎上してはばたばたと斃れていく。
肉が裂け、血潮が上がり叫び声は反響する。
散った血は間髪入れずに蒸発し、鎧の中で干上がったオーガが立ったまま死んでいることもあった。
たった数分、たった数分の出来事だったにもかかわらず、地面に敷かれた石張りの道を粉微塵に砕き散らせた光弾の嵐は、ゴブリンの大部隊と防衛線との距離を更に遠くへと引き延ばしていた。
「―――名づけて、レーザー・フォトン、とかどうだろう?」
「・・・いいんじゃない?」
あまりに痛烈で、鮮烈で、強烈な出来事であったために、誰もが押し黙る。
だが数瞬の後、人々が我に返って互いに目を合わせた後――― ようやく状況を理解できたらしい彼らは、身体に力が漲ってくるのを感じたのだ。つい笑みがこぼれ、声が上がる、吠えると誰かも呼応して吠え、ずっと前進を待ち焦がれていた勇む足は、敵との距離を詰めんと一気に走りだす。
防衛線の戦局は、たった二人の少女により好転へと転じた。
―――それを間近で見ていた灰色の髪の女には、誰も気付かないまま。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
フラティウの握る剣は、かつては”だんびら”と呼ばれるタイプのブロードソードの超大型であり、呪い剣ベルセルクは黒の刀身、彼の黒の鎧、黒の髪と合わせてまさしく”黒の剣士”の称号が与えられたとき、誰も意義を唱える者はいなかった。
そして今、彼が握っているのはブロードソードには違いないが、以前よりも巨大さは鳴りを潜め刀身の色も白銀色となっている。これは彼が、自身を狂化から救い上げてくれたロイズへの敬意から次なる相棒、剣を見繕う時に決めた色で以前とは正反対であったことから、彼の”黒の剣士”の称号を付け替えようという動きがあった。
結局、”白銀剣”、”黒衣の聖戦士”、”シマシマ”など様々な名称が挙がったがいつのまにか、なぜかそれらの名前が誰かと被るような気がしてならず、無かったことにされたのはこの街の記憶にあたらしい。
黒の剣士は今日も、白銀剣を振る。
”白銀闘士”への敬意から選んだ剣、それは―――
「なんとッ!持たなかったか!?」
―――半ばから、ぽっきりと折られていた。
フラティウとバラッドは、街の中心部に突如として現れ、そしてスクラップヤードへの自爆攻撃を決行しようとするゴブリンやオーガ達の分隊を場に急遽駆けつけた闘技場くずれの民兵三十人程度と共に相手取っていた。
されど相手の数は実に60はおり、そのうちオーガ、ヘビーオーガの数がなにぶん多かったために民兵では到底相手にならず、実質彼らをフラティウ一人で相手にする羽目となったのだ、防衛線の戦闘が楽になれば兵士が駆けつけてくるかもしれないが、それまでに持つかは分からない、今もゴブリンメイジが魔法の詠唱を、ゴブリンに囲まれ守られた領域で行っているところであった。
「バラッド!」
「言われなくてもですよっ!」
詠唱を続け、魔法陣を生み出したゴブリンメイジの額に矢が突き立つ。
バラッドは山積みにされたスクラップ車の上に乗って、迫り来る目標や遠距離攻撃可能な敵を矢と投げナイフで狙い撃つ役割を民兵の弓兵と共に行っていた。
「持ちませんよ!」
「持たせてくれ!」
車上からぞろぞろと迫るゴブリンの盾に弓を射り、近寄られれば民兵との交戦でなんとか凌ぐ。
バラッド達の知識には無かったが、これが小規模な廃棄車両置場、建物に囲まれているために人方向しか攻め場のないスクラップヤードであったことが幸いだろう。もっと大きな場所であったら四方八方から攻められた場合、手が届かず既に終わっていたに違いない。
バラッドは自分の足元に爆弾が存在することに戦々恐々としながらも、敵を射らねば自身、強いては街そのものが消滅するのだという事実に使命感を抱き、次から次へと、矢が尽きる勢い、弦が切れる勢いで矢を放っていた。
「ぬぉぁぁぁ!!」
彼らの前方、地面に足をつけて戦うのはフラティウで、オーガに向かって剣を叩きつける。半ばまで折れた剣であったから既に重量は半分、威力に欠ける剣撃はその腕を一本叩ききったのみで終わってしまった。
「オォォォォッ!!」
「ぬあぁぁぁ!!」
されど押し負ける黒の剣士ではあるまい、リーチが短くなったのならばそのぶん詰め寄れば差し引きゼロだと言わんばかりに、一瞬の逡巡もなしに決断すると彼は距離を詰めてまた剣を振り下ろす。
一度目で武器を落とし、二度目で腕を落とし、三度目で頭を割る。
彼の白銀剣は既に無残であっても、フラティウ自身が無残でなければ戦闘は継続可能だ。
これがかつての呪い剣ならば更に一騎当千の活躍を見せることが出来たであろう、だが今持っている白銀剣は出来合いのもので、なんら特別なものでもない、この街にあったものでは上等だったかもしれないが、呪い剣ほどではなかった。
それにそもそも、剣とは相手を切り裂くためのものであって硬度のある目標を破壊するのには向いていないのだ。
ヘビーオーガの鎧と、オーガの戦鎚と。
幾多の頑強な目標に叩きつけられ続けた白銀剣が折れるのも必然と言えよう。おまけにフラティウは常人に比べ力もあり、それは魔道具の黒鎧で更に強化されている、それが剣の寿命に拍車をかけたのだ。
「・・・これが終わったら、特注の剣でも発注するとしようか」
柄に、”
そんな冗談じみた思考をノイズ気味に心に過ぎらせながら、彼はまたオーガを斬ってはゴブリンをなぎ払い、手の届かないゴブリンメイジへの道を切り開いてはバラッドが矢を射る。民兵の援護もあったが実質、フラティウ一人の戦いだ。
されど既に、この場所も限界であった。
たった60、たった60であっても敗北条件は”辿り着かれること”。
そしてよりにもよって、敵は多くがオーガ、重量級の敵なのだ、民兵では相手にならず、フラティウでも手数に限界がある。
結果水際まで追い立てられ、既に車両を背に戦っている状況。既に敵も半数まで減らしてはいたが、それでもいつ車両を殴り、射られ、魔法に焼かれるか分からぬ状況であった。
その矢先―――
「―――っ」
再び、剣が折れる。
今度は根本からぽっきりとだ、ヘビーオーガの首に根本まで刃を差し込んでやった見返りとばかりに、あたかもヘビーオーガの魂に共に連れて行かれたかのように根本から白銀剣はぽっきりと折れてしまい、刃は死体の下に残って取り出すことすらできなくなる。
フラティウは焦り、冷や汗を垂らす。
なんとか足元に落ちていた、頭の潰れた民兵の剣を手に取り再び攻勢に転じるもなまくらもいいところ、振り下ろされる戦鎚をかわし鎧の隙間に剣を差し込み、肉をえぐって出血を強いり殺す、その戦い方が必要になってくると今度こそ時間が足りなくなるのだ。
民兵やバラッドの矢による援護ではもはや足りず、バラッドも降りてくると一匹のオーガに対し回避重視の立ち回りを見せ、鎧の隙間にナイフを差し込んで出血させる。だが到底ダメージに欠けるその戦い方ではオーガを倒しきるのには時間が足りない。
「フラティウさん!間に合いません!」
「くそっ!ここまでかッ・・・諦めてなるか!」
オーガ一匹を倒すのにかかる時間が更に増え、フラティウがまたヘビーオーガを一匹仕留めた時、彼が振り返った先には一匹のヘビーオーガが車両の隣にまで詰め寄っていて、今まさに”エンジン”に向かって戦鎚を振り下ろそうとしてるところであった。
彼らはきっと、自分が何をしているかは理解していないのだろう、ただこうしろと、こうすれば勝利なのだとだけ教えられそれを本能のままに実行する。誇りも、名誉もない、あるのはただの純粋な闘争意欲であり、命令に対する忠誠心だけ。
―――故に躊躇いがないのだ。
フラティウが駆け、バラッドがナイフを投げる。
されど間に合う予感はせず、滾る焦燥だけが脳裏に走る時―――
―――ぬおおおお!!
野太い叫びが、建物に囲まれたスクラップヤードに反響する。
まさしく、”野獣”のごとき叫びだ。
絶対強者が他を威圧し、足を竦ませるための。
それは”虎”の鳴き声のようで、ある存在を、フラティウに思い出させた。
そして刹那、戦鎚を振り下ろそうとしたヘビーオーガの真横から、一本の”戦鎚”。
尋常でなく大きく、使い込まれたそれが飛来しヘビーオーガを跳ね飛ばし地面に落ちたことにより、その存在の実在は確信へと変わっていくのだ、そう、つい昨日のように思い出せる戦いの日々、その中に存在した好敵手、その一番手。
虎のごとく野太く、威圧感のある声を持ち、まさしく”超獣”と呼ぶに相応しい体躯を持っていた男―――
「―――ウグスト・ラゴン!!来てくれたのか!」
「はっはっはっ!久方ぶりだな黒の剣士、いやフラティウよ!貴様ほどの男が手こずるとは随分と鈍ったのではないか?ならば加勢しよう!この街を攻め落とさせるほど、某は怠け者を演じるつもりはないのでな!」
ウグスト・ラゴンはずっしりと、石張りの舗装を砕くほど重くなった戦鎚を拾い上げると、フラティウの横に並ぶ。フラティウも剣を握ると、互いに一瞬だけ目を合わせそして、戦士に言葉は不要とばかりに共に駆け出すのだ。
―――戦局は一瞬で傾き、そして残るは二つの戦場であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
防衛線の戦局は既に傾き、防衛側が攻撃側に見えるほどには圧倒している状況となっていた。
それを成し遂げさせたのは二人の少女で、陽魔法のテッサ、炎魔法のシェスカ、二人の大魔法によるものが大きい。テッサは頑なに魔科学だよ、と主張しているが周囲の無知な者から見れば彼女が魔法使いクラスの大魔法を使っているかのようで、しきりに魔法使いが二人も来てくれたのだと、士気はうなぎのぼりであった。
「燃えちゃいなさい!あっはっはっ!やらかした分のオトシマエ、ちゃんとつけてから帰りなさい・・・ああ!やっぱり帰さないわよ!ここで全員くたばっちゃって!畑の肥料にでもしてあげる!」
「君すごーく怖いよ今」
戦いに臨むシェスカは最も意気揚々としており、そして過激であった。
これはひとえに、自身の力を初めて”大軍”に対し行使しそれが成立したことによる興奮であって、彼女がある意味では自分の力に酔いしれていると言って良かった。瞳をきらきらと輝かせて、彼女は眼下を覆う青い炎、それが赤き炎に変わって大地を焦がしていくのをトリップしながら見ていたのだ。
―――なんだ、あたし、できるじゃない。
ふと思う。
以前の自分なら、力不足に悩んで毎日修行に明け暮れた日々があっただろう。
世に聞く英雄や、炎神と祭り上げられる祖父を超えようとひたすらに才覚を磨きあげた日々があっただろう。
だが今になって思う、そんなことをしなくても、自らの能力を引き出す”道具”さえあれば自分はこれだけの力を出せるのだ。自分は決して劣ってはいなかった、これだけの才能があったのだと感じると、ふと、無力感に苛まれた日々を思い出し目が潤みそうになってくる。
すると興奮した彼女は、その感情を振り切ろうとばかりに立ち上がる。
そしてかっと目を開き、決起したとばかりにくるりと、杖を回して構えた。
「今ならイケる気がするわ・・・おじいちゃんが使うような極大魔法、あたしにも!」
―――極大魔法。
それは魔法の極致であり、一騎当千を成し遂げる、火の魔法は一の魔法で千の軍勢を焼き払い、水の魔法は森を押し流し、氷の魔法は冬を訪れさせ、風の魔法は地殻を巻き上げ神の雷を落とす、大地の魔法は国を作ることすら可能になるという究極の魔法として語られる。
歴史上でも使い手は少なく、まっとうな血統と、鍛錬と、才能とが合わさった者だけに使え、その世代において国家に数人だけが存在するとされる極めて稀少なものであり彼らはそれだけで、”戦略兵器”としての扱いを受けるほどであった。
シェスカは今、身体に滾ってくる言いようの無い自信から、それを試してみたい気になって仕方が無かった、身体に溢れてくる無限の力と高揚感は、今まさに、自分が歴史に名を残せるに相応しい者になれるような、そんな根拠の無い自信を与えていたのだ。
横で「はぁ」と半ば呆れ気にじとりとした目を向けながら光球をまた空中に打ち上げるテッサを無視し、彼女は杖を構える。
確かな性能を持つ杖だ、誰から貰ったものかは知らないが、それだけは分かっていた。
彼女は杖を構え、マナを一気に集める。
足元には魔法陣が出現し、幾何学的な模様をうねらせ、やがて固まると発せられる輝きは実に神聖的でされど炎であるゆえに荒々しく、周囲にいた兵士や民兵に一歩後ずらせるほどの風格を見せつける。
「銀髪エルフ!二分持たせなさい!」
「放っといても持つよそれくらい!」
テッサに時間稼ぎを任せると、シェスカは次いで一気に集めたマナを魔法陣と、杖の先端へと集約させるのだ。魔法陣を貯水タンクとして、自身の身体はホースのような伝達機関に、杖は魔法を打ち出すポンプに、高度な魔法を使う時のお決まりのやり方だった、要は魔法のランクが上がっても、それを正常に出来るか否かが問題なのだ。
彼女はこれまでにないほど集中し、マナを集める。
実に二分だ、長いようで短く、短いようで長い。
しかし集中に集中を重ねるシェスカとしては、一瞬かのように流れた。
「―――行けるわ、きっと―――」
漏れだしたマナに髪が靡き、スカートもひらりひらりとたなびく。
それに自身の限界と、魔法の完成も同時に感じ取った彼女は、間髪入れずに魔法を詠唱した。
千を滅する究極の魔法、歴史に残る瞬間を、今この場所で行使しようと―――
「メイズ・アンダ・フォーゴ―――」
―――途端。
「きゃっ!?」
彼女の手に持った杖に、ヒビが入る。
そのヒビは一気に広がるとやがて、あっとういうまに杖を砕け散らせるのだ、内包したマナが溢れるように飛び散り、彼女も魔法障壁を張るのが一瞬遅れていたら大火傷を負っていただろう。
だがそれより、もっと恐ろしいのは、
「―――やっば」
シェスカはとっさに魔法障壁を限界まで張り、後ろに飛び退く。
刹那、彼女が構築していた魔法陣からまさに、天まで昇らんばかりの炎の柱が吹き上がったのだ、行き場をなくしたマナが暴走し、結果として引き起こした炎柱、極大魔法の行使のために集められたそれは夜明け前の空を真っ赤に照らす。
炎柱は上方向にのみ暴発したために周囲への被害は特に無く、シェスカも一瞬だけ炎に包まれるが、魔法障壁が功を奏し結果として軽いやけどを追うだけで済みすぐさまテッサに治癒の魔法で介抱されることとなった。
彼女は呆然とし、ただされるがままにへたりこみテッサに真新しい火傷を治療される。だが最も彼女の思考を奪ったのは魔法が暴走したこと、杖が砕けたことではなかったのだ。
その杖を与えた何者か――― それであった。
「・・・こんな不完全な砕け方、ありえない・・・普通は杖が身代わりになって魔法は消え去るもの、こんな・・・」
「・・・その杖、誰からもらったんだい?」
「そうよ、この杖、誰から」
―――考えても、思い浮かばない。
だがようやく理解した、この杖は誰かの善意が与えたものではない、誰かが自分をあざ笑うために、あるいは命すら奪うためという明確な”悪意”のもとに与えたものなのだ、そうでなければつじつまが合わない。
だから―――
「・・・考えるのはあと、今はあいつらを焼き払うのよ」
立ち上がり、されど気丈に立ち向かう。
だがしかし、何かが起こったのか、ゴブリン達の様子がおかしい。
彼らの内側から、何か暴れている者が出現しているかのように次から次へと、引き裂かれたゴブリンが投げ飛ばされているのだ。
目を凝らしてもよく見えず、されど気になって仕方がない。
だが次の瞬間、シェスカは凍りついた。
物見にいた兵士が叫んだ一言、それは、
「ま、魔獣です!魔獣が暴れています!恐らく闘技場に保管されていたものが逃げ出したか、あるいは・・・」
「なんでもいい!種類は分かるか!?」
「は、はい、ただ一匹ですが―――」
騎士の言葉を受け、物見の兵が報告する。
その名は―――
「“装甲悪鬼”ですッ!物凄い勢いでゴブリンを散らしこちらへ向かっています!」
皮膚は爛れ、細く老人のようにしわがれた筋肉。
目はほぼ潰れ、鼻は削げ落ち歯は剥き出しに、そして光る頭頂部。
しかし見た目に分からないほどに頑強な、放射線による進化を得た肉体は硬く、強靭に違いない。
なにより特徴的なのは、その身体を覆う金属の鎧だ、メタルアーマーと俗称される装甲服を纏った彼らは、銃弾すらまともに通らないと評判のフェラル・グール――― ティコなどとは違い、理性を失い人間を見境なく襲う、最悪の存在であった。
シェスカの記憶に鮮明に焼きついた、異界の魔獣。
友を、幼い自分のプライドを砕いた魔獣。
―――フェラルグール・リーヴァー。
”装甲悪鬼”とされる魔獣、それがその名前だった。