トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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(´・ω・`)気がつけば文字数800,000文字だそうで、仮にもFallout小説では最長になってるみたいなんですがジャンルがこれでいいのかしら。ついでに感想数=話数になりました、誤字報告でも文句でも賞賛でも、読んでくれてるんだという実感が湧くので投稿後の楽しみにしてたりします、毎度どうもです。

15245字、シェスカ回。


第三章 Vault28の監督官室から 38話 『赤色の極光』

 

 

 

 

「わわっ、何だお前は!?早く扉を閉めろっ!」

「分かったからガタガタ抜かさねーでとっとと道開けろ!死にてーのかよ!」

 

 Vault28の内部、邪魔となるいくつもの隔壁をマスターキーでこじ開け、その度に扉の中から現れる裕福者たちの驚いた表情、次いで見せる焦りの表情に辟易しつつも、後ろ手に隔壁を再び閉じ彼らを押しのけ次の道へと進もうとする。

 

 彼の目的と照らし合わせると一番手っ取り早いのはここにいる全ての人間を外に逃すことだろうが、外での彼の相棒と緑の巨人の戦闘がどうなっているか分からない以上、想定している最悪以上の事態に首を突っ込む可能性があるため彼はあくまでも進むことを優先していた。

 

 ここに避難しているのは先の、”灰色髪”の術中に嵌った人間を除き、貴族や豪商といった身分の高い人間が多くを占めるためいかんせんロイズに触れられるたびに怒り顔を浮かべたり、私兵を呼ぶぞと怒鳴る者が多くロイズも思うように進めないのが厄介極まりない。

 

 更に身分の低い人間と高い人間の間のいざこざが、極限状態下で行われるものだから元来正義感の強いロイズとしては放っておけなく、止めに入っている間にあれよあれよと時間が経ってしまっていた。

 

 

「・・・前来た時は嫌な記憶しかなかったけどよ、今度は・・・」

 

 カジノ裏から下層レベルへ通じるエレベータを下る間に、ロイズは決意する。

 

 あの時は自分が死に瀕しかけ、今はこの場所にいる無実の人々が生命の岐路に立たされている。立場は違えど、このVaultという鳥籠に囚われているのは同じなのだ、かつては彼の相棒が、ティコが来なければ彼は死んでいた。

 ならば今度は自分の番だと、ロイズというスクライブが皆を救って、そしてこの場所の呪縛も解き放ち全てを終わらせる番だと。機械拳に包まれた手を握って誓う。

 

 

 下層階に降りると、以前感じたようなひんやりとした空気が流れる。

 

 彼にとっても良い記憶はない、そしてなにより頬を伝う冷たさがどうしても、悪寒を感じさせずにはいられないから彼は気に入らない。

 

 以前彼らを危機に陥れたセキュリティボットは全てが活動を停止していて、明滅を停止したカメラアイはまるで死んでいるようにも、今にも動き出しそうにもどちらにも取れる。パワーアーマーと言えどレーザーは苦手な以上、ロイズは傍を通る度に寒気を感じるのだ。

 

 

 故障したエレベータの代替として扉を開け、階段を下ってようやく。

 最下層への扉が彼の前にそびえ立つ。

 

 決して彼と比べて見上げるほど大きいというようなものではなかったが、最下層レベルの扉、というネームバリューと共に地面の底までやってきたことによる空気のさらなる変化が、彼に大きなプレッシャーを与えたのだ。

 

「よっしゃ、行くか・・・鬼が出るか蛇が出るかって言うけどよ」

 

 オーガ()なら倒せる、蛇も倒せる、むしろパワーアーマー的には大蛇の方が倒しやすい。

 

 ならば敵などいないじゃないか、ロイズはぽんと手をたたき納得して心を落ち着かせると、マスターキーで最下層へのエレベータを起動するのだ。赤、赤、青のランプがプログラム上で認証を済ませると共に光っていき、青色のランプが灯る。

 

 同時、エレベータの扉が開いて彼を迎え入れる。

 

 エレベータ内の印象は”思ったよりも綺麗”であっただろうか、きっと長い間誰も訪れず、掃除だけが行われた結果なのだろう、と彼はどうでもよく、しかしまたぶり返してきた圧迫感を紛れさせるとエレベータを下った。

 

 

 ゴウン、ゴウンと、機械の駆動音が響き渡る。

 

 長い長い、エレベータだった、それこそ地の底まで連れて行かれるような、そんな身震いすら抱きそうな。

 彼が暮らしていたロストヒルズ・バンカーでもこれほどの下層は無かったために、どうしても彼は落ち着いてはいられなくなる。されど同時に、それほどの地下に存在するエリアというものがどれほど重要なのか、を察し、目的のものが確かにあるはずだと確信し表情を真剣なものにした。

 

 

 やがて、扉が開き彼はようやく、最下層へと迎え入れられる。

 空気はやや生暖かい、臭いは機械的な、油臭い昔はよく嗅いでいたタイプの匂いだ。仄かな懐かしみを感じると、ロイズはそれが来る方向へと目を向け、そして連なるように眉間にしわを寄せた。

 

さほど広い、とはいえないまでも十分に間取りがとれたフロアの中は、サーバ機器、ディスプレイやスピーカー、それら含め多くは”制御用”に分類されるタイプの機器がぎっしりと詰まっている。

 

 だが何より目を引くのは、その中央に鎮座する物体だ。

 見た目を一言で言えば”メカニカルな米俵”だろうか、ゴミ箱を横にはっ倒したようにも見えるかもしれない。

 

 サーバ機器が横付けされ、中央にはディスプレイと入力用のキーボードが取り付けられたその実に奇怪な、今もゴウン、ゴウン、と内部で機械が通電し動いていることを理解させるそれに、ロイズはゆっくりと、辺りを警戒しつつ近づいていった。

 

 

 途端―――

 

 

『ようこそ、監督官――― それとも作業員?ああ、盗っ人でしょうか?どちらにせよここに監督官が配置されたことはいの一度もありませんでしたから、そのマスターキーを所持しているあなたが今、監督官でよろしいでしょう、ええ、いいですとも。お待ちしておりました』

 

 耳をつんざくような、音声の嵐。

 全てのスピーカーから同時に発された音に、ロイズは歯を食いしばって耳をふさぐ。

 

『ああ失礼、以前スピーカーを点検した際に全てのスピーカーをオンにしていたことを失念しておりました。重ね重ね失礼を申し上げます、えーっと・・・?』

「ロイズ、スクライブ・ロイズだよ。お前、一体」

『ああ、申し遅れました、私は―――』

 

 言うなれば、機械的な音声。

 クリアで耳に心地よく、テンプレート的な”紳士的な男性”を絵に描いたような声。

 

 ロイズはそれに自然と毒気を抜かれてしまうと、その”メカニカルな米俵”の前に立つのだ。それはごほん、と実に人間臭い、されど演技じみた咳を見舞うとすぐに――― 己の名を口にした。

 

 

『独立思考型コンピュータZAX、ZAXバージョン1.24。固定された名称はございませんのでお好きにお呼びください、この場所に誰かが訪れるのは実に205年と135日、18時間と24分35秒ほどの出来事でしょうか、長きに渡り暇を持て余していた私としましては実に、心躍る出来事でございます』

 

 うきうきと、嬉しげな声を上げるZAX1.24。

 ロイズはとうとう、それにやりにくさを覚えると、眉間に指を当てるのだ。

 

 

『さあ、ご用件は?なんでもお答え致しましょう、なんでも――― このVaultのことならば、私に知らないことは無いのですから』

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「稀有な才能だってのにそれにすら満足できないで、自分の努力ですら不満なのに気丈に振る舞っちゃってさ。そんなシェスカちゃんが可愛くて仕方ないの、だからわたし、お友達になりたいなって」

「とも、だち・・・?」

 

 ”灰色髪”の差し伸べる手を握る、一歩寸前のところでシェスカは手を止めていた。

 

 それが今、ふらついて浮ついた心が支配する中の、わずかに残った理性が生み出しているものなのかは彼女にも分からない。ただ、そのささやかな”抵抗”に対し”灰色髪”は何をするでもなく、ただじっと、指先が触れそうで触れないもどかしい距離を待つ。

 

 にこりと笑い、フードから顔を出す。

 

 彼女の顔はなおも認識できない、何かに阻害されたものであったがそれでも、整ったショートヘアの灰色髪にぱっちりと開かれた目、首をわずかにかしげて笑った顔と、記号だけは十分に認識できた。

 

「お友達になって、一緒に楽しいことしよ?どこかに遊びに行くのもいいし、しばらくここで暮らすのもいいかもねっ、たまには・・・悪い子にお灸をすえてもいいし。ロイズくんも後で連れてくるから、三人かな」

「あの童顔が・・・」

「そっ、楽しみだなあ、ずーっと生きてきてこれほど楽しみなこと、無いかも」

 

 手をぱんっ、と叩き、”灰色髪”は笑う。

 それと同時、シェスカがわずかに唇を動かした。

 

「なんで・・・」

「うん?」

 

「なんで・・・あたしなの?」

 

 単刀直入な、されど精神を奪われた今せいいっぱいの、疑問。

 シェスカが焦点の合わない目を合わせてした質問に、”灰色髪”は笑顔のまま答えた。

 

「なんでって・・・さっき言った通りだけど、まあ」

「・・・まあ?」

「“ガイウス”の血統がわたし達に味方してくれるならこれ以上心強いことはないかなぁ・・・って、悪い子に”お仕置き”して回るのもね?少し力不足かな、って思うことあるの。だからシェスカちゃんが一緒ならいいかなって」

 

「んなの、利用してるだけじゃ・・・」

 

 気丈にも、頭痛が顔をのぞかせてきた中シェスカは言葉を返す。

 それに”灰色髪”はまた、今度は困ったように首を傾げると顎に指を当てた。

 

 

「うーん、催眠が足りなかったかな?」

 

 唇に指を這わせ、指先に紫色の炎を纏うのだ。

 その指先はくるくると頭上で回されると、薄いもやと化した。

 

「せっかくお友達になるいい機会だと思ったんだけどなぁ・・・それなら気は進まないけどぉ・・・わたし達の邪魔をするこの人達を焼き払ってもらっちゃえば、二度とシェスカちゃんは戻れない。後ろ指を差されて家族からも見捨てられて、本当にわたし達のところにしか帰る場所がなくなる、そんな」

 

 ―――また、にっと笑う。

 

「そんな素敵な運命、波瀾万丈、楽しくって妬んじゃう。シェスカちゃんは”こちら側”に来れる才能があるもの、こんなところでむさ苦しい一剣士と添い遂げて、それでお嫁に行って終わりだなんてつまらないもの」

「そんな、勝手・・・!」

 

 ”灰色髪”の出現させたもやは、とうとうへたりこんで目を向けるだけになったシェスカを包む。そして指先に再び、紫色を灯すと、心底嬉しそうな、長年の目標を目の前にした冒険家のごとく期待に満ちた笑みを見せるのだ。

 

「あんまり強引でいけずな手段は使いたくなかったんだけど、シェスカちゃんすこーしワガママだからさせてもらうね、ほんとはシェスカちゃんともっとお話ししてからしたかったんだけど、時間が少ないから・・・ほんとに、ほんとにごめんね?」

 

 身勝手で、我儘で、強引で。

 そんなどうしようもなく、されど抗えない。

 

 シェスカはもう、返す言葉を作る精神力も無かった。

 

「大丈夫、気付いた頃にはもう終わってるから」

 

 

 またにっと、笑う。その笑顔が、心底感情的で嬉しそうなのが、鼻についたが、抗えずに指先に灯る紫色のマナの輝きに目を奪われていく、そして―――

 

 

「カブラ・ポス―――」

 

 魔法の詠唱、それに伴う現出。

 紫色の光はひときわ強まって、

 

 

 

「―――っつ」

 

 

 ―――直前に、その光をかき消された。

 

 シェスカも、それには気力の薄い中目を丸くする。

 見れば”灰色髪”の肩口には、赤い、赤い血がローブに滲んでいたからだ。

 

「アルちゃんにやられたところ・・・うまくふさがってなかったんだ、あの時はぱぱっとやったけど、やっぱりじっくり治さないとだめだよね」

 

 ”灰色髪”の肩口に刻まれた小さな銃槍。

 この傷の記憶は彼女にしか無かった、なぜならこの傷をつけた赤毛の亞人少女の記憶は、その手に残った”人を撃った感触”ごとかき消していたからだった。

 

 それでも”灰色髪”は傷をおさえつつ、残った手をシェスカに向ける。指先に紫色の灯りが見え、それは再びシェスカに襲いかかろうと、一度は霧散したもやを彼女の周囲に展開しようとするのだ。

 

 

 ―――だが。

 

「・・・えっ?」

 

 ”灰色髪”がとっさに指先の灯りを消し去り、バックステップを踏み軽やかに退避する。

 

 瞬間、彼女が手を伸ばしていた場所には剣が通過した。一本のブロードソードがぐるぐると空を切り、凄まじい勢いをもって彼女の目の前を通過したのだ、翔びすさんだ剣はそのまま前方に立ち尽くす、兵士達の隙間を抜けると勢いを殺さぬまま、手頃なオーガの腹に突き刺さって意識の覚醒と、出血を促した。

 

 ―――タッチの差、タッチの差だ。

 

 これほどの芸当、相当の熟練者に違いなくも、剣を”投げてきた”以上切羽詰まっての行動であったに違いない。

 即ち、”灰色髪”が、自分が肩口の傷に一瞬立ち止まることを見せなければ既にシェスカへの催眠は終わり、事は済んでいたはずなのだと、タッチの差で行われた事象であったのだ。そう”灰色髪”は思いを巡らすと、剣の飛翔してきた方向へと目を向ける。

 

 裾を切り裂かれ効力を薄められた魔道具の認識阻害ローブに軽く苦い顔をしつつ、自分の楽しみを妨げた下手人へと恨みを込めてだ。そこにいたのは―――

 

 

「―――遅くなった、シェスカ・・・少し、頭が痛いな」

「わたしの精神干渉陣を・・・魔道具の助けと、気合だけで乗り切ってきたっていうの?大丈夫?のーみその血管切れるよ?”黒い剣士”、フラティウ・ドムアウレアのおじさん?」

「あいにくと流血には慣れ親しんでいるものでな、気遣い感謝するよ”灰色髪”・・・我もおじさんと呼ばれる齢になるか、だが我が剣技、まだまだ若い才器に劣らぬことを証明しようぞ」

 

 前進真っ黒、黒鎧、黒の篭手、黒のブーツ、唯一銀色の、身の丈ほど大きいブロードソードをいくつも携えているところは違えど、その姿はまさに”黒い剣士”の名に相応しい漆黒を持つ、フラティウ・ドムアウレアに違いなかった。

 

 

「シェスカッ!!」

 

 フラティウはシェスカに向け叫ぶ。

 されど彼女は上の空のごとく、彼の呼びかけに応えない。

 

 ”灰色髪”はくつくつと、それを嘲るように笑った。

 

「ああ、奇跡とか信じちゃう?そんなのないよ、この世界はね、とっても残酷なの。起こることは起こるだけ起こって ―――救いなんて無いんだから」

「それでもだ!シェスカ!戻ってこい!我が来たッ!」

 

 必死に叫ぶ、されど戻らず。

 そうしているとやがて、興を削がれたこと恨みがぶり返してきたのか、”灰色髪”が今の今まで静止していたリーヴァーの頭上に背後から手をかざす。

 

「行っちゃって?」

 

 甘くねだるような、その願いを聞き届けたかのようにリーヴァーは動き出す。

 そうなると、フラティウと言えどシェスカの説得をしている場合ではなくなるのだ、相手は歴史上稀に見るほど個として完成された魔獣であり、フラティウも以前、呪い剣を携え傷だらけになりながらも、ようやく切り伏せた相手であった。

 

「二度ある事は三度ある、とも言う!ならば二度目は斬り伏せられるということだッ、装甲悪鬼!」

 

 フラティウは背から一本のだんびら、身の丈にやや届かない程度には大きいブロードソードを引っこ抜くと、リーヴァーに相対する。

 されど剣による一撃はその技のキレといい、確実にリーヴァーに対し直撃を加えているのにもかかわらず、その尋常でないほど硬化された表皮にと金属鎧に決定的なダメージを与えるには至らないのだ。

 

 おまけに毒を吐き、無造作に振り下ろされる腕の威力もまた尋常にあらずであるからフラティウは身体を逸らし、半歩動いてその一撃を身体にかすめる程度に抑え続ける。

 

 鎧についた小さな切り傷はその魔道具としての性質上、時間が経ちさえすれば気がつけば直っているものだから、損壊は気にせず心置きなく戦えもするのだ。フラティウは拳を剣で受け止め刃毀れするそれに冷や汗を掻きながらも、大立ち回りを演じた。

 

「以前よりもずっと手強い・・・!ひとえに武器の性能によるものか、我が鈍ったか!」

「齢なんじゃない?じゃあフラティウのおじさんはそのまま魔獣ちゃんと戦ってて?わたしはシェスカちゃんとよーっくお話しするから」

「・・・ッ!」

 

 力で押し込もうとするリーヴァーに対し、自身も押し返し拮抗する。

 そうしている間にも”灰色髪”は、シェスカに再びの魔法を行使しようとするのだ。

 

 フラティウは歯をぎしりと噛み、目の前の醜悪な相手と、直近にいる灰色髪の魔女と、それらを見比べるとやがて目をつむり、一拍。すぐさま振り切ったかのようにかっと目を見開くと、へたりこむシェスカへと目を向けて、大きく息を吸い込んだ。

 

 

「シェスカ!よく聞けッ!君が自分をどう思っていようと―――」

 

 大きく息を吐き、また吸い込む。

 少しずつ圧されながらもその言葉だけは言い遂げると――― フラティウは再び、叫んだ。

 

 

「―――我には君が必要だッ!来い、シェスカ!」

「・・・ッ!フラティウ様・・・!」

 

 ぱちりと、シェスカの目がかっと見開く。

 一瞬だけ戻ってきた意識は、確かに目に映る愛する人を捉えていた。

 

「ちょっ、えっ!?」

 

 瞬間、”炎”。

 

 何者の侵入も、否、愛する一人以外の全ての侵入を阻むかのように、赤髪の魔法使い、へたりこんでいた姿から一転、顔を上げた少女から炎の波動が放射されるのだ。直近にいた”灰色髪”はその熱をまともに受けてしまったものだから着ていたローブに引火し、彼女はその裾を引きちぎった。

 

「愛の奇跡っていうのがあるのは英雄譚と喜劇だけだって、なんで知らないのっ!?」

「奇跡でもなんでもいい!二度とッ・・・」

 

 押され気味から一転、フラティウはリーヴァーを受け流すとバランスを崩したそれに対し一気に、剣による足払いを見舞う。右のアキレス腱を小さく切り裂かれたリーヴァーは即座に、バランス維持を困難とする状態に陥った。

 

 技の勝利で、そして想いの押し切りであった。

 フラティウはそのまま移動、シェスカを背にするとだんびらをこの場で最悪の、そして至上の相手である”灰色髪”に向ける。

 

 そして睨みつけると背後のシェスカを一瞥、また”灰色髪”に目を向け、言い放った。

 

「・・・近寄るな、この子に!」

「ッ・・・!」

 

 今までで最も邪悪で、恨みと、憎しみと、そして――― 嫉妬に溢れている顔だった。

 ”灰色髪”も目の前にこの強大な壁が立ちはだかってはうかつに手が出せまい、場は再び、膠着に陥るのだ。

 

 そんな中だろうか、今もなお、ふらつき加減で顔を上げているシェスカに変化が訪れる。

 

 明確に、意志を持って、フラティウへと問いかけたのだ。

 フラティウは身体は”灰色髪”に向けたまま後ろを振り向くと、彼女に応えた。

 

「―――フラティウ様、あたし・・・足手まといじゃない?」

「・・・何を、吹きこまれたのだ?」

「ううん、普通に思ったの、あたし、おじいちゃんを超えるとか天才とか豪語してるけど・・・フラティウ様にも、ぽっと出の童顔脳筋にも・・・足引っ張る役割になっちゃうしさ、だから」

 

 上げた顔は俯き、シェスカはぽつぽつと、漏らしていく。

 そんな最中、リーヴァーは再び動き出しフラティウを襲う。

 

 剣によって受け止め、それにヒビが入った途端、フラティウは苦い顔をして蹴り飛ばし剣を捨て、背負った何本ものうちから一本を引き抜くとなおも戦えるぞ、とほくそ笑んでやるのだ。

 

 されど、シェスカは。

 

「ひっ」

 

 小さく悲鳴を上げて、頭を抱え込んでしまった。

 

 

「―――こうよ、こうなのよ!そいつの目を見ただけで足も動かない・・・魔法なんて、なおさら使えない!今もフラティウ様がいなかったらどうせ死んでる身なの!弱虫なのよ・・・いいでしょ?フラティウ様・・・あたしみたいな弱い子、嫌いでしょ?」

 

 身体を撃ち貫いたトラウマが、彼女を凍りつかせる。

 口を開けば溢れてくる卑屈な言文は、彼女の不安定な本心を表していた。

 

「でしょー?だからわたし達と―――」

「―――口を噤め」

 

 嬉々とし、にっこりと笑うのは”灰色髪”。

 しかし言葉を紡ぐ途中で、怒気を含んだフラティウに割り込まれてつまらなそうな顔をする。

 

 対しフラティウは相対するリーヴァーと斬り合い、打ち合いを演じる中、隙あればちらちらとシェスカの方を見て言葉をかけるのだ。彼の中には”超獣”に言われた言葉が反芻していた。

 

 

 ”彼女は、お前ありきで生きている”―――

 

 

「―――シェスカ」

「・・・はい」

 

 重々しく、しかしプレッシャーをかけない切り出しだ。

 不器用な男であったから、戦いにばかり生きた男であったからどうしても、苦手とはしていた。

 

 だが―――

 

 

「―――我には君が必要だ」

「嘘・・・」

「嘘ではない」

 

 シェスカは顔を上げ、なおも焦点がわずかにずれた目を向ける。

 フラティウは戦いを続けながらも、その言葉を続けた。

 

「君といて分かったよ、人間一人だけだとどうしても身が硬くなりすぎる。思考が止まりかけてしまうのだ・・・昔は気障なセリフを並べていた頃があったような気がするが、あれを思うとやはり、その」

 

 少し気恥ずかしいような顔を背け、言葉だけを返す。

 

「我はきっと、孤独が嫌だったのだろう、あの時君を追い返せず、受け入れたのもきっと・・・そのためだ。そしてそれはきっとシェスカ、君でなくてはならない・・・我は、そう思う」

「フラティウ様・・・」

「それに君は弱くなんてないぞ!才覚は十二分にあるし、なにより自分に足りないところがあるならあると、それを理解した上で恥じ、なお上を目指そうと研鑽を続けている!ウグスト・ラゴンに言わせれば”美しい魂”だ!そうだろう?」

 

「あ、あたし、あたし・・・!」

 

 声を震わせ、シェスカは顔を手で抑えるのだ。

 未だ精神が完全に戻らない、不安定な彼女を取り戻すにはもう一手が必要であるとフラティウは察すると、打ち合っていたリーヴァーを蹴り飛ばす。右アキレス腱に傷を患っていたリーヴァーはそれだけでも、いとも簡単に転がった。

 

「どうであろうといい!弱虫の能なしでも、不躾でも不細工でも何でも構わん!我は君がいい!朝は起きられない、好き嫌いは多い、家事はまるで出来ない、無駄遣いは多い・・・!それでも何年も連れ添ったのは、君が決して折れない、向上心を忘れない乙女であったからだ!それでも今更心変わりする男に君は見えるかっ!」

 

 フラティウの心からの叫び。

 

 ―――瞬間、彼女の脳裏にある言葉が走るのだ。

 自分がバカにしているフリをして、その実、実力を認めていたある青年、拳を武器とし白銀鎧を着こみ、誰よりも前に出て誰よりも傷を請け負おうとするある青年。

 

 彼が自分に投げかけた一言が、彼女が彼に認められたような錯覚も与える。

 

 

 ―――弱いなら弱いでいいんだよ、強くなろうって思えるうちはずっと、伸びしろがある。

 

 

「今日も、明日も、明後日も!来年も再来年も十年先も!我と共に歩んでくれシェスカ!」

 

 そこにダメ押しのフラティウの言葉。

 だがその一言は、深淵から戻りかけていたその精神に、大きな活力を与えた。

 

 

 刹那、シェスカの目に光が宿った。

 

 すると外気から取り込まれ、体内を巡るマナは一気に彼女の方へと向くのだ。それは凄まじく、”灰色髪”が行使しようとしていた魔法、その紫色の炎を指先からかき消し奪い去ると、彼女の体内へと集結していく。

 

 あたかもこの場に漂う全ての精霊が、彼女にだけ祝福をしているかのように。光り輝くマナはその全てが赤色へと姿を変え、彼女に密集していくのだ、その圧倒的なきらめきにはさしもの”灰色髪”までもが一歩下がり、リーヴァーも動きを止める。

 

 

 やがて、くっくっと、笑い声が聞こえたのを、フラティウは耳にした。

 そしてふと振り向く、怪しげに、目線高く、そんな笑い声が嫌に耳に届き――― 同時に、安心もした。それはどこか、いつもの”彼女”のようで―――。

 

「・・・そうよね、そう、おじいちゃんを超える女がここで折れちゃ世話ないわよ・・・ふふっ」

「シェスカ!」

「シェスカちゃん・・・?」

 

 ゆっくりと立ち上がる、少女。

 

 長い赤毛を揺らすシェスカは、土に汚れた藍色のスカートを手で払う。その小さな身辺への気遣いは、彼女が元の心を取り戻したことをフラティウと、”灰色髪”の両名に与え、双方に真逆の思いを知らしめた。

 

 フラティウは笑顔を。

 ”灰色髪”は苦虫を噛み潰したように。

 

 

 とたん、”灰色髪”へ向けシェスカが魔法を行使する。

 無詠唱での即座に発動した炎のつむじ、”灰色髪”はバックステップでそれを躱すがしかし、追いすがるそれは意思を持つように彼女へ喰らいつき、瞬間に発動した魔法防御によって”灰色髪”は難を逃れる。

 

 されど、

 

「きゃっ!?」

 

 追い討ちの炎の矢は彼女に命中し、そのローブに深く傷を与えるのだ。

 炎が広がり、あたかも身代わりになったかのようにローブは引火するとあっというまに彼女を炎に包もうとする。

 

 当然”灰色髪”は熱さに耐えかね即座にローブを放棄し、ローブの内側から出てきたのは華奢な、地味目の服。膝丈のスカートに猫の耳が生えた頭――― 顔は依然として認識を阻害されていたがしかし、その姿にシェスカは目を丸くした。

 

「あんた、どこかで・・・?」

「ッ!」

 

 訝しむようなシェスカの目と、辛抱たまらないというようにすぐさま更なる認識阻害の魔法を重ねがけする”灰色髪”。

 

 シェスカはその必死の抵抗を見て、自身に優越な状況に傾いたことを察すると訝しむようなその目を、まあいい、と見下ろすように変える。背丈は下であるはずなのに、あからさまに相手を見下した、憐憫も情ももはや一切ないと、相手を処刑せんばかりの目であった。

 

「まあいいわ、聞きなさい灰色髪!あんたがどれだけ願おうとすがろうと、足元に這いつくばろうと!あたしはアンタになんかついてかないわっ!添い遂げる人は決めてるもの!今日も明日もあさっても!来年も再来年も十年後も!そうでしょフラティウ様?」

「うむ!彼女は我が責任持って預かろう!貴様などに彼女の側にいる資格はないッ!」

 

「・・・力も、欲しくないの?」

 

「いつか必ず!自力であんた達が与える力なんかよりもずっと高みに昇ってみせるわよッ!あたしはあたし、純然たるフランシェスカ・パレ・ガイウスよ!高貴な血統、溢れ出る才能・・・美貌だってあと五年もすれば!とにかく、あんた達にゃ用はないのよっ!」

 

 短い問答、はっきりと言い切る。

 

 びしっと指を差し、真っ赤に輝き、紫のもやを跳ね除け吐き捨てたシェスカと、ただ何も言わずの”灰色髪”。しばし二人は見つめ合うままであったがすると、”灰色髪”の方から笑い出す、ふふふ、と、楽しさとせせら笑いの混ざった声であった。

 

 

「・・・ふふっ」

「何がおかしいのよ?」

「いや、ね?シェスカちゃんは思ってた以上に可愛い子だなって・・・ふふっ、ますます欲しくなっちゃった!」

 

 にこりと、笑顔で応える”灰色髪”、その笑顔は花開かんばかりに可憐であり、誰のものか、それが理解できないほどに認識阻害をされた今にあって、あらゆる生命が沈黙したこの場、殺伐とした戦場において実に不気味さを醸し出す。

 

 フラティウはそれに底知れなさを、シェスカは気味悪さを感じ、互いに戦闘姿勢を取る。

 

 ”灰色髪”も呼応するようにリーヴァーを駒とし、差し向けるのだ、ただし彼女自身は逃げ足を駆け始めており、ふわりと、宙に舞う羽根のように軽い足取りで彼らから離れ始める。

 

 シェスカは当然、その背を追い討ちしようとするがその途端、”灰色髪”が足を止めた。何か言いたげな素振りで、振り向くと実際言う。笑顔がそのままだったから、二人にはやけに不気味さが目についた。

 

「どうせこの作戦が失敗しても、これだけ出血をこの街に強いれたのならわたし的には・・・大成功じゃなくっても成功だし?ロンサムなんとかさんには悪いけど、ここで別の用事に向かってもいいかなーってさ」

「逃がすと思ってんの?あんたのとこは射程内よ、外す自信ないわよ」

 

「シェスカちゃん、また今度会おうね?その時はまた、プレゼントとかしてあげるー・・・フラティウのおじさんも、生きてたらまた会おう?たぶんおじさんのことだから生きてるけど――― 今度邪魔したら、殺してあげる」

 

 口を紬ぎ、睨みつけるフラティウ、”灰色髪”も同様に。

 見下す目のシェスカ、されど”灰色髪”は笑いかける。

 

 途端、マナが溢れる。

 大した量ではなかった、だがもはやマナ吸収器と呼べるほど全力全開に力を発揮しているシェスカを間近にして、”灰色髪”は容易に魔法を行使するのだ。シェスカは第六感が警鐘を鳴らすのを感じ、炎を手のひらから飛ばす、されど―――

 

 

「バイバイシェスカちゃん!“ハイプノ”!」

 

 

 ―――一歩及ばず、彼女の姿が掻き消える。

 

 

 まるでそこには何もなかったかのように、同時、人々も動き出すのだ。一瞬の空間の停止のあと状況が理解され、敵が目の前にいることに気付いた兵士や騎士の戦闘は次から次へと伝播すると当然やかましくなった。

 銀髪エルフのテッサリアも同様に動き出し、しばしきょろきょろとするとぎょっとし、レーザーライフルをリーヴァーに向けて照準を合わせようとするのだ。

 

 そのやかましさに”灰色髪”の姿も、音も、気配も完全に見失った二人は、どっと疲れが降ってきたような感覚を抱きしかし――― その置き土産がまだ残っていることを思い出すと、再び構えを取る。

 

 戦場は終わっていない、ただそれだけだった。

 

「シェスカ!」

「全力全開よッ!今ならおじいちゃんみたいなこと、出来るわ!なんだかすっごく振り切ったような、ハイっていうか、なんでも出来そうな気がするのよフラティウ様!そいつお願いッ!」

 

「任された!」

 

 

 残された置き土産、フェラルグール・リーヴァーは今なお健在。

 再び傷ついた脚に鞭を打ち、動こうとするその醜悪な怪物にフラティウは先手を取ると一気に剣を叩きつけた。

 

「ぬぅぅぅぅん!!」

 

 渾身の叫び、乾坤一擲の一撃、横合いから思いっきりに叩きつけられた剣はしかし、メタルアーマーを砕けない。

 

 だが―――

 

「ウォォォォッ!!」

 

 ―――目的は、”斬る”ことではなかった。

 リーヴァーを剣で持ち上げ、”飛ばす”こと。

 

 尋常ならざる膂力、それを持ちえるフラティウの装備と実力ゆえの無茶だろう、弾き飛ばされたリーヴァーは宙を舞いなお死せず、ゴブリン達の中へと放り込まれる。同時、フラティウの剣も再び折れるのだ。

 

 木っ端微塵、という表現が相応しいほどに砕け散り、役目を終えただんびら。フラティウはそれを放り投げ残る剣を背中から引き抜こうとし――― やめた。

 

 

 ―――これで自分の役目は終わったと、そんな満足気な表情を残し、そして。

 

 

「シェスカ!頼む!」

「あいあいさーっ!どこで見てるか知らないけど見てなさいよ灰色髪っ!これがあたしの実力よ!全力全開、あんた達に頼らなくてもやってける力よ!これが―――」

 

 

 真っ赤な輝きは陽の昇った空にまで届き、一気に染め上げる。

 

 

 持った熱は他者が近寄れないほどに熱く、足元に転がった剣が赤熱化する。

 

 

 たなびくスカートと髪はまくれあがるほどで、しかし全く”神々しさ”以外を感じさせない。

 

 

 ―――圧倒的なマナの嵐、全てを振りきった少女が、全てを賭けた最大の魔法。

 

 

「極大魔法!メイズ・アンダ・フォーゴッ!!」

 

 全力の叫び。

 

 瞬間、立ち上ったのは炎の嵐だ。

 それは天まで届き、雲を裂き、そして空を、宇宙を貫く。

 

 するとどうだ、誰もが空を見上げるのだ、人も、戦士も、兵士も騎士も、身分生まれ性別あらゆるものに関係なく、その圧倒的な熱の柱を見上げる。炎の柱がやがて空に吸い込まれたように消え去ると―――

 

 

 ―――途端、飛来するのは最も恐ろしい、熱を持った物体だった。 

 この世界には一般には『星の屑』とも呼ばれる物体、そう、きっと”彼ら二人”が見ればこう言わずには居られなかったに違いない、そして、逃げすらも。

 

 

 ―――隕石、と。

 

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 シェスカの渾身の叫び、身体をぎゅうと絞ったようになるまで発した叫び、呼応して飛来する隕石。

 

 炎に包まれ、あからさまな形をしたそれは恐らく、魔法的な要素が加わったものなのだろう、だがそれでも、上空から巨大な岩の塊が飛来し向かってくる様は、全ての人間に恐怖を、畏怖を与えるに十分すぎた。

 

「シェ、シェスカ嬢の極大魔法だっ!全員、魔法が使える奴は防御魔法を使え!星の屑が降ってくるぞぉっ!!」

 

 騎士隊長の言葉に皆がはっとし、目に見えるほど濃い魔法障壁を張る。

 瞬間、隕石はゴブリン達が守っていた城壁に直撃すると一気に大爆発と衝撃波を街に見舞う。

 

 家々がなぎ倒され、生物が焼けていく。

 その場に居合わせた者には平等に死を与える熱の波。

 されど―――

 

 

「・・・止まった?」

 

 人々のいる場所を前にして、熱の波は霧散し姿を消す。

 

 恐ろしき”装甲悪鬼”もゴブリン、オーガも、全てが消えたこの場所、遠くを見れば実に家が何軒も並び立つほど巨大なクレーターが出来ており、その大きさからどうしても、誰もが自分たちが生き残ったことを不思議がるほどに、圧倒的だった。

 

 誰もがだんまりし、自分が今見たものを、起こったことを、理解できずに居た。

 

 

 ―――そんな中、一人の声が響く。

 

 鈴の鳴るような綺麗な声ではない、低めのハープのような声だ、それでも凛としていて、美しい。銀の髪をかきあげ、レーザーライフルを肩に担いだテッサだった。説明したがりな彼女は、すかさず言葉を差し込み目を集める。

 

 

「炎の極大魔法、聞いたことがある。たしか”星の屑”を呼び寄せるのだけれど、それに使うのは力の”半分”。つまり残る力は――― その被害を必要なレベルに食い止めるために働くのだろう、それだから当然、術者の負担は尋常じゃない、つまり―――」

 

 言いかけたその途端、ぱたりと、倒れる音。

 テッサだけでない、誰もが目を向けたところには、倒れるシェスカとそれを優しく受け止めるフラティウがいた。

 

 ぎゅっと、線の細い、まだまだ子供の身体を抱いて寄せるフラティウ。

 

 子供は”出来る”と思ってしまうもので、実際やり遂げてしまうのが難しいところなのだ、その身体は”出来る”の範疇を超えた負担にマナの過剰吸収、”栓づまり”を起こしてしまい、咳や呼吸の乱れを通り越して意識を失うほどに負担をかけていた。

 

 

「シェスカ・・・君は」

 

 言いかける、すると、ゆっくりとだがシェスカの目が開く。

 彼女は弱々しくフラティウを見やると、確かに笑った、そして語りかけた。

 

 

「・・・フラティウ様、あたし、やり遂げたよね・・・?」

「十分だ、十分すぎだ・・・ゆっくり休め、休んだら・・・彼らと共に祝勝会でも開こう、勝ったよ、我々は勝った、もう十分だ・・・」

「ふふっ・・・あいつらかぁ・・・あいつら・・・」

 

 息を弱く、ゆったりと紡ぐ。

 最後の言葉はここにはいない、この街の最後の戦場、その二つへ向けてだった。

 

 

「・・・負けるんじゃないわよ」

 

 遠方への祈り、それが最後の言葉。

 彼女は愛する者の腕の中、意識を手放し寝息を立て始めた。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 指揮テントそばの糧食テントはてんやわんやだ、戦争なのだから当然食事が必須で、街の女たちは揃ってエプロンをつけてはおにぎりだの、釜があるならパンだのを焼いては前線に兵士が運んでいく。

 

 赤毛の少女、アルも一人思い慕う人が帰ってくるまでただじっとしているわけにはいかないと、米びつに手を突っ込んでは塩をぱっぱと振り握り飯を作ることに従事していた。彼女の身体に亞人の血が流れることなどは、この際無視された。

 

 

「ふぃー・・・ダンナのためとはいえこたえるねぇ」

 

 額の汗を拭い、手を休める。

 するとだろうか、そこにふらりと現れる賓客に彼女は気付く。

 

「おや?ゼノさんじゃないですか、お久しぶりー」

「ひさしぶりーアルちゃん、ロイズくんいる?」

「え?いや、こんな状況ですからねー、戦いに行きましたよ、28番目の金庫で何かあるんだって・・・まああの二人です、こんなとこで死ぬタマじゃありませんよ、まあダンナが帰ってこなかったら・・・後追おうかなぁ」

 

「だ、ダメだよアルちゃん、悲しくったってそんな・・・」

 

 また手を動かしながら、ゼノの問いに冗談交じりに答えるアル。

 しかし白髪の猫耳少女、ゼノにはそれにわずかな本気が混ざっているように見えて、あわててツッコミを入れた。

 

「でもロイズくんでそうなったらわたしも・・・」

「おやぁ?」

「えへへぇ」

 

 恋する乙女同士、笑い合う。

 意地悪な顔をするアルはだが、手を止めすぎていたと感じるとゼノに言った。

 

「それで、ご用件はそれだけです?良かったら手伝ってくれません?ゼノさんの握ったおにぎりなら兵士さんらも喜びますって!結構かわいいどころなんですからぜったい!ね?」

「そうだねぇ・・・ロイズくんが帰ってくるまで、そうしてるのも・・・いたっ」

 

「わわっ!どうしました!?」

 

 痛がる素振りを見せ、肩口を抑えるゼノ。

 その肩からは赤く血が滲んでおり、アルは慌てる。

 

「ケガしてるじゃないですかっ!待っててくださいよー!今すぐ手頃な・・・あーっ治療術師は手がいっぱいだっ!こうなったらダンナ達の治療キットとやらを拝借して・・・」

「ああ大丈夫だよアルちゃん!わたし少しなら治癒の魔法使えるから、自力で治すから・・・」

「そ、そうですか?それなら良かった、向こうにアタシ達の荷物が置いてあるんで腰掛けて休んでてくださいよ、あれなんか危ないらしいけど硬いし重いし別に大丈夫ですよ!」

 

「そう?じゃあそうさせてもらうね?」

 

 米粒に濡れた手を振り、アルがゼノを見送る。

 人々でごったがえす街路を横目にゼノは尻尾を振り、耳を振りながらその場所にたどり着くと、荷車を後ろに控えていた牛型生物モートを一撫でし、荷車に入ると壁に背をつけ治療術を肩にかけ始めるのだ。

 

 そうしているとふと、彼女は独り言をつぶやき始める。

 

 

「―――ロイズ君は一緒に行っていいって言ってたよね・・・?この戦いが終わったら・・・楽しみだなぁ。そうなると、二人・・・ああ、あの人達もいるのかぁ、でも楽しい旅になりそう、いつもは一人だったから・・・」

 

 にへら、と笑いながらも肩の傷を浅く治し終えると、彼女はごろり、と横になった。

 荷車の中は決して広くはなかったが、小柄な彼女が横になって足を伸ばせるほどのスペースは十分にあって、彼女はふと見上げた天井の造りの精密さや、積み上げられた道具類に驚くことになる。

 

 だがそれも吹っ切るほど、彼女は笑顔で転がるのだ。

 その笑顔はただ一人――― 花開くごとくであった。

 

 

「早く、終わらせてくれないかなぁ」

 

 

 独り言は開け放たれた窓から、どこへとなく消えていった。

 

 

 

 

 

 





参考なまでに、

http://fallout.wikia.com/wiki/Plasma_grenade_%28Fallout:_New_Vegas%29
前回紹介忘れたので(´・ω・`)
たぶんトラップで食らうほうがプラズマを脅威に感じる瞬間は多いんじゃないかと思います、それくらい威力のあるグレネードです。実際重さも大したことないしサイドアームとしてはこのうえなく優秀だったり。
 コンセプトアート見る限りではレバーみたいなのがあってそれを引くと起動するんでしょうか。

http://fallout.wikia.com/wiki/ZAX_1.2
ZAX、初代プレイヤーなら会話が楽しかったであろう子。
短い登場ですが赤裸々に話してくれます、今回登場したものは同じ形をしていると思ってくれて構いません。
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