トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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(´・ω・`)二分割、後編です。
(´・ω・`)読んでない方は前からどうぞ。

後編、9257字。


第三章 Vault28の監督官室から 最終話 後編 『最後の真実』

 

 

 上機嫌に自分を指差していつでも準備万端とするロイズに対し、ZAX1.24はまたもやや溜める。サーバ機器が動く音が鳴り響き、ディスプレイがやかましくチカチカと明滅する中、彼はようやくと声を上げた。

 

『―――この世界を”監督”して頂きたい』

「は?」

 

 二度目の、すっとんきょうな声だ。

 ZAX1.24はだがそれを意に介さず、話を続ける。

 

『この世界を、人々を愛してしまった私ですが、この場所から動くことは叶いません。しかし性質上、興味は尽きないのです、特に、先の”灰色髪”とやらの一件によって私はこのVaultに住む人々だけでなく、この世界に住む人々の助けになりたいと、そう願うようになりました』

「世界平和でも目指そうってのかよ?そこまではムリムリ絶対無理だろ、手が届かねー」

 

『そう言うと思っていました、ですから私のわがままはただ一つ。あなた方の旅に、私の管理下にあるロボットを一機、同行させて頂きたいのです、もちろんあなた方が帰還を望んでいるなら妨害はいたしません、ただ私はそれを通して世界を見て、世界を脅かす存在や苦難に対し、私の智慧を人々に与えてあげたい、ロボットだけでは些か不便がございまして』

 

 言ってのけるが、技術の提供、それにはリスクが伴う。

 こちらに来てからロイズ達が思っていたことだ、軍事技術などは特にパワーバランスに関与してしまうから、いつも自分たちが使う程度にとどめておいた。

 

 ロイズはそれが気になり、ふと聞く。

 

「・・・それ、どこまでだよ?」

『もちろんこの世界の文化や技術継承に齟齬を与えない程度に務めるつもりです、ですが、私が長年で調べた限りこの世界には苦難が多すぎる――― 少しでも、助力したいのです、身勝手なお願いであることは自覚しております、しかしそれでも、今、この瞬間、あなたしかそれをお願い出来る方はいないものだと思っております――― お願いできますでしょうか?』

「あー・・・」

 

 ロイズはまた、頭を悩ませる。

 そうしているとZAX1.24から、更なる言葉が続けられる。

 

『了承していただけるのでしたら、当Vaultに存在する火器弾薬、セル、その他各種製品あらゆるものを譲渡致しましょう――― ああ、G.E.C.Kの複製などもいいでしょう、応用が効くものです。ロボットを通して通信していただければいつでも私の演算能力をお貸しすることもできますし、悪い話では無いと思うのですが』

 

 単刀直入に補給の確保、そして――― 技術の至宝。

 これは人質にも思えるほどだ、ロイズはしばし考え、頭を掻き、そして悩む。

 

 それからふっと時計を見ると、時間が更になくなっていることに気付いてふと、ロイズは声を上げた。

 

「ッ、どこまで信用できるかわかんねーけどよ・・・」

 

 愚痴るようにこぼし、視線を戻す。

 

 

「・・・悪い話じゃねー、それで今どうにかなんなら引き受けてやる」

『ありがとうございます、それでは、マスターキーの方を』

 

 言われるがままに、ロイズはマスターキーをスロットに差し込む。

 再びサーバ機器が運転する駆動音と、明滅するディスプレイにいくつものコードが表示されるとあとはZAX1.24の独壇場だ、ロイズはただそれを、信用して見ているほかないのだ。だが同時に、これで全てが終わると、ほっとしもする。

 

 

『割り込み命令、割り込み命令――― 確認番号00004825に対し延長命令、監督官スクライブ・ロイズとZAX1.24の両名の権限をもって命ずる――― ロイズ様』

「どうしたよ」

 

『・・・いかほど、延長いたします?現在可能なのは処理可能な限界の175,316,255時間ほど――― ざっと、二万年ほど先となります、最後の答え、頂いてもよろしく』

 

 言うZAX1.24の声は、笑うようで、おかしくて。

 ロイズはにっとつい笑うと、ぐっと親指を立てサムズアップするのだ。

 

 同時、彼の問いかけに対する最後の答えを彼は答えた。

 

 

「―――めいっぱい!」

『サー、イエッサー、システム再起動に入ります、もう二十分もしたらまたお会いしましょうロイズ様・・・ああそうです、これでほんとうに最後になります、あなたに見せたいものがあるのです、そして、して頂きたいことも』

 

「・・・?」

 

 首を傾げるロイズ。

 するとすぐさま、部屋中に存在するディスプレイの映像が切り替わり、ある映像を映し出す。

 

 それは少し前のこと、赤毛の少女アルベルトが、とある部屋に忍び込んでマスターキーを盗みだした日の映像であった。

 

「これって―――」

『しばらく御覧ください』

 

 冷静な物言いに、ロイズは黙って映像を見続ける。

 

 ダクトから侵入したアルが部屋にこっそりと忍び込み、マスターキーを拾い上げ小さな宝石をいくつかちょろまかして逃げ帰ろうとする、その時点――― だが次いでディスプレイの中に現れた存在に、彼は目を剥く。

 

 

 ”灰色髪”、間違いない。

 だがその顔は見覚えのあるものだったからだ、カメラを通して見た映像に幻惑の魔法がかからなかったためだろう、科学というレンズを通して見えた世界には、ありのままの存在が、”灰色髪”の正体が写っていた。

 

 ロイズはつい、口元を抑えへたりこむ。

 目を見開き、信じられないと言うように何も言わずその場で首を振った。

 

 その姿に、ZAX1.24は声をかける。

 一度目は届かず、二度目は無視され、三度目でようやく彼は顔を上げた。

 

 

『・・・ご傷心かもしれませんが、事実です。ですからあなたに頼みたい仕事、私とあなたの最初の仕事となることは、”灰色髪”――― 彼女を捕らえ、可能ならば殺害する必要がございます、システムに任せてしまっても構わないのですが彼女の居場所は捉えづらく・・・恐らく、あなたの呼びかけならば彼女はきっと来るでしょう、お願い、できますか?』

「オレが、オレがあいつを・・・」

 

 頭を押さえ、しばし悩みぬく。

 ロイズの決断には、時間がかかった。

 

 されど長い、長い沈黙の末、顔を上げた彼は答える。

 その目には、決意が宿っていた。

 

 

「―――分かった、マイク貸してくれ・・・呼んだら頼む」

『御意に、あちらになります』

 

 部屋の端に設置された、恐らくVault内や外部の”戦前の街”、もしかするとロボット群に通じているであろうマイクに口元を寄せると、ロイズはとんとん、と叩く。その”あがき”に音量がちょうどいい具合にセットされていることを理解すると、彼はすうっと、深く息を吸った。

 

 

「・・・こちらスクライブ・ロイズ」

 

 音量メーターが上下し、それは今、この瞬間にこの街の人々に自分の声が届いていることを認識すると、彼は言葉を続ける。その表情は決意と同時に、哀しさと、震えが共存していた。

 

 

「Vault28の監督官室から通達する、グール、シェスカ、フラティウ、アニーア、ちみっ子にテッサ、バラッドに・・・ゼノ、いるならVaultの、28番目の金庫の第二シネマに来てくれ――― 話したいことがある、っ」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 Vaul28の第二シネマはいつも、閑古鳥が鳴いている。

 だが今日ばかりは違った、数人の人間が、この場所に集っていた。

 

 誰も彼もが、自分が呼ばれた理由のわからない中、ただ一人、じっと真剣な目つきをもってステージに共に立ち続けている青年がいる。スクライブ・ロイズ、彼だけはやや退屈と疲れを持て余している周囲に対し、緊張した面持ちであった。

 

 

「相棒、なんだって俺らを呼び出したって?祝勝会ならもっといい場所が・・・」

「しっ、静かにしろっ」

 

 ロイズに制され、ティコが黙る。

 すると同時、シネマの扉が開くのだ。

 

 入室してきたのは小柄な身体、白の髪、猫の耳、地味目の服。

 ロイズのファンを称し、傍から見ても彼への好意が見て取れるそんな乙女、ゼノだった。肩口の傷を包帯で縛った彼女はぱたぱたとシネマの階段を小走りで降りると、流れるようにロイズの真ん前へと移動し微笑む、その笑顔は実に、見惚れるようであると誰もが思った―――

 

 

 

 ―――ロイズだけを除き。

 

 

 彼はしばし目をつむり、震える。

 嗚咽のような息遣い、すり合わせる手のひらは彼の心の乱れを表していた。

 

「ロイズくん、ゼノまで呼び出してどうしたの?」

「ああ・・・ちょっと用があってよ、いいか、ゼノ」

「ロイズくんが言うなら何でも答えるよ?」

 

 頭を落として、手を後ろ手に組み優しく微笑む。

 その姿を見てロイズは歯を、ぐっと食いしばって――― 戻した。

 

 

「なあ、ゼノ」

「うん?」

 

「・・・お前ってさ、オレのこと・・・」

「うん、大好きだよ?もう隠さなくてもいいでしょ?」

「ッ・・・!」

 

 ぎゅっと拳を握って、鬱血するほどに。

 彼はなおも続ける。

 

「―――気になってたんだ、あの時聞けなかった・・・”お互いの秘密”ってヤツ、あれさ・・・」

「あっ・・・」

 

 思い出すのはほんのすこし前、たった二人だけで置かれた極限状態、そこでの会話。

 

 互いに言いよどむ。

 ゼノも俯き胸元に手を寄せ、ロイズは拳をようやく開いた。

 

「なあ、ゼノ」

「・・・うん」

 

「・・・”いい子”の条件って、何だよ?」

 

 ロイズが目をつむったまま、歯を食いしばって言う。

 ゼノはその質問に目を見開くと、あちこちに、うろうろと視線を漂わせた。

 

 

「えっと、ね・・・うーん、そうだなぁ」

「答えられないならいいんだ、それで――― 答えさせてやる」

 

 ようやく目を開くロイズ、その両目は鋭く、決意と覚悟が光る。

 彼はすうっと息を、今度はよどみなく吸うと、叫んだ。

 

「ZAX!頼む!」

『了解です、表示いたします』

 

 どこからか響く声に、一同はあちらこちらへ目を向ける。

 だが途端、目は一点へと全て集まった、シネマの大画面に、大きく大きく映像が投影されたからだった。

 

「―――これはっ!?」

「ちょっと、どういうこと!?これが何かってのは置いといて、これって・・・」

「・・・これが事実なら、もしかして」

 

「えっ、ちょっ、アタシですか!?こんなの記憶に・・・」

「消した、というのが正解なのかな・・・まさか、”灰色髪”がこんな近くに居たなんて」

 

 フラティウが絶句し、シェスカが騒ぎ立てる。

 アルが騒いで、テッサが、バラッドが冷静な分析をすると、ゼノを見る。

 

 その視線につられて皆がゼノへと目を向けると、彼女は凍りついたように動かなくなるのだ。

 

「これで正直に答える気になったかよ・・・なあ、ゼノッ!」

 

 投影された映像、それはゼノが、Vaultの一室でアルに魔法をかけ昏倒させていた、先にロイズが一人で見た映像そのもの。”灰色髪”が――― ゼノ、という一人の少女であることを表した、決定的証拠。

 

 総員が一斉に武器を取り、警戒する。

 その敵意と殺意を一身に受けることとなったゼノは、俯いてふるふると震えるのだ。

 

 

 そんな中、ロイズだけは武器を構えず、ただじっと彼女を見据える。

 しばしの時間、沈黙と戦慄、やがてゼノは―――

 

「・・・くすっ」

 

 小さく、笑って、

 

 

「―――んふふふふっ!」

 

 大きく、せせら笑うように笑った。

 

「なるほど、相棒のいい娘だと思って疑わんでおいたが・・・灰色の髪だから、もしかするって思ったが」

「やっぱり、魔法効かなかったんだ?ティコさん」

「体質みたいだが、なるほど・・・くそっ、何がおかしい」

 

 銃を向けるティコが吐き捨てるように言う。

 ゼノはなおも笑いながら、それに対し答えた。

 

「だぁってぇ!ゼノってやっぱり運が無いなぁって!もう少しばれないでいたらさ、ロイズくん達と一緒に旅して世界を回って・・・楽しいことがいっぱい待ってるかなって思ったのにさ・・・どうして、こんなとこで折れちゃうかなあ」

 

 やるせないように、哀しみを混ぜたように。

 投げやりな笑いへと変わる。ロイズはそれに拳を震わせると、歯が割れんばかりに食いしばった。

 

 

「ゼノ、お前言ってくれたよな・・・!オレの魂は綺麗だって、オレが好きだって、オレと一緒に行きたいって・・・!オレの戦う姿が好きだって・・・一目惚れ、だったって!」

「そうだね、今でもそう思うよ?とっても」

「ああ、オレもすっげー嬉しかった・・・!そーいうの初めてだったから・・・でも、でも」

 

 涙が、こぼれる。

 向けられる好意は何一つ曲がっていないとわかっていたから、どうしても、流れる涙と溢れる哀しみを、どうしてもかき消すことはできずに彼は、嗚咽を漏らして拳を握りしめた。

 

「―――お前が追いかけてた最大の敵、なんてオチじゃ・・・洒落にならねーよっ・・・!」

 

 膝をつき、地面を叩く。

 その姿を見たゼノが彼に寄ろうとするがそれは、ティコの銃口に寄って阻止された。

 

 

「近寄んじゃないぜテロリスト、可愛いどころだし良くしてくれてたから見逃してたが、相棒をたぶらかしてくれたオトシマエってのはどうつけるつもりだって?」

「ティコさん、邪魔しないで欲しいんだけどいいかな?ロイズくんを大好きでいていいのはわたしだけなの、ロイズくんのあったかい心と光に触れて、寄り添えるのはきっとわたしだけなの、あなたは”相棒”だから許してあげてるんだよ?アニーアちゃんは、一度お友達になった仲だからいいけどさ」

 

「わ、私が貴様などと」

「忘れてるよね?当然消したんだもん、アニーアちゃんには悪いことしちゃったって今でも思ってるけどさ、でもこれ以上邪魔するならみんな―――」

 

 ゼノの身体からどっと、マナが放出される。その”威圧感”とも言うべき力の波動は数の上では優勢のはずの一同に、冷や汗を垂らすに十分な精神的威圧を与えた。

 

「―――消すよ」

「・・・ッ」

 

 しばし、紫色の目をかっと見開きながら威圧を続けたゼノ。やがてそれにはっと彼女は、やりすぎた、悪いことをしたといった風の表情をするとぺろりと可愛らしく舌を出して謝り、また笑う。

 

 それからまた、はっとしたふうに彼女は口元に手を当てるのだ。

 

「ああ、ごめんね驚かせて?自己紹介が遅れちゃったよね・・・もう、隠す必要なんてなさそうだし、そろそろバラしてもいいかなぁ・・・。じゃあ聞いてください、ゼノのこと」

 

 一同がじりっ、と身じろぎする。

 だがゼノはそれを意に介さないというように、くるりと一回転するのだ。

 

 魅せつけるように髪を揺らし、スカートを翻す。

 一見にはどこにでもいそうな、いつもの少女の姿がそこにはあった。

 

 ―――唯一、白から変貌した灰色の髪を除いて。

 

 

「はじめましてみなさん、”魔女の霧”、その首魁”三毒”が”妬み”担当”灰色髪”―――」

 

 紫色の双瞳を妖しく輝かせ、にこりと笑う。

 視線はようやく顔を上げ、睨みつけるロイズと合わせてなお、笑顔は決して崩さない。

 

 

「―――ゼノ、ゼノビア、”幻惑のゼノビア”、今後ともよろしくね?世界のみんな」

 

 

 年頃の少女らしい、猫の鳴くような可愛らしい声で言う。

 

 とたん、耐え切れなくなったロイズが立ち上がり彼女に詰め寄るのだ、その顔は哀しみと、辛みと、怒りと、いくつもの感情が渦を巻いていて傍目に見ていたティコもつい、それがそのまま彼女を殺すのではないかとばかりに見えて止めようとする手を伸ばしかける。

 

 だがロイズはただ、ゼノを真正面に据えて目を合わせる。

 最初に口を開いたのはゼノ――― ゼノビアだった、笑顔は崩さない、だがそれがロイズには更に耐えられなくなる。

 

「さっきの答えね?つまり人間さんみんなだと思うの」

「・・・は・・・?」

 

「だってそうでしょ?ゼノ達みたいな亞人達を昔あれだけ迫害して、ゼノのお父さんお母さんも殺してゼノだって殺そうとしたのに、それで何ら罰を受けること無くのうのうと生きてるなんてずるいもの・・・だから悪い子は少しお灸をすえないと駄目なの、ゼノがやってるのはそういうこと」

「お前がやってんのはただのテロリズムに違いねーよ、その理由は、それを正当化するためのモンだろっ・・・!お前こそ罪を償えよ、どうすりゃいいかわかんねーけど、きっと酷いことにはならないよう、オレだって・・・」

「・・・優しいね、ロイズくん。そんなロイズくんだから、わたし殺されてもいいかなって思うんだけどさ・・・でも、ダメ、もっとやりたいことできちゃった・・・、ごめんね」

 

 近寄ってきたゼノビアがぎゅっと、アーマー越しにロイズを抱きしめる。

 

 ロイズはただ、何も出来ずにそれを受け入れることも、突き放すこともできずにあるがままにされ、彼女が離れて行くまでそうしていた。やがて、ゼノビアはロイズから離れるとくすっ、と小さく笑う。

 

 その瞳には紛れも無い愛しさが含まれていて――― ロイズはどうしても、振り切ることができない自身の心を呪った。なまじ地が真面目で正義漢な彼であったから、一度深く触れ合った少女を悪だと突き放す覚悟を抱けなかったのだ。

 

 彼が迷っている最中、ゼノビアは言葉を続ける。

 ロイズはただ、それを混乱した瞳で見つめるのみ。

 

「あーあ、どうしてこうなっちゃったかなあ・・・血塗れの手、足は洗えなくっても少しくらい、忘れた時間を過ごせると思ったのに。テラスで二人、料理とか食べてさ、手を繋いで歩いてさ、背中合わせで戦ったり」

 

 ただ哀しげに、空を見上げるゼノビア。

 くるりと背を向ける姿に、ティコはレンジャー・セコイアの撃鉄を上げる。

 

 されど彼女はまた、振り返った。

 

 振り返って両手をぱんっ、と思いついたように叩くと、またロイズに目を向け笑うのだ。その笑顔はこんどこそ、百花繚乱といった表現がふさわしい、花開く笑顔に違いなかったであろう。これはひとえに、彼女という存在に”悪意”といった意識がないからなのだろうとティコは嫌な汗が湧き出るのを感じた。

 

「―――ああ、そうだ、別に今じゃなくてもいいもんね?またいつか、ロイズくんを迎えに来ればいいんだよ!そうだよね、そう―――」

 

 他人を全て蚊帳の外に置き、一人で話をすすめるゼノビア。

 その姿は滑稽で、どこか、ズレたところを感じさせた。

 

 ―――だが、その姿が佇まいを新たにした時、一同に戦慄が走る。

 彼女が突如、紫色のマナに包まれたからだ。

 

 

「野郎ッ!」

 

 たまらずティコとテッサが引き金を引くも、レーザーは曲がり、放たれた弾丸は魔法障壁に弾かれ屈折、かすり傷程度の傷を与えるも、更に突如姿をすうっと消したゼノビアは紫色の粒子をあたり一面に散らし、そのまま消えていなくなる。

 

 混乱の瞳であったロイズも、更なる”大混乱”が起こるとさすがに動かずにはいられなくなり、彼女の姿を必死に探すのだ。だが完全に透明になり姿が消えたその姿は、魔法の通用しないティコでも、カメラによる監視をしていたZAXですら追うことはできなかった。

 

 だがシネマの扉がゴトリ、と、ひとりでに開いては閉じた瞬間、ロイズはたまらず走っていた。

 

 階段を駆け上がり、扉を叩き開け、そして――― 誰もいない廊下をただ、右へ左へと見つめ、迷いに頭を悩ませた時。ふわり、と風が、どこかから吹いた気がして、ロイズはとっさにその方向に目を向ける。

 

 そこにはゼノが、ゼノビアがいて――― 優しく、笑っていた。

 

 

「じゃあね、ロイズくん、また会おうね?」

「逃げるなよ!お前に聞きたいこと、まだ―――」

 

 

 また、姿が消え、音もしなくなる。

 それに気を挫かれると、ロイズはたまらず虚空に向かって叫ぶのであった。

 

 

「ッ――― 絶対に、また見つけ出してッ・・・!そんときゃ決着つけてやるからなゼノビアッ!」

 

 

 防音壁に反響し、音が何重にも響く。

 そんな中、彼は一言だけ言葉が耳に届いたような気がした。気のせいかもしれなかったが、気のせいにしたくなかった、彼はその言葉を思い出し、心のなかで何度も反芻させ――― ぎゅっと、拳を握った。

 

 

 

『―――ずっと待ってるよ』

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 ―――夜明けが来て、空が明るくなったたもと、一人の巨人がよろよろと歩き、膝をつく。

 

 

 緑の巨人、スーパーミュータントのロンサムジョージの姿は痛々しく、右手は千切れ、右足は溶けかけ、右半身は大火傷でジェル状に、左目は大きな穴が開いていた。それでも彼は、残った右目で世界を見つつ歩き――― しかし、ここにきて限界が訪れ膝をつく。

 

 もう何も考えられなかった、真っ白だった。

 ひとえに何かに対する執念だけが、彼を生かしていた、だがそれが何であったのか、彼自身にもよくわからなくなっていた。

 

 吐いた血が地面を濡らし、黒く染まっていく。彼は出血多量にふらり、と脳が絞られるような感覚を抱く。だが彼はそれでも何かに憑かれたように立ち上がろうとし――― そこで、かっと目を見開いた。

 

「おぉ・・・おぉ・・・!?ここは、アメリカ・・・か・・・?」

 

 彼の目の前に広がっていたのは紛れも無い、現代的なエリア。

 道路は核エンジン車が走り、Tシャツやスーツを着た人々が行き交いホットドッグを手に横断歩道を往来する、ネオンサインが朝の光に消されそうになりながらも輝き、街路の電気屋ではテレビがニュースを垂れ流していた。

 

 ロンサムジョージは、涙を流す。

 歓喜の涙だ、彼は足を引きずりながら歩こうとする。

 

 しかしその時、自身に近寄る存在を感じて彼は振り返った。

 

「お前は・・・おお、まさしく、君は!」

『おや・・・照合中・・・おお!ジョージ様ですか?お久しぶりです、Mr.フォートウォースでございます!大丈夫ですか?長らくお腹が空いてたまらないのでは?205年ほど何も食べていないのですから!』

「いや、大丈夫だ・・・大丈夫、はは、はは・・・!」

 

 ロンサムジョージは笑い声を上げ、周囲をよく見渡す。

 紛れも無いアメリカだ、アメリカだ――― 帰ってきたのだ。

 

 そうだ、これこそ自分が―――

 

 

 だが、

 

『パーミットの街は今とても治安が悪いようです、Vaultの部屋は今までどおり綺麗にお掃除しておきましたのでお休みになっては?傷の度合いが酷いようですならオートドクターまでお運びしても・・・』

「・・・パーミット」

『ええ、基幹コンピュータからは206年前にこの地にVaultが・・・そうですね、転移したと聞いています、ジョージ様も確かご存知だったかと思うのですが・・・救護班を呼びましょうか?』

 

「いや、いい・・・そうだ、そうだった」

 

 幻の街が消える。

 

 ロンサムジョージは残った片手でMr.フォートウォースを制し、よろよろとまた、どこかに歩こうとして――― 今度こそ、自身の身体が持たないことを感じた、同時に再び幻覚が襲ってきたのだ。

 

 かつてのアメリカの街――― そして、僻地のVaultの扉。

 

 現実と虚構が混ざり合った光景に、ロンサムジョージはようやく、自身が求めていたものに気付く。

 

 そうだ、欲しかったのは小人の首領でも、世界でも、絶対的な力でもない。ただ見える光景、そう、どれだけ傷を負っても諦められなかった世界、その残り香、その”場所”を手に入れること――― 突き詰めれば、そう。

 

「そうだ、私は・・・俺は・・・俺が欲しかったものは・・・っ」

 

 涙が溢れる。

 哀しみの涙だった、彼はずりずりと、身体を這って進むと長い時間をかけようやく、Vaultの入り口へとたどり着く。開いた扉は彼の帰還を歓迎しているようでしかし、彼はそれに言いようのない悲しみを感じ、とめどなく涙を溢れさせた。

 

 彼は慟哭と嗚咽を帰りの合図とし、そこで力尽きる。

 最後に一言だけ残し、彼の生命力は流れ出る血液と共に消えていく。

 

 

「―――俺はただ、家に帰りたかっただけなのに」

 

 

 短い言葉、誰にも聞かれず虚空に消えていった言葉。

 孤独な巨人は、悲しみの表情を顔に貼り付けたままただ、寂しさの中息絶えた。

 

 

 

 

 




(´・ω・`)闘技と異界の街、パーミット編の三章本編はこれにて終了。
(´・ω・`)あとはエピローグと間話をはさんで完全終了、四章に進みます。四章はもっとファンタジックな要素が多めになるので今回のようなハイテクチックな物語にはならないと思います。

(´・ω・`)T-60フィギュアが欲しいけどあれ3万とかするのかぁ・・・T-51bがあったら即買いだったのになぁ。
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