―――あれから、一週間は経ったかな。
NCR第75レンジャー大隊所属、運搬特務隊、通称”運び屋”なんて呼ばれてる俺さん、ティコが記す・・・この肩書き、これから先使うことあるのか気になるが、まあ今は書いといていいだろう。この街の、たった七日の出来事を簡潔に記録しておきたい。
あの戦争の傷痕は、あまりに大きすぎた。
そりゃあそうだ、下町は全部焼けちまって、壁の内側の街も入り口にはクレーター、半径2、300mのそいつが道を塞いで完全に分断しちまってるときてる。経済活動もだいぶ滞って、まだ民間人にゃ雨風を凌ぐ場所すら無い奴もいるって状況だ、六日前の雨のおかげで焼け野原が野原に戻ったのは良かったが、それでもまだまだだよ。
最初は誰も彼もが、勝利を喜ぶに喜べなかった。そりゃあそうだ、勝っても得るものがなにひとつない、与えられたマイナスを補填するものがなにひとつ――― こう考えると、俺らはある意味敗北したって言えるかもしれない。あのロンサムジョージがこれを見越して仕掛けてきたってんなら、大したタマさ。
ところで、そのロンサムジョージはVaultの扉の前で見つかった。
誰もが見てたからこいつが唯一無二の、司令官がゴブリンの長老だってんならこいつが将軍にあたる人物だってこた理解できたからな、こいつの死体は最初磔にされそうになったんだが、だが疲弊した街はそれすらできなかったんだ。
小人の死体の山を埋めるのに時間がかかりすぎて、こいつもVaultのそばの地面を適当に掘っ返してあとはポイさ、街の連中なりのささやかな復讐だったんだろうが、あいつは今頃地獄の底で笑ってるだろうよ、ヤツとしちゃ、最高の墓場だろうからな。
―――っと、話を戻すか。
最初は、って付けたのは、今じゃそうでもないってこった。
”最高の協力者達”の目覚ましい活躍のおかげで、街は結構、快適に戻ってきてるのさ。
最初の日は、確かに悪夢だった。
大混乱で指揮系統も大概だったからな、まず混迷する人々がやったことは身内を探すことだった。ゴブリンやオーガの死体をひっくり返し、瓦礫の山と焼け落ちた家の梁を火傷も気にせずひっくり返す。普段は人肉の焼ける臭いってのはどうしても不快なもんだが、こうなると不思議なもんだ、誰もがその臭いの先へつられていくんだからな。
見つけた死体が見知った顔なら大号泣が響き、顔すら分からなければ声すら上がらない。
”向こう”に比べると悲劇は少ない世界みたいだしな、この”大狂乱”でかなりの人数が心を挫かれドロップアウトしたよ。
おかげで労働人口が一気に減ったもんだから先行き不安ってもんさ、兵士や騎士の連中は完全に過労でどうにもならなかったから一気にダウンしちまって、待機できてた連中が入れ替わりに復興に加わったり、やる気のある奴が続けて動いて倒れたり、まあ騒がしかった。
二日目が雨、これは飛ばしていいだろ、何も出来るわけない。
だが三日目からが・・・結構具体的でね、まあ端折るさ、長いのは嫌いだからな。
三日目にようやく、内外から”最高の協力者”が訪れてくれたのさ。
外からは早馬を駆った国軍の精鋭部隊が到着、サンストンブリッジからもアルレットの姉ちゃん達が来てくれて久しぶりに友誼を確認できたってもんだった、なにぶん疲れてない労働力だったからな、来てそうそう戦争が終わってて、死体探しに加わらされたのには目を丸くしてたよ。
この死体探しがなかなかクセものでな、なにぶん奇襲で民間人の死者が多い。予想できるだけで数百、下町の人口の一割程度にはあったもんだから、探す方も気が滅入ってな・・・当然、俺もやった。だがそこで、”内”からの協力者ってことさ、ZAX、G.E.C.Kの複製を作ってたらしい奴さんがようやく腰を上げてくれたってことさ。
それからは早い早い、ZAX指揮下のロボット達がセンサーと高精度カメラで死体を掘り返してはあっというまに見つけ出して並べていく。これにはまたアルレットの姉ちゃんも目を剥いて、指揮下の集計係の方が手が追っつかないほどだったさ、唯一のネックは、誰かが悲しみ伝播する速度も加速度的に増加したってこったが。
食い物はZAXが用意してくれたおかげで不足してくれなかったし、口うるさいお偉いさん達はVaultに詰め込んで口封じ。まあでも、その食い物がそこらの廃品や雑草かき集めて分解、再構成なんて裏ワザで出来上がったモンだとか、あの穴倉が実験場だったなんて知ったらなんて顔するか・・・うまいから俺は食うがね?
それに相棒だ、あいつは敵の死体にゃ慣れてても民間人、味方、そういったタイプの人の死体にゃ慣れてない男なんだが――― 頑張ってくれてな、G.E.C.Kは正式にあいつに渡されて、あいつの手で復興に使われたってわけさ。
「あれが奇跡の匣・・・!」
「秘宝を持つ騎士長様がわざわざ!」
「白銀闘士の正体は王都の密偵だった・・・?」
こいつは俺の聞いた限りのあいつへの勘違いさ、出自不明、装備の出処不明、そんな俺らの勘違いはどんどん膨れ上がって良いにしろ悪いにしろ、面白い話が右から左へ流れ続けてる。なにせ娯楽に飢えてる状況だから、噂ってのはすごいすごい、俺は近寄りがたいんだろうが、相棒は正直に答えちまうもんだから次から次へと背びれ尾びれが・・・七十五日後が楽しみだな、おっと話がずれたか。
それにしてもG.E.C.Kってのはすごいな、焦土になってた街を見た時は一体何ヶ月、下手すりゃ何年かかるもんかと頭を抱えたもんだが、それも杞憂に終わっちまった。
ZAXのデータベース上に存在する設計図しか使えなかったみたいだが、それでも瓦礫の山が二階建ての近代風アパートに、焼け落ちた木造住宅なんか少し木材と割れたガラスを足せばログハウスがほんの二、三十秒に建っちまうんだ。
あいつが言うには『街づくりシュミレーションやってるみてぇ』らしいが。
Vault8の近辺、Vaultシティがあっというまに戦前の街に変貌したことがこれで納得できたさ。
おまけにZAXの奴、いい機会だからこの場所にひとまず電灯くらいは設置しようって意気込んでるから、夜の街の明滅する灯りは次から次へと広がって、今じゃ夜の城壁から見える光の波が名物になっちまってる。
文明開化の光がこの世界中に届くにはまだまだ未来が必要だが、それでもこの街からきっと、この世界はゆるやかに発展を遂げるんだろう。ZAXはようやく本格的に街の人間達とコミュニケーションをとって、手を取り合って生きていくことを決めたようでな、巷じゃ”精霊ザックス”なんて呼ばれてる。鉄と半導体と、磁気ディスクの精霊もまあ、悪かないか。
ま、そいつが正しいかどうか判断するのはたぶん俺らじゃない、俺らで断ずるにゃ、二人の男はあまりにも少なすぎる。突然の出来事が実感されるまでに数十年、もしかすると数世紀かかるなんてこともザラさ。
歯止めを欠いたテクノロジーはあらゆる災厄と不幸の根源って断じる奴もいるが、俺はそうは思わん。その陳腐なフレーズは、かじ取り次第でどうにでもできる――― 俺らにできることは、電子頭脳の”良心”を信じるだけってこった。
まあ、そんなんで相棒がこき使われて、四日目を飛ばして五日目には簡単な葬式が行われた。
信じられるか?”奇跡の匣”の持ち主だとか言われて、あいつが代表としてスピーチやったんだ。ぐっだぐだで笑いをこらえるのに必死だったが、まあ想いは伝わっただろうよ、それで六日目にとりあえず下町の雛形が完成、ZAXが設置した電灯が街を輝かせ、今に至る。
者も、物も、G.E.C.Kを使っても決して戻ってくるのは同じものじゃない。だが少なくとも、この街は元の様子に再び戻ろうとしている、そんな気概が感じられる。
時に過去は希望をくれるのかもしれないが、過去に居座ってクヨクヨしてることはきっと良くないことだって、この街の連中は知ってるってことだろう。なら俺がこれ以上書くのはちっと、野暮ってとこだな・・・え?
俺は今どうしてるって?
確かにまだ復興は完全にゃ終わっちゃいない、まだ一割くらいは家が足りないが・・・まあ、多少労働の見返りを要求してもいいだろ?ようやくあのロンサムジョージにぶん殴られたとこの差し歯が安定してきたんだ。
決まってるだろ?七日目だ、仕事のあとったら―――
「ダンナこっちこっち!」
「テーブルの料理が冷めるまで待つタイプかい?ボクとしてはあつあつのうちに食べたいけどなぁ」
「とっとと来いよグール!後にしろんなの!メシメシ!腹減ったっ!」
「すまんすまん!ちょっとだから書き足しておこうってな!さて、じゃあ―――」
乾杯さ。
少なくともこの街の物語はもう終わった、今はただの”エピローグ”さ。
今後この街はここに生きる人々が、電子頭脳のささやかな手助けのもと未来への道のりを歩んでいくんだろう。俺らはもうすぐここを去る、だから多分その道に俺らは沿って歩けないだろう。
それでも今はただ――― やるせなさを投げ打って、出来ることをやり通したって充実感に酔いしれたかったのさ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
―――異界と闘技の街、パーミット議会議員、トゥルスの一人娘、アニーア・クラ・トゥルスが残す。
街の復興がほぼ終わり、あとはやかましい貴族や豪商、要はある一定の”つつましい”ことに慣れていない気位を持った者共のわがままな要求を誰が呑むか、もしくは蹴り飛ばすかということになる。
この矛先が剥いたのは無論、あの”奇跡の匣”を所有し意のままに操っていたロイズ君で、彼は正直者なものだからどうしても――― ある一定のラインを布いてはいるようであったが、要求を鵜呑みにし次から次へと足りない労働力を奪う結果になってしまっていた。
だからこそ、私のような存在が必要なのだ。うるさい、やかましい、卒がない連中に一喝し我慢を強いる。あの”28番目の金庫”に閉じ込めて事なきを得たがそれでも、彼はずいぶんと疲弊しているようであった。
当然だろう、彼は戦争時も、戦争が終わってからも、ずっと休みなく働いていたのだ。
名も知れぬ誰かのために、戦争という受け入れるほかない理不尽に旅人である自分が巻き込まれてもなお、彼は秘宝を惜しげも無く使い、人々のために尽力したのだ。
なぜだろうか、その姿は眩しくて――― つい、一言聞いてしまった。
「君はなぜ、そうまでして誰かのめに身を削れるのだ?」
「オレ?なんていうかさ・・・B.O.Sが変わるためにはこういうとこから変えてかなきゃならないなって思ってさ」
「変わる・・・?」
「こっちにB.O.Sの奴がいるかは知らねーけどよ、もしいねーんなら・・・向こう追い出されてこっちに飛ばされた奴がいたら、自分がB.O.Sって言った時、歓迎された方が嬉しいだろ?そうされりゃ、きっとそいつもオレのやったこと聞いて、こっちじゃB.O.Sはこうすりゃいいんだ、世界に受け入れられるんだって思ってくれたら、それきっとスッゲー素敵だってさ・・・向こうでどうにもならなかったぶん、こっちじゃせめてってさ」
『それが、今オレのやりたいことなんだろうなって』
”向こう”とは故郷だろうか。
遠く離れた故郷からはるばるやってきた彼のことを私は知る由もないし、言葉の端々に理解しがたいものがあったが、だが、やっぱりそれでも彼は、とても眩しくて、私にない輝きに満ちあふれているような気がして・・・ああ、ふと妬みを感じてしまいもした。
ああ、これではあのゼノビアの思う壺だ。
故に、私はあの女に付け込まれたのだろう。
あれから部屋をもう一度じっくりと、よく調べたよ。
ゼノビアの言うとおり、私が彼女に記憶を消された証拠――― 言い換えれば、手を貸していた証拠が少しだが出てきた。奴のことだから、それと知っていなければゴミと間違えて捨てそうなものばかりを、わざと残していたのだろうな。
正直に言おう、震えが・・・止まらない。
この街で以前あったミスリルゴーレムと”毒の霧”騒ぎ、思えばあの記憶を引っ張りだしてみるとなかなかどうして、ぼやけてしまうのだ。
これはひとえに私がこれに関わったからではないか?と、疑問が次第に確信に、しかし消された記憶はそれをなりきらせないところが恐怖として私の身体を貫く。ロイズ君達に、この街にたくさん迷惑かけちゃった、そう思うと、どうしても。
―――だから、これは私なりの贖罪で、わがままだ。
この復興が終わった後、私は、この身分を捨てようと思う。
これはこの街と、彼へかけた迷惑に対する贖罪で、もう一つは決意だ。
私はこのまま生き続ければ、いずれは公爵に娶られ汚される運命。
ロイズ君の、”やりたいことをする”、その言葉に突き動かされた。傀儡になる生き方はもうたくさんだ、ゼノビアにも、お父様にも。町娘になって慎ましく働いて、それで暮らすのも悪く無い、剣と魔法の腕にも自信があるからその方面でもいいかもしれないな・・・はしゃいでは申し訳が立たないか。
向かう先には困難が待ち受けているだろう、だがそれをもって贖罪とし、踏み出す一歩をもってわがままとする。
家族には迷惑をかけるだろうが、一生に一度、娘のわがままと受け取ってもらいたい。私は決めたのだ、せめてこの街が元の光を取り戻すまで尽力し、そしてその後はどことなく消え平民に身をやつし、誰もが羨む自らの将来を潰すことで罪を償う。
自由を得たのは――― せめてそれくらい、旅の路銀にするものがあってもいいだろう?
きっとこれが、ずっとやりたかったことなのかもしれない。
でも誰もがバカなことをしたと、不調法な女だとあざ笑うだろう、でもそれでいいのだ。
白銀の鎧を身にまとい、拳を持って魔獣すら殴り倒し、あの”灰色髪”の正体を世界に公にし、そして”奇跡の匣”をもって街を救った――― そんな英雄に憧れた女の話、でも、きっと彼が成し遂げたことはそれだけではないのだろう。
彼が戦の最中に”28番目の金庫”に走り去っていった、その理由。
きっと彼は誰かの命を救うためだったんだったと思う。
あの時の彼、目に血が滲んでいた。それほどの疲労の中で戦っていたのだ――― 名も知らぬ誰かのために。そして、そのことを喧伝するでもない謙虚な心意気、彼こそ、彼らこそ英雄にふさわしいではないか。
バーニング・シェスカ、黒き剣士、ああ、それとバラッド君にテッサリア嬢もか?彼らは正式に英雄となり、そして、この街は新たに二人の英雄を生み出した。そしてきっと、これからその偉業は増え続けていくのだろう。
どことも知れぬ場所から訪れ、誰とも知らぬ人々を助け、そして名誉を鼻にかけるでもなく去っていく。
そんな彼らの未来に幸あらんことを、心から望もう。
「―――いつかまた会おうか、ロイズ君」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―――フラティウ・ドムアウレアが記そう。
これは反省文のようなものだ。
此度の戦いにおいて、我はようやくと自身がまだまだ未熟であることを悟った。
多少名の知れた剣士となった気がしたが・・・彼ら、ロイズとティコの二人の登場によってそれもまた、まだまだなのだと言うことが身にしみて理解できてしまったのだ。
先のミスリルゴーレム事件、毒の霧事件、緑の巨人――― ”装甲悪鬼”こそ退けたものの、それでも今回我が自身を無力と感じた件は枚挙に暇がない、むしろこれらの件は特に彼ら、ロイズとティコの二人がいなければ街の被害は更に甚大なものとなっていただろう。
勇気に関して引けを取るとは思っていない、我も彼ら同様、強大な相手にも臆せず立ち向かい剣を交える覚悟はある。だが足りないのは実力、呪い剣に頼りすぎ、鈍っていた我の実力だったのだろう。
あの呪い剣ベルセルクは確かに強大だった、鉄に力一杯叩きつけど刃こぼれひとつせず、切れ味は魔獣の鱗を安々と切り裂く。今も思えば確かに――― バカを言うな、あれは我の正気を奪い戦闘狂へと化す装置だ、振り切らねばならない。
それに性能の優れた剣は持ち主の力を引き出してくれるが、逆を言えば剣の力を引き出すのも我なのだ。力及ばぬ身で魔剣に手を出したこの身は呪い・・・そして更に、鍛錬を積む必要があるだろう。
先の功労もありこの街に別荘を構える許可が出たところだが、しかし、休暇を取るのは少し先延ばしになるだろう。我は一流の剣士としての、そして再びロイズに出会った時その拳に劣らぬ腕前を得ていなければ剣士の恥となろう。
そういえば、折れてしまった剣はウグスト・ラゴンが打ってくれるそうだ。
彼は元来あの気質だから鍛冶にも手を出していたそうで、今回の功労で与えられた隕鉄を使って丸一週間かけて我のために造ってくれるらしい。これは彼なりの罪滅ぼしだそうだ――― もはや男二人、何も言うまい、受け取るとしよう。
ああ、そうだ。
王都からサンエルフの光速便で伝聞が届いて、今回の功労を労うために王都へ招聘されることとなった・・・のはいい。
なまじシェスカに対しあのようなことを言った手前、彼女の祖父、”炎神”ウェスヴィオスへのお目通りは避けられないだろう。ある程度長期滞在になる予定でもあるから、何を言われるだろうか、祖父の許しを得て事実上彼女を侍らせている身分、嫌味は言われないだろうが逆に、当然断れない過剰なもてなしをされるかもしれないと思うとなかなかに腹に来る。
しかし、はあ、これでは休暇と変わりないではないか。
我の覚悟はいったいどこへ、か、神にでも嘆きたい気分だ。
ロイズはそういえば、これを”ジーザス”と言うのだと言っていたな。
追伸:あの二人は近日中に出て行くらしい。元々住んでいた場所が焼け落ちてしまったから溜め込んだ酒もオシャカになって渡すものがない・・・いっそこの動く篭手でも渡そうか、と独り言をしてみたら必死に嫌がった、可愛いやつらめ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
―――天才、鬼才、でもまだまだ成長中!
フランシェスカ・パレ・ガイウスが書いておくわ。
あのあと私達は、街の戦局を傾けたってことで祭り上げられる羽目になったの。
連日連夜下町を歩けば拝み倒され街を歩けば擦り寄ってくる連中があっちこっちに!あれからずーっと街の英雄扱いで疲れちゃった、ゴブリンの軍隊を焼き払ったのは確かに、実際あたしだけど、それも何もかもフラティウ様があたしを引き戻してくれたからよ?真の英雄はあの人よあの人――― あの人だけなの、かな?
ああ、何であの童顔が浮かぶのかしら、ライバル?ジャンルが違うわよ。
あいつったら、どこから持ってきたのかまたおかしな道具を持ちだして、そしたらあっというまに街に家を建てて、そうしたら今度は街を歩いてるはずのからくり人形達があっちこっちに紐を吊るして・・・え?なに?お祭りでもやるの?復興祭?って思ってたらオドロキよ、夜が真昼みたいに明るくなったんだもの!
普通の街灯みたいなんだけど、比べ物にならないくらい明るくて、それが家の中にまであるもんだし、家の中の設備だって前のと比べてずーっと高度だし・・・なんだか、別世界みたい。それに街灯の灯りもすっごく、綺麗なの、フラティウ様と城壁上で見た時はいいムードだったわ、何もされなかったけど、ファック。
ああ、これ?あいつから教わったの、悔しい時に言うと少し気持ちが晴れるらしいわ。
じゃあ気分が晴れたところで続けましょうか。
それで街がからくり人形と、やっぱりいたのね、28番目の金庫の”精霊ザックス”のおかげで復興したものだから、今じゃザックス信仰なんてのも雛形が出来たくらいよ。あの場所はまだまだ貴族連中が別荘代わりに使ってる場所なのは変わらないけど、入り口あたりじゃここのとこ住む場所を失ったり、私財を失った人達が精霊ザックスに救われたとかでよく供え物を置いていってるわ、そのうち教会でも出来るんじゃないかしら。
心の拠り所ができるってのはいいけど、ああいう手合いはほどほどにしておかないとね。話した限りじゃ精霊ザックスってのは礼儀正しくて、正義感に溢れてて、それでいて力も持ってる高位の精霊みたいだけど、なんだかズレてるのよねえ、マナを全く感じないのも関係あるのかしら。
まあ置いておいて、あたし達、王都から招聘を受けることになったの。
当然よね、街一つ救った英雄様よ英雄様・・・なんか疲れるわねぇ。
でもあたしなんか実家が実家だし、フラティウ様も名が知れてるし、それにあの暇な王様のことだからどうせ本人から話を聞きたいってことなんでしょ。まあちょっとながーく休みたいって思ってたところだし、ちょうどいいかなあ。
まああいつらにもそのうち手紙が届くでしょ、今は身辺を精査して、招聘するに値する人物かどうかを調査してるってところでしょうね、それまであいつらここにいればいいけど。サンエルフの手紙は確かに届くのが早いけど、場所が分かってないと届かないのよ。
そういえば、壊れた杖も替えないとね。
あたしの全力が極大魔法を扱えるものだって分かった以上、実家からいいものをちょろまかしてこようかしら。
久しぶりの実家帰りだし、やることはいっぱいありそうねえ、まあでもとにかく――― お爺ちゃんのところに行って、フラティウ様から言われたことをそっくりそのまま言ってあげなきゃ!こーんな楽しみなこと、ある?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
王歴626年、太陽神の月20日、セネカ・アンナが記す――― っと。
「記録取るのは勝手だけどよ、本人の目の前で復唱されるとなんかむず痒いんだけどよ」
「ははっ、ごめんね?ついクセで。まあカッフェ・・・いいや、”コーヒー”でもどうかなロイズ君、今回はザックスが特別いいのを作ってくれたんだ」
「・・・そいじゃ遠慮なくーっ」
ロイズ君は相変わらずブラックコーヒーを好む、私は砂糖多めのが頭が回って好きだけど、彼はより頭をスッキリさせてくれることを好むらしい。顔立ち幼気だったり、戦闘術が徒手空拳とは思えない気遣いだ、やっぱり彼は見てて面白い。
「だっから本人の前でそういうこと言うなよぉ」
「気にしないでくれたまえ、まあ、頭も冴えたところでインタビューと行こうじゃないか」
足を組み替えて少し魅せつける。
戦闘に関しては黒の剣士を制し、女の子を二人も侍らせて旅をしてるものだから結構なやり手だと思っていたけど、案外ウブらしい、あからさまに目を逸らすかと思えば無意識的にちらちらと向けてくるのだ、これは見ていて面白い、彼のような人物でもやっぱり年頃の青年ということか。
「・・・もう何も言わねー」
拗ねてしまった。
その顔もなかなかに可愛らしい、確かにあの”灰色髪”が惚れ込んだという話も頷ける、しかし一体どうやってあの”灰色髪”を退けたのだろう?狙った獲物は間接的にだが必ず仕留め、欲しいものはことごとく得、この王国のみならず世界を恐怖に陥れているあの悪魔を相手にだ。
そこのところ、どうなのかな。
「オレだけの力じゃねーさ、ZAXの奴が協力してくれたから暴けた・・・でも、逃げられた」
「でも彼女を敗走させたってことだろう?」
「違う、ゼノは逃げたんじゃない、多分だけど完全に手加減してた。囲まれた状況からああも簡単に逃げ出せるなら、きっとオレらを一捻りにすることだってできたんだと思う・・・やらなかったのはあいつがオレを・・・くそっ、殺したいんじゃなくて欲しがってたからで、それはあの面子に囲まれてたら100%じゃ出来なかったから」
「完敗、よくて引き分け、と」
「察しがいいのは助かるけど、もうちょいオブラートに包んで・・・いや、いい、ハッキリ言ってもらった方が反省になる」
心底、悔し顔を見せるロイズ君。
まあ心中察するよ、あの”灰色髪”に生涯つけ狙われることになって、戦後は街の復興に尽力して心身ともに疲労、おまけに街の英雄だの、精霊の使者だの各方面からの扱いがくるくる変わってばかりだ。
「甘いもの用意しようか?少しは休んだとはいえ、君は日々だいぶ頭を使ってるみたいだし」
「あー助かる、キャンデーとかあったらそれがいい」
「あいよー」
確かザックスが、”副施設管理者”に任命したいとかで持ってきてくれた菓子折りの中にポップキャンディが・・・あったあった、リンゴ味ってリンガ味と同じなのかな?最近少しは字が読めるようになってきたんだけど、どうも実像が伴わなくてね。
「だいたい同じだよ、リンガよりずっとこじんまりとしてるけど」
「それは食べやすくていいねえ、たまにリンガの差し入れをもらうんだけど一人じゃ辛くて・・・」
「あー・・・」
「こら、この歳で独り身なのは望んでなんだよ」
失礼しちゃうなあ、全く。
で、ちょっぴりリフレッシュできたところで続けようか。
単刀直入に、”英雄”になってどう思う?
「まあ言われるぶんにゃ悪い気はしねーんだけどさ、なんかガラじゃないってーか、そういうのはオレよりもあのグールのが慣れてるっつーか」
「へえ、あの人が?確かに大物な感じはするし、敵将を討ったのも彼だったね」
「“向こう”にも英雄がいてさ、あいつはその相棒だったんだよ。で、百年以上英雄やってる奴だったからあいつがどう振る舞うか参考にしようとしてさ、オレ、急にこんな扱いされてどぎまぎしてさ・・・前の街でもそうだったけど、視線を一身に受けるのってやっぱ苦手なんだよな、闘技場で少しは克服できたけどそれでもまだだから」
へえへえ、それで。
得られたものはあったかい?
「なんつーか・・・無かった。っつーかあいつ、全然変わんねーんだよ、外を歩きゃ敵将討ち取った豪傑とか、そんな体だから頭下げられるくらいにはなったし、酒場じゃ二番目くらいにいい席を取っといてもらえるんだけどよ、普段と何も変わんねーんだよ、鼻にかけるでもねーし」
「―――あるがまま、それが彼が見つけた英雄としての振る舞いなのかもねえ」
「精一杯、オレは出来ることをしただけなんだよ、誰かが死ぬって分かってて見過ごすのは罪な気がして、自分のできる限りのことを必死にやり遂げて、それでこうなった。なんだかオレ、わかんなくなっちまってさ、あいつはずっと何か・・・悔しいけど高みにいて、”こうすべき”ってことが分かってんのにオレはさ」
「聞けばいいじゃないか、彼のことだから快く教えてくれると思うよ?」
「それができねーから悩んでんの」
「・・・君も難儀な性分だねぇ」
悩みを打ち明けられる気分は悪く無い。
人生相談の経験はあんまりないんだけどまあ、私なりに言えることもいくつかあるかな。
26にもなって独り身の女でいいなら、いくらでも相談には乗るよ。
「こう言っちゃ何だけど、早急に見つけるものじゃないんじゃないかな」
「そうかよ?」
「自分にぶかぶかだったり、隠し切れないような仮面を身につけてもどこかで綻びができちゃうもんさ。ちゃんと時間をかけて、自分に合った英雄の仮面を身につけられるようにすればいいし・・・しなくてもいい、彼のようにね」
「グールみたいに・・・」
唇に指を当て、考えこむロイズ君、かわいいね。
おや、ずいぶん早いね、伊達に頭の回転が早いわけじゃないかな。
「ありがとよセネカ、何か・・・楽になった気がする」
「それはどういたしまして」
じゃあインタビューの続きと・・・いや、私から話したいことがあるんだ。
―――聞いてくれるかな?
「構わねーけど」
そうかい、じゃあ話すね。
あのあと、君たちとの約束通り私をこの場所の最下層、あのザックスのいる場所へと連れてってくれたよね。
驚いたよ、精霊ザックスなんて呼ばれてるものの正体が、あんな米俵を横にひっくり返したみたいなカラクリだったなんて・・・あれが高度な技術、異界の技術の結晶だとすればすごいな、技術は命を、考える魂を生み出すことすらできるってことかな。
「あいつはAIだよ、魂なんてない・・・っては思うけど」
「でも私達と同じように考え、話し感じられるんだろう?それならそれは心と等しいものじゃないかな、ある種の”魂”って言って十分に思えるけど」
「・・・ZAXも同じこと言ってたなー」
カラクリの頭脳と同じ意見を言えるとは光栄なのかどうなのか、まあ置いといて。
あれからザックスに、いろいろなことを教わったよ。
異界が”地球”という場所、そのアメリカって国だってこと、異界の魔獣はアメリカが生んだ怪生物だってこと、この場所は実験施設だったってこと、この場所の生産施設がひとつのカラクリによって賄われていること――― それを生み出した国は既に、滅びてしまったこと。
正直頭がパンクしそうになって、噛み砕いて飲み込むのにせいいっぱいだった。それでも知りたかったんだ、異界の謎を知るのが私の家系の使命で、私の生涯の課題だったから、止まらなかった。
「・・・残酷じゃなかったかよ?」
「現実は思いのほか残酷だったかもしれないけど、それでも謎には迫れたからね・・・異界の人間が、私達と同じ姿形だってことも知ったよ、それでね」
聞きたいんだ――― ロイズ君ってどこから来たんだっけ?
「・・・ウェイストランド、だよ」
「そう言うと思って聞いておいたんだ、その意味」
―――荒れ地。
全てが滅び、水も草木も生い茂らない、不毛の土地。
でも知ってるんだ、それは”揶揄”が入った名前だろう?
かつての名前があったはずだ、答えてくれ、ロイズ君。
「―――何も言わないか、いや、いいんだ、私が続けるから・・・ただ、これだけは言わせて欲しい」
―――ありがとう。
「・・・は?」
「感謝だよ、私の・・・夢を叶えてくれたね」
「ッ、そっか、そうか」
「うん、そうさ」
ロイズ君と初めて出会った日のこと、覚えてる?
血印を使って君を縛り付けたのは悪いと思ってるけど、でもあの血印ね、すぐに効果を失っちゃったんだ。記載のミスかなって何度も確認したけどどこも悪いところは見つからなくって、それからずっと放っておいたんだけど、最近になってようやく勘付いたんだ。
「血印が消える条件は、”私が異界の人間に出会うこと”」
何も言わない、いいよ、私に喋らせてくれ。
わかったんだ、故障とかミスなんかじゃない、叶ってたから消えたんだ。私の夢はもうずっと前から叶ってて、私の側にいたんだ、私はそれにずっと気づかないで、ずっと夢を追い続けてた―――
「―――もう、行くんだろう?」
「まあよ、ずっと長居してるのもあれだし、得られたものもあったし、それにあのポンコツを送り届けなきゃならねーからよ、北のニーヴェって港町までは一気に行こうって思う」
「ふふっ、旅路で出会っただけなのに、あんな雪国までなんてほんとにお人好しだよね、でも、良かった」
異界の人間がどんな人かって、ずっと想ってたんだ。
今、分かったよ、今までずっと居て、分かれたよ。
六本の指も、大きな頭もない、等身大の私達となんら変わらない人間、それが異界の人間だったんだ。首を狩る蛮族でもなければ侵略戦争に明け暮れる高度文明でもなかった、ただ平凡な、誰かのために戦えることもできるし笑いもすれば怒りもする、ただの人間。
「ふふっ」
「今まで黙ってて、悪ぃ、あんまりバラすもんじゃなかったから」
「いいや、いいのさ、ありがとう、私の夢を叶えてくれて・・・ああ―――」
―――異界の人間、すぐ近くにずっといたんだなあ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
―――明滅するディスプレイの灯りが部屋に反射し、点滅するランプがせわしなく目をぱちくりさせる。腕を組んで何かを待つようにせわしなくしていたティコはVault28の最下層で、ZAX1.24と対面していた。
『申し訳ありませんティコ様、そのような音声記録は見つかりませんでした』
「ああ、だろうな・・・その年代にはもう、こっちに来てたわけだ」
残念そうにうなだれるティコ、ZAX1.24は首を傾げるような口調で問いかける。
『しかし、その音声記録にどのような意味が?』
「いや、ZAX1.2との通信記録があったら・・・もしかして、”相棒”の声が残ってるんじゃないかって思ってな、さすがに虫が良すぎたか。大丈夫だ、手数かけてすまんね、じゃあ話の続きとしてくれ」
『了解いたしました』
ZAXが言うと同時、ディスプレイ上に一体のMr.ハンディが表示される。否、それは戦闘特化型に改良されたハンディタイプ、Mr.ガッツィーであった、識別番号が通常つけられている箇所には代わりに、”Mr.フォートウォース”の文字がプリントされている。
『こちらのアメリカン・ナンバーの最後の一機、Mr.フォートウォースをガッツィータイプに改良致しました、装備は火炎放射器にプラズマライフル、カッター、それとオプションで小型レーザーRCWを搭載しておきました、こちらのカスタムモデルなので再生産にはやや時間がかかりますが、動力、弾薬はG.E.C.Kを応用して充電が可能なので問題無いでしょう』
「助かったZAX、弾も手もそろそろ足りないと思ってたとこでな」
『・・・大事にしてくださいね?』
「ははっ、分かってるよ」
互いに笑い合う一人と一機。
ひとしきり笑うと、ZAXは再び問いかけた。
『それで、今度はどちらに?目的地が分かるのならば私の演算能力を用いてナビゲートが可能です、あなた方は以前南西のサンストンブリッジに至るまでに遭難しかけた経験があるそうですから、必要かと・・・』
「北のニーヴェって街にな、ああそうだ、せっかくだから冬用のコートとグローブをあつらえちゃくれんか?雪国なもんだからこいつじゃちと手が凍えてな、銃撃手としちゃ死活問題でな」
『了解いたしました、とびきりのものを――― と言いたいところですが、表の通りで好みのデザインを探されては?せっかくなのでポラロイドカメラをお渡し致しましょう、少々古い型ですが十分に稼働すると思いますよ』
「分かった、そうしようか」
カメラを受け取り、ティコは後ろ手に手を振り部屋を出ようとする。
その背を、ZAX1.24が呼び止めた。
「どうした?」
『いえ、ただひとつ』
すうっと、見えていないのに息を吸う様な姿が見える。
ティコはZAX1.24に向き直ると、言葉を待った。
『ロイズ様のこと、大事にしてあげてくださいね?あの方は私の見立てですと、他者のために自身を顧みず無茶をするタイプのようですから。私としても唯一のアメリカ人、この場所で最適な監督官に死なれてしまうのは心苦しいです』
「・・・言われずともさ、じゃあな」
今度こそ、手を振りエレベータに乗って消えていくティコ。
最下層、ZAX1.24の周囲にはこんどこそ――― 機械の駆動音だけが響いた。
(´・ω・`)これであとは前と同じ間話を挟んで四章へ。
(´・ω・`)この章はえらく長くなった気がしましたが、さすがに次はここまで長くはならない予定です。