トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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(´・ω・`)すいませんここまで間隔空いたの初めてかも。
(´・ω・`)すべては正月の用事が悪い・・・。

https://twitter.com/kyousuke4926/status/681807853892468736
(´・ω・`)こんなことしてたのはたぶん関係ないです、建築たのしい。


(追記)
(´・ω・`)気がついたら100万文字を達成したようです。
自分でもこれほど続くとは思っていませんでした、趣味の範囲と思って続けているものですが、それでも読んでくれる人が励みになっているのは間違いありません。
今後ともよろしくお願いします、構想は六章まで完成、全八、九章程度を目安に考えているので不幸でもなければ続いていくはずです。Fallout4に夢中で更新遅いのはごめんね・・・(´・ω・`)


15780字。
氷魔、再臨。


第四章 妖精郷と再臨の氷魔 9話 『再臨の氷魔』

 

 

 

 照らしてきた朝陽につい目を眩くし、ティコはつい手で陽を隠す。

 

 思えば眩しい太陽はどこでだっていつだって、落ち着くものであった。夜行性の生物は眠りにつき、開けた視界は敵を早期に発見するのにも役立つ、そしてなにより、ほのかな暖かさこそが気持ちいい。

 

 一日の労働の開始を宣告させられた気分になる寝起きは嫌なものだが、それももうずっと、遥か昔に慣れた。

 ”成功者”という天高い一握りは得てしているものだが、自分のような地べたに密着して生きながらえていたような男にもなると、今植えているマットフルーツの芽が出て木になり実を成らせるまでを食いつなぐ方法の模索の方に気が向いてしまうほどだった。

 

 そう考えると、今置かれている状況はとても幸運なものだったかもしれない。

 

 思えばこちらに来てからは使命や流儀、道義を通すといったものにかまけてばかりで、まともに金銭と食を得るための労働といったものはその日行き当たりばったりばかりだった。

 以前少女アルベルトと月のエルフのテッサを迎えたサンストンブリッジでは働いてすらいなかったし、一度ガラクタを売りさばこうとした時は大失敗を演じて結局文無し、騎士達との運命的な出会いがなければ今頃ヒモやロクデナシと雑言を浴びるもいいところだろう。

 

 パーミットでの闘技場や日雇い仕事も行き当たりばったりそのものだ、ロイズがいいチームに巡りあったおかげでそれなり裕福な生活をあそこでは送れたものの、ここでもやはり、運命的な出会いがなければどうなっていたものか。

 ティコの日雇い仕事も給金がいいものではなかったし、そもそもどこから来たか分からない”火傷男”など間口も狭いに違いない。

 

 

「思えや、ロマンティックな引き合わせが俺らを長生きさせてくれるってか」

「どしたんですダンナ?」

「いやちょっと、物思いにな」

 

 隣にいるアルに聞こえて、聞き返される。

 

 ティコは土のついた手をぱんぱんと払うと、なんでもないさ、とだけ答えて足元を見た。

 荷物の中に転がっていたものだし、なによりここは土壌がいい。ウェイストランドで突然変異を起こしたブラックベリー、もしくはラズベリーだったかもしれない、今ではマットフルーツと呼ばれるフルーツだったがきっとよく育ってくれるだろう。

 

 そのまま食らうのが一番うまいし栄養的だが、このフルーツをカリカリになるまで干すとこれがなかなか日持ちするのだ。これしか育てていない村などでは、時にこれだけ食べて飢えを凌ぐなどということもあるほど栄養価は高い。

 

 種を植えた場所を見て、ティコは一息つく。

 

 

 この種は芽吹くまで当分かかるだろう、それはつまり―――

 

「アルちゃん、お兄ちゃん!」

 

 声の通りから、少し離れたところから掛けられたであろう声を聞いて二人は振り向く。

 

 ああ、なんと愛おしいか、金糸の髪が振り回されるのも厭わずに駆け寄ってくる一人の少女はとてもかわいらしく、しかし、その内に秘めた混沌と闇を知っているからこそティコはその瞬間にぴくりと身体が硬直し、そして無理やり和らげるのだ。

 

 ニュイは駆け寄ってくるとがばっとティコに抱きつく。

 背丈の差はあまりにも大きく、それはアルがするのよりも低く、腰元に向かって頭をぼふっと押し付けたニュイはされど、彼が着込んでいたコンバットアーマーの防弾素材の予想以上の硬さに頭を打ち付けたようで頭をおさえてうずくまる。

 

「お兄ちゃん鎧着込んで種植えてたの?」

「勝って兜の緒を締めよ、だ。ドラゴンがいなくなっても死んだわけじゃない、ほら、なんだ、お前を守るために俺がいつだって強くあらなきゃいかんと思ってな・・・ほら、今度はゆっくりおいで」

「うん!」

 

 ぼふっと、ティコの腰元に顔を埋めるニュイ。

 ああ、なんと愛らしいことか、なまじ百年を超え生きながらえているだけに、こういった子供に対する愛情は人一倍強いのだ。

 

 んふふ、と声を漏らすニュイ、そうしていると隣から目を細めてアルが彼を見やって言った。

 

「おふたりとも、ほんとに仲がいいんだねー」

「だってお兄ちゃんだもん!そういえばお兄ちゃんとアルちゃんってどういう関係なの?・・・あっ!」

 

 一人で聞き、一人で答えも聞かずに納得した素振りを見せる。

 ニュイはティコに寄ったまま、たたっとアルからティコを隠すようにした。

 

 

「お兄ちゃんが好きなの!?ダメ!お兄ちゃんニュイのだもん!」

「はは・・・これは大胆な」

 

 少女の小さな意地に、ティコは軽く笑って両手で”参った”とポーズを取るが、なんだかんだ満更でもない。人に好かれること自体、愛されること自体彼は十分に心地よく感じられる男だ、返す愛情は娘に向けるようなものであったが。

 

 ただ一つ突っかかったのはそれが幻影の兄へ向けられていることでもあり、演じようとする自分に仄かな罪悪感を抱かざるを得なかったが、逆に受け止めてみればそれは彼女の兄に対する態度、愛情を推し量ることができたとも言えるだろう。

 

 彼女は間違いなく、幼い心ながら兄に並々ならぬ愛情を抱いていたはずだ。それを隠し立てすることもないくらいに情熱的であり、そしてなによりきっと、兄ムンドもそれを受け入れていたのだろう。

 

 それに聞くところによると、彼女らは二人で暮らしていたそうだ。

 ずっとずっと、二人だけ、頼れるのも兄だけだった。

 

「つまりってと・・・」

 

 家族以上に愛した兄が死んだ時、受けたショックは”家族が死に至った”よりもずっと強く、幾重にもマイナスの要素が重なったのだろう。彼女の心が先見えぬ霧に包まれたのは弱さではない、唯一の逃げ道を塞がれたことに起因するのだ。

 

 

 ―――なら。

 

 思いかけて、そこでふと、アルが動いた。

 ニュイの言葉に意地悪に微笑んで、後ろ手に手を組んで彼女はすっとニュイの前に踊り出る。

 

 ティコは考えかけたものを頭の隅にしまい込み、彼女の出方を見た。

 思えば彼女、ニュイに対する一挙一動を監視するかのように過敏になっているな、とふとした自虐も思い浮かんで彼は軽く笑う。

 

「ニュイちゃん、大丈夫だよーっ」

「うーっ」

 

 獣の皮をかぶったか、されど隠し切れない仔猫がうなる。

 アルはその噛み付きそうな頭に手を伸ばすと、軽く撫でた。

 

「・・・”ニュイちゃんのお兄さん”は、アタシ取らないから」

「・・・ほんと?」

「うん、ほんとだよー?だってさ」

 

 にっと笑って、ティコは見ない。

 どこか遠く、振り向いて視る彼女は後ろ手を頭に組んだ。

 

 

「アタシが好きなのはダンナだもん、だから大丈夫だよ」

「だんな?誰のこと?」

「ムンドのお兄ちゃんが格好真似た人がいるでしょ?ティコのダンナさ、すっごく強くってカッコよくって、ドラゴンだって一匹仕留めた凄腕の”れんじゃー(狩人)”さん。きっともう一匹も倒してくれるよ、ねっ」

 

 笑んだままティコをようやく見るアル、なんと子供の扱いが上手いことか。

 ティコが思い返せばアルは孤児院の年長で、その手の事柄に関してはグールとして差別的な扱いをされがちで、グールが不妊なせいで赤ん坊を抱くことなどそうそうなかった彼よりもずっと上なのだろう。

 

 思った以上の助け舟が近くにいたことを再認識し、ティコはこめかみを掻く。

 そしてアルの視線に応えるのだ。

 

「そうだなアルの嬢ちゃん、きっと・・・いや、まずやり遂げるさ、特にあの相棒は強い。ドラゴンと殴り合い出来る男にドラゴンの鱗をぶち抜ける男が加われば、空飛ぶトカゲくらいあっというまにローストできるってもんだろう」

「ほら、ムンドさんもこう言ってるでしょ?そしたらきっと落ち着いて暮らしていけるようになる・・・今はみんな警戒してて、ピリピリして外にも出られないけど、きっとすぐに外の世界を見に行けるようになるから・・・」

 

 じっと、頭を撫でて言うアルと、遠くを見据えるティコ。

 ニュイは言葉に納得したようで、ティコから離れまた種を植えるのに戻る。

 

 少女の夢は、兄と外の世界を見に行くことだった。

 なら、”今”が終わったとして、その次に彼女に与えられる世界は―――。

 

 

 思い、振り払う。

 目の前の問題を解決するのが先決だ、荒れ地の流儀はいつだって行き当たりばったりなのだ、故に正面から差し迫る問題を壊していくことこそが最もいい策だった。

 

「さて、そろそろいいだろう。それ以上植えたら増えに増えてここら一帯がマットフルーツに占拠されて年中甘い匂いに包まれちまう。俺としちゃぁ酒のツマミには結構いいからやぶさかじゃないんだが、世話が大変になっちゃ本末転倒だ」

「ニュイがんばれるよ?」

「そうかいい子だな・・・一段落ついたら、ここの名産品をマットフルーツに書き換えようか、っと」

 

 今だけは、確かに純真な瞳で見つめてくるニュイの頭を撫でて下げ、彼は遠くをまた見た。

 

 景色というものは美しければ美しいほど、心を癒やしてくれるものだ。

 そこに感じるのは不思議な神秘性であったり広い大地と空に起因する解放感であったり、癒やしてくれるものもベクトルも個々の人間によって千差万別となるだろう。だが少なくとも、この少しだけ煤けて傷ついた森のなかの集落でも、かつて歩いた荒れ地よりはずっと美しい。

 

 荒れ地を歩いてたまに見かけた花など大抵の場合食用だ、そのあたりにある風情の趣の差異というものも、この景色に目を向ける彼を多少なりとも癒やしているのだろう。

 

 

 新緑の葉と大樹の幹の陰影が頭上の日光を遮り、舗装されていない道に影絵を作る。

 ティコはふうっとため息を吐いて、その輪郭を辿ってみる。

 

 ヘルメットを脱いで、クリアになった視界にはコントラストが明確に認識できるのだ。彼が視線をたどっていく道には影と、光と―――

 

 

 ―――あれは、何だ。

 

「・・・陰、いや、影・・・っッ!」

 

 彼が直感する、認識する、同時に仮初の平和を享受していた集落に警鐘が鳴り響く。

 その瞬間彼は、事態が異常となったことを察し背中からアサルトカービンを引き抜いた。

 

「止まれ!死ぬぞ!」

 

 引きぬいたアサルトカービンの安全装置を外し、即座に向ける。

 

 目標は目の前走れば一分かからずの距離、真っ黒、のっぺらぼう、まっくろくろすけ。彼が認識するに”影”としか想起出来ない存在だ、多種多様な獲物を手にした影の戦士は一心不乱にティコめがけて直進のルートを外さない。

 

 5mmフルオート、装弾数24発のカービン銃は銃口をその足へと向け、今か今かと発射の時を待ちわびるのだ。

 

 彼は”死ぬぞ”と相手に問いかける、これはひとえに”撃つぞ”から連想される攻撃をこの世界の人々が持たないために、直感的に危険を知らせる術として考えついたものだ。だがそれでも、影の戦士は止まること無くティコへの直進を続ける。

 

「馬鹿野郎が!」

 

 ニュイとアルを背後にかばい、瞬間、銃口からパパパ、と数発が発射される。

 フルオート射撃でも要所を外さないのは彼の腕前の証左だろう、足元を銃弾に射抜かれた影の戦士は影の霧を撒き散らしながら転倒するのだ。

 

 だが―――

 

 

「冗談じゃねぇぞ!サイコのやり過ぎじゃあねぇのか!」

 

 ティコは舌打ちし、倒れた”影”へ憎らしげな視線をぶつけるのだ。

 あろうことか、脚を射抜かれた影の戦士はそれでもなお腕を動かし緩やかにティコへと迫ろうとしている。痙攣もなく、うめき声すらあげないそれはまるで痛みや苦しみとその存在が無縁であるかのようで、実際にそうであるのだろうとティコは結論づけ、また舌を打った。

 

 彼はハンドサインでアルに示し、叫ぶ。

 

「嬢ちゃん!ニュイ!家ん中に下がるぞ!せめて階段で迎え撃つ!」

「あ、アタシロイズさんを呼びに・・・」

「大丈夫だ嬢ちゃん、これから俺が派手にやる!向こうで何も無けりゃすぐにほっといても来る!」

 

「あ、あいさー!」

 

 

 指示を受けアルがニュイの手を引き駆け出すと、戸惑い気味であったニュイも彼女に従い走りだすのだ。

 

 幸いこの、集落半ばの小さな農園は家の隣であったために、発砲し影の戦士を行動不能に落とし入れていくティコの助けを背にすぐアルは階段を駆け上がって扉を乱暴に開き、先にニュイを入れてやると腰元に手を差し込む。

 

 

 そして引き抜かれるのは一挺の拳銃、22口径ピストルだ。

 ティコはこれより大きい”きゅうみり”というものを使えるようになってほしいと言っていたが、あいにくとタイミングが悪くまだ訓練も受けていないし、そもそも持っていないため今回の出番出番は無いだろう、とアルは思いながら銃の安全装置を外す。

 

 慕うダンナは”火力に欠ける””護身用程度”とばかり言っているが、せめてこれで援護が出来るならするのが旅の道連れ、そして恩人への恩返しだろう。

 

「アタシだって!」

 

 弾が入っていることを確認すると、安全装置を外し階段の手すり越しに敵の射手を狙う。

 

 瞬間、全身の血液が目に集まるかのように身体がかあっと熱くなり、途端、アルの視界を流れる景色がスローモーションのように緩やかになるのだ。アルの身体に流れる亞人の血、それによる彼女に与えられた特別な能力だった。

 

 発砲し、射手の手に弾丸をねじ込ませる。

 その瞬間に気の緩みを感じたのだろう、アルの視界が元に戻る。

 

「やった!」

「よくやった!」

 

 原理はV.A.T.Sと似たようなものだ、神経を極限まで緊張させて精神を加速させる。

 ただほんの僅かな時間しか使えないのはひとえに、彼女がまだ子供であり体力に欠けるせいだろう。それを抜いても彼女の身体は、訓練さえすればガンナーとしてはきっと優秀になれるはずだ、とティコは見抜いていた。

 

 敵の射手は腕を射抜かれ、しかし―――

 

 

「―――冗談じゃない!」

 

 階段を駆け上がってくる影の兵士にフルオートで弾丸を叩き込み二人を霧散させ、残る相手を前蹴りで叩き落としながら、ふと射手に目を向けたティコは嘆いた。

 腕を射抜かれているのにもかかわらず、敵の射手はまた黒く染まった影の弓を射ろうと腕を動かすのだ、痛みはなくても筋繊維を断裂させられた後遺症は残るのかその手先は鈍いものの、確かに狙いをつけ、そしてティコに向かって放つ。

 

「ひゃぁ!」

「くそっ!」

 

 アルをかばうように位置を調整したティコの頭上を、すれすれで矢が抜けていき扉をくぐり、部屋の壁に刺さる。

 

 その間も敵は階段を上がってくるのだ、残った弾丸を全て吐き出すまでティコは更に撃ちこみ続けると、リロードが間に合わないと判断しアサルトカービンを投げ置き武器をククリナイフに持ち替え迎撃する。階段は一本道、幸いここを死守すれば多数を同時に相手にしなくても良かった。

 

 

 だが、

 

「ッ!」

 

 矢が再来する。

 

 今度は打ち合っていた手をかすめて飛んでいったそれにティコは状況が、依然不利なことを悟ると腰元に手を掛ける。

 一挺のピストルを引き抜き、それをアルに投げるのだ。中空で直線を描き投げられた一挺のピストル、それはアルの手に収まり、しかしずしりと慣性を彼女の手に与え少しばかり動き、やがて止まる。

 

 アルはその”じゅう”を手に、グリップを握った。

 既に彼女は、銃の基本的な部分だけは理解できていた証拠だった。

 

「・・・これが、”きゅうみり”?」

 

 22口径の、自分が今片手にしているものとは違い、随分と重く、そして角ばったデザインの”じゅう”。

 

 なるほどこれが”きゅうみり”か、確かに威力がありかつ、自分でも扱えそうな重みを持っている。(ティコ)はあらかじめこうなることを予見していたのだ、それを見越して自分に与えるべくこれを持っていたのだ。

 

 彼への尊敬がまた少しばかり増す。

 しかし、ティコは違う、と首を横に振った。

 

「すまん嬢ちゃん!9mmは持ち合わせがないからそいつを使ってくれ!ぶっつけ本番実戦演習、9mmよかもうちょい重いしデカい”10mm”だ!そいつが使えりゃ9mmも十分使えるようになる!牽制程度でいい、奴さん撃ってくれ!」

「え、えぇぇ!?」

 

 なんと、”きゅうみり”よりもさらに上位のものであったと、アルは驚き手元のピストルを見る。

 

 がっしりとしたフォルムはその”じゅう”が22口径の小さなものを”火力に足りない”と言わしめるに十分な威力を保持しているであろうことを察しさせ、そしてかつ、基本的な構造はだいたい似通っていることも解った。

 

 ”弾丸”があるかを確認し”安全装置”を外し、あとは狙いをつけて引き金を引く、それだけで番え、狙い、引き、射る、そんなこの世界のメジャーな飛び道具である弓よりずっと威力に長け、距離が届き、そしてなにより”見えない”矢――― 弾丸が相手を殺傷するのだ。

 

 

 戸惑いながらも、アルはよぉし、と銃の安全装置を外す。

 上部をスライドさせる点は同じであり、そしてその後ろにある撃鉄(ハンマー)も同じだ、親指で上げればもう、手の中の大きな鋼鉄の塊は相手を殺す準備を終えるのだ。

 

 すぐそばで、ティコが戦っている。

 彼は強い、今まさに格闘戦で圧倒している、だからこそそこに加わる憂いを自分が絶たなければならないのだ。”あいあんさいと”を覗き込み、彼女は再び眼に意識を集中させる――― 頭に駆け抜ける短い体力泥棒と共に、視界がゆっくりになった。

 

 彼女は眼がいい、とても、それは筋肉のわずかな動作すらも動体視力が捉え、次に相手がどう動くかを予測させるほどに。

 

「やらせないよぉ!」

 

 今まさに、矢を射んとする影の戦士。

 輪郭は女だろうか、果たしてあの存在に、人間でない存在に性別があるのだろうか。無駄なノイズが入ってきて彼女は振り払うと、もう一度自分に言い聞かせた。

 

 かつて人を初めて殺した時は涙が止まらなかったが、今は違う。

 誰かを守るために誰かの命を殺めることは、決して無駄でも悪でもない、迷っていたら自分か仲間が死ぬと、あのあとティコに教わっていた。そして”あれ”は人じゃない、もっとおぞましい何か、ならば。

 

 アイアンサイトの真ん中を、敵の頭が走る。

 瞬間、引き金は思った以上に軽く引けた。

 

 

 タンッ、と短音が響き、銃口から火が吹く。

 22口径とは比べ物にならない反動、しかし御し切れないほどの大きさではない。およそ素人とは思えないほどの正確さで向かっていった弾丸は影の戦士の右目を射抜き、続けざまに撃ち込んだ弾は狙いを逸らした手を撃ちぬく。

 

「やったっ!これで!」

 

 喜びは確かな証拠として、彼の者の動作を実に不明確とした。

 

 あののっぺらぼうのようでも、輪郭だけは、目の形だけは見える。確かにそれが目として機能している証左だろう、右目は射抜かれ、もう片方ももうもうと孔から出続ける影の霧に塞がれた影の射手は、手を奪われたこともあり既に戦闘行動を続行できるほどではなかった。

 

 アルは10mmピストルの残りの弾丸をありったけ叩き込まんばかりの勢いで、なおも動き続ける射手に発砲を続ける。数発の弾丸に撃ちぬかれ、最後に頭部中央を弾が抜けていったあと、射手はようやくと霧散した。

 

 

 それを見たティコは、ヘルメットの内側でほくそ笑む。

 そうなればもう見る方向はひとつだけ、正面だけを見据え、残敵を相当する――― 殲滅だ。

 

「よくやった嬢ちゃん!さあかかって来い、真っ黒に塗ってビビらせようって魂胆だってんなら、死体の下のラッドローチにも遠く及ばん!”雑兵”は蹴散らされろ!」

 

 挑発に乗ったのか、はたまた隙でも見つけたか、影の槍手が槍を突き出す。ティコはククリナイフで軽く受け流すと、あろうことかその槍をつかみ―――

 

「言い忘れちゃいたが」

 

 ―――蹴り飛ばして、引き抜くと己のものとした。

 

 

「レンジャー訓練を受けたのは随分前のことになるが、槍の訓練も受けてたもんでな・・・ハッキリ言うさ、接近戦じゃ俺は槍が一番得意でな!猫に小判、豚に真珠・・・違ったか・・・っと」

 

 本体が消えなければ槍も消えないのだろう、武器を失い階段下で手を彷徨わせる影の戦士をよそにして更に迫り来る、あらゆる獲物を持った敵、ティコはまず剣を持った影の戦士の刃先を受け流すと、石突きで頭を殴り、そしてピンときた言葉を投げかけた。

 

「ああ、そうだ、思い出した」

 

 バランスを崩した敵に回した槍先を差し込み、されどそれでも死に至らないのにまた苛立ちつつ彼はその腕を切り裂き、次いで首筋から横薙ぎに首を落とす。

 そこまですると、ようやく霧散し黒い霧の中から新たな影が現れるのだ。斧を持った影の戦士、振りかぶられた斧を避け、槍を回して指先を切断する。斧が階下に落ち別の影の戦士に刺さるのと同時、ティコは斧手の脇下から一気に首までを裂いた。

 

「“水を得た魚”だったか!年を食うとボケるんだ、悪いな!」

 

 霧散し、次いで次いで次いで――― ひっきりなしに敵が雪崩れ込む。

 

 だが既にティコの敵ではない、ジョークの傍ら赤いアイピースの裏で鋭い眼光を止めずにいながら、彼はメイス、戦鎚、ナイフ、あらゆる獲物を持った敵を仕留めては蹴り飛ばし、ただ一箇所の防衛戦を常に守り切る。

 

 階下に転げ落ちた敵を見るティコの姿は手持ち無沙汰だ、担いだ槍でとんとんと肩を叩きながら、また彼は軽口に興じた。

 

 

「寝てるのも構わんが、このまま昼間で寝るのは勘弁だぜ黒いの!腐る前に身体を動かしてもいいか?・・・ああ、グールのジョークだ、悪いな」

 

 そのまま彼は槍を投げ、それは元の鞘に収まり霧散する。

 距離が空き、そして時間が生まれた。彼はそれに緩やかに動くと、傍らのアサルトカービンを再び手に取るのだ、マガジンを交換し、銃身右のレバーを引いて準備を終えると階下で寝転ぶ影の戦士達に向け、一気に引き金を引いた。

 

くたばりな!(Fuck off!)

 

 24発装填のカービンの弾丸が連続で射出され、影の身体を射抜いていく。

 

 それは致命傷になるかはともかく、その活動を停止、もしくはほぼ不能に追い込むには十分すぎる威力と数であり、転がり落ち重なった彼らを貫通し必要以上のダメージを与えるに至るにはあまりにも過ぎていた。

 

 引く引き金が何も反応を持たなくなったことを確認すると、ティコはアサルトカービンを下ろす。

 

 

 既に見えていて、動いているのはたった一人の”影”であった。

 

「しぶといというか、納得というか、なんだか・・・」

 

 ため息を吐きながら、ティコは腰元からレンジャー・セコイアを抜き撃鉄を上げる。

 

 45口径ライフルカートリッジ、引き金を引くと共に銃身内で弾けた弾丸が、空気をねじりきり殺到するのだ。アルのピストルよりもっと大きく、比べるのもおこがましい反動の銃であったがそんなもの、ティコの経験からすれば猫を撫でるよりも簡単であった。

 

 発砲音は大きく、まさに見えない弾丸は最後に残った影の戦士の頭を吹き飛ばすと完全に霧散させる。

 

「・・・終わったか」

 

 周囲を見回して、何もないことを察すると彼は状況がひとまず終了したことを悟り――― しかし、落ち着いてはいられなかった。

 

長年の経験が、危険が終焉していないであろうことを察する。

 

「戦力の逐次投入で来るのがこっちの常識なら帰って寝るんだが、あいにくと前の街(パーミット)での戦争でそうじゃないってことを嫌ってほど知らしめられた。こいつはきっとまずい、もっとまずい、早く・・・」

 

 動き出そうとして、しかし気付く。家の、部屋の隅、一人戦いに怯え震えていた少女。彼女の震えがまた、別のものへと変わっていたことに。ティコは彼女へ――― ニュイに駆け寄ると、その口からこぼれる言葉を耳に入れる。

 

 

「お兄ちゃんが戦って・・・じゅ、十人は、もっといた、もっと・・・でもたおして、それで、それで・・・」

「ニュイ」

「ニュイちゃん、それは」

 

 隅に座り、頭を抱える彼女。

 ティコは首を横に振り、アルもなんとかしてあげられないのか、とティコへ目を向ける。

 

 しばしそれが続き、しかし時間がない。

 それに気付いた時ティコは、意を決して彼女の手をほどき強引に顔を上げさせた。

 

「ニュイ、俺が何に見える?」

「お兄ちゃん・・・お兄ちゃん、だよね?でも!」

 

「そうだ、お前を守るためにあの狩人に技を教わった・・・外にお前を連れて行くためなら、強い男じゃなきゃいかんだろう?だから大丈夫だ、俺はお前の兄ちゃんで、今まさに強くなって、今日が戦いの最初の日ってだけだ・・・才能、あったらしい」

 

 畳み掛けるように言葉をかけ、そして頭に手を置く。

 しばし、時間を取ったのち、彼女の震えはただの怯え、それだけに収まった。

 

 また嘘をついたことが、彼の心にわずかにささくれる。

 

「そう、だよね。うん、そう・・・大丈夫、ニュイ大丈夫だから・・・あっ」

「おっ」

 

 足をもつれさせ、ニュイが転びそうになるのをティコが支える。

 大男と少女の背の差は大きく、それは抱くようだった。彼に抱かれ、元通りに立とうとしながら、ニュイは彼の袖にかけた手を離そうとしない、まるですがるようで、離れたくないようで――― そして、

 

「お兄ちゃんの手、大きいね・・・」

「・・・かもな」

 

 短く答え、そして頭を撫でる。たぶんきっと、いや、絶対に、その手も彼女の”兄”とは違うはずだ、離れずにいればいるほど、触れ合えば触れ合うほど、彼女と彼の間に残る違和感に触れる機会が多くなるのかもしれない。

 

 だからきっと、少しの間離れたかった。

 ティコは銃を背負うと、ニュイの前で立つ。

 

 そして彼女を見下ろして、できるだけ優しく述べた。

 

「外がどうなってるかわからん、見てくる・・・それまでいい子にしててくれ」

「でっ、でも!危ないよ!いっちゃやだ!」

「いい子で、いい子だニュイ、見てくるだけだ。必ず戻ってくる、約束だ、お前を一人にしやしない、それにこの場所には――― 英雄がいるんだろう?何かあっても奴らがどうにかしてくれるさ、俺は・・・見てくるだけだ、ただ」

 

「わかった・・・気をつけてお兄ちゃん、ぜったい、ぜーったい帰ってきてね?」

 

 目を潤ませて、見送ろうとする少女が愛おしく、哀しく、ティコは直視していられない。こめかみを掻いて気を紛らわせると、彼は次いでアルを見た、手に握られた10mmピストルは、思った以上にちょうどよく収まっていた。

 

「当然だニュイ・・・さて嬢ちゃん、ニュイを頼む、予備のマガジンを渡しておくが何かあっても逃げるのを再優先にしておいてくれ。見つけたらフォートウォースをここに向かわせるからそれまで頼んだ」

「りょ、了解ですムンドさん!・・・お気をつけて、アタシも戻ってこないのは悲しいですから」

「善処する、じゃあ頼んだ!」

 

 

 後ろ手にさよならを言い、ティコはトレンチコートを翻して外へと躍り出る。

 階段を飛び降り、そして目指すのは中央。潜む敵を探しながら、しかし可能な限り全速力を保ちながら進み、進み――― 今は、ただ彼の相棒達を合流することが最優先だった。

 

 悪い予感、それは今最高潮に達していた。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「グール!」

「相棒!・・・ってこたそっちもか」

 

 広場に訪れたのとちょうど時を同じくして、ロイズが来訪する。

 彼の様子と、パワーアーマーに刻まれた小さな擦り傷が増していることに気付くと、ティコは彼もまた同じ目に遭ったのだと確信しその目の前にまで駆け寄った。

 

「黒い奴ら、手ェ千切ってもぶん殴っても簡単には死ななくて、頭潰してようやく・・・」

「こっちもだ相棒、だが何か違う、あれが本隊って言うにゃ出し惜しみが過ぎる、きっと―――」

 

 言いかけたところ、また来訪する影。

 視線を動かし、色と華奢な身体、そして傍らに奇抜なタコ足ロボットを連れていた。

 

 手にレーザーライフルを握ったテッサと、戦闘型Mr.ハンディのMr.フォートウォースであった。テッサはかなりの駆け足で来たようで、息切れを起こしロイズの胸元に飛び込むとパワーアーマーにもたれかかり、息を整える。

 

 そうしている間に、Mr.フォートウォースの方が先に口を開いた。

 

『警報が鳴ったので急いで参りましたロイズ様、ティコ様!そのご様子ですと戦闘行動があったようで・・・無傷のご様子で(わたくし)ほっと胸をなでおろしたいところですが、そうも行かないご様子でしょうか』

「こっちは大丈夫だフォートウォース、それよか嬢ちゃんとこに向かってくれ、あの娘らを守ってやれるのは今お前しかいない」

『了解です、後で敵戦力についてお聞かせ下さい、ZAXのデータベースに問い合わせ照会させて頂きます』

 

 言葉を残し、ジェットホバーの滑らかな移動で去っていくフォートウォース。

 あとに残されたロイズ、ティコ、そして息をようやく戻したテッサは円になり、違いの無事を再度確認し合った。

 

「全員無事ってのに越したことねーかもしれねーけどよ、グール、何か悪い予感するってのは同意だぜ」

「ボクも、ものすごく濃厚なマナの波動を感じてる・・・とんでもないマナの量だよ、まるで、自分の居場所を知らしめたいとか、誰かを圧倒したいって願望が無意識に漏れ出しているんじゃないかってくらいの」

 

「全員察しが良くて助かる、こいつは俺の経験からだが、あれを俺たちで言う”ロボット”って例えるならきっとただの偵察か、もしくは”おちょくりに来た”だけだ。仮に相手がこっちをずっと見ていたんなら、侵略目的にゃもっと戦力が必要になるなんぞ猿でも分かる・・・ああテッサ、猿ってのはな」

「ちゃんと翻訳されてるから続けて!」

 

 テッサに叫ばれて、ティコは軽く謝って続けた。

 ふと見ればテッサはレーザーライフルの装填から”魔法の障壁”とやらまで全て準備済みの様子であり、ティコも遊んでる場合じゃないな、と真剣な表情になる。

 

「つまりだ、テッサが言うとおり相手が隠れるつもりすら無いってんなら、そんな時ぁ相手はこっちをぶっ潰せる圧倒的な力を持っていると自負してる線が正しい。自信過剰かバカかビョーキなら納得が行くし楽なんだが、今回は・・・」

「どうしたよ、出し惜しみすんなよグール!」

 

「ああ、”こっち”に来てなんとなく気付いたんだが、こっちゃ”個”でぶち抜けて強い奴がいる・・・あの赤の魔女ちゃんとかな」

 

 言われてみて、ロイズは思い出す。

 彼女、シェスカが隕石を落とし街に空いたクレーターは、最も修復に時間の掛かった事案だった。

 

 そしてそれだけのものを、個人が成し遂げたのも。

 

「まあなんだ、作戦にしちゃずさん過ぎるんだ、素人とかそういうんじゃ無い、そもそも何も考えてるって感じがせん。ただ相手をおちょくって脅かして、俺は強いんだぞって言いたいような、そんな訳のわからん、そんな感じがする」

「めっちゃ強いそーいう奴が、来てるって?」

「可能性の話だが、もし現実だったら相当面倒なことになる、だからとにかくだ、武器を用意しておいた方がいい。なるだけ高火力なものと、多方面な状況に対応できる装備をすぐにして―――」

 

「―――これは」

 

 途端、ティコが言いかけた瞬間を、テッサの言葉が遮って止める。

 ロイズとティコの二人は視線を彼女へと向け、そして一瞬首を傾げるとすぐに察するのだ。

 

 彼女が動いたこと、それが”何かの始まり”になってしまったこと、それだけは嫌でも分かったから彼らはとにかく彼女と同じ方向に目を向けた。見えるものがただひとつ、空が霞んでいる――― 否、違う、白く染まっている。

 

 それはきっと、彼ら二人には縁がなかったかもしれない。

 カリフォルニアという場所に住んでいたなら気候は安定し、戦後ウェイストランドの天候を合わせるとこのような”急激な低寒波”に巡りあうことはあまり無いだろう、冬は来るしチャールストン山などでは雪も降るが、それほどではなかった。

 

「まずいっ!ティコ、ボクの後ろに!」

「オレはどうするんだよ!?」

「その鎧なら何でも大丈夫でしょ!」

 

 テッサは大気中のマナをあるだけ取り込み、限界の魔法障壁を展開する、ティコはその後ろに隠れ、ロイズはヘルメットを被るととにかく防御姿勢を取るのだ。彼らの眼前、瞬間、逃げ場のない真っ白なブリザードが殺到し彼らを包み込む。

 

「おぉぉぉ!?」

「うぅっ!」

「さっむぅぅ!?」

 

 テッサの張った魔法障壁ですら破れそうになり、ロイズもパワーアーマー越しに寒さが登って来るのを感じる。パワーアーマーの耐寒、耐熱は相当なものだが、それでも久しぶりに彼は”寒さ”を感じたのだ、それは真夏のこの日が来るはるか前、春の一日の話。

 

 

 ―――そうだ、覚えている。

 

 ロイズは思い出す、魔法の氷、それに最初に巡りあったのは。

 この世界に来てまもない時、きっとこの世界で最初に”誰かを殴った”時。

 

 瞬間、この世界に訪れて以来彼の中に巡っていたマナが、ぐるぐると回り始める。その氷の嵐の向こうにいる存在に呼応するように、彼の中に巡る炎のマナと、熱い心が呼応するように、彼は嵐の中、一歩だけ前に進んだのだ。

 

 

 嵐が晴れたのは、その瞬間だった。

 現れたのは何だ、一面の銀世界、広場は限りなく氷の世界と化していた。

 

 そして、

 

「テッサ無事かよ!?」

「はあっ、はぁ、うぅ・・・大丈夫、ギリギリ防げた・・・それよりも」

 

「・・・くそっ、奴さんお出ましか・・・ッ!?」

 

 気付いてしまう。

 銀世界が姿を表すと同時に、その氷と同じ色の髪をした男がその中央に現れたのを。

 

 不敵に笑い、しかし目はしっかりとティコとロイズ、二人を捉えて離さない。ただそれしか見ていないとばかりに恨みがましい目が、その男をただ、並々ならぬ執着心を抱いている存在だと察しさせるに十分だった。

 

 だが、二人は気付いている。

 その男と一度遭っている。

 

 ―――そして、二度と会いたくないと思っていた事も。

 

 

「やるよねぇ、って。結構力入れたんだけど、まあさすがにこれでくたばっちゃ困るよなぁって」

「お前さん、獄中生活はどうした?飽きて逃げるには少し早いと思うが」

「“黒兜”、”狩人”、”大やけど”、色々あるけどだいたいそのまんまみたいだなぁって、ティコだったっけ?随分楽しいことしてたみたいじゃないのォ?俺は檻の中で運ばれてる間、ずいぶん寂しい思いをしたもんだよ・・・お前に会えなく、って」

 

 威圧する風格を醸し出すティコと、それすらまるで意に介さないとばかりの”男”。

 その舐めきった様にぎゅっと拳を握りしめたロイズは、また一歩前に出て叫んだ。

 

「ハッキリ答えろォ!てめぇーはオレらがぶん殴ってとっ捕まえて!今頃独房入りだろうがよッ!なあ、”ウィルフレッド”!」

「名前覚えててくれたって?光栄だよ白銀鎧、いや、”白銀闘士”がいいかぁロイズ?なんてこたねーさ、少し手助けしてくれた連中がいて、それだけって。それであいつらさぁ、ちょっとここの”大結界石”持って来いってさ?それで・・・」

 

「ちょっと待って、大結界石だって!?」

「あ?」

 

 間に割り込んだのはテッサで、ウィルフレッドは出端を挫かれたというばかりに嫌そうに目を向ける。

 

「この集落を外から隠すための大事な結界石を持っていくなんて冗談じゃない!今持って行かれたらここは丸裸・・・つまり、竜からまた隠れられなくなる!絶対にさせないよ!」

「じゃあ死んどけって」

「ッ!?」

 

 

 蟻でも踏むかのような杜撰で、冷徹でもすらない無関心な殺傷。

 ウィルフレッドは杖から氷弾をテッサに向け飛ばす。

 

 だがそれはすんでのところで、横合いから飛び込んだロイズに防がれた。

 

「ッ、凍る!・・・けどぉ!」

「おっほぉ・・・おぅおぅおぅ!やっぱすっげーなお前!でも前より二秒解くのが遅くねーって?」

「うるせぇッ!とにかくてめぇーがこのままこっち攻めてくんならオレは容赦しねぇ!もう一回独房ぶち込んでやるっ!なあ!」

 

「おぉ・・・おぅおぅ!言うねえ!でもいいって、俺だって結界石なんかついでだついで、どうでもいいもん、って?」

 

 さもどうでもいい、と表すように、首を傾げるウィルフレッド。

 半ば狂気を――― 狂喜を孕んだ表情に、三人は身構える。

 

 ウィルフレッドはにっと、まさに口が裂けんばかりに笑んだ。

 

「ようティコ、見ろよ」

「俺が飛ばした指なら返さん、もう灰になってるだろうが」

「あーあーあー!残念・・・まあどうでもいい、お前のを取っちまえば、トントンだし、って?」

 

「言うのは勝手だが、100万キャップ積まれてもお断りだ」

 

 銃を向け言うティコ、それでもなお、ウィルフレッドは余裕を崩さない。

 

「まあまあ、落ち着けよ・・・すぐに殺しはしないからってよ?それより見てくれよこの道具・・・大したもんだろ?って」

「マナの循環器、魔法障壁つきの外套、他にも・・・業物なんだろうね、どこから持ってきたのさキミは・・・ウィルフレッド・シルベスター。聞いてるよ、新聞は見逃さないから、間抜けにもたった二人に敗れて獄中入りした男だってね」

「おぅおぅ!言うねぇホーリーエルフちゃ・・・ああ、お前ムーンエルフか、珍しいな。それにいい女じゃねーの?よし、決めた!こいつらなぶり殺しにしたら当分!飽きるまで可愛がってやる!やったな寿命が伸びた!」

 

 ぱちぱちぱち、と拍手を鳴らすウィルフレッド、テッサは冗談じゃない、と返すがそのあまりに危機感がなく、余裕しか持たぬ様には全員堪忍袋の緒が切れる寸前であった。それを察し、余裕ぶるのも潮時と察したのか、ウィルフレッドははぁ、と溜息をつく。

 

「お前らが招いたんだよ、お前らがいるから、あいつらはこれだけ俺に着せてここに行って来いって言ったんだ・・・逆に言いやぁ、お前らを殺して戻れってことだよなーって?でもそれじゃつまんねーんだよなぁ、だから少しさ、遊んでやるよ・・・死なない程度に痛めつけて」

 

 にひひ、と笑い、周囲に凍気を集めるウィルフレッド。

 その温度も、勢いも、質も、前の比ではない、二人にとっても尋常ならざるものであることを察するに十分だった。

 

 

「何度やっても同じだ銀髪兄ちゃん、次はもう片方の指を持って行ってやる」

「ティコぉ~・・・じゃあ俺はお前の左指を先に取る、次は右だ、その次は左足、右足、凍結すれば失血は防げるんだってよ?両手両足もいですこーしずつ凍らせて・・・寒さと冷たさの中で殺してやる」

 

 撃鉄を上げる、ウィルフレッドが睨みつける。

 

「何度でも来いよウィルフレッド、今度は一発じゃ足りねー、二発、三発、いや百発ぶん殴る!」

「ロイズ!やっぱ元気いいなお前!鎧ごとカチンコチンにしてやったらさぞいい感じに衰弱してくんだろうな・・・いや!鎧が勿体無いな!中のお前だけ殺そう!鎧壊すなよ!俺が持って帰るからって!」

 

 

 拳を握る、ウィルフレッドが嗤う。

 ウィルフレッドは両手を広げると、ゆっくりと語り出した。

 

 

 

「―――英雄アウスの仲間ヴェストは森で死んだ、幾重にも張り巡らされた罠に気付かず首を跳ねられたのだ、英雄ゲルミルの友人、エルフのベルも森で死んだ、草木に紛れた崖に気づかなかったのだ」

「何を・・・」

 

 睨みつけながら問うロイズに、ウィルフレッドはにっと笑って返す。

 彼は頭をとんとんと叩いて、さも頭脳を自慢するかのようであった。

 

「俺って文学的だろ?他にも色々知ってるけどってよ、英雄の仲間とかって、結構森で死んでるんだよ・・・だからさ」

「・・・ああ、分かったよ銀髪兄ちゃん、もう語ることはねぇさ」

「あー、最後にくらい許してくれよぉ?」

 

 

 残念そうに手をぱんぱんと叩き、彼はにっと笑う。

 狂ったように目をかっと見開いて、そして集めたマナで彼は―――

 

 

「―――今日の英雄は、森で凍って死ぬってよ!」

 

 現れるのは巨大な氷の十字架、かつて見たように、彼を象徴するように。

 全身を外法の魔道具に包んだ氷の魔術師は、命削れる白銀の世界、氷の解けぬ極寒の牢獄の中、狂喜に笑い自身の”仇敵”、拳を握り吠える白銀鎧の騎士と銀のエルフ、そして黒の狩人と相まみえた。

 

 

 

 





参考なまでに、
http://fallout.wikia.com/wiki/10mm_pistol
10mmピストル
今作に登場するモデルは3、NV、4とおなじみのN99型ピストル。
戦前ではコルト6520(初代)よりも一般に普及していたもの。
みんなおなじみ序盤の相棒、4だと特に終盤もカスタム次第で使っていけるのがうれしいところ。

http://fallout.wikia.com/wiki/Mutfruit
マットフルーツ
英wikiいわく『変異した果物』の略。
ただし4に登場するものに関してはラズベリーあたりの変異ではないかとも記述があり色々と資料が分かれる果物。でもラズベリーだとすれば普通に美味しいと思います、大きいからって大味ではないはず、多分。
Falloutの食べ物にはRADが含まれますが、土壌が汚染されていないと育たないものはごく一部になるものかと思っての登場、土壌が汚染されていても育つ、が正しいはず。
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