トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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(´・ω・`)ついったーの不具合で画像付きでつぶやけないどころか
(´・ω・`)ほかの人のつぶやきを覗くことすらできないなきそう

(´・ω・`)ツーショットプラズマ火炎放射器が楽しくてもっぱら接近射撃プレイです、わけがわからん!

本格的に二週一更新になってきました、Fallout4はコワイ。

12654字。


第四章 妖精郷と再臨の氷魔 10話 『コールド・コールド・ハート』

 

 

 

 

 瞬間に、大気が凍結する。

 

 尋常ならざる凍気、空気が白く霞み、吐く息すらもはや真っ白で視界を塞ぐほどに仕上がったそれはまさに、ロイズにかつてのアラスカ、アンカレッジ戦線はこんなものだったのかと想起させるに至った。

 

 自分をかすめた凍気が、パワーアーマーの装甲から熱を大きく奪っていくのを感じ彼は距離を取る。大抵の場合パワーアーマーにとって熱は大敵、奪われるに越したことはないが、この直撃をいくつも喰らえば結露が起こってしまうだろう。

 

「こいつはッ!」

 

 ウィルフレッドの視界がティコに向いたのを見て、地を蹴り飛び出し拳を振るう。

 右手にグリーズド・ライトニング、左手に改良型パワーフィスト、徹底的に物理的衝撃に特化した今のロイズに殴られればそんな相手は、自分が何に挑んだかを後悔するまもなく絶命するだろう。

 

 だが―――

 

「“硬化仕様”であって”冬季仕様”じゃねーってのにッ!」

 

 打ち出した拳が、突如現出した氷柱に阻まれその表面を砕く。

 予想はしていた、だがこうまで反応は早く、かつ防御の高い障壁を用意できるとなると一体どのようにして相手の懐に潜り込んでいいのかが分からなくなりロイズはもう一度拳を振るって氷柱をへし折る。

 

 その瞬間、凍気の波動が彼を押し返し彼はすかさず、塞がれたアイスリットの霜を指で無理矢理削り取った。

 

 

「おせーよ、って」

「ッ!」

 

 視界が晴れた瞬間、目の前にはウィルフレッドがいたのだ。

 パワーアーマーを着ているし、事実ウィルフレッドの身長もそれほど高くはないので見上げる形にするウィルフレッドの顔は笑っていて、彼はロイズが反応するより速く彼の胸部装甲に手を押し当てた。

 

「ぶっとべ」

「ッくそぉぉっ!!」

 

 一点にブリザードが吹き荒れたような衝撃と凍えが彼を襲い、ロイズは地に足をつけたまま地面を擦り7,8mほど跳ね飛ばされる。パワーアーマーの重量をもってしてなお与えられたその衝撃は、胴体部の装甲の性能低下を表すブザーが鳴るに十分だった。

 

 彼は歯を食いしばりながら、視界左下に投影されたパワーアーマーの状態を確認して読み上げる。

 

「性能低下85%・・・ッ!ウッソだろ、これだけで5%以上持ってかれて・・・っ、内部に霜が張ったんじゃ・・・」

 

 ロイズはもう一度距離を取り、相手の出方を伺う方向に出る。

 それを見てこの男、ロイズが当分は攻めてこないことを察し優越したウィルフレッドは、視界をそちらから変えぬまま体内を通ったマナを解放した。

 

 瞬間、氷壁に突き刺さる弾丸の嵐。

 

 

「前よりは骨のある奴になったらしい!」

「ティコォゥ!お前のその武器、技、今のでなんとなく分かったってぇ!鉄の(やじり)を数えきれないほど打ち込めるって寸法かァ!俺の指をぶっ飛ばしたのがそんな単純なモノだったなんて失望だってぇ!」

「言ってろ若造、お前さん涼しいくらいだ!」

 

「だからどうしようってぇ!?」

 

 続けざまに撃ち込まれる5mm弾、だが防ぐは極厚の氷壁だ。瞬間に凝り固められた氷は鉄板さながらの強度で射し込まれる銃弾のすべてを受け続け、壁一枚挟んだウィルフレッドの身体に一摺りの傷も与えさせない。

 

 そしてなんと美しく純度の高い氷だろう、レンガ壁ほど分厚いのに向こう側が透けて見えるその氷はそれだけで美麗であり、美術家ならばぜひ削って見るに惚れる彫像を創りたいと願うほどだろうか。

 銃弾でヒビが入り面影を失ってもそれはなお、ティコの隣でレーザーライフルを構えたテッサにそう感銘させるものでありそして、これほどの氷を瞬時に創り出せるウィルフレッド・シルベスターという男の能力に冷や汗をかかせるほどであった。

 

「でもこれならっ!」

 

 テッサが引き金を引き、赤色のレーザーを氷壁へ向かって叩き込む。

 

 レーザーの燃えるような赤は水色がかった透明の、対になる色を持つ物質に溶けこむと、あたかも相殺を起こし消え去ったかのように氷壁を蒸発させ、続けざまに撃ち込んだレーザーはとうとう氷壁に穴を開けるに至る。

 ウィルフレッドの反応が遅れていればそれは彼に直撃しその身体を灰の山と化していただろう、だが惜しむらくはその、恐らく魔道具によって強化されたであろうとテッサが今睨んだ鋭敏な感覚だ。ウィルフレッドはとっさに産みだした氷壁によって、レーザーを更に相殺した。

 

「ってぇ!?」

「ああもう!そのまま焼けてしまえばよかったのに!」

「お前らの隠し玉か、って?お前らなら何でも持ってるって思って挑んだ方がいいんだろなぁ、こいつは・・・それにしてもムーンエルフの女、カワイイのに戦えて、あまつさえ強いっていいねぇ、って!名前は?」

「キミに教える名前なんて!」

 

「じゃあ聞き出そうかなぁ!」

 

 ウィルフレッドが腕を振るうと同時、氷壁が砕け扇状に放たれる氷弾がティコとテッサを襲う。

 しかしティコは長年に鍛えた動体視力をもって隙間を縫い、テッサは小柄な身体を活かしてとっさにしゃがみこむことでその全てを間一髪回避するのだ、そして今度はお返しだとばかりに、二人は同時に銃口を向け撃つ。

 

 されどウィルフレッドの前に再び即座に出現した氷壁が、彼らの攻め手を阻んだ。

 

「壊すのも作るのも自由!今度俺の家を作っちゃくれないか?」

「いいねぇ!オブジェに氷像なんかどうだ、って?中に黒兜の狩人を入れた、それはそれは綺麗な氷像がさぁ!」

「趣味は合わないらしいっ!」

 

 断続的に撃ちこみ続けるが、それでもなお銃弾は氷壁を打ち砕くことはない。

 5mmの小さな弾丸はそれにはあまりに無力、そしてかつ、絶対零度の氷はまさに鋼と同等の硬度、今の手持ち武器では直接当てる以外に打開策はないと、ティコは舌打ちして距離を取った。

 

 

「ミサイル・・・せめて7.62mmがありゃいいんだが」

「武器を取りに行く時間を稼ごうか?」

「ばっきゃろ、女残してすたこら逃げる奴がどこにいるか・・・まあ、策が無いわけじゃない」

 

 少し離れて言葉を投げかけてくるテッサに、ティコは腰元を指さし言う。

 つられて見れば、彼の腰元にぶら下がっているのは二つの球、フラググレネードだった。なるほど確かに、この威力を以前見せてもらったテッサとしても、これをもってすれば氷壁を砕きウィルフレッドにダメージを与えられるやもしれないとほくそ笑む。

 

 そんな矢先、そんな二人を見て察したのだろう。

 二人の射撃をめくらましにして、ロイズがウィルフレッドに殴りかかる。

 

「隙を見せてぇ!」

「そんなはずがないってんだろぉロイズゥ!後ろまでお見通しだって!」

「それがどうしたぁっ!」

 

 正中線に突き出す拳はウィルフレッドへと迫るが、瞬間に固められた氷壁がそれを阻みロイズは硬い壁を殴る感触に襲われる。なまじグリーズド・ライトニングの高速拳であったためにそれは慣性と衝撃という二つを持って彼に伝わるのだ。

 

 しかし、握った指にじんと響くその感触をなおも無視し、ロイズは更に拳を振るう。氷壁を殴り、殴り、殴り――― そして、

 

「だっしゃぁっ!」

 

「ッ!・・・相変わらずの馬鹿力ってぇ!でも無駄だって、お前の一歩先にはいつだって壁があるんだよ、超えられない壁って壁がさぁ!」

「てめーが一歩先で凍らすなら、次を壊しゃあ一歩先に行けるってこったろーがよっ!何枚でも張りやがれこのウスラバカ!その細い体へし折ってやるから逃げんなよ、逃げんなよっ!?壁っつーのは超えるためにあるッ!!」

「やれるもんならぁ!!」

 

 氷壁を砕き、乗り越えるとその先には再び氷壁が立ちふさがる。

 だが何枚でも何度でも、ロイズは砕くために拳を叩きつけては氷壁を粉砕するのだ。

 

 5mm弾では一発一発は鋭く速かったかもしれないが、それでも威力に欠けた。されどロイズのパワーフィストは強化改造済みの特製品で、グリーズド・ライトニングはその速度をもって電光石火の拳を叩き込む。

 

 一撃の重さが違うのだ、鉄骨を叩きつけられてはさしもの氷壁も砕けかねない、おまけにパワーアーマーから排出される熱がわずかながら氷の表面を溶かし、それによって拳の入射角がずれないよう手助けの働きをしてくれるのも幸運と言えよう。

 

 ウィルフレッドの動きは不幸にも、反対側からの射撃を防ぐ氷壁とロイズを阻む氷壁に阻まれ事実上移動不能を余儀なくされており、そして壁を張っている間は狙いがつけられないのだ。この世界、大技は自分を巻き込む危険もある、彼が厚手のコートを着ているのもその理由あってこそだ。

 

 

 だが―――

 

「・・・俺を、前と一緒とは思うなよお前らぁっ!」

 

 ロイズの拳によってウィルフレッドの張った氷壁が崩れ、ロイズとウィルフレッドへの道が開けた瞬間、ロイズは自身の突き出した右手に早急な異変が生じるのを感じる。

 

「つめた―――」

 

 それは”冷たさ”だ。

 

 だがまもなくして、右腕にちくちくとするような痛みが走り、まもなくしてそれは腕から体温を急激に奪うと同時、痛烈な痛みとなって彼の腕を襲う。そんなバカな、パワーアーマーを着用しているのになぜこうも痛いのか、痛みに焚き付けられた思考が一瞬考えるも、事実痛みは襲い来るのだ。

 

「っづめてぁっ、痛ぇっ!!いってぇっ!!」

「氷の魔法の真骨頂、って!空間の温度を一気に下げるのなんてお手の物だっての!」

 

 ウィルフレッドが舐めるように笑うが、ロイズは睨み返す暇もない。

 右腕が凍っているのだ、殴り抜けた氷壁の残骸から急激に伸び、ロイズの右腕をあっというまに覆った新たな氷壁は、まるで貫通でもしているかのようにパワーアーマー、パワーフレームを通過し内側のロイズの腕がある、その空間を凍結させるに至っていた。

 

 頭も体も生きているから、痛みは痛烈で今にも腕が焼け落ちそうなほどだ。

 

 凍気の傷は彼の腕から感覚を奪い、そして歯を食いしばらせる。

 されどその間は、絶対的な隙だった。ウィルフレッドは身動きのとれないロイズにすっと近寄ると、その胸にすっと手を当て不敵に笑う、痛みから戻ってきたロイズが気付いて動ける左腕を振るって捕まえようとするも、

 

「―――遅ぇよ、じゃあなー、ってぇ」

 

 次の瞬間、左腕が凍った。

 抵抗する内に、両足が凍らされた。

 

 そのままウィルフレッドは、ロイズをマナの波動で吹き飛ばす。

 両足と、そして地面を凍らされていたから悲しいかな加速したロイズは滑らかに地面を滑って行き、そして後方の家屋、同じように凍結していたその扉を叩き明け奥へと消えていく。

 

 その姿を見たティコ、テッサはただではいられない、すぐさまウィルフレッドを多方向から攻撃可能なように、十字砲火の位置取りへと移行するが、しかし―――

 

「それも遅ぇ、ちょこまか動き回るのにいい加減飽きてきた、って」

「のおぉ!?」

 

 ウィルフレッドが足元を大きく踏み鳴らすと、瞬間に吹雪が一面の足元を覆い尽くすように広がり彼らの足をすくう。

 

 逃げ場などあるものか、一瞬の内に覆われた足先は凍りつき、移動していたためにティコは凍傷の痛みを感じると同時大きく転倒し、そのひょうしにちょうど交換しようとしていたアサルトカービンの最後の残弾、マガジンがどこぞへと転がり落ちてしまった。

 

「いったぁっ、痛いっ!」

「クソっ!こんなのデタラメだ!冷却グレネードなんてものはあるが、こうも器用に出来るか!!」

 

 痛みに慣れっこで、長年の経験から冷静さを欠かないティコに対し、ここ最近は戦闘に加勢する機会があったとはいえ痛みの処理に関しては素人同然のテッサは悲痛な声を上げる。

 ティコはこの、”でたらめなマジック”に嘆きつつも、予備マガジンの切れデッドウェイトと化したアサルトカービンを放り投げ腰元のホルスターに手を掛ける。残っていたのはレンジャー・セコイアその一挺のみ、アサルトカービンと比べると単発威力には勝るものの、瞬間火力では劣ることに違いはなかった。

 

 ティコはファニングの高速連射を、ウィルフレッドに叩き込む。

 だがその全てが、氷壁に以前よりも大きなヒビを与えながらも阻まれた。

 

 ウィルフレッドはその向こうで、余裕を崩さずも驚き顔をする。

 

「・・・ひゅーっ!すごいって、それ。結構厚く張ったはずなのにこんなに派手に持ってかれてる、って・・・だけどよ」

 

 ウィルフレッドは杖の先をティコに向け、笑う。

 ティコは銃口を向けるも、ウィルフレッドが魔法を放ち抵抗してくることは、なかった。

 

「“それ”、消耗品ってことだよな。分かる、その穴に小さい矢を入れてなきゃ射れないんだろ?じゃあ今お前は完全に無力ってことだって、ティコ、お前は今俺がカチンコチンに凍らせて家の飾りにするまでの命でしかない、って」

「分からんぞ銀髪の兄ちゃん、第三宇宙から引き込んだエネルギーが突然ビームになってお前さんを焼き殺すかも知れん。俺は結構長生きしてるが、エイリアンだって実在するのを知ってるしビッグマウンテンなんて突飛した場所があるのも存じてるからな」

「わけのわからない・・・って。何はともあれ、たっぷり遊んでから殺してやるって言ったろ、いい悲鳴聞かせろよ大男、なあ、なあ?」

 

「グールの声に聞き惚れる趣味を持ってるのかい?これは余計なお節介かもしれないが、お前さんもうちょっとだけいい趣味を持った方がいいって思うぜ。女遊びはこのナリだから教えてやれんが、まあ酒の飲み方とポーカーゲームのイカサマのやり方なら・・・」

 

 ティコの状況は依然不利、それどころではない、完全に死を目前にした状況だ。

 

 なのに関わらず、軽口を叩いてちっともそれを恐れていないようである彼に対し、ウィルフレッドはささやかな苛立ちを感じる。自尊心の強い彼だったから、自分に圧倒されて怖気ない彼がとてもやかましく、鬱陶しく思えたのだ。

 

 足元をとんとんと叩き、苛立ちを形にする彼は唇を噛むとひとつ、ため息。

 この”道化師”をもう殺してもいいか、と彼が決めた、その証拠だった。

 

「・・・はあ、なんだか興ざめした、って」

「そいつはいい、一度頭を冷やしゃ自分が何やってるかが見えてきて、嫌ってほど恥ずかしくなるもんだぜ。俺にも経験がある、ありゃハブで飲み明かしたあと素っ裸で街を走り回った時のことだが・・・」

「それが!覚めるんだよティコォ!お前何なんだよ!?あの白銀鎧を見ただろ、俺のさじ加減ひとつでお前は死ぬ!それも考える限り無残な方法でなァ!なのにお前はちっともビビってる気配がねぇって!くそっ!何でだってっ!」

 

「ああ、そりゃあまあ」

 

 憤るウィルフレッドは今にもとどめの一撃を放ちそうで、傍目から見ればそれは”黒兜の狩人”、ティコの敗北が間近であることを如実に表していた。

 なのに、当のティコ本人はちぃとも余裕を崩さないのだから滑稽に見え、そして不可思議でもある。だがその答えは彼の口が語るのだ、長きを生きたグールの語り口、それは年の功とも言うべきか、ひどくはっきりとして落ち着いていた。

 

 

「長く生きてるとな、覚悟ってもんが決まるんだよ。戦って戦って、生き抜いて・・・もちろん、死にたかないがそれでも、死に場所がここって決められてそれを受け入れられる度量がつくってもんさ。昔の相棒は特に、他人のために自分の命捨てるような坊主だったから・・・ついていってる間に、鍛えられた」

「・・・お前、いくつだよ」

「ん?そうだな、まあとりあえずは」

 

 ウィルフレッドの問いかけに、ティコはヘルメットに手を掛け答える。

 赤い目、黒の防弾質、ガスマスク状のヘルメットを外しその顔を外界へ解き放った彼。

 

 ”グール”のティコがそこにいて、ウィルフレッドは目を剥いた。

 

「こいつを見てもらえりゃ納得もするか、151ってとこだ、そのうち152になるからそんときゃ誕生パーティーに出席してくれや」

「っ、うっ・・・!気持ちわりぃ・・・!”大やけど”、って聞いちゃいたけどこれほどかよ、って。鼻も半分削げてるし髪だって全部抜けて肌なんて・・・うえっ」

「髪は元々剃ってるんだが、まあいいさ。質問の答えにはなったかい?吐くなら向こうを向いてくれ、少なくとも、俺はグールと見つめ合いながら吐き気を抑えることが得策だとは思わない」

 

「言われなくても・・・うげっ」

 

 元々彼は貴族階級、上級国民、といった身分の男だ。

 この凄惨な顔を見慣れていなかったのだろう、ティコから目をそらすと吐き戻そうとする。

 

 だが―――

 

「おっと、言い忘れてたが」

 

 ティコの頬が、にっと笑う、それはとっても、悪い笑い。

 彼はヘルメットをかぶりながら、振り返ろうとするウィルフレッドへと言葉を続けるのだ。

 

「・・・最前線にいた頃は、便所に入ってる無防備な間に殺された奴がいてな、気をつけとけ」

「何、言って・・・」

 

「―――時間稼ぎありがとうティコ、準備完了だよ」

 

 

 ウィルフレッドが振り返り、見る。

 自分の後方、氷壁の向こう、同じように脚を凍らせた一人のエルフの姿。

 

 だがその姿はかつての痛みにうめくものではなく、戦いに興じる戦乙女のそれであった、手に鋼鉄の獲物を構えた少女はその前方になんと禍々しいものか、赤々しく燃え上がる光球を浮かべているではないか。

 

 ティコとの会話で気づかなかったが、彼女はこっそりと彼の後ろにこんなものを作り上げていたのだ。レーザーは元より発砲音が極めて小さく、特に遠方からの狙撃などは目視以外では発射点を認識できないと言ってもいい。

 

 

 この静音性が成した技だった。

 

「てめッ、エルフの―――」

「気ぃ抜くからこうなる!やってやれテッサ!」

 

「“レーザー・フォトン”っ!」

 

 ウィルフレッドは杖を向け、テッサを狙い撃ちにしようと構えに移る。

 だがそれよりも、レーザーの光が届くほうが疾いのだ、光球に溜まりに溜まった赤色レーザーの炎熱は、光球が元より持っていたマナの光熱に包まれ内包されしかし、スプラッシュするように無数の小さなそれがウィルフレッドに逃げ場を与えはせんとばかりに殺到する。

 

 その熱、まさに烈火のごとく。

 

 一般的にこの世界で使われる火炎球など目ではない、レーザーの熱はとっさにウィルフレッドが全面に張りぬいた氷壁と魔法障壁に命中すると、シャボン玉が割れるように弾け内部の高熱を氷と相殺させるのだ。

 

「いっけぇっ!!」

 

 テッサが叫び、呼応するように蒸気が吹き上がる。

 

 一瞬にして蒸発する氷と、えぐり取るように殺到する光球、両者は戦力を急速に削りつつも相手に確かなダメージを与え、蒸気はとうとう氷壁に包まれたウィルフレッドの姿を隠し通すほど膨れ上がるとそれを妨げるのは、向かう光球のみだ。

 

 旧型のT-45系列パワーアーマーなら装甲を溶解断裂させるほどのレーザーを内包した光の渦はまさしく、駆け抜ける光の嵐だった。

 

 やがて―――

 

「・・・打ち止めっ!」

 

 光球がおさまり、蒸気が少しづつ晴れてゆく。

 

 そうなるとうっすらと、影も見えてくるのだ。少しづつ、少しづつ影は黒さを増していき、それは向こう側の相手が確かな人型を残していることを察しさせ、この状況をたった今生み出したテッサの背筋にぞくり、とせせら寒いものを上らせる。

 

 全力を振り絞ったのに、それでも生きている。

 少なくとも単独では足元にも及ばない、それほどの存在だと、理解できた。

 

 

 ウィルフレッドは今尚蒸気が晴れない中、高度を落としてきた蒸気から顔を出し、その目を合わせて、笑う。

 

「・・・やぁってくれる、ってぇ。でも終わりだろ?いや、これだけやれる女ならさぞ楽しませてくれるだろうさ。その細腕掴んで、必死に抵抗する様をヨガらせるのを想像するだけで、ここに来た甲斐がありそうだよなぁ」

「誰がキミなんかに、抱かれるならロイズのがいいさ」

「気丈にしてェ、すぐに現実に―――」

 

 ウィルフレッドが言いかける、そのとたん。

 声が、響いた、ガラガラ声だった。

 

 

「―――上だ!」

 

 反射的なのだろう、テッサも、ウィルフレッドもつられて上を見る。

 足元の蒸気はまだ晴れない、見えない。そこに転がってきたものも。

 

 ウィルフレッドの足に、こつん、と当たる。

 

「ってぇ?」

 

 ウィルフレッドが足先をずらし、刹那、蒸気の隙間から一瞬だけ見えた。

 転がってきたものが何だったのか、ウィルフレッドには結局わからずじまい、だがそれでも唯一理解し、反応できたものがあった。確固たる確信で、疑いようがなく、そして目を疑え無い――― 『これは人工物だ』。

 

 瞬間と、反射、どちらが速かっただろう。

 それは”炸裂”した。

 

「っあ――――」

 

 声を上げるまもない、その爆発は、疾かった。

 足元から爆風と破片が彼の身体に突き刺さり、その驚異的な反射能力から氷壁を形成するまでの猶予すらない、いや、彼の今の能力からすればわずかながら存在したものの、その過剰威力の前には力が一歩及ばなかったのだ。

 

 

 蒸気を吹き飛ばし、真っ赤な爆風が膨張する。

 ”フラググレネード”、その威力の正体だった。

 

 

「・・・だから気ぃ抜くなって言ったんだ、葬式は上げてやんねえぞ」

「ティコ、助かったよ。敵を欺くなら味方も、かな?」

 

「違いねぇ、ところでさっき、相棒になら抱かれてもいいってたが」

「・・・こいつよりはずっといい、何万倍も」

「違いねぇ」

 

 凍った足元はまだ解けず、彼らは軽口を叩き合って戦いの終焉を願う。

 土も氷も、熱で霧も噴き上げたものだから、ウィルフレッドの姿は見えない、だがそれでも不意を突いたのだ、重症程度負わせているなら十分だとは思い彼らは一応と、武器を構えて煙が晴れるのを待つ。

 

 その中で、ティコは内心これ以上はない、と思っていた。

 願っていたのかもしれない、正直、装備不足の現状でこれ以上続けられれば到底負けを認めるほかなくなるのだ、そして相手は負けを認め、みすみす逃がしてくれるような好漢ではない。傷と血の狂騒を楽しむ凶漢だ。

 

 ―――もしここで死ねば、どうなるか。

 思い浮かぶのは残してきた人々、また会うと約束した人々。

 

 それは騎士であったり、黒い剣士であったり、だが今は二人の少女が思い浮かぶ。

 

「ガラでもない、いつも、残されるのは俺だってのに」

 

 ひとりごちて、レンジャー・セコイアの撃鉄を上げる。

 弾は先程装填したが、相手が立つのもやっとなら今度は壁を砕けるだろう、期待するほかない。

 

 そうしていると、少しずつ、煙が晴れていく。白い煙と土煙の混じった色の煙がもうもうと外へと逃げ出し、カーテンの向こう側にあるものの姿を露わにしていくのだ。それは焦らすようで、少しずつで、だからティコは銃を握る手をもう一度、持ち直した。

 

 

 ―――そして、見えたのは。

 

 

「・・・あんまりだ、こいつぁ」

「そんな、あれも防いだって・・・本当に本当に、魔法使い並の力を・・・!」

 

「ははっ、はは・・・ははははっ!!」

 

 絶望の声を引き裂くように響くのは歓喜の声。

 若い男の喜色の声が、耳障りにもテッサとティコの耳を通る。

 

 煙が晴れ、立っていたウィルフレッド、あろうことかその身体はほぼ無傷であった。至近距離の爆発をまともに、それも足元から、防壁など張るスペースすらない距離から受けたのにも関わらず、彼は無傷で立ち誇っていたのだった。

 

 唯一差異があるとすれば、それは彼の首から下げた二つの丸石、それが片側だけ砕け散っていたことだろう。魔道具か、それとも何か呪具か、はたまたアクセサリーか、テッサとティコの脳裏に憶測がいくつも思い浮かぶが、だがそんなものはどうでも良かった。

 

 

「すごいだろ、これって!?保険で貰った奴なんだけどさぁ、これがあるから俺はあと一回死ねるってワケだってぇ!お前らが三人、俺は三つの命!それにお前らを圧倒する力って!負ける要素が、どこにあるんだってぇ!?」

 

「畜生、テッサ、お前だけでも!」

「馬鹿言わないでよティコ!キミだけ置いて逃げるなんて恩知らずじゃあないっ!」

 

 両者、持ちうる限りの弾をありったけ撃ちこんで迫る男を食い止める。

 だが既に証明されたことは奇跡でも曲がるまい、無駄骨だった。

 

「・・・まずはお前からだよなぁ、お前を殺せば、その娘の心も折れるかな、って?」

「グールを拷問するシュミの奴は結構見てきたが、大抵ロクな死に方しないぜ・・・まあ、人間だろうが何だろうがだけどな」

「減らず口だよなぁ火傷男さぁ!」

 

「っづ!」

「ティコ!やめろっ!」

 

 弾を切らしたティコが頬を蹴られ、テッサが銃を向ける。

 だがそれはティコ自身の手で制された、他でもない彼自身の制止に、テッサは銃を下ろす。

 

「なんでさ!」

「今死ぬこたないっ!俺を殴ってる間はこいつは誰も殺さん・・・相棒が、長老が、戦士長が・・・戦えるやつはまだいる!来るのもいい、お前も逃げるならその時間だけでも稼げればいいっ、せめて――― おあっ!」

「っ、っう・・・っ!ロイズ・・・!」

 

 テッサは涙を流し、凍結した足の氷を叩き続ける。

 ウィルフレッドはそんなものに目もくれずティコのヘルメットを引き剥がし放り投げると、その顔を殴りつけるのだ、殴って、殴って――― ただ、外界が見えていないかのごとく、興奮を顔に浮かべて。

 

 

 誰かが来なければ、誰かが来てくれれば――― テッサのその願いは、ただ一人に向けられていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「・・・っつぅ・・ったぁ、こんなとこまでふっ飛ばしやがってあのヤロ、早いとこ行かねーと」

 

 樹に重なるように建てられた家の玄関扉を打ち破って中まで滑り飛ばされたロイズは、胸に感じる痛みと冷たさの中、投影された映像でなんとかパワーアーマーのステータスを確認すると、よっこらと立ち上がる。

 

 ステータスを確認して、彼は嘆いた。

 胸部装甲の状態がレッドゾーンに突入しており、胸に感じる冷たさと痛みがなお、それを納得させていたからだ。

 

「装甲自体は問題ねー・・・ただ、フレーム胸部が思いっきり冷やされて結露起こしてんだ。後でZAXに頼んでパーツ取り寄せて直さねーと、全システムに影響が出たらたまったもんじゃねーし・・・ごほっ」

 

 ふと、咳を放つ。

 そこでロイズは気付いた、ヘルメットの内部に嫌な匂いの液体が付着したのだ、紛れも無い血液で、それはあの氷の魔術師――― 氷の”魔法使い”の攻撃がパワーアーマーを貫通し、ロイズ自身の身体に大きなダメージを与えることが出来たということを指し示していた。

 

「ごほっ、がはっ・・・ああクソっ、息苦しい・・・肺にちょっと水と、血も溜まってる気がする。後でウィルウィルのばあちゃんにでも治してもらわねーと・・・胸部の動力パイプの熱のおかげでギリギリ助かったってことかよ」

 

 文字通り、胸を撫で下ろしながら一息。

 

 しかしそこで、ロイズははっと気付く。

 自分がダウンしている間、仲間たちは、旅の道連れは、相棒は――― どうなっているのだ。

 

 あの死んでも死なないゾンビのような男だから多少安堵できそうな気持ちはあったが、それでもロイズは自分が抜けたことにより状況が不利になったこと、そして相手が想像以上に強大であったことを思い出すと手をぎゅっと握る。

 

 死ななくても、酷い目に遭っていたら。

 むしろ相手が、死なない程度に酷い目に遭わせていたら。

 

 あの男の顔を想像し、虫唾が走って。

 

「・・・行かねーと」

 

 痛む身体に鞭を打って、彼はふと、手頃な家具に手を掛け前に身体を進めようとする。

 

 

 だが―――

 

「・・・?」

 

 ”家具”はあまりにも柔らかい、干されていた布団だろうか。ふと思い、彼は周りを見回す、彼の者の攻撃に依る凍結は家の内部にまで届き、それはまさしく誰も長年住んでいなかったかのような、まるで長年の間に氷が張ったかのような様相を呈していた。

 

 そこで思い出す、そんなことはないと。

 ここには、誰かが住んでいたはずだと、そして、

 

「ッ!?」

 

 ”家具”が、倒れる。

 その瞬間、それを覆っていた氷が割れ、内包していた何かが表へと表れたのだ。

 

 ロイズはそれを見た瞬間、ぐっと歯を食いしばるのを堪えられなかった。

 

「っ、畜生っ!あいつ!」

 

 それは、”人”だった。必死に寒さに耐え生きようとしたエルフの親子がともども、凍結され死していたものだった。

 

 ”救ったものを奪われた”、彼にとっては至上の怒りを覚える出来事で、悲しさと、無力感と――― そして、悔しさを胸に抱く。自分の手で守り切った物が、者が、無残にも引き裂かれたことを嫌でも理解した、悔しさだった。

 

 そして理解する、ここだけに限るまい、あの広場を覆っていた家の数々に今いた人々は、きっと同じ目に遭っている。嘆くことも悲しむことも、痛みを訴えることも既に叶わなく、そうなっている。

 

 氷が割れる瞬間に、凍結していたその身体も砕け引き裂ける。

 真っ赤な血が足元を濡らしていくのを、ただじっと耐えた。

 

 

「あいつ、あいつ絶対許さねぇっ!こいつで・・・」

 

 ロイズは腰元の硬質ポーチに手を入れ、中を漁る。

 ここに入っているのは予備のマイクロフュージョン・セルや小さめの工具、それからスティムパックやジェットのような薬品だ、万が一の際意識を保ったり、必要に迫られた時に使えるようにいつも持ち歩いているものであった。

 

 ロイズはジェットと、ターボを一本づつ取り出す。

 しかしあろうことか、凍結の余波で内部の薬品が凍りつき、薬を込めた容器にもヒビが入っていた。

 

 

 彼は投げ捨て、なにかないかと、また漁る――― あった。

 彼はゆっくりと、それを出してまじまじと見る。

 

 なるほど、これなら。かのアンカレッジ戦線でも使われただけのことはある、凍結に対する対策も万全なのだろう、そんな”旧世界の遺産”を手に彼は一瞬だけ迷って、そしてちらりと見た亡骸を目に、その迷いを振り切った。

 

「こいつだけはあんま使いたく無かったんだけどよ・・・どーなるかは知らねーけど、でも、今は少しでも力が要る、クスリに頼った超感覚とかリミッター外した筋力とか、そんなのみっともないけど、今はよ」

 

 薬品は注射器だった、彼はパワーアーマーを一度脱ぎ捨て、生身を晒すとリコンアーマーの留め金を外し、袖をまくって腕を露出する。手頃な紐で腕を縛ると準備は万全だ、浮き出た血管めがけ、彼は静脈注射を開始した。

 

「・・・っつぅ・・・ああ」

 

 ”サイコ”。

 

 旧世界に用いられた傑作の薬品にして狂気。

 恐怖を忘れ、痛みも忘れ、注射を受けた兵士は恐れること無く敵を撃ち続けはやがて自らの死を認識するまもなく死ぬ。米軍主導で開発され、そして中毒症状である記憶の混濁、喪失、高次脳機能障害、認識力の低下や健康被害を顧みぬまま戦場にばらまかれたこの薬品は、最終戦争間際の大戦争、その狂気の産物の代表的存在とも言えよう。

 

 故にロイズはあまりこれを使いたくは無かった。

 凄まじい効果を持つがゆえに、代償も大きいのだ。

 

 だがそれどころか彼は更に、もうひとつ薬瓶を手にすると手のひらに2,3錠転がした。

 

「こいつはまあ、大丈夫だし使っとくか・・・ってぇ、燃える、熱い、くそっ、飲んでも飲まれるな・・・ううぅぅぅっ!!」

 

 ”バファウト”。

 

 高度なステロイドであり、戦前ではスポーツ選手やボディビルダーが多用していた由緒ある薬品で危険薬というほどのものではない。

 即効性があり筋力の増加、リミッターの解除が著しく、一説によればこれを使用した場合、齢60を越えた老婆が十枚のヒノキ板をまっぷたつに割ることができるとの話もある。ただ出所不明の自信も湧いてくるそうで、大抵”次のランク”を目指しては怪我をするそうな。

 

 もちろん、中毒症状や過剰摂取には心停止の危険がつきまとうが、用法、容量を守ればリスクが低いだけずっとマシだった。

 

 ロイズはそのクスリ二つを、同時に摂取しているのだ。

 身体に巡る熱さと、高揚する気分と、そして言いようのない自信が彼を支配しかける。

 

 

 ―――彼は、導かれるままにパワーアーマーを纏うと白銀の世界へと躍り出た。

 

 

 





参考なまでに、

http://fallout.wikia.com/wiki/Psycho
・サイコ
 戦前に米軍、どころかチェイス将軍主導で開発された薬品。
 戦意高揚のためのクスリだがかなり効果が強いだけあってリスクも高く、記憶喪失や死、健康被害などが馬鹿にならなかった、中毒ももちろん。民間にも出回っていたようでたびたびこれを使ったであろう死者の姿が・・・。
 ゲーム中ではダメージを増加させる薬であり、中毒性がひときわ高い。ただし効果時間も割りと長いので撃ち合いの端から使いっぱなしでもいいのがうれしいところ。

http://fallout.wikia.com/wiki/Buffout
・バファウト
 現実のアレが"Bufferin"なら"Buffout"。真逆。
 効果の高いステロイドで戦前のスポーツ選手のおとも、しかし心不全のリスクが高まる危ない点も。ゲーム中ではもっぱら所持重量超過の際に、その場しのぎで使っていた人も多いのでは。
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