(´・ω・`)はい
(`・ω・´)三週間はやばい
(´・ω・`)はい
(`・ω・´)何をしていた?
(´・ω・`)Fallout4、あとECO
(´・ω・`)そっかー
ここまで間が空いたのは初めてェ…
ウィルフレッド第一戦終了です
15819時。
「おおおおぉぉぉぉぉ―――――――ッ」
氷に包まれた集落、響き渡る咆哮。
クリアになった空気を伝播し響き渡る轟き声は、ウィルフレッドだけではない、テッサも、ティコも、更に遠くにいた者達の耳にすら届きその顔をしかませる。
一体何の吠え声か、聴くならそれは獣の咆哮にすら聞こえただろう。
だが確かにその咆哮が一文字一文字、聞き取れる言葉をにじませていたからこそ、それが決して獣の発した声ではない、人間が腹の底から叩きだした声であることを皆が察しその方角をいっせいに見た。
「・・・何だ、ってぇ?」
ウィルフレッドがティコを嬲る手を止めその方向を見据えた途端、さる家の壁が砕けて散り、塵と埃と土煙と、そしてきらめく氷の粒を散らして吹き上がる。それが隠れ蓑となり、その”獣人”の姿は間近に迫るまで見えることはなかった。
故に―――
「おぉぉぉっ、おおおおぉ!!」
「っ、ってぇ!?」
白銀鎧の騎士が煙の中から一直線に、咆哮を上げて突き進んでくるのを彼が認識し、一手を打てたのはまさにほんの数mまで迫ったところで、彼は今まで余裕の顔だったそれを崩すと指先から氷弾を打ち込む。
だが恐るべきか、先程まで命中するだけで表面を凍結させていた氷弾は、その白銀拳が器用に振るわれることによって弾かれ中空へと消えていくのだ。先手を取ってなお潰されたことに、ウィルフレッドは驚愕して大きくバックステップを踏む。
瞬間、彼のいた場所に拳が通った。
「っ、冗談だってぇ!まぐれ、まぐれ・・・!」
とったに置いておいた氷塊を、白銀鎧の騎士――― T-51bパワーアーマーを着たロイズが軽々と砕いて進む。まるで障害など意に介さない、もしくはそれが障害ですら認識できなかったかのように、軽々叩き砕いた氷の塊が美麗にもダイヤモンドダストを醸し出す中、ロイズがただ突き進む。
ウィルフレッドは更に氷壁を張り、幾重にも防御を重ねてその針路を塞ぐのだ。
だがこれは悪夢か、神の呪いか、ロイズの進む道を阻む壁は他でもない彼自身の拳によって軽々砕かれ、ウィルフレッドは至近まで迫ったそれをまたもとっさの氷魔法で防ぎいなした。
「一体この時間でどうやってんな馬鹿力手にしたロイズゥ!?お前らなんでもありって思ったけど、ってぇ!」
「ガタガタうるせえっ!!ああっ、呑まれる!頭いてぇっ、でもどうでもいいっ!お前をぶん殴ってやりゃあきっと止むッ!ああああぁぁぁ――――っ!!」
「イっちゃってんじゃないってぇ!?ああくそっ、また氷を砕いて・・・」
直撃し、凍結したパワーアーマーの腕部、だがあっというまに内側から砕き動き出すその鉄騎兵は、ウィルフレッドという男に冷や汗を垂らしてやるには十分だっただろう。
力は段違い、ゆえに動きもより速い、こころなしか防御力も高くなった印象を受け、なにより恐れを知らぬ勢いでひたすらに直進を続けるロイズ。既に形成は逆転し、彼らは一進一退の攻防を続けるのみ。
だがパワーアーマーの走力だと、人間の足にはわずかに届かないのだ。
それを霞む理性と知性の中にようやく見いだせたロイズは、機転を効かせてウィルフレッドの側面に回りこむ、ウィルフレッドはまたも直進すると思い氷壁を張り巡らしたものであるから、塞がれた視界の中とっさに現れたロイズに意表を突かれる形になった。
「こいつ!」
「テッサ、グール!そっち塞いでくれよっ!」
「ぺっ・・・任された相棒!」
「止めは譲るよ、ロイズっ!」
瞬間、光線と銃弾が殺到する。
側面へ回りこんだのは、ウィルフレッドを挟み込む形にするためだ。必然的に背後の弾丸の嵐を防ぐために氷壁を張る羽目になったウィルフレッドは、ロイズの侵攻を防ぐための氷壁と背後の氷壁とで板挟みになり、身動きがとれなくなる。
折れた奥歯を引っこ抜いて血液ごと吐き出したティコと、子鹿のような、しかし今は真っ赤に腫れあがり見る影もない足の痛みに耐えるテッサの射撃は絶え間なく続き、双方の攻撃は確かに、確実に彼を追い詰めてゆくのだ、はたから見れば、それは時間の問題に違いなかった。
「もう逃さねッ!」
「大人しく投降してみろ銀髪の!今なら楽に殺してやる!」
「誰が・・・ッちくしょう、せめて距離を・・・」
じりじりと削られ、再構成のまもなく破壊されていく氷壁を目の当たりにして、ウィルフレッドはやむなく背後に大きく氷壁を張り弾丸に対する防護壁を構築すると、横っ飛びしてせめてロイズからだけでも距離を取ろうとするのだ。
―――だが。
「それを、待ってたんだよッ!」
「ってぇ!?」
瞬間、ロイズが、パワーアーマーが”加速”する。
V.A.T.Sだ、Pip-boyの切り札が今、彼と彼の敵との距離を一気に縮める役割を担う。
精神力を示すAPは薬物乱用もあって急激に減り、それから察する時間は数秒がいいところ。だが十分だった、距離を縮めて拳を握り、それを振りかぶって敵に叩きつけるまでに必要な時間などほんのわずかあれば良かったのだ。
一瞬の加速、止まる時間、ロイズは命中を確信する。
「だっしゃあぁっ!!」
「この脳筋が!」
右手の強化パワーフィストが右フック気味に食らいつき、ウィルフレッドはそれに魔法障壁をもって抵抗すると脇腹に食い込んだパワーフィストとパワーフレームの膂力のままに、中空を浮いた状態から一転、勢いをつけて跳ね飛ばされる。
「っ、あがっ!」
ウィルフレッドの脇腹に痛烈な痛みが走り、それは肋骨が一、二本ほど折れたことを彼に感じさせるには十分だった。圧倒的な量の魔道具、それをもって扱う魔法障壁の防御力であるからきっと止められたであろうものの、ロイズの拳はそれをわずかに上回ったのだ。
ロイズはV.A.T.Sの反動でふらついた頭を抑えながら、足で踏ん張ってその場に立つ。
ウィルフレッドは口内に血が滲んできた感覚に苛立ちながら、二転、三転、ごろごろと霜の張った地面を転がってようやく止まる。
されどなおも、ゆっくりと立ち上がった彼の姿。
”元貴族のお坊ちゃん”の面影はどこへ行ったのか、眼に黒い炎を灯し痛みに耐え、眼前の仇敵を射殺さんとただ立ち上がるウィルフレッド・シルベスターの姿は、とどめを刺しに行こうとしたロイズの足を一瞬、止めるに値した。
血を吐き捨て、ウィルフレッドは語る。
「・・・死ななきゃ治らない、ってのも考えモノだよなぁ、この魔道具・・・」
「じゃあオレが二、三回トドメ刺してやるからそこ動くなよ、手っ取り早く楽に逝けるだろ」
「まあ、お前らの手の内はなんとなく分かったって・・・こりゃもう、お前だけでも殺しておいた方がいいかもなぁ。肋骨折られて血反吐を吐いて、蘇生の魔道具を消耗して、こんな予定じゃなかったんだって」
「・・・早いとこブン殴らせろよ、いい加減頭がガンガンして・・・ああ、もう我慢できねぇっ!」
サイコの効能が残り続けるロイズは今、いつも以上に喧嘩っ早く我慢の効かない男だ。ウィルフレッドとの問答を早々に打ち切り、地面を踏んで一心不乱に突撃を敢行する。
霜を踏み潰しガンガンと、やかましげに音を鳴らして動く今の彼には目の前の、標的以外のものが見えていないだろう。眼中には敵の姿、胸中にはその腕を振りぬくことだけが浮かんでいて、事実そのためだけに彼は目を充血させながら突進していく。
二人の間を遮るものはもう何もないのだ。
互いの視線が交錯し、決死の一打を交わす瞬間だった。
―――だから。
気づいたのは当然だった。
ウィルフレッドが、にぃと、意地悪げに笑ったことに。
「・・・だったら手っ取り早く終わらしてやる、って」
つぶやき、ウィルフレッドが腕を振るう、ロイズは防御しない。
その瞬間だった、ロイズが動作に異変を感じたのは。
「・・・!?」
「無様だよなぁ」
「脚が、動かね・・・っ!」
踏み込もうど踏み込もうど、彼の脚がぴくりとも動かない。
そうだ、まるで何かに凝り固められたかのように動かない脚を、彼は必死に引っ張ろうとする。
だが異変の原因を探るべく足元を見やったことで、その疑問は氷解した。
「っ、凍って!?」
「“通ってきた道”に細工しないわけがないだろロイズゥ?馬鹿正直な脳筋が、そのまま走ってきて助かったんだよ、って。これでもう俺を殴るなんてできないよなぁ・・・お前なら放っときゃ砕くかもしれないけど、さ」
脚だ、パワーアーマーの脚が凍結され地面と接着されている。
せせら登る冷たさの正体もこれであったかと察するが、それよりも彼に感じるのは―――
「ッ!!」
「少し時間かけて、一気に殺してやる・・・」
”危機”だ。
視界を目の前に移せばそこには、手に持った杖に凍気を集める魔術師の姿があり、その狙いはすべからくロイズへと向いているのだ。無詠唱、素手ですらパワーアーマーに霜を張った男の渾身の一撃、それが直撃すればどうなるか、理解しているのは他でもない彼だった。
ロイズは脚に張った氷をガンガンと殴りつけ、脱出を試みる。
刹那、弾丸の雨もウィルフレッドへ迫った。
「でーも、きかなーい?」
「クソ野郎が!相棒、早く逃げろ!」
「やってるから黙っててくれよっ!」
「た、弾切れ寸前だよティコ!ああもう、”フォトス”!行けえっ!」
そびえ立った氷壁が弾丸と、光線と、光弾の雨を阻み彼に傷一つつけさせない。
その氷壁はやがてロイズの元にすら到達し、彼らに脱出の手助けをさせることすらさせなくなる――― 追い詰められた彼の姿、背後の壁、美しい透明度、まさに理想的な背水の陣であった。
ウィルフレッドはにっと笑うと、ロイズと言葉を交わす。
余裕を崩さないその姿勢には、ロイズは冷や汗を掻きながらも憎らしげな視線を送った。
「楽しかったって、ロイズ。来世じゃちょっと世の中生き辛くなってるかもだけど、また会おうな?」
「バカヤロっ、テメェーらの好きにさせるかよっ、くそっ砕けろ!割れろ!壊れろっ!」
今まさに力の”溜め”が終わらんとするウィルフレッドを見て、ロイズは必死に足元の氷を殴って壊す。されど次から次から氷が湧いてきていたちごっこになるのだ、身動きがとれない状態で危機に晒されている緊迫感は、彼の心拍を上昇させる。
だがしばらく、氷の湧きが少しづつ、小さくなっていく。
これを好奇と睨んだロイズはひとおもいに氷を殴り、そしてまたしばらく、ようやく砕くのだ。
「やった―――」
喜色を顔に浮かべ、足先を一歩氷の外へ放り出すロイズ。
だが―――
「―――待ってやるのは、これくらいでいいか」
気づいていた、それとも今気づいたのか。
ロイズの顔に戦慄が浮かぶ。
そうだ、足元に加わる”力”が小さくなったということ、即ちそれは”別の場所”に加わる力が増えたその証左ではないか。頭にそれが浮かぶとともに、心に湧き上がるせせら寒さ、視線を上げれば自身を見る意地悪な目。
そうだ、これはつまり。
「やめ・・・」
「ねーよ?”メイズ・トーネド・ケーロ”」
無慈悲に下される宣告、ロイズが最後に残したのは”懇願”だった。
杖先に光り続けるマナの濁流、彼の目にも見えるそれは恐怖を抱かせるに十分だった。
―――瞬間、”氷の嵐”。
ウィルフレッドの杖先から生み出されたマナの濁流、彼を通し万物凍てつかせる凍気に変貌したそれは大気を凍らせ、空間を凍てつかせ、真っ白な竜巻となってロイズへと一直線上に、それも一瞬にして迫る。
回避などできるものか、ヘルメットの下、寒気か、冷気か、身震いしたロイズは手を交差させそれを防ごうとするが気休め、空気をねじ切る氷の竜巻が彼を包み込み、その温度を奪って一気に凍らせ活動を奪う。
白銀鎧は真っ白に、力強き身体は縛り付けられ凍りつき、そして彼自身は―――。
「・・・って、まあこんなんだろ・・・じゃあな?」
「イヤだっ、ロイズ!?ロイズ!!」
「相棒!?くそっ!」
ゆっくりと腕を下ろす氷の魔術師、絶叫する銀髪のエルフ、地面を叩くレンジャー。
進路上のあらゆるものを破壊し凍結させた氷の嵐が去った後、彼らの眼前にはただひとつ、ものいわぬ氷像がひとつ残る。
―――氷の中に閉じ込められたロイズは、ただじっと、何も言わなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「―――ははっ、ははははっ!どうだ!お前らの英雄は死んだ、どうだ?なあ、ってぇ!?」
「イヤだっ、イヤだロイズ!早く溶かさないと・・・!」
「そこどけクソ野郎ッ!お前さんは絶対に許さん!」
「誰がってぇ!」
凍結し、閉ざされた氷の中に閉じ込められたロイズを見て、テッサは嘆きティコは激情する。
双方、もはやなりふり構わず一心にロイズへの針路を取るがされど、ウィルフレッドの放った氷波によって吹き飛ばされまたも、身体に負った傷を増し転がり、痛みに立ち上がることすらままなくなる。
そんな”無様”な彼らを見て、ウィルフレッドは嗤った。
「ははっ・・・ブザマだよなぁティコ、あの時俺の指を吹っ飛ばして、引き倒して!踏みつけて縛り上げたん時とはまるで違ってさぁ!」
「ぬかせ、罪の代償が降りかかっただけだ、自業自得だろう」
「この状況になっても・・・ッ!」
欠けた指をちらつかせ、憎しみをぶつけるウィルフレッド。
しかしなおも反抗する口調を崩さず、屈服とは無縁のところにいるティコに対し、ウィルフレッドは頭の血管が切れんばかりに脳が熱を持った、そんな感覚を感じて一歩、また一歩と彼に歩み寄る。
その歩みは重く、そして楽しげさを滲ませて。
度重なる死に感覚の麻痺した処刑執行人のように、彼はゆっくりと、既に弾を切らせ抵抗のままならなくなったティコと距離を詰めていくのだ。
「“フォトス”!」
「やかましいって」
テッサが打ち出した光弾も、ウィルフレッドは軽々相殺し止める。
無力、あまりに無力、非力を呪う彼女はもはや、眼中にも入れられていないのか。
元々継戦を続けられるほど攻撃魔法に長けているわけでもないテッサだから、数発撃ち込んだのち身体にのしかかった重い感覚に引きずられ、地に手をついて咳込んだ。
そしてティコの目の前、氷がべったりと地面と張り付き、身動きままならない彼を見下ろす形の彼。この状況は二度目だが、今度こそ助けはない、死を待つのは何度も経験した、ウェイストランドは死と隣り合わせだった、だがそれでも―――
―――これほど強大で理不尽な相手は、そうそういるまい。
ティコは思って、唾をウィルフレッドに吐く。
瞬時に凍らされたそれが、地面に落ちてぱりん、と割れた。
「怖いか?ティコォ?」
「何度も同じような質問はするな、頭の悪さがにじみ出る」
「こいつ・・・」
奥歯をぎゅっと噛み、怒りに耐えるウィルフレッド。
そうだ、もはや生かす理由などないのだ、この男をこのまま見下ろしていても、くだらない問答が続くだけだろう。
そう思うと、なんとなしに肩の力が抜けた。
否、力を抜いても殺せる、その証左だった。
「・・・遺言は聞いてやるって」
「ダブルバラモンバーガーにアトミックシェイクLサイズ、味はバナナ・ユッカ。アガウィソースはたっぷりでマッシュポットにはたっぷりケチャップをつけて墓前に供えといてくれ」
「ッ・・・どこまでも舐め腐ってッ、上等だよ」
ウィルフレッドが、杖を向ける。
ティコはただじっと、それを見つめる。
二人の間には、明確な生殺与奪の関係だけが残る。
「お別れだ」
「来世で会えるといいな?」
「・・・二度と会いたくねえ、って」
光が集まり、それは彼の身体を通って杖先に集中する。
万物凍らせる氷魔の息吹だ、ウィルフレッドの表情はそれを全力で、ひとおもいに扱うことを察しさせるに十分なものであり、目の前で友人が殺される、その外れない予感に近くでふらつき加減に地に手をついていたテッサも、ゆるゆると手を伸ばそうとする。
だが届かない、魔法ももう、使えない。
レーザーライフルは狙いが定まらない。
このまま負けるのか、辱められ、殺される運命か。
だが涙が滲んだ、その瞬間、テッサは頬を一陣の風が伝うのを感じた。
―――曇り空に、晴れ間が差し込んだ。
「・・・ずいぶんと勝手やらかしてくれたけぇのぅ、若造」
「遅いぞ小さな婆さん、迎えのバスはもう行っちまった」
「何かは知らんが、乗り物がないなら歩きゃいい、わしらの脚は―――」
ウィルフレッドの持つ杖に、走る衝撃、どこともなく現れた細く小さな脚がその先端を鋭く蹴り上げ、破壊し――― 否、まるで鋭い刃を流したように真っ二つに裂いていた、”何もない空間”から現れたそれが、魔法の行使を直前で食い止めていたのだ。
「―――そのためにあるんじゃろ」
蹴り飛ばされた杖がウィルフレッドの手から離れ、遥か彼方に飛んで行く。
そうなると最も何が起きたか理解できないのはウィルフレッドだっただろう、だが彼は、魔道具による超反応、その助けを借りた圧倒的動体視力により、突き出された脚の行く先を見逃さなかった。
「エル・ケーロ!」
氷波を身体から放出し、脚へと放つ。
凍気の波、一直線上に駆け抜ける嵐、だがそれが通り抜けたあと、そこには何もなかった、凍らされた大気がもやをもってただ浮いている、それだけしか彼の前には存在し得なかった。
ウィルフレッドは奥歯を噛み、そしてまた”反応する”。
「ッ!?」
「おお大した反応じゃけん、亞人の血でも入っとるのか?」
「あんな汚れた連中と、一緒にするなってェ!」
真後ろから突き出された手刀を、ウィルフレッドはすんでのところで回避、手刀もまた、刃のように鋭くウィルフレッドのローブの端をかすめ切り裂き、そしてまた同じように”何もなくなる”――― 否、無くなったのではない、”戻った”のだ。
「・・・陰魔法、それも”空間系”と”時間系”両方って!使い手にも程があるだろッ!」
「お褒めの言葉は結構、我が里を荒らした責任・・・取らせるには命一つじゃ足りんかもなあ」
ウィルフレッドが叫び、もう片や童女の声はどこからか響く。
いや、どこからも響くのだ、上下左右東西南北、感覚を狂わせる声の集中砲火がウィルフレッドの目をあちらこちらに向けさせる。
そしてウィルフレッドが視線を二周、三周させようやく正面から戻ってきた頃。その声の主はようやくどこからともなく姿を現す、空間が引き裂け、そこからゆったりと、ゆっくりと、余裕を崩さぬ足取りで現れる。
純白の髪、長い耳、翠の目、ゆったりとしたローブには金の装飾が刻まれており、それはそれが、分かる者ならそれなりに能力を持った魔道具であることを理解させる、魔術師の”戦装束”。ウィルウィルだ、集落の長は満を持して、この戦場へと辿り着いたのだった。
「こっぴどくやられたみたいじゃなぁ、ティコ」
「来ないはずはないと思ってたが、ちと遅い」
「あっちにこっちに無理矢理結界に穴を空けられたもんじゃから修復がのぅ・・・っと、相棒君はどこに?あの目立つ姿なら見つけられんことは」
「・・・あの中だ婆さん、猶予がない、時間稼ぎだけでも」
ティコが指差す先、氷の塊。
うっすらと中が透けて見えるそれにはパワーアーマーが見え、その中で死に瀕するロイズの姿が映るようだった。
目を向け、ウィルウィルは目を細め、そして一歩足を踏み出す。
ウィルフレッドの少し前に立ち、そして地を踏みしめ彼女は構えを取る。
その”格闘技の構え”はウェイストランドではあまりなじみがないが、かつてのアメリカ人、戦前の多くの人間であったらこう言っただろう。
中腰に両足で地を踏みしめ、左の拳は正面に突き出し右の拳は低く胸元に携える。『中国拳法か空手』、そう呼べそうな、あるいはどちらも混ざっているかのような構えを、ウィルウィルは取りウィルフレッドに相対する。
「・・・徒手空拳?ナメてるって?」
「ロイズ君持って12分くらいかな、5分で終わらせんとね」
「は?んな無理って・・・」
ウィルフレッドが嗤い、指を左右に振る。
だがその瞬間だ、指が往復するまでの間に、ウィルウィルの姿が消えた。
「ッ!」
「やっぱり速いのぅ」
瞬間に現れたウィルウィルが、ウィルフレッドの懐に潜り込んで拳を突き出す。
ウィルフレッドはそれを瞬間的に出現させた氷壁で防ぎ、ロイズ同様凍らせて拘束してやろうとするがつかのま、そこに再びウィルウィルの姿は残っておらず、ウィルフレッドは舌を打った。
しかしそんな暇もつかせない、次は後ろから、それをいなせば横からの鋭い蹴り、捕まえたと思えば真上からかかと落としが降ってきて、どこから来るかと思い構えれば真正面から突きをかましてきたりもする。
ウィルフレッドは応戦するも状況不利だ、四方八方全方位、そもそも当たらず相手は速すぎ感覚で追い切り抜けるのがやっとで、彼の身体にはかすり傷が少しづつ増えていく。全方位ならば全方位へ氷波を放っても反応が速すぎてウィルウィルには当たらないのだ。
あまりに理不尽なその能力に、ウィルフレッドは恨みがましく罵った。
「時間を一瞬止めてるか、あるいは自分だけ加速させてるか!それと空間を裂いての瞬間移動って!デタラメだガキ・・・いやババアかって!?その見た目で一体いくつまで生きてるクソババアッ!!」
「レディに齢を聞くときはもっと紳士的にしてくれんと・・・まあ教えちゃる」
正面で腕を組み、余裕たっぷりに語るウィルウィル。
その”隙”にウィルフレッドは氷弾を放つが、またも消えた彼女に避けられ―――
「七百二十、再来週には誕生日じゃから貢物を待っとるぞ」
「てめっ」
「隙あり」
―――ウィルフレッドが動きを止めた一瞬に背後へ回りこんだ彼女の回し蹴りが、彼の土手っ腹に打ち込まれた。
「―――ッ」
「うーむ・・・ちと阻まれたか、かなり強力な魔法障壁かの」
ごろごろと転がっていくウィルフレッドを横目に、すっかり冷えた生足をさすってつぶやくウィルウィル。事実、彼への一撃はすんでのところで阻まれ、クッションの役割を果たした魔法障壁によって致命傷を防ぐに至っていた。
「クソ、ばばあ・・・」
「マナを身体に纏わせ防御結界を打ち破る”魔術武闘”・・・結構な使い手だと自負しとったもんじゃけんど、隠居生活で鈍っとったかな。歳を取るのはイヤじゃねぇ、なあティコ」
「そこまで食った経験はないが・・・それでも世界は広いぜ婆さん、まだ見て回るには長生きが必要だろうさ」
「ふふっ、まあ確かに。さてまだやるかの若造」
地に転がり、血反吐を吐いて起き上がったウィルフレッド、それを見下すウィルウィルはウィルフレッドに問いかける。
返す彼の目は恨み、憎しみ――― ”思い通りにならないこと”への怒りだけが渦巻いている、そんな様子だ。事実彼は二度も、自身の計画を潰されている、今回も実質主目的を達成できていない時点で痛み分けがいいところであっただろう。
だがまだ闘志が折れない。
目が生きている、それが分かる。
だがウィルウィルが構え、テッサとティコがその隙にロイズを救出しに向かう、そんな中、とうとうウィルフレッドの身体に変化が起きた。
「・・・ごほっ」
「あれまぁ、こりゃ」
血だ、それも先程より多量の血、命に関わりそうな量が口からこぼれ落ちる。
闘志が乱れ、地に手をつき、膝をついて崩れかける。
これはどうしたかとウィルウィルが見ていると、ウィルフレッドが呟きだした。
「マナを使いすぎた、って・・・くそっ、魔道具で補強してもこれかよ、ふらつく・・・今日はこれくらいに」
「逃すと思ったかの?」
「バカ言うんじゃねーって、逃がすのはこっちだって、だから」
ウィルフレッドが地面着いた手が、光を帯びていく。
青白い、氷のマナを集約させたその身体が輝き、魔法の行使を今か今かと待つ。
ウィルウィルは急接近しその発動を食い止めようとするも、ウィルフレッドが一歩早い。身体に纏った無数の魔道具、おびただしくやかましいほどのそれが通常長くかかる詠唱をほんのわずかな時間まで縮めることは、ロイズへ放った一撃が証明している。
故に光が輝いた瞬間、ウィルウィルが逃げざるを得なかった。
空間を裂き飛び込み、距離を取ってまた現れる、それで彼女は見た、彼の二度目の”極大魔法”を。
「“メイズ・パレド・ケーロ”」
―――地上から立ち上る圧倒的な大きさの氷壁を。
「おいおい、冗談じゃあ」
「この短時間で二度も極大魔法なんて・・・でたらめだ、おばあちゃんもでたらめだけどあいつもでたらめだ」
ティコは見上げ驚き、テッサもロイズへレーザーを撃ちこみながら憎々しげに漏らす。
完全に分断された広場、分厚い氷壁の向こうのウィルフレッドは既に見えず、立ち上る凍気が霧となってもうもうと視界をなおさら塞ごうとする。ウィルウィルはそれ逃がすかと、また空間を裂いて氷壁の向こう側に”飛び込む”。
だが―――
「置き土産だババア」
「むっ!」
飛び出した先には氷の刃が張り巡らされ、足の踏み場もない。
ウィルフレッドはそんな彼女に氷弾の雨を降らしながら、氷の上を滑って離脱していく。
近寄って、一発殴るくらいなら余裕だろう、だが彼を仕留めるにはいかんせん、もう少しばかり威力が欲しい。仕留めたいが、深追いは危険かもしれない、そしてかつ、今死に瀕している者がいる。
ウィルウィルはそれに気を戻すと、手近な氷刃を殴って砕きまた、氷壁の裏へと戻っていく。
そしてあらためて辺りを見回し、この”惨状”を再認識すると、彼女は唇を噛んだ。凍った広場、ちらほらと、絶対零度で凍結され砕けたエルフの死体が見え、そしてその脅威と戦った勇敢な戦士も今、死の間際であった。
「・・・無力な年寄りよのぉ」
悔しさが滲み、拳を握る。
だが年老いた心が、それを緩ませ次にすべきことを示すのだ。
5分と32秒、これまでにかかった時間、ちょっと過ぎたがそれならきっと、まだ間に合う。
彼女は彼女の友人と、そして出会ったばかりの奇特な男が必死に助けようとしている氷像の中の青年に目を向け、また足を向けた。
―――今はまず、助けられる者からだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
―――夢なんだろうか。
身体が浮いているようで、でもなんとなしに懐かしい匂い。
いや、臭いだ、濾過フィルターで浄化された空気と、たまに機械油と金属の臭い。
空気の臭いはなんとなくわかった、かつて暮らしていたB.O.S本拠地、ロスト・ヒルズ・バンカー、そこで使われていたフィルターと同じ臭いだ、確かHEPA20カートリッジフィルターだったか、古くなるとこれがひどい臭いなのだ。
彼は飛び起き、そして立ち上がる。
そしてまず自身の身体を見回して、首を傾げた。
「リコンアーマー・・・?んなワケ・・・あれ?」
おぼろげな記憶、身体にまとっているのはその記憶の最後に残る、思い出せば湧き上がる窒息と低温の恐怖に抵抗していたT-51bパワーアーマーではなく、そのインナースーツであるリコンアーマーだ。
思えばバンカーにいた時は、スクライブの制服であるスクライブローブよりもナイトの作業着に近いこれをよく着ていた。動きやすく自主トレーニングにも精を出せたし、思ったより地下暮らしの暑さにはちょうどよかった。
「オレ、最後に死んで・・・いや死んでなくて・・・あれ?じゃあここ何?天国、ヘヴン?ヴァルハラ?`ゴクラク?」
思い当たるあの世のビジョンを浮かべながら、彼は周囲を見回す。
すると見えてくるのは機械的な壁、銀色でラインが敷かれ、ちょうどいいサイズに開けられた道――― 少し古びていて、天井のライトがずぅっと続くこの道は、いったいどこへ続いているのか。
だがなるほど確かにここはVault、もしくはそれに類するバンカーだ、ロイズはそう確信し、道のはるか向こうをじっと見据えて、そして一歩ずつ、足を進めていった。
「・・・なんだろな、行きなきゃって気がする」
長い長い廊下、カンカンと、ちょっと前にようやく再び聞けた鉄床を踏みしめる音を耳に通しながら、ロイズは廊下をずっとずっと進んで抜ける。導かれるような、頭のなかに訴えられているような感覚を頼りに、ただ、ただ。
抜けた先、少しだけ広く開けた場所、突き当り。
そこにあったのは―――
「・・・監督官室」
まごうことなき、Vaultなのだろう。
壁も、床も錆びが走っていて面影を薄め、しかし確かに存在する中央の監督官の椅子、円柱の上部にドーナツでも置いたような奇抜な監督官用のテーブルと椅子があるそこは、資料で見たようなVaultの最高権力者、監督官が座る椅子に違いなかった。
必然的にVaultに住む者にとって見あげるべき存在となる監督官、必然的に見上げさせる形となる椅子、趣味の悪さにロイズは苦い顔をするが、それよりももっと、その座には奇妙な現象が見受けられロイズは腰に手を当てた。
―――椅子の上が、光っている。
光り輝いている、といった方が正しいだろう。
Vaultの悪趣味な実験の産物か、はたまただいぶ早いクリスマスか、ともあれロイズはその眩しさに、手で光から顔をかばいながらその正体を探ろうとする。
だが、その光の正体への近道は思ったよりも早く、それも先方から訪れた。
『・・・少し、眩しすぎたかな?』
「しゃべった!?」
『すまない、B.O.Sであるキミに私の姿を早々に晒すと少しばかり・・・話し合いが困難になってしまう可能性があった、とはいえ本当に光っているわけではないのだよ、キミの精神に少しばかりフィルターをかけている、といったところでね・・・分かってくれたかな?』
「・・・ミュータントとか?」
光が頷いたような気がして、ロイズは目を向ける。
光量はそのままのはずなのに、なぜか眩しさだけが消えた。
「別に話が出来んなら、オレはいい」
『話のわかる青年で助かったよロイズ君、私の知る頃のB.O.Sという組織はミュータント軍と戦っていたからね、私のような存在を許すはずもないと思って今まで直接の接触を避けていたんだ・・・まあ、今君の魂が現世から離れないようにしている私に、少し譲歩してくれないかという下心もあったのだけど』
「わかんねーけど、お前が助けてくれたってことかよ?それには感謝する・・・ってかここどこだよ!?オレ、あいつを倒さないとみんなが・・・」
『落ち着きたまえ、落ち着きたまえ』
ほんのわずか前の記憶に残る激戦を思い出し、せわしなくなるロイズを光がなだめる。
『戦闘は終了した、今は君の救助に彼らがかかりきりなところだ』
「救助って、オレここにいて・・・」
『ここにいるのは魂だけだよ、君は氷と窒息で死にかけたんだ、身体は既に死の淵で、魂が抜けていたから・・・私が引っ張って、ここでひとまず預かることにした。十分もあれば彼らが身体のほうはどうにかしてくれるだろう』
「ちょっ、もう何がなんだかわかんねー・・・だいたい」
『“お前は誰だよ”かな?』
「・・・ごめいとー」
軽く光が笑い、ロイズはやや悔しながら話を譲る。
光は、椅子から彼を見下ろして言った。
『君の相棒より少し年上で、彼と同じ激動の時を駆け抜けた男さ。もっとも、私は座って指示を出す役割のほうが多かったが・・・ここでは煩わしいボイスモジュールが邪魔をしないから、好きに話が出来る、では質問に答えちゃったかわりに、私も言わせてもらうか』
「あいつと・・・」
『悩ましいのは後にして、耳を傾けておくれ』
ふるふると、光が手を振った気がしてロイズは目を向ける。
光の彼は、すうっと息を吸う素振りをしてからまた語りだした。
『―――君の行く先には、これから多くの困難が待ち受けていると思う』
重く、険しい語り口、真剣そのものの口調には、ロイズも引き込まれる。
『“魔女の霧”、彼らについて知っていることは?』
「いけすかなくて、ヒキョウモノで、ぶっ潰してやりたいテロリスト」
『まあ現在の彼らはおおむねそうだろう、ともあれ敵対的意識を持っているのならいい』
光の彼はふうっとため息を吐く。
そして、またゆっくりと語りだす。
『・・・彼らの暴走が、私に起因すると言ったら?』
「ンだぁ・・・?」
『怒っても構わない、話そう』
聞き逃せないワードには、ロイズも顔をしかめる。
それでもなお、光の彼は続ける。
『あれが最初からテロリストであったわけではない、最初はその・・・かつてのアメリカで言う”ちょっと過激な人権団体”に相当するものだった、彼らが変わってしまったのは私が力を与えたからだ。昔の私は少々・・・トチ狂った男でね?彼らを実験の対象にした、それが事の始まりだろう』
「お前が・・・」
『恨んでくれて構わない、むしろ恨まれるだけのことをしていると今の私は自覚している。ウェイストランドでも相当恨まれた男が、こちらでやり直せなかったのは運命かもしれないね・・・故に、”処理”がしたい』
「“処理”?」
『そのために、君に取引を持ちかけたい』
ずいっと、先程より光の彼が近づいてきた感じがして、ロイズは負けじと一歩前に出る。
光の彼はそんな彼に軽く笑うと、要点を話しだした。
『君はあのゼノビアに相当好かれているのだろう?見ていたから分かる、いずれまた会うさ、その時君はどうする?いつものように殴り飛ばすか?今度は彼女も同じ轍は踏むまいよ、ああ見えて彼女は臆病な気質だから』
「随分知ってるご様子でっ」
『言っただろう?力を与えたのが・・・彼女らの首魁”三毒”をああまで暴力的に変えてしまったのは私だと。そして君はきっと会う、ゼノビアだけではない、あの三人全員といずれ事を交えることとなろうさ・・・そのときに』
ぶすっと不機嫌さを隠さないロイズ、常に上手を取る光の彼。
『君が彼らに打ち勝つためのわずかな助けをしよう、それが見返りだ』
「じゃあ要求はなんだって?」
『故に打ち勝って欲しい、彼らを破滅させ、彼らの悲願を打ち破って欲しい』
願い、祈るような声、ロイズは聞き届ける。
だが納得にはまだ遠いのだ、彼はまた聞き返した。
「なんでそんなことしよーって?」
『私がかつて行った事が、この世界の存続自体を危うくしているのさ。そしてそこにつながり、それを成し遂げようとしている者達が彼ら”魔女の霧”・・・はっきりと言おう、この世界の存続は今のところ、私の存在によって成り立っている、因果だが”私が守っている”』
「聞いてる限りだとプラマイゼロ、って気がするけど」
『まあ間違いはないだろう、単刀直入に言えば私の住居はあの”魔女の大陸”に存在してね。君なら察しはついてるだろう?内部はほぼウェイストランドと同じ状態、危険生物が跋扈する危険地帯、そしてなにより”唯一常に開いているウェイストランドとの裂け目がある”』
「ッ!ってこた!」
『落ち着きたまえ』
光の彼の言葉に、ロイズは察し前のめりに彼に寄ろうとするも、彼の制止で止められた。
『そのとおりだ、君の帰り道はあそこにある。だが仮にそこを通って帰っても、彼らを止めない限りは帰った先の故郷ごとこの世界が破滅を迎えることだろう、誰かが彼らの悲願を食い止め、そして私の提示する条件を呑んでくれなければ待つのはそれだけなのだ』
「何が何だかもうわかんねーけど、だったらとっとと言ってくれっ!」
『元気が良くて結構・・・古い友人達は疲れ果てて最近元気がないからね』
ははは、と光の彼は笑う。
それにロイズは自分が思った以上にみっともなく食いついていたことを察し、一歩下がった。
「・・・それで、何しろって」
『魔女の霧の悲願はあの”霧”で世界を包むこと、つまり裂け目を世界中に広げ破滅を広げること――― 対し私の役割はそれを食い止めること、我が力で霧の拡大を食い止めているが、かれこれ百年ほどで4.5%ほど拡大してしまった』
「算数はいいよ」
『その恐るべき計画を破壊する方法はただ一つ、裂け目そのものを閉じてしまうこと、だがそれにはいくつかの道具が要る・・・奇しくも、それは彼らが狙うものと同じだ、ものは使いようというわけだろう』
「って・・・閉じたらオレら帰れんのかよ」
『最終処理は私がやろう、君はあの世界を好きに見て回るがいい、ともあれ―――』
光の彼が、じっと見つめてきたような気がして、ロイズも見つめ返す。
『必須なものは三つもあれば十分だが、君の行く先にそれが見つかることを予知している、時が来たら教えることとしよう、だがとりあえずはこのエルフの集落の”大結界石”を持ってきて欲しい、代替物の無いことはないのだが一番手っ取り早い』
「・・・オレら侵略者になる気はねーぞ」
『信じるかどうかは君次第だ、だがもし引き受けてくれるならあの”氷の魔法使い”への有効打を教えよう』
器用に取引材料を持ってこられ、ロイズはじと目で彼を見る。
やはり常に上手だ、この男、結構なやり手なのだ。
「わーったよっ!聞きゃいいんだろ!」
『元気がいいね』
「とっとと!」
『いいだろう、まず第一に、彼自身の能力はそれほど高くはない。無数の道具で命を削って魔法を行使しているだけだ、故に”ガス欠が早い”・・・命のもね?彼は長く持たないだろう、自覚しているかは分からんが、君たちと刺し違えるつもりだ』
「疲れさせろって?」
『それができないのは証明済みだろう?だから攻めろ、徹底的に攻めるんだロイズ君、それも一人では駄目だ、装備を整え人員を用意し、彼に防御魔法をひたすらに使わせて消耗させろ、相手が質ならこちらは数で攻めるんだ』
「・・・ノリ気になってくれる奴、いるかな」
『そこは君の覚悟の仕方かもしれない、だが少なくとも六人は数が確保出来る、あとは考え給え』
悩むロイズ、教える彼。
だがしばしのあと、時間の経過が彼の口を開かせた。
『・・・さて、もうそろそろ身体に魂を戻さなければならなさそうだ』
「戻さなかったら?」
『200年くらい、ここにいてみる気は?』
「ばっきゃろーめ」
死を覚悟してみても、無駄死は避けたい。
そんな小さな問答だった。
『いいかロイズ君、彼だけではない、三毒とも必ず君は戦うことになる――― アイテムを集めるなら必ずだ、故に打ち破らなければならない。そのための教えは惜しまないよ・・・ZAXやエルフの知識人の力も借りたまえ』
「・・・わかった」
『いい返事だ、エルフの知識人をそろそろ泣きやませてやる時間だろう。君はいい友人たちに恵まれている、精進して健全に生き続けたまえ、君が真に望むならまた夢を見る時に会おう、なあに、身体が無事なら私がなんとかする』
「ぞっとするな・・・っと」
歪んでいくVault、夢の終わりを指す。
だがはっと、ロイズは最後にひとつ質問が残っていたことを思い出した。
夢が終わる前に、それを言わなければと、口にする。
「なあ光の」
『どうしたかな』
「・・・お前の顔、見てない」
『・・・ああ、まあ、そろそろ見せて置く頃だろうかな』
ロイズの要求に、光の彼が頷く、そして光が少しずつ、光量を失っていくのだ。ロイズはそれを見逃すまいと、じっとそれに視点を合わせる。自然と眩しくはなく、そして収まっていく光はなおのこと視界をクリアにして、そして―――
『君の相棒、ティコに会ったらこう伝えておいてくれ、説得力はあると思う』
「ウッソだろ・・・なんだコレ・・・」
―――その姿が今、はっきりと彼の前に晒される。
『“グレイ”は心変わりした、過去のことは水に流そう』
それは”肉塊”、それが相応しい存在。
人間の顔と目、そして脊椎、唯一元の存在を認識できるパーツはそれだけで、あとは肉、肉、肉。見るも醜くおぞましい存在、紛れも無いミュータント、そしていまだかつて彼が見たことのない存在。
歪んでいく視界と意識の中、それでも彼は――― その”ミュータント”の視線がまっすぐで、なぜか疑い辛かった、それだけを覚えて舞い戻った。