トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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(´・ω・`)後一週間で三ヶ月はやべぇよやべぇよ・・・ティコさん昔話溜めすぎだよ・・・。
(´・ω・`)本当に申し訳ない、別の創作やりまくってたら思った以上に楽しくなってつい夢中になってしまった。ついったーあたりを見てた人達はだいたいわかっているんじゃないかしら。

(´・ω・`)そんなわけでここから少し昔話です
初代Fallout、ウォーターチップを手に入れてから彼らがどうなったかを語るパートになります、初代に興味を持ってくれればとてもうれしい。

12961字。


第四章 妖精郷と再臨の氷魔 13話 『相棒と、二度目の旅路』

 

 

 

 

 2161年、冬の月。

 

 

 

 ―――ひとまず旅の目的が終わったからって何も、最初から悪の親玉との一大決戦だとか、ウォーターチップを家に持って帰った相棒が平和に暮らせたとか、そういったハートフルなストーリーになったわけじゃない。

 

 

 年をまたいで雪の降らない冬が真っ盛りになった頃、俺とイアン、それと犬っころのドッグミートは”英雄の仲間”なんて扱いでVault13に入ることを許可され、相棒が監督官とかいうVaultの最高権力者と話をつけて俺らと涙の別れをするまでの間、ひときわ高級で広い部屋で待たされてたわけだ――― 少しばかりいい気分だったさ、その時までは。

 

「・・・Vaultの水は機械的だとか、油臭いとか噂してたのは誰だったか、覚えてるかイアン?」

「どうせクリムゾンキャラバン社の水売りの連中だろティコ、どうせVaultの水なんて出回らないってのに自分達の扱うものより清潔でうまい水があるって知れ渡ったら、イザって時商品価値が落ちて商売あがったりになる。クリムゾンキャラバンの社長はアツい男だから分からんが、腰巾着で肥え太った商人ってのは傭兵やレイダーより時にタチが悪い」

 

 窓のない、日光すらもない、だが自然と不快感はないフシギなライトの下でVault産の”少し旨い”オートミールやらに舌鼓を打って、先日飢えかけてラッドローチの肉を食った時のイヤーな記憶を洗い流しながら俺とイアンは”13”の数字のプリントされたステンレス製の水筒から最高の水を浴びるように飲んでいたのさ。

 

 足元じゃドッグミートも同じように水を浴びるように・・・ああ、浴びるな、浴びるならシャワールームか洗面台に行けこら、ともかく俺らは旅の疲れをふかっふかなソファーで癒しながら、あいつを帰りを待ってたんだよ。

 

 つかの間の幸せでも、十分だった。

 それを楽しむのが一番楽しいって、俺らみたいなのは知ってたからな。

 

 そうしてると・・・不意に、沈黙が訪れた。

 

「イアン」

「俺も言いたかったけど、まあ先に」

「悪い、多分同じだ」

 

 両手の指をあわせてむずむずと、いかんともしがたい感情を慰めるようにこすり合わせる男が二人、片やヘルメットにトレンチコート、レザーアーマーを外さない大男だ、傍から見てる奴がいたんだったら珍妙に映ったことだろうよ。

 

「実際、旅の終わりが寂しい、そうだろ?」

「・・・俺は雇われってスタンスで来たけど、思った以上に肩入れしてたっていうかさ、何か・・・これで終わりって思うとな。Vaultに来ればまた会えるって思えば少しは気が楽になるが、果たして次に来た時Vaultの鉄扉が開いてるかどうか」

 

「このまま100年後くらいまでまた、閉じっぱなしかもしれないなイアン!実際90年ほど閉まってた扉だ、よほどのことがなきゃ外部との関わりは絶ちにかかるだろう、そうすれば」

「寂しいこと、言うなよな」

 

 くすみかけのポンパドールヘアに手櫛を通しながら、イアンは時間が経って伸びかけてきたあごヒゲを煩わしそうにさわり、淋しげな顔を隠そうともしない。最初の頃はこの辺じゃ得体の知れない格好をしたレンジャーだったから少しばかり警戒されたもんだが、今じゃこんな表情を見せる仲よ、男の友情は篤いねえ。

 

 ・・・とはいえ、俺も同じことを思っていたのは事実だ。

 Vaultから来た”常識知らず”との旅路、その終焉に一抹の寂しさを感じたのは紛れも無い。

 

 

 ―――とはいえ。

 

「本当はきっと会わなかった顔だ、そう思ってもいいだろう」

「ティコは案外冷たい奴だったりするのか?」

「ウェイストランドにはに使わない暖かさだったんだ、夢でも見てたって思えばいい」

 

 そうさ夢だった、あんな奴、この荒れ放題の場所(ウェイストランド)にいちゃいけない。

 他人の夢を食いつぶして一日長く夢を見る、そんな場所に生かしておくにはあまりにもこの箱庭(Vault)の奴は純粋すぎるんだ。真っ白で、純粋で、真っ直ぐで――― それこそ、食いつぶすどころか俺らこそ、塗り替えられちまいそうな。

 

「・・・でも寂しくなるよな」

「同じ話題を繰り返すくらいならぱーっと歓迎会の準備でもしようや、ほら、そこのショットグラスでタワーでも作ろうぜイアン」

「ははっ、見てろよ・・・器用さならお前らにゃ・・・っと」

 

 イアンがショットグラスの二段目を立て始めようとした矢先、Vaultの自動扉が開いた。

 あいつだ、監督官との話を終えてVaultの坊主が帰ってきたってわけだ、こいつの姿が見えたことに俺らは少しばかり笑顔になったが、内心ではもう一つ、そして”気づいたもう一つ”の発見に少しだけ、その上げた口角を下げることになったのさ。

 

 

 ひとつはこれがきっとこいつとの――― 今宵の別れになるだろうってこと。

 もう一つは――― その予測が不測になりそうな、こいつの表情だ。

 

 何でだよ相棒、お前は目的をやり遂げて凱旋して、そして”Vaultの英雄”になって不自由ない暮らしをこれから享受する、その第一歩だったはずだろう。

 なのになんでそんな暗い顔をしやがる、追いつめられてりゃ笑顔振りまいて仲間を鼓舞して、街角で腹をすかしたガキにヌードルを渡してはスラムの物乞いに追われて街を走り回って逃げてたようなオチャメで元気印のお前が、なんでそんな――――

 

 

 

 ―――死ににいくような顔してんだ。

 

 

 その沈痛、されどそれを笑顔で押し隠そうとしている顔がたまらなくて、イアンも、俺も、本能的に気づいたんだろう、ドッグミートも一様に黙りこけてあいつの顔へと目を向け止まりやしない。

 だがなにより痛ましかったのは、そうあからさまにしてたってのに何もきづかない――― きっと気付けないほど切羽詰まっていたんだろう、その相棒の心中が痛いほどに伝わってきたんだ、理由は聞かなくても、十分だった。

 

「・・・みんな、ありがとう」

 

 だが相棒が語りだしたのは感謝だ、混じりけのない感謝だった。

 手を股前であわせ、ふかぶかとお辞儀をする相棒につい俺らはよせやい、と言葉を投げちまう。

 

「いや、いいんだ。僕の都合でとっても危ない道に足を踏み込ませて、それでようやく成し遂げられたんだよ。僕一人じゃきっと、ウォーターチップを手に入れるまでに道に倒れてたんだ・・・他に出て行った、みんな(Vault住人)みたいに」

「それが感謝ってんなら、まあ受け取っておくが」

「うん、ありがとうティコ、イアン、ドッグミートも」

 

 走り寄って顔を舐めに来るドッグミートをきつく抱きしめながら、相棒は続ける。

 

「・・・二人には監督官からお礼のお金とか、物とか、あるんだってさ。”忙しいから直接会えなくてすまない”って言ってたから、せめて持って行ってって。きっとお金に替えればいい値段になると思うから、イアンもティコも・・・お酒好きだったよね」

 

「最高の相棒が一緒に飲んでくれるなら、それはもっと美味くなるもんだが」

「俺は最高じゃないってかティコ」

「イアンは今んとこ上から四番目だな、相棒と、爺さんと、親父の次だ」

「手厳しい」

 

 会話にイアンが加わって、ドッグミートの吐息がBGMになって、いつもの調子に笑い合う。

 この空気が、俺たちだ、いつもの、俺たちそのものだ・・・永遠に続くわけじゃないことは分かってても、でもどうしても楽しくて、離し難い一幕。

 

 ―――この数ヶ月、最高だったよ。

 なあ、相棒。

 

「うん、すっごく楽しかった・・・イヤなこともあったけど、でも二人に会えて良かったって僕は思う」

「よせやい、そこまで言われると照れる」

「ふふ・・・」

 

 ヘルメットの内側だから感づかれないと見越して、相棒の顔を少し傾けた顔の真っ赤なアイピース越しにちらりと見やる、だから相棒が笑った――― いつものくすり、といった笑い声とは違うから一瞬で怪しいって分かった、その瞬間の相棒の表情を俺は見逃さなかった。

 

 ・・・お前、後ろめたさが顔に出てるぜ。

 口には出さず、場を流す。

 こいつ、感情の機微には聡いくせに読み合いは苦手なんだ。

 

「でも二人のおかげでVaultのみんなは助かったんだよ、だからいくら頭を下げてもし足りない。イアンは右も左もわからない僕にウェイストランドのいろはを教えてくれたし、ティコはもっといろいろ教えてくれた」

「つまり俺はイアンの上位互換ってこったな、さあ行こうぜ相棒、ふたり旅だ」

「そう言われると俺の方は悲しくなるぞティコ・・・」

 

「ふふ・・・大丈夫」

 

 にっと笑って笑顔で表情を押し隠して、相棒が言う。

 

「“また会える”から」

 

 

 にっと、にっと笑って。

 一歩顔を向けたまま後ずさり、それから何か逃げるかっていうように、すっとVaultの扉をこの坊主はくくろうとした。笑顔でな・・・だが、その背に匂わす気配だけ、覆い隠しても隠しきれずに身体から醸しだされていた。

 

 ―――だがら。

 

「相棒」

「どうしたの?」

 

 去ろうとする相棒へ呼びかけ、こちらを向かないまま返事をする相棒につかつかと近寄って肩に手を掛けた。

 

「聞きたいことがある」

「あとで答えるよ、今はちょっと準備とか、さ」

「すぐ終わる」

「・・・離して」

 

 珍しくも明確に拒絶の意を示し、それでも逃げようとする相棒の肩をぐっと掴んだまま離さない、これがちょっとでも手が離れていたりしたらこいつの並外れた足回りって奴で簡単に逃げられちまうってわかっていたから、何が何でも先手を取りたかったんだ、事実、力だけなら俺がずっと上だった。

 

 鍛え方が違う、身体も、ハートもな、お前とは違ったベクトルだが・・・。

 顔を見せてくれよ、相棒―――

 

「ッ!」

「何を隠してる」

 

 ―――その泣き顔を。

 

 

 唇を噛んで必死に耐えていたんだろう、唇から小さく血が流れ、そして”バレた”ことで決壊しただろう涙のダムは潤んだ目からとめどなく溢れている。

 

 相棒、相棒、もう話そうや。一体全体お前さんは何を隠して、何に追われて、何でそこまで思いつめてたのさ、旅の道連れ世は情け、俺らにちっとくらい話してくれてスッキリしてみてもいいもんだろう?

 

 だが相棒は首を横に振った。

 

「言えない・・・っ!ティコでもイアンでも、きっと言ったら!」

「・・・もう一度、ウェイストランドに出ろってのが妥当なところか、だがそれならお前さん一人でも十分だろうし何より俺らに配慮する必要なんてない、おおかたもっとでっかい目標を吹っかけられて無理難題に俺らを巻き込むまいってこったろ相棒」

 

「おいVaultの、俺にも言ってくれよ、シェイディ・サンズ以来の付き合いだろ?」

 

 後ろにいたイアンもしゃしゃり出てきて、相棒に声をかける。

 だがそれでも首を横に振るんだ、こうなるとこいつは頑固だから、こっちから理由を見つけ出さなきゃならない。

 

 ―――となると。

 

 

「サソリやレイダーの群れに平気で飛び込んでいくお前でも泣きたくなるほどの無理難題、そして俺らを巻き込めば間違いなく俺らが死ぬほどの無理難題、そしてそれが”やらなきゃいけない”レベルの話に分類されるってとこか」

「俺らでも苦戦した相手なんざ・・・ラッドローチの肉の味と、あとは・・・あ」

「イアン、言ってみろ」

 

「いやさ、ネクロポリスで遭った」

 

 イアンが何となしに口に出した”ネクロポリス”の単語。

 それだけで自分も思い出すには十分だった、いや、忘れるにはいささか無理があるってもんだろう。

 

 あの地を支配していたのは何だ、グール、ラット?それともロボットか?

 ・・・そんなことはあるものか、緑色の肌の巨人、忘れもしない”スーパーミュータント”、奴らの根城に違いなかった。そしてあれからずっと気がかりだった見つからないパズルのピースがあった。

 

「・・・あいつら、どこから来たか知ってるか?」

「倒すのにやっとの思いでそれどころじゃなかっただろティコ、それに証拠も残しちゃいなかった」

「唯一わかるのは連中の思想”ユニティ”、それがウェイストランド中の人間をあのバケモンに変えちまうもんってことと・・・その第一目標がこのVault13だってこったか。相棒、喋ったんだろ?あの監督官に」

 

 相棒は俯き、何も言わない。

 本当に頑固で、往生際が悪い、ガキだってのは分かるが、今更だ、吐いちまえよ。

 

 そうじゃなきゃ、俺らは勝手に動いちまうぞ、いいんだな?

 

「それが事実になるってんなら俺らはこの穴蔵どころか、世界の命運を握る船旅に出なきゃならないってことになるわけだ。イアン、お前さんはここいらで離脱しても構わんぞ、悪くない金額が貰えるだろうから当分働かんでも食ってける」

「それが終わったらいい加減シェイディ・サンズとジャンクタウンを往復する日々が帰ってくるってわけだろっ?それならいっそ一気に稼いで生涯寝て暮らせるようにしてやった方がずっといいぜティコ、連中の装備、相当な上物だ」

「震えが隠せてないが」

 

「・・・いやだ!」

 

 そんな、俺らがいつもの調子で鼻歌交じりに銃を担ぎ出すのを目にして、とうとう相棒が一喝声を上げて怒鳴った。

 

 泣き顔と、怒り顔とが混じった顔でドアの前に立ちふさがって、絶対にどいてやるもんかとばかりにドアの両端をつかんで離さない。その姿は子犬のように華奢だったが、それでも立ち上る意志は闘犬のごとし、ここが最終防衛線、そんな格好だったさ。

 

 俺は目の前に立ちふさがって、相棒と相対する。

 背丈の差は歳の離れた兄弟くらいあったから、必然的に見下ろした。

 

「どうした相棒、予定変更か?」

「予定なんて決めてない!僕一人で行く!ティコとイアンはここでお別れだ!もうついてこないで!」

「てーこた、俺らの”勘”は大当たりだったわけだ」

「あっ・・・」

 

「純朴だ、そのままでいい、だがな」

 

 少し後ろに控えたイアンに目線を送る。

 イアンはただ、任せる、とばかりに頷いて応えた。

 

 

「相棒、お前はVaultを守るために一人で行くってこった」

「そう、そうだよ、戦うのは僕だけでいい、僕だけでやる、誰も・・・」

「“巻き込ませない”か?最初から死ぬ気たぁ偉く消極的に仕上がったもんだ」

 

 語気を強くし、少しばかりぶつけてやると相棒はびくり、と身体を強張らせる。

 相棒、そんなお前だからなおさら一人で行かせられねぇ。それに何よりな、お前がそうするつもりならそりゃ俺らにとっても何より不都合で、理不尽で、思いやりが無いって奴なのさ。

 

 ―――尚更、お前だけの問題じゃない。

 

「いいか相棒、俺らはお前が大事だ、旅の道連れで、友人で、俺にとっちゃいい相棒だよ」

「お、俺も・・・雇い主、以上の関係だと思ってる!なあVaultの!」

「イアン、お前男・・・それもこんな年若い奴に興味があったのか?」

「茶化すなよォ!」

 

 イアンの援護射撃にジョークで応えてやりながら、また相棒を向く。

 涙濡れの目は少しだけ鳴りを潜め、焦点をビシっと合わせて俺と目を合わせた。

 

「相棒、お前だけが死にゃ誰も悲しまないってんならそいつは傲慢だ、少なくとも一人と一匹いる」

「俺も!」

「一人とニ匹にチェンジだ」

 

「おいィ!」

 

 お利口なワンちゃん一人と一匹、それと俺。

 この答えに、相棒は顔をやや俯かせた。

 

「それにもし連中・・・スーパーミュータントが相手なら、それはお前だけの問題じゃない」

「僕らだけの・・・あっ」

「気づいてくれたなら分かるだろう、連中はウェイストランド全てを敵に回す意気込みで力を溜め込んでるんだ。それをたったひとりでこっそり仕掛けて死にました、真相は闇の中・・・どうなる?」

「・・・ッ」

 

 唇を噛み、相棒は震えだす。

 わかってくれ相棒、でももう一押しか。

 

「ウェイストランド全てを敵に回す連中なら、逆に言えば敵に回してやればウェイストランド全てを味方につけることもできる。ただ一人の英雄の犠牲なんざきょうび流行らん、それにこのどうしようもない世界の人間達は明日を生きるために誰だって命を賭けてる、”自分だけ除け者”なんてきっと誰もが怒る、そうだろ?」

「・・・傲慢」

「そうだ、嘘をつくのも下手で貧しき者には施しを、そして困ってる奴がいれば手を差し伸べてやる聖人君子なお前も、自分の、自分だけの行動の結果がどこに帰結するかいうほど考えちゃいない、違うか?成人には遠いがいっぱしの青年だ、理解するのがお前さんの義務だ」

 

「僕が、僕だけが・・・?」

「全てをお前がやることはそいつ自身がやる力を奪う結果にもなる、貧しい奴に施しを与えてばかりじゃ、自ら生きようとする活力を奪う結果にもなる。嘘は時に人を救うし正しさが人を救うとは限らん、そうだろ」

「・・・でもどうしたらいいかわからない、教えて、ティコ」

 

 ああ、その目だ、その目が一番お前さんに似合う。

 涙の乾いてないはずの目から覗く真っ直ぐな目、誰かの教えを誠実に受け入れ、取り込む若さ、それに心躍る、このくそったれな世界に差す光みたいな気がして、たまらないのさ。

 

 

「簡単だ、”頼れ、受け入れろ”」

「え?」

「人は過ちを繰り返す、それに戦争だけは変わらない。手の届かない問題には隣の奴の肩を叩いて頼れ、戦いで人が死んでも悲しむのは最初だけにしろ、乗り越えろ、何事も限度はあるがある程度”受け入れる”、それがお前さんには結構必要だと思うぞ」

 

「いいこと言うぜティコ」

「イアンは少し自分で考えた方がいいと思うぞ」

「善処する・・・」

 

 ウソウソ、お前さんのこと結構好きだぞ、何にも逃げないのは評価ポイントだ。

 そうしていると、相棒の手が扉の端から離れた、少しだけうつむいて、考える素振りを見せたあと相棒はすっと、顔を上げて俺と目を合わせた。

 

「・・・ティコ、イアン、僕、頼ってもいいの?危険な旅だよ、今度こそたぶん帰れない」

「いいとも存分に頼れ!それにウェイストランドの侵略者を放ってバーに繰り出せるほど、デザートレンジャーの責任放り出してるワケじゃあないぜ?グリーンジャイアントが何匹来ようが俺とお前なら一騎当千、俺らでとりあえず千匹は捌けるなら勝ったも同然だ、そうだろ?それ以上はイアンに任せよう」

 

「・・・前金で200ドルとかー」

「ごめんイアン、持ち合わせがないからまた今度に・・・」

「だとよイアン、短い間だったが楽しかった、もう会わん」

 

「あー嘘、ウソだウソ!俺もついてく!置いてくな!」

 

 手をぶんぶんと振って冗談だ冗談だとわめきたてるイアンに相棒が、ようやく笑う。

 

 これからきっとどぎつい試練が待ってるんだろ?これくらいの余興は許してほしいところ・・・にしても、こいつ一人に無茶な要求する監督官っての、帰ってきたら一発ぶん殴らんといかんな、Vaultに閉じこもりすぎて頭が固いんだろう、そうだろう。

 

 ・・・そうしていると、相棒が一歩、前に出てより俺を見上げる。

 表情を真剣にして、俺が少しばかり戸惑うくらいに目を見て口を開く。

 

 

「・・・でもやっぱり僕、みんなを死なせたくない」

「相棒」「Vaultの」

「だから」

 

 言葉を遮った相棒が、にっと笑う。

 乾きかけの涙の跡が、少しだけ赤くこびりついていた。

 

 

「僕が守る、きっと守る、全員で帰るんだ、そうでしょ?」

 

 

 

 ―――悲しみを押し隠したんじゃない、押しつぶした最高の笑顔だった。

 きっとこいつならやり遂げられる、そんな出所の分からない自信をどこかからデリバリーしてきたみたいな、そんな。

 

 相棒はドッグミートを一撫でし、準備があるからと部屋を去る。

 イアンは少しだけ腹が据わってない感じだったが、まあこいつなら大丈夫だろう。

 そういえば今日はもう夕方だった、考えが変わらないうちにという言葉はあるが、出るには遅いから少しだけ溜まった気疲れを解消しようとソファーにどすっと俺も座り込む。

 

 

 やれやれ、大変なことになっちまった。

 ・・・だが後悔しちゃいない。

 

 

 

 ・・・それでも、たったひとつ。

 

 責務とかそういったものを無視してふと出た感情―――

 ―――また相棒と一緒にいれて嬉しいって感情に、少しだけ自己嫌悪を覚えた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 Vaultの監督官の目の前で俺が唾を吐き捨てたあと、Vault13を出た俺たちが向かったのはハブだった。

 

 カリフォルニアとネバダ以外は知らんが、この世界じゃ舗装こそある程度剥がれどビルや家屋、ネオンの灯りが残り続けるなんていう、これほどでかい交易の街は珍しい。人が集まる場所に情報あり、玉石混交善悪混在、取捨選択する者の目がモノを言う場所ではあったがそこは心配ご無用、うまい交渉術(ドル札)を使いつつ、少しずつ情報を俺たちは集めていた。

 

 だが曰く、砂漠を越えた先に何かがあるって話だったが、確証がつかめないまま時間と足の裏の痛みだけが蓄積する。

 

 どことも分からない物を探すためにカリフォルニアの砂漠を縦横無尽にするなんぞ自殺行為だ。あまつさえ今回相手にするのは得体のしれない緑の巨人、人間どころかたまに見かけるパワーアーマーだって引き裂きかねないミュータント連中だ。

 おまけに素手ならともかく重火器、とりわけエナジー・ウェポンで武装した連中を相手にこの人数で何が出来る。

 

あいにくと今回の目的は偵察で、制圧じゃない、そもそも無理だ。

 

 おっ、そうなると使えるカメラをひとつふたつ用意しておいたほうがよさそうだな・・・最終的な目的としては、ウェイストランド全部を巻き込んで連中を完膚なきまでに叩き潰す、そのための”二度目”の旅路だ。

 

 

 とはいえもう日も暮れかけで、道を歩いて情報を探すには表の道は暗すぎる。このハブの裏の道にも明るいわけでもないし、デッカーって悪党が街を牛耳ってる以外にハブの裏ルートに関しても情報が少なすぎるんだ、元々金がある方でもないから、無駄には使えん。

 

 そんなわけでしまいかけの屋台でイグアナ串を頬張りつつ、手頃な空き家で夜を越そうと全員で見繕い、相棒が小さな空き家のドアに手を掛けた、その時だった。

 

 

「―――おーおー、よく来たなあ!」

 

 夕闇を一筋の閃光が飛翔する。

 相棒の頬を10mmの弾丸がかすり、つう、っと血が垂れる。

 

 ―――ああなるほど、どこも変わらねぇか、こういう手合いは!

 

 弱者を食い物にする野犬が噛み付いてきたことに苛立ちつつも、こっちは屋外で、あっちは屋内、それも狭い場所であるとほくそ笑む。ここからグレネードでも投げ込んで一網打尽にするにはちょうど良すぎる塩梅で、それを分かってないならこの”野盗”連中はそもそもその才能すら無かった”バカ”ってことなんだろう。

 

 腰の後ろに取り付けておいたグレネードに手をかけ、ホルダーから取り外す。

 あとは相棒が――― 相棒、あいぼーう!?

 

 

 惜しむらくは、こっちにゃそれ以上の”バカ”がいたってことか!

 

 

 相棒のやつ、何を見たのか弾を頬にかすめた瞬間、扉の外に引くどころか一気に前に出て敵のキルゾーンに踊り出やがった、冗談じゃない!サブマシンガンとショットガンで武装した6人の連中の真ん前に武器も構えずに飛び出して、死ぬ気か!

 

 俺はまた、この温厚でお人よしな相棒が”言葉”で相手と渡り合うつもりなんだと思ったのさ、じゃなきゃあここまで無鉄砲なことはしない。だが相棒、そいつらは少しだけ頭の使えるレイダーだ、人に混じって死肉を貪る野犬だ、人と同じに扱うんじゃない。

 

 このままみすみす殺してなるものかと、俺もウィンチェスター・ウィドウメイカーを、イアンも最近お気に入りのプラズマピストルを引き抜いて扉の影から援護をしようとする、だが―――

 

 

 ―――まあ忘れちゃいなかった、この坊主が”規格外”ってことを。

 

 

 弾丸の軌道でも見えてるんじゃないかお前は、ってくらいの反射神経とスピードで数発を避けた相棒は、その能力に勘付いた相手が眼の色を変えて一斉に発砲を始めた瞬間、”壁を走った”のさ、ああ、誇張じゃない、あいつは確かに走っていた。

 

 床を蹴って、窓枠を蹴って、壁を蹴って――― 人間やめてるんじゃないかって頭によぎったが連中の目は釘付けだ、おかげで俺らの射撃は簡単に土手っ腹に命中し、二人が倒れる、次いでドッグミートが飛び出してサブマシンガン持ちのタマを噛み潰してやると、気を失って一人が倒れる。

 

 それから相棒が空中で回転ざまに投げたナイフが一直線に連中の一人のショットガンを握る指を切り落としてやると、そこに俺らの集中砲火が加わりまた一人、残るは二人、形勢逆転と思った矢先だったが―――

 

 

「・・・月夜に悪魔と遭ったことは?」

「ね、ねぇ・・・っ!」

「頼むから命だけは、なあ!」

 

 着地した相棒が右手に10mmピストルを、左手に跳ね返ってきたナイフを空中で受け取って握り、両側の野盗連中が反応するまもなくつきつける、その様は見事な殺人マシーンで・・・おお、悪い、曲芸だった、金を幾ら払っても惜しくない、それくらいには。

 

 V.A.T.Sを使っていたんだろう、血走った目はそいつらを萎縮させるには十分すぎたらしく、プラズマピストルで溶けた仲間の死体を踏んで靴が緑の粘液まみれになるのも厭わず、相棒が「戻って来ないで」と言うのを皮切りに蜘蛛の子散らすように逃げていく。

 

 イアンはその背中に中指を立ててやり、俺もふん、と鼻を鳴らすと周囲を確認後、相棒のいる小屋の屋内に入った。

 

 気になることはあったが、証明されるのはすぐだった、相棒はもう、その”怪我人”・・・いや、”ボロ雑巾”に駆け寄ってスティムを打ち込んでいたんだからな。なるほど確かに、一方的に殴られ続けてたであろう弱者を見捨てて逃げられるほど、このお人好しは甘くない。

 

 状況的にハブ警察の施設ってわけでもそいつが100人殺した悪党ってわけでもなさそうだし、勘付いた相棒は助けることを優先したんだろう。動きを見る感じ不殺で今回は通したかったみたいだが悪い相棒、俺らはそんな器用なことできやしない、お前を死なさないようにするだけで精一杯だ。

 

 ともあれ―――

 

 

「ねえ、ねえ、大丈夫?」

「ごほっ、ごほ・・・!ああっ、どこの誰かは存じませんが本当にありがとうございます!一体何週間・・・いえ、何ヶ月なのだろう、この悪党どもに拘束されていたのか!助けていただいたことに心から・・・ごほっ!」

「無理すんな若い奴!あーいや、俺と変わらないくらいか・・・ひでぇ傷だ、診せてみろよ」

 

 相棒がその若さが抜け切らないような顔つきの怪我人の肩を持ってやり、ここしばらくですっかり医療の腕を上げたイアンがガーゼと消毒液、それと少しの鎮痛剤をそいつに使ってやると、少なくとも”ボロ雑巾”は”縫い合わされた雑巾”程度に綺麗にはなった。

 

「しかしあんた、どうしてこんなところに?この街の・・・デッカーだったか、裏のボスにタテついたとか?にしては長いこと監禁されていたみたいだが」

「いえ、恐らく私の情報目当てでしょう・・・うう、頭がぼうっと・・・彼らの盛った食事のせいか、自白剤を打たれてなければいいが・・・ああすいません、なにせ、私は”Brotherhood of Steel”のイニシエイトですから」

 

「ぶらざー・・・え?」

 

 相棒は首をかしげるが、イアンは驚き顔に、俺はああ、といった顔で頷く。

 なるほど確かに、あの変わり者連中なら不思議もないか、なにせ連中は―――

 

「科学技術をそこらじゅうから集めてる奇妙な趣味の集団だ、そうだろ?」

「それは説明が足りません、我々は無法者や無知識層の手に高度なテクノロジーが渡り悪用されるのを防ぐために、保護、保管しているに過ぎません。苦悶に満ちた星とそこに住む人々にとって唯一の救済です、いなければ人類は間違いなく滅びると、そう信じています」

「はあ、そいつは高尚な・・・」

 

 やっぱ奇抜だ、だがそれでこそ救われるってもんだ。

 

 こいつらは戦前軍事技術の頂点、”パワーアーマー”を当たり前に使い、あまつさえ防弾チョッキがゼリーみたいに砕けるエナジー・ウェポンを振り回すこのウェイストランドでも屈指の軍事力を持った連中だ、そのすべてを俺も知っているワケじゃないが、奴らが今カリフォルニアを征服しようとすれば容易なんだろう。

 

「確かに、B.O.Sの連中からテクノロジーの情報を引き出せれば金にも力にもなる、それに連中金払いもいいらしいからな・・・殺さなかったのは身代金目的ってのもあったんだろう、なにせ」

「“兄弟”ですから」

 

 目を輝かせて言う場面じゃないと思うんだが、まあいい。

 文字通り”鋼の同胞”であるならその結束も固いってことか。

 

「僕、兄弟いないなぁ」

「Vaultの、そういう意味じゃないと思うぜ」

 

 相棒は相棒だし、ドッグミートに顔を舐められて笑ってる。

 イアンは怪我の手当てがようやく終わったみたいで、救急キットをかばんにしまいこんだ。

 

 そうすると、よろけながらもイニシエイトの男が立ち上がる。

 

「本当にありがとうございました、このあたりには友人がいるので、体力の回復までそちらに身を寄せることにします。恥ずかしながら装備を奪われたのでそのあたりも補充しないと・・・幸運が続いて何よりでした、この街の悪いうわさは聞いていましたが、自分がそうなるとは」

「うん、気をつけてね、もう暗くなるから」

「若い勇者・・・いえ”兄弟”よ、もしロストヒルズ・バンカーを訪れることがあったら寄って下さい、あいにくイニシエイトなので大した立場ではないのですが、それでも歓待致します」

 

 イニシエイトは相棒のPip-boyにマーカーをつけて、足元おぼつかなさそうに小屋を出る。

 気持ちはわかるが大丈夫か?まあ、訓練は受けてるだろうし連中の銃を拾ってたから大丈夫か・・・あっ、戦利品を奪われた、強かな奴め。

 

 ともあれ北西、ロストヒルズ・バンカーか・・・スーパーミュータントのアジトを見つけたら、助けを借りるのもいいか。

 

 

「ティコ」

「ああすまん、ぼっとした」

 

「ティコが?珍しい、明日は核の雨だなっ!」

「散弾の雨ならいつでも降ってくるぞ」

「冗談だ冗談!」

 

 すべてが終わって冗談交じりになりながら、戦利品の残りを拾って小屋を出る。

 この血なまぐさい場所で寝るのはちと気分が悪いし、別の所にでもしよう。

 

 満場一致で取り決められ、俺らは近くの古い店舗跡に足を踏み入れる、カビ臭いのと生臭い臭いがするあたり、貧民が寄り集まってその日をしのいでいる場所ってこったな、まあ身を隠すにはちょうど良さそうだ・・・入り口に陣取ってた奴に10ドルほど渡し、中に入って寝床を探す。

 

 スペースはあるにはあるんだがこう、互いの縄張りみたいな空気が蔓延しているというか、なんともどかっと座って一杯と行き難い雰囲気だったからどうしても俺らは、奥の奥まで歩いてしまったのさ。

 

 

 だが、奥まで歩いたのは功を奏したのかもしれない、後にそう思う。

 奥の奥まで歩くと、ひときわニオイがキツくなってくる、だが好奇心猫をも殺す、つい俺らは奥の部屋に足を踏み入れて―――

 

 

「―――そこの若い人、どうかお恵みを・・・」

 

 

 物乞いの声、相棒にはきつく言ってあるからすぐには渡さなかったが、だがこれは・・・ついフリーズしちまった。

 

「ツキに見放された哀れなミュータントに救いの手を~・・・げほっ、げほ」

 

 咳をしながら潤んだ目で乞ってくるのは、人間――― いや、違うんだろう、俺らが求めてるモンとは違うが、それでも”ミュータント”と呼ぶに十分な奴だった。

 

 グール以上に歪に歪んだ顔に、目元からはネトネトした膿がこぼれて身体を汚している。

 右目は潰れている・・・というかそもそも存在せず、体色も人間のそれとは違う、緑色をしていてもはや姿形だけ四肢が揃って頭に短い髪が生えてなけりゃ、ミュータントそのものだった、ゾッとして、つい俺らはその場に立ちすくむ。

 

「ああわかる、わかるとも、この気持ち悪いのに近づきたくないんじゃろう、これでも昔は鳴らしたクチじゃったのに・・・あっちいくといい、恨まん、恨まんて」

 

 卑屈になるその”ミュータント”、俺は一歩引く。

 だが忘れてた、俺が一歩引いたぶん、一歩踏み出す奴がいた。

 

「・・・若い子、いいのかの?」

「・・・つい」

 

 その手を握り、25ドルを握らせていたのは誰だったか、相棒さ。

 そのミュータントの爺さんは目にネトネトを浮かべ、何度も感謝すると愚痴をこぼして目のネトネトをガーゼで拭きとった。

 

「うー、ガーゼももう使えんか~、このネトネトが拭き取れればこのわしの目にも涙が浮かぶことを見せられるんじゃが」

「ミュータントのお爺さん、名前は?」

「おや、お爺さんとは久しぶりに聞いた・・・いい子じゃ、名を名乗ろう」

 

 にっと笑った顔もまた不気味だったが、不思議と悪感情はなかった、元々そう言う奴なんだろう。

 その”ミュータント爺さん”は、よろよろと立ち上がるとまたネトネトを拭きとって、相棒と目を合わせて答える。

 

 

 ・・・なんとなく、長生きしそうな風格だった。

 

 

 

「―――ハロルドじゃよ」

 

 

 

 

 




(´・ω・`)ズンパス買い忘れた・・・。
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