ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
男が一人、夜の街をだらだら歩く理由はただ一つだ……。
唐突に牛丼が食べたくなった。それだけだ。
そんなわけで隣の部屋で奇声を上げながらゲームにいそしむ忌々しい同居人に気が付かれないように部屋を抜け出し玄関を出る。
駐車場に止めてあるバイクを使おうかと一瞬思ったが、そんなに距離があるわけではない。そもそもこいつもこいつで五月蠅いから、大した用でも無いのに使わないに越したことはない。
俺はバイクに気が付かれないように家を出る。
さて、何を食べるか。生卵トッピングは外せないとして……頭の中で牛丼の組み合わせを考えながら繁華街を歩いていた時だった。
「……!」
耳元に、かすかに悲鳴が聞こえる。
無視したいなーと思いつつも、この尋常ではない悲鳴だけど、普通の人には聞こえないだろう悲鳴を無視するのも寝覚めが悪いとそちらに足を向ける。
いや、駆ける。
無駄に早い足。すれ違った酔っ払いのおっさんが唐突に目の前を通り過ぎた突風に目を白黒させていたが、そっちは当然のごとく無視。危ないから早よ家帰れよ~!
駆ける事数秒、路地裏では案の定……、なんか2m以上ありそうな怪物とその後ろには……怪物が邪魔でよく見えないが尻もちをついているらしい女性の足が見えた。
はー、何つーテンプレ……。何回目だっけ?
まぁ、飽き飽きする気持ちを横に置き声をかける。
「おーい、何やってるんだ」
「ぎゃぎゃっ!?」
なんか怪物が振り向きざまに妙な鳴き声を上げる……。あー、声帯の変質に慣れてないっぽいなー。
正直どの系統の怪物かわからん。オルフェノクだと白っぽい特徴的でわかるし、イマジンだと独特のノリと行動パターンでなんとなくわかるんだが、それ以外だとどっかの組織の改造人間なのか生まれついての怪物なのか一目じゃわからん。
できれば会話が成立する相手だと良いなー。改造人間ならそれなりに話が通じる連中もごく稀にいるけど、グロンギとかワームとかアマゾンとか根本的にどうにもならない連中は勘弁してほしい。
などと思っていたら、怪物が何やら首筋に手を当てたかと思ったらむにょむにょピカーと人間に姿を変える。その手に持っているのは……ガイアメモリー……ってことは、ドーパントか。
おーい、ここは風都じゃねーぞ!
仮面ライダーWはどこー、仮面ライダーアクセルさんいませんか!? ハーフボイルドの探偵さんか不死身の刑事さん、早くきてー! 風都まで電車で片道2時間以上かかるから、この町にはこないと思うけど。
などと若干現実逃避をしつつ、元怪物の推定ガイアメモリージャンキーの反応を待つ。
「なんだ、小僧!? てめー!」
見た目はぱっと見は頭頂部の寂しい中肉中背のどこにでもいそうなサラリーマンだ。ただ目が逝っていてヤベー。推定じゃなくて間違いなくメモリジャンキーだ。やべーよ、やべーよ……。
「あー、通りすがっただけなんだけどさ、こんな街のど真ん中で人を襲うのはやめた方が良いと思うんですよ」
とりあえず止めておく。どう見ても背後の女性を襲っている状況だし。
しかし、どう見ても運良くガイアメモリを手にして調子に乗っている素人さんだ。手下がいる様子も無いし、衝動的に襲ったと見るべきだろう。
まったく、引き戻すなら早い方が良い。
こちとら仮面ライダーではないのだ。街中での怪人犯罪を思いとどまってくれたらそれ以上は何もする気はない。
だが、ジャンキーリーマンは思いとどまる気はさらさら無い模様で……。
「あー、大人を舐めた小娘にわからせるだけだが、小僧もわかりたいらしいなぁ!」
「何をだよ!」
「へへっへっ、よく見りゃてめーも整った面しているなぁ!」
なんか舐めるような視線を俺に向けてくる。
背筋がぞっとした!
やべーよ、やべーよ……(2回目)。メモリジャンキーでドーパントってだけでもヤベーのに、両刀ドーヴァントだとぉ!? 属性さらに盛るなよ!
「先におめーをかわいがってやるぜぇ!」
【Razor!】
俺が尻の危機にきゅっとおののいている間に、男が再度首にメモリを刺す。立木ボイス……Razor……剃刀か?
先ほどは暗がりでよく見えなかったが、今度こそ怪物の姿がよく見える。
硬質化した巨体に、変質した指の先が鋭すぎる刃となる。10本の刃は大通りから差し込むネオンの輝きを反射し煌めいていた。Razorの名に恥じない、鋭い刃物を携えたドーパントの姿がそこにはあった。
メモリージャンキーに加えて、両刀どころか10本の刃物による嗜虐趣味。やべーよ、やべーよ……(3回目)
ああっ、くそっ! 寝覚めが悪いなんてかっこつけてかかわるべきじゃなかった。なんでカミソリホモドーパント(命名)なんているなんて想像できるかよ!
「ちっ! やめる気は無しかよ……」
内心の後悔をよそに、俺は両手を腰に当てた。やりたくないんだよなー、これ……。
そういう俺の感情などお構いなしに、先ほどまで存在していなかった”ベルト”が腰に出現する。隠されていたそれは、暴れられる時を待ちわびたかのように脈動を開始し、中央の風車がゆっくりと回転を始めた。
「ぎょぎょるっ!?」
ドーパントが何やら言葉を漏らすが、何言っているのかわからないので無視。無音のはずの腰のベルトが熱く脈動する。
「もう止まらねえぞ、覚悟しろよ……」
俺は腕をベルトから放し、大きく振り上げ……
「変……身……!」
意識が切り替わる。俺が”俺”へと変わる……。
どこからともなく出現する強化スーツが身を包む。頭部を覆う硬質のヘルメットに収められた幾多のセンサーが俺の脳と、神経と接続されていく。
俺の視界、意識が広がる、あらゆる音が、電磁波が、空間の揺らぎすら俺の脳裏に情報として流れ込む。
薄汚れた町の路地裏に一陣の風が吹く。首に巻かれた深紅のマフラーが風にたなびく。
強化筋肉、状態良好、バイタル正常……。システム、オールグリーン。
「ま、まさか、仮面ライダー……だと!?」
先ほどまで獣の鳴き声にしか聞こえなかったドーパントの漏らす音を、脳を補助するAIが意味のある言葉に変換する。
だが、ドーパントの出したのは実に不愉快な……忌まわしき者たちの名だ。
「違うな……あのような旧式の裏切り者と一緒にされては困る」
確かに、俺の姿はあの裏切り者たち……仮面ライダーと同じ意匠を施されている。緑の戦闘服と、赤い目を持った緑のヘルメット。首に巻かれたマフラーも一号ライダーを名乗る男と同じ色だ。
だが、同じ赤でも奴の色とは違う。暗く闇にうごめく血盟の赤であり、復讐の炎だ。
「俺はショッカーライダー……
支部作成の試作機である為に正式なナンバーこそ与えられていないが、この身は偉大なるショッカーの一振りの剣。
俺は静かにドーパントを見据え、処刑を宣言する。
「警告は与えた。それを無視した以上……その命、ショッカーに捧げてもらおう」
変身前の俺はショッカーの戦士としては少々優しい……もしくはいい加減だ。このようなゴミも実害さえ無ければ見逃そうなどと考えていた。
だが、この地を偉大なるショッカーより任された身としては、このようなガイアメモリに手を出したゴミクズが我らの許可無く暴れることを許す気はない。
「ふ、ふざけるなぁ! 仮面ライダーでないならぁ!」
カミソリドーバントがまだ腕が届かないのにもかかわらず腕を振るう。刃の爪が空気を裂き、真空の刃となって襲い掛かる。
だが……
僅かに身を反らす。それだけで十分。真空の刃は俺の横を通り過ぎ、ビルの壁面を轟音を立てて抉り取った。
「旧式どもと一緒にするなと言った」
さらに立て続けに振るわれる真空の刃を軽く避けながら、一歩一歩ドーパントに近づく。
しかし、あの刃……。面倒だな。流れ弾が表通りにでも向かえば面倒だ……。潰すか。
涼しい顔で攻撃を回避し接近を続ける俺に恐怖をしたのか、ドーパントは今まで以上に腕を大きく上げる。センサーが爪に今まで以上のエネルギーが収束していることを警告する。
丁度いい。
俺は右手を伸ばし手刀の構えをとると、エネルギーを集中させた。
「く、くるんじゃねぇ!」
「ライダー……チョップ」
刃が振るわれるタイミングに合わせ、手刀を振るう。
奴の爪と俺のチョップが衝突、一瞬の停滞の後に砕け散ったのはドーパントの爪だった。
「ぎぃみゃああああ!」
爪にも痛覚があったのか、ドーパントが悲鳴を上げる。
「耳障りだ」
隙だらけになった奴のもう片方の腕を掴むと、あり得ぬ方向に曲げる。べきりと硬質な音を立てて爪がへし折れる。
これであの衝撃波は出せないであろう。折った爪を踏み砕きながら、奴の頭部と思わしき場所を掴む。
カミソリドーパントの身長は2メートルを大きく超える。その身に秘めた怪力もそれ相応だろう。一方俺は変身してもサイズが変わるわけでもない。
もっとも、そんなサイズ差など関係ない。
「平伏せ」
そのまま力任せに引き倒し、奴の頭部を地面に叩きつける。
俺に落とされるままにドーパントは体勢を崩し、轟音を立てて頭部をアスファルトの地面にめり込ませた。
衝撃で頭部が砕けたのか、はたまた三半規管が狂ったのか手足を何やらじたばたさせてはいるが……。ドーパントと言えども素人ならばこの程度だろう。追撃は必要なさそうだ……。ならば
「とどめだ」
俺は奴の頭から手を離すと、軽く跳躍した。
跳躍とともにベルトの風車が唸りを上げ、莫大なエネルギーを生み出す。暴れまわるエネルギーが、全身を活性化させる。
「ライダー……キック」
エネルギーを脚部に集中。落下の勢いも乗せ、遅まきながら立ち上がろうとしたドーパントの胴体を俺のキックが貫いた。
「げぎょがぁ……が……」
そのまま着地。ドーパントは数歩だけよろめくと倒れて……、人の姿に戻った。
ん?
男の生体反応も確認。意識は無いようだが、まだ生きてはいる。全身スキャン……腹部の打撲こそひどいが内臓が破裂している様子もない。むしろ肉体の破損よりも、ダメージでメモリの毒素が過剰分泌された為の意識混濁であろう。
完全に破壊するつもりで攻撃をしたのだが、どうやら想定以上に防御力とタフネスが高かったようだ。
ドーパントはどうにも個体差が激しい。予想以上の高耐久に呆れ半分感心半分の視線を男に向けていると、首筋が歪みガイアメモリが体外に排出される。
破損は……していないな。ガイアメモリ系ライダーのメモリブレイクの機能は本機には搭載されていないので無事であったようだ。
本交戦データは後に要検証だな。俺は落ちているメモリを持ち上げる。
さて、この男と目撃者の処分……襲われていたのはまだ若い女のようだ、今時染めていないだろう艶やかな黒髪に黒縁のメガネ。着ているのはうちの学校の制服……。
ってぇ! 同じクラスの高槻じゃねえか?
なんで糞まじめなメガネの学級委員がこんな深夜の繁華街の路地裏にいるんですか? 隠れてパパ活ってやつですかぁ!?
というか、今まで俺は何を考えていた!? 男と目撃者の処分とか、殺すつもりで蹴ったとかさぁ……。
あー、これだから変身するのは嫌なんだ。脳改造の影響なのだが、変身してしばらくの間は戦闘補助AIが過剰反応をして思考が物騒になるんだ。
ほんとやばかった。高槻に驚かなきゃ明日の朝刊には路地裏の惨殺死体がでかでかと載っていたところだ。
正気に戻り慌てて周囲を確認する。ハゲホモカマ(注、カミソリです)ドーパントだった男はぶっ倒れているが、これは放置で良いだろう。俺の脳内センサーとライダーアイがほっといても死なないと告げている。
というか、こちとら不本意だがショッカーライダーだ。ガイアメモリに手を出したアホなんぞの命を気にしてやる気はさらさらない。
んで、周囲。
調子に乗ってライダーキックをぶちかました割に、人が来る様子が無い。夜も遅い時間とはいえ繁華街だ。あの打撃音が響かない訳がなく誰かが見に来ない訳もないのだが、もしかするとこのハゲホモ水虫カマドーパントが何か特殊能力をもっていたのかもしれない。そういや彼女の悲鳴が聞こえたのも俺だけだったし。
まぁ、メモリはこの通り俺が取り上げたから、もう何もできないだろうけど。
「あ、あの……」
あ、高槻の奴が声かけてきた。
俺と同じ高校に通う一年生、黒髪メガネ美少女の真面目系だ。でもその胸で真面目系は無理だろう……と言ったらセクハラで訴えられそうだ。
制服姿なのは塾帰りか。よく見たら参考書や筆記用具が散らばっている。まぁ、良いところのお嬢さんだって話だし、パパ活とかは無いか。
怪我とかは……ちょっと転んだ際の擦り傷や打ち身はあるようだが、大したものは無さそうだ。
まぁ、美少女は世の財産というし、ハゲホモ水虫痔持ちカマドーパントが何かをする前に間に合ってよかった。
俺は高槻の様子を確認すると、無言で彼女が落とした鞄や参考書を拾い集める。
「あなたは……この化け物は、一体?」
あ、やべ。
潤む視線、震える声。恐怖に震えながらも問いかけてくる美少女。うん、かなりグッとくるシチュエーションだ。
なんか怪人に襲われている人を成り行きで助けるのも初めてじゃないんだが、対象が混じりっけなしの美少女ってのは初めてだ。いやさー、助けてみたら怪人蜂女だったり、助けてみたらワームの擬態だったり、助けてみたら両方アマゾンだったりとそんなんばっかりだ。
蜂女さん以外は結局は倒す羽目になったし……。ワームとかアマゾン2体とか死ぬかと思ったわ……。
いや、こんなことを考えている場合じゃない。
「もしかして……仮面ライダー?」
なにやら頬を紅潮させパーっと顔をほころばせる高槻。
知っているのか、雷○!。じゃなかった、まー、うん。知っているよなー。
都市伝説、仮面ライダー。
人類の自由と平和が脅かされる時、どこからともなく颯爽と現れ巨悪を滅ぼす仮面の戦士。
その名を仮面ライダーという。
この世界において仮面ライダーは都市伝説だ。
警察が保持しているとか、どこぞの秘密結社や公的機関の秘密兵器だとか、某企業の所有物だとか、どこぞの小説家がその正体だとか、檀黎斗神こそ造物主なのだとか、とにかくこの世界において仮面ライダーは有名な都市伝説だ。
割と事実が多く含まれているのは気にしないでおこう。最後の神はいい加減にしろ。
しかし、やばい。どう答えよう……。こう見えても俺はショッカーライダー。半ば休業状態だし別に人助けをしちゃいかんという決まりがあるわけじゃないが、同時に日の当たる世界に出ていい存在ではない。
というか、出たら出たでどっかのライダーがやってきそうで嫌だ。別に身がキレイってわけでもないし。
うーん、うーん……。
そだ。
俺は拾い集めた品を手渡すと同時に、立ち上がる彼女に手を貸す。
彼女が立ち上がったのを確認すると、くるりと背を向けてこう名乗った。
「俺の名は仮面ライダー1号……。人類の平和と自由のために戦っている……」
必殺、功績押し付け! 今日もどこかで戦っているだろう本郷さんごめんなさい。
でも、あの人はあちこちで人助けをしているはず。一つぐらい自分が知らない功績が増えていても気が付かないだろう。
というわけでライダージャンプ。あばよとっつーあんとビルの上、早々に繁華街から逃げるのであった。
「あ、やべ。牛丼を食うの忘れてた……」
俺が出かけた目的を思い出したのは、家が見えてきた頃だ。あんな事があったのでさっさと家に帰ろうという意識ばかりだった。
しかも、大した相手ではなかったとはいえ無駄なエネルギーを使ったせいで正直腹が減った。おのれミュージアムの連中め、ゆるさん……もう壊滅しているけど。
儚く散り続けている悪の組織の事はどうでもいいとして、とりあえず空腹だ。
今更繁華街に再度行くのもアレだし、なによりパトカーが集まっているっぽい。あのドーパントだった奴が通報されたかな。ほんとクソ迷惑な……。この辺りはコンビニ無いしなー……。買い置きのカップラーメンって、まだ残っていたかなぁ……。
などと考えながら玄関を開けた、その瞬間だった。
「おかえりなさい、お兄ちゃん」
語尾にハートが付いていそうなかわいらしい声が俺の耳に飛び込んでくるのと、腹部になにやら飛んできたちっこいのが衝突するのがほぼ同時であった。
ぶっちゃけよう、忌々しき同居人が玄関を開けると同時にこっちに向かって全然かわいくない突進をしてきたのだ……。両足を向けて……具体的にはドロップキック。
「ぐおおおおっ」
油断していた俺はもろに腹にドロップキックを食らい悶絶する。改造人間であっても痛いものは痛いのだ。
「なーに、夜中、勝手に出かけているのかな、お兄ちゃん」
顔を上げるとゆるキャラがプリントされたパジャマを着た、髪を下した金髪のちんまい少女が仁王立ちでこちらを睨んでいた。
見た目だけなら美少女だ。黄金色の癖のないさらさらとした髪に青くきらめく瞳。どっちが前でどっちが肩甲骨かわからないぐらいぺったんこではあるが、十代前半のはちきれんばかりの活力を見せるすらりとした美少女だ。
そう、見た目だけならちょっと貧ではあるが間違いなく美少女。
もっとも、そんな少女を前にしても俺はある種の疲れしか感じない。
「いや、ちょっと小腹がすいて……」
あんまり玄関前でやっていてもご近所さんの目が怖いので家の中に入る。
このまま逃げようかなーと考えたが、次の瞬間がしっと俺の腕に抱きついてきた。
「逃げようと考えたでしょう」
「考えてない考えてない。というか、重いからぶら下がるな」
「乙女に何を言っているのよ! というか、こう他に感想は無いの?」
「そういうのはもうちょっとボリュームが……こら、足を踏むな。身体を押し付けるな」
改造人間でも足を踏まれたり箪笥の角に小指をぶつけたら痛いんだよ。
あと、挑発のつもりかなんか知らないが、身体を押し付けるのは止めてほしい。少女特有の柔らかさに身体が反応しない訳ではないが……、精神的に負担が大きい。
一見するといつの間にか出かけていた兄を心配する……にしてはドロップキックはやり過ぎだが……少女だが、こいつはそんな奴ではない。
そもそも、平均的な黒髪黒目の日本人である俺の妹が、こんな金髪碧眼なわけがない。
「しかも、繁華街で何か交戦したでしょう。何があったの、お兄ちゃん? ……アインロールド?」
口調が変わったわけではない、見た目も変わっていない。ぷんすか可愛らしく怒っているのも変わらない。それでもほんの少しだけ呼び名を変えたことで何か冷たい物が背筋に入れられたような寒気を感じる。
そんな感覚を腹の底に押し込め、俺は少女の質問に答えた。
「およそ20分ほど前、ドーパント1体と交戦、撃破した」
ポケットから無造作にガイアメモリを取り出すと彼女の手に握らせる。
「んもー、いつも危ない真似はしちゃ駄目って言っているでしょう! ん~、粗悪品ぽいなー。後で調べとくね」
メモリを一瞥すると、唐突に空間にワームホールらしき穴を生み出し放り込んだ。
彼女の名はミカ・ウェスト。家に居候をするハーフの中学生……という事になっている。
だが、その正体は、秘密結社ショッカーに属する科学者……、俺を誘拐しショッカーライダーに改造した張本人だ。
今の外見も本来の姿ではない……のだろう。俺を改造した時は大人の女性だった。
「お兄ちゃん、ちゃんと聞いている? 夜中に出かける時はちゃんと私かサイクロンヘルに声をかけてよね」
「聞いている聞いている」
「んも~、真面目に聞いてよ。怪我は大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。そろそろ離れてくれ」
ほんと一見すると心配している妹のようにしか見えない。まぁ、リアル妹は兄の扱いはぞんざいだから、こんな引っ付かないが……。
ミカは挑発に乗ってこなかった事に一瞬だけむっとした表情を見せるが、すぐに離れるとダイニングに向かう。
「戦闘モードでお腹すいているんでしょ。ちゃちゃっと何か作ってあげる」
「いや、いいよ。ゲームしてたんだろ?」
「配信は終わったから大丈夫」
ゲームの配信してたのかよ……。それで良いのかショッカーの科学者!?
手をひらひらさせながらキッチンに消えていくミカの後姿を見ながら、これでショッカーの科学者じゃなきゃなーなどと考える。
もっとも、誘拐され脳改造をされているとはいえ、ショッカーに残っているのは自分の目的のためだ。
忌々しいと思いながらも、彼女を拒絶することなどは出来なかった。
イチャイチャは書けたと思う。
本当はunenrolled(アンインロールド)なんだけど日本語ではゴロが悪いのでアインロールド(マテ
やってくるのは?
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ハーフボイルド
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警視