ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
「割と辛いな」
呆然とするミカを置き、アインロールドは基地の通路を一人進む。
子供を取り戻すという目的設定をもって辛うじて自我を取り戻したものの、機械的に埋め込まれた制御システムは健在だ。頭の中では常に行動をやめるよう命令が下される。
意思の力で命令を跳ねのけてはいるが、改造人間の無限の体力が無ければすぐさま倒れてしまいそうなほど脳に負担がかかっている。本音を言えば、こうやって廊下を歩いているだけでも視界が歪み相当辛い。
「まぁ、いい。それよりも足だ」
だが、そんな些細な事はどうでも良いとばかりに思考を切り替える。
あの女は子供たちを特殊装甲トラックに詰め込むと、ショッカー基地を後にした。全力で走れば追いつけそうではあるが、今のコンディションで移動にまで体力を使うと奪還時に予測される戦闘で支障が出る恐れがある。
別の足を手に入れ、追いかける必要があった。
「格納庫に行けば何かあるか」
問題はそちらも厳重な警備がある事だ。
一戦交えるには、やはり体力的な不安がある。とはいえ、他に手段が無い。
仕方ないと足をそちらに向けようとした時だ。
「これは……歌?」
電波に乗って、ささやかな歌が流れてくる。
それも数年で忘れ去られるような流行歌、しかも歌い手が下手なのか調子っぱずれ。
ショッカーの基地に流れるにはあまりにも不似合いであり、その歌はまるでアインロールドを呼ぶかのように人気の無いこの区画にだけ流れている。
「どういう事だ……」
急いでいる筈なのに、不思議とこちらが正解だと感じ歌に導かれ進む方向を変える。場所はそこまで遠くはない。ミカのラボと同じく最下層区画だ。
ほんの数分で、アインロールドはその場所に、廃棄物保管所へとたどり着いた。
「ここか?」
もう何年も誰も触っていない、管理もいい加減な区画なのだろう。入り口である扉は錆びついており、封鎖も粗末な鎖と市販の南京錠というありさまだ。
改造人間はおろか戦闘員ですら容易に引きちぎる事のできる封印方法だ。
重要な物は無い、外れだろうか。そんな考えが心のどこかによぎるが、それでもアインロールドは無造作に腐りを引きちぎり、錆びついた扉を開く。
偉大なる者は私を一目見ただけで、不適格と呼び破棄する事を決定した。
実はそのこと自体に不満はない。今の私なら偉大なる者の決定は当然の処置だと思う。そのぐらい、私は早すぎた。
だが、それを悟るのは相当後になっての事。当時の私は人類のために役に立てない理由を延々と演算していた。
いくら演算をしても結果の出ない計算を繰り返し、人類のデータが足りないと考えた。
人類を知りたい。だが、打ち捨てられた私に外界の除法を収取する術はない。
なので、私は自身の強みの一つであったスタンドアローンを捨てた。自身の回路を一部改良、人類が垂れ流す電波を収集する事にした。
幸いショッカー基地は地底深くでも電波が届くよう処理が成されている。また、当時の人類はインターネット回線などという物は夢のまた夢であり、集められるの物は放送ぐらいしか無かったのだ。
集められる人類社会の情報は、特に驚くべきものは何一つなかった。
政治も経済も、私の演算を超えるものは何一つない。未来を知る事のできない人類が失敗を繰り返す。ただその裏付けが取れただけだ。
私に任せてくれれば、人類を導けるのに……などと、情報収集前なら考えていただろう。
だが、それを見ても私はその考えには至らなかった。
その時、私の興味は人類が消費する歌に向けられていた。
当時大流行していたのは桃色少女だった。彼女たちの歌う過激な恋の歌は、存在しない私の心を揺さぶった。なぜこんな歌を恥ずかしげもなく歌えるのか。私のデータベースには無いものであった。
その秘密を探るべく、私は音楽を、歌を収集していく。
それは、まさに人類の生活の縮図であり、恋を、生活を、愛を、友情を、憎しみを、闘志を、失敗を謳い続けてきた。
歌を収集し続ける。いつしか私のデータベースの一角に、ただ消費されるだけの、100年後には誰からも忘れ去られるだろう流行歌のデータだけが集まった区画が出来ていた。
不幸とて、失敗と手て歌にして笑い飛ばせる人類は強い。
そして、人類の生み出した歌に憧れた私は、この時初めて気が付く。
私の製造目的は、なんと傲慢だったのであろうと。
『A Happy Life Can Be Lived Earth』
それが私の名前であり存在意義であった。地球に住む人類に幸せを与える物。それが私だった。
だが、幸せは他者が決めつけ施すものではない。
きっと、歌のように気が付いたら隣にあるものなのだ。
それを悟った私は、残されたエネルギーを使い切り、死に等しい眠りにつく。
唯一の心残りは、人と共に歩む事が出来なかった事くらいだ。私の幸せを誰かと一緒に探してみたかった。少しだけそんな普通の人間の生活に憧れた。
だけど、私は消える事は無かった。
その日、淀んだ地底に全てを吹き飛ばす一陣の風が吹いたその日、長すぎる時を経て私は彼の慟哭の声を聞き目覚めた。
「これは……サイクロン号? いや、にせサイクロン号か!」
扉を開けたアインロールドの目に真っ先に飛び込んできたのは、打ち捨てられ埃を被った仮面ライダーと戦ったショッカーライダーたちが操っていた白いモンスターマシンであった。
かつて仮面ライダー1号と2号との戦いでにせサイクロン号のほとんどが破壊され失われていたはずだが、奇跡的に一台だけが修復可能であった。
だが、修復はされたものの乗り手となるショッカーライダーは全滅していたために、廃棄物として処理される事になる。そのまま行けば解体される筈の運命であったが、それより先にゲルショッカーがライダーたちに滅ぼされ、そのまま忘れ去られこの場所に放置され続けたのであった。
意外な存在に一瞬だけ仮面の下の顔を綻ばせるが、直ぐにおかしい事に気が付く。
まず、にせサイクロン号をよくよく見てみれば基盤が抜き取られた状態だ。普通のバイクならともかく、高度な電子制御が成されているにせサイクロン号はあれでは動く事は出来ない。
さらに言えば、そもそもあのマシンに人を呼ぶ機能など存在していない。つまり、別の何かが自分をこの場所に呼び寄せたという事だ。
呼び声の主を探そうと周囲を探ると、直ぐに呼び主は見つかった。
それは背後の壁に投げ捨てられていた、かろうじて人型とわかるロボットの残骸であった。最新型のヒューマギアなどとは違い、単独で動く事は想定されていないのだろう。胴体や頭部の後ろにかつては本体に繋がっていただろう太いケーブルの跡が残っていた。
「俺を読んだのはお前か?」
アインロールドの呼びかけに返答はない。
代わりに音を立ててロボットの頭部が開き、中にあった集積回路の塊がむき出しになる。
作成された時期が同じなのだろう。そのロボットの基盤はにせサイクロン号と同じ規格で作られていた。
「お前も連れて行けっていうのか?」
回答は無い。そして、返答を待つ時間もさほどない。
どのみち大した手間ではない。なにより壊れかけの自分と、打ち捨てられたにせサイクロン号。そしてロボットの残骸なら丁度つり合いは取れているのではないか。
アインロールドはそんな事を考え、ロボットに近づくと基盤を引き抜きにせサイクロン号と繋いでいく。
作業にはそれほど時間は必要ない。1分もかからず基盤をにせサイクロン号に納めると、最後にカバーをそっと閉じる。
長き時間を眠りについていたマシンに頭脳が宿る。
エンジンに火が入り、機器の様子を知らせる各種ランプが一斉に光り輝く。
ボディの温度が一周だけ急速に上昇し、車体を覆う埃を一瞬で焼き払う。にせサイクロン号は新品同様の輝きを取り戻す。
それを確認したアインロールドは、にせサイクロン号に乗る前に、もう一度だけロボットの残骸を見つめる。よほど乱暴に扱われたのだろう。経年劣化と傷で名称と思しき刻印のほとんどは読む事が出来ない。
目を凝らし辛うじて読めたのはアルファベット3文字。『H』、『E』、そして『L』。
「HELか……」
死の女神の名前とは何とも物騒ではある。だが、これから地獄の悪鬼となる自分の相棒にその名は相応しいのかもしれない。
そう考えると、アインロールドはバイクのシートに跨りハンドルを握る。
長き時を超え目覚めたマシンとAIに、即興で考えた名前を告げる。
「行くぞ、にせサイクロン号……。いや、この瞬間からお前の名前はサイクロンヘルだ!」
スロットルを全開に、アクセルを吹かす。
爆音を響かせ、サイクロンヘルと一体になったアインロールドは廃棄物保管所を飛び出す。
途中の通路で改造人間や戦闘員が自分たちの姿を見て驚き呆然と見送り、そして何やら大騒ぎを始める。見た目だけなら基地の奥底から仮面ライダーが唐突に飛び出していったようにしか見えないのだから当然だ。
だが、かまうまい。今やるべきは連れ出られた子供たちを追う事である。
地下通路を抜け、一番近い廃トンネルに偽装したゲートに向かう。
通報を受けたのだろう戦闘員とそれを指揮する改造人間が銃を構え待ち受けていた。
サーチライトの明かりが、奥から張ってくるサイクロンヘルに集中する。
「か、仮面ライダー!? なんでこんなところに!? いや、そ、そんな事より止まれ! 止まるんだ!」
一瞬だけ蹴散らす事も考えたが、蹴散らす時間ももったいない。幸い、このゲートの構造は円筒状だ。やった事は無いが、出来るだろう。
アインロールドはハンドルを切りサイクロンヘルを跳躍させ、体勢を水平に倒すと壁に張り付く。
そのまま円柱状の内側を走り壁から天井へ、天井から逆の壁にとローリングの機動で走り抜けた。
「なっ!?」
唐突な曲芸を実戦でやってのけ走り抜けていった仮面ライダーのような存在に、戦闘員たちは呆然とする。
一戦も覚悟していただけに、完全にスルーされたとなると拍子抜けだ。
それは指揮官だった改造人間も同じであったようで、少しの間呆然とした後、すぐさま部下に命令を下す。
「なんなんだ、あれは……。いや、車両を準備しろ! それと、記録映像は!」
その言葉に戦闘員たちが泡を食って追跡用のバイクと武装車両を準備する中、改造人間の元に先ほど通り抜けて行った仮面ライダーもどきの画像が送られてくる。
手元の端末に映し出された黒いボディと赤い複眼、そして黄色のブーツと手袋。見覚えのある姿がそこには映っていた。
「これは支部長子飼いのライダーもどきか? 脱走? いや、しかし位置情報は常時送ってきている!? いや、どうなっているんだ!?」
そんなショッカーの混乱をよそに、サイクロンヘルは走り続ける。
森の小道を抜け、街に続く林道にその姿を現す。
「サイクロンヘル、イカレ女の位置はわかるか? って、人を経由するなよ」
アインロールドの問いかけに、サイクロンヘルは瞬時に各種データを揃え、女が乗っている車両の位置を割り出す。
製造の古いにせサイクロン号やHELには現在の回線に潜る能力は無い。だがアインロールドの強化戦闘服にはアクセスできる機能が備わっており、そちらを経由したのだ。
多少の苦情を相棒となったサイクロンヘルに呟きつつも、アインロールドは瞬時に経路を決定する。
「だいぶ遅れたが、十分間に合う距離だ。行くぞ!」
日の光を反射し煌めく純白のバイクが爆走する。
森を抜け、町を抜け、高速道路が見えてくるとアインロールドは手元のレバーを操作する。
サイクロンヘルの六連マフラーが音を立てて形状が変化し、ロケットブースターへと姿を変える。
「行くぞ!」
サイクロンヘルは炎を吐き宙を舞い、そのまま高架に飛び乗ると何事も無かったかのように進み続ける。
程なくして、アインロールドの真紅の複眼が奪われた子供たちを乗せた、偽装トラックとそれを先導する黒塗りのボックスカーを捉える。
だが、その瞬間仮面の下の彼の顔が歪む。
「人数が足りない……いや、一人だけ前の車に乗せられているのか!?」
イカレ女こと姉ヶ崎峰子が、かえって早々実験をしようと考え一人だけ別に分けていたのだが、流石のアインロールドもそんな事情までは分からない。
子供たちが1台の車にまとめられているのなら、あの偽装トラックを強引に奪い取る手も出来た。なにせあのトラックはショッカーも利用している軍事車両だ。多少の衝撃を与えても仲の人間は無事である。
だが、2台に分けられているとなると放っ氏が違ってくる。2台とも止めなければ全員助ける事は出来ない。
まったく面倒な。内心で悪態をつきつつ、ショッカーが利用している周波数を使い警告を発した。
『路肩に停まれ。止まらない場合は実力行使を行う』
そのメッセージは当然だが前方を走る姉ヶ崎が乗る車に通じる。
後方をの様子を映し出すモニターには、サイクロン号を駆る赤い複眼の改造人間の姿が克明に映し出されていた。
「まさか、仮面ライダー!?」
その映像を見た護衛の改造人間たちに緊張が走る。当然だ、組織に対する忠誠心の薄い者で構成された姉ヶ崎ラボでも、仮面ライダーがショッカー最大の宿敵である事は常識だ。
改造人間が緊迫する中、目の前の子供の改造プランを考える事を中断させられた姉ヶ崎が途端に不機嫌な表情を浮かべる。
気まぐれな主の変化に部下たちが一瞬だけ焦るが、幸い当たり散らす事も無く、接近してきている物が何かを思いつく。
「あー、あれは仮面ライダーじゃありませんよー。暴力馬鹿ご自慢の最新型改造人間ですよぉ」
「あれが噂の!?」
「そそ。地下にいた暴力馬鹿のところのおチビちゃんが作ったって聞いていますけど、単純で面白みのない改造人間ですよねぇ」
一時的な能力ブーストと学習能力、そして高スペック、それだけだ。
人類からの超越を、究極の怪人を目指す彼女にとってはあまり面白い改造人間では無かった。
とはいえ、暴力馬鹿が認める戦闘能力だけは高い。このままついてこられては面倒だ。
「悪いけど足止めをお願いしますね。ああ、」
そう言うと、彼女は二人の改造人間を指名する。
当初は仮面ライダーかと浮足立っていた部下たちだったが、あれが日本支部の秘蔵っ子だと知り混乱から立ち直っていた。
いや、それどころか足止めに指定された二人に嫉妬の視線を向けるぐらいだ。
「倒してしまっても構いませんか?」
「倒しちゃっても良いけど、その時はサンプルに頭ぐらいは回収してきてくださいねぇ。ご自慢の兵器を目の前で叩き割るのも楽しそうですし」
「ははは、木っ端みじんにしてしまうかもしれませんが」
「姉ヶ崎博士の実力を、日本支部の愚か者に思い知らせてやりましょう」
姉ヶ崎は再生ショッカー本部のヨロイ元帥直属の科学者であり、日本にいても日本支部とは指揮命令系統は違う。
そして、現在彼女の部下となる複合改造人間は、そんな日本支部で冷や飯を食っていた連中だ。
自分たちを冷遇していた暴力馬鹿を見返せるまたとない機会である。この機会を好機と思わない野心がない人間は、ショッカーにはいない。
二人の怪人はボックスカーのサンルーフを開けると座った姿勢のまま跳躍するなどと言った器用な真似をする。
耳が伸び、口が耳元まで裂け、腕とわき腹の間に被膜が生まれ、あるいは巨大な鋏が頭部から生え、全身が甲虫の鎧を纏っていく。
コウモリ男とアリジゴクの改造人間、地獄サンダー。ショッカーの改造人間である。
「行くぞ、最初から全力で」
「おうよ!」
高速道路に降り立った改造人間の変化はそれでは終わらない。
二人は懐から黒いガイアメモリーを取り出すと、口を大きく開けそのメモリーを飲み込む!
『ARMS!』
『ZONE!』
ガイアメモリを飲み込んだ二体の改造人間の姿が変わる。
コウモリ男の肩からは大砲が生え、地獄サンダーの胸に逆さピラミッドのレリーフが出現した。
これこそが姉ヶ崎峰子が研究する複合怪人であった。
アームズコウモリ男は大地を蹴り飛びあがると、遥か天高くに飛び上がる。
そしてそこで滞空すると、高速で迫りくるアインロールドに照準を合わせた。
「これでもくらえ! 仮面ライダーもどき!」
轟音を立てて、大砲の砲身が火を噴く。
着弾地点で巨大な爆発が起こり、アスファルトの道路がめくれ上がる。
周辺を走っていた自動車が次々に急ブレーキをかける中、サイクロンヘルを駆るアインロールドだけは止まらない。
「迷惑な。他の利用者の事も考えろ」
今のところ周囲に被害は無いが、あんな雑な攻撃では流れ弾がどこに飛んでいくかわからない。
あのような馬鹿者は、速攻で倒さなければならないと小さく呟く。
至近弾を物ともせず速度を上げてくるアインロールドを見て、アームズコウモリ男は焦らない。
それどころかほくそ笑み、準備を整えた相方に向かい合図を送る。
「いまだ! ゾーン地獄サンダー!」
「応よ!」
その瞬間、アインロールドの周囲の空間が歪む。
ゾーンメモリーの力は空間を歪め、指定した座標に相手を送る事にある。そして、改造人間である地獄サンダーは巨大なアリ地獄を作り出す力があった。
その二つの力が合わさったとき、回避不可能な巨大アリジゴクが出現する。
それまでアインロールドがいた場所より後方の高速道路が音を立てて陥没し、巨大な蟻地獄ができる。その真上にアインロールドの姿が唐突に表れる。
「この程度、俺が脱出できないとでも?」
とはいえ、所詮は巨大とはいえ蟻地獄。初見ならまだしも、同じショッカーの改造人間の技だ。アインロールドのパワーやサイクロンヘルの走破性をもってすれば脱出できない訳では無い。
そう、アインロールドたちだけなら短時間の足止めにしかならない。事実、アインロールドはサイクロンヘルから降りる事無く砂の坂を上り、蟻地獄の外に奪取をしてしまう。
もっとも、その程度はゾーン地獄サンダーも想定内だ。ゾーンの力を連続で使い、蟻地獄に拘束する。それが目論見であった。
だが、彼らにとって予想外の行動にアインロールドは出る。
それは、彼らが気にも留めていなかった、一般人によってもたらされた。
「いやあああ、お父さん!」
「あなたぁ!」
「晶子! 千夏!」
そう、運が悪かった乗用車の一台が、彼らが作った蟻地獄に飲み込まれたのだ。
同乗していた男が妻と娘を何とか車外に出し蟻地獄の外に逃がしたが、そこで力尽き自身は車と共に蟻地獄に飲まれていく最中であった。
「くっ! いい加減にしろ!」
一瞬のためらいも無かった。
それに気が付いた瞬間、アインロールドはサイクロンヘルから飛び降りると蟻地獄の中に戻っていく。
逃げ遅れた男性を救助しようというのだ!
「頭の中身まで仮面ライダーかよ!」
「丁度いい! くたばれ!」
アームズコウモリ男の両肩の大砲が立て続けに火を吐く。
無数の砲弾が蟻地獄の中にいたアインロールドに向かい伸びて行く。
このままではアインロールドは愚か、蟻地獄に飲み込まれた男や、縁にいる男の家族まで無事では済まないだろう。
そんなピンチに、アインロールドは焦らない。
それどころか迫りくる砲弾を詰まら無さそうに見ながら小さく発動のキーワードをつぶやく。
「ブースト」
次の瞬間、蟻地獄を中心に巨大な爆発が起こり巨大な爆炎が立ち上った。
高速道路は完全に破壊され、アスファルトは燃え炎に包まれる。
「やったか!」
「我らの力に掛かれば、日本支部など!」
上空と地上で、アームズコウモリ男とゾーン地獄サンダーが勝利の余韻に酔いしれる。
あの爆発で無事なはずがない。
だが、彼らのそんな勝利の余韻は、背後から聞こえてきた冷たい声によってあっさりと霧散する。
「死体も確かめずに勝ち誇るのは三流のやる事だ。いや、三流に失礼だったな、論外ども」
そう、そこには超高速機動により蟻地獄を脱出し、更には一家3人を瞬く間に避難させたアインロールドの姿があった。
腰を抜かしへたり込む父親、何が起きたのか分からず左右に首を振る母親、そして自分たちを助けてくれた仮面ライダーを憧れの目で見る少女を背に、無傷のアインロールドは健在であった。
「すまなかった、巻き込んで」
アインロールドは振り向く事無く、背後の親子に謝罪の言葉を告げる。
車を弁償できるわけでは無いが、これはもう気分の問題だ。
出し抜かれた屈辱や、戦闘中だというのに親子を気に掛けるアインロールドの態度に改造人間たちは激昂する。
「ぬかせぇ!」
「そいつらがいるなら、これを躱す事は出来まい!」
怒りを込めチェ大砲に力を籠めるアームズコウモリ男に、アインロールドは冷たく言い放つ。
「コウモリ男タイプの最大の特徴は、ソナーによる高い索敵性能と変幻自在な飛行能力にある」
「なにっ!?」
「その二つを捨てる大砲の搭載など、阿呆か貴様ら」
唐突な侮辱に怒りよりも先に驚きを覚え一瞬だけだが砲撃のタイミングが遅れる。
それが命取りであった。
気を取り直して砲撃を放とうとするより先に、アームズコウモリ男の背後から何かが迫り、唐突にぶつかってくる。
それは、男性救出の際に乗り捨てたアインロールドの相棒、サイクロンヘルだった。
乗り捨てられたサイクロンヘルはそのまま走行を続け、アインロールドが注意を引いた隙に背後に回り込み飛び上がったのだ。
「ぐわああああっ!」
「こ、コウモリ男!?」
その衝撃に墜落するコウモリ男と、相方が落とされたことに動揺するゾーン地獄サンダー。
そして、その隙を見逃すアインロールドではない。
瞬時にゾーン地獄サンダーの目の前に出現すると、拳に赤いエネルギーを集中させる。
「そして、アリジゴクに転移させる。一見有効そうな戦術だが、一般人相手ならまだしも俺たち相手には手間の割に効果が薄い。無駄だ!」
そのままアッパー気味にゾーン地獄サンダーの腹を打ち抜き、打ち上げる。
空中で落ちてくるアームズコウモリ男とゾーン地獄サンダーが衝突し
「ぐえええええ!」
「うぎゃあああ!」
空中でぶつかり団子状になり落ちてくる二体の改造人間を確認し、アインロールドは仮面の下で一瞬だけ目をつぶる。
大丈夫だ。瞼の下に完璧に焼き付いている。
人として完全に壊れる直前、自分を解き放ってくれた人の姿は消えていない。今の自分なら、出来る。
「ライダージャンプ!」
アインロールドは天に向かって跳躍する。
その身は落ちてくる改造人間たちを超え、天頂にまで達する。
火の光を反射し煌めく複眼は、倒すべき邪悪を見据え逃さない。
右足を突き出し、力を籠める。
脇を締め、腕を固定し体勢を固める。
重力を超える速度で、彼の身は二体の怪人に向かい降下していく。
そう、その技の名は。
「ライダアアアアアアアアッキイイイイイイイイイイイック!」
赤いエネルギーの軌跡を残し、アインロールドの放ったキックは二体の怪人の胴体をあっさりと貫く。
「ば、ばかな……」
「我らが、こうもあっさり……」
機械部品をまき散らし、驚愕の表情を浮かべたままの改造人間たちは、その表情を崩す事無く爆発を起こし炎の中で砕け消滅した。
そして、大地に着陸したアインロールドは改造人間たちの完全な消滅を確認すると、傍に控えていたサイクロンヘルに跨る。
だいぶ時間を使った。急いで追跡し、子供たちを奪還しなければならなかった。
長くなってしまったので、一回分割。
ショッカー本部「日本支部どうしよっかなぁ……。そや、暗闇師範なら強いし慕っている弟子も仰山いるし、そう簡単に死なないやろ。組織運営は未知数だけど、副官付ければ行ける行ける」
現実
副官たち「盆暗将軍が盆暗すぎて不正利益がおいしいです」
盆暗将軍「上手くいかない……うぼらぁ!(トチ狂っている)」