ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
「なんなんだよ! なんなんだよ、これは!」
映像が途切れたタイミングで激高し、拳が傷つくのも構わず岩壁を叩いたのは城戸であった。
まだ13歳、中学生の遊びたい盛りの子供が誘拐、改造され、殺戮に手を染めただけでもこの世の地獄だというのに、それを改造した女科学者の正体が兄弟を人質に取られたやせ細り今にも折れそうな年端も行かない子供だというのだ。
ショッカーが生み出した被害者が更なる被害者を作る惨たらしい図式は、相手がいない状況でも城戸真司を激怒させるには十分な出来事であった。
そんな城戸と対照的なのは翔太郎だ。普段は喜怒哀楽がすぐ出るタイプだが、この時ばかりは画面を凝視しながら呟くように自分の知る事を話す。
「この姉ヶ崎峰子という女の事は知っている」
「会った事があるのか?」
「ああ、依頼主としてうちに来た。俺たちとショッカーを食い合わせて漁夫の利を狙ってきたんだが……」
この調査とは直接関係ない話なので数か月前に起きた事件の顛末をかいつまんで話す。危険な物質を手に入れた事を残党ショッカーに察知されたため、偽の依頼を出して追手をWに倒させようとした。
その危険物質を回収するために派遣されてきたショッカーのエージェントがアインロールドだ。
あの時は目の前のショッカーライダーが噂の黒衣の処刑人だとは気が付かなかったが、このような因縁があるなら出てきてもおかしくはない。
「そんな事があったのか」
翔太郎の話を聞き終えた筑波が、ため息交じりに黒衣の処刑人の事を思い出す。
黒衣の処刑人は現在のショッカーでは正体不明の司令官の下、事実上の支配的な立場にいると言われているビックネームだ。だが姿を知る者はおらず、かろうじてライダータイプの怪人である事のみが伝わっている。
ニューヨークや京都で目撃され事件解決に尽力した1号や2号によく似た黒いライダーと黒衣の処刑人が同一人物であった事も驚きだが、その正体が弱冠16歳の少年であるとは思いもしなかった。
「でも、この経緯で何でショッカーに?」
筑波の疑問はこの場にいた人間の共通の疑問だろう。
筑波とて黒衣の処刑人の事は知っている。3年前に数々の暗殺を行った黒衣の処刑人だが、その後しばらく噂を聞かなくなった。彼が再び頭角を現すのは再生ショッカーが壊滅後であり、残党指導者の一人となってからだ。
黒衣の処刑人が指導者になってからのショッカーは表立った大きな作戦は避ける傾向にある。護衛や兵器等の不正取引を積極的に行いながら、社会に対する浸透を推し進めていた。直接的な危険度は低いが、その分計画の露見が少なく非常に厄介な組織というのが現在のショッカーだだろう。
ディケイドは彼をショッカーから追放したと言っているが、ショッカーの施設を利用しており組織と完全に切れている訳でも無いだろう。
ショッカーライダーを名乗り続けるのはいつか討たれる事を考えての自虐かもしれないが、それはそれとして現在の彼が自分の意思で行動している事は明白だ。
そして少なくとも私利私欲で悪事を働く人間では無い。
彼がショッカーに囚われたまま、あるいは残っただけの理由があるのだ。
「おしゃべりは良い。続きを見るぞ」
唯一会話に参加をしていなかった風見がパソコンを操作しながら会話を打ち切らせる。残されたデータはあと一つ。
3人は会話を打ち切りモニターに集中する。
そこには、アインロールドの始まりの物語の顛末が映し出されていた。
「なんなのよ! なんなのよあいつ!」
自らのラボ、実際はヨロイ一族が用意した山中要塞の一つに逃げ込んだ姉ヶ崎峰子はデスクを叩きながらヒステリックに叫ぶ。
それなりの自信作であった新世代の改造人間、アームズコウモリ男とゾーン地獄サンダーをあっさりと下したアインロールドは当然のように追撃を再開した。幸い地形破壊能力の大きいあの二体は足止めにはなったようで、デストロン戦闘員のバイク部隊を追加の足止めに使う事により要塞に逃げ込むだけの時間は稼げた。
とはいえ、当然だが倒すには至っていない。後数分もすればあのライダーもどきはこの要塞に到達するだろう。
「反乱よ! こんなの反乱よ! 本部への応援はどうなっているの!」
「はい、現在要請を行っておりますが、本部は現在大幹部と各国支部長の会議が行われており……」
再生ショッカーの要人がほぼ一堂に会している重要会議の真っ最中だ。当然だが極東のさほど重要ではない施設からの応援要請に対しては動きが鈍い。
そういうタイミングであるから、スクールの子供たちを誘拐しに行った事などをあっさり忘れ、姉ヶ崎は大声で部下を怒鳴りつける。
「どんな要請しているのよ! ライダータイプの改造人間が反乱を起こしたってちゃんと伝えたの!? あのメスガキに唆されて警備が手薄になる会議のタイミングを狙って裏切ったってちゃんと言った!?」
「そ、それは……」
「ちゃんと頭を使いなさい!」
事実とは相当剥離した主張ではあるが、姉ヶ崎の頭の中ではそう言う事になっていた。
ちょっと実験に使う資材を受け取りに行っただけで、ここまでされる謂れは自分には無い。
相手のトラウマや功名心、正義感を刺激し、さらに他者を貶め自身に有利な状況を作り出す。姉ヶ崎峰子が好んで、あるいは無自覚に行う手法であり、これまで彼女はこの手段で利益を得て危機を乗り越えて来た。
特にショッカーのような暴力が支配する独裁的なピラミッド形式の組織では、粛清を恐れ失態を隠す傾向が強い。また、後で過ちだと気が付いても自身の立場を守る為に事実を修正される事は無く、他部署の出来事に関わろうという物好きもいない。
結果的に、応援が来てあのショッカーライダーを取り押さえ、そのどさくさで破壊をしてしまえば終わりだ。事の経緯が調べられる事は無い。
調べられたとしても、あの政治力の無い小娘相手ならどうとでもできる自信がある。反逆者の濡れ衣を着せて処刑してしまえばいい。なにせ、本当にライダータイプはショッカーの施設を攻撃しているのだ、いくらでもやりようはある。
たしかに姉ヶ崎が作り出したストーリーはショッカーのトラウマを刺激するには十分な内容であった。
だが、生え抜きのショッカーではない姉ヶ崎はショッカーが抱えるライダータイプに対するトラウマを完全に理解できていない。
彼女が上げた応援要請は、予想外な者たちの元まで報告が行く騒動に発展していった。
「ほほう、日本支部でライダータイプの反乱とな?」
その報告を受け取った髪に白い物が混じり始めた壮年の精悍な男はワイングラスを机の上に置きながらニヤリと笑う。
彼の脳裏に浮かんだのは、積年の宿敵である男の姿だ。日本支部が懲りずにライダータイプを作っていた話は聞き及んでいたが、まさか再びライダータイプから裏切り者が出るとは世の中とは面白い。
ちょうどつまらない会議に退屈していたところだ。新たなライダーの顔を見に行くのも面白いだろう。
そんな事を考えていた壮年の男、地獄大使であったが、報告を持ってきた者の表情が緊迫では無く困惑である事に気が付き訝しげに思う。
それは同席していた白いスーツの美丈夫も同じだったようで、彼もまたワイングラスを置きながら報告者にこう尋ねた。
「何か気になる事でも?」
美丈夫の名はアポロガイスト。地獄大使と並び組織の重鎮の立場にある。
強大な権力と圧倒的な力を持つ3人を前に、秘書官は緊張をしながら言葉を選び報告を続けた。
「はい、それが……。日本支部の記録と大きく食い違っておりまして」
「食い違い?」
「日本支部からの報告と映像記録を総合的に判断すると、そのライダータイプは基地内で暴行を行った一団を追いかけて行っただけだと」
「どういう事だ?」
姉ヶ崎博士からの要請では『科学者に唆されたライダータイプがショッカーを裏切った』だ。
だが、日本支部からの報告や警備データを照会すると、『立ち入り禁止区画に勝手に入り込む姉ヶ崎博士一団』が『それを咎めた警備員を殺害、さらに止めに来たウェスト博士に暴行を働き子供たちを連れ去った』場面がしっかりと残されている。さらに、『負傷し自らのラボに帰るウェスト博士』が『メンテナンス中だったライダータイプに命令を下している』場面まで映像として残っている有様だ。
さらに言えば問題のライダータイプは出撃時に一切の損害を与えておらず、ライダータイプからの連絡を受け救護班が向かったところ、応急処置を施し寝かされていたウェスト博士は腕部と肋骨の骨を折る重傷であり医務室に搬送されている。
裏切ったライダータイプが暴れているのではなく、乱暴狼藉を働いた姉ケ崎一派を追いかけて飛び出していったとしか考えられない状況であった。
秘書官からの報告を受けた地獄大使やアポロガイストは、二人にしては珍しくぽかんと呆れを隠し切れない表情を浮かべる。
ああ、大幹部でもこんな表情をするのか。そんな事を考えていた秘書官に、地獄大使とアポロガイストから会話を引き継ぎもう一人の同席者がこう尋ねた。
「その報告を行った者は?」
「はい、その……。記録付きで報告を上げたのは問題のライダータイプのようです」
出撃前に基地内の監視映像を添えて報告という形で上に上げたのは、そのライダータイプであった。
姉ヶ崎が自身に都合の良いよう歪めた情報をばらまくより先に、証拠付きで事の経緯を報告に上げたのだ。
無論、そのライダータイプは応援を求めた訳では無い。むしろ逆だ。正規の行動である事をアピールして救出の邪魔となる余計な横やりが入る事を避けるためであり、子供たちの救出を終えた後は負傷で動かせなかったウェスト博士の奪還を考えて裏切りでは無い事を強調したのだ。
「で、そのライダータイプの名前は?」
「はっ、アインロールドと言うそうです」
「なるほどな……」
その名を聞いた瞬間、その人物は大きく姿を変える。
人の身に擬態していた側が真横に引き裂かれ、その内から白く巨大な髑髏が姿を現す。更に手足は蜘蛛の脚へと変わり、胴体は紫色の円柱状の肉の塊へと変わる。
再生ブラックサタン。かつて同じ名前の悪の秘密結社を率いていた怪物。その再生体が3人目の正体であった。
「ならばそのアインロールドとやらを取り押さえに行こう」
「ブラックサタン、貴様がか?」
予想外の申し出に同席をしていた地獄大使が驚きの声を上げる。
組織内では同列の大幹部であるブラックサタンではあるが、猜疑心と警戒心が強くめったに人前には出ない。此度は大首領からの呼び出しを受けて特別に大会議へ参加したようだが、普段の会議には傀儡の代役を立てており自らが出る事はほぼ無かった。
そんなブラックサタンが自ら外に出ようというのだ。驚くなというのが無理という話だ。
「表に出たい気分の時もある。貴様らはどうする? 来るならば連れて行くが?」
強力な超能力を持つブラックサタンならば、2人を連れて日本まで瞬間移動をする事など朝飯前だろう。
別にここでブラックサタンが自分たちを害するような馬鹿な真似をするとは考えていない。だが、同時に普段のブラックサタンならまず行わない申し出に二人はブラックサタンの考えを推し量る。
日本支部の暗闇将軍はショッカー閥の改造人間であり、ブラックサタンとのつながりはほぼ無い。ブラックサタンが態々動くのはライダータイプ、アインロールドが目的だろう。
ブラックサタンが気になるほどのライダータイプ。こうなるとがぜん興味がわく。
「そうだな。せっかくの申し出、無下には出来まい」
「本当に反乱なら事が事だ。ご一緒しましょう」
姉ヶ崎がショッカーが抱えるトラウマを軽く見ていたように、アインロールドもまた大幹部たちのライダーという存在に対する執着を見誤っていた。
かくして、アインロールドの与り知らぬところで事件は収束に向かい動き出した。
予定話数の倍になってしまった……。