ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
長野県警本部は異様な空気に包まれていた。
無理もない。かつて起きた未確認生命体事件において真っ先に矢面に立ったのがこの長野県警だ。蜘蛛の力を持つグロンギに襲撃され、多数の警察官が死傷する大惨事を経験している。
あれから短く無い年月が経ち、世相も様変わりした。だが、当時を知る職員もまだ多くが現役であり、再び出現したグロンギに対し警戒とリベンジに署内はざわついていた。
県警のG3機動隊が即応体制のまま待機する中、警視庁より派遣されてきた一条と県警の捜査員である夏目は、民間協力者であるユウスケを伴いデータベースと格闘していた。
彼らが当たっていたのは、当然かつての殺人遊戯サイト事件の加害者および関係者についてだ。
「あの、俺もここにいて良いんですか?」
慌ただしく出入りする刑事たちを横目で見ながら、ユウスケは不安そうに一条と夏目に尋ねる。
割と物おじしない質の上に、警察署内はそれなりに慣れているユウスケではあるが、流石にまだ出会ってそれほど時間が経っていない自分がこうも堂々と中で待機していていいのかと考える程度に常識と分別はある。
良くも悪くも常識的な反応を示すユウスケを五代と比べながら、一条は笑顔でこう答えた。
「気にしなくても大丈夫だ、別に珍しい事では無いしな」
「は、はぁ……」
自分も丸くなったな、などと考えつつ一条は手元の冷めたコーヒーを一口口に含む。
そして、表情に疲れをにじませながらデータベースから引っ張ってきた情報を口頭でまとめた。
「しかし参ったな。終わった事件、しかもだいぶ昔の話だから気にしていなかったが……」
「そうですね、これは明らかに不自然です」
一条の呟きを、夏目が引き継ぐ。
まず逮捕者の中で刑が確定していた者。その内極刑まで言い渡された者も少なくない。
超常事件に隠れ二桁を軽く超える殺人が行われていたのだ。当然と言えば当然であり、すでに刑が執行された者も当然いる。
だが、この国の制度では執行が速やかに行われるとは限らない。
「すでに刑が執行済みの者は除くとして、上級会員の内2人が自殺、1人が病死……。それぞれ別の刑務所での出来事だが……」
「すべてここ半年以内です。さらに行方不明人も……」
犯人が高齢者であっても不自然な集中だ。さらに言えば、すでに刑期を終え出所した者や逮捕に至らなかった者の中に行方不明となっている者が相当数いた。
元々がネットを介した集まりであり、犯人たちの所在は全国でばらばらだ。また、この件に関わった者の多くはサイトを閲覧していただけであっても周囲からは腫物扱いとなっており、距離を取られ社会との繋がりが希薄となっていた。
その為、本件を一つの事件として捉える事が出来た者はいなかったのだ。
「完全に後手に回ったな」
ユウスケから伝えられた『人間がグロンギになる』可能性を加味すれば、行方不明になった者たちがグロンギになっている可能性は低くない。
そして、それらの者はすべて殺人サイトを閲覧し、少なく無い金額を殺人だと分かっていて支払っている。
最悪は、現代に新たに作り出された新グロンギ族によるゲゲルが始まるかもしれない。
いや、山道の凶行を考えれば、もう始まっていたと考えるべきだ。少数が活動するはぐれグロンギどころではない殺戮劇が刻一刻と迫っている。
一条の脳裏に、過去にグロンギが行った様々な凶行の記憶が昨日の事のように思い浮かぶ。あれが再び起こる。しかもグロンギではない、グロンギになった現代人が殺戮を行うのだ。
恐らくはグロンギ以上に現代に適応した殺戮を行う。どれだけの被害が出るか、考えただけで背筋に冷たい物が流れる。
今後の方針を考えこむ一条の深刻な表情を見て、見かねた夏目がこう提案した。
「あの、一回休憩を挟みませんか? 緊急の事態なのはわかりますが、その……」
夏目の提案に、一条は悪い方向にばかり進む思考を一回中断する。
どうも最近は悪い方ばかりに考える癖がついている気がすると、少しだけ自嘲しこう返した。
「確かにな。一回何か腹に入れるか」
深刻な事態が進んでいるのは確かだが、ここで自分たちが煮詰まっても何も解決しない。
それに動いているのは自分たちだけではない。県警本部にも警視庁にも状況は伝わっている。
「それなら俺がコンビニで何か買って……」
「いや、俺も出るよ。外の空気が吸いたいしね」
結局の所、3人で表に出る事にする。
ただの気分転換であった。だが、結果的にではあるがこの判断を契機に事件は新たな展開を見せる事になる。
その男は県警の真向かいで一人スマホをいじっていた。
身長が180を超え体格が良く、夏だというのに目深にフードを被っている。少々目立つ容姿と恰好ではあるが、だからと言って取り立てて注意を惹く程の奇異な姿をしているわけでもない。
立ち止まり壁に背を預けスマホをいじる人間など、町ではいくらでもいる。
だが、その男は携帯を見ているようで見ていなかった。
男の視線は警察署の出入り口を見つめている。
やがて、警察署から3人の人物が出てくる。
それが視界に入った瞬間、フードの下に見える男の口が愉悦に歪んだ。
表に出て夏の暑い空気と日差しに目を細めた一条だったが、不意に車道の向こういる人物に目が行く。
体格のいい男性だ。その男がふとこちらを見た気がした。
そしてそれは気のせいではない。男はこちらを見ると、真っ直ぐにこちらに向かってくる。間にある車道などお構いなしだ。
唐突に飛び出してきた男に驚き、走っていた車が急ブレ―キをかける。
表に出て夏の暑い空気と日差しに目を細めた一条だったが、不意に車道の向こうにいる人物に目が行く。
速度を出し過ぎていた訳では無い。だが、あまりにも歩みにためらいもない男に驚き、一瞬反応が遅れただけだ。
急ブレーキが間に合わず、乗用車が男に向かって突っ込んで行く。
運転席の男性は悲惨な光景と自身の身に起こるこれからの出来事に恐怖し、思わず目を瞑る。
衝突音が鳴り響く。
多くの者が惨劇を予測し目を背ける中、視線をそらさなかった一条の目に映ったのはひしゃげる車のフロントと、ぶつかった車など意に解せずこちらに進んでくる男の姿であった。
尋常な者ではない。
すぐさまそれを予測し、一条は懐の拳銃に手を伸ばす。
そして一条をかばうよう夏目が前に出て、さらに夏目の前にユウスケが出る。
「夏目さん、あんたは止めておくんだ。一条さんから話は聞いている」
「で、ですが」
「いいからいいから。この世界のクウガがいない今は、クウガは俺がやるからさ」
口調こそ軽いが、ユウスケの表情は真剣そのものだ。
どこか五代に通じ、どこか五代と違う。そんな異世界のクウガの様子に頼もしさと寂しさを感じながら、一条もまた真剣な表情で近づいてくる男を見る。
やがて、男は自分たちのすぐ側、声が届く距離に近づくとフードを外しながら愉悦に歪んだ素顔を晒す。
「見つけたぜ、一条!」
体格の良さにふさわしい、20代程度の厳つい顔の男だ。髪を短く刈り込んだその姿に、一条は何とか思いだそうと考える。
見覚えの無い顔だ。
いや、記憶にはあるし、誰だかわかる。だが、自分が知っている顔と違う。
「お前、町場か!?」
明らかに年齢が合わない男に、一条が驚愕の声を上げる。
そして、相手の名前を知っている事にユウスケが一条に問いかける。
「一条さん、知っているのか?」
「君も先ほど見ただろう。殺人遊戯事件、その時俺が捕まえた町場だ! 一番歳を食っていた」
「あっ!? え、でも確かこいつ……」
そう、確かに先ほどまで見ていた殺人遊戯サイト事件の加害者の一人だ。
だが、まず年齢が合わない。逮捕時にはすでに40歳を過ぎていた町場だが、目の前にいるこの男はどう見ても20代だ。
さらに言えば、そもそもこの場にいるのがおかしい。
「獄中死をしたんじゃないのか!?」
刑務所内にて脳卒中を発症、死亡がこの男の最後の記録であった。医師の死亡確認も済んでおり、間違いなく死んでいる。
死んだ者が生き返る事は珍しくないこの業界ではあるが、それはあくまで尋常ではない存在の者の話だ。普通の人間が生き返ってくるなどと起こる事ではない。
つまり、この男はすでに尋常の存在では無いという事なのだろう。
身構える3人の目の前で、町場の姿が変わる。
まず口が大きく裂け、肌が黒ずんだ濃い褐色の物へと変わっていく。
筋肉質だった身体は更に筋肉が増量され、頭から鋭い角が生えてくる。
「ああ、地獄に行ったぜ。でもな、一条! てめーに復讐するために戻ってきたんだよ!」
そう叫んだ男の姿は、すでに変貌を遂げていた。2mを遥かに超える巨躯を持つ、角の生えたサイの化け物。
グロンギの姿に変わった男は、化け物でもわかる歪んだ笑みを一条に向ける。
「ずっと、ずっと刑務所で考えていたんだぜ。てめーをこの腕で絞め殺す日の事をよ!」
元レスリングの強化選手。その後プロレスに転向。だが、プロレスラーになってからは特に芽が出る事も無く、暴力沙汰を起こし団体から解雇される。
解雇後も体を鍛え続けた男がたどり着いたのが、殺人遊戯サイトだ。
暴力性を満足させ、殺人を肯定する狂ったサイトは男を熱狂させた。また、隠蔽の手段の手引きやそのサポーターが揃っていた事も、あまり頭の良くなかった町場にはありがたかった。
彼が殺人遊戯サイトで、その腕力で女子供を絞め殺す上級会員となるには、そう時間が掛からなかった。
それを逮捕したのが、一条だ。
殺人遊戯サイト発覚後、警察は懸命な捜査をしたものの、マニュアル化していた隠蔽手段には手を焼く事になる。
中々犯人や構成員が見つからない中、僅かな記録をもとに足で現場を巡り、町場の存在を割り出したのだ。
「どうやら刑務所でも、地獄の閻魔様を相手にしても性根は変わらなかったようだな」
「ぬかせぇ!」
嫌悪と怒りを見せ、怯えなど一欠けらも無い一条を前に町場が怒りの声を上げ突進してくる。
だが、その雑な動きに対応したのは、当然この男だ。
「そうはさせない! 変身!」
腰に出現したアークルに力を籠める。
小野寺ユウスケの身体が変わる。深紅の胸甲と黒いスーツが彼の身を包み、赤い複眼と金色の角が頭部を覆う。
仮面ライダークウガに変身を遂げたユウスケは、雄叫びを上げながらサイのグロンギとなった町場に向かい駆け出す。
超重量級のグロンギと、クウガの拳が激突した。
ビルの窓を震わす轟音が周囲に響き、クウガとグロンギ、双方の足元の地面が耐えきれぬ衝撃に砕ける。
無論、双方がそれで終わる訳では無い。
グロンギの剛腕が音を立ててクウガの頭の横を通り過ぎ、クウガの素早いアッパーがグロンギの表皮を焦がす。こうなると、もう足を止めての殴り合いだ。
当たる拳もあれば当たらぬ拳もある。風切り音と鈍い打撃音が響き続ける中、この乱打戦を制したのはクウガであった。
当然だ。一見すればのんびりとした好青年に見えるユウスケだが、ディケイドと共に幾多の世界を渡り戦い続けて来た仮面ライダーだ。
その実力はこの世界の仮面ライダーたちと比べても勝るとも劣らない。如何に怪力を誇ろうとも、にわかグロンギが正面から打倒できるほど柔ではない。
クウガの拳が頭を打ち抜き、グロンギはよろめきながら後退を余儀なくされる。
「てめぇ! チビ野郎が!」
何とか踏みとどまったグロンギは汚い罵声を口にする。
だが、クウガはグロンギの罵倒など意にも介さず追撃の拳を叩き込む。数々の戦いを繰り広げてきたクウガの拳は重く鋭い。強固な表皮を持つサイのグロンギと言えども、重いダメージが蓄積していく。
「いい加減にしやがれ!」
「なっ!」
そう吐き捨てた瞬間、サイのグロンギの頭部の角が強く光を放つ。
同種のグロンギには存在しなかった、このグロンギ特有の特殊能力は殺傷力こそ無いが格闘戦においては回避が難しい有用な能力だ。
構えを解く程うろたえはしないが、それでも一瞬の目のくらみでクウガの動きが鈍る。
その隙に後方に下がったサイのグロンギは腰を落とすと、その角でクウガを貫くべく突進を開始した。
「くたばれ!」
串刺しを回避するべく、クウガがグロンギの角を掴む。
だが、重量差ゆえにその勢いまでは殺せない。角を掴んだ姿勢のまま、地面に跡を残しながら後方に押された。
このままでは串刺しにならないまでも弾き飛ばされる。
そう、普通なら。
だが、この場所は警察署の、県警本部の前であった。
つまり、彼らがすぐに駆け付ける事の出来る場所であったのだ。
「目標、未確認生命体22号亜種! 撃て!」
本部前に展開したのは、県警のG3機動隊だ。当然だ、警察署の目前で大立ち回りをすれば彼らがすぐにやってくる。
憎き一条を殺し、さっさと逃げれば良い。警察に追いすがられても今の自分なら返り討ちに出来る。ゲゲルの意図だなんだと言われてはいたが、やってしまえばこちらのものだ。
得た力に酔い、短絡的な行動に出た町場は、その身に弾丸の報いを受ける事となる。
量産型G3の集団が構えた対未確認生命体用拳銃GM-01スコーピオンが一斉に火を噴く。
場所とクウガの位置故にあえてこのハンドガンを使用してはいたが、密集状態で放たれたその弾丸は正確にグロンギの肉体を削っていく。
2mを大きく超える巨大な体躯が仇となり、クウガに誤射される事も無い。
グロンギの背中にいくつもの穴が開き、穴から一斉に血が抜き出す。
「ぐがががが!? て、てめぇら!」
防御力の高いサイのグロンギだけに、それだけで致命傷になる事は無い。幸い、表皮と筋肉で止まり奥底にまで弾丸がめり込むことも無い。
だが、このまま背中を撃たれ続ける事はまずい。
そう考えたグロンギはクウガを振り払いG3に向き直ろうとして……。
「小野寺君! これを使うんだ!」
グロンギの注意がクウガから離れた一瞬の隙をつき、警備用の警杖を投げ込んだのはもちろん一条だ。
宙を回転しながら、格闘用の杖が回転しクウガの手の中に納まる。
「ありがとうございます! はぁっ!」
クウガの姿が変わる。
赤い胸甲は白銀の地に紫の縁取りが施された荘厳な鎧に、赤い複眼は紫の目に。そして手に持った木製の杖は金色の柄を持つ大剣、タイタンソードに。
攻撃と防御に優れた姿へと変貌したクウガは、剣を力強く振るう。
真っ先に狙ったのは、目障りだった額の角だ。
甲高い金属音が警察署前に響きわたり、グロンギの額の角が宙を舞う。
そう、タイタンソードの一振りで、グロンギの最大の武器はあっさりと斬り飛ばされたのだ。
「お、俺の角がぁ!?」
頭部に受けた衝撃と、目に映る信じがたい攻撃にグロンギがうろたえ頭を手で押さえる。
そして、その隙を見逃すG3機動隊ではない。
高周波振動ブレードであるGS-03デストロイヤーを持った隊員が二人、グロンギに向かい突貫する。
二人はすさまじい速度でグロンギの傍に駆け寄ると、左右から手に持った剣でグロンギを切りつける。
「ぐわぁぁぁぁ!?」
タフ自慢のグロンギも、この攻撃はたまらない。
十字に切り裂かれた傷に苦しみ、完全な無防備状態となる。
そして、度重なる攻撃でずたずたになった表皮を貫くのは、タイタンフォームとなったクウガにはたやすい事であった。
「とどめだ!」
タイタンソードがグロンギの胴体を貫く。
刀身を通して封印エネルギーが注ぎ込まれ、グロンギの肉体を駆け巡る。その力は腹の魔石にも届き、ついにはその闇の殻の維持が不可能となる。
正規のグロンギなら、ここで爆発して果てる筈であった。
だが、このグロンギは少々訳が違った。
強固な皮膚も、膨れ上がった筋肉も見る見るうちにしぼんでいく。
人の身に戻った? 誰もがそう思ったが、変化はそこでは終わらなかった。
肌色で血色が良く張りのあった皮膚が黒ずみ萎れていく。
張りつめていた筋肉が力を失い、ボトリと地面に落ちる。
その下にあった骨にすらひびが入り、砕けていく。
「こ、これは? お、おでのからばぁぁぁぁぁ」
そう、グロンギとなった町場は人間に戻り、さらには死体へと戻っているのだ。
余りにも凄惨な崩壊に気の弱い者が目を背ける中、ついには限界を迎えた町場の肉体は爆散し、腐り始めていた肉体事この世から消滅をした。
それが自らの命を捧げ、グロンギとなった男の最期であった。
「何だったの、あれ……」
「俺の世界で黒い霧に飲まれグロンギにされた人は、多分一度死んでいた……こいつも同じだった?」
従来のグロンギとは違う凄惨極まりない死に様に、小野寺と夏目は呆然と呟きを漏らす。
しかし、同じ光景を見ていた一条だけは違った。
背後にあるグロンギとは違う悪意を見抜き、そして小さく呟く。
「ふざけるな……。警察と現代社会を舐めるなよ」
そこにいたのは、幾多の事件を追い犯罪者を追い詰めて来た、刑事という名の狩人であった。
「あーあ。森中と町場まで死んだか。やっぱり強いね、仮面ライダー。二人とも能力だけで言えば大当たりだったのに」
老人の工房にやってきた青年は、持ち込んだグロンギと仮面ライダーの戦いの映像を見て面白がる。
解き放った二体の新造グロンギは、それぞれ別のライダーに倒され全滅した。手駒が減ったというのに、青年の面白がる態度は一切変わりがない。
一方、同じ映像を見ていた老人は戦いが終わるとすぐさま興味を失った
「こんなものじゃろう。初めから資格が無かったというだけじゃ」
愉悦の為に無駄に犠牲者をなぶりにいった女も、考えなしに復讐に走った男も論外だ。
ゲゲルを執り行う資格の無い愚か者であった。ただそれだけだ。
老人はテーブルに置いていたモニターのリモコンを手に取り画面を消す。
「お主の言う通りたしかに優れた能力が発現したが、ゲゲルを理解できぬ愚か者ではな」
能力的には満足はいかなかったが、まだ真面目に未熟なりのゲゲルを勤しんでいた山道はマシであった。
もう少しあちらに注力しておくべきであったと、老人は少しだけ後悔する。
「能力と人格が一致しないのは仕方が無いけど、中級会員だった森中はともかく町場まで警察署に突っ込むとは思わなかったよ」
見ているだけで行動を起こさなかった森中はともかく、自ら殺しに手を染めていた町場が短絡的な行動に出たのは予想外だ。
なまじ殺人遊戯サイト時代は隠蔽サポートを充実させていたのが仇となったか。
そう肩をすくめる青年に、老人は辛辣な評価を下した。
「甘やかしすぎじゃて」
「手厳しいね。とはいえ、ただの人間じゃできる事に限界があったからさ」
「甘やかしすぎて、コソ泥が紛れ込んで見つかったのじゃろ」
「事実陳列はひどいよ」
サイトを長生きさせる為の手段でもあったのだが、確かに末路を考えれば甘やかしすぎであった事も事実だったのかもしれない。
一応は倫理観の箍が外れている使えそうな人間のピックアップという最低限の目的は果たしたが、出来ればもう少し人を集めたかったのも事実だ。
中々匙加減は難しいと、老人の辛辣で正しい評価に青年は苦笑いを隠さない。
とはいえ、いつまでも過去の失敗を気にしていても仕方がないと、意識を切り替えて老人に進捗を確認した。
「初期生3人は全滅か。第二期生はどう?」
「さてな。改造時にゲゲルの意義を刷り込んでみたが、グロンギの心を身につけるかどうかは起こしてみないと分からん。あとな、やはり闇の雫が足りん。このままでは再生どころか、新造すら中途半端に終わるぞ」
「あちゃー、あれうちの家宝なんだけどな。足りない?」
「足りん」
老人がテーブルに投げてよこした報告資料を見ながら、青年は天を仰ぐとソファから立ち上がる。
そのままとことこと歩くと、ガラス張りの一面の前に行き覗き込む。
ガラス一枚の向こう。そこは屋外ではなく地下の一室であった。そこに並ぶのは、チューブと機械が接続されたガラス張りのケースの列だ。
溶液が満たされたそのケースの中には、一つにつき一人の人間が収められていた。
いや、この表現は少し間違っている。
なぜなら、そのケースの中に収められている存在はもはや人間では無い。その身はすでに変貌が始まっており人ではありえない肌色をしており、人に存在しない器官が生え始めている者もいる始末だ。
「あー、確かにもう出がらしかな」
そんな中、青年が目を向けたのは変貌を遂げる元人間では無かった。
彼らが収められているケースのさらに奥にある巨大なカプセル、それを青年は見ていた。
中に浮かぶのは、肘から切り落とされた干からびた腕であった。
元がどのような姿なのかはわからない。だが、鋭い爪が生えている所を見ると、人間の腕では無かったのだろう。
カプセルに納められた腕からは、絶え間なく何か黒い雫が滴り落ち、それがチューブを経て新造グロンギとなる元人間に注ぎ込まれている。
「ここしばらく抽出量が目に見えて落ちておる。もはや枯れるのも時間の問題だ」
新造グロンギ。この老人と青年が作り上げている、新たなグロンギ族。それが彼等であった。
殺人遊戯に参加した者たちで、グロンギに転生を望む者。それがあのケースの中で眠る者たちの正体だ。
殺人に手を染め刑務所で服役する者、あるいは逮捕を免れ市井に紛れ悶々とした日々を過ごす者。やはりあの輝ける日々を懐かしむ者は少なくなかった。
そんな彼らにグロンギ化という新たな栄光を約束したのが、この青年と老人であった。
だが、彼らが栄光の日々を取り戻すためには、闇の雫と彼らが名付けた物質が必要不可欠であった。
「やっぱり源泉を探さなきゃだめか。じっちゃん、付き合ってくれる?」
そう言って青年が見たのは、壁に飾られた彼の家に伝わる家宝の巻物、その写しだ。
剣を持つ赤い目をした仮面の男が、獣人や鬼と言った魔物を調伏する姿が描かれている。あの干からびた腕とともに、彼の家に伝わる一品であった。
古代においてリントの戦士が封じたという魔物。それこそが闇の雫の源泉。
魔石が手に入らない現代において、闇の雫は人をグロンギにするための重要な物質だ。
何としても、源泉を手に入れなければならない。
「仕方あるまい」
老人もため息交じりに了承する。
自らの目的完遂の為には、闇の雫の源泉が必要なのは、老人も同じであった。
なお、グロンギの模倣犯罪は小説版仮面ライダークウガにて、あったことが示唆されております(白目
あと、五代さんと入り直行動を共にしたショッカーのエージェントは、きっとカマキリの改造人間(ぇ