ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
一度倒した相手だから、次は楽に倒せるとは限らない。
この業界では当たり前の話だ。勝負は時の運などといった精神論ではなく、この業界の奴はどいつもこいつも格上殺しの一つや二つは持っているのだ。油断をすれば負け、死につながるのがこの業界の鉄則ではある。
「くっ! また力が増して!」
ン・ガミオ・ゼダの剛腕をブロックしたものの、そのまま後方に弾き飛ばされたライジングアルティメットクウガが、地面に跡を残し後退しながら毒づく。
闇の共鳴により力を増しているン・ガミオ・ゼダはパワーやタフネスばかりではなく、明らかに技量が増している。
ライジングアルティメットクウガの拳を受け流し、その上でカウンターを放つ。先ほど俺と戦っていた時にはあのような動きは無かった。
「でやあああ!」
態勢を立て直したライジングアルティメットクウガが大地を蹴った。
全身に稲光をたなびかせ、今までより一段ギアを上げたライジングアルティメットクウガが右の拳を振り上げン・ガミオ・ゼダに迫る。
受け流しは無理だ。そう判断したのか、ン・ガミオ・ゼダもまた左の剛腕を振り上げ迎撃の体勢を取った。
響き渡る、鋼をぶつけあったかのような轟音。
並の改造人間やライダーであれば吹き飛ばされ、粉微塵になっていてもおかしく無い衝撃が双方の頭部に襲い掛かる。
だが、二人の究極は吹き飛ぶことなどない。わずかに地面をへこませその場に踏みとどまると、逆の拳を振るう。
原始的な足を止めた肉弾戦。それはかつて五代さんとン・ダグバ・ゼバの決戦を彷彿させるものであった。
だが、違う点がある。
このまま戦い続ければ、闇の共鳴で力を増し続けるン・ガミオ・ゼダが勝つという点だ。
そして、力を増しているというのは、アナザーアルティメットクウガもまた同じであった。
ガミオと戦う為には俺とクウガが邪魔であると判断したのだろう。奴の赤い双眸が俺とクウガに狙いを定める。
「いいなぁ! この闘争! 仮面ライダーである君たちは、こんな気持ちだったのか!」
そして、ノンタイムで解き放たれた闇の奔流は、先ほどの一撃よりはるかに幅が広く威力も高い。
「誰がライダーだ、節穴め!」
「そんな事言っている場合じゃないだろう!」
不幸中の幸いは、アナザーアルティメットクウガの素体である岡見綾仁が戦い慣れていた訳では無い事だろう。
俺たちでもまともに食らえば無事では済まない威力だが、溜めの必要な闇の奔流ならば回避する事はそう難しくも無い。
闇の流れを見極め攻撃を避けると、アナザーアルティメットクウガに肉薄した。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
「ライダーキック!」
封印エネルギーの乗ったクウガのキックと、赤いエネルギーを乗せた俺のキックがアナザーアルティメットクウガの胸に突き刺さる。
だが、そのあまりにも硬く分厚い甲殻を前に、キックの衝撃は元よりぶつかったエネルギーは奴の肉体の内側には届かない。
それどころか、体内で増幅された闇を無造作に解き放ち俺たち二人を吹き飛ばす。
「うわっ!」
体勢を崩し吹き飛ぶ俺に、予想以上の速度で動いたアナザーアルティメットクウガが腕を振り上げ追撃の姿勢を取る。
この状態で回避する事は難しい!?
「くらえ!」
日の光を受け鈍く輝く鋭い鍵爪が目前に迫る。
くそっ!?
「危ない! これを!」
咄嗟に動いたのはクウガだ。
俺と同じように弾き飛ばされていたはずだが、紫の姿となったクウガは車の破片をタイタンソードに変えてこちらに投擲する。
飛んで来た剣を掴むと盾にして鉤爪の刃を受け止めたが、この場は足場のない空中だ。
その身が引き裂かれる事こそ回避は出来たが、勢いを止める事は不可能であった。
俺はそのまま大地に叩きつけられると、二度三度地面をバウンドし、そこでようやく体勢を立て直す。
強化戦闘服の装甲が一部剥がれ落ち、複眼にひびが入る。
「ぐふぁ!」
血反吐を吐きながら、俺は剣を杖に何とか立ち上がる。
それと同時に剣も消え、クウガも赤い姿へと戻った。
まぁ、無理もない。
クウガの四つの姿で、あの怪物と一番相性が良いのが赤い姿だ。青いドラゴンフォームでは火力は足りず、強固な装甲を持つ紫のタイタンフォームでも奴の攻撃は凌げない。
短期決戦型である緑のペガサスフォームは論外だ。結局赤いマイティフォームが一番バランスが良い。
とはいえ……。
「まだ、やれるか?」
「問題ない。旧式の改造人間どもと一緒にするな」
憎まれ口を叩きつつも、俺は内心で歯噛みする。
攻略方法など最初から分かっているし、手段も十分に確保できているのに、現状では手が出せない。
俺はチラリと岩陰に隠れるサイクロンヘルに視線を向ける。
奴の解析が済むか、俺たちが耐えきる事が出来なくなるかのチキンレースだ。
そんな中、闇の共鳴により力を増し続けるアルティメットクウガとン・ガミオ・ゼダはとてつもなく厄介であった。どれだけ耐えられるかの計算が出来ない。それどころか仮に解析が完了しても、その時俺たちに攻略できる体力が残っている保証もない。
奴らとの戦いを進めながら、俺の中で焦燥感はどんどんと大きくなっていった。
※※※※※
サイクロンヘルの高度なAIの中に生じた感情は焦りであった。
0.01秒毎に1兆9999万9999通りの予測演算を叩き出すサイクロンヘルではあるが、それは相手のデータを取得して初めてできる事だ。知らない事は演算ができない。
そして、目の前にいるアナザーアルティメットクウガはデータを取得しようにもできないのだ。
巨大なグロンギが常に纏っている闇の霧は観測機器を狂わし、ドローンで接近しようにも近づくだけで機器が狂い叩き落とされる。
これでは主であるアインロールドの予測の裏付けの確認どころか、肝心要となる奴の身体データの取得も出来ない。
考える。
まずバリア解除は出来ない。
バリアの外は二人の超グロンギが放つ濃密な闇の粒子が吹き荒れている。
体内にプロトアークルが眠っている夏目は多少抵抗が出来るかもしれないが、ただの人間に過ぎない一条がこの闇の粒子を吸い込めば命は無い。
彼らに何かがあれば、アインロールドは怒りはしないだろうが悲しむ。
ならば、バリアユニットを切り離し、一条と夏目を保護。接近してアナザーアルティメットクウガのデータを取得するか。
だが、その場合自分は無防備な状態であの巨大怪物に接近する危険を負う事になる。
サイクロンヘルはほんのわずかな時間を悩むが、すぐさま答えは出た。
自分の保護より、アインロールドの存在は優先される。彼に必要な情報を届けるのが自身の存在意義であり、彼の為だけに自分は存在する。
彼の心を守り、勝利をもたらす。その為の危険など大した問題ではない。
バリアユニットの切り離しのためのシークエンスに入る、その直前であった。
サイクロンヘルのコンソールパネルを一条の拳が叩く。
「おい、サイクロンヘルと言ったな。情報が取れていないんだろう」
既に数回も情報収集用ドローンの打ち上げをしており、情報収集が上手くいっていない事に刑事が気がついても不思議ではない。
とはいえ、それを指摘して何になるというのだ?
相手にする暇は無い。切り離しを続行しようとするサイクロンヘルであったが、一条の次の言葉にシークエンスを思わず停止する。
「端末を貸すんだ。ドローンを飛ばせないなら、こいつで直接接近する。」
そう言うと、一条は小野寺が乗り捨てたトライチェイサー2000を起こす。
確かにあの特殊バイクならこの闇の乱気流でも進めるだろう。だが、生身の人間では致死量の闇を吸い込みかねない。
極めて危険な行為だと分からないほど愚かでは無いだろう。だが、一条の視線に迷いは一欠けらも無かった。
「一条さん、それなら私が!」
そんな一条に、夏目が自分が行くと言う。
確かにその身にプロトタイプアークルを宿した夏目なら、この闇の毒にも抵抗力がある。安全を考えるのなら確かに夏目が偵察に行くべきだ。
だが、一条はそんな申し出を考える事も無く断る。
「駄目だ。夏目君はこの場に待機するんだ」
「ですが!」
「俺と違って君は君にしか出来ない事があるだろう。今は機会を窺うんだ」
ただの人間に過ぎない一条に出来る事は少ない。だが、出来る事はある。
ならばそれをこなすのみであり、他に出来る事のある夏目は温存するべきだ。
一条の意思は揺るがない。
ナンセンスだ。
どこまでもナンセンスだ。わずか数%の確率の上昇の為に、生身の人間が危険を冒すとは。
だが、そのナンセンスさこそが、地の底で朽ちる事を待つロボットが憧れた人の輝きであり、敬愛してやまない主と同じ人の姿であった。
サイクロンヘルのシートが開く。
その下から、普段少年が愛用している特殊なヘルメットがせり出してきた。
※※※※※
俺たち三人が二体の超グロンギに追い詰められている中、唐突に響き渡ったのはバイクのエンジン音だ。
視界の片隅に、サイクロンヘルが張ったバリアから飛び出るトライチェイサー2000と、それに搭乗する一条さんの姿が見える。
「一条さん!?」
「何をやっているんだ、あの人は!?」
辺り一帯にはアナザーアルティメットクウガとン・ガミオ・ゼダが放つ闇が立ち込めている。バリアで守られた状態ならともかく、生身の人間が浴びたらひとたまりも……と思ったら、あの人が被っているの俺が普段使いしているヘルメットじゃないか。
一見すると市販品だがあれもショッカーの特別製で、ガスマスクとしての機能も当然備わっている。サイクロンヘルのシートの下に仕舞ってるので、あいつがバリアの外に出る事を許したって事か?
俺の命令を無視する事は割と多いが、人命軽視をするような奴じゃない。いったい何を考えて!?
そんな事を考えていると、一条さんが操るトライチェイサー2000はアナザーアルティメットクウガに接近する。そして、一条さんは片腕でマシンを操りながら片手持ちのハンドカノンのような物を取り出して発砲した。
元が見上げるような巨体だ。一発、二発、面白いようにアナザーアルティメットクウガに命中する。
「そんな! そんな武器じゃ!?」
「いや!?」
違う! あれは武器じゃない!?
サイクロンヘルの搭載してあった貼り付け式のセンサーの射出装置!? 使った事は一度も無いが、装備の大半は切り離しが可能となっており、手持ちに出来る機能が備わっていたな、そういえば。
そうか、遠方やドローンからの観測ではデータが集まらないと判断して、一条さんに接近させ直接打ち込むことにしたのか!?
やらせるサイクロンヘルもサイクロンヘルだが、一条さんのあの度胸は何なんだよ!
「うっとおしい! ただの人間がこの戦いに混じるな!」
ぶつかるセンサー……いや、弾丸の感触は煩わしかったのかアナザーアルティメットクウガがその腕を一条さんに向かって振り下ろす。
ってやばい!?
「いかん!」
勝負どころの一つがここだ、出し惜しみをしている場合ではない。
俺は腰を大きく落とすと、右足に力を籠める。赤いエネルギーの輝きに、青白い稲光がまとわりつく。
半端な技では俺ごと叩き落とされるのが関の山、ならば!
「ライダー! 電光キック!」
天高く跳躍すると、奴の腕を目掛け蹴りの姿勢のまま急降下する。俺が現状使える技の中では最高火力のキックだ。
電撃を纏った俺と、アナザーアルティメットクウガの巨大な腕がぶつかり合う。闇の奔流と雷を纏った俺が空中で拮抗する下を、トライチェイサー2000に跨った一条さんが駆け抜けていく。
「きさまぁ!」
キックのエネルギーが尽きた俺を弾き飛ばしたアナザーアルティメットクウガは、センサーを打ち込みながらバイクで駆け抜ける一条さんめがけ闇の奔流を解き放つ。
ライダーすらも容易に吹き飛ばすエネルギーの奔流が生身の刑事に襲い掛かる。
「一条さん、急いで!」
だが、その間に入り込む影が一つ。
いつの間にか青い姿に替わり、ゴウラムの背に乗り空を飛ぶクウガだ。ドラゴンロッドの先端に封印エネルギーを集中させ、闇の奔流の前に立ちふさがる。
輝くロッドの先端と闇の奔流がぶつかり合い、闇の奔流が裂けていく。
ほんの数秒のぶつかり合いの末に、クウガとゴウラムははるか後方に叩き落される。
クウガが稼いだその数秒で、一条さんが操るマシンは闇の奔流の効果範囲を抜け出した。
「ごぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そんな一条さんに迫る影が一つ。
戦場に迷い込んだ動く物体に反応した、心無きン・ガミオ・ゼダだ。
ライジングアルティメットクウガを力任せに弾き飛ばしたン・ガミオ・ゼダは大地を蹴ると、超加速に等しい速度で一条さんに迫る。
雷光と剛腕を振りかざし突撃するン・ガミオ・ゼダを迎え撃ったのは、たった今弾き飛ばされた筈のライジングアルティメットクウガであった。
瞬時に体勢を立て直すと、超加速を超える速度でン・ガミオ・ゼダの前に回り込んだのだ。
黒い拳と赤銅色の拳がぶつかり合う。
ライジングアルティメットクウガの金色の肩当が砕け飛び散り、ン・ガミオ・ゼダの金色の装飾が弾け飛ぶ。
カウンターとも呼べない相打ちの末に、互いの身が大きく弾け飛ぶ。
二人のクウガと俺は、ほぼ同じ位置に転がり落ち、アナザーアルティメットクウガとン・ガミオ・ゼダも近い場所に足を並べる。
偶然だろう。グロンギと人類という陣営別に陣取る事になった俺たちの背後、サイクロンヘルの張ったバリアの中に、一条さんのバイクが滑り込む。
「サイクロンヘル! こいつを!」
倒れ込むようなドリフトの末、トライチェイサー2000は後方に転がっていき、岩にぶつかり半壊する。
そして、そこから飛び降りた一条さんは転がりながら被っていたヘルメットを脱ぎ捨てると、サイクロンヘルに向かって放り投げた。
俺が普段使っている黒いヘルメットは一見すればただの市販品だが、実際はショッカーで作成した特別製だ。防塵や防毒機能だけでなく、各種センサーも当然仕込まれている。
一条さんの数十秒の決死の接近に得られたデータ、そして撃ち込んだセンサー類からもたらされた資料をサイクロンヘルのAIが読み取っていく。
そして、その結果は当然俺にもたらされた。
なるほど……な。
「小野寺さん」
「なに?」
突然名前を呼ばれたライジングアルティメットクウガが、グロンギたちから視線をそらさずに反応する。
これからかなりの無茶を頼むことになるが、この場に居合わせた不運を呪ってもらう事にしよう。
「30秒……、いや、20秒で良いので、あのグロンギどもを抑えてください、特にガミオは俺に近づけさせないで」
「無茶を言うな。分かったよ」
俺の死んで来いというのに等しい言葉を、小野寺さんはあっさりと承諾する。
ほんと、仮面ライダーって奴はこれだから。
「一条さん、拳銃を五代さんに」
「えっ!? あ、いや、わかった」
俺は振り向く事なく、後方にいる一条さんに拳銃を五代さんに渡すよう指示を出す。
ショッカーライダーの偉そうな指示に一瞬だけ狼狽えた一条さんであったが、何をさせるつもりなのかはすぐに理解し、五代さんに拳銃を投げ渡す。
それを振り向く事なく腕を後ろに回し五代さんが受け取った事を確認し、俺はこう声を掛ける。
「五代さん、俺が何とかします。そうしたら、緑のクウガでデカブツを撃ち抜いてください」
「緑の? そういやペガサスフォームとかなんとか言ってたっけ?」
覚えているのか、というか今言う事か?
いや、まぁ、あれは俺のミスだけどさ。
「頼みます。撃ち込むところは、緑のクウガになれば自ずと分かります。決まれば俺たちの勝ちです」
細かい事は伝えられない。ン・ガミオ・ゼダはよくわからないが、アナザーアルティメットクウガは俺たちの小声の会話も聞こえているからだ。
実際、俺の言葉が聞こえていたアナザーアルティメットクウガは、山に響き渡る声でこう伝えて来た。
「何とかなるか! 大きく出たね、黒衣の処刑人!」
「ああ、何とかなるさ。貴様の闇に落ちた魂、ショッカーに捧げてもらうぞ!」
俺の啖呵が切っ掛けであった。
我慢が出来なくなったのか、ン・ガミオ・ゼダが真っ先に動いた。
両腕に蓄えた雷を、こちらに向かい解き放つ。
目も眩むばかりの閃光が迫る中、俺たちの前に立ったライジングアルティメットクウガの全身が突如燃え上がり、その炎が右腕に集中していく。
巨大な火球は瞬時に成長し、ン・ガミオ・ゼダが放った雷に向かい突き進む。
空中で巨大な爆発が起こる。残っていた草木も根こそぎ消し飛び、車やバイクの残骸も何処かへと飛んでいく。
巨大な爆煙を切り裂き、ライジングアルティメットクウガとン・ガミオ・ゼダが何度目かの激突を果たす。
お互いの拳が轟音を奏で突き進む。その拳が命中したのは、最後の力を振り絞ったライジングアルティメットクウガであった。
胸の中央にクウガの拳がめり込む。
そして彼の攻撃はそれだけでは終わらない。後先を考えない拳の連打の末に、ついにはン・ガミオ・ゼダを遥か後方に吹き飛ばす。
そんな激闘に誰もが視線を向ける中、俺は小さくキーワードを口にした。
「ブースト」
超高速の世界へ俺は突入する。
すべてが止まるその世界を駆け抜け、アナザーアルティメットクウガに迫る。
だが、究極の力を持つアナザーアルティメットクウガは、タキオン粒子が支配するこの時が止まった世界にも干渉を仕掛けてくる。
動けない筈の世界で、巨大な怪物はその剛腕を振るう。
「この程度の時止め! 効くと思うか!」
知ってはいたが、ほんと出鱈目だなアルティメットクウガの力って奴はよ!
4本の腕と鍵爪がバラバラの動きで俺に襲い掛かる。前方を囲む形で俺に襲い掛かってくる。
だが、そんな俺の目の前に入り込んでくるのは黒と金色の鋼の昆虫……ゴウラム!? でもなんで二体!?
いや、高速で飛翔し飛び込んできたゴウラムの一体はハサミで黒い手を咥え抑えるだけであったが、もう一体のゴウラムの動きは違った。
それは俺の目の前で回転しながらその姿を変える。その姿とはライジングアルティメットクウガ。そういや小野寺さんにはこれがあったか!
「させるか! 行くんだ、誠太郎!」
その身を盾にし、アナザーアルティメットクウガの四本の腕を受け止める。
まったく、何だってショッカーライダーの言葉を素直に信じるんだか。本当に感謝の言葉しかない。
「すまない! 助かる!」
失礼ではあったが、彼の背を足場にすると跳躍をする。
さらに、命のベルトから反重力エネルギーを取り出すと、あたりに漂う破片を足場に更なる加速を行う。
超高速に超機動を重ねた俺は、一気にアナザーアルティメットクウガの背中に取りついた。
「黒衣の処刑人!」
「一々人の名を呼ぶな!」
時は通常の流れを取り戻す。
そんな中、俺は一直線にアナザーアルティメットクウガの背中の一角を目指す。
その場所はすぐに見つかる。なにせ、一条さんとサイクロンヘルが集めてくれたデータだ。間違うはずもない。
一瞬だけ瞼を閉じ、ベルトから引き出したエネルギーを右腕に籠めた。
俺の意識に従い、手刀は青白く輝き始める。
先日おきたミラーワールドでの戦いで、俺はディケイドの変身した仮面ライダーBlackRXから、超兵器であるリボルケインを預かる事があった。
リボルケインそのものはミラーワールドから脱出すると消えてしまったのだが、その全てが消えた訳では無かった。
なんというか、俺の中のナノマシンがリボルケインを学習してしまったのだ。
無論、リボルケインは王の証であるキングストーンと、世紀王の肉体、何より南光太郎という正義の魂があって初めて意味をなす存在だ。
所詮俺はショッカーの邪悪な一兵卒に過ぎず、真なる仮面ライダーの武器を具現化できる道理などない。
だが、それでもあの武器はあまりにも超兵器すぎた。
ほんのわずかに学んだ、概要図程度のデータだけでも俺の操るエネルギー効率は上昇し、鍛え続けたチョップはあの力を模倣する事が出来るようになっていた。
そう、この技の模造品が俺の手刀に宿る事になったのだ!
「リボルクラッシュ!」
真似が出来るのは刹那の時。太陽のエネルギーを注ぎ込み相手を爆散させるなどと言った芸当は到底不可能だ。
それでも、青く輝くに至った右の手刀に貫けぬ物は無い。
俺はアナザーアルティメットクウガの巨大な背中に手刀を突き立てる。
熱したナイフがバターを貫くように、俺の腕は黒い甲殻を貫く。
だが、これで終わりではない。貫いた指の先に、固いものが触れる。
これだ!
俺はそれを掴むと、一気に引き抜こうとする。
だが、予想以上に強靭な巨怪の筋肉が絡みつきそれをさせまいと抵抗してくる。
「ぎぎぎぎぎざあああああまぁぁぁぁぁあ!」
苦痛なのだろう。アナザーアルティメットクウガは声にならない不気味な悲鳴を上げのたうち回る。
ライジングアルティメットクウガを掴んでいた腕の一本を離すと、生物ではありえない可動域の関節で、背中にいる俺を狙ってくる。
って、まずい! この体勢だと躱せない!?
迫りくる腕を前に、俺は身を固くし……。
腕が不可視の矢に撃ち抜かれ、弾き飛ばされる。
その射線の元を目で追うと、そこにいるのは緑色のクウガ!?
五代さん早い! ここで撃ったら……。
「夏目君!」
「実加ちゃん!?」
だが、それは俺の勘違いであった。
なぜなら、その緑のクウガは五代さんや小野寺さんのクウガに比べると金色の角がわずかに短い。さらに、ほんの少しだが小柄だ。
その緑のクウガは五代さんのクウガではない。夏目さんが変身したプロトタイプクウガであった。
ペガサスボウガンでアナザーアルティメットクウガの腕を撃ち抜いた夏目さんであったが、それが限界であった。
手に持った武器を取り落とすと、そのまま仰向けに倒れ変身が解けていく。
無理もない。緑のクウガは変身者にとっての負担が激しい。五代さんとて初めて変身した時は周囲の情報を無秩序に拾ってしまい、すぐに倒れたほどだ。
だが、彼女の献身的な一撃は、勝利の為の時間を稼いでいた。
俺は右腕に力を籠めると、一気に腕を引き抜く。
ブチブチという嫌な音が耳に届き、謎の体液が背中の傷から噴き出す。複眼を汚す体液など一切気にせず、魔石で作られた黒い剣を強引に引き抜く。
「がああああっああああああっああああああああああああっ!」
アナザーアルティメットクウガの悲鳴があたり一帯に響き渡る。
それはそうだろう。肉体と同化し闇の供給源であり奴の力の源の一つだった魔石の剣が引き抜かれ奪われたのだ。
奴が受けた苦痛は、想像が出来る物ではない。
それだけではない。暴れ回っていたン・ガミオ・ゼダまでも動きを止める。
闇の共鳴で力を増していたとはいえ、ロボット同然の存在と化していたのだ。
力の供給源が奪われた今、急速なエネルギーダウンにフリーズして当然であった。
そして、これで終わりではない。
五代さんのクウガの姿が変わる。
赤い瞳と鎧は緑色になり、手に持っていた拳銃が金色と緑色のボウガンに代わる。
感覚特化、射撃型のクウガペガサスフォームに変化したのだ。
クウガが静かにボウガンを引き絞る。
ボウガンに封印エネルギーが注ぎ込まれ、光り輝いていく。
「聞こえる……これは時計の針の音!? そこかっ!」
輝く空気の矢が空中をひた走る。
その光の軌跡は真っすぐにアナザーアルティメットクウガの胸を撃ち抜き、背中に貫通する。
その矢が通った道を一瞬だけ遅れて、背中から歪んだクウガの姿が描かれたアナザーウォッチが弾き出される。
「これで!」
アナザーアルティメットクウガから闇が噴き出し、その巨大な身が萎んでいく。
ライジングアルティメットクウガを拘束していた腕が消え、小野寺さんが地面に着陸する。巨大な背中が消滅していき、俺は剣を抱えたまま跳躍し地面に降り立つ。
巨大なアナザークウガの姿が解け、人間だったものが地面に倒れる。
残ったのは、ン・ガミオ・ゼダただ一体。
だが、最後のリボルクラッシュで力を使い果たした俺は元より、ペガサスフォームを使った五代さんも、ライジングアルティメットクウガとなった小野寺さんも力を使い果たし、白い姿のグローイングフォームへと戻っていた。
いけない、何とかエネルギーを回復させてガミオを倒さないと。
何とか立ち上がろうとする俺であったが、それよりも早く動いたのは一条さんであった。
彼は倒れた夏目さんの持つ拳銃を拾い上げると、銃を構える。
「お前たちだけに、背負わせはしない!」
そして、ン・ガミオ・ゼダに向かい発砲した。
一発、二発、三発。一条さんが放った全ての神経炸裂弾が吸い込まれる様に命中する。
本来のン・ガミオ・ゼダなら、この程度では倒れない。だが、片腕から無理に再生され、闇の共鳴により無理やり力を引き上げていたグロンギの王の残骸にそこまでの抵抗力は無かったのだろう。
数歩だけ後ろによろめくと、グロンギの王は仰向けに倒れ動かなくなった。
「大丈夫ですか、五代さん、小野寺さん、一条さん……」
フラフラ立ち上がり、声を掛ける俺と五代さんの視線が自然とぶつかる。
表情など分からないクウガの仮面。だけど、その時の五代さんは微笑んでいたと思う。
なぜなら、俺を見つめる五代さんは右手を肩口まで上げ、その親指を天に向け立てていたからだ。
Q.手刀がリボルケインってなんだよ!
A.山〇座「エクスカリバー!」
Q.クウガゴウラムを出すのは没にするって言ったじゃないですかぁ!
A.ごめん、やっぱり使いたかったんだ!
というわけで、長かったクウガ編も次回エピローグです。