ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話   作:さざみー

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第19話 episode・FOURZE 閑話・少・女・疾・走

「なに!? 今度は京都第7基地が仮面ライダーにより壊滅しただと!?」

 

 広大なホールに備え付けられた祭壇に、報告を受け取った男が上げた怒りの声が木霊する。

 奇妙な出で立ちの男だった。悪魔を思わせる螺旋くれた角が生えた金色の兜、髑髏と蛇が絡みあうレリーフの刻まれた黄金の鎧、腰に佩く長剣……。まるで古代の戦士を思わせる姿をした白い肌と青い隈取りの怪人物だ。

 男の名は魔神提督。現在のネオショッカーを率いる男。

 魔神提督はぎょろりと報告を持ってきたアリコマンドを睨みつけると、無言で報告を続けるように促す。

 

「はい。基地を守っていたサンマジンおよび30名の兵士は仮面ライダーの襲撃の一報の後に全員反応が途絶えました。どうやら全員討ち取られた模様。また、捕らえておいた奴隷も全員解放され、警察が保護したようです」

「死んだ者も奴隷もどうでも良い。あの基地に研究データは存在していないのだな」

「はい。現在の第7基地は奴隷の一時保管と、来たるべき京都制圧作戦に向けた集積場所としての機能しかありません!」

 

 部下からの報告に、魔神提督は安堵する。

 今回の作戦の肝は、奪った人造コズミックエナジークリスタルにある。宇宙由来の超エネルギー、コズミックエナジーを結晶化させた超物質なら、同じくB26暗黒星雲という宇宙の深淵からやってきたネオショッカー大首領を蘇らせる事が出来る。

 

「候補者の選定は進んでいるな?」

「はっ! すでに2名に絞られており、最終的なテストも本日終わる予定です」

 

 魔神提督は空となって久しい、かつてはネオショッカー大首領の鎮座していた祭壇を見つめほくそ笑む。

 

「くっくっく、いつまでも我らが後塵を拝すると思うなよ、バダン帝国……」

 

 魔神提督はスカイライダーとの戦いの末に敗れ、さらには大首領により粛清を受け死んだ過去がある。

 そんな死人を蘇らせたのがバダン帝国だ。奴らは事も有ろうか魔神提督を洗脳し、自分らの先兵として使おうとした。

 だが、その精神支配の枷は、もう無い。

 

「大首領が甦れば……あの圧倒的な力を儂が手に入れれば、仮面ライダーもバダンも恐れるに足りん……」

 

 そう、魔神提督はただネオショッカー大首領を蘇らせる気は無い。

 あの圧倒的な力を持つ巨大怪獣が仮面ライダーどもに敗れたのも、人類を見下す巨大怪獣ゆえの驕りと油断が原因だ。

 自分があの力を手に入れれば、自分を裏切った魔獣を支配できれば、自分こそがこの世界の頂点に立ち、無能な人類を消し去る事が出来る。

 

 だが、その前に仮面ライダーが出現したとは……。すでに第8、第7、第6の三つの基地が怪人を配置しておいたにもかかわらず潰されている。

 怪人は無能ではあったが、弱かったわけではない。それなのに、どの仮面ライダーが襲撃してきたかを報告する間もなく討たれてる事を考えると、相当な強者であることは間違いない。

 大首領を討った8人およびスーパー1に関しては海外に足止めをしているはずだが……。

 

「作戦決行を早める」

 

 ざわり。祭壇にいた者たちが騒めく。

 そのざわめきが収まるのを待って、魔神提督は宣言をする。

 

「大首領スイッチ適合者が判明し次第、大首領復活の京都制圧作戦を開始する。目的は京都に満ちるコズミックエナジー……そして、コズミックエナジー研究の第一人者、歌星賢吾の身柄よ!」

 

 人造コズミックエナジークリスタルの生成に成功した奴なら、大首領復活に必要なコズミックエナジーの精密操作も可能だ。

 念願の大首領復活がいよいよ実行に移される。その事実にネオショッカーの構成員たちの士気は上がり歓声が飛び交う。

 

 そんな熱狂の中、祭壇の陰より歩み出てきた人物が魔人提督に話しかける。

 

「大丈夫なのかい、早めても?」

 

 この場の支配者たる魔神提督に対して不遜な態度で話しかけてきたのは、赤い外套を被った鎧姿の女……いや、少女だ。

 彼女の名は焔のサウス。炎を操る女傭兵……という触れ込みだ。

 無論、この女の名乗りが嘘であり、何かの目的をもって接近してきた事を魔神提督は見抜いている。だが、自らにかけられていた枷を解いたのがこの少女であり、忌々しいが弱体化したネオショッカーの兵力不足を補うためにも今はこの小娘の力が必要であった。

 

「元々京都制圧の準備はすでに完了している。このまま仮面ライダーに各個撃破され作戦が破綻するよりは、作戦を早めた上で、戦力を集中させ仮面ライダーを迎撃する事が得策よ」

 

 ここまで仮面ライダーが補足されていない以上、次善の策を取るより他が無かった。

 その回答を聞いて、サウスは人を小ばかにしたかのような、薄ら笑いを浮かべる。

 

「あんな仮面ライダーに蹴散らされてばかりのザコな怪人しかいないのに上手くいくのかい?」

「旧日本支部の無能どもの力を不安がるのはわかる。だが、今回は儂も前線に立つ以上は、万に一つも失敗は無いわ」

 

 ネオショッカーも一度壊滅してからの時間が長い。かつてのような海外支部の有能な怪人を呼ぶこともかなわない。

 だが、それでも自分の力は健在なのだ。かつてスカイライダーに敗北をしたのは、ストロンガーとの二人掛だったからに他ならない。

 そして、あの時のライダーどもは全員海外にいる以上、負ける要素は無い。

 

「はいはい、上手くいくと良いねぇ。大首領には蘇ってもらわないと困るんだ。あたしは明日に備えてもう休むから、しっかり兵士に檄を飛ばしておいてくれよ」

 

 並みの怪人なら震え上がるほどの怒気を浴びても、少女の不遜な態度は揺るがない。

 ひらひらと手を振りながら去っていく小娘に不快感を感じながらも、その力は必要と魔神提督は怒気を収めた。

 

 

 

 天ノ川学園高等学校3年生、御堂暁美には兄が一人いる。

 

 スポーツ、学業とも優秀。文武両道を絵にかいたかのような人物で、陸上一辺倒な自分とは違う出来すぎた存在だ。

 そんな兄が京都の大学へ進学した理由はよく知らない。別に仲が悪いわけでも良いわけでもない平凡な普通の兄妹であり、本当にただ興味が無かっただけだ。

 当然だが大学で兄が何をしているのかも知らないし、興味も無い。

 兄の方も陸上一辺倒の妹には興味が無いだろう。最後に喋ったのは、兄が独り暮らしを始める直前に、家族そろって食事をした時だろうか……。

 

 そんな無い無い尽くしの兄妹関係だが、どうやら兄妹の情というものは少し残っていたらしい。

 

 修学旅行直前、母が京都の兄と連絡が取れないと愚痴っていたのを聞いた暁美は、丁度修学旅行は京都だから自由時間に寄って声をかけに行くか……などと考えたのだ。

 どうせ彼女でも出来て、母さんの事なんでどうでもよくなったんだろうなどと、呑気な事を考えていた。

 

 ちなみに、母にその旨を申し出た事によりお小遣いをゲットしたのだが……、後になって考えると、どう考えても大赤字だった。

 

 

「説明は聞いていたな? これから自由時間だけど、あまり羽目を外さない事。それと、危ない真似はしない事、帰りの時間は厳守と……」

「その辺にしておきましょうよ」

「いや、でも如月先生……」

 

 生活指導の担当である大杉忠太の長ったらしい説明にクラスメイトがうんざりし始めたころ、明日の打ち合わせで席を外していた担任の教師がやってくる。

 リーゼント頭に改造スーツ。さらには金ぴかベルトやドッグタグというなかなかパンチのきいた格好の教師の名は如月弦太朗。天高の名物教師の一人で、自称すべての生徒と友達になる男。

 実際にその底抜けに明るい性格と、それでいて人一倍の気遣いを見せる彼は男女問わず生徒の人気は高い。

 

「あー、でも確かに最近は何かと物騒だから気を付けるんだぞ。何かあったら連絡するんだぞ」

「はーい」

 

 先日東京でホテルが襲われるというテロ事件があったばかりだ。今回の修学旅行も、実はギリギリまで中止するかどうかが話し合われていたぐらいの大事件だ。

 副担任や弦太朗など大人が心配するのも無理がない事だ。

 

 とはいえ、元気が溢れかえっている高校生にそんな理屈は通用しない。人気者の先生の言葉と言えども半ば聞き流す形で生返事を返し、生徒たちは三三五々と京都の街に散っていった。

 

 

「見て、あれ!」

「あははっ!」

 

 暁美も当初は仲の良い友達と一緒に京都見物をやっていた。

 行く前は何で京都なんだ、ハワイが良いと愚痴っていたが、やはり実際に来てみるとテンションは上がるものだ。

 映画村や有名な寺社仏閣などをワイワイと巡っていた。

 

 だが、母からのミッションもこなさなければならない。

 一通り周り終えた彼女は、友人たちに一言断りを入れて兄の住む下宿に向かう。

 別れ際にブラコン呼ばわりされたが、んなわけあるかーとおちゃらけて返した。実際にブラコンでも何でもない、ただの家庭内アルバイトだ。

 

 兄の暮らすアパートは、特に特徴のないちょっと古いだけのアパートだ。

 部屋の場所は母から聞いている。階段をトントンと上がり兄の部屋に。チャイムを鳴らす。1回、2回、3回……。反応が無い。

 

「留守なのかな?」

 

 部屋の中に母から預かった手紙と荷物を置いていくか。仕方がないとこれまた預かっていた合鍵を取り出して扉を開ける。

 学生向けワンルームアパートの中は……荒れていた。

 

「え? 何これ?」

 

 本は床に散乱し、食器はことごとく割れている。

 椅子は倒れ、踏み砕かれており無残な姿をさらしている。

 とどめに、壁には大きな切り傷が。

 

「えっ? えっ? ええええっ!?」

 

 驚きの悲鳴を上げる。

 どう見ても、どう考えても尋常な様子ではない。仮に兄に彼女が出来ていたとしても、部屋がこんなふうに荒れるとは思えない。特殊プレイすぎる。

 

「ってか、こんな部屋が荒れるなんてどんな彼女だ!?」

 

 混乱のあまり内心のボケを大声でツッコむ。

 いや、そんなことをしている場合じゃない、まずは、えっと、えっと……。

 

「そ、そうだ。お母さんに電話をしなきゃ!」

 

 ここで警察ではなく母に電話をしようと考えるあたり、彼女の混乱が良くわかる。

 慣れ親しんだ操作で母に電話をかける。そう待たずして電話は繋がる。

 

「あ、お母さん、大変なの?」

「ちょっと、暁美。大変ってどうしたの?」

「お兄ちゃんの部屋がすごく散らかっていて……」

「え? 信夫ったら部屋を片付けていないの? もう、あの子ったら」

 

 違う、言いたいのはこういう事じゃなくて……。

 

「そうじゃなくて、お皿が割れていて、壁も傷ついていて……」

「ちょ、ちょっと、暁美? まずは落ち着きなさい」

 

 娘の様子が尋常ではない。電話越しだがそのことを察した母はまずは落ち着かせようと考える。

 

「はい、まずは深呼吸。大きく吸って」

 

 すぅ……。

 

「大きく吐いて」

 

 はぁ……。

 

「はい、もう一回」

 

 そうやって深呼吸を続けると、少し落ち着く。

 伝えなきゃいけない事を頭で整理して……。

 

「えっとね、お母さん……」

 

 考えが少しまとまり、顔を上げ窓の外を見る。

 そこには黒い触角付きのマスクに、黒いタイツの男と思しき人間がいた。

 ぎょろりとした目と視線が合う。

 

「え? え? え? え?」

「ちょっと、暁美。どうしたのよ、暁美!?」

 

 母が何か言っているが、その言葉が頭に入ってこない。

 何だあれは? その考えだけで脳みそが一杯になる。

 

 そして、黒ずくめの男は窓ガラスを突き破って部屋に侵入してきた。

 暁美の悲鳴が周囲に木霊する。

 

 

 それからしばらくの事を、暁美はよく覚えていない。

 何か黒づくめを突き飛ばしたような記憶はあるのだが、自分が無事だというのはそういう事なのだろう。

 玄関で靴を脱ぐ前でよかった。裸足で走らなきゃいけなかったよ。

 

 路地の裏の暗がりにしゃがんだ暁美は、泣きながらそんなことを考える。

 

 どこをどう走ったかなんて覚えていない。

 ここがどこかなんて、暁美にはわからない。

 

 携帯は無い。黒ずくめに驚いて落としてしまった。

 鞄も無い。やっぱりこっちも逃げるときに落としてしまった。

 誰かに連絡を取る手段は無い。

 

 もう日は落ちている。真っ暗だ。

 

 そして闇の向こうからあの怪人たちは追ってきている。

 どこに逃げれば、警察を探す? ダメだ、アレは警察でも駄目だ。

 そもそも黒づくめに追われているなんてどう説明する? 笑われるのがオチだ……。

 

 どれだけ時間が経っただろうか。

 長かったようにも、短かったようにも思う。

 暗がりの向こうから、小走りの足音が響く。

 

「ひっ!」

 

 最初に想像したのはあの黒ずくめの男たち。

 近づいてくる足音に、身がすくむ。

 恐怖でもう走れない。捕まって、自分はどうなるのだ。

 

 だが、そんな彼女の最悪の予想とは裏腹に、闇から現れたのは揺れるリーゼント頭の熱血教師。

 

「暁美、大丈夫か!?」

「げ、弦ちゃん先生……」

 

 見慣れた頼もしい顔に、気が抜ける。

 強張っていた身体が弛緩する。

 

「大丈夫そうだな、暁美! 立てるか」

「う、うん」

 

 一方、暁美の様子を確認した弦太朗も安堵をしたのか、太ももに手を当て呼吸を整えると、彼女の腕を取って無理やり立たせる。

 暁美がのぞき込んだ弦太朗の顔は、厳しい表情だった。

 

 その事に、暁美は再び不安を覚える。

 

「弦ちゃん先生は……どうして……ここ……が?」

 

 そもそもの話、どうやって弦太朗は自分がここにいるとわかった?

 自分ですら何処をどう走ったかすら分からないのに?

 

 その事実に気が付き、暁美は後ずさろうとするものの、弦太朗に腕を握られていて離れる事などできない。

 喉から悲鳴が漏れそうになる。

 だが、それよりも弦太朗の行動は早かった。

 

 空いている手に握りしめていた自分のスマートフォンを暁美に握らせる。

 

「ちょっとそういうのが得意な奴がいてな。それよりも暁美、いいか、これを持ってあっちの道を真っ直ぐ逃げるんだ。そうしたら表通りに出る。そうしたら電話で助けを呼ぶんだ。4000でロックが外れる。俺のダチなら誰に連絡をしてもなんとかしてくれる」

「えっ? ええっ?」

 

 あまりにも一方的に話す弦太朗の言葉が咀嚼できない。

 だが、彼女の混乱などお構いなしに事態は勝手に動く。

 

「くわっはっは、大首領復活のための素体候補関係者が来ないかと住まいを監視していたら、まさか貴様が現れるとはな、如月弦太朗!」

 

 別の暗がりから出てきたのは黒ずくめの一団と、エイに手足を付けたかのような化け物であった。

 そのあまりにも悍ましい姿に、暁美の意識が遠のきそうになる。

 だが、そんな彼女の意識を繋ぎとめたのは、頼れる男の大きな背中。

 

 彼女を庇うため、弦太朗は一歩前に出て身構える。

 

「何処の怪人か知らないが、よくも俺の生徒を追い掛け回してくれたな!」

 

 怒りを込めて怪人を睨む弦太朗だが、エイの怪人はまるで動じた様子はない。それどころか嘲りの笑い声を上げる。

 あの怪人たちは追い掛け回していた暁美ではなく、弦太朗に意識が向いているようだ。

 

「仮面ライダーの力を失ったお前に何が出来る! お前ら、やれぇ!」

「ヒャイーッ!」

 

 武器を構えた黒ずくめが一斉に弦太朗に襲い掛かる。

 黒づくめたちを堂に入った動作でいなし、あるいは叩きのめしながら弦太朗が必死の形相で叫ぶ。

 

「逃げるんだ、暁美! そして助けを呼ぶんだ!」

 

 その必死な言葉に、暁美の身体が勝手に反応する。

 弦太朗が指さした路地に飛び込み、全力で駆け抜けた。

 そして……。

 

「うわっ!」

「きゃあっ!」

 

 不運続きだったこの日の最後で、最高の幸運を引き寄せる事になる。




 昭和怪人は一々説明してくれる親切仕様。
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