ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
「アインロールドからの定期連絡は?」
「いまだありません。現地で諜報を行っているシノビバチとの接触も無いようです」
「そう……」
残存ショッカーの指令執務室にて部屋の主である少女からの問いかけに、秘書の女は極力事務的に答える。
京都にて単独任務にあたっているアインロールドからの最後の連絡は昨晩の事だ。
ネオショッカーの計画が相当進んでいる事を掴んだ為、予定を変更して夜を徹しての基地襲撃を開始する。それが最後の連絡であった。
ミカが直接報告を受けていれば止めていただろう、無茶な強行軍を開始した後に連絡を絶った。
静かに報告を聞くミカを見ながら、秘書の女はいつもの事だと考える。
蛮勇と勇気を履き違えた者が人知れず消えていくのは、この業界ではよくある話だ。
「わかったわ……。アインロールドから連絡が無い事はしばらく伏せておいて」
「了解しました」
現在の残存ショッカーの最高戦力の死は、組織に甚大なダメージを与える。
個人武力に乏しいミカをお飾りとして、実権を握ろうとする者達による暗闘が始まるのは必至だ。
「ごめん、ちょっと一人にして」
「わかりました。何か御用がありましたらお呼びを」
ミカの言葉に、忠実な秘書は一礼すると執務室を後にする。
秘書が退出した事を確認したミカは、書類を机に投げると小さく呟いた。
「大丈夫。お兄ちゃんは死んでいない……」
自らの胸を押さえながら、ミカは一人呟く。
彼にも伝えていない秘密が一つあった。
アインロールドとミカの命は彼を主として繋がっており、彼が死ねばミカも息を引き取るようになっている。
瀕死の重傷を負った彼を再改造した際に行った処置の名残であり、あえて元に戻さなかった仕組みだ。
「ひどく醜い顔……」
鏡の向こうでこちらを見つめる女の顔を見ながら、ミカは吐き捨てる。
自己満足ですらない。
自分一人で地獄にいるのが怖くて、彼を地獄から逃がさないように縋り付き続けているのだ。これを醜いと言わずして何と言おう。
結局、自分も地獄の悪鬼。ショッカーから生まれた子供なのだと思い知らされる。
地獄の底にいた自分たちに温もりをくれた彼に、報いるどころかエゴで縛りつける事しか考えていない。
あの時、自分たちの世話役、あるいは生贄として誘拐したのが彼でなければ。
あの時、命じられるまま彼を改造していなければ。
あの時、彼と共に逃げる事が叶っていたら……。
考えるだけ無駄な、後悔。
そしてフラッシュバックする、血の海に沈みながら、獣の如く慟哭する彼の姿。
「帰ってきて、お兄ちゃん……。会いたいよ……」
少女のつぶやきは、誰の耳にも届かない。
歌星賢吾の自宅に弦太朗が唐突にやって来たのは深夜一歩手前の時間になってからだ。
明日は修学旅行の郊外研修の一環で生徒と共に自分の公開講義を聞きに来る予定だったはずだが。そう首をかしげる賢吾に弦太朗は微妙に慌てた様子を見せる。
「賢吾すまない、ちょっと頼みがあるんだ!」
「いきなりどうしたんだ、如月?」
友人といえども追い返されても文句が言えない時間だが、こいつと付き合うのに一々そんなことを気にしていては身が持たない事は高校時代に嫌というほど思い知らされている。
「教えて欲しい事があって」
「教えて欲しい事?」
「ああ、ネオショッカーの基地がある場所を知らないか?」
唐突に、本当に唐突にこいつは何を言い出すのだ。
賢吾は真剣に突拍子もない事を訪ねてくる弦太朗を前にして眩暈を覚える。
「あのな、俺がそんな物を知るわけがないだろう」
「賢吾でも知らないのか?」
「そんな事を言われても……。お前、俺が何でも知っていると思ってないか?」
常識的に考えて、一介の研究者に過ぎない賢吾がネオショッカーの基地の場所など知るはずもない。
「いや、でも京都に住んでから長いだろう? 何か……」
「無茶を言うな。わかった、わかったからまずは中に入ってくれ。ここじゃ近所迷惑だから」
とりあえず騒がしい弦太朗を家の中に引っ張り込む。
弦太朗が自分から厄介ごとの渦中に突入していくのはいつもの事だが、この様子だと何か緊急の事態らしい。
先客も同じ感想だったのか、呆れ顔で賢吾と弦太朗を待っていた。
「ここまで聞こえたぞ、夜も遅いのだから少しは押さえろ、弦太朗」
「流星!? なんでここに? 久しぶりだな!」
そこにいたのは精悍な若い男。彼の名前は朔田流星。二人にとっては高校生時代のクラスメイトで、仮面ライダーメテオに変身する仮面ライダー部の仲間であった。
卒業後はインターポールの捜査官となり世界を股にかけて活躍をしている彼との思わぬ再会に、焦ってはいても弦太朗は驚きと歓喜の声を上げる。
「なんでと言われても……。弦太朗、お前ニュースは見ているか?」
「えっ? またなんで? いや見ているけどよ」
がっつりと事件に巻き込まれているらしい友人に、どこまで知っているかの探りを入れつつ流星は言葉を選ぶ。
なお、話さないという選択肢は初めから無い。
「アメリカの国際宇宙開発研究所で起きたテロ事件は?」
「もちろん知っているけど。でも、それが一体?」
学生時代ならまだしも現在の弦太朗は教師だ。当然世間一般のニュースなら抑えている。
とはいえ、彼の現在の身分は一般人であり、マスコミ報道以上の事を知る術は無かった。
「一般には単なるテロ事件と報道されているが、実際はネオショッカーが起こした襲撃事件なんだ」
理解を促すように一回言葉を切る流星に、弦太朗は話を続けるように無言で促す。
「その際に、研究所に保管されていた人造コズミックエナジークリスタルが奪われている」
「それって確か?」
聞き覚えがある……いや、実物を見た事もある、賢吾の研究成果の一つだ。
「ああ、前に見せたよな。俺がコズミックエナジーの研究中に偶然出来たあの結晶体だ。先月からアメリカに貸し出していたんだが……」
奪われたとは言うが、腑に落ちない。なぜなら……
「あそこは確か、一也先輩……スーパー1がいるはずだろう?」
「学会出席のため不在だったって話だ」
木星探査経験のある沖一也は宇宙関連の学会に呼ばれることも多い。その日も学会の一つに呼ばれており研究所を空けていた。
そんな隙をつき、警備に当たった軍隊すら蹴散らしてネオショッカーはクリスタルを強奪したのだ。
「俺が急遽ここに来たのも護衛の為だ。クリスタルが奪われた以上、次に狙われる可能性が高いのは賢吾だからな」
現時点で世界で一番コズミックエナジーに関して詳しいのは歌星賢吾だろう。さらには、弦太朗達が高校生時代にあった事件の当事者達しか知らない、賢吾の秘密もある。
仮面ライダーメテオである流星が護衛に来るのも道理な状況だ。
「ちょっと待ってくれ、確か前に聞いた時にクリスタルは確か……アストロスイッチにも、ゾディアーツスイッチにも……」
「クラフト可能なマルチマテリアルだ。それも、あれを使えば従来のスイッチを遥かに凌ぐスーパースイッチが作れる」
大首領復活、素体候補、話を聞いて焦るアイン……。
弦太朗は愚かではない。むしろ頭の回転は速い。
そんな彼の頭の中で、バラバラだったピースが組み合わさり一枚の絵図を描く。
「そういう事か! アインの奴!」
「アイン?」
「どういう事だ、弦太朗?」
いきり立つ弦太朗に、二人の友人が訝しげに尋ねる。
次に説明をするのは弦太朗の番であった。
「つまり、ネオショッカーの怪人に襲われたお前たちを助けた仮面ライダーアインが、お前たちの話を聞いて一人でネオショッカーの基地を攻撃しに行ったと?」
「ああ、俺たちの話を聞いた直後から明らかに焦った様子だった。あいつがクリスタルの事を知っていたのなら……。いや、知っていたんだ。おそらくはクリスタルは京都にある」
「十分あり得るな。クリスタルを加工するならコズミックエナジーが満ちている京都か天ノ川学園が最適だ」
無茶な話だと流星は考える。高校生の頃の自分達も若さの勢いで相当無茶な真似をしたが、それでも単身で悪の秘密結社の基地に突入などはしなかったと思う。
「しかしアインか……聞いた事が無い名前だ。ゼインじゃないんだな?」
「ああ、違う。なんだ、そのゼインって?」
「いや、関係がない。こちらの話だ」
ゼインでないなら別に問題は無いだろう。
世界のどこかで模造ライダーバトルが勃発したり、あるいは未来人がデザイアグランプリの類似企画を開催するたびに仮面ライダーと同等の力を持つ存在が生まれるのだ。アインという少年も、そんな突如生まれた仮面ライダーの一人であろう。
「だが、そいつはどこでクリスタルの行方を知ったんだ? インターポールでも掴んでいないぞ」
「それは本人に聞くしかないな。流星、お前ならネオショッカーの基地の場所を……」
「怪しい場所はいくつか知っているが、教えられないぞ」
教えれば飛び出しかねない。
流星の言葉に弦太朗がいきり立つが、流星にも流星の言い分がある。
「フォーゼだったお前になら教えられるが、今のお前が一人で行ってどうするんだ?」
「そ、それは……。そうだ、パワーダイザーを使えば!」
「無茶を言うんじゃない! いくら何でもあれでネオショッカーの基地に行こうなんて無謀だ!」
宇宙開発用に開発された可変型パワードワーカー、パワーダイザーはきわめて強力な装備だ。弦太朗の体力なら、あれを乗りこなす事も可能だろう。
とはいえ、多数のネオショッカー怪人が待ち構えている場所に、単騎で仮面ライダーの応援に向かうには心許ない装備であった。
流星の言葉は正論だ。そのぐらいは弦太朗とて分かっている。
「だけど、自分は一人だって言い放つ奴を放っておけるかよ!」
ほんのすれ違いほどの出会い。生徒ですらない。あの少年は完全な他人だ。
それでも弦太朗の矜持と直感が、彼を見捨ててはいけないと叫んでいるのだ。
「俺は……」
「言わないでもわかっている。京都に来れそうな伝をあたってみる。せめてライダーが一人でもいれば……」
先ほどの話を聞いた以上、なおさら流星は賢吾の傍を離れられない。
自分の代わりに戦える戦士が一人でもいれば……、そう考えて伝を当ろうと行動を開始し始めた、その時だった。
もう深夜に差し掛かる時間にもかかわらずチャイムが鳴る。
「来客?」
「こんな時間にか?」
突然の事態に3人が警戒しながらも、ドアフォンのモニターを立ち上げる。
そこには、一人の男が映っていた。
「えっ?」
「なっ!?」
「ほわっ!?」
予想外の来訪者に三者三様の間の抜けた声を上げる。
様子は見えないだろうが声は聞こえたのだろう。男は男臭い笑みを浮かべながらこう切り出した。
「すまない。盗み聞きをする気は無かったんだが、気になる名前が聞こえてね。ところで、少々ロートルではあるが、仮面ライダーは入用かな?」
深夜の来訪者の名前は沖一也。
またの名を仮面ライダースーパー1、伝説の10人の男の一人であった。
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