ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
その日の朝も、ごく普通の朝であった。
朝から空は綺麗に晴れ渡り、駅には通勤通学客でごった返し、あるいは降り立った観光客で賑わっていた。
ごく平凡な、日常の一コマであった。
そんな彼も、職場に向かう京都府在住の一人である。
いつものように観光客を避けて、駅のホームに向かう。
だが、日常は唐突に終わりを告げる。
始まりは、彼の前を歩いていた男性が唐突に足を止めた事だ。
なんだろう、邪魔だな。そう思いながら男性は男を避けようと横に動こうとして、彼も足を止める。
なんせ、避けようとした前を歩いていた男の背中が目測の倍の大きさになったのだ。
「え?」
それだけではない、スーツはびりびりと破れ、下からは毛皮に包まれた筋骨隆々の肉体が、腕にはいつの間か持っていた巨大な曲刀が……。
「えええ?」
目の前の男……いや、怪人が雄たけびを上げる。
周囲のガラスが一斉に震え、電光掲示板が唐突な電磁波で誤作動で点滅する。
「GAAAAAAAA!!」
雄たけびの爆音に、視線が一斉に集まる。
それが何か、理解をしてしまった瞬間、真後ろにいた男性は腰を抜かしへたり込み、群衆からは一斉に悲鳴が上がる。
「きゃあああああああああ!」
「うわあああああああああ!」
蜘蛛の子を散らすかのように群衆が逃げていく。
だが、彼らに逃げ場はない。群衆の中から、唐突に全身が触角付き黒タイツの怪人……アリコマンドたちが武器を構え、出現したからだ。
怪人の持つ曲刀に、へたり込んだ男性の姿がぎらりと映る。
最初の生贄は彼で決まりだった。
同じような光景は、京都の各所で発生していた。
人に化けて都市主要部に接近したネオショッカー怪人及びアリコマンドが一斉に暴れだす。
京都府警にも特殊強化装甲服G3が多数配備されているが、京都各所で暴れるネオショッカー怪人全てに対処できる数ではない。
いや、それどころか京都府警自体が複数の怪人に囲まれて防戦一方となっていた。
そして、それはここ、宇宙京都大学も同じことであった。
「ほわたぁぁぁぁ……、ワッチャァァァァッ!!」
星空を思わせる黒い地のラメスーツに、流星の尾を模した袈裟懸けに纏う青い装甲。半透明の青い頭部と赤い複眼の仮面ライダーが、裂帛の怪鳥音を叫びながら連続の回し蹴りを繰り出す。
エネルギーを纏ったその足は、複数のアリコマンドを巻き込みながら正面の爬虫類の肌を持つ怪人の頭部を幾度となく打撃を与え、ついには蹴り砕く。
彼の名は仮面ライダーメテオ。拳法を得意とする朔田流星が変身する仮面ライダーだ。
「ぐがぁ……」
頭を砕かれた怪人は断末魔の悲鳴すら上げられず、数歩後ろに下がると仰向けに倒れた。
ネオショッカーの怪人は頭部に埋め込まれた冷却装置の制御が無くなると、急激にその温度を上昇させる。死亡間際には二千度にまで上昇する体温は、その身をこの世に残す事を許さない。
大爆音を立て四散する怪人に目をくれる暇もなく、アリコマンドの壁を越え、今度は昆虫を模した2体の怪人が背後から迫りくる。
「くそっ!」
青い頭部の仮面ライダーが昆虫怪人の蹴りを受け流しながら大きく後退する。
さらに追撃しようともう一体の昆虫型の怪人がカマを振りかざし襲ってくる。
だが……、どこからともなく放たれたレーザーの奔流が怪人の肉体を貫き足を止める。
「ぎゃぁ!」
「ホォアタァッ!」
その隙を見逃すメテオではない。
相手の頭を両手で抑えると、膝蹴りからの回し蹴りを怪人に叩き込む。
レーザーバルカンで小さくないダメージを負っていた怪人は、メテオの連続攻撃の前に生命活動を停止し、大爆発を起こした。
メテオの横に、粉塵の影から誰のものかわからない白いバイクが何もない場所から姿を現す。
「すまない」
遠隔操作か、自動操縦か。どちらかわからないがメテオは素直に礼の言葉を口にする。
伝説のマシン、仮面ライダー一号のサイクロンに酷似したこのバイクの援護が無ければ、メテオと言えども怪人の群れの前に飲まれていただろう。
粉塵が収まり視界が戻る前に、風に溶けるように白いマシンが再び姿を消す。
「どれだけいるんだ……」
とにかく敵の数が多い。倒しても倒しても次が来るのだ。彼が倒した怪人は先ほどの昆虫型怪人で5体目だ。アリコマンドに関しては戦い始めてすぐに数える事を放棄している。
そもそも、街中、しかも四方に入り口がある大学という施設そのものが守りには適していない。
「出られそうか?」
「無理ね。出入り口が完全に封鎖されているわ」
メテオの背後、彼が守る自動車のハンドルを握る相方が呆れ半分で答える。
確かに彼女の言う通り大学入り口はアリコマンドが封鎖をしており車を出すに出せない。数体を撥ねて進んだとしても、結局は怪人のパワーとアリコマンドの数の前に抑え込まれるだろう。
「もうしばらくの辛抱だ。悪いな、朔田」
後部座席に座っていた賢吾がメテオに声をかける。
もっとも、その表情には悪びれた様子はあまりない。よく言えば、この程度の危機は何度も潜り抜けてきたという信頼感が見て取れた。
「そういう時は、もう少し、すまなそうにしろっ!」
再び襲い掛かってきた怪人とアリコマンドを迎撃しながらメテオがぼやく。こっちも声に責める様子はあまりない。
役割は理解している。なにより、一番危険に身を晒しているのは護衛されているはずの賢吾自身だ。
「大丈夫だ……そろそろ相手がしびれを切らす」
賢吾の予想は当たっていた。
攻めあぐねる怪人の一体の首が唐突に地面に落ちる。
「いつまでもたついておる! ネオショッカーに無能な者はいらん」
悪魔のように捻じれた角の兜の男が、アリコマンドや怪人の壁を割り姿を現す。
魔神提督。現在のネオショッカーを率いる怪人……。沖一也……厳密には、一也が先輩に聞いた通りの姿だ。
「歌星賢吾の身柄、いつまで抑えられぬのだ」
苛立ちを隠す様子もない魔神提督の出現に賢吾は運転手の女性に声をかける。
「避難は?」
「あらかた終わっているわ」
幸い、賢吾が逃亡を装い目立つ行動でネオショッカーの目を引き付けたため、大学構内の人間や社会科見学の母校の生徒はあらかた安全な場所まで逃げれたようだ。
その事に安堵をすると、賢吾は自動車から降りて現れた男に声をかける。
「俺に何の用だ、魔神提督」
「ほう、貴様が歌星賢吾か。逃げられぬと知って観念したか?」
まったく、悪党というのはいつも同じだ。自分が優位だ、支配者だと勘違いをしている。
賢吾は軽蔑と侮蔑の感情を隠す事無く、思いつくまま魔神提督を煽り倒す。
「観念? 何を言っているんだ? 怪人を5体以上も無駄死に……、いや、今ので6体目か? メテオ一人に手も足も出ない醜態をさらしておいて無駄に勝ち誇れるとは、ネオショッカーの大幹部はずいぶんとおめでたい頭で務まると見える」
「なに?」
囲まれているのにもかかわらず余裕を崩さない賢吾の態度に魔神提督の顔に一瞬怒りが浮かぶ。
「耳も遠いようだな。生身でも届く距離の声すら聞き取れないとは、ネオショッカーの技術もたかが知れているな。いや、ネオショッカーの技術ではなく貴様の頭の出来が問題か?」
「貴様……自分が殺されないとでも思っているのか? それとも助けが来るとでも思っているのか?」
賢吾の口からポンポンと勢いよく飛び出してくる罵倒の数々に、魔神提督が肩を震わせ怒りを露にする。
あれが挑発だとわかっていても、それを見過ごせるほど魔神提督のプライドは低くない。
それゆえに、まずは賢吾の反骨心を砕く。そう魔神提督は考える。
「ほう、その余裕はこれを見ても続くかな?」
その言葉と主にアリコマンドの垣根が割れ、奥より縛られた数人の男女が姿を現す。
ネオショッカー大首領復活のための贄となる連中だが、それ以外にも使い道はあるのだ。
「せ、先生! に、逃げてください!」
その中の一人、体格の良い青年が賢吾の顔を見て叫ぶ。
研究室に出入りする学生の一人だ。数日前から姿を見せなかったが……、弦太朗からの情報通り捕まっていたのだろう。
不幸中の幸いであった。弦太朗が来なければ、賢吾と言えどもここまで冷静に対処は出来なかっただろう。
「御堂か……。喜べる状況ではないが無事なようだな」
「くっくっく、言っておくが助けを期待しても無駄よ。京都はすでに混乱の坩堝! もう間もなく京都各所より我がネオショッカーの精鋭が集結する!」
勝ち誇った笑みを浮かべる魔神提督に、賢吾は小さくため息をつくと懐から小さな機械を取り出す。
それは、持ち運び式のどこにでもあるごく普通のラジオだった。
「これを聞いても同じことが言えるのか?」
地元のFM放送局だろう。
街の各所が怪人に襲われる中、放送を継続しているのだろう。よく聞けば女性アナウンサーが必死な声で叫んでいた。
『皆さん、落ち着いて行動してください! 我々には、仮面ライダーがついています! 彼らが、悪い怪人たちと戦っています!』
殺される。そう思い男性は目を閉じる。
あの鋭い刃に斬られ、自分は死ぬ。逃げなきゃ、そう思いながらも恐怖で身体が動かない。
一秒、二秒……。硬く目をつぶり身体を硬直させるものの、恐れていた衝撃はいつまでたっても来ない。
男性は恐る恐る目を開ける。
まず、視界に入ったのはギラリと輝く銀色の刃だ。
放棄したくなる意識を何とか持たせ刃の先を見ると、先ほどの毛むくじゃらの怪人がいまだ健在であった。
ただ、背後から掴みかかった茶髪にスカジャン姿の人物が、必死に怪人の動きを止めていた。
な、何が起こっているんだ……。男がそう声を出すより早く、誰かが彼の腕を引っ張る。
「立てるか、あんた?」
「へ、いや、え? き、君は?」
「俺の事は良いから、立って逃げる!」
よくよく思い出せば、先ほどすれ違った観光客の一人だと思い出す。その男が彼の腕を引っ張り早く逃げるように促していた。
「戦兎、早くしてくれ。こいつ思ったより力が強くて長くは持たない!」
スカジャンの男が必死に訴える。
それに対しこちらにいる男……戦兎と呼ばれたどこか浮世離れした、それでいて知的な雰囲気を醸し出しているつかみどころのない男はスカジャン男を軽く囃し立てる。
「馬鹿力しか取り柄が無いんだから、もうちょっとがんばれ!」
「誰が馬鹿だ! それを言うなら、筋肉バカ力だろう!」
「おい、ここで筋肉をつけるか? はい、おじさんは立って走って、振り向かないで!」
男に引っ張られるまま男性は這う這うの体で立ち上がるとよろよろと駆け出す。
それを確認した青年が、安堵のため息をつきながらぼやく。
「まったく、京都についた途端これとは……」
「良いから早く何とかしろ!」
「いや、おっさんは逃げたし、もう離れていいんじゃね?」
「あっ! そうか!」
戦兎の言葉にスカジャン男……万丈はもう押さえておく必要が無いんだとようやく思い至る。
万丈は暴れる怪人から離れると、身軽な動作で戦兎の隣まで飛びのいた。
「んじゃ、いきますか……」
周囲の人は逃げて、もういない。
さらに言えば今の立ち回りでアリコマンドの注意はこちらに向かっている。
もう遠慮する必要がどこにも無かった。
二人の男は懐からハンドル付きのバックルを取り出すと腰に当て装着する。
さらにはボトルを取り出し、あるいはドラゴンを模した機械を取り出すと、ベルトのバックルに差し込む。
二人がハンドルを回すたびに、二人の周囲に骨組みを思わせる力場が形成され、超常の力のこもった溶液がスーツを形成していく。
それぞれのスーツが完成した瞬間、二人は同時に声を上げた。
「変身!」
「変身!」
同じ掛け声は、京都の各所で木霊していた。
それは進化の可能性の男かもしれない。あるいは最後の希望かもしれない、あるいは無敵の小児科医かもしれない。
あるいは誰にも名を知られる事も無くそれでも戦い続ける誰かかもしれない、あるいは名前を聞いただけで悪党を震え上がらせる始まりの男かもしれない。
昨晩、アインという名の若い仮面ライダーを助けに行く前に、彼らはできうる限りの知人……、それも仮面ライダーに連絡を入れていた。
京都でネオショッカーの企みが最終段階になりつつある。救援を求める……と。
如月弦太朗が仮面ライダーとして活動していた期間は長くない。どれだけ長く見積もっても、精々6年程度だ。
だが、その6年で彼が紡いできた絆と信頼は、あやふやな情報だというのに、多くのライダーを京都の地に呼び寄せる事が出来るほどに濃密な時間であった。
「分かっていれば対策も立てようがある」
賢吾の言葉が切っ掛けという訳ではないだろうが、魔神提督の脳内に接続されたコンピューターが各地のネオショッカー怪人の反応が消えつつある事を報告する。
通信機越しに、怪人たちの断末魔の悲鳴が木霊する。
「ま、まさか! いや、だが人質が……。」
「人質など使わせない……。風田!」
まだ人質……いや、生贄がいる。
だが、その考えすら賢吾は読み切っており、この時まで隠し玉を温存していたのだ。
「まかせてくれ、先輩! 剛力招来!」
突如、大学の校舎の屋上から何者かが掛け声とともに飛び込んでくる。
茶色い甲羅を纏った醜悪な怪人物……サナギマンは、人質たちがいる場所にピンポイントで降り立つと無造作に拳を振るう。
フォーゼのパワーを上回る怪力を持つ怪人の拳に、人質を捉えていたアリコマンドたちはなすすべもなく弾き飛ばされた。
「お前、三郎!? お前東京じゃなかったのか!?」
「久しぶりだな、御堂! 先生に呼ばれたんだよ……と、話している場合じゃなかった!」
高校時代のクラスメイトが空から降ってきた。
その事実にネオショッカーに捕らわれていた御堂が思わず声をかけるが、確かに悠長に話をしている場面ではない。
突然の奇襲に虚をつかれたネオショッカーだが、すぐに気を取り直すとサナギマンに一斉に攻撃をしかける。
炎が、雷が、あるいは銃弾がサナギマンの身体を焼き、あるいは砕く。
「ケーッケッケッケ、驚きをしたが、一人逃げ道も無い場所に突出をするとは愚かな!」
怪人の一人が、そう叫ぶとサナギマンを焼き殺そうと炎の威力を強める。
だが、それは違う。
サナギマンは待つ。イナズマンに成長する時が来るのを、ただひたすら待ち続けるのだ。
「とどめだ! 死ねぇ!」
もはや片膝をついたサナギマンに、片腕がハサミの怪人がとどめを刺さんと襲い掛かる。
だが、すでに時は来た。
「超力招来!」
醜い茶色い化け物が、片腕を天に掲げ叫ぶ。
役目を終えた茶色い甲羅は粉々に砕け散り、その隙間から膨大な雷が溢れ出す。
その威力はすさまじく、その余波だけで怪人を吹き飛ばし、アリコマンドを葬り去る。
「な、なんだと!? 貴様、何者だ!?」
雷を手に持った剣で打ち払った魔神提督が驚きの声を上げる。
その叫びに呼応するように、新たに出現した青い肌と赤い触角。全身に雷を思わせる黄色いラインの超人は黄色い目で魔神提督を見据え高らかに名乗りを上げる。
「自由の戦士、イナズマン!」
そう、彼の名はイナズマン。少年同盟のリーダーにして、悪と戦う超能力戦士。
そして彼は、かつて如月弦太朗により救われた生徒の一人だった。
彼の変身の余波だけで、ネオショッカーの一団は大きく吹き飛ばされ倒れ伏す。
「三郎、こっちこっち! みんなを避難させなきゃ!」
さらには、大学の校舎内に隠れていた少年同盟が姿を現し、なんとかイナズマンの攻撃から難を逃れたネオショッカーの一団を抑え込む。
縛られ動きが制限される人質でも、これなら逃げる事が可能だ。
「分かってる! すぐ戻ります!」
追いすがるネオショッカーの戦闘員や怪人を蹴散らしながら捕らわれていた人々を避難させるイナズマンと少年同盟の頼もしすぎる姿を見送りながら、メテオはこう声をかける。
「いや、戻ってくる前に決着はつけておく」
彼の視線の先には、大学に向かう道を一直線に走る二台のオートバイの姿が映っていた。
アインという名の若い仮面ライダーを連れ、弦太朗とスーパー1が戻ってきたのだ。
同じ光景を確認した賢吾が魔神提督に向かいこう宣言した。
「最初からお前たちの企みが成功する確率は、ゼロだ」
昭和怪人は人質を必ず現場に連れてくると古事記にもそう書かれている。
どうにも散文的になってしまう。文章力が切に欲しい……。
次回の任務……もといバカンスは
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海だ!
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山だ!