ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
もはや現在の地上ではありえない巨体、闇を切り出したかのような全身を覆う漆黒の鱗、背中から生える蝙蝠のような翼、何本も並ぶ巨大な角、額に輝く宝玉、赤く爛々と輝く二つの目……。
それは伝説における竜を思わせる存在。地球上における進化の体系には存在しない生き物であった。
その正体は遠くB26暗黒星雲より襲来した地球外生命体、地球侵略を企む邪悪な巨大怪獣である。
かつて8人の仮面ライダーの総力を結集したセイリングジャンプにより地球外に追放され、そこで爆死した巨大怪獣は、久方ぶりに味わう生の世界に歓喜の雄たけびを上げる。
その雄たけびは京都の街に響き渡る。
「あれが……ネオショッカー大首領だと!?」
メテオが誰かに話しかける訳でもなく、一人呟く。
インターポールの資料にて情報は知ってはいても、やはりその巨大な姿を目にすれば驚きを隠す事は出来ない。
それはメテオ以外の仮面ライダーも、そうでない者も同じ気持ちではあったのだろう。誰しもがその巨体に驚き、一瞬とはいえ呆然としてしまう。
「うわーっはっはっは! ついに、ついに冷たい黄泉の国から脱出を遂げたぞ!」
その声は周囲の木々を、大地を大きく揺らす。
あれはこの星に存在してはいけない存在。
木々に残っていた僅かな鳥すら、本能を揺さぶる恐怖に飛び立つと、この場から全力で逃げ去る。
「魔神提督よ……。此度の働き誠に大義であったぞ……。貴様の血肉は、俺の一部として永遠に生き続けるのだ!」
自身の復活に巻き込まれ、闇に飲み込まれ消えた部下に対してねぎらいの言葉を述べる。
もっとも、足元に転がっていた魔神提督の剣を踏み砕きながらの言葉だ。どれだけ本気かは分かったものではない。
「しかし、掃除を怠るとは失態ではあったな」
ぎろり。赤い目が地面に向けられる。
ネオショッカー大首領の視線の先にいるのは、3人のライダーだ。
自動車の陰に隠れた人間もいるにはいるが、ネオショッカー大首領の目には物の数に入っていない。
「人を汚れ扱いとは何様のつもりだ、大首領!」
「吠えるな、仮面ライダーども! 俺を殺した憎きスカイライダーやその仲間でないのが残念だが、景気づけに貴様らをひねりつぶしてくれ……」
ライダーたちを見下していたネオショッカー大首領は唐突に言葉を切ると、3人のライダーの一人……、アインロールドに視線を向ける。
爬虫類に酷似した鱗だらけの顔では表情を読み取るのは困難だ。もしネオショッカー大首領が人の顔をしていたとしたのなら、困惑の表情が見て取れたであろう。
だが、次第に竜でもあるのにもかかわらずわかるほどの、暗い笑みが顔に浮かぶ。
「いや……貴様は……眷属ではないようだが……。そうか、貴様は堕ちた守護者の手下か。見ているな、堕ちた守護者よ!」
「守護者?」
スーパー1やメテオには意味の分からない言葉だ。だが、アインロールドのみは言葉の意味を正確に理解していた。
守護者……、おそらくはショッカーの大義に関わる事であろう。そして、元々この任務自体がショッカー大首領直々の指名だ。どういう手段かは分からないが、大首領が監視している事は十分予想が出来た。
「俺の復活を察知しながら見ているだけとは……。依り代を出せぬほど衰弱しているか……。あるいは備えているのか……」
古来よりの怨敵や目障りな同盟相手がネオショッカー大首領の脳裏をよぎる。そんな大怪物の思考をアインロールドが舌打ちを交えながら遮る。
「いつまでつまらん独り言に興じている、使い走りが」
「貴様、死にたいのか?」
その言葉は効果覿面であった。ネオショッカー大首領が怒りの視線をアインロールド一人に向ける。
もっとも、当のアインロールドは巨大生物の怒りなど気にした様子も無く、侮蔑の言葉を続けた。
「はっ。知性を感じられぬチンピラ同然の言葉だな。鬼が居ぬ間にお山の大将を気取っていた小物の貴様らしい」
心底小馬鹿にした安い挑発だ。無論、ネオショッカー大首領もあの先兵が自身を挑発する意図で言葉を紡いでいる事は理解している。
とはいえ、わかっていても許容できるほどネオショッカー大首領の堪忍袋の緒は長くない。
「飼い犬風情が……。俺に対してその口のききよう! 楽に死ねると思うなよ!」
怒声と共にネオショッカー大首領が動き出す。まずはあの生意気なショッカーの使徒を叩き潰さなければ気が済まないと、アインロールドに向かい炎を吹きかける。
もっとも、その動きはアインロールドにとって想定の内だ。
黒いライダーは慌てることなく手刀を振り上げると、炎に向けて振り下ろす。
「ライダーチョップ!」
空を斬る、その一心で鍛えぬいた手刀は灼熱の炎を左右に切り裂き、駐車場の端に止められていた車両を焼くのみで終わる。
「この程度か……」
傲慢に言い放つアインロールドにネオショッカー大首領の怒りはさらに上がる。
「貴様……!」
一方、巨獣の怒りを一身に浴びるアインロールドは、ほんの刹那の瞬間だがその視線を二人のライダー。スーパー1とメテオに向ける。
バダン大首領が全ての組織の黒幕だったという前世の知識と、ショッカー系列組織とバダンが激しく敵対しているという今世の状況。そして先ほどのネオショッカー大首領の呟き。アインロールドはそこからネオショッカー大首領の立ち位置を大雑把に推論をして挑発してみたのだが、どうやら図星だったようだ。
これでネオショッカー大首領のヘイトは自分一人に向けられた。少なくともあの怒りが収まるまで、あれが飛び立つ事は無いだろう。
アインロールドのスペックは伝説の7人に匹敵する。だが、超加速や自己強化といった7人にはない独自の能力をもってしても、7人の能力を大きく超える事は無い。
そして、彼と同レベルの力を持つ7人の攻撃を跳ね返してみせたタフネスと防御力の持ち主がネオショッカー大首領なのだ。純粋な防御力という意味では屈指の能力を持つ。
倒せない相手ではないが、短時間で倒せるような容易な相手でもない。
これは全ライダーの中でもずば抜けたスペックを持つスーパー1や、コズミックエナジーの扱いに長けたメテオでも似たようなものだ。
この魔獣が自由に動き回れれば、京都の町にどれだけの被害が出るかわかったものではない。
全環境で行動可能だろうこの魔獣に全力で逃げられた場合、追跡が困難となるだろう。
「奴はこの場で仕留める。勝手に決めてすまないが、この場にいたのが運の尽きだ。あんたらにも付き合ってもらうぞ」
巻き込む形の二人のライダーに、口先だけとはいえ詫びの言葉を入れておく。
「言われるまでもない」
メテオからしてみれば当然の事の確認。スーパー1からしてみれば相変わらずのショッカーライダーらしからぬ言動。
沖一也もそれなりに組織に身を置いて長く、思わずショッカーにおける彼の立場を心配してしまう。
「いいのかい?」
「問題は無い。奴を取り逃がすよりよほどマシだ」
清々しいほどの即答であった。
色々と目的もあるにはあるが、究極的には一人の少女と共にある為だけにショッカーにいる男だ。組織内での地位にさほど未練は無かった。
「来るぞっ!」
アインロールドの叫びとネオショッカー大首領の巨大な左足が襲来するのはほぼ同時であった。
3人のライダーは一斉に飛んで、その蹴りを回避する。
技も何もない、ただ足を動かしただけの動作だ。それだというのに、その巨大な質量とサイズに見合わない素早さで繰り出された蹴りは駐車場に停車中のバスを軽々と跳ね飛ばし、大学施設を大きく破壊する。
たとえライダーと言えどもまともに食らえば無事では済まない。それほどの破壊力だ。
もっとも、それを見て臆するような精神の持ち主などはこの場にはいない。
着地と同時に、三人が同時に動く。
「行くぞ!」
スーパー1とアインロールドがほぼ同時に大地を蹴る。
一方、飛ばずに残ったメテオは惑星を思わせるエネルギー弾を形成すると、ネオショッカー大首領に向けて投げつける。
「はあっ!」
立て続けに放たれるエネルギー弾の前にさすがのネオショッカー大首領も視界を奪われる。
そのわずかなスキを見逃すことなく、スーパー1とアインロールドのキックがネオショッカー大首領の頭部に突き刺さる。
だが……。
「効かぬわ!」
ただ、ネオショッカー大首領が首を横に振るっただけだ。
「ぐはっ!」
「うわっ!」
それだけだというのに二人のライダーは大きく跳ね飛ばされた。
幸い、二人とも体術に長けたライダーだ。地面を削りながらなんとか着地をする。
「ったく、なんてパワーだ……」
「聞きしに勝る、桁外れの耐久力とパワーだな」
知ってはいても、実際に相対すればボヤキの一つも出る。
ビルをも超えるサイズの生物が人を超える動きをするだけで十分すぎるほどの脅威なのだ。
「この程度ではないぞ、ライダーども!」
狙われたのは一人牽制をしていたメテオだ。
横殴りに振るわれた尻尾は、周囲の車両をゴムまりの様に跳ね飛ばしながらメテオに迫る。
強力な仮面ライダーであるメテオだが、その耐久力は流石に改造人間たちには及ばない。
跳躍しその尾を回避しようとする。
だが、その程度の動きはネオショッカー大首領はお見通しだ。
瞬時に尻尾の軌道を変えるとメテオの身を絡め取る。
「なにっ!?」
「このまま絞め殺してくれるわ!」
その言葉の通り、尾の先端に力がこもる。
「うわぁぁぁぁ!」
メテオのライダーシステムが急激に上がる負荷に悲鳴を上げる。
「やらせるか! チェーンジ! パワーハンド!」
だが、瞬時に赤い力の腕を換装したスーパー1が締め付ける尾に取りつくと、強引に引きはがしにかかる。
50tもの落下物すら受け止めるその腕は、じりじりと尾の拘束を引きはがす。
「助かる!」
僅かな隙間が出来れば十分だ。
メテオは何とかその身を拘束から逃れる。
「足を止めたな! くたばれぇ!」
何とか脱出したメテオとそれをサポートしたスーパー1に大首領の前腕が迫る。
二人とも態勢を崩している形だ。そんな二人をサポートするべく、アインロールドが腕に向かい跳躍する。
「させるかぁ! ライダアアアアア、キイイイイイック!」
エネルギーを込めた必殺のキック。
だが、その力をもってしても腕を弾き飛ばすのが精いっぱいであった。ライダーキックを腕に食らったはずなのに大した痛痒を見せず、大首領の口から洩れた火炎が周囲を焼く。
「くそっ!」
その火炎を転がり回避しながら、アインロールドは内心でこう毒づいた。
あの野郎、右足を上げやしない……と。
一方、離れたところで戦いを見守っていた弦太朗ら3人であった。
あの巨獣相手にはパワーダイザーであってもライダーでない限り近づくことなどできない。そうはわかっていても、何もできない歯がゆさに弦太朗は地団駄を踏む。
「おい、賢吾! 何か手は無いのかよ!」
高校時代からの相方に問いかける。
ライダーの力を捨てた事に後悔は無い。だが、こういった時に何もできない自分が歯がゆかった。
一方、問いかけられた賢吾だが、彼の呟きは弦太朗の問いかけの答えになっていない物であった。
「おかしい……」
「おかしい?」
「ああ、おかしい。邪悪パワーか怨念かは知らないが、そんなものであの化け物を復活させられるものか!」
彼の疑問は当然の話だ。
そもそもの話、そんなものでネオショッカー大首領を復活させられるだけのエネルギーが賄えるのなら、ネオショッカーの一連の行動は何だというのだ?
「二人とも、手伝ってくれ」
「手伝ってって何を!?」
「俺の研究室に向かう。あそこなら、あの大首領の力の源が分かるはずだ」
自身の研究室にあるコズミックエナジーの観測システムなら、ネオショッカー大首領の力の流れが……弱点が分かる。
強い意志でそう話す賢吾の視線の先には、まだ生き残っていたネオショッカーの戦闘員……。アリコマンドたちの姿があった。
「あれを突破する……。力を貸してくれ」
「分かり易くていいな! 分かったぜ、賢吾」
そう言うと弦太朗は止めてあったマシンマッシグラーに跨ると、賢吾に後ろに乗るようジェスチャーをする。
「私はそのサポートね。まかせて」
一方のインガ・ブリンクもその辺に転がっていた誰の物ともわからないバイクを手早く起動させると、車から引っ張り出した銃火器を全身のいたる場所に装着した。
さらに、片手でも使える銃器を賢吾に手渡す。これで弦太朗の運転をサポートしろというのだ。
「これ使う?」
「ありがたく借りておく。行ってくれ、弦太朗」
二人の仲間の準備が整ったのを確認した弦太朗は、マシンマッシグラーのアクセルを全開に吹かした。
「おっしゃ、行くとするか!」
立ち止まっている時間は無い。
3人のライダーを助けるためにも、刹那の時も無駄には出来なかった。
ネオショッカー大首領より強いラスボスは多いけど、こいつくらいでたらめにタフな奴は少ない。
短いけど今回はこれで……
次回の任務……もといバカンスは
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海だ!
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山だ!