ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
京都での戦いでの翌日、沖一也の姿は新関西国際空港にあった。
もともと、米国でネオショッカーが起こした襲撃事件に対し、新たなテロ攻撃を警戒し防衛の為に米国にいるよう言われていたのを無断で出国、単身海を渡り日本に密入国をしたのだ。仮面ライダーのスペックと操るモンスターマシンの能力あっての強引な密入国であり、はっきりと言って犯罪である。
社会的な立場が立場なので大事にする訳にもいかず、事件を解決したのなら早々に米国に帰ってこいとのお達しが出たのだ。米国に帰れば総出でお説教を始めるのが確定している。
どう考えても自業自得ではあるのだが、このまま世界一周の旅に逃げようかなー、そういえば結城さんがやたらタヒチを推していたし一度行ってみるのも良いかななどと、ガラでもない事を考えていたのも仕方がない。中身がいくら歳を食っても説教は嫌なものなのだ。
ぼんやりとやる気なんて無い逃亡プランを構築していると、不意に背後のベンチに誰かが腰を掛ける。
別に気にするほどの事でもないと、世界各国の観光地を適当に並べた逃亡プランを考えていると、不意に背後に腰を掛けていた人物が振り向く事なく声をかけてきた。
「久しぶりだな、沖」
「え?」
聞き覚えのある、40年来の付き合いのある男の声に一也は思わず立ち上がりかけるが、背後の人物が振り向く必要は無いと伝える。
「日本にいたんですか?」
まぁ、色々な意味で注目を浴びる立場だ。
仕方がないとそのままの姿勢で一也は背後の人物に話しかける。
「ああ、野暮用でな。俺も昨日は京都にいたんだよ」
「えっ?」
「ああ、ネオショッカー大首領も見えてはいたのだが……。全部任せる形になってすまなかった」
京都の町にあふれ出していたネオショッカー怪人や戦闘員の相手で手一杯であった。
とにかく数が多い上に、あの組織の連中は殺人に躊躇が無い。民間人の避難や倒す事を優先しなければならず、戦っているうちにネオショッカー大首領がワープゲートの向こうに消えていったのだ。
数いる後輩たちも似たような状況だったらしい。
「仕方ありませんよ。俺も弦太朗君たちの作戦に乗っていなければまずは民間人を守っていたでしょうし」
クリスタルを追って京都入りしていなければ、一也も市街で民間人を守りながら進むしかなかっただろう。そのぐらいあの日に京都を襲った怪人は多かった。
怒るような話ではない。そう苦笑いをする一也に、背後の男は一言すまなかったと付け加えると話を続けた。
「そういえば、昨日だが……。宇宙京都大学から、見慣れないライダーが走り去っていくのを見たんだが……。一緒に大首領と戦ったのか?」
「アインくんの事ですか?」
その言葉に、一也は戦いが終わった直後の事を思い出した。
「うおっ!? あれ?」
ワープゲートを通り地球に戻った直後の事だ。
地上に降り立ってすぐにフォーゼの変身が解けてしまい、弦太朗は生身の姿に戻ってしまう。
「え? 変身は解いていないぞ?」
そもそも、腰のベルトも無くなっている。
どういう事だと混乱する弦太朗に、駆け寄ってきた賢吾が推論を説明する。
「当たり前だ。あれは正確にはフォーゼではなく、お前のイメージしたフォーゼをコズミックエナジーが一時的に再現していたにすぎない。大首領を倒して緊張が切れた事によりエナジーが霧散してしまったのだろう」
「そうなんだ。全然分からなかったぜ」
キョロキョロと自分の身体を確認するが、特に変わった様子はない。
とはいえ、果たして賢吾の言うように自分のイメージだったのか? クリスタルを取り戻すのに必死で、そこまで深く考えてはいなかったと思う。
戦っていた時は気にもしていなかったが、賢吾の推測はどこかひっかかる。
そんな事を考え始めようとした弦太朗ではあったが、彼が考えるよりも早くこの場にいた別の人物が動き出す。
「サイクロンヘル」
動き出したのはアインロールドだ。
彼は自らの愛車の名前を呼ぶと、その傷だらけの姿を見て小さくため息をつく。
監視をするように言っていただけなのに、賢吾たちを助けるために、また勝手に戦ったのだろう。
「何をやっていたんだ、お前……。帰るぞ」
エンジンをひと際大きく吹かし抗議する……もしくは弦太朗たちにこちらに気が付かせようとするサイクロンヘルの考えなどを無視して、アインロールドはバイクにまたがる。
ネオショッカー大首領を倒した以上、この場に長居は無用だった。
「お、おい。アイン!?」
駆け寄ろうとする弦太朗を、アインロールドは手のひらで制する。
「俺は……ショッカーライダー、アインロールドだ。ネオショッカー大首領が滅んだ以上、あんたらとなれ合う訳にはいかない」
そこまで言い切ると、弦太朗の言葉を待たずアインロールドは自らの変身を解く。
ショッカーライダーであることに変わりはない。だが、それでもアインロールドの見せる事が出来る、友になると言ってくれた人に対して最大の敬意は素顔を晒すしかなかった。
「ありがとう。もう二度と、俺なんかと会う事が無い事を祈っています。お元気で、如月さん」
そのまま、返事を待たずアクセルを吹かす。
待っている少女の為に、光の世に対しての未練を断ち切るように全力でその場を後にした。
そんな彼に、弦太朗は大きな声でこう告げる。
「忘れるなよ、アイン! お前はもう、俺のダチだからな!」
だから、何かあったら必ず助けに行く。そう叫ぶ彼の声が少年に届いたのか、届かなかったのか。
少年が姿を消すその瞬間まで彼らは見送った。
それで、彼らの出会いは終わりだった。
「行ってしまったな、彼……」
「ああ。なんか事情があったんだろうが……」
一緒に戦ってくれていた謎のバイクは彼の物であった。ならば、最初から自分たちを守るつもりだったのだろう。
そんな彼が何を抱えているのかは分からない。
だが、闇の中で苦しんでいるだろう少年を思い、彼らはそう語る。
そんな彼らに、離れたところで相方と話していた流星が近づいてきてこう話しかける。
「良かったのか、行かせて」
「無理に引き留める事なんてできないだろう。だけどよ、いつか……」
「いや、そうではなくて……」
いつか彼と再び巡り合うだろう。そんな予感を感じていた弦太朗だったが、流星が言いたかった事はそんな事ではなかった。
それはもっと事務的な話で……。
「アインだが……、クリスタルを持って行ってしまったぞ」
彼はベルトに人造コズミックエナジークリスタルを吸収させたままだったはず。返してもらわなくて良いのだろうか?
そう指摘する流星に、弦太朗と賢吾は顔を見合わせこう叫んだ。
「あっ!?」
「わ、忘れてた!」
すっかり忘れていたが、彼の姿はもう見えない。
はるか彼方に、走り去ってしまっていた。
締まらない最後を思い出して、沖一也は苦笑い浮かべずにはいられない。
見た目こそ若さを保っているが、彼らのような本当の若さはもう一也には無い。
ショッカーライダーを友と呼べる弦太朗も、彼の立場を思い、あるいは自らの立場を考え友にはなれないと言うアインロールドも、どちらも眩しいばかりの若さだ。
そんな思いを込めて、一也はアインロールドをこう評価した。
「まだまだ不安も多いですが、頼りになる後輩……。立派な仮面ライダーでしたよ」
彼は、いずれはこちら側に来るだろう。
彼が何を抱えているのかは分からない。だが、あそこまで巨大な敵に立ち向かえる彼が抱えている事情だ、一筋縄ではいかないのだろう。
だから、その時が来た時には若者を助けるために再び日本に駆けつけるつもりであった。
「そうか、アインロールドは立派な仮面ライダーだったか……」
その言葉に、一也は違和感を覚える。
そういえば、彼は立ち去る際に変身を解除していた。それに、自分は彼をアインとしてしか呼んでいない。
何故仮面ライダーとわかる?
何故アインロールドというショッカーライダーとしての名称を知っている?
いや、アインロールドの動きは、まさしく……。
男の名を叫びながら振り返るが、もうその場に彼の姿は無かった。
誰よりも後にきて、誰よりも先に進んでいる風のような男。そういえば誰かがそう評していたと一也は思い出す。
「まったく、心配なら声をかければ良かっただろうに……」
彼が京都の町を守るために間に合わなかったのは事実だろう。ネオショッカー大首領が暴れる様を見過ごせる男ではない。
だが、アインロールドがあの場を去る前に声をかける事が出来る程度の時間はあったのだろうに、声をかけそびれたのだろう。
根拠は無いが、一也はそう思った。
※※※※※
「よっと」
空間の歪みを潜り抜け、赤いフードの少女が山中に降り立つ。
右手には何やら黄金色の兜とそこからつながる機械の塊。左手には小さなスイッチを手に持っていた。
少女の姿が完全に表れるのと同時に、その人物は動き出す。
奇妙な出で立ちの男だ。
カーキ色の軍服を身に纏った、豊かなひげを蓄えた男。
これだけなら普通なのかもしれないが、左目を覆い隠すヤモリの絵が刻印された眼帯と、鋭い鉤爪の義手に改造された左腕が、その男は常人でないことを表している。
男の名はゼネラルモンスター。
かつて、ネオショッカーの大幹部だった男だ。
「首尾はどうだ?」
「見りゃわかるだろう。頼まれていた品は回収しておいたよ」
そう言うと、少女傭兵のサウスは左手に持っていたスイッチをぽいと投げ渡す。
「ネオショッカースイッチ。確かに受け取った」
「言っておくけど、押しても作動はしないよ。未完成品を無理に起動させたからな。そこを言われてもあたしは困るぜ」
「それは承知だ。これでも使い道はある」
サウスが極秘裏にゼネラルモンスターより受けていた依頼。それはいざという時のネオショッカースイッチの回収であった。
ワームホールを駆使する少女は、宇宙空間に漂うスイッチを事も無げなく回収してみせたのだ。
「ところで……、それはなんだ?」
ゼネラルモンスターの視線が、少女が右手に抱えた荷物に注がれる。
「ん? ついでに拾っておいてやったぜ。ほらよ」
金色のねじくれた角の生えた兜と、そこからコードで繋がった電子回路。
ゼネラルモンスターの前に投げ捨てられたそれは、目の前の男を認識すると声を上げた。
「おお、ゼネラルモンスターか」
その声は、ネオショッカースイッチを押してネオショッカー大首領の血肉となった筈の魔神提督の物であった。
「魔神提督? 貴様、生きていたのか?」
元々頭脳と心臓さえあれば再生可能な存在ではあったが、あの状況でも生きていたのは流石に予想外だ。
ゼネラルモンスターが驚き半分、呆れ半分の表情を向ける。
「あの程度で儂は死にはせん。ゼネラルモンスターよ、そのスイッチの力を使えば、儂の肉体を復活させる事が出来る」
確かにスイッチに残った大首領の力を使えば魔神提督の肉体を復活させる事ができるだろう。
ゼネラルモンスターは手に持ったスイッチと魔神提督の残骸を交互に眺める。
「さあ、早く」
そう懇願する魔神提督に対して、ゼネラルモンスターの回答は踏みつける足であった。
金色の兜に足を乗せると、ギリギリと力を籠める。
「な、何をする、ゼネラルモンスターよ!」
「ネオショッカーに、バダンに無能な者はいらない。そうだったな」
「や、やめろ! やめるのだ!」
森に魔神提督の叫びが木霊する。
だが、その叫びは金属がひしゃげる音と共に唐突に止まった。
「あーあ、せっかく持ってきたのに」
一連の流れを見届けた少女が呆れ交じりの声を上げる。
もっとも、あくまで口で言っただけのようで、大して気にした様子も無くこの場を後にすることを口にする。
「んじゃ、依頼は此処までだ。不完全とはいえ一度はスイッチが完成した。間違いないな?」
「言われるまでも無い」
「んじゃ、期待しているぜ。ネオショッカー、それとバダン帝国。精々世の中を荒らしてくれ」
その言葉と共に、少女は再びワームホールを生み出すとその身を内に躍らせる。
ゼネラルモンスターはその姿を見送ると踵を返す。あの動乱を求める少女たちは利用価値がある以上、まだ始末をする時ではないからだ。
「あーあ。せっかく近くにいたのにな……。うざい連中も居なかったし、会いたかったよ兄ちゃん……」
だから、少女の悪意と恋慕の籠った呟きはゼネラルモンスターの耳には届かなかった。
届いたとしても、何も変わりはしなかったが……。
※※※※※
そこは見渡す限りの原生林であった。
人の侵入を拒むかのように生い茂る木々。人の足を絡め取る無数の草。
そんな秘境を高級スーツに身を包んだヘンリーは鼻歌を歌いながら無造作に進む。
肩に抱えるのは、手土産にとオークションで落としたばかりのワインだ。
時折魔獣が遠方に姿を現すが、ヘンリーの姿を見るとすぐさま逃げていく。
ヘンリーも魔獣の様子など気にした様子も無く、一直線に目的地に向かう。
どれだけ歩いたのか、長いような短いような時を経て、目的地に到着する。
そこは密林の遺跡の前に置かれたウッドチェアに深く腰を掛け、一人静かに本を読む男が存在していた。
「ヘンリーか?」
見た目は若い外見。いや、若い以外は人の脳では理解を拒む姿のはっきりとしない男。
その男の口から、巌のような重い声が周囲に響く。
誰もが畏怖するその重い声を聴きながらも、ヘンリーは気にした様子も無く手土産のワインを傍らのテーブルに置く。
「よっ、久しぶり。良い事があったんで、顔を出したぜ大首領」
ショッカーを始めとする闇の組織を牛耳する存在。闇の王者。
そんな相手を前にしているのにもかかわらず、ヘンリーはまるで気負いする様子も無く手土産のワインを慣れた様子で開けると、どこからともなく現れたグラスに注いで見せる。
「あの子の事か? 君が推していた」
「そうそう。いやー、やる奴だとは思ったが、あのファッキンドラゴンを倒すまでになるとはな」
彼にグラスを手渡しながら、上機嫌な様子を隠さない。
確かに彼の言う通り、ここしばらくでは中々の出物だ。
「仮面ライダーたちと、ずいぶん仲がいいようだけど?」
「敵味方なんて世の流れで幾らでも変わるのだから、良いじゃねえか。第一……」
ここまで言うとヘンリーはワインを飲み干しニヤリと笑う。
「むしろあんたとしては、そっちのほうが都合が良いんだろう」
「まあね」
本を閉じ、手渡されたワインの香りを楽しみながら彼はヘンリーの言葉を肯定する。
自らの手先となる組織が世界征服を成し遂げて人類防衛機構を確立するもよし、仮面ライダーが増えて人類が外敵に対しての防衛力を確保するもよし。
人類の存続を目的とする彼からしてみれば、どちらの未来でも構わないのだ。
そういった意味で、光と闇を苦しみながら行き来する彼は都合の良い存在であった。
ライダーと手を組まなければならない程の脅威が出現した時のハードルが随分と下がる。
「ところで、あんな面白い青臭い奴をどの時代で拾ってきたんだ?」
彼に忠誠を誓い、永遠の命を手に入れた人間。ヘンリーはアインロールドをそのような存在だと考えていた。
そう言った存在が仮に転生し新たな肉体と人生を手に入れても、どうしても前世の影が見え隠れする。行動に初体験ゆえの躊躇や戸惑いが極端に少ないのだ。
もっとも、彼は苦笑いと共に首を横に振るう。
「あの子は天然ものさ。私の眷属ではない」
「マジかよ……」
「本当さ。誘拐してきた人間が、偶然天然物だっただけだ」
彼の眷属とならなくても、何らかの理由で稀にだが人格を保ったまま生まれ変わり続けるものがいる。
最近神になった男などが良い例だ。
「俺の勘も鈍ったもんだ……。とはいえ、良い拾い物だったな。ありゃ良い幹部に育つぜ」
「まったくだ」
彼はワインを口にしながら、ヘンリーにすら聞こえないよう小さく呟く。
(多分、あの子は観測者だ……。二千年、探しても見つからず作る事も出来なかった存在が偶然転がり込んでいたとはね……)
おそらく、この先の世界の命運にかかわる存在の一人となるだろう。
ヘンリーが気に入るのも道理だ。
「そうだ、丁度いい。君にやってもらいたい事があるのだが」
「俺に?」
そう言うと、彼はテーブルの上にクリスタルを無造作に投げ出す。
「これは?」
「人造コズミックエナジークリスタル。回収を命じたらしっかりと持ってきていたよ」
ネオショッカーに対する嫌がらせ程度で本腰を入れた命令ではなかったのだが、まさかパワーアップを遂げた上にエイリアンの撃墜と石の回収までこなすとは、実に優秀な若者だと評価を高める。
スイッチに関しては別の使い道があるらしく回収していたようだが、それは今気にしても仕方がないだろう。
なお、実はうっかり持ち帰ってしまっただけなのが、そこまでは彼にもわからない。
「これをあの子の名前で返しておいてくれないかな?」
「良いんですか?」
「ほぼガス欠の石ころさ。コズミックエナジーが降り注ぐところに置いておかなきゃ意味は無い」
この石は彼にとっては、もうさほど意味が無い品だ。
美術品として飾っておくような趣味があるわけでもない。
なにより……。
「ああ、彼の名前で伝言も頼むよ。いずれ必要になる時が来るってね」
そう遠くない未来、この世界の命運をかけた戦いが起こる。
近年は立て続けに起こっている大きな戦いの一つではあるが、世界を守る存在は一人でも多いほうが良いだろう。
彼の目的は人類の守護。
そのために使える存在はすべて使う。それだけであった。
というわけで、たぶん次回から新章突入です。
なお、サイクロンヘルが賢吾たちを守ったのはイケメンだったからです(いらない情報