ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
掃除をするなんて格好つけて出てきたのは良いけど、どうすっかなぁ……。
正直、偶然巻き込まれた人間ならこっそり逃がしてやるぐらいはするが、態々好き好んで攻め込んでくる奴らにかける慈悲は無い。
まして、軍艦で乗り付けてくるなら危険な集団に対するお仕事って事で多少手心を加えてやってもいいが、民間の遊覧船に偽装しているという事は十中八九後ろ暗い連中だ。
死んだところで自己責任。
如月さんには申し訳ないが、こういう思考を自然としてしまうあたり、俺はショッカーライダーなんだろう。
やはり俺は表に出るべき人間じゃない。
こういう悩みとは別の問題がある。
俺の横で歩いている銀髪縦ロールのお嬢様だ。俺と一緒に迎撃に出ると言いだした彼女をどこまで戦わせていい物か……。
なんせここはショッカーの施設。彼女は視察に来た客人だ。正直に言えば素直に指令室で待っていてほしい所なのだ。
ちょっとどこまでやるつもりか聞かなきゃならないのだが、どう話しかければいい物か。
「テオドラ、あのさ……」
やべ、素が出た。
悩んだ末にいつもの口調ではなく素で話してしまうあたり俺も修行が足りない。
「横紙破りをするようなことを申し訳ありません、アインロールド様」
「いや、それは良いんだけど」
今廊下を歩いているのは俺たち二人だけだ。テオドラはこっちが素だと知っているし、今更取り繕うのも滑稽なのでもうこのまま話し続けよう。
もう面倒なので聞きたいことをストレートに尋ねる事にする。
「デストロン、やはり良くないのか?」
系列とはいえ他の組織の大幹部に聞くには失礼すぎる聞き方だ。とはいえ、彼女との付き合いを考えりゃこの位ストレートでも構わないだろう。
俺の問いかけにテオドラはちょっと驚いたような、なんか妙に嬉しそうななんとも微妙な表情を浮かべ、こう尋ね返してくる。
「心配していただけるのですか?」
「そりゃデストロンの噂を考えればね。心配するなってのが無理な話だ」
ショッカーの幹部候補生になった頃からの付き合いで、任務の都合でチームを組んでいた事も有る。
それなりに親しい女性がデストロンの幹部をやっているのを心配するなってのが無理な話だ。
「幹部候補生だった頃の仲間も俺とミカ、あとはお前だけだしな」
9割はむかつく悪党で、1割はそれなりに気のいい悪党。さらにそれとは別に半数は外道という中々素敵な幹部候補生たちだったが、それでも中で暮らしていればそれなりに気の合う連中というのも出来てくる。
いつの間にか出来たグループだったが、ある者は仮面ライダーに倒され、あるいはいつの間にか消えていて、残っているのはもう3人だけとなった。
俺も含めて滅びて当然の連中ではあったが、それでも知っている顔が消えていくというのは寂しく感じるものだ。
「懐かしいですね。あの頃のミカさんは貴方の傍を中々離れませんでしたね。スクールの子たちも……」
口の悪い連中からはオンブバッタ扱いされたっけ。割とあの頃は情緒不安定だったからな、ミカ。
そういや本部に移ったスクールにちょくちょく顔を出していたっけ、テオドラ。アンナさんがお菓子を大量に持ち込むものだからあいつらも……。
過去というにはほんの少し前の出来事。胸に燃え盛る黒い炎を見ないようにしながらもを懐かしい過去を思い出していた俺を微笑みながら見つめていたテオドラだったが、急にはっとして真顔になると謝罪の言葉を口にした。
「あの、ごめんなさい」
「いや、悪いのは俺の方だ、気を使わせちまった。それよりもテオドラの事だ。大丈夫なのか?」
俺たちの事情を色々と知っているからな、テオドラも。
それよりも、テオドラの現状を確認したい。
「司令官自らの武勲が必要なほどまずいのか?」
「幸いそこまで追い詰められてはおりませんが、ショッカーの陰に隠れていたなどと影口を叩かれたくはありませんので」
「司令官に何を求めているんだか」
デストロン。
かつては仮面ライダーV3との死闘を繰り広げた世界征服を企む秘密結社だ。
その残党は様々な組織を渡り歩いた末、現代に復活したショッカーに合流するものの、再度のショッカー壊滅の際に独立してデストロンとして蘇る事となる。
とはいえ、元デストロン純正のメンバーの多くはショッカー壊滅時にV3に討ち取られており、現在のデストロンはキバ一族、ツバサ一族、ヨロイ一族の三大結託部族合議によって運営されている。
部族合議という体制のためテオドラはデストロンの司令官ではあるがあくまでも対外的な暫定でしかなく、内情はあくまでキバ一族の頭領でしかない。系列組織でデストロンの動きが一番活発なのも、各部族や純正メンバーが組織内での主導権を握ろうと各々が勝手に動く為である。
そして結託部族の連中だが、テオドラはデストロンとしては奇跡的な穏健派だが、残りは……相も変らぬデストロンだ。
懲りずにロンドン壊滅作戦やカイロ征服作戦、東京消滅作戦を計画しては、V3を始めとした仮面ライダーたちのカチコミを受けて作戦を失敗している。
テオドラが暫定司令官なのも、他が勝手に失点を重ねている点が大きい。
自分たちが失点を重ねる中、組織運営をこなすキバ一族の才媛。ツバサ一族とヨロイ一族にとって彼女は邪魔者なのだ。
まだ暗殺等の動きは無いようだが、何かあれば槍玉に挙げられる事は間違いない。
彼女が事あるごとに俺を勧誘するのも、ライダー殺しの異名を持つ俺を配下に加える事により基盤を強化し他部族の制御をしたいという思惑があるのだ。
「何かあればこっちを頼れよ。助けに行く事や、テオドラ達ぐらいなら匿う事も出来る」
何かあったら助けになってやりたいと思う程度には親しく付き合っている相手だ。
昨日話した相手が今日には消えている。そんな業界に身を置いているとはいえ、出来る事なら何かしてやりたいとは思う。
「できればアインロールド様が私の所に来ていただけるのが一番良いのですが? ミカさんも一緒に……」
テオドラは唐突に俺の前に出ると、くるりと俺に向き直る。
銀色の髪がふわりと宙に舞い、照明の明かりを跳ね返し銀色の曲線を描く。
すっとテオドラが背伸びをすると、俺の視界の真ん中にテオドラの鼻梁の整った顔が占める。
普段は凛とした表情を浮かべている事が多い彼女だが、この時のテオドラはどこかいたずらっ子のような、年相応の少女らしい微笑を浮かべていて……その、とても可愛かった。
「来てくださらないのですか?」
「そうは言ってもね……」
別にショッカーに愛着があるわけじゃないが、今の自分の立場を捨てるわけにはいかない。
彼女もそれをわかっているけど、俺だけじゃなくてミカにも来て欲しいのだろう。
テオドラの表情と近すぎる距離に胸の高鳴りを感じながら、それを表に出さないように何時もの調子を取り繕い格好をつける。
「行く事は出来なくても、テオドラを見捨てる気は無いさ」
この言葉に一切の嘘は無い。彼女に絆された俺は確かにいる。
だが、同時に思う。
見た目は可憐な少女でも、この女も俺と同じ地獄の悪鬼であり滅ぼされる悪である、と……。
と、まぁ、そんな話があったようななかったような……。うん、これ以上のやり取りは何もなかった、何もなかったよ。
とにかく、不審船団の上陸地点となる場所近くの出入り口には、すでに武器を携えた警備部の戦闘員と改造人間が待機していた。
「イーッ!」
俺たちが姿を現すと、戦闘員たちはいっせいに片腕を上げ敬礼をする。
そんな中、この場を仕切っていた改造人間が前に出てくる。
旧ショッカー海軍の軍服に身を包んだ、髪を刈りこんだ美丈夫。
このショッカー・アイランド・シップの建造責任者である改造人間アマゾネア……って、ちょっと待て!?
「待て、なぜお前が此処にいる、アマゾネア? 船の指揮はどうした?」
確か、指令室にいたよね。そこで別れたよね。
というか、ここの総指揮官が何で迎撃隊にいるのよ?
「船の指揮は副官に任せてきました」
まてや。
悪びれる事なく、さわやかに宣言するアマゾネアに思わず冷たい目を向けてしまう。
俺の視線に気が付いたのかどうかは分からないが、アマゾネアが状況の説明を続ける。
「実のところ、作業班の水陸両用の改造人間も緊急事態という事で警備に当たらせましたが、どうしても数が足りません」
「どういう事だ?」
「プルトンロケットを爆発させた影響で大穴が開いておりますので……。不審船が陽動の可能性を考えるとそちらにも警備を割かねばなりません」
そういやあったな、あの大穴。
さらに、修理が完全ではない他の出入り口にも警備を回すとなると、なるほどいくら人手があっても足りないのも道理だ。
そう納得する俺たちに、更に俺とテオドラにだけ聞こえるような小声で話を伝える。
「信用できない者もおります。特にヨロイ一族から派遣された者に監視をつけなければなりません」
ショッカー・アイランド・シップの再建にあたり系列組織の改造人間や技師の派遣を受けているが、そのすべてが信用できるわけではない。
流石に自分の組織の看板に泥を塗るような真似をする奴はいないが、揉め事は日常茶飯事らしい。
そんな中、ぶっちぎりで信用できないのがデストロン、その中でもヨロイ一族から派遣されてきた連中はトラブルを起こす事が多い。
ショッカーというよりも俺がヨロイ一族と揉めたのが原因なのだが、反省はしていない。
クソ女錬金術師に惑わされて、ちょっかいをかけて来たのが悪いのだ。報復としてヨロイ一族の耐久テストも兼ねた壁のオブジェになってもらっただけで殺してないのだから、むしろ俺は慈悲深いと思う。
そいつがヨロイ一族のエリートだとか知った事じゃない。
悪の組織なんてするもんじゃねえな、ほんと。
逆恨みのあげく、延々と一族総出で嫌がらせをしてくるのだから堪ったものじゃない。
「それはそうと、どうやって先回りをしたんだ? 真っ直ぐここに来たはずなんだが」
これ以上あの一族の事を考えても仕方ないので話題を変える。
少々だけ立ち話はしたが到着が遅れるほど長く話をしていたわけではない。
隠し通路でもあったのか、それにしても距離は変わらないと思うが……。
「えっ? アインロールド様が手配したのでは無かったのですか?」
「俺の指示?」
「はい、こちらに向かう私の前にサイクロンヘルが現れましたので、乗って来いという事かと……」
アマゾネアの言葉を待っていたのだろう。暗がりからサイクロンヘルが姿を現す。
ヘリに積んで来たのでいるのは不思議じゃないが、指示も出していないのにそんな事やってたのか?
元々サイクロンヘルはショッカーの倉庫に転がっていたジャンク品から組み上げたバイクである。搭載されているAIも転がっていた残骸から回収した物だ。
幹部候補生になった時にバイク本体は最新鋭の技術で新造したが、AIはあの頃のままである。
そんな来歴のせいか妙なシンギュラリティを迎えているらしく、時折勝手な行動を行うのだ。
不利益は無いので好きにさせているが、ほんと何を考えているのだか……。
「まぁ、いい。連中は?」
考えると頭が痛くなりそうなので、この点は触れないことにする。
それよりも襲撃者の情報を知りたかった。
「上陸は間もなくかと」
「そうか。面倒そうなのは俺が潰す。お前らは入り口の防衛と牽制をやっていろ。あくまでも目的は侵入の阻止だ、深追いはするな」
俺の命令が戦闘員に行き届くのを待って、特記戦力の二人に話しかける。
「テオドラ殿は……」
「アインロールド様と組むのも久しぶりですね、貴方の背中は任せてください、私が守ります」
俺の戦い方はだいぶ変わったが、合わせる事はさほど難しくないだろう。
彼女はそう答えるとどこからともなく白銀の兜を取り出し装着する。この瞬間から彼女はデストロンの幹部、ファング・カウンテスだ。
なんか今のやり取りを見ていた戦闘員がひそひそ話している気がするが、そっちは無視をしてアマゾネアに命令を下す。
「アマゾネア、お前はこいつらの指揮と隙があれば船を潰せ。ただし、無理はするなよ」
「お任せを」
返答と共に、アマゾネアの姿も変わる。
黒いショッカー海軍の軍服があふれ出すエネルギーの奔流に翻る。
腰に出現したベルトを中心に紫と赤の強化戦闘服が全身を包む。赤い袈裟懸けのショルダーアーマーと魚を模したヘルメットが装着され、潜水服を思わせる目が光を灯す。
そして先頭を歩く俺も、その姿を変えていく。
「変身」
腰に出現したベルト。その中心の風車が俺の意思に反応をしてゆっくりと回りだす。
そこから生み出された莫大なエネルギーが全身をめぐる。生体強化ナノマシンが活性化し、生み出されたナノマシンの強化戦闘服が全身を包み込む。
黒いヘルメットが頭部を守り、全身の補助機械によるステータスが脳裏に浮かび上がる。
最後に赤い複眼が輝き、俺の姿はショッカーライダー・アインロールドへと変わる。
暴走モードは無い。まだミカの支配領域内にいる為に、AIの暴走が抑制されているのだ。
「行くぞ。ネズミ狩りだ」
日がどっぷりと落ちて月と満天の星々が南国の夜空を彩る。
都会では見る事の出来ない幻想的な夜空、女の子と一緒に歩くと楽しいロマンチックな景色だ。
もっとも、無粋な不審船団の出現を待ち構える俺たちはそんな星空を気にする事などない。
やがて五隻の船が明かりも無く到着しSISに接舷する。
船からは黒い覆面の兵士たちが次々に降り立っていく。揃いの暗視用のゴーグルに自動小銃とボディアーマー。
その動きは機敏なもので、素人ではありえない。おそらくはいずれかの国で正規の訓練を受けた特殊部隊だろう。
「できればでいい。指揮官らしい奴がいたら生かして捕らえろ。背景が知りたい」
主要国家以外の国による非正規の作戦だろう。まともな軍隊なら、改造人間を擁するショッカーにあんな少集団の兵士では挑まない。
まだ、数人で潜入した方が結果は残せる。
やがて降り立つものが兵士たち以外となる。
甲殻類を模した姿の甲冑の騎士、どこか和の匂いを感じる槍を持った兵士、明るく脈動する甲冑の戦士、ゲームから飛び出したかのようなコミカルなボディーアーマーの男、動物を模したマスクの男、なにやらメモリのようなものを体に突き刺す怪物……。
「ドーパントまでいたのか……」
隣にいたアマゾネアもさすがに我慢しきれず呆れ声を上げる。
金で動かせるタイプの連中の集合市だ。本当に財団Xじゃないのかと俺ですら疑心暗鬼になる。
「一番面倒そうなのは、あれだな……。俺が先に飛び出す。後は頼むぞ」
俺は一人勝手に宣言をすると、返事を待たず飛び出す。
片足にエネルギーを集中させる。赤い輝きが右足に灯ると同時に、俺は大きく跳躍した。
「ライダーキック!」
「なっ!?」
まずは狙うのは甲殻類を模した仮面ライダー。その特徴的な面当ての格子は間違いなくミラーライダーだ。
唐突な不意打ちだ。暗い赤色のライダーは回避行動をとる事も出来ず、俺の右足の餌食となる。
蹴り飛ばされた名も知らぬライダーは十メートル以上の地面を削り、さらには停泊していた船舶に轟音を上げてその身をめり込ませる。
そのまま奴の変身は解除され、意識を失った白人の大柄な男が転がり落ちた。
「まずは一匹」
不意打ちで倒したミラーワールド製のライダーシステムは使用者次第で大物食いが出来る実に厄介なシステムだ。
硬く火力があり搦手も豊富。乱戦になるとなかなか倒せなくなる上に、長期戦でネックとなるカード数の上限も周囲のフォロー次第で使用数を控えられる。
他のライダーと組ませると加速度的に厄介さを増す。それがミラーワールド製ライダーだ。
こいつらを見かけたら真っ先に潰すに限る。
「か、仮面ライダー!? い、いや、違う!? 貴様、何者だ!?」
ミラーライダーが倒れて、ようやく兵士たちが動き出す。
唐突に乱入してきた俺に、遅れてガタイの良い兵士が何者かと問いかけてくる。
「勝手にショッカーの船に乗船しておいて、ひどい言い草だな」
嘲りを込めた言葉と共に、兵士たちを漫然と眺める。
この状況で銃を構える事が出来るだけ優秀とみるか、呆然として引き金を引けない事を無能とみるか。
「さて、俺は慈悲深いのでな。今すぐこの船から下船するならば、命だけは見逃してやろう。下りないというのなら、その薄汚い命をショッカーに捧げてもらう」
どうせ聞かないだろうと思いつつ警告だけは出してやる。
ここで尻尾を巻いて帰るようなら、こんな場所までわざわざ来ない。
案の定、俺の慈悲深い警告に対する答えは、一斉に向けられた銃口だった。
「ふ、ふざけるな! 一人で飛び込んできて無事で済むと思ったのか!」
唐突に頼みの綱のパチモンライダーが倒されて混乱しているのか、それとも素でこうなのか。
先ほどのガタイの良い男が俺に向かって攻撃をするよう指示を出す。
こいつが指揮官か。隠ぺいには相当気を使っていたSISをどこで知ったのか、とっ捕まえて吐かせなきゃならないな。
「一人だと思ったのか?」
俺の言葉に呼応したわけではないだろうが、引き金を引こうとした兵士たちが驚きの声を上げる。
「ゆ、雪!? こんなところで?」
唐突に周囲にちらついた白い粉。テオドラの冷凍能力により、南国の空気が急速に冷やされ空気中の水分が氷雪のように舞い散るのだ。
満天の星空の元、舞い散る純白の粉雪。場違いな美しい光景なのだろうが、それは死を告げる恐るべき輝きだ。
すたりと、軽快な音を立てて俺の背後に白銀の女騎士が降り立つ。
まるで絵画のような一幕。だが、その美しさに感動する事も無く粗雑な兵士どもは手に持った銃の引き金を引く。
「撃て! 撃てぇ! あんな前時代的な甲冑、コケ脅しだ!」
デストロンの幹部が着る鎧がコケ脅しの筈がないだろう。
士気を高めるためなのか、それとも無知なのか。指揮官と思われる男の勘違いも甚だしい号令の元、一斉に火を噴く。
俺とテオドラに向かい鉛の弾が飛んでくる。
当たりそうな弾丸をキャッチしても良いのだが、ここはテオドラに任せよう。
「まったく、野蛮な……」
自慢の鎧を侮辱されたテオドラの口から洩れたのは呆れ声だった。
それと同時に、俺たちに向かい放たれた弾丸が空中でぴたりと停止する。
何のことは無い。テオドラが生み出した氷の壁がすべての弾丸を受け止め、停止させただけだ。
「な、なんだと!? 何が起こっている!?」
指揮官らしき男が驚きの声を上げる。
この船の事を知らされ幹部の視察に合わせて攻撃をしてきた割に、予習が全くなっていない。
本命は別にいる事は間違いない。こいつらに手を煩わされている場合ではないな。
かつてV3を追い詰め、3人のライダー相手でも引けを取らなかったキバ一族の強豪改造人間ユキオオカミ。その流れをくむ冷気を操る改造人間がテオドラだ。
ユキオオカミをはるかに上回る冷気操作能力を持つ彼女は、その気になればあらゆる物を凍り付かせる事が出来る。
そんな彼女にとって、弾丸を受け止める氷の壁を作るなど造作も無い事だ。
「お返ししますわ」
その言葉と共に氷の壁が崩れ、鋭い刃と化した氷片が兵士たちに降り注ぐ。
「ひっ!? ぎゃあああああああ!」
阿鼻叫喚とはこの事だろう。
前列に並んでいた兵士たちが次々に切り裂かれ、あるいは氷の刃に刺され倒れていく。
その凄惨な光景にもかかわらず、こちらに向かってくる者たちがいた。
一人は、黒いボディに白い氷の塊を鎧のように張り付けた怪人。おそらくはドーパントだろう。
妙に寸詰まりの指から冷気を噴出させながらテオドラに一直線に向かってくる。
冷気を操る自分なら、テオドラの冷気も効かないと考えたのか?
「こんな氷程度、砕け散れぇ!」
指の噴出口から噴き出した冷気をテオドラに向ける。
射線上の大地が凍り付き白い輝きを放つ。
テオドラはその冷気を躱すことなく一身に浴びる。
そしてテオドラの身も白い氷の棺に閉じ込められた。
「ははっ! ショッカーの怪人といえどもこんなものよ!」
その姿を見てドーパントが勝ち誇った笑いを上げる。
だけど、甘い。
「何かしまして?」
何事も無かったかのような涼しい声があたりに響く。
次の瞬間、テオドラを拘束していた氷の棺にひびが入る。
「そ、そんな!?」
ドーパントの驚きの声と同時に、氷の棺が粉みじんに砕け散る。
その内より飛び出すテオドラは既に長剣を構えていた。
そう、あの程度の雑な冷気噴出などテオドラが回避できないはずがない。相手の攻撃の性質を見切ったテオドラが、格の違いを見せつけるためにあえて受けたのだ。
至近で生み出した氷の壁で冷気を遮断。相手の冷気はそちらで受けとめ内部から破壊したのだろう。
彼女が握る長剣の刀身に、鋭い刃となった氷塊が纏わりつく。
「砕け散るのは貴女ですよ!」
そのまま一閃。
巨大な氷の剣の前に、ドーパントの冷気による防御は意味をなさない。
圧倒的質量と斬撃の鋭さの前に、ドーパントを守っていた氷の鎧が砕け散り、ついにはその変身すら解ける。
「ああ、一つ訂正を。私はショッカーではなく、デストロンですわ」
ピクリとも動かなくなった傭兵に、テオドラは冷たい声を投げかけた。
ごつごつとした甲冑のような出で立ち。
手に持つのは槍型のアームズウエポン影松。
俺に向かってきたのは黒影トルーパー。ユグドラシルが開発した量産型ライダーシステムだ。
「ショッカーめ!」
思ったより鋭い槍の繰り出しを左手で受け流す。
そのまま掴んでやろうかと思ったが、想定以上に引きが早く次々に突きを繰り出してくる。
「ほう?」
よほど鍛えているのか、隙があまりない。突きの速度も中々のものだ。
軽く後退しながら槍を素手で弾き続ける。
俺の身体を捉える事が出来るほどの技のさえではないが、弾く腕が少々痛いなと思う程度には力も乗っている。
「くたばれ! ショッカー!」
後退する俺を見てチャンスかと思ったのか、今まで以上に鋭い突きが繰り出される。
だが、それは身体の安定を欠く隙だらけの一撃だ。
「すまんな。その程度の技で、俺は捉えられん」
加速を使うまでも無く槍を避け身を黒影トルーパーの横に擦り込ませると、そのまま回し蹴りを食らわせる。
俺のパワーに黒影トルーパーは体勢を崩し槍を取り落とす。
「とどめだ。ライダーパンチ」
上から振り落とす形で黒影トルーパーの頭を殴り飛ばす。
回し蹴りで体勢を崩していた黒影トルーパーは俺のパンチを回避する事など出来ず、人の身ではありえないバウンドを繰り返し倒れ伏す。
ピクリとも動かなくなった黒影トルーパーが一瞬だけ発光し、変身が解除された。
これで特機戦力は3人を撃破。
「さてと、次は誰だ?」
倒した黒影トルーパーから目を離し、まだ無事な敵に目を向ける。
ライダーシステム持ち、ただの兵士、ともに無傷な者がまだ大半だ。
とはいえ、目の前で味方が成す術もなく倒された様は、彼らに恐怖心を感じさせるには十分なインパクトがあった。
明らかに動揺する兵士たち、一歩踏み出す俺の動きに騒めき、無意識のうちに後退する。
「下がれる場所があると思うのか?」
次の瞬間、今度は停泊をしていた連中の船のうちの一隻が大爆発を起こす。
周囲に爆音が響き、燃え盛る炎があたりを照らす。
その炎を背景に、海から魚を模した面の男が姿を現す。
アマゾネアだ。俺たちが暴れている隙に海中より船に近づいたアマゾネアが船を爆破したのだ。
爆破した船は1隻。だが、燃え盛る炎と沈む船、そして海より出現する怪人という悪夢のような光景は、兵たちの士気を完全に崩壊させるには十分であった。
「に、逃げるんだ!」
兵士たちのうち誰かがそう叫ぶ。
船はまだ残っている。銃器を投げ捨て、我先にと残っている船に向かおうとする。
こんな化け物たちと戦っていられるか。彼らの考えはそんな物だろう。
「ま、まて! お前らどこに行く!?」
敵司令官と思われる大男が慌てて叫ぶが、士気の崩壊した兵士たちが船に戻ろうとするのを止める事など出来ない。
当たり前だ。一度士気が崩壊して逃げ出した兵士たちが指揮官の言うことなど聞くはずも無かった。
「蹂躙せよ」
そして、敗走を始めた兵士など物の数ではない。
アマゾネアの声に、岩陰に隠れていたショッカーの戦闘員たちが一斉に姿を現す。
手に持った棍棒やククリ刀で兵士たちに襲い掛かる。
流れ弾による同士討ちを避けるため火器は使用していないが、秩序の崩壊した兵士相手には十分であった。
もともと常人の数倍に身体能力が高められている戦闘員に背後から襲われ、兵士たちは次々と倒れていく。
こうなると俺やテオドラの出る幕など無い。なんせ、面倒な量産型ライダーですら恐怖に捕らわれ、船に戻ろうと必死なのだ。
「イッー!」
「まてっ! させるか!」
次々に倒れる兵士たちであったが、黒覆面の兵士の一人が果敢にも戦闘員に対して挑んでくる。
ククリ刀を振りかぶる戦闘員の腕を押さえ、さらには流れるような仕草で背負いあげ戦闘員を投げ飛ばしてしまう。
「あれは?」
良い動きだ。
抵抗する兵士に目を付けた戦闘員たちが2人、3人とそちらに向かう。
だが、その兵士は徒手空拳にも拘らず戦闘員をあしらい、投げ飛ばし、殴り飛ばし戦闘員を沈黙させていく。
まて、何かがおかしいぞ?
「あの兵士は?」
テオドラもおかしいと気が付いたのだろう。
俺たちが注目する中、次々に男は奮戦を続ける。様子のおかしさに、戦闘員たちも自然と距離を取って男を包囲する。
そんななか、男は邪魔だったのだろう黒いマスクを脱ぎ捨てる。
美丈夫とは彼のような男のことを言うのだろう。
整った顔立ちだが弱々しさは無い。強い意志と、確固たる信念が男の顔に刀剣にも似た鋭さと大樹の様な力強さをもたらしている。
その流麗な視線が戦闘員たちを、俺たちを貫く。
「あ、あの男は……!?」
テオドラはあの男の事を知っている。
いや、直接の面識はないが俺もあの男の事は知っている。
あまりにも、あまりにも有名な男だ。我らショッカー、そしてデストロンにとっては。
「ファング・カウンテス! これ以上はさせんぞ!」
男はそう叫ぶと、両腕を右手に水平に構える。
そのまま腕を大きく左手に回すと、右腕で拳を作り大きく引き絞る。
「変身。ブイスリイイイイ!」
引き絞られた右腕を大きく振り上げる。
それと同時に男の腰に二つの風車が供えられたベルトが出現。彼の命のベルト、ダブルタイフーンが唸りを上げて膨大な力を吐き出す。
あのベルトを持つ男は、この世界には一人しかいない。
男の名は風見志郎。
そして、彼が変身するのは……。
「とぉ!」
風見志郎の姿が変わる。
赤いマスク、緑の複眼、白いマフラー、中央に赤いラインの入った銀の胸……。
恐るべき力を秘めた存在が大地に降り立つ。
そう、奴の名前は……。
「仮面ライダー、ブイスリー!」
仮面ライダーV3。
かつてデストロンに瀕死の重傷を負わされた風見志郎を、本郷さんたちが命を救うために改造した3人目の仮面ライダー。
伝説の7人、その3人目がショッカー・アイランド・シップにその姿を現したのであった。
サイクロンヘル<●><●> ●REC カセギドキ!