ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話   作:さざみー

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第41話 episode・Hibiki 推理パートは人に任せたい

 あの後、廃トンネルの監視は桐矢さんのお弟子さん、鼓屋さんに任せる事になった。

 既に鬼の力に覚醒しているらしく、変身体になれるらしい。浄化は無理でも、監視ぐらいならという事で任された。

 

 俺たちオカ研と二人のライダーとデネブは改めて橋があった場所までやってきた。

 

 確認してみるとやはり域里道につながる橋は落ちていた。どうやら巻き込まれて谷底に落ちた人はいないようだが、こちらと向こう側で目撃した人たちが腰を抜かしていた。

 そりゃそうだ。一歩間違えれば自分達がまきこまれたと考えれば生きた心地がしないだろう。

 

 しかもだ……。

 

「うそ、携帯がつながらない?」

 

 高槻が取り出したスマホをいじりながら驚きの声を上げる。

 

「うわ、こっちもだ?」

「私の携帯も!? 電話もラインもつながらない!?」

 

 高槻の反応をきっかけに、周囲の人間も次々に自分の端末を取り出し確認を始める。

 だが、誰一人としてつながる人間はいない。

 

 これを行ったものはこの地から人を逃がす気は無く、外部との連絡を絶つだろう。

 とはいえ、ここは現代日本。向かいの人たちが連絡を入れれば自衛隊や消防が来て脱出は出来る。

 問題は、そのタイミングで襲ってくる可能性が非常に高い事だ。

 

 

「ここを降りるのは無理ですね」

 

 一回考えを放り投げながら、差しさわりの無い事を口にする。

 険しい崖を何の装備もなしに生身で降りる事は普通の人間には無理だろう。渓谷の底には破壊された橋の残骸が無残な姿を晒している。

 

「それは見ればわかる」

 

 俺の言葉に桐矢さんが苛立った声を上げる。

 通信は駄目、外に出る事も出来ない。さらには、この域里道には3つのキャンプ場があり、そこにどれだけキャンプの客がいるかわからない。

 廃トンネルの監視に弟子を置いていかなければならなかった事も含め、彼の苛立ちは相当なものだろう。

 

「そんな……こんな事になるなんて」

 

 部長が真っ青な顔で呟く。高槻や他の先輩方も同じ様子だ。

 

 先ほどのカマタロス襲撃直後はすぐさま助けが来た。磔の魔化魍に至っては現実離れをしすぎていて、恐怖で驚きこそすれどこかアトラクションのような夢見心地だったのだろう。

 

 別に彼女たちの反応が愚鈍というわけではない。比較的近場の観光地、何度も来ている場所という安心感もあって、なかなか実感が出来なかったのだろう。

 だが、この場から逃げようがなくなったという事実、落ちた橋という身近な物の無残な姿を見てようやく危険な状況だと実感してしまったのだ。

 

「お前たちのせいではない。運が悪かっただけだ」

「でも……」

「ここはただの観光地だ。こんなご時世だ、気を付けていても巻き込まれるときは巻き込まれる。後輩や友人を連れてきたことを悔やんでいるのだろうが、気に病むな」

 

 落ち込む先輩たちに話しかけているのは桐矢さんだ。

 なんというか、上から目線というか偉そうだが、それでも彼なりに気遣おうとしているのだ。

 何とも不器用な人である。

 

 域里道は一般には知られていない、35年前に起きたRXとクライシス帝国の古戦場の一つではあるが、それはもう昔の話。そもそも、この話を知っているのはうちらの業界でもほんの一握りだ。

 いや、うちらの業界の人間から見ても、35年以上何も無かった平和な土地だ。

 一般にはあの廃トンネルも有名なオカルトスポットという触れ込みの観光地で、ネットを漁ればハイキングがてら探検に来た連中の映像がいくらでも出てくる。なんなら、オカ研も毎年来ていたぐらいだ。

 

 しかし……。

 

 よくよく考えてみたら、少なくともこの辺りで騒動があったなんて噂は俺の耳に届いていない。異世界人の人攫いですら見つけ出すショッカーだ。イマジンや魔化魍なんて既知の存在が暴れていれば確実に俺の耳に届く。

 流石に専門家だけあって魔化魍に関して猛士がうちより先に掴んでいたようだが、桐矢さんの反応を見るにイマジンの事は掴んでいなかった。

 

 つまりあのカマタロスは長くても数か月、観光地という事を考えれば下手すりゃ一月以下の短い期間に10体近い魔化魍を身を隠しつつ倒していたって事か?

 

 あの妙なノリに誤魔化されそうだが、相当な実力者だなこりゃ……。

 

 そう考えるとさらに疑問が出てくる。

 あの時は先輩への攻撃を見て殺気と思ってしまったが、本当に殺意があったのか? 変身前の俺が余裕で先輩をかばえたぞ?

 

 そもそも、大破壊って何だ? 未来の俺はなんでイマジンをこの時代に送り込んだ?

 何の理由もなく、こんな事はしない。

 

 あー、いかん。情報のピースが足りなさすぎる。考えても答えは出てこないな、こりゃ。

 

「どうやら君は平気そうだな」

 

 一人考え込んでいた俺にデネブさんが話しかけてくる。

 俺を気遣ったのか、それとも手持ち無沙汰だったのか。

 

「はい、一周回って落ち着きました」

 

 正直、カマタロスの登場以降の衝撃がすごすぎて動揺していたが、今はもう平気だ。

 あの手の連中、地味にトラウマなんだよね。妙に寄ってくるから……。

 あ、でもこれは丁度いい。桜井さん、桐矢さんよりは話しやすい。

 

「それより、デネブさん」

「どうした?」

「先ほど桜井さんが話していた大破壊って何ですか? この地で何が起きるって言うんですか?」

 

 話しかけられたのを良い事に俺は未来に何があったのかを聞き出そうとする。

 

「そ、それは……」

「お願いします、教えてください。あの魔化魍って化け物が暴れるんですか? いったい何があったんですか?」

「そ、それは……すまない、君に教える事は出来ない」

「ですよね。すいません、変な事を聞いて」

 

 拒否されたか。

 一般人に話せるわけもないので、当然と言えば当然だ。だが、ヒントは十分得る事が出来た。

 

 先ほどの廃トンネルの隠し部屋、あの時の桜井さんが発した言葉にヒントがあった。

 この世界の闇の中には多種多様な化け物がいる。その種により分かりやすい特徴のある化け物もいるが、魔化魍は比較的外見に色彩など固有の特徴が少ない。それなのにもかかわらず、桜井さんは磔になった化け物を見て一発で魔化魍と看破した。

 

 そして一発で化け物を魔化魍と看破したのにもかかわらず、魔化魍は死ぬと消えるという基本情報が出てこなかった。

 なぜ桜井さんはアレを見て一発で魔化魍とわかったのか。おそらくはこの時代に来る直前、彼らの言う大破壊において魔化魍を見たのだろう

 

 デネブさんが魔化魍という言葉に反応した事と合わせてみれば、この地で起こる大破壊は魔化魍関連と考えて間違いない。

 そして、俺は魔化魍が引き起こす大破壊に一つだけ心当たりがあった。

 

 オロチ現象。

 

 魔化魍が無秩序に、大量発生する現象だ。だが、これには予兆があり対魔化魍の組織である猛士が見逃すとは思えない。

 そもそも、あそこに磔になっていた大量の魔化魍は何なのか。未来の俺はなぜカマタロスをこの時代に送り込んだのか?

 

 あー、くそ、だめだな、これ以上は情報が足りなさ過ぎて推理とは呼べない憶測しかできない。

 

「とりあえず、この場所にいるのは危険だろう。ペンションがある第一キャンプ場に移動した方が良い」

「管理人に話して、キャンプ客を避難させなければならないな。最悪はゼロライナーが使えるが……」

「あれを動かすのは最後にするべきだな」

「だろうな。動かした途端に襲撃が始まる可能性が高い。ゼロライナーは無事でも、3つのキャンプ場全てを守り切る事は出来ない」

 

 俺がポーカーフェイスのまま頭を悩ませている横で、桐矢さんと桜井さんが頭を悩ませる。同じ顔の二人が対面で対策を練っているのは一見シュールな光景だが、話しているのは内容はとても深刻だ。

 相手がこちらを舐めている、もしくはまだ急いで狩る気がない。そう二人は相手の思考を読んでいた。

 

 それというのも、域里道の構造にある。

 

 深い山林と険しい渓谷に囲まれた域里道に入るのは一本の橋を渡らなければならないのは以前も語ったが、この地はいくつかのキャンプ場が点在する。

 入口からほど近い第一キャンプ場。少し離れた渓谷の清流に面した第二キャンプ場。山頂近くの第三キャンプ場。週末という事も有り、その三か所すべてにキャンプ客がいるのだ。

 しかも、無線を封鎖されているので一度離れてしまえば連絡を取る手段がない。

 

「あんたらがキャンプ場の護衛に回って、俺が二つのキャンプ場の人間を迎えに行くしかないだろう」

 

 

 

 管理棟およびペンションがある第一キャンプ場に俺たちが到着した時に、キャンプ場は一様にざわついていた。

 まだ入り口に近いこの場所なら、先ほど橋が落ちた時の音と振動は聞こえたのだろう。

 親子連れだろう、小学生程度の子供を連れたグループと、日帰りっぽい学生が多い印象だ。

 

「き、君たち! は、橋の方で何があったんだ!?」

 

 明らかに憔悴しきった姿のオカ研や後から来たキャンプ客を見て、先にいたキャンプ客らしい頭の薄いおじさんがヒステリックに訪ねてくる。

 無理もないと思うが、ここで彼への説明に時間を取られているわけにはいかないかった。

 この時代の人間である桐矢さんはおじさんに対してこう答える。

 

「すまない、緊急事態なので二度手間を避けたい。まずは管理人に話すので、ついてきてくれ」

「ああ、わ、悪かった。ペンションに行こう。あそこで電話をしているはずだ」

 

 上手いな。もしくは慣れているのか。

 説明を拒否するのではなく、理由と説明する場所を先に話す事により足止めされることを避けたか。

 しかし、今の説明、橋の破壊と同時に有線も切られたのか?

 

「えっと、そこのお前と、部長も来てくれ。全員で行くわけにはいかないが、証人もある程度必要だ」

「え、俺もですか?」

「一番落ち着いているようだからな」

 

 なんか桐矢さんに指名されたので、俺と部長もペンションについていく。

 ぞろぞろ行っても仕方がないので、桜井さんは外で待っているようだ。デネブさんはキャンプ場到着前に姿を隠している。

 こんな状況でイマジンである自分は姿を見せないほうが良いと判断したのだ

 

 ペンションに入ると、オーナーらしき夫婦が必死の形相で電話をかけていた。

 役に立たない固定電話は床に打ち捨てられ、書類や何やらが散乱している。

 

「すまない、いいか?」

 

 そんな夫婦に、桐矢さんが割って入った。

 

「あ、あんたは!?」

 

 よほど慌てているのだろう。眼鏡をかけたオーナーは早口で桐矢さんに血走った目を向ける。

 

「すまない、橋が落ちた現場を見たのだが……」

「な、何が起こっているんですか! 急に大きな音がしたかと思ったら、突然外部に連絡が取れなくなって!」

「お、落ち着け」

 

 掴みかからんばかりというか、もう掴みかかって問いただそうとするオーナーを桐矢さんは何とか引き離す。

 それで落ち着きを取り戻したわけではないだろうが、何とか話ができる態勢にはなったようだ。

 桐矢さんはまず橋が落ちた事を、怪人がこのあたりをうろついている事を話す。さすがにゼロライナーの事や仮面ライダーの事は話さないようだが、これは仕方が無いだろう。

 

「か、怪人!? そ、そんな!? け、警察を! あ、でも電話が!?」

「落ち着け。まずは落ち着け。橋が落ちた以上、通報は必ずされる! それよりもキャンプ客だ。救助が来た時に備えて、ここに集めるべきだと思うんだが」

「た、確かに。そちらの方が都合が良いですね!」

 

 震えながらもそう答えるオーナーに、桐矢さんは自分たちが考えた避難計画を説明し、オーナーが何度も頷く。

 ん?

 

「部長、どうしました?」

 

 一緒にこの場にいた部長が何やら眉をひそめている。

 俺の問いかけに、部長は何とはなしにこう答えた。

 

「ううん。いや、オーナーさんってもっとのんびりした落ち着いた人だと思ったんだけど……」

「そうなんですか」

 

 俺は初対面だから分からないが、毎年この時期にオカ研は来ているらしいので、よほど普段とは違う取り乱しっぷりなのだろう。

 

「あ、ましろっち、よーっす。今日はお兄ちゃんと一緒じゃないの?」

 

 不意に、部長が何かを見つけたようで状況に似つかわしくない、気軽な挨拶をする。

 いや、顔色は相変わらず真っ青なので、あえて深刻さを出さないよう無理に明るく振舞っているのだろう。

 

 小学校に上がりたてぐらいだろうか。初夏らしいピンクのシャツにスカート姿の少女がドアに隠れながら妙に無表情でじっとこっちを見つめている。

 だが、部長に声を掛けられると、ぷいと奥に消えて行った。

 

「ありゃ?」

 

 引っ込んでいく女の子に、部長が首をかしげる。

 一々問いただしたりはしないが、やはり普段と違う反応なのか。

 こんな事態だから? でも、部長の言動からしてみると名前を知っている程度には親しかったようだが?

 

 俺は彼女が去っていった方向を目で追う。

 あそこから先は家族用のプライベートスペースなのだろうが……荒れている? 僅かな隙間の先、廊下や奥のキッチンスペースもこちらと同じよう荒れ放題だ。

 あれは数日、数時間の荒れ方ではない。改造人間である俺の目には、シンクの一部にコバエが集っているところまでしっかりと見えていた。

 

「どうした? 何かあったか?」

 

 そちらに注目していると、不意に背後から声を掛けられる。

 声の主は当然と言えば当然だが桐矢さんだ。

 

「あ、いえ。この家の子供がいたんで」

「そうか。それよりも話が付いたぞ」

 

 慌てて振り向くと、オーナーは電話を置くと話を聞いていたキャンプ客を連れて表に行くところだ。

 残りの客に状況を説明するのだろう。

 俺が猛烈な違和感を覚えている間に、桐矢さんとオーナーの話は終わったようだ。

 

 

 

 結局、桐矢さんが他のキャンプ場の客を迎えに行き、桜井さんがこちらを守る。そんな話になったようだ。

 キャンプ場が二つあるため、オーナーは桜井さんにも客の迎えに行って欲しがっていたが、これは仕方ないだろう。

 

 響鬼である桐矢さんの目的は魔化魍退治であり民間人を守る事であるのに対して、桜井さんはカマタロスによる大破壊の阻止だ。

 広い土地でむやみやたら歩き回るより、ここで待って奴の出方を待つ方が良い。むしろキャンプ客の護衛を引き受けているあたり、やはり彼も仮面ライダーなのだろう。

 

「そこのお前」

 

 装備という程ではないが、素早く身支度を整えた桐矢さんは出発前に俺に声をかけてきた。

 なんか先ほどから妙に目を付けられていない、俺?

 

「何でしょうか?」

「お前にこれを渡しておく」

 

 そう言って桐矢さんが押し付けてきたのは三枚の円盤。猛士が使うアイテム、ディスクアニマルだ。

 ちょっ、なんでこんなもんを?

 

「な、なんですか? これ? あ、いや、先ほど使っていた?」

「そうだ。ディスクアニマルという道具だ。これをお前に預けておく」

「い、良いんですか? なんで俺に?」

 

 知らんぷりをしながらも、なんでこんなもんを俺に預けるか一応は聞いておく。

 彼の視線は真っ直ぐこちらを見ており、どうやら疑われているわけでは無さそうだが……。

 

「お前たちを助けに行く前、部長を助けていた所が目に入ってな……。お前みたいなやつはまた無茶をするんじゃないかと思っただけだ」

 

 タイミング的に、確かにあの瞬間を目撃しているだろう。

 とはいえ、あの時は変身もしていないし動きも常人の範疇だったはず。

 

「あの桜井という奴がいるので平気かもしれないが、必要だったらこれを使え。魔化魍を倒す事は出来なくても時間は稼げる」

 

 どうやら純粋に、心配して預けてくれたようだ。

 円盤を俺に押し付けると、桐矢さんはぷいっとそっぽを向く。

 俺の知っているお話では色々と問題児だった気がするが、今の彼からは、ぶっきらぼうだが不器用な優しさを感じる大人へとなっていた。

 

「ありがとうございます。桐矢さん」

「気にするな、これも鬼の役目だ」

 

 なので、俺は素直に礼を言い頭を下げる。

 少しだけ、彼を騙している罪悪感を感じた。

 

 

 

 それとは別に問題があった。

 

 動くに動けねぇ……。

 

 オカ研の連中を撒くのは難しくない。万が一俺の正体がばれても姿を消せば済む話だ。

 学校に愛着が無いわけじゃないが、通う必要があるわけでもない。ミカを連れて別の土地に行けばそれで終わる。彼らを害する必要すらない。

 袖すりあうもなんとやらで、無事に家に帰してやりたいとは思うが、その程度の関係だ。

 

 だが、桜井侑斗とデネブは違う。

 ライダーの目を誤魔化す事は俺でも骨だし、何より彼らは黒いショッカーライダーを敵と認識している。

 ノコノコ顔を出せば話がややこしくなるだけだ。

 

 マジどうするかな。

 

 このまま一般人のふりをしてやり過ごすのも手だが、猛烈に嫌な予感がしている。

 別にそんな機能は無いのだが、この手の予想だけは外れたためしがない。

 

 桐矢さんから預けられたディスクアニマルもある。

 心配してくれる人に不義理な真似はしたくないし、ほんと八方ふさがりだ。

 

 

 

 そんな風に悩んでいる間に、日が徐々に陰り始めた頃、状況が動き出す。

 電気だけは辛うじて繋がっていたのは幸いだ。もっとも、テレビやラジオは通信封鎖の影響で使い者にはならなかったが。

 

 昼間は空に複数台のヘリがうるさい位に飛んでいたが、おそらく自衛隊の偵察ヘリとマスコミのヘリだろう。

 橋が落ちて百人前後の人間が取り残されたのだから、彼らとしては来るだろう。

 正直、魔化魍が現れて落とされないか気が気でなかったが、特にそういう事も無く彼らは無事に飛び去って行った。

 

 

 桐矢さんは奥のキャンプ場に避難誘導をする間、キャンプ客はペンションのレストランに避難させられている。

 高い崖の上、域里道の深い山林と渓谷、更には遠くの都心が一望できるこのレストランは、観光ガイドにも乗る絶景スポットだ。おしゃれなテラスでのランチなど最高だろう。

 

 もっとも、今は屋内に集まったキャンプ客は一様に沈んでいる。

 時折状況をいまいち理解できていない子供が退屈に耐えきれなくなりはしゃごうとするが、すぐに大人にたしなめられている。

 

 桜井さんは入り口付近の席に陣取り、静かに腰を掛けている。

 何かあった時にすぐに動けるよう、力を溜めているのだ。

 

 デネブさんの姿は見えない。不安にさせるという事で姿を隠していた。

 

 

「これ、子供たちに配ってくれ。不安だろうからな」

 

 こっそり物陰に呼ばれた俺たちオカ研に手渡されたのは、キャンディが一杯に入った籠だった。

 良いのかと尋ねる俺たちに、デネブさんは人間ならにっこりと笑った、そんな気配を漂わせながらこう返した。

 

「良いに決まっている。だから、俺が隠れている間は侑斗をよろし……」

「最後まで言わせるか!」

 

 そして桜井さんから制裁を食らうデネブさんといういつもの漫才が始まる。

 素でやっているのか、俺たちを励ますつもりでやっているのか判断に困る二人だ。

 

 

 日が完全に落ち外が真っ暗になった頃、部長がしきりに首をかしげている。

 

「どうしました、部長?」

 

 部長の隣で座っていた高槻が落ち着かない態度に問いかける。

 

「ううん。ましろちゃんとよーた君の姿がずっと見えないなって」

「ここのオーナの娘さんと、さっき言っていたお兄さんですか?」

 

 二人の会話に俺は口を挟む。

 今は一つでも情報が欲しい所であった。

 

「うん。部屋に閉じこもっているのかな。でも……」

 

 確かに、奥が住居も兼ねるなら部屋はあるだろう。

 だが、こんな状況で子供たちを部屋に閉じこもらせるか?

 救助が来たら、すぐに動けるようにこちらに待機させておかないだろうか?

 

 先ほどからあった違和感がさらに大きくなる。

 そんな時だった。

 不意に野外、入り口側から強烈な明かりがレストラン内に照射される。

 何事か? その答えを思いつくより先に外からこんな声が聞こえて来た。

 

「誰かいるか、大丈夫か!?」

 

 眩しい明りに目を細めながらそちらを見てみれば、そこにいたのは迷彩服を着た複数の男たち。

 そう、自衛隊の隊員だ。

 

 橋が落ちた上に内部と音信不通。そりゃ自衛隊も来るってもんだ。

 通信封鎖が起こっている以上、テロの可能性も考慮しているのだろう。全員がボディアーマーを装備し自動小銃を抱えている。

 

 助けが来た事実に、レストラン内の人々が一斉に歓声を上げる。

 

 だが、同時に俺と、入り口で陣取っていた桜井さんに緊張が走る。

 魔化魍やイマジンにとって、屈強な自衛隊員であってもただの人間は獲物に過ぎない。

 もし、この餌場から生餌を連れて行こうとする者が出現したらどうなるか

 

 警察が運用しているG3でもあれば話は違うのだが、自衛隊は過去に装備開発でやらかしている上に様々な妨害で対未確認生物の個人装備配備が遅れていた。

 

 ガシャン!

 

「え、ええええっ!?」

「きゃあああああああっ!」

 

 キャンプ場側の窓ガラスが突然に次々と砕け散る。

 入ってきたのは3体の猫型の魔化魍か!

 

「やはり来たか! 変身!」

 

 予測はしていたがやはり獲物が増えて、なおかつこちらが弛緩する助けが来たタイミングで来たか。

 桜井さんが舌打ちをしながら腰に当てたベルトにカードをくぐらせる。

 

 その姿が黒いボディスーツと緑と金のレールが刻まれたアーマー。緑の複眼が煌めく仮面ライダーゼロノスへと変わる。

 

「最初に言っておく……暇がない!」

 

 いつもの決めセリフを口にしようとするものの、それよりも早く猫型の魔化魍は避難していたキャンプ客に襲い掛かる。

 

「デネブ!」

「心得た!」

 

 この事態にゼロノスは相方のデネブさんに声をかける。

 それまで姿を消していたデネブさんが唐突にキャンプ客の前に現れ、水平に構えた両手の指先から弾丸を放つ。

 その火力はすさまじく、巻き込まれた二体の魔化魍は後退を余儀なくされる。

 

「う、うわああああっ!? って、ええっ?」

 

 唐突に表れたイマジンに驚きの声を上げるものが続出するものの、庇われたとわかると驚きの言葉を上げる。

 

「そ、その人は味方です! 味方です!」 

 

 この場がパニックに陥りそうになった。だが、機先を高槻が声を上げてデネブを庇う。

 彼らが落ち着きを取り戻す事は無いが、それでも咄嗟に耳に届いたポジティブな情報にキャンプ客の動きが一瞬止まる。

 それで十分だ。

 パニックを起こし我さきにと衝動的に動かれなければ問題が無い。人間、一度足を止めてしまうとなかなか衝動的に動けなくなるのだ。

 

 

 一方、デネブの銃撃に巻き込まれなかった魔化魍は入り口付近にいた自衛官に襲い掛かる。

 咄嗟に担いでいた自動小銃を盾に噛みつかれる事は回避したようだが、その圧倒的な膂力の前にあっさりと押し倒される。

 

「うわっ!?」

「貴様!」

 

 慌てて駆け寄ったゼロノスが魔化魍を力任せに引きはがすと、引き抜いたゼロガッシャーを剣の形状にして魔化魍に叩き込む。

 切っ先から火花が散り、魔化魍が野外に弾き飛ばされた。

 

「しぶとい! デネブ、お前は守りを固めろ!」

「わかった、侑斗」

 

 屋外に叩きだした魔化魍を追撃しようとしたゼロノスは、窓から魔化魍を攻撃していたデネブに声をかける。

 確かに、制圧射撃が可能なデネブは確かに守りに向いたイマジンだ。素早さに優れたゼロノスが迎撃に出て、デネブが守りに回る事は理にかなった戦術だ。

 

 だが、この二人をもってしても、魔化魍の相手は面倒だろう。

 

 魔化魍には攻撃が中々通じない。

 倒せない訳ではないのだが鬼たちが使う清めの音、音撃以外で倒そうとすると手間がかかるのだ。

 二人なら倒せない事は無いだろうが、それでも時間はかかる。

 

 一方、俺は魔化魍が屋外に叩きだされた事を確認すると、駆け出して襲われていた自衛官の元に行く。

 

 とにかく引っ張りこまないと、ゼロノスの邪魔になる。

 彼が持ち込んだ自動小銃では魔化魍に有効な打撃を与える事は難しいだろうが、それでもデネブと共に屋内から撃ち続ければ魔化魍とて中に侵入する事は難しくなる。

 

「き、君たち!? す、すまない!」

「イケメンくん?」

「部長、他の人も! そっち引っ張ってください! 皆さんも中に早く!」

 

 倒れて居た自衛官を引っ張り込み、さらには他の物も中に招き入れる。

 そのすきに一匹の魔化魍が入ってこようと寄ってきたが、蹴りを一発かまして叩き出しておく。

 常人並みのヤクザキックだが、着地するタイミングで入ったためか魔化魍はバランスを崩し尻餅をついて転がる。

 

 その頭にゼロノスの放ったエネルギーの矢が突き刺さる。

 なかなか倒せないはずの魔化魍だが、よほど良いのが入ったらしく一撃で倒れ、爆散し消滅する。 

 

「ゼロノス! こっちは中に引っ張り込みました!」

「中々良い判断だ! 助かる!」

 

 どうやら表にも数体の魔化魍がいたらしく、ゼロノスは連中の相手をしているようだ。

 自分も囲まれているというのにフォローを的確に入れてくるあたり、やはり彼は強い仮面ライダーだ。

 

 自衛官を巻き込む可能性が無くなったからか、守りに徹していたゼロノスが攻撃に転じる。ゼロガッシャーを大きく振り回し、魔化魍を数体まとめて切り裂く。

 猫の化け物は耳障りな悲鳴を上げると、数体が弾けて消えた。

 

 もっとも、目を凝らしてみれば森の奥からまだ数体の魔化魍がこちらに突撃してきている。

 

「近寄らせるな!」

「はい!」

 

 態勢を立て直した自衛官たちは窓際に並ぶと、デネブさんと共に自動小銃を撃ち始める。

 普通の弾丸では魔化魍にそれほど有効な打撃は与えられないが、それでも鉛玉の雨は十分に魔化魍の前進を阻止する効果がある。

 足を止めた魔化魍に、ゼロノスが斬りかかり、次々と倒していく。

 

 何とかなるか?

 そんな感情がよぎる中、すぐさま次の襲撃者が今度は崖側の窓から侵入してくる。

 

「きゃああああああ!」

「伏せてください!」

「くっ! このぉ!」

 

 新たな侵入者に気が付いたデネブが振り向きざまに侵入者に弾丸を叩きこむ。

 火花を散らしながら数体の魔化魍が崖から落ちて夜の森に消えていく。

 

 だが、その全てが今の一撃で倒せたわけではない。

 窓から侵入してきた魔化魍が近くにいた高槻を襲おうとその鉤爪を振り上げる。

 

 桐矢さん、使わせてもらいます!

 

「させるか!」

 

 咄嗟に桐矢さんから預かったディスクアニマルを魔化魍に向かい投擲する。

 動物を模した姿に変化したそれは、魔化魍にまとわりつき、その身を切り刻んでいく。

 だが、やはり魔化魍の力は半端ではない。ディスクアニマルは魔化魍の爪を受け、2体が瞬く間に破壊されてしまう。

 桐矢さんの言う通り、あれじゃ時間稼ぎは出来ても倒す事は……。

 

 あっ! この手があった!

 

「このおおおおおお!」

 

 俺はディスクアニマルを振り払おうと暴れる魔化魍に向かい突進をすると、奴の腰にタックルを仕掛ける。

 気を取られていた魔化魍は奇襲タックルに気が付く事が出来ず、俺はまんまと奴の腰にしがみつくことに成功した。

 

 脚部強化……。

 

「シャアアアアッ!?!?!?!?」

 

 狩られるべき獲物の突然の反撃、しかも組み付いてくるという暴挙に魔化魍も一瞬反応が遅れる。

 俺はそのまま、奴を一気に押す。

 

「い、イケメンくん!?」

「そ、そんな!」

「おい、君!」

 

 背後から俺の行動に驚きの声が聞こえてくるが、その声をすべて無視して俺は魔化魍をレストランから押し出し渓谷へのダイブを敢行した!

 誰かの悲鳴が聞こえてくるが、その時は俺と魔化魍は宙を舞い、重力に引かれ真っ逆さまだ。

 俺たちの姿は、夜の闇に紛れてしまいもうレストランからは見えないだろう。

 

 このまま落下すれば、普通ならば助からない高さ。

 

「あんら、ナイスファイトねハンサムボーイ。あたしが助けてあげるわん」

 

 不意に、真横から野太い男の声がする。

 やはり見ていたか、カマタロス。そして、おそらくはこいつ……敵じゃないな。

 

「必要ない」

 

 どんどんと地面が迫ってくる。

 だが、俺はカマタロスの救いの手を当然だが拒否する。

 

「え?」

 

 呆けた声が聞こえてくる。

 もう、地面は目の前だ。だが……。

 

「変身」

 

 静かに呟く。

 俺の全身を流れるナノマシンが活性化する。

 出現した腰のベルトを中心に、同じくナノマシンで生成された黒い強化戦闘服が俺の身を覆っていく。

 頭部には頭を覆う触角の付いたヘルメットが装着され、最後に赤い複眼が煌めき、血の色のマフラーが風を受けてたなびく。

 

「ライダーパンチ!」

 

 そして地面に衝突する直前、俺はその拳に力を籠める。

 赤い輝きを宿した拳が、墜落と同時に魔化魍の胴体を貫く。

 

 それがとどめだった。

 魔化魍の身は瞬時に粉々に砕け、爆散しこの世から消滅する。

 

「そ、そんな……、まさか……」

 

 俺の真横に出現したカマタロスが驚愕と畏怖の声を上げる。

 もう、先ほどまでの高校生の少年はいない。

 ここに居るのは、ショッカーライダーアインロールドだ。

 

 もう、振り回される時間は終わりだ。別段この地を守る義理も無い。だが、発生する未来の大破壊は調べる必要がある。ショッカーの益に成らぬのなら……。

 

 

「あのハンサムボーイが愛しのダーリンだったのぉ?」

「誰がダーリンだ。ぶん殴るぞ」

 

 誰がダーリンだ、ふざけるなぁ!

 唐突に妙な事を言い出すカマタロスの言葉を全力で否定するのであった。

 

 




 魔化魍は音撃以外では倒せないという設定ですが客演時は(なんなら響鬼作中でも)別の手段でも倒されているので、
 本作では『倒せない事は無いが、音撃以外で倒しきるには労力がいる』という設定にいたしました。



 仮面ライダーBLACKRX 1988年10月23日放送開始

 1988年……

 (;´・ω・)1988年!?

 もう、37年前なのか……。
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