ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話   作:さざみー

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第43話 episode・Hibiki 幕間・怒る鬼

 ねえ、一目ぼれって信じる?

 私はね、あの日彼に心底惚れたわ。

 あの日が私の運命だった。この恋に焦がれて死んでもいいと思ったの。

 

 

 

 歴史に関わる大きな事件が終わり、結果的に時の砂漠に取り残されたそのイマジンがこの時代に降り立ったのは半ば自棄を起こしての事だ。

 このまま何もせず時の砂漠をさまよい続け摩耗していくのなら、ひと暴れしてやろう。

 せめて武人として最高の戦いの中で朽ち果てたい。噂の仮面ライダーと刃を交えたい。その一心で彼は時の砂漠から抜け出しこの時代に出現する。

 

 彼が見たものは、悪夢の家であった。

 

 降り立ったのはこの時代では平凡な家屋の一室だろう。

 

 そこで見たのは、荒れ果てた部屋の中で損傷し、白骨化した子供の死体であった。

 精一杯の抵抗を行ったのか、近くには半ばからへし折れた金属バットが転がっており、よほど強く握りしめたのか手には破れた服の切れ端が残っていた。

 

 惨い事を。

 

 戦いに喜びを見出すタイプではあるが、戦いに向かぬ者をいたぶる趣味があるわけではない。怒りよりも、最後まで戦ったであろう子供の無念を思い心を痛める。

 

 イマジンはさらに家屋を探索する。

 

 小洒落たインテリアやそれなりの価格の家具だった物が散らばる家を探索を続ける。

 台所と思わしき場所は生ごみが腐臭を放っている。いや、それどころかべっとりと汚れた食器には腐った肉が放置され、虫が集っている。元は白かっただろう壁には獣と思しき爪による傷が至る所にあった。

 

 写真立てに飾られているのは家族の写真か。

 柔和そうな男性と、活力を感じる女性。そして小さな男の子と、裾を掴む小さな女の子。

 白い家の前で写す、幸せそうな家族の姿がそこにはあった。

 

 探索を続けるうちに、一枚の荒れていない扉を発見する。

 イマジンは扉を音もたてずにくぐる。

 

 視界に飛び込んできたのは明るい商業施設だ。観光客らしい家族連れがこの施設の主と思わしき人間と談笑を続けている。

 その主は先ほどの写真に写っていた父親らしき男だ。

 

 どういう事だ?

 

 考えながらイマジンは商業施設の中を観察する。

 どうやらここはレストランが併設された宿泊施設で、今はいくつものグループがランチメニューに舌鼓を打っている。

 外を見れば、キャンプ場らしき場所で休暇を楽しむ家族連れらしき姿が複数見えた。

 

 壁一枚、扉一枚で発生している悪夢のような光景に誰一人気が付かない。

 なんとも異様な光景だ。

 

 彼が普通のイマジンなら、これで終わっていたであろう。

 

 彼の目的とは何ら関係がないからだ。

 いや、確実に争い事は発生するだろうが、それは彼が望む身を焦がすような眩い戦いではない。

 だが、このイマジンは人より少々好奇心が旺盛であった。あの子供の無念を探ってみたい。

 ゆえに、ここに残りしばらくこの地を観察する事にした。

 

 

 まず、当然だがこの地獄を作っていたのはあのオーナー夫妻だ。

 あいつらは表では柔和なペンションの主を装いつつ、裏ではキャンプ客を襲っていた。

 

 それも、ただ襲うのではない。

 徹底的に客を観察した上で、地元の鼻つまみ者など唐突に消えても不思議ではない連中を選び、密かに手下に尾行させ離れた土地で襲っていた。

 化け物に連れてこさせた人間を保管し、いずこかへと連れて行っていた。

 

 何度かの尾行の後、キャンプ場から逸れた廃トンネル、そこにある隠し部屋にさらった人間を連れてきていた事を突き止める。

 そこでイマジンは二つ目の地獄を目撃した。

 

「タベロタベロタベロタベロ!」

「食べなさい食べなさい食べなさい!」

 

 親の姿をした何かが、血が滴り落ちる肉が乗った皿を少女の顔に近づける。

 生臭い匂いに少女は顔を背けようとするものの、椅子に縛り付けられた状態では逃げる事など出来やしない。

 無理やりつきつけられ、血の匂いについにむせ返し嘔吐を始める。

 

「ダメダメダメダメ、もったいないもったいない!」

「食べなきゃおおおおおおきくなれなれなれなれない」

 

 少女が吐き終わるのを待ち、親の顔をした化け物は小さくちぎった生肉を少女の口に無理やり押し込み、飲み込ませる。

 先ほどの嘔吐で精も根も尽き果てたのだろう。もはや少女は化け物のなすが儘に肉を胃に納めるだけだ。

 

 やがて食事が終わったのか、化け物たちは少女をそのままに放置し隠し部屋から去って行く。

 化け物どもが完全にいなくなったのを確認したイマジンは少女に声をかける。

 

「惨い事を……。大丈夫か、娘?」

 

 唐突に目の前にあった砂の塊が盛り上がり、人のような姿をする。

 だが、その異常事態にも拘らず少女に反応は無い。

 

「おい、生きているか、娘!?」

 

 イマジンは必死に呼びかけるが、ピクリとも反応が無い。

 胸の上下でかろうじて命がある事だけがわかるが、その目にはまるで生気は無かった。

 

 

 その後もイマジンは調査を続ける。

 まず、少女の名前が真白だとわかる。亡くなっていた少年の名前は陽太。あのペンションのオーナー夫妻の子供だ。

 無論、あの化け物は親ではないだろう。文字通り、親の姿をした何かだ。

 

 

 あの化け物どもはこの地で別の化け物を研究しているようだ。

 かなり後になり、この化け物たちは魔化魍と呼ばれる妖怪のようなものだという事を知ることになる。

 培養液に入ったうごめく肉の塊から、時折魔化魍は生まれているようで、銀の虫ピンと呼ぶ杭で保管、命令をする時のみ解放しているようだ。

 

 そして、少女に与えられている肉も、そのうごめく肉片から切り出された肉だった。

 

 

「おい、生きているか、私の声は聞こえているか、娘」

 

 イマジンは化け物の居ない隙をついて少女への呼びかけを続けていた。

 調査自体は実体を持たない砂の体でも可能だが、現実に干渉するには実体が必要だ。

 このあまりにも哀れな娘を見捨てる事など出来ない。その一心でイマジンは少女に語り掛ける。

 

「生きたいか。ならば私の声を聞くんだ! 聞いて反応してくれ、君自身の為に!」

 

 時折肉を向けられた時のみ拒否反応を示すが、それ以外では呼吸以外の動きは無い。

 絶望と疲労と疲弊。そして体を蝕む何かに少女の反応は日に日に鈍っていく。

 イマジンはその事を歯がゆく思いながらも、取れる手段が限られていた。

 

 

 だが、そんな日々も唐突に終わりを告げる。

 その日、やってきたのは黒い処刑人だった。

 

 漆黒の体に赤い複眼、赤いマフラーをたなびかせた彼はこの地にたどり着くと、まずは廃トンネルを目指し進み始める。

 襲い来る魔化魍を前に、処刑人は忌々し気に吐き捨てた。

 

「当たりか……。高槻たちは無事か?」

 

 これはイマジンも知らない情報だが、この時期になると肉の化け物の完成が間近だった事もあり獲物の選定が相当雑になっていた。

 施設のある廃トンネルに近づいた者を、無差別に襲い始めていたのだ。

 

 カッパと呼ばれる魔化魍の頭を拳の一撃で砕いた処刑人は、包囲しようとする魔化魍たちを睨みつける。

 

「ヒビキさんに連絡を入れておいてよかったな……。まあいい、先に進ませてもらうぞ」

 

 魔化魍を物ともせずに前進を止めない処刑人相手に、化け物夫妻は狼狽しながら対策を話し合う。

 

「どうするどうするどうするどうする。あれはあれは噂のショッカーの仮面ライダー!」

「まずいまずいまずい、真白の完成は間近なのに、真城の築城はもうすぐなのに!」

 

 まだ制御装置たる真白は真城に成っていない。

 あのままでは完成しない。どこまでも暴走してしまう。

 そうすれば、あの肉の塊は自分たちも飲み込み何処までも膨張していく。

 

「このまま逃げる逃げる逃げる?」

「だめだめだだめだめ、殺され殺され殺される!」

 

 逃げるのは論外だ。

 この人造オロチ現象、魔化魍ウバの作成を成し遂げなければ、自分たちは処分されてしまう。

 それは何より怖い事だ。

 

 だが、戦いの喧騒はすぐそこまで来ている。

 黒い処刑人は、もう廃トンネルの入り口までたどり着いている。

 

「もうもうもうもう、不完全でも不完全でも」

「あいつあいつあいつあいつ、あいつが全部悪い、全部悪い!」

 

 そうは言うが早いが、二体の化け物は椅子に縛り付けられ、手足の無い異形の姿になりつつある少女を無理やり立ち上がらせた。

 そのまま引きずるとうごめく肉の培養槽の傍まで連れてくる。

 

「や、やめろ!」

 

 イマジンが止めようと叫ぶが、実体の無いイマジンに出来る事など無い。

 入り口が吹き飛ぶと同時に黒い処刑人、アインロールドが隠し部屋に足を踏み入れる。

 

「お前たち、何をやっている!」

 

 少女と肉が雑に混ざり合った化け物を引き連れ、肉のプールに叩き込もうとしている。

 その光景に、アインロールドが叫ぶが、二体の化け物が止まるはずも無かった。

 

「おおおおおおお、お前がお前がお前が悪いんだ!」

「おおおおおおお、終わりよ、この世は終わりなのよ!」

 

 少女だったものが肉のプールへと叩き込まれる。

 次の瞬間、プールの肉が溢れかえり地獄の第三章が幕開けた。

 

 

 

※※※※※

 

 

 

 やべ、カマタロスの話、どっからツッコんでいいのかわからない。

 

 まず、何だよ仮面ライダーって。俺はショッカーライダーであって仮面ライダーではない。

 いや、きっと勝手に噂されているだけだ。

 仮面ライダーなんて名乗って良い名前じゃない!

 というか、相変わらずショッカーに所属しているようだが、仮面ライダーなんて許されるわけないじゃないか!

 

 それ以外は、魔化魍が魔化魍の研究をしていた……ってのは、無い話じゃない。

 通称洋館の男女。まぁ、こっちの業界では有名な謎の研究者という奴で、妙な魔化魍の影には大抵奴らがいる。

 魔化魍に限らず妙なものを研究している謎の科学者なんてのはごまんといるので、その一種がこの地に流れ着いたのだろう。

 他は……。

 

「真白ちゃんか。ここに来る前、ペンションで見かけたが?」

「もう、改造されているわよ。おかげであたしの声も届かないのよね」

 

 案内したい場所がある、そう言われてカマタロスの後をついて来ている俺だが、ただ歩くだけもなんなので知っている事を話せと要求したら、到着する前に済ませたいと事情を話し始めたのだ。

 半分ぐらい隠すかなと思ったが、どうやらさほど隠す気は無いらしい。

 

「では、あの廃トンネルの隠し部屋は?」

「あいつらの研究施設だったのを、あたしが頂いたってわけ。まぁ、魔化魍の数が多すぎて真白ちゃんを奪還できなかった上に取り逃がしちゃったんだけど」

「ペンションまで追わなかったのか?」

「あっちは本拠地でもっと沢山いるのよ。なのでゲリラ戦をしかけて、数を削ってたのよん」

 

 さらりととんでもない事を言うな、このカマタロス。

 話を聞く限り幹部クラス並に強くないか、こいつ?

 

「橋を落としたのもお前か?」

「あ、た、り。ごめんなさいねー、腕の立つ仮面ライダーが二人も来ちゃったから、あいつら逃げ出そうとしてたのよ。ああ、いざとなったら私も助けるつもりで隠れてたからゆるして、ダーリン」

「誰がダーリンだ。まぁいい、話の腰を折ってすまなかった。未来の話を続けろ」

 

 

 

※※※※※

 

 

 

 溢れかえった腐肉の勢いは留まる所を知らなかった。

 延々とわき続ける肉の海と魔化魍の群れに、アインロールドといえども捕らわれた生き残りを引率し、撤退するのが精いっぱいであった。

 

 彼らが撤退した後も、肉の増殖は止まらない。

 豊かな山林はその地に生きる生き物ごと肉の海に飲まれた。

 清らかな清流は腐汁に溢れ魚は疎か虫すらもその姿を消した。

 山の頂すらも飲み込まれ、いびつな肉の天守閣が聳え立った。

 

 域里道と呼ばれる土地は、わずか一昼夜にて肉の化け物しか存在しない土地となった。

 

 この事態に自衛隊や警察も動かなかったわけではない。

 だが、G3部隊も戦闘機も、魔化魍の守りの前に近寄る事すら出来ず撤退を余儀なくされた。

 この事態を解決するべく、鬼を中心とした仮面ライダーたちが集結する事になる。

 だが、その前にこの地に乗り込む一人の男がいた。

 

 アインロールド、それが男の名だ。

 

 自身の不始末にけりをつけるべく、単身マシンに跨りこの地を進む。

 

「邪魔だ!」

 

 彼の放つ赤いエネルギーの余波に、魔化魍の身が焼けただれ崩れていく。

 目指しているのは腐肉の城だ。

 あの場所に強力なエネルギー反応がある。それを目印に彼は進んでいた。

 

 途中、アインロールドは魔化魍に破壊されたペンション跡にたどり着く。

 かつて、一度はこの地に来た事がある。

 学生として無理やり連れてこられた場所ではあったが、楽しい思い出だった。

 

 だが、不意に彼が目にするのは討ち捨てられた子供の白骨死体、そして色あせた家族の写真。

 破壊されただけでは説明できないその有様に、彼はこの地で何があったのかを悟る。

 

「そうか、あの時、もう始まっていたのか……」

 

 自分が呑気に廃墟探索やバーベキューを楽しんでいたその裏で、小さな子供たちが犠牲になっていたのだ。

 許せるはずがない。自分も、敵も……。

 

「君たちに気が付く事すらできなかった俺を許すな……。だが、仇は取ってやる」

 

 自己満足だ。

 間に合わなかった、気が付かなかった間抜けにできる事など自己満足しかない。

 

「まて、そこの仮面ライダーよ」

 

 これはあの少女を助けるチャンスだ。

 そう思ったイマジンは意を決し仮面ライダーに話しかける。

 

「前に覗き見をしていたイマジンか? 何の用だ? 俺の過去に干渉するのは無理だから他所を当たれ」

 

 まるで駅前のチラシでも追い払うかのように軽くいなすアインロールドに、イマジンは首を振り違うという。

 

「あの化け物どもに苦しめられている少女を助けたい。貴殿に協力をお願いしたい!」

「どういう事だ?」

 

 複眼の仮面ゆえに表情の変化などはわからない。だが、その仮面の下では眉を動かし訝しげな表情を浮かべていただろう、そんな声だ。

 少なくとも話を聞いてくれる姿勢だけはある。そう考えたイマジンはこれまで見てきた事情を説明し、さらにはこう伝える。

 

「あの少女は……魔化魍に蝕まれつつある彼女はまだかろうじて人間だ。彼女が私の声を聞き、過去に跳べれば彼女を救える可能性がある」

「つまり、貴様は彼女を救いたいと? 貴様に何の得がある?」

 

 アインロールドの問いはある意味正しい。

 イマジンが契約者の望みをかなえるのは、実体化が出来ないイマジンが自らの望みをかなえるための前段階に過ぎない。

 契約者として最低限の尊重こそするが、あくまでも踏み台に過ぎないのだ。

 

 何故少女を助けたいのか。

 その問いを問われ、イマジンは考える。

 

 少女を助ける事に理由はあるか?

 自身に何の得がある?

 考えてきた末に出た答えは、これであった。

 

「私に得など無い。ただ、気に喰わなかっただけだ」

 

 自身が望む戦いに、あの少女を助ける事など関係ない。

 そもそも、ここに残って少女に呼びかけていたこと自体が時間の無駄でしかないのだ。

 だが、ここまで来て見捨てて戦いを探すなど、自身のプライドが許さない。

 

 たまたま見つけてしまった。見捨てられなかった。

 それぐらいしか理由らしい理由は見つからなかった。

 

 イマジンのあまりといえばあまりの言葉にアインロールドは一瞬絶句し、そしてこう答えた。

 

「そうか……。わかった。それで、俺に何をさせたい?」

 

 

 強行軍であった。

 肉の城。そこに近寄れば近寄るほど、魔化魍の圧力は増していく。

 その全てをなぎ倒しながら、アインロールドは歩みを進める。

 

 そして、城の手前、最後に護るは二体の魔化魍。

 元は親の姿を奪った童子と姫の成れの果て。ただコアを守るための守護者。

 

「あれを倒せば良いのか?」

「そうだ。長く調査をしていて分かったことがある。私の言葉が届かなかったのもあいつらの妨害が原因だった」

 

 外界に対しての不感。それを引き起こす呪いを少女はかけられていた。

 唯一、あの化け物どもが肉を食わせようとする瞬間だけ、拒否反応が上回っていたにすぎない。

 

「わかった、任せておけ。お前は少女に話しかけろ。戦いは俺が何とかしてやる」

「助かる。頼むぞ、仮面ライダー」

 

 かくして、肉の守護者と仮面ライダーの戦いは始まる。

 激しい光と肉の槍が飛び交う戦場を、黒いアインロールドは易々とかわし続け、肉の守護者の懐にたどり着く。

 

「失せろ。ライダーチョップ!」

 

 手刀を一閃。

 空すら断ち切る必殺の手刀は、汚れた肉の塊をやすやすと切り裂き、さらにはその先の大地にすら傷跡を残す。

 

「うぎゃあああああああああ!」

 

 童子と呼ばれていた化け物が断末魔の悲鳴を上げる。

 その背後から、姫と呼ばれていたはずの肉達磨がその重量でアインロールドを押しつぶさんと迫る。

 さらには逃がさぬようにと無数の肉の槍を解き放った。

 

 だが、アインロールドは一切慌てることなくベルトの風車を最大限に回転させる。

 

「邪魔だ、ライダー放電」

 

 解き放たれた雷がせまりくる肉の塊の槍を易々と焼き払う。

 プスプスと煙を上げる姫だったものに、アインロールドはとどめの一撃を放つ。

 

「ライダーキック!」

 

 跳躍したアインロールドの右足に赤き輝きが光を放つ。

 一筋の砲弾と化したライダーのキックに、醜い肉の塊は焼き払われ、爆散してこの世から消える。

 

「これで終わりか……。イマジン、そちらはどうだ?」

「少しづつ、反応は出ている。だが……」

「なら声をかけ続けろ。時間は稼いでやる」

「かたじけない」

 

 アインロールドの目に映るのは、侵入者を滅ぼさんと向かい来る魔化魍の群れであった。

 その中には、少女の心を縛っていた肉の守護者の姿も混じっている。

 

「礼などいらん。行くぞ!」

 

 

 それからどれだけ彼は戦い続けただろう。

 なかなか進まない少女への呼びかけにも拘らず、彼は一度として引くことを口にしなかった。

 それどころか、あきらめかけていたイマジンを叱咤激励するほどだった。

 

 そして、最悪の挑戦者が姿を現す。

 

「あれは、仮面ライダー?」

 

 それは、鬼を中心とした仮面ライダーの集団であった。

 この異常事態に異変の中心に向かい、仮面ライダーのチームが進んでいたのだ。

 

「やれやれ、仮面ライダーごっこもこれで終わりか」

 

 そう言葉を漏らすのは、アインロールドだ。

 魔化魍との連戦に次ぐ連戦で、無事な部分などどこにも無い、全身のスーツは各所がほころんでおり、複眼には皹が、触角も片方が脱落している。

 それでも彼は、仮面ライダーを見て戦う事を選択する。

 

「まて、彼らに事情を話せば!?」

 

 協力を得られるのでは?

 そう止めるイマジンに、アインロールドは首を横に振るう。

 

「ダメだ。連絡が来た。彼らが失敗した場合、核ミサイルが発射される。彼らには魔化魍を滅ぼしてもらわなければならない」

 

 この時点で魔化魍の肉が半径10kmまで増殖していた。

 この非常事態に、核兵器の使用が承認されたという。ただ、誰もそれを望んでいるわけではない。最悪を避ける為に猛士の懸命の説得により、鬼による浄化を待つことになったのだ。

 

「イマジン、時間を稼げるのは此処までだ。俺は出来る限り時間を稼ぐが、俺が死んだ場合は彼らが彼女を浄化、消滅させる」

 

 それゆえに、彼らに事情の説明は出来ない。

 説明すれば、仮面ライダーである彼らは少女を救おうと全力を尽くし……、あるいは子供だったことを知り手が鈍り、結果的に核兵器の発射に間に合わなくなる。

 だから、説明は出来ない。ほんのわずか、自身が敗北するまでの時間がラストチャンスだとアインロールドは言う。

 

「そんな、君はどうなる」

「俺はショッカーライダー。もう、いつ終わっても良かった身だ。後は任せたぞ、イマジン」

「違う、貴方は、貴方は仮面ライダーよ!」

 

 振り向く事なく手をひらひらと降るアインロールドにイマジンは必死に訴える。

 あれがショッカーライダーなものか。自己犠牲すら厭わないあの姿は仮面ライダーでは無いのか?

 

「俺も仮面ライダーか……。ありがとうな。そうそう、〇年〇月〇日、俺がこの地に来るはずだから、そこまでで解決できなかったら、その時は俺に頼れ。俺が何とかしてやる」

「わかったわ。待っているわ……」

 

 こうして、彼は戦場に向かう。

 

 だが、彼の最後の言葉。彼は自分の成功を信じている。

 

 ならば、何としても少女に声を届かせるしかないかった。

 

「応えて、お願いだから応えて、真白ちゃん! 貴女が、貴女の生きる意志がすべてを救うの! だから、お願いよ! 真白ちゃん!」

 

 

 

※※※※※

 

 

 

 つまり、真白ちゃんを助ける為に俺はカマタロスを過去に送り込んだわけか。

 まぁ、子供が犠牲になるなんて胸糞悪すぎるので、そりゃ送り込むか。

 

「で、改造されている真白ちゃんは元に戻せるのか?」

「ごめんなさい、分からないわ。そっちは私も専門家じゃないし……。ただ、少なくとも未来のぶよぶよの肉の塊にはなってないわ」

 

 改造人間て外部からじゃ判断付きにくいからなぁ。専門家じゃない限り分からんのは無理もない。

 後でテオドラに頼んで人間還元液でも送ってもらうか。猛士とも魔化魍化なんてレア症状の治療って言えば、うちの医師団も受け入れてくれるだろう。

 知らん仲じゃないし。

 

「わかった。で、案内したいところというのはまだか?」

「もうすぐ着くわ。あそこの小屋よ!」

 

 おそらくは古い作業小屋か何かだったのだろう。

 朽ち果てた小屋……だよな?

 なんか無駄に器用に、場末のバーの如く修理がしてある気がするが、そこは気にしないでおこう。

 ともかく、カマタロスは小屋に到着すると大声で中にいる人間に呼びかける。

 

「よーちゃん、よーちゃん、あたしの言った通り、仮面ライダーが来たわよ!」

 

 誰が仮面ライダーだ、誰が!

 そう言いたい気持ちをぐっと飲みこみ小屋の中を見ると、中からいかにも腕白な雰囲気の子供が顔を出す。

 話の流れからしてみて、この子が真白ちゃんのお兄ちゃんの陽太君だろう。

 

「なんだよ、カマタロス……って、ほんとだ! 仮面ライダーだ!」

 

 俺以外もカマタロスって呼んでいるじゃん。こいつ、初対面の時すっとぼけていたな。

 冷たい視線を向けるが、カマタロスは気にもしない。こいつ絶対心臓に毛が生えているな。

 まぁ、それはいいか。

 

「君が陽太君か」

「そうだよ……じゃなくて、そうです! 域坂小学校4年1組の周東陽太です!」

 

 親が化け物にすり替わり、妹が捕らわれ、自分もこんな得体の知れない面白生物と共に暮らす羽目になっているのに、陽太君は元気にはきはきと答える。

 なんとも強い子だ。

 

「この子、あいつらに挑もうとしててね。あのままじゃ殺されるから、私が保護して匿っていたのよん」

 

 ほんと、獅子奮迅の活躍だな、カマタロス!

 これで性格がこうじゃなきゃよかったのに……。

 いや、でもこれでやる事がはっきりしたな。

 

「つまり、オーナーの姿をした化け物をぶったおし、真白ちゃんを助け出せば良いわけだ」

「そそ。だけど、あそこは敵の本拠地よ。私でも潜入は大変なの」

「ただのペンションに見えたが?」

「地下に基地があるのよ」

 

 なんで地下基地が好きなんだろうね。

 うちの連中も大好きだけど、モグラかあいつら?

 

「問題ない。俺がすべて蹴散らしてやる」

 

 ガキを食い物にする化け物なんぞ、許してやる気は無い。

 派手に倒すだけだ。

 

「なら、俺も行く!」

 

 そう言ってきたのは陽太君だ。

 おいおいおい……。

 

「残念ながら……」

「ごめんなさい、実利面でこの子も連れて行って欲しいの」

 

 拒否しようとする俺の言葉に、カマタロスが言葉をかぶせる。

 いや、危ないだろう。

 

「それがね、真白ちゃんあいつらの改造もだけど、家族を失ったことで心を閉ざしているの。未来でそうだったわ」

「それがこの子を連れて行くことと何が?」

「もし連中が肉の魔化魍ウバを起動させたらあの子が魔化魍に取り込まれちゃって、この子がいないと真白ちゃんに声が届かない可能性が高いのよ」

 

 彼女自身の意志が無ければ、ウバから引き離すのも難しい。

 だから、彼女に声を届けられる可能性がある陽太君を連れて行きたいとカマタロスは訴える。

 

 気持ちはわかるけど、連れて行くのは……。

 俺はそう考えため息を吐く。

 

 そんな俺の態度に対し、陽太君はこうはっきりと言う。

 

「俺が……俺が行かなきゃいけないんだ。俺は真白のお兄ちゃんだから、妹を守らなきゃいけないんだ!」

 

 あっ……。

 そうか、お兄ちゃんか……。お兄ちゃんだったな。

 

「危ない場所だぞ」

「わかってる」

 

 一度は金属バットで化け物に挑もうとした子である。

 幾ら子供とて、危ない事など百も承知だ。

 

「俺たちの言う事を守れるか」

「守る。邪魔はしない。カマタロスから聞いている。真白を説得する、それが俺の役目だって」

「そうか……」

 

 止めたいけど、連れて行きたくないけど……。

 理性の訴えを、俺の感情が否定する。

 愚かな選択だ。本郷さんに知られれば失望されるだろう。今さっき会っただけの子供の言葉に、何を動揺しているのだ。

 

 それでも、俺は彼を連れて行く事を決めた。

 

「敵は強いぞ」

「わかってる」

 

 助けられなかった俺が名乗って良い名前ではない。

 でも、これから助けに行く決意を持つ少年に送る言葉はこれしかない。

 俺のちんけな罪悪感など、この場では不要だ。

 

「いや、大したことは無いか……。今日は君と俺でダブルライダーだからな」

 

 この世界の本郷さんも滝のおっさんにも言ったのかな。

 ふと自然と出た言葉に内心で苦笑をする。

 

「ちょ、ちょっとおぉぉぉぉぉ! あたしだけのけ者!? ひっどーい!」

 

 真面目なのかお道化ているのか。

 抗議の声を上げるカマタロスに、俺は苦笑いを滲ませ声をかけた。

 

「ならば、今日だけはトリプルライダーだ。真白ちゃんを助けに行くぞ!」

 




 なお、未来アインロールドは本編終了&夏映画経由しているので強くなってます(ぇ

 あと、主人公は話の概要しか聞いていませんので、カマタロスのキャラ変は知りません。
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