ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
俺はサイクロンヘルを呼び出すと、陽太君、カマタロスの三ケツにてペンションがあった場所に向かう。
サイクロンヘルがカマタロスを乗せるのをすごく嫌がった。走りながら通信でグチグチ言われたのは初めての経験だった。
まぁ、とりあえずはどうでも良い話なので横に置いておこう。
「大きいな……」
森を抜けまだキャンプ場まで距離があるというのに、巨大なうごめく腐肉の塔が見えてくる、
どう見てもネオショッカー大首領よりも遥かに大きい。目算だが高層ビル並の高さがある。
桜井さんが大破壊というだけはあるなと感心していると、後ろのカマタロスが俺の言葉を否定する。
「あらん、あれまだまだ小さいわよん」
「小さいの? あれで?」
その言葉に陽太君が驚きの悲鳴を上げる。
俺もまったくの同感だ。あれより大きいってどれだけのサイズまで育つんだよ……。
「文字通りこの辺り一帯を飲み込んで、山より高くなったわ……。あたしが覚えている限りじゃ、上のあたりまで登ったら関東平野が一望できて富士山も見えたわね」
マテや。どれだけ大きくなるんだよ、それ。
ちょっとした高峰だぞ、それだと。
「細かい動きとかは出来ないから上に乗っても平気だったけど、あちこちの膿袋から魔化魍が生まれてうっとおしいったらありゃしなかったわ」
「悪夢のような光景だな……」
正直、今遠くに見える腐肉の塔ですら悪夢に出てきそうな代物なのに、カマタロスの語る未来のウバは悪夢そのものとしか言いようがなかった。
とはいえ、いつまでも雑談に興じ、生理的嫌悪に身震いしているわけにもいかない。
俺は後ろの二人に降りるように声をかける。
「悪いが二人は此処からは徒歩で移動してくれ」
「あら、どうするの、ダーリン?」
「ダーリンと言うな。どうやら随分と数がいるようだからな。派手な技をぶちかまして数を減らす」
基本ステゴロ専門の俺は、どうやっても数のせん滅に時間が掛かる。
とはいえ、数がいる敵をせん滅するのに適した技もいくつか持っていた。
俺は二人に指示を出すとサイクロンヘルを減速させようとし……。
「あら、止まる必要は無いわよん。と~お~」
気の抜ける掛け声とともに、カマタロスは陽太君を抱えてバイクから飛び降りるとふわりと着地。そのままサイクロンヘルと同じ速度で並走を始める。
森の中、しかも陽太君を乗せてなのでそこまで速度を出していないとはいえ、サイクロンヘルについてくるとは、ほんと無駄にハイスペックだな、こいつ。
「がんばって! 仮面ライダー!」
「任せておけ」
カマタロスに抱えられた陽太君の声援を受け、俺はサイクロンヘルのアクセルを全開に吹かす。
周囲に爆音が響き、森の木々が揺れる。
次の瞬間、衝撃と共に戦場までの距離を0とする。
サイクロンヘル予測演算の開始を、危険な状態の人間の救助を最優先。ルート確定、エネルギー同期……。
行くぞ。
「ヘルブレイク!」
俺から供給された膨大なエネルギーがサイクロンヘルの防御フィールドを強化し、その姿を赤き閃光へと変える。
それと同時に、サイクロンヘルから流れてくる周辺のありとあらゆるデータと状況分析が俺に流れ込む。
頭の中に流れる膨大な情報から、最適なルートを決定。
まず狙うのは高槻に襲い掛かっていた魔化魍。その鋭い爪が振り下ろされるより早く、奴の身に体当たりを敢行。
圧倒的速度とパワー、そして強力なエネルギーフィールドの前に魔化魍の体は一瞬で砕け散り爆散する。だが、それで終わりではない。危険な状況の被害者、自衛隊員、G3隊員はいくらでもいる。
速度を緩めることなく、キャンプ場を走り抜ける。
人の間を縫うように進み、魔化魍を跳ね飛ばし、あるいは打ち砕き、踏み潰し……。半数は撃破しただろうか、そこで俺はサイクロンヘルを止める。
よくよく見てみると、高槻の目の前だった。
なんか憔悴しているな……。うん、考えてみりゃ目の前で知り合いが崖からダイブすりゃ、ショックがでかすぎるわな。
とはいえ、今は彼女を気遣っている余裕はない。
マスクに装備されているボイスチェンジャーを起動させてと……。とりあえずミカが好きなゲームキャラの声をモデルに設定。これで気が付く事は無いだろう
「早く避難しろ。後は俺が何とかしてやる」
バイクから降りながら避難を促す。
ヘルブレイクは敵の数が多い時には便利なのだが、バイク部分の負担がでかいのでサイクロンヘルを一回休ませないといけないのだ。
「ちなっちゃん、早くこっちに! ありがとうございます!」
走ってきた部長がぺこりと頭を下げながら、まだ呆然としている高槻を引っ張ってゼロライナーに向かう。
まぁ、このあたりの魔化魍は掃除をしたのでもう大丈夫だろう。
腐肉の塔から次々に生まれているのは……仕方ない。
カマタロスが漁ったという資料の記述を信じるなら、出現している魔化魍は全てウバの端末に過ぎず、倒された場合は蓄えたエネルギーと共に戻り新たな魔化魍の材料になるというのだ。
しかも、見た目通りウバそのものは異様に生命力が高い。
「気を還元して新たな魔化魍を作り出すか……。なかなか厄介な能力だな」
はっきり言って、最悪の兵器の一つだろう。
時間経過とともに手に負えなくなる。鬼による浄化以外なら、俺でも核兵器やプルトンミサイルであたり一帯事消し飛ばす事を選択する。
一応制御装置として人間の子供を改造したものを組み込む予定だったようだが、未来でも完成しなかったらしい。
ほんと何処までも胸糞の悪い兵器だ。
「黒いショッカーライダー! 現れたか!」
俺が一人ウバの悪辣さに憤っていると、ゼロノスと響鬼がこちらにやってくる。
響鬼はそうでもないが、未来での出来事を知っているゼロノスは警戒心と敵意がバリバリだ。
しかし、ここで彼らと戦っている暇はない。
……あかん、踏ん切りがつかない。いや、陽太君に名乗った以上は、覚悟を決めなきゃ。
「違うな」
「なにっ?」
「今の俺は……、仮面ライダーアインだ」
ライダーを名乗ったことに対する罪悪感がひどい。正直、今すぐ自分の顔面を叩き潰してやりたい気分だ。
俺が名乗って良い名前じゃないからな、これ。
「ふざけているのか?」
怒りに満ちたゼロノスの反応は、当然といえば当然だろう。
ショッカーライダーが唐突に人助けをしたかと思えば、仮面ライダーを名乗る。俺がゼロノスの立場でも怒りを見せる。
俺たちが成してきた悪行はそれだけ重い。
「そうか……。アイン、お前は何を知っている。手短に応えろ」
一方、意外な反応を見せたのは響鬼だ。
俺に向かって得物を構えるのでもなく、それどころか周囲を警戒しながらこちらにこう問いかけてくる。
「おい!」
「猛士の本拠地は奈良にある。京都でネオショッカー大首領と戦った黒いライダーの噂は俺の耳にも届いている」
そういえば、猛士の本拠地は奈良か。そりゃ、隣県で起きた大事件の事ぐらい調べるよな。
あえて顔を見せた如月さん以外に素顔の記録が残るようなヘマはしていないが、ネオショッカーの基地を潰し捕らわれた人を助けた時の黒いライダーは顔をばっちり見られている。
正体はわからなくても、そういうライダーがいたこと自体を調べる事は難しくない。
「それにな、知られているのにもかかわらず偽りの名を名乗るなら、それなりに事情があるのだろう」
見抜かれているようで悔しいが、この場では好都合だ。
俺は意を決し説明しようとするが、その説明は俺がする必要は無かった。
陽太君をおんぶしたカマタロスと、彼らを護衛してきたらしいデネブさんがこの場に突撃してきたのだ。
「侑斗、お客さんだ!」
「おまたせ~、ダーリン! 説明は私がするからまかせて!」
「だ、ダーリン!?」
「違う! 戯言を真に受けるな!」
カマタロスのセリフに、ゼロノスどころか響鬼まで引いていやがる。
重量級二人の乱入で、先ほどまであった剣呑な空気がまとめて消し飛んだよ。
それはともかく、目撃者の陽太君とカマタロスが来たのは都合が良い。俺がまた聞きで話すよりよほど説得力がある。
カマタロスが本当にかいつまんだ概要だけを説明していき、陽太君がこの時代で起きた事を補足していく。
こいつ、プレゼン能力まで高いのかよ……。ほんと性格以外ハイスペックだな。
「まて、つまり未来の貴様がライダーたちの妨害をしたのは……」
「知らんよ、未来の俺がどんな考えで戦ったのかなんてな」
普段なら毒の一つでも吐くのだが、陽太君の手前今回は無しだ。
仮面ライダーアイン、今回は最後までそれで終わらせなければならない。
なにより、ショッカーライダーでは子供など助けられない。俺はその事をよく知っている。
「ダーリン……」
だからカマタロス、それは止めろ。黒い巨漢の鬼がプルプル震えているのは正直怖いぞ。
一発ぶん殴るべきか、こいつ。
いや、何かそれはそれで喜びそうで嫌だな。
「未来の事はどうでも良い、それより今の事だ。今のお前は、あれを止める為……。いや、あれの中にいる子供を助けに来たんだな」
「そうだ。気に食わないからな」
カマタロスじゃないが、これは本音だ。
今更正義を語れる身ではないが、子供を改造して使おうなんて化け物が気に食わない。それだけだ。
「分かった。なら、背中は預ける」
響鬼が俺たちに対して警戒を消す。
思いっきりが良すぎるというかなんというか、先代に似てきてないか桐矢さん。いや、先代には面識ないけど。
一方時の彼方よりやってきた二人組。特にゼロノスは複雑だ。
ウバによる大破壊を見ているのだからしかたがない。
とはいえ、俺とカマタロスだけならともかく陽太君の証言付き。しかもオーナー夫妻が化け物に代わる場面も見ているのだから俺たちの言葉を疑う余地がほとんどないのだろう。
「侑斗、ここは……」
おそらくは仮面の下で百面相をしているだろう相方に、デネブさんが心配そうに声をかける。
結論はわかっていても、感情が納得しがたいのか。
いや、桐矢さんがさっさと決めすぎなんだが。
「くそっ、分かってる! ここであの化け物を倒せば数年早いが帳尻は合う!」
多少イラついた様子はあるが、どうやら何とか折り合いはついたようだ。
正直、邪魔されなきゃ御の字だと思っていたが、ほんと仮面ライダーって奴は……。
俺たちの話が終わるのを待っていたわけじゃないだろうが、俺が一気に潰した魔化魍が補充できたらしきウバの童子と姫が端末魔化魍を引き連れてこちらを包囲してくる。
あたりを見れば、自衛隊や他の鬼、G3も再び激戦を繰り広げていた。
「元凶のあいつらを倒す、肉の山の頂点に捕らわれている真白ちゃんを助ける。両方やるのよん」
「貴様が仕切るな!」
やる事を説明し始めたカマタロスにゼロノスが力の限り怒鳴る。
気持ちはわかるが、一番現状に詳しいのはこいつだから我慢してもらおう。
「させないさせないさせないさせない!」
「ウバはここここここでででででで完成させる!」
不明瞭かつしつこい喋りの童子と姫の叫びを合図に、魔化魍たちが一斉にこちらに向かって駆け出す。
一斉に響く化け物の泣き声に周囲が震える。
「貴様らにこれ以上好きにはさせん! 真白ちゃんを返してもらうぞ!」
処刑宣言も今回は無しだ。
俺は一直線に突っ込んできた巨大な赤いアリの魔化魍を迎え撃つべく駆け出す。
その動きに反応し、口から酸らしき液体を吐き出す。
「舐めるなぁ!」
俺は立ち止まると、足元の地面を一気に蹴り上げる。
コンクリートの床なら床板が、地面ならば土砂が爆発的に吹き上がり飛んできた酸を受け止め、さらには土砂の噴き出した勢いに飲まれ蟻魔化魍に向かい跳ね返っていく。
流石に蟻の魔化魍が自分の吐き出した酸で溶けるような事は無かったが、周囲にいた魔化魍までそうとは限らない。酸を含んだ土砂に巻き込まれ、数体が体表を溶かしながら深い傷に転げまわる。
俺の反撃はこれで終わりではない。
噴き出した土砂を目くらましに、素早く跳躍すると蟻魔化魍の上空に陣取る。
あの身体構造では上は向けまい。
事実、どうやら俺の居る場所はわかっているのに攻撃手段がない蟻魔化魍の動きが一瞬だけ鈍る。
それで十分だ。俺は重力に身を任せ落下をしながら、赤い輝きの宿った手刀を振るう。
「ライダーチョップ!」
高速で繰り出されたそれは、蟻魔化魍の右足をまとめて叩き折り、切り飛ばす。
「GYAAAAAAA!」
唐突に片側の脚を失った魔化魍が耳障りな悲鳴を上げるが、俺の攻撃はこれで終わりではない。
蟻魔化魍の下に潜り込むと、その巨体を持ち上げた。
片足を失った衝撃と、自分よりはるかに小さい俺に持ち上げられた事に、蟻魔化魍は残った足を振り回し暴れるが、その攻撃が俺に届く事は無い。
それより、これだけ生きが良いのならこうしてやる!
「ライダースローイング!」
俺達を包囲していた小型魔化魍の居る場所に、蟻魔化魍を投げつける。
唐突に飛んできた巨体に魔化魍たちも右往左往し、回避できなかった数体が下敷きとなった。
「とどめだ! ライダーキック!」
完全にバランスを崩し腹を見せている蟻魔化魍に向かい、必殺のキックを叩きこむ。
赤い輝きを宿した俺の右足は、強固なはずの甲殻を易々と砕き、さらには内部に流し込まれたエネルギーが奴の構造を粉々に分解する。
如何にしぶとい魔化魍といえども、内部を完全に破壊されれば無事では済まない。
断末魔の悲鳴を上げながら、さらに数体の魔化魍を巻き込みながら蟻の魔化魍は爆発四散した。
響鬼に向かったのはこれまた巨大な蟹の魔化魍を中心とした一団だ。
小型の魔化魍は兵士であり、巨大蟹はさながら戦車であろう。
「あんら、数が多いわね!」
響鬼の背後で陽太君を守っていたカマタロスが声が上げたかと思うと、その姿がぶれて3体に増えた。
相変わらず赤青黄色のカマタロスだが、今回は三体揃って弓矢を持っている。
奴は一斉に弓を引くと、魔化魍の群れに狙いを定めた。
「ちっちゃいのは、あたしたちにおまかせよ!」
カマタロスたちは矢継ぎ早に弓矢を放つ。とても弓で行ったとは思えない連射速度で、次々に小型魔化魍を射抜き地面に張り付けとしていく。
さらに、背後から陽太君を襲おうとした魔化魍にもきっちりヘッドショットを決めて倒していた。
ほんと底が知れないな、あいつ……。
「助かったぞ! はぁぁぁぁぁ!」
響鬼は縫い付けとなった魔化魍の間を縫うように走り抜けながら、同時にすれ違いざまに両手の音撃棒を振り魔化魍たちに次々に音撃を叩きこんでいく。
その威力はすさまじく、彼が通った一瞬後に魔化魍たちが次々と音を立てて爆発する。
爆炎をたなびかせ、響鬼が蟹の魔化魍に取りつこうとする。
だが、魔化魍もタダで取りつかれるわけがない。
カマタロスの矢を弾き飛ばしたその強靭で巨大な鋏を振るい、響鬼を弾き飛ばそうとする。
まともに当たればトラックですら宙に舞いひしゃげる一撃だろう。
そんな強力な攻撃を前に、響鬼はひらりと跳躍すると鋏を踏み台にもう一段高く飛ぶ。
そして蟹の背中に着陸すると同時に腰のベルトから音撃鼓を取り外し、背中に張り付ける。
音撃鼓を巨大化したかのようなエネルギーのサークルが宙に浮かび、響鬼はそれに向かい音撃棒を振るう。
戦場に似つかわしくない、力強い響きが周囲に木霊する。
「音撃打・火炎連打の型!」
響鬼が音撃技の名を叫ぶとともに、締めの一撃を振るう。
次の瞬間、巨大な蟹の魔化魍が大爆発を起こす。その爆発に巻き込まれた小型魔化魍も、次々に誘爆してこの世から消えていった。
ゼロノスにも、無数の小型魔化魍が襲い掛かる。
俺や響鬼と違い大型魔化魍がいない分、小型魔化魍の数は倍以上多い。
「デネブ! こっちにこい!」
敵の数が多いこの状況で今の姿では分が悪いと考えたのだろう。
ゼロノスは相方の名前を大声で呼ぶ。
「わかった、侑斗!」
指の火砲を放って魔化魍に対して牽制を行っていたデネブさんがゼロノスの背後に陣取る。
それを待っていたゼロノスはカードの向きを差し替える。
次の瞬間、ゼロノスの複眼が収納され、新たなブレストプレートが出現、胸を覆う。
背後のデネブさんの姿も同時に変わる。
両手をクロスさせゼロノスの肩に置いたかと思うと、その黒頭巾が渦巻き彼の姿を完全に覆い、さらには小さく圧縮していく。
同時に、残った彼の銃口の付いた手はゼロノスの肩に装着されたキャノン砲に、胸のブレストプレートにはデネブさんの顔が出現する。
ゼロノスの頭部を飾る金色のレールをドリル付きの列車が走り、顔の正面で高速回転をしながら赤い複眼に変形。最後に黒いマントが出現し風にたなびく。
これこそゼロノスにデネブさんが憑依したもう一つの姿。仮面ライダーゼロノスベガフォーム。
「最初に言っておく。侑斗と桐矢はなぜそっくりなのかが知りたい」
「俺が知るか!」
「巻き込むな!」
デネブさんの戯言にいつもの桜井さんだけではなく、蟹の魔化魍を倒した桐矢さんまでもが思わずツッコミを入れてしまう。
その突発的な漫才に人間に近い感性があるのなら困惑なり怒りなりの感情を示すだろうが、動物並みの知能しかないだろう魔化魍の群れは何の反応も示さず一直線にゼロノスベガフォームに襲い掛かってくる。
だが、それはあまりにも悪手だ。
「むっ!」
ゼロノスの両肩のキャノン砲から火線が迸る。雷を思わせる轟音が連続で鳴り響き、あたりの空気を震わせる。
その轟音は伊達ではない。
音が響くたびに、魔化魍が一体、また一体と吹き飛び消し飛ぶ。
運よくその蹂躙を潜り抜けゼロノスに組み付く魔化魍もいたが、その魔化魍が出来たのはそこまでだ。ゼロノスがその腕を無造作に振るうと魔化魍は引きはがされ、無様に宙を舞う。
そのままゼロノスの射線に落下し、他の魔化魍と同じ運命をたどる。
「SYAAAAAAA!」
その有様に怒りを覚えたのか、はたまた自分なら大丈夫だと思ったのか、魔化魍の群れの中から一体の大型魔化魍が宙に躍り出る。
まるで巨大な鮫のような魔化魍は鳥のように空を飛びゼロノスに襲い掛かる。
だが、今のゼロノスの前では無力だった。
ゼロノスは慌てることなくゼロガッシャーをクロスボウモードに切り替えると、カードをグリップのスロットに差し込む。
ゼロガッシャーに莫大なエネルギーが収束し、金色の光となって漏れ出す。
無言のゼロノスが引き金を引くと、金色のエネルギーが迸り空飛ぶ魔化魍を貫く。
一瞬だけ魔化魍は身を固くしてうごめくが奴の抵抗もそれだけだった。
Vの字に刻まれたエネルギーが魔化魍の身を焼き、ついには爆散させる。
仮面ライダーゼロノスベガフォーム。デネブさんが憑依する事により変身するこの姿は、機動力を犠牲に圧倒的なパワーと火力、そして防御力を誇る。
圧倒的な制圧能力の前に、魔化魍の群れは瞬く間に駆逐されていった。
2人の仮面ライダーと、偽仮面ライダー1人の前に、魔化魍の群れは瞬く間に駆逐されていく。
とはいえ、それと同じ速度で腐肉の塔から魔化魍が生まれ戦線へとやってくる。
このままでは俺達といえども圧倒的物量に押しつぶされるだろう。
だが、数を倒したこの瞬間だけ、次の補充までのタイムラグが出来る!
「来い! サイクロンヘル!」
ヘルブレイクのクールタイムは終わった。
決着を付けるのは今しかない。
前線で戦っていた俺は大きく後方に跳ぶ。
いつの間にか陽太君の隣にはサイクロンヘルが出現しており、俺は陽太君をバイクに乗せると俺もハンドルを握った。
防御フィールドは陽太君優先。行くぞ!
「掴まってろよ、突っ切るぞ!」
「わかった!」
「ちょ、あたしも連れて行って!」
「走って付いてこれるだろう、お前!」
「ああん、いけず!」
流石にもうカマタロスを乗せている余裕はない。カマタロスも分かっているのだろう、口ではなんだかんだか言いながらも走ってついてくる。
アクセルを吹かし残った魔化魍の群れを一気に突っ切ると腐肉の塔に取りつく。
「あっ、お前たち!」
「響鬼、お前はあいつらのフォローに行け!」
「ここは俺たちが引き受けた!」
塔に張り付いた俺たちを追撃しようと追ってくる魔化魍の前に、ゼロノスが立ちふさがると、再び肩のキャノン砲を連射する。
こうなるともう弾丸の壁だ。魔化魍は吹き飛ばされ塔に近づく事などできない。
一方の響鬼は鍛え上げられた脚力で魔化魍の群れを突っ切る。その速度はバイク並みである。ついでとばかりにすれ違いざまに攻撃を叩き込むのも忘れていない。
音撃棒の一撃に耐えきれず、防御力の低い魔化魍が数体爆発した。
「サイクロンヘル! お前は此処で待機、ゼロノスの援護に当たれ!」
サイクロンヘルを乗り捨てながら、同時に命令を出す。
ここからは垂直の壁だ。サイクロンヘルなら登れない事は無いが、陽太君が振り落とされる可能性を考えると無理は出来ない。
陽太君をしっかり抱きかかえると、俺は一気に跳躍をした。
「う、うわ、すげえ!」
こんな状況にもかかわらず恐怖の悲鳴より感嘆の歓声が上がるあたり、なかなか肝の太い子だ。
腐肉の壁で足場になりそうな部分を見つけ、さらに再跳躍。走るよりも速い速度で腐肉の塔を駆け登る。
周囲を見れば、響鬼やカマタロスも同じように足場を見つけてはジャンプを繰り返していた。
そして、俺たちは魔化魍ウバの塔上にたどり着く。
俺は魔化魍の大きさを高層ビルに例えたが、この場所の広さもちょうどそれぐらいだ。
ビルとの違いは屋上に何の建築物も無く、ただ中央に一本の肉の柱が聳え立つのみ。その柱には、小さな子供が埋め込まれていた。
「真白!」
そこに埋め込まれていたのは、もちろん陽太君の妹である真白ちゃんだった。
その痛ましい姿にたまらず駆け出そうとする陽太君だったが、それよりも先に俺と響鬼、そしてカマタロスが動く。
「させるか!」
「はぁっ!」
俺はチョップを、響鬼は音撃棒を一閃。
俺たちの足元に転がるのは、叩き落された肉の触手だ。背後では防御を俺たちに任したカマタロスが、陽太君を抱えその場を飛びのいている。
「させないさせないさせないさせない!」
「真白は我らのものものものものもの!」
真白ちゃんが囚われていた腐肉の床の一部が盛り上がったかと思うと、ズブズブと音を立てて巨大な肉団子が2つ姿を現す。
その醜い肉団子は腐汁を垂れ流しながら宙を舞う。
声からしてウバの童子と姫だろう、たぶん。
「ふざけるな! 真白はお前たちの物じゃない!」
どこから声を出しているのか分からない肉団子に陽太君が叫び返す。
その声に反応して肉団子の表面に見覚えのある人の顔が浮き出てくる。
オーナー夫妻、陽太君と真白ちゃんのご両親の顔だ。
「我らの子供のくせになまいきなまいきなまいきなまいき!」
「ゆるせないゆるせないゆるせないせっかんせっかんせっかん!」
オーナー夫妻の記憶まで奪っているのか、童子と姫は憤怒の表情で陽太君をなじる。
ただ、その目からは途切れることなく液体が流れ落ちているのは、夫婦のせめてもの抵抗なのかもしれない。
「お父さん、お母さん……」
両親のあまりの惨状に、さすがの陽太君も鼻白む。
もっとも、ここで彼に頑張ってもらわなければ助けられるものも助けられない。
「陽太君、まずは真白ちゃんを助ける事を考えるんだ」
両親まで助けられるなどと言った、無責任な事は言えない。
いや、カマタロスの未来での話を総合すればあれは倒さなければならない相手だ。
「カマタロス、陽太君を頼む。俺たちはあいつらの相手をする」
「分かったわ。任されたわよ、ダーリン」
先手を取ったのは童子と姫だ。
宙に浮かぶ巨大な肉団子から場所を問わず肉の触手が飛び出し、鋭い槍となり俺たちに襲い来る。
流石に数が多いが、まだ後方に二人がいる以上はうかつな回避できない。
俺は響鬼の一歩前に出ると、危険そうなものだけを拳で叩き落し、それ以外は無視をして装甲で受け流す。
数が減った触手の槍を響鬼は音撃棒の先に生み出した火炎で焼き払い、さらに数を減らす。
「ちょ、ダーリン! 未来でやったみたいに雷を使って焼き払ってよ!」
「できるか!」
陽太君を抱っこで抱えながら触手から逃げ回るカマタロスの言葉に、俺は怒鳴り声を返す。未来の俺、なんでそんな技が使えるんだよ!?
電撃でまず思い出すのは電気人間ストロンガーとエレキハンドを持つスーパー1だ。あと、そういやクソジジイも前に使っていたな。
他にも何人か思いつくが、電気を放つのは技では無く機能なので、ステゴロ専門の俺に使えるはずが……あっ!
そういや、仮面ライダー2号も電撃を使っていたか?
なら、性能的に仮面ライダー1号や2号のナノマシン採用型後継機である俺も同じ技が使えるかな?
やってみるか。
俺は触手の槍を受け流しつつ、ベルトの風車を最大限に回す。
俺のエネルギーは周囲のあらゆるものから吸収されている。その中には当然電気もある。
「エネルギー変換……」
ベルトが吸収したエネルギーが次々に電力へと変換される。
通常ならありえない電力が俺の身体に供給され、指先が火花を散らす。これならいけるか?
いや、威力は十分でも電力を四方にばらまくだけで、下手すりゃ響鬼や陽太君まで巻き込む。
しゃーない、今回はこうするか。
俺が何かをすると察したのか、近づけないようにと童子と姫は立て続けに触手の槍を繰り出してくる。
もっとも、これこそ好都合だ。俺は触手の槍を躱しつつ前進し、ついには両腕で童子と姫の触手を掴み取る。
「食らえ……。放電開始!」
次の瞬間、大気を揺るがす轟音と共に、目が眩まんばかりの閃光が俺の腕から迸る。
放たれた雷の前に触手は次々に爆ぜ、ついには本体に届く。
「ぎゃあああああああああああ!」
「いたいいたいいいたいいたいいいたいいいたい!」
触手の槍を焼き払われた肉団子どもが悲鳴を上げる。相変わらず耳障りな声だ。
しかし、使い勝手悪いな、これ……。
うっかり使うと無差別に周囲を巻き込む上に目標に当たる保証はない。さらにはチャージに時間が掛かるので、これなら普通に近づいて殴った方が早い。
機能外の使用方法なので、これは要研究だな。
とはいえ、今回だけは最適の攻撃だった。
迸る電撃は奴らの触手を全て焼き払い、動きを止める事に成功した。
「カマタロス! 陽太君、今のうちに真白ちゃんを! 響鬼さん!」
「わかっている!」
とどめを刺さんと俺と響鬼が童子と姫に迫る。
だが、この場にやってきた童子と姫の性能は伊達では無かった。唐突に肉団子の胴体に一文字亀裂が出現したかと思うと上下に開く。
その下からは金色の目が……。
「まずい!」
直感で俺と響鬼が左右に跳躍する。
次の瞬間、俺たちがいた場所に強力なビームが着弾し、腐肉の床が大きく抉る。
俺たちの突撃が止まったのを見て、さらには童子と姫が触手を生やし始めた。
「第二ラウンドという訳か」
「ったく、痛がっていたくせにしぶといな……」
後半に続く。