ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
「真白!」
二人のライダーが童子と姫と戦っている間にも、カマタロスと陽太は真白が捕らわれていた腐肉の柱に取りつく。
遠目には肉の柱に見えた物は、このウバと呼ばれる魔化魍のミニチュアのような存在であった。
凸凹とした表皮に、泡のようなできものが生まれては弾ける。そんな悍ましい代物に、少女の体は半ば埋まっていた。
「カマタロス、これはどうすれば!?」
後ろを見れば触手の槍にプラスして熱線まで放つようになった姫と童子を相手に、二人のライダーといえども攻めあぐねているようだ。
いや、注意を完全に引き陽太たちに向けさせていないのだから、彼らはどちらも戦巧者なのだが……。
「遠目で見たときに気が付いていたけど、未来で見た姿と違う……」
陽太の問いかけに、カマタロスが忌々し気に応える。
未来で見た真白は肉の城、その中央の部屋に放置されているだけでこのような拘束はされていなかった。
あの時は手足すらぶよぶよの肉に飲まれ、うつろな表情を浮かべるだけの巨大な肉の塊を拘束する意味が無かったのかもしれない。
「俺はどうすれば?」
「とりあえず真白ちゃんに呼びかけて! あたしは何とか引っ張り出せないか試してみる」
最悪は、あの腐肉を切り分けてでも抉り出す。
カマタロスがそう言って、その手に長剣を取り出す。その瞬間だった。
真白を捕えていた腐肉の柱がうごめき、無数の触手の槍がカマタロスを襲う。
「こっちも動くのね!?」
元々未来で見た時には無かった部分であり、姫と童子の動きは見ていたのである程度は予測していた。
それゆえにカマタロスは剣で触手を弾く事が出来た。
「お姫様は渡さないって事ね……! もー、いけずなんだから!」
アインロールドに幹部クラスと評される実力を持つカマタロスだ。触手の槍程度では彼の守りを破る事はできない。
陽太を守りつつも、何とか前進をしようとするが、そのたびに触手の槍は増えていく。
それどころか、床からまで触手の槍が生えてくるではないか!
「やっかいね! もう!」
「カマタロス!」
「あたしは大丈夫だから、もうちょっと近づくわよ!」
そう言って人間にはいまいち判別しづらい笑みを浮かべる。
まだ大丈夫そうだ。そう思い安堵する陽太の耳にこんな囁きが届く。
“こないで”
「えっ!?」
唐突な響きに陽太の足が止まる。
今の声は、確かに真白だったはず……。
「ちょっと、どうしたのよ、よーちゃん!?」
一方、唐突に足を止めた陽太にカマタロスが声を上げる。真白の声が聞こえない彼からしてみれば、何が起きたのかさっぱりわからない。
「え? 今真白の声が?」
「声!?」
「聞こえてないの!?」
空耳ではない。確かに今、真白の声が聞こえた。
だが、カマタロスはまるで聞こえた様子が無い。
“お化け……こないで……パパとママをいじめないで……”
何が? 何が起きているんだ?
一斉に触手の槍が、床から、柱から生えてくる。
それはまるで柱に捕らわれた真白を守る壁の様で、狙いはたった一つ、カマタロスだ。
もはやライダーたちの姿が見えなくなるほどの量の触手の障壁が生まれると同時に、陽太にははっきりと真白の声が聞こえた。
“お化け……お兄ちゃんをつれていかないで……”
「真白、お前……。意識が!?」
言葉にするが、とてもではないが正気の言葉とは思えない。
いや、きっとこれはカマタロスに助けられて、連れて行かれた時の事か。
ずっと、助けを求めていたというのか?
それに気が付いた時、陽太は駆け出していた。
「よーちゃん! あぶない!」
あまりの数の触手に一歩も動けないカマタロスが呼び止めるが、そんな事で陽太は止まらない。
まったく妨害が無い中腐肉の柱に取りつくと、爪を立てて腐肉の壁を引き剥がそうと力を籠める。
「兄ちゃんが、兄ちゃんが助けてやる!」
非力な子供の腕力で引き剥がせるようなやわな代物ではない。
それでも、陽太は引き剥がそうと懸命になる。爪の間から血が落ちるのもお構いなしだ。
“やだ、やだ……パパとママが……”
「違う! あれはお父さんじゃない! お母さんじゃない! 悪いお化けだ!」
‟お兄ちゃんをつれて……”
「違う! あの時は何もできなかった! でも、カマタロスと、仮面ライダーが来てくれたんだ! 助けに来てくれたんだ!」
聞こえてくる真白の弱々しい声を、陽太は否定する。
お父さんとお母さんは悪いお化けになってしまった。
自分はカマタロスに連れられて逃げてしまった。
その現実が彼女をここに閉じ込める事になっていた。
でも……。
「俺は……僕は帰ってきたんだ! だから、早くお前も帰ってくるんだ、真白! 家に帰ろう、真白!」
叫び声と共に、肉の隙間に指がかかる。
剥がせないはずの腐肉の壁が徐々に剥がれていく。
そんな陽太の背中に、触手の槍が迫る。
コアを奪わんとする子供を誅するべく、魔化魍ウバが動いたのだ。
「させないわよぉぉぉぉぉぉ!」
防御を捨て、自らの身に触手の槍が突き刺さるのも構わずカマタロスが走る。
陽太に槍が刺さる直前、カマタロスが割り込みその身で槍を受ける。
カマタロスの胸を触手の槍が貫く。
「カマタロス!」
「私にかまうな陽太! 妹を、真白ちゃんを引っ張り出せ!」
カマタロスの叫びに、陽太が腕に力を籠める。
非力なはずの少年の腕力であるはずなのに、腐肉の壁は剥がれ落ちていく。
陽太の手が真白の手に届く。
少女の小さな体が、腐肉の塔からついに解き放たれた。
※※※※※
俺たちが戦っている背後で、唐突に腐肉の壁が生まれたかと思ったら、ほんの少しの時を経て壁は消えてしまう。
消え去った壁の向こうには、小さな女の子を抱きかかえた陽太君と満身創痍のカマタロスの姿があった。
「やったのか、陽太!」
同じ光景を見ていた響鬼が歓声を上げる。
二人がついには真白ちゃんを助け出す事に成功したのだ。
俺たちが救出の喜びを感じている一方で、まったく同じものを見ていた童子と姫が悲鳴を上げる。
「そんなそんなそんなそんなそんな!」
「ばかなばかなばかなばかな!?」
耳障りな叫びを上げながら、肉団子が溶けていく!?
いや、俺たちは何もまだしていないぞ? 触手とビームの攻撃の前に攻めあぐねていたはずなのに、どういう事だ?
そう思ってみていると、溶けていく肉団子の中から出てきたのは、オーナー夫妻?
「そういう事か。あの姿は魔化魍ウバが作り出した鎧で、童子と姫はそれを中から操っていたにすぎないのか」
それを見た響鬼が吐き捨てるように、今まで戦っていた物が何であったのかを説明する。
妙に痛がっていた割にタフだと思っていたら着込んでいたわけか。
つか、本体は無事だったのに、外装を殴られただけで痛がるとはこらえ性が無さ過ぎやしないか?
「とはいえ、これで厄介な肉団子は無くなった、後は奴らを」
「そうだな。倒せば終わりだ」
俺は拳を、響鬼は音撃棒を構える。
もはや奴らを守るものは無い。次の一撃で終わりだ。
打倒の意志を見せる俺たちに、童子と姫が悲鳴交じりの声を上げる。
「まてまてまてまて、我我我我らを倒して良いのか!?」
「何!?」
「そそそそそそそそそうだ、そうだ、こ、こここここ、こいつらが死ぬぞ、死ぬぞ!?」
どういう意味だ? いや、まさか!?
その言葉が表す意味を俺は瞬時に理解し詰問の叫びを上げる。
「オーナー夫妻はまだ生きているというのか!?」
「そそそそそそそそ、そのとおり。ここ此処こここいつらの命が惜しければ、わわわ我れらを見逃せ!」
「見逃せ見逃せ見逃せ、こいつらの命がどうなってもいいいいいのか!?」
尻もちをつき後退りをしながら姫と童子が命乞いの声を上げる。
どうするべきか、俺と響鬼が一瞬だけ迷った。
もっとも、その迷いは次の瞬間消え去った。
「あんら、良い事を聞いたわよん」
「正直パパさんとママさんは諦めていたのよねぇ!」
童子と姫の背後から聞こえてくるのは、地獄の底から響くような野太い声!
唐突に、その場所に砂の塊が起き上がったかと思うと、人の姿を形どる。
それは青と黄色のカマタロス!?
え、どういう事って……あ、そういや分身能力があったな、こいつ。
「そういう事なら遠慮はしないわよ!」
青いカマタロスのその太い拳がオーナーの背中に突き刺さる。
「大団円、良い言葉だと思わない?」
黄色いカマタロスの蹴りがオーナーの妻に突き刺さる。
否。
二人の体に、カマタロスの肉体がどんどんと飲み込まれていく。
あれは、イマジンの憑依能力!?
「イイイイイイイイイイイ、イマジン!?」
「ナナナナナナナナナナナナ、ナニヲ!?」
童子と姫が驚愕の声を上げるが、カマタロスの動きは止まらない。
二人の姿が完全にオーナー夫妻と一つとなる。
「出てけって言っているのよ、寄生虫野郎!」
まったくもって力技だ。
同じ憑依能力のあるカマタロスが、オーナー夫妻に憑依して童子と姫を無理やり追い出して見せたのだ。
中型犬ほどのサイズだろうか。オーナー夫妻の体からぴくぴくと蠢く肉の塊が飛び出す。
あれが、ウバの童子と姫の本体!?
「なるほど、とことんまで寄生虫だったわけだ! 遅れるなよ、アインロールド!」
「任せてください、響鬼さん!」
もう、逃がしはしない。
俺たちは一気に距離を詰めると、肉の塊に向かって必殺の一撃を解き放つ。
「ライダーチョップ!」
俺が放った赤き光を灯した手刀は肉の塊を容易に両断し焼き払う。
「シニタクナアアアアアアイ!」
最後まで耳障りな断末魔の悲鳴と共に、化け物の片割れがこの世から消え去る。
「火炎連打の型! はっ!」
一方の響鬼も、音撃棒の一撃を肉の塊に叩き込む。
本来は音撃鼓を取り付けたうえで、複数回叩き込む連続技。だが、鼓も連打も必要無かった。
「イヤダアアアアアアア!」
たった一発の音撃棒の命中で肉の塊はひしゃげ、炎に包まれ、耳障りな悲鳴を上げて消えていく。
この事件を起こした化け物の最後は、この程度の無様な物であった。
真白ちゃんを助け出した陽太君とカマタロスがこちらにやってくる。
あちらにいたカマタロスは満身創痍、胸を槍に貫かれていたがこちらにいたカマタロスたちと合体すると、なんか元にもどった。
いや、割とふらふらしているあたり大ダメージではあるにはあるようだが……。ほんと何なのよ、こいつのスペック?
「響鬼! お父さんとお母さんは!?」
「無事とは言い難いが生きている。病院に運ぶ必要はあるが、これなら大丈夫だ」
二人の様態を見ていた響鬼の言葉に、陽太君が破顔する。
確かにひどく衰弱をしているが、俺のセンサーでわかる範囲でも命への別状はなさそうである。
この少年の笑顔だけで、頑張った甲斐があるというものだ。
「後は、仕上げだな」
敵は倒した。助ける者も助けた。ならば、一つする事があった。
俺は真白ちゃんを失い、無秩序にうごめき続ける魔化魍の中枢部を横目に、隣にいる響鬼に声をかける。
「響鬼、ここからはあんたの仕事だ」
「なっ!?」
同じものを見ていた響鬼が、驚きの声を上げる。
いや、ここで驚かれても。
「人造オロチ現象なんて放置しておけないだろう。ここで鎮められるのは、響鬼である貴方だけだ」
下にも猛士から派遣された鬼が数人いるが、この場にいる音撃戦士は響鬼唯一人だ。
なにより……。
「それはその通りだが、俺は……」
猛士の細かい内部事情は知らないが、当代の響鬼が正式に襲名されていない事ぐらいは俺の耳にも届いている。
俺の知る先代の話や、時の王者の話。そこに出てくる桐矢京介と俺の目の前にいる彼は微妙な違いがある。世界の違いなのかどうかは知らないが、彼にも色々あったのだろう。
俺はそれを知る由もない。だが、これだけはわかる。
「出来るさ。何故ならあんたは響鬼だからな」
俺の言葉に響鬼が一瞬だけ固まる。
そして、彼の視線が俺から陽太君に、カマタロスにへと移る。三人の目に、響鬼に対する疑いは無い。
「そうか、そうだな。俺が響鬼だ。見せてやるよ。当代響鬼、一世一代の音撃をな」
そう言うと、響鬼は腰から音撃鼓を取り出すと、ウバの中枢に向かい駆け出す。
無秩序に暴れるウバ中枢だが、その程度の抵抗で響鬼が止まるはずも無く、あっさりと音撃鼓を取り付ける。
空中に巨大な文様の入ったサークルが出現し、響鬼はそこに向かい両手の音撃棒・烈火を叩きこむ。
あたり一帯……いや、域里の地に腹の底から響く清浄なる猛々しい、戦いの終わりを告げる音が響き渡る。
「はっ!」
さらに響鬼は音撃棒を振るう。
清浄な、力強い音の前に、淀んだ空気が消し飛ぶ。
「はぁっ!」
次々に音撃が鼓に叩き込まれる。
分かる。俺にも分かる。
響鬼が一回叩くごとに、この地で暴れていた端末の魔化魍が消えて行っているのが分かる。
「はあっ!」
音撃棒が振るわれるたびに、音撃鼓が震えるたびに超巨大魔化魍が崩壊し、清められた空気に帰っていく。
もはや、ウバに抵抗するすべはない。
響鬼の最後の一撃を待つばかりだ。
連打は最高潮に達する。
猛々しくも、どこか安心をもたらす音の奔流に、俺達も動けずにただ見つめる事しかできなかった。
そして……。
「音撃打・豪火連舞の型!」
力強い最後の一撃が、浄化の音が響き渡る。
超巨大魔化魍ウバが、身に宿した淀みと共に粉々に砕け消え去る。
ふわりと、本当にふわりと魔化魍の上で戦っていた俺たちは大地に降り立った。
戦いの喧騒が消え、清められたこの地で人々の視線がこの浄化を行った響鬼一人に集中する。
どれだけ時間が経ったのだろう。一瞬か、それとも長い時間か。
「うわあああああああああ、やったああああああああああああああ!」
誰かが、魔化魍たちが全て消え去った事をようやく実感して、喜びの歓声を上げた。
その喜びの感情と歓声の声は次々に伝播し、大きなうねりとなる。
仮面ライダー響鬼。
長く不肖の弟子と呼ばれた男が、伝説の再来を成し遂げた。
その瞬間であった。
オカマキャラは強キャラ。古事記にもそう書いてある(捏造