ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
大勢の人々が歓声を上げる中、俺はこっそりと超加速を発動させる。
魔化魍が滅びこの地を襲った脅威が消え去った今、もう仮面ライダーごっこは終わりだ。あまり人に顔を見せたい身の上ではないので消えるのに限る。
その機能が無い限り、ライダーの目でも追えない超高速だ。
さっさとサイクロンヘルの元にたどり着くと……おい、さっさと行くぞ。公僕のいるところに長々と居たい身じゃないんだよ。
ぐずるサイクロンヘルに蹴りを入れて跨る。さっさとこの場から立ち去るのに限る。
というか、ちょっと関わりすぎたか。
どうすっかな。中学生生活が楽しいミカには悪いが、この際死んだことにしておくのもありだな……。
いや、俺は死んだことにして蛇女にでも任せれば転校させずに済むか?
「あ、そうそう。ガールフレンドの為にナイスファイトを見せたハンサムボーイは助けておいたからねん。下で寝かせてあるから連れて行って上げてね」
「なんと、俺が探しに行ったときは魔化魍が爆発した跡しかなかったのに!?」
「倒しておいたのよん。すごいでしょー」
と、アクセルを吹かそうとした俺の耳に、カマタロスの声が届く。
あの野郎……。
あ、こっち見ている。あいつ、俺が姿を消したのを気が付いていやがったのか!?
「そうか、彼を助けたのか。ありがとう」
カマタロスの言葉を聞き、礼の言葉を述べたのは響鬼だ。
割とひねくれもののくせに、やたら素直だと思ったら、なんか彼もこっちを見た?
あっ、顔だけ元に戻した?
ん? 口だけを動かして……。
【と・も・だ・ち・に・し・ん・ぱ・い・か・け・る・な】
マテや!?
ちょっと待て!?
俺、ボイスチェンジャーで声変えたよな?
素顔なんて一回も見せていないよな?
気が付く要素無いよな?
なんで気が付いているんだよ、あの人!?
やべ、俺が消えた事に気がついた連中が騒ぎ始めた。
行くぞ、サイクロンヘル。とりあえずこの場を離れる。趣味の人助けは今更だが、知る人が少ないほうが良い顔なのは間違いないからな。
アクセルを吹かし立ち去ろうとした俺に声をかけてきたのは、桜井さんに陽太君だ。
「まて、アインロールド!」
「仮面ライダー! いっちゃうの!」
まぁ、これに応えないわけにはいかないよな。
俺は片腕を天に突き上げる。声は掛けない、きっとこれだけで十分だ。
そして、サイクロンヘルを飛ばすとそのまま立ち去る。
そうは言っても、森に入って、すぐにステルスを起動させて隠れるんだが……。
マジどうしよう。
変身したところを見たカマタロスはともかく、なんか桐矢さんまで正体に気が付いている?
あの様子だと正体をばらすような真似はしないだろうが……。出て行ったほうが良いよな。
「サイクロンヘル、お前は先に駐車場に帰っていてくれ。俺は出ていくわ……」
くそ、笑うな。
サイクロンヘルに蹴りを入れる仕草を一つすると、今いる場所から適当な位置に移動する。
桐矢さんとカマタロスは気が付いているようだが、桜井さんを含むほかの連中は気が付いていない。
態々ヒントをやる必要は無いのだ。
さてと、正直このまま消えたいが、あきらめて行くか……。
俺は変身を解除すると、森の中から一歩踏み出す。
「おーい……」
どこの光の国の戦士だ。
我ながら芸の無い仕草で森を抜けだし、魔化魍が消えた事に喜ぶ人の前に姿を現す。
唐突にやってきた男に注目が集まる。
やべ、すごい居心地が悪い。
逃げて良い? というか、すごく逃げたい。
「!!!!!!」
「イケメンくん!」
俺の姿を確認して、真っ先に飛びついてきたのは高槻と部長だ。
顔をぐしゃぐしゃにして飛びついてきましたよ、この二人。
割と柔らかい胸部装備が押し付けられていて辛い。
「良かった。本当に良かった!」
「無事だったんだ!」
いや、そこのカマが言ったよね。無事だって?
って、先輩方まで!?
高槻と部長の突撃は踏ん張って耐えれたが、他の部員まで飛びついてきたのは流石に予想外で耐えられなかった。
男女関係なく、感情を爆発させた部員たちが俺に泣きながら笑い抱き着いてくる。
さ、流石にこのまま無碍にするのはつらい。
「あっと、えっと、その……すいません、心配かけました」
「馬鹿野郎、ほんと心配したんだぞ!」
「ほんと、ほんともう会えないって!」
なんか遠目でカマタロスと桐谷さん、桜井さんとデネブという仮面ライダー関係者が生暖かい視線を向けていた。
まぁ、事情を知らない桜井さんとデネブさんからしてみりゃ、死んだと思っていた奴が帰ってきた感動的光景なのだろう。
しかし……、俺なんかがこんな幸せを享受していいのか。心が痛む。
一方、先輩たちが感動の再会を果たしている横で、一つの別れが始まっていた。
「さってと、あたしはそろそろ行かなきゃね」
一通りの大団円を見終わったカマタロスは、グッと体を伸ばすとこんな言葉を口にする。
「カマタロス!? どっか行っちゃうの?」
今日会ったばかりの俺と違い、それなりに長い期間を一緒に過ごしたのだろう。
唐突な別れの言葉に隣にいた陽太君が驚きの声を上げる。
「ん~、いつまでもここに居ると迷惑だろうし、契約も果たしたからね」
「けいやく?」
「助けてって。それだけ」
聞いた限りの未来の惨状。おそらく真白ちゃんが出来た思考は、ただそれだけなのだろう。
本当にか細い思考を強引に契約と解釈して、カマタロスはこの時代に飛んだのか。
ほんと大した奴だと、認めざるを得ない。
「もー、今回はパーフェクトな仕事よ。さすがあ・た・し」
でも、自分で言うな。
呆れる俺の視線を気が付いているのかいないのか、カマタロスは陽太君ににこやかに告げる。
「あたしがお手伝いできるのはここまで。ここから真白ちゃんを、パパさんとママさんを助けるのはよーちゃんのお仕事よん」
「もう、助けてくれないの? カマタロス?」
「真白ちゃんを助けたのはよーちゃんよ。自信を持ちなさい」
そこでなぜこっちを見る、カマタロス。
俺はショッカーライダーで仮面ライダーじゃありませんよ?
「真白ちゃんを助けた主役はよーちゃん」
その言葉は間違いないだろう。
最初に戦ったのは陽太君。ずっとそれを助けていたのはカマタロス。俺や響鬼、ゼロノスは最後にやってきた仕上げの一点だ。
それでも、少年は何か思うところがあるのだろう。涙ぐみながらカマタロスを引き留める。
「で、でも……」
「泣いちゃだめよ、私たちはトリプルライダーなんだから。こういう時はにっこり笑ってね」
「でも……」
だが、カマタロスは少年の手を振り払う。
その姿を少しづつ薄れさせながら、最後に彼はこう伝えた。
「君と共に君の家族を救うために戦えた事を私は誇りに思う。さらばだ、陽太。身も心も強くあれ、仮面ライダーたちのように」
そして、カマタロスは虚空の果てに消えていく。
時の砂漠に戻ったのか、それとも消えたのかは俺にもわからない。
ただ、涙をこらえた少年は天を見上げていた。
さて、それからだ。
まず、ゼロライナー組。
桜井さんとデネブさんは事件が終わると早々にゼロライナーで何処かに去って行った。自衛隊や警察も、何も言わず彼らを送り出した。
俺はと言うと、去り際に桜井さんから一発拳骨をもらい、デネブさんからもうあんな事をしちゃ駄目だという注意と、俺にあんな真似をさせた事を謝罪された。
良心が傷んだが、俺は強引に痛みを無視をした。
俺達を含むキャンプ客はその後自衛隊の護衛の元でキャンプ場から徒歩で脱出、その後は大型バスで都内の病院に入った。
その後は簡単な検査を受けた後解散となった。
あと、これは後日知った事だが、ゼロライナーやカマタロス、アインロールドの事は無かった事にしたらしい。
無論、極秘資料には事件の詳細や協力者の事が書かれる事になるが、これが表に出る事はまずないだろう。
オカ研だが、当然の如く活動に制限が掛けられた。
部活動といえ、顧問不在の小旅行でいろいろ危ない目にあった事を学校は問題視したそうだ。
廃部は免れたが、当分は皆で出かけられないなーと部長がぼやいていた。
あんな目にあったのに、肝の太い人だ。
高槻がしばらく俺を意識してたのは参った。
別に何かあるわけじゃないのだが、ふと気が付くと視線がこっちを向いているのだ。
級友がそのことをおちょくってきたが、別に何かあったわけでないので適当にいなした。
そして、最後に一つ問題があった。
その日俺は柴又駅前、古い映画の登場人物の銅像が見える場所にやってきた。
ある人物と会うためだ。
人々が行きかう街を眺めながら、遅れてやってきたその人物に声をかける。
「いつから気が付いていたんですか、桐矢さん」
会う人物とは、当然だが仮面ライダー響鬼である桐矢京介さんだ。
お弟子さんの鼓屋さんや他の鬼がいる気配はない。町を行くのはごく普通の一般人だけである。
会う必要なんてほとんどなかったのだが、渡す物があったので呼び出したのだ。
キャンプ場で見せていた高校生の顔ではない。ショッカーライダーとしての声色を聞いても、桐谷さんは顔色一つ変えずこう答える。
「アインロールドと話してすぐにだな」
「声は完全に変えていたが?」
「鬼の耳をなめるな。声は違えど、喉の震えや発音のアクセントの違いぐらい聞き分けられる」
ショッカー謹製の装備による欺瞞工作を見破るなんて、どんな耳だよ。
いや、そのぐらいの耳が無きゃ音撃戦士なんてなれないのか?
驚きと呆れを滲ませる俺を見て何やら満足げな笑みを浮かべた桐矢さんだったが、不意に移動を始める。
「安心しろ。他の誰にも言っていないし、言う気も無い。ついて来い」
「いや、ついて来いと言われても……」
用件だけ済ませてさっさと帰るつもりだったが、何とも強引な人だ。
俺は仕方なしについていきながら、用件だけ先に済ませる事にした。
「ああ、その前に。これを」
持っていたクーラーボックスに偽装した特殊ケースを桐矢さんに押し付ける
「これは?」
「人間還元液。改造人間を人間に戻す薬品です。先日ようやく届いてね」
人間還元液。デストロンが開発した改造人間を人間に戻す薬である。
俺みたいにがっつり改造している人間には効果は無いが、ちょっとした薬品改造程度なら元に戻す事が可能だ。
なんでこんな物をデストロンが開発したのかは知らない。
「真白ちゃんの治療、上手くいってないんでしょう」
「……そうか、恩に着る」
救出されたペンションのオーナー一家だが、彼らは猛士関連の病院に搬送された。
カマタロスに助けられた陽太君はともかく、夫婦や真白ちゃんはずっと魔化魍の影響下にあったのだ。彼らには治療が必要であった。
取り憑かれていただけの両親は衰弱こそひどいが、それ以外の異常は無かった。今は意識も戻り、ベッドから離れられないが会話が可能らしい。
彼らが言うには白尽くめの集団が突然やってきたかと思うと、捕えられ妙な肉の塊を押し付けられたらしい。そこから先は記憶がないが無いらしいので、そこで取り憑かれたのだろう。
一方、問題なのは真白ちゃんだ。
童子と姫に改造された身体は、一部が魔化魍に置き換わっていた。このような症状は例を見ないため、猛士の医師団も慎重に対応を進めているらしい。
俺が人間還元液をデストロンから取り寄せたのも、この話を聞いたからだ。
「ショッカーからの医師団の派遣が打診されたと聞いている。それもお前か?」
「さあ? マッド連中がどこかで聞いたんじゃないですか?」
別に猛士に恩を着せる気も無いので適当に答えておく。
あくまで陽太君と真白ちゃんの為だ。あとは、あの魔化魍どもの思い通りにさせるのが気に食わないというだけだ。
うちのマッド連中が症例を聞いて目を輝かせていたのは気にしないでおこう。
「お前を見ていると、ショッカーに対する認識が変わりそうだよ」
「変えないほうが良いですよ。俺が言うのもなんですが、気を抜くと牙を剥く悪党ですから」
所詮はショッカーの犬だ。命じられればなんでもする悪党だ。今回はたまたま魔化魍が気に食わなかった、それだけである。
「本当の悪党はそんな事を言わんと思うがな。ついたぞ」
本当の悪党だから、巻き込みたくない人には忠告するのだ。俺に近寄るなと。
それはともかく、俺が案内されたのは甘味処「たちばな」。
猛士の拠点の一つであり、響鬼の物語の舞台となったお店だ。
ちょうどいい。ミカのご機嫌取りに何か甘いものでも買っていくかな。
そう考え店の中を見た俺は固まる。
そこには、居てはならないものが存在していた。
「あんら、きょーちゃんおかえりん。あんら、あの時のハンサムボーイじゃないん、おひさ」
真っ黒な人間じゃありえない鬼のような存在が、作務衣に赤いエプロンというこの店のユニホームを着こんで中でなんか調理をしていたのだ。
マテや、電王時空かよ!? なんで誰も気にしないんだよ!?
何が起きているのよ、いやマジで?
なんでここに居るんだ、カマタロス!?
「一度でも正体を知るとずっとイマジンにしか見えないが、あいつが正体を明かそうとしない限り普通の人間に見えるらしい。野放しに出来ないと、街にいたところをトドロキさんが連れてきてな……」
その言葉の通り、店内にいるお客さんは誰も気にした様子が無い。
それどころか、ごく普通の主婦と思しき一団がカマタロスを見て挨拶までしている。
「今日も美味しかったわよ、カマちゃん」
「ほんとカマちゃんみたいな子が入ってくれて、嬉しいわ」
「おーっほっほっほ、三ツ星レストランの厨房にいた事もあるのよ。畑違いだけど厨房は任せてちょーだい。あとオードニーね」
マジかよ!? どんだけ芸達者なんだよ、あいつ!?
もうあいつ一人で良いんじゃないか!?
「売り上げ、伸びているんだよなぁ……」
どうも店主の人はカマタロスがちゃんとカマタロスに見えているらしく、なんか背中がすすけている。
なまじっか有能なだけに。きっとストレスがすごいのだろう。
「なあ、お前……。あいつを引き取ってくれないか?」
真剣な表情でこう打診してくる桐矢さんに、俺はにこりと笑いながらこう返した。
「すいません、今うち求人は出していないんです」
こんな劇物、うちでもごめん被る。
ちょうど黒い鬼だし、猛士に任せよう。うん、それが一番良い。
「ただいまー」
なんか届け物をしただけなのに、偉い濃い一日だった。
結局あんみつセットを二つ買って帰ってきたが、ミカはまだ帰ってきていないらしい。
とりあえず冷蔵庫に入れておいて、手洗いうがいだけするか。
そう考え洗面所に向かう。
うちは表向きは一般的な家なので、そこには当然大きな鏡がある。
そこに俺の顔が映る。
「ハンサムボーイ、イケメンくん……そんないい顔なのかねぇ、これ」
そこに映る俺の顔に目玉は無かった。ただ何処までも深い黒い穴があるだけだ。
そこに映る俺の顔に口は無かった。ただ歪んだ笑みのように見える黒い穴があるだけだ。
鼻も無い。頬も痩せこけて、まるで肌色の髑髏だ。
ミカにも言っていない事が一つある。
いつからか、俺は自分の顔が認識できなくなっていた。
度重なる洗脳の影響か、それとも別の要因かは分からない。
写真や映像で見てもどれが自分の顔か分からない。鏡に映るのは決まって肌色の髑髏だ。
ミカは顔は弄っていないと言うし、子供の頃は普通の顔だったと思うのでモブぐらいの顔はしているだろう。
俺の認識はその程度だ。
整っていると言われても正直困惑しているというのが実情だった。
じっと鏡も向こうの髑髏を見ていると、不意に奴の底の無い黒い目が訴える。
“満足か? 見ず知らずの子供を助けた気になって満足か? 助けたかった奴らは助けられなかったのに”
“あんな奴と兄妹ごっこをいつまで続けるんだ? 本当の家族は放置しているのに”
“仮面ライダーをできて楽しかったか? お前の手は既に血に汚れているのに”
「黙れ」
耳に聞こえる鏡の声に、俺は冷たく短く命じる。
いつもそうだ。鏡を見ていると骸骨はこう訴えるのだ
“お前は罪人だ。許されざる罪人だ”
知っている。
人を貫く感触をこの腕は知っている。人を蹴り砕く感触をこの脚は知っている。
だから……。
「あー、やめやめ。こんなもん見ていても楽しくないわ」
あかんあかん。こんな事を考えても仕方ないわ。
俺は蛇口を全開にすると、頭から水を被る。
このクソったれな骸骨との問答なんぞ、やっていても鬱になるだけだ。
「ただいまー!」
不意に、玄関から帰宅を告げる声が聞こえてくる。
洗面所から顔を出して玄関を見てみると、制服姿のミカが靴を脱ぎ捨てているところだった。
「靴はちゃんとそろえておきなさいと何度言ったら」
「あーん、ごめんごめん」
てへぺろと舌を出してあやまるミカに、俺は苦笑をしながら洗面所から出る。
鏡の向こうの骸骨が視界から消え、奴の声も聞こえなくなる。
「あんみつ買ってあるから食べるか?」
「あ、食べる食べる!」
まだ、守るべきものはあるのだ。
あんなものを気にする必要は、俺には無かった。
そう、決めたのだから。
というわけで、響鬼編はいったん終了。
なんか気が付いたらカマタロスを盛りすぎた気がする……。
さて、次回は
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さあ、ここからがハイライトだ!
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祝え!