ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
再開いたします。
「加古川飛流が病院を脱走した!?」
「そうだ」
クジゴジ堂の店番をしていた常磐ソウゴの前に現れた招かれざる客は、唐突にこのような情報をもたらした。
長身長髪のいかつい男。紫の装束を身に纏ったその男の名前はスウォルツといった。
ジオウと敵対したタイムジャッカーのリーダーであり、ツクヨミの実の兄。野望に邁進した後、ジオウに敗れ去った男だ。
「なんで俺にそんな事を?」
一時時間改変の影響で教職にはついていたが、記憶を取り戻したのなら友好的な関係とは言えない間柄だったはず。
ソウゴの当然と言えば当然の警戒に、スウォルツは特に気負う様子も無くあっさりと答える。
「もののついでだ。ここに来る前にタイムジャッカー仲間から話を聞いてな。お前とも因縁のある相手だから伝えておいただけだ」
「タイムジャッカー仲間?」
「時間と時空の旅人はそれなりの数がいる。数がいれば自然と横のつながりも出来るというだけの話だ。話を戻そう、ハンドレッドの手引きで病院を脱走したらしいが、その後はハンドレッドの前からも姿をくらませたらしい」
さらりとととんでもない事を言い出すスウォルツにどう反応していいかわからないソウゴだったが、とりあえず加古川の話だけに集中する事にした。
ツクヨミやウォズを洗脳して襲ってきた加古川だが、敗走後に精神の均衡を崩した状態で警察に発見された。身寄りがなかった事やあまり表には出せない過去の経歴も有り警察関連の病院に収容されていたとソウゴも聞き及んでいる。
彼が脱走としたというのなら確かに警戒する必要がある。そしてもう一つ、気になる単語もあった。
「ハンドレッド?」
人名か、それとも組織の名前か。聞き覚えの無い名前だ。
首をかしげるソウゴに説明をしようかと考え口を開きかけるスウォルツであったが、店の奥より出てきた男が唐突に説明を始めたために話を中断することにする。
「ハンドレッド。幾多の世界を渡り歩き破壊と侵略、そして支配を繰り返す武装集団の名前ですよ、我が魔王。その最大の特徴はライダーシステムを解析し複製する高い技術力を有する事にある」
「いつの間に来ていたの、ウォズ!?」
出てきたのはアシンメトリな不思議なロングコートを纏いロングショールを首に巻く、片手には分厚い本を携えた長髪の優男。
彼の名前はウォズ、魔王オーマジオウの従者を名乗る男。その正体はかつて平成の消滅を企てたクォーツァーのスパイでありソウゴを都合よく誘導する使命を帯びていたのだが、結局はソウゴに肩入れをして組織を裏切った。
その後も何だかんだソウゴの従者を自称して、唐突に現れる謎の男ムーブを継続している。
「貴様もハンドレッドの事を知っていたか」
「我が魔王に牙を剥く可能性のある組織だ。当然、基本的な下調べは済んでいる」
「確かにショッカー系列組織が弱体化している現状、最も活発で危険な組織の一つだからな」
そちらの業界にあまり詳しくないソウゴをそっちのけで、怪しげな雰囲気の男たちが悪い顔で語り合うさまは異様だ。
とはいえ、ファッションセンス以外は比較的無害な二人にいつまでも気圧されているわけにもいかない。今考えるのは加古川飛流の事だ。
過去三回、加古川飛流はソウゴに恨みを晴らすために襲撃を仕掛けてきており、そのどれもが小さくない被害を出している。
特に最後の襲撃ではあわや平成令和が消滅しかける事態に陥っている。さらに、ハンドレッドなる侵略者とも関係があるというのなら、放置しておける相手ではない。
「ありがとう、スウォルツ。加古川を探してみるよ。ウォズ、悪いけどおじさんが帰ってくるまで店番をお願い!」
「おい、待て。まだ話は……。もう行ってしまったか」
スウォルツが引き留める暇も無く、ソウゴはつけていたエプロンを放り出すと店を飛び出してしまう。
良くも悪くも、フットワークの軽さがソウゴの特徴だった。
店から出て行ったソウゴを見て苦い顔をするスウォルツを見て、ウォズがこう尋ねる。
「我が魔王に用があるなら、代わりに聞いておくが?」
「お前に話す内容ではない。急ぎという訳では無い、また来るとだけ伝えておいてくれ」
ため息を一つつくとスウォルツはその姿を消してしまう。また別の時間に移動したのだろう。
しかし、今更奴が我が魔王に用とは何なのだ?店番をしながら、ウォズは一人首をかしげるのだった。
※※※※※
「ジオウが……消えた!?」
唐突に広がった闇にジオウが飲まれ、消えた。
その事実にその場で戦っていた者の誰もが驚き、凍り付く。
しかし、異変はそれだけでは無かった。その事実に気が付いたクモ男が驚きのあまり悲鳴を上げる。
「アインロールド様もいないぞ!? いや、それどころか、ハンドレッドの連中はどこに行った!?」
そう。彼の言葉の通り、もはやその場にはショッカーの一団とゲイツ以外はいない。
その全てが加古川のウォッチが生み出した闇に飲まれ消えてしまったのだ。
「一体何が!?」
流石のゲイツも予想外の事態に呆然と呟きを漏らすものの、敵はハンドレッドだけでは無かったと思い起こす。
改めてジカンジャックローを構えようとするものの、それより先に動いたのはショッカーだった。
先ほどまでハンドレッドのライダーと戦っていたムササビ型の怪人が地面に降り立ったと思うと、大声でゲイツに制止を促す。
「待て、仮面ライダーゲイツよ! 一旦は矛を収めるんだ!」
「何!?」
唐突かつショッカーに都合の良い言葉に眉を顰めるものの、ムササビ型怪人の言い分は一部を除き至極真っ当な物だった。
「我らの指揮官であるアインロールド様と、君の主君であるジオウが加古川の行動によってハンドレッドの連中と共に唐突に消えてしまったのだ! ここは我らが争っている場合ではないのでは無いか!?」
確かに、彼の言う事はもっともだ。
加古川争奪戦を行っていた相手ではあるし、本質的にショッカーは世界征服を企む悪の秘密結社ではあるが、互いに大切な仲間が消えてしまった今、争って何の益があるのかという問題がある。
そもそも加古川も一緒に消えてしまった以上、彼が何かを企んでいることは明白であり、それが碌な事ではないことも確実だ。相手から休戦を申し出てきたのなら、それに越した事は無い。
だが、それでも聞き流すには問題がある言葉があった事も事実だった。
「待て、誰がジオウの部下だ!? そこは訂正しろ!」
つるんでいるし、友だと断言できる。
だが自分は魔王を倒す救世主を目指しているのであって、間違ってもあれの部下ではない。そもそも、ソウゴから給料などは一切貰ってないのだから、御恩と奉公は成り立たないのではないだろうか?
そう食って掛かるゲイツに、ショッカーの改造人間たちは互いに顔を見合わせこう返した。
「えっ? 違うの?」
「違う! 何故そんな話になるんだ!?」
「だって……」
すごい剣幕のゲイツに、改造人間たちは互いの経験を語る。
「有名な話だよな……」
「そうそう、俺もロングコートのあんちゃんから聞いたぞ」
「俺も俺も。ジオウに仕える親衛隊長のゲイツとツクヨミって」
次々に怪人や戦闘員が俺も俺もと語りだす。
どうも話を集約すると、ロングコートのあんちゃんがゲイツをジオウの部下だと言いふらしているらしい。
そんな奴は世界広しといえども一人しかいなかった。
「ウォズの奴! 何をやっているんだ!」
我が魔王に関して、正しい情報を地道に広げているのだ。
ゲイツは気に入らないようだが、いずれはそうなるだろう正しい情報なので問題は無い。
「ま、まぁ、君らの中の見解の相違はとりあえず横に置こう。それよりも、一時休戦は受け入れてもらえるだろうか?」
何か触れてはいけない部分なのだろうと察したムササビートルが慌てて軌道修正をかける。
「そ、そうだな。二人が見つかるまでショッカーとの休戦は受け入れる。しかし、いったいどこに……」
闇が噴き出し、唐突に消えてしまった。
決して珍しい能力ではない。さらに言えば、連れ去ったという事は今すぐ殺す気は無く、何かに利用する気なのだろう。
あるいは、隔離して別の計画を実行する気なのか。
ただ、加古川が関わっている以上は最終目的はジオウである常磐ソウゴであり、彼との合流を優先させることが一番良いだろう。
そう考えていた彼らを導いたのは、新たにこの場へとやってきた男だった。
誰に気が付かれる事も無くやって来た男はその場で腰を屈めると、地面に落ちていたそれを拾う。
そしてそれが作動しない事を確認すると小さくため息をつき、そして相対しているゲイツとショッカーに声をかけた。
「常磐ソウゴ様とアインロールド様でしたら、このウォッチに閉じこめられておりますよ」
「なっ!?」
「貴様は!?」
ゲイツとショッカーの改造人間は誰にも気が付かれる事なく突如現れた人物に驚き、反射的に距離をとる。
街灯に照らし出されたのは、中肉中背の若い男だ。ロングヘアーを後ろで縛り、仕立ての良い燕尾服に身を包んでいる。
まるでお手本のような執事姿。それがその男を見た者たちの第一印象であり、その通り彼はあるゴージャスな男に仕える執事であった。
一方、その執事はあからさまな警戒態勢をとった者たちを前にしても一切動じることなく、柔和な笑みを浮かべたまま一礼をする。
「お初にお目にかかります。私、バトラーと申します。マイロード、カグヤ様の命により、アインロールド様と常磐ソウゴ様の救出の助力に参りました」
※※※※※
「おい、ジオウ。起きろ」
遠くから響く聞きなれない声に、ソウゴの意識は急速に覚醒していく。
「ここは……」
うっすらと目を開くと、最初に飛び込んできたのは雲一つ無い空だった。
だが、見える空に青い色は無くどんよりと薄暗い。かつて行った事のあるオーマジオウの君臨する世界や別世界の空に近かった。
何とも気味の悪い空に顔をしかめながら起き上がる。
周囲を見渡せば辺りは雑草がまばらに生える荒野であった。
遠くに森らしきものは見えるが、果たしてあれは森だろうか。そう考えていると背後から声がする。
「ようやく目が覚めたか、ジオウ」
その声に振り向くとそこに一人の男が立っていた。
いや、男というより少年?
「え? 若い!?」
量販店で売っていそうなグレーのパーカーと安物と思しきジーンズに動きやすそうなスニーカー。アクセサリーの類の飾り立てるようなものは何一つ身に着けていない。
身長こそソウゴとそう変わりが無いが、柔らかそうな黒髪の整った顔立ちには柔和な雰囲気と若干の幼さが漂っている。
年齢は、どう見ても10代半ば程度。どうみても高校生程度の少年だった。
少年はソウゴの言葉に若干顔を顰め、その後小さくため息をついて気分を切り替え話を続ける。
「どうやらお互いに加古川に一杯食わされたようだな」
柔和な顔には似合わない、作ったかのようなぶっきらぼうな口調。その話し方や声には聞き覚えがあった。
「君は……ショッカーの仮面ライダー!?」
そう、どう聞いてもあの時加古川を連れて行こうとしていたショッカー一味の指揮官らしき黒い仮面ライダーの声であった。
口調や堂々と指揮をするその仕草から自分より年上の男を想像していたソウゴは面を食らうものの、そのような感情はおくびにも出さない。
一方の、仮面ライダーと呼ばれた少年は顰めていた顔をますます強張らせ、ソウゴの言葉を訂正する。
「俺はショッカーライダーだ。仮面ライダーのような旧式どもと一緒にするな」
「旧式って……」
おそらくは外見が似ている仮面ライダー1号や2号の事を指しているのだろうが、あの超人たちを旧式とはなかなか剛毅な言い様だ。
恐れ知らずなのか、それとも何か拘りがあるのか。
話した時の表情のこわばりから、おそらく後者だろうとソウゴは当たりを付ける。
「俺の事はどうでもいい。それよりも、あれを見ろ」
「あれって? えっ……? ええええええ? 遊園地?」
アインロールドの指し示す方角を振り向いたソウゴはあまりといえばあまりの事態に固まる。
そりゃそうだろう。
倒れていた荒野は三方向が垂直に近い崖になっており、通れそうな場所は一方向のみだ。
その通れそうな場所、荒野に隣接していたのは、いかにもどこかにありそうな遊園地なのだ。見える範囲でもメルヘンチックな入り口に、遠くに見えるのはコースターのレール。メリーゴーランドや海賊船の姿も見える。
「貴様が寝ている間に周囲を簡単に調べてみたが」
「どうだったの?」
ソウゴの質問に言葉で返す前に、アインロールドはその場に転がっていた小石を遊園地の無い方角の崖の上に向かい投げて見せる。
綺麗なフォームで投げられた小石は一直線に崖の上に向かい、そして何もない空間にぶつかったかと思うと、そのまま地面に向かって落ちてきた。
「この周囲の崖より先には見えない壁があって進むことは出来ん。おそらくはあの遊園地は加古川が進ませたい順路なのだろうよ」
ため息をつき肩をすくめる少年に、ソウゴも同じようにため息をつきこう提案をした。
「行かなきゃダメみたいだな。君も一緒に来ないかい? えっと……」
「アインロールドだ。仕方がないな」
アインロールドがこの場で待機をしていたのも、ソウゴが襲われないかの警戒と、一人で遊園地に入っても門前払いを食らう可能性があったからだ。
加古川飛流はとにかく常磐ソウゴに執着している。この状況を打破するためには、ソウゴと共に行動するべきだと考えたのだ。
かくして、魔王になるかもしれない青年とショッカーの使徒である少年は謎の遊園地に足を踏み入れる。
そこが加古川の作った罠だとしても、今は進むしか術が無かった。
重大なネタバレ:スウォルツの用事は進路指導(ぇ