ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
「ライダーキック!」
巨大な九尾の狐に向かい、必殺のキックを叩き込む。
赤いエネルギーの輝きと共に、俺の蹴りは純白の毛皮を突き破りその本体に到達した。
流石に一撃で倒す事は不可能でも、全力のパワーなら100mを超える巨体であっても吹き飛ばす事ぐらいはできる。
巨大な狐は空中で体をいびつに歪ませ、轟音を立てて高層ビルの壁面に突っ込む。
ガラスや瓦礫、粉塵が舞い散る中俺は地上で待機をしていたジオウに向かって叫ぶ。
「ジオウ! あんたのオーダー通り動きを止めたぞ」
「ナイス、アイン! これで!」
俺の言葉を受けて、グランドジオウが体のレリーフに触れる。
黄金のゲートを潜り抜け出現した仮面ライダーは響鬼か!?
桐谷さんではなく先代なのだろう。出現した響鬼は一気に跳躍すると暴れる九尾の狐に取付くと腰のベルトより音撃鼓を取り外すと強引に押し付ける。
次の瞬間、九尾の狐を拘束するかのように巨大な紋様が浮かぶ。
これは響鬼の必殺技である音撃の体勢だ。
なるほど、この巨大な狐の化け物を外部からの打撃で倒そうとすれば相当な打撃力が必要だ。音撃による浄化で消し去ってしまおうという算段か。
そう感心していると、召喚された響鬼がちらりとこちらを向く?
え? なに?
「アイン! これを使って!」
何事かと思っていると、唐突にジオウが何かを投げて寄越してきた。
って、音撃棒?
これを使えと? いや、こんなもん使い方知らないよ!?
困惑する俺を他所に、音撃棒を持ったグランドジオウが狐に飛び乗ってきた。
「まて! 俺もこれを使えと!?」
「大丈夫、いける気がする!」
いや、無茶言うな! 鬼になるような超人が死に物狂いで特訓して身に着ける技だぞ!?
困惑する俺をよそに、音撃棒を持った俺を見て響鬼が一回頷いたかと思うと、グランドジオウと共に音撃鼓を叩き始める。
そういや桐矢さんの特訓を受けているんだっけ?
グランドジオウも中々堂に入った音撃棒捌きを見せる。
あー、くそ! どうなっても知らんぞ!
記憶にある当代響鬼、桐矢さんの技を思い出しながらなんとか真似をして叩き始める。
俺を含めた三人が奏でる爆音が周囲に響き、その一発の音ごとにギーツもどきの蓄えた邪悪なエネルギーが周囲に霧散していく。
そして、いつしか一心不乱に音撃棒を振るうようになる。
周囲に浄化の音が響き渡り、ついには最後の一発を残すのみとなる。
響鬼、グランドジオウ、そしてついでに俺がタイミングを合わせ、最後の一発を叩きこむ。
周囲にひと際大きな音が響き渡ると同時に、100mを超えるギーツもどきは、体の各部位を爆発させながら粉々に砕け消えていく。
「にゃあ!」
おそらくはまだ巨獣はいるだろうが、ひと段落には間違いない。
安全を確認したのだろう。隠れていた猫がこちらに向かって飛びついてきた。
「まとわりつくな……。しかし……」
猫を引きはがし常磐さんに押し付けながら、俺は変身を解きしかめっ面を浮かべる。
俺の言葉が何を意図しているのか分かっているのだろう。同じく変身を解いた常磐さんも同じように厳しい表情を浮かべてこう返した。
「ウォッチや扉が出てこない。まだこのエリアをクリアできていないって事なんだろうね」
猫を地面に降ろしながら話す常磐さんの言葉は、多分正しい。
ギーツもどきを倒したのにもかかわらず、ウォッチも扉も出てこない。つまり、このエリアのクリア条件を達していないという事なのだろう。
加古川の思惑通り進むのも癪だが、状況に変化がない限り俺たちに出来る事が極端に少ないのだ。
もっとも、この謎解きは不要だったようだ。
俺が思っていた以上に、この空間の主は短気で短絡的だった。そう、宿敵であるジオウが辿り着くのを待てないぐらいに……。
「いや、此処までだ。この場で終わりにしてやる」
不意に、俺たちがいた場所より一段高い場所から男の声が響く。
聞きなれない声だが、そちらを見ないでも誰の声かわかる。この場で出てくる奴など加古川飛流に決まっていた。
「飛流……」
事実、俺より先に上を見上げた常磐さんが、怒気の混じった声を上げる。
彼が見上げた方向を見ると、ビルを繋ぐペデストリアンデッキにひとりの男が立っていた。外で見た時は浮浪者然とした姿だったが、今の奴は黒い長衣に額に巻く謎のリング、羽飾りのついたマントと大幹部連中とタメを張れそうな恰好をしている。
まぁ、なんというか。昭和のファッションセンスなのだろう。
「こうしてまともな状態では久しぶりだな、常磐ソウゴ」
「そうだな……どれだけの人を犠牲にした?」
「数えていると思うか?」
加古川飛流の答えに、常磐さんの応えはその両手に握られたライドウォッチ。ジオウウォッチとグランドジオウウォッチだった。
【ZI-O】
「ほう、貴様にしては珍しいな」
「ああ、お前にかける言葉はもう何もない。ここで倒す」
俺の知っている話でもめったに見せなかった怒りを、加古川飛流に向ける。
俺と召喚フォーゼが避難させただけでも三桁近い人数がいた。最終的にどれだけ被害が出ているかわからないので常磐さんがもう倒す以外の選択肢は無いと言い放つのも当然ではある。
正直横で見ている俺ですらぞっとする冷たい視線を向けられているのにもかかわらず、加古川は嘲笑うような表情を浮かべた。
「面白い。お前に与えられた屈辱を全て返し、絶望を味合わせてやる」
加古川飛流の視線には、狂気の炎が宿っている。
あまりにも愚かな、他者への嫉妬と無限の渇望の炎。それが加古川飛流の原動力なのだろう。
【ZI-OⅡ】
加古川の手に握られていたアナザージオウⅡのウォッチが目覚める。
二人の魔王の間に緊張が走る。
互いの視線が交差し、唯一だろう同じ言葉を口にする。
「変身!」
「変身!」
金色のレリーフが宙を舞い、常磐ソウゴの、ジオウの体を覆いグランドジオウへとその姿を変えていく。
一方、噴き出した闇を納めるリングが回転し、闇の中で加古川飛流の肉体がアナザージオウⅡへと変貌していく。
「行くぞ! はぁっ!」
白い筋肉質のいびつな怪人、アナザージオウⅡが高架から飛び降りながらパンチの態勢を取る。
岩をも砕く拳がグランドジオウに迫る。
だが、百戦錬磨のグランドジオウがそんな雑な攻撃を受けるはずもない。片手で弾くとお返しとばかりに拳を繰り出す。
落下直後を狙ったその拳はアナザージオウⅡの肩にめり込むものの、加古川飛流とて伊達や酔狂で魔王を名乗るわけではない。
肩に力を籠めると、グランドジオウの拳をその盛り上がりだけで跳ね返す。
予想以上の反発に、グランドジオウは追撃を諦め、一歩距離を取る。
「死ねぇ! 常磐ソウゴ!」
開いたスペースを制圧するかのような勢いある踏み込みでアナザージオウⅡが針を模した双剣を振るう。
一方のグランドジオウもいつの間にか取り出していたジカンギレードとサイキョウギレードの二刀流でその斬撃を受け止めた。
「飛流! これ以上はお前の思い通りにはさせない!」
先ほどまでのお返しとばかりにグランドジオウが力任せに押し込む。
つばぜり合いの姿勢のまま、拮抗した力を流そうと互いに移動を始める。
っと、いかん。見ている場合じゃないか。
「変身!」
二人が距離を取った瞬間を見計らい、俺も再度の変身をする。
やはり暴走モードは来ない。まぁ、考えるのは後だ。情報を吐かせられないのは残念だが、加古川飛流を仕留めればこの騒動は終わる。
「加古川飛流、俺を巻き込んだことを地獄で後悔しろ!」
つばぜり合いを続けるアナザージオウⅡに背後から近づくと、全力でパンチを叩きこむ。
もっとも、偽物とはいえさすがはジオウ。未来予知なのかそれとも気が付いたのか、寸前で俺の動きを察知、飛びのいて距離を取った。
「邪魔をするな! 貴様は引っ込んでいろ!」
その言葉と共に、何もない場所から湧き出るかのように歪に歪んだ肉体を持つ悪鬼が出現する。
出てきたのは金棒を持った黒い鬼と、生物的な特徴を持つ緑色のライダー。アナザー響鬼とアナザーアギトか!?
「ちっ!?」
殴りかかってくる2体のアナザーライダーに、流石の俺も一歩下がって迎撃の姿勢を取る。
その間に、グランドジオウとアナザージオウⅡがぶつかり合う。先ほどとは打って変わって、互いに激しい斬撃の応酬を始めた。
金属が撃ちあう甲高い音が響き、ぶつかり合うごとに周囲に火花が飛び散る。
「ブースト!」
アナザー響鬼が金棒を振り下ろした瞬間を狙い、超加速を発動させる。
エネルギーを半分奪われている状態での長期戦は避けたい。高速機動もあまり持たないが、それでもこいつらを叩きのめすには十分だ。
超高速で周囲を飛び回り、二体のアナザーライダーを滅多打ちにする。
アナザーカブトたちのような高速機動が出来る連中ならともかく、こいつらにそこまでの速度は無い。
目にもとまらぬ速さで動く俺を追う事も出来ず、連中は足を止め防御を固めるしかない。
足止めを出来るなら、それでちょうどいい。二体にダメージを与えつつ、一直線に撃ち抜ける位置を見つけ出す。
高速機動が終了する、その瞬間にその位置に俺の姿が出現する。
「とどめだ! ライダーキック!」
俺の狙い通りに、解き放ったライダーキックは二体のアナザーライダーを巻き込む。
そのまま高架の支柱にアナザーライダーどもはぶつかり、巨大な爆発を起こし消滅した。
「ちい、役立たずめ!」
その爆発にアナザージオウⅡの注意が一瞬だけそれる。
それが勝負の分かれ目だった。甲高い金属音を立てて、アナザージオウⅡの持つ剣が跳ね飛ばされる。
それだけでは済まない。剣を弾き飛ばした瞬間に放たれたグランドジオウのキックが決まり、アナザージオウⅡは後方に跳ね飛ばされて尻もちをつく。
「くっ!」
「ここまでだ、飛流」
慌てて立ち上がろうとするものの、既に間合いを詰めていたグランドジオウは加古川に剣を突き付けていた。
加古川が弱かったわけではない。ただ、手加減も何もない魔王の実力が勝っていただけだ……。
「これで終わらせる」
そのまま一気に剣を振るう。
本来ならこれで終わりの筈だった。
「やれやれ、困りますね。最低最悪の魔王殿」
アナザージオウⅡの足元から唐突に本のページが噴き出したかと思うと、瞬時に奴のみを覆い隠す。
グランドジオウはそれにかまわず剣を振るうが、それでも相手の初動が一瞬早かった。
アナザージオウⅡの姿はその場から消えて、高架の上に再び加古川飛流の姿が現れる。
「だから先走るなと申し上げたのですよ」
その隣にいたのは、純白のスーツを身に纏った長髪の男であった。
初めて見る男だ。だが、その男の名を俺は知っている。
そして、その男の姿はジオウ……いや、常磐ソウゴにとって見慣れた姿であった。
「ウォズ……。いや、違う? お前は何者だ?」
先ほどまで、俺と会話をしていた時のふわふわした感覚の無い、聞いているこっちの背中に冷たいものが流れるようなドスの聞いた声。
これも常磐ソウゴという人物の一面なのだろう。
もっとも、そんな感覚を抱く常人はこの場では俺だけなのだろう。新たに表れた白スーツのウォズは慇懃に一礼を行う。
「はじめまして、時の王者ジオウ殿。私の事は灰ウォズとでもお呼びください」
魔王に仕える黒ウォズ。救世主を見出し、あるいは奪取しようとした白ウォズ、女王のしもべ赤ウォズに続き、今度は灰ウォズと来たか。
まぁ、加古川飛流に味方するウォズがいても不思議ではないが……。
「余計な真似を」
「倒される寸前ではありませんでしたか、最低最悪の魔王殿」
虚栄心を傷つけられ毒を吐く加古川に対し、飄々と流す灰ウォズ。
どう見ても仕えているという雰囲気ではない。白ウォズと似たタイプなのかもしれない。
それは常磐さんも感じたのか、一応の警告を出す。
「飛流に与するなら、別世界のウォズとて容赦はしない」
武器を改めて構え直すグランドジオウを見ても動じる様子は無い。
切り札があるのは確実だ。
仮面越しでもわかる冷たい視線に、加古川が半歩引いたような姿勢を見せ、灰ウォズに向かい恐怖を振り払うかのように叫ぶ
「くっ! 手筈はどうだ!?」
「整っておりますよ、最低最悪の魔王殿。思った以上に、力は溜まっておりました」
「させるかっ!」
何もさせない。
そう考え俺とグランドジオウはほぼ同時に動く。
グランドジオウの振るった剣からエネルギーの斬撃が飛び、俺は必殺のキックを灰ウォズと名乗った男に向ける。
だが……。
灰ウォズの周囲に唐突に出現した本のページが、ジオウの斬撃を、俺のキックを受け止めてしまう。
「この程度の防壁!」
とはいえ、破れない物ではあるまい。
俺の意志を受け、右足の赤い輝きがどんどんと増していく。
その瞬間だった。
「ぐわああああああああああああ!」
唐突に、急速なエネルギーの減少と耐えがたき苦痛を感じ地面に向かい落下していく。
何事だと灰ウォズを見ると、破れたページの裏に浮かぶのは4つのウォッチ!?
「アインロールドと言いましたか? 有象無象の偽ライダーにしては良質なエネルギーを持っていたようで」
「アインから奪ったエネルギーか!」
「ええ、その通り」
何とか地面に着地をしながら灰ウォズを見ると、奴の周りでウォッチが強烈な輝きを放ち、エネルギーを周囲に解き放つ。
それと同時に、青かった空は真紅に染まり、周囲のビルは音を立てて崩れ始める。
「こ、これは? これは、前と同じ?」
変化はそれだけでは無かった。
俺の隣にいたグランドジオウが一瞬だけ輝いたかと思うと、金色のレリーフが次々と消えていく。
徐々に解ける変身。残ったのは、素のジオウの姿だった。
「ふふふふ、頂いたエネルギーを使い、この世界を外界から閉ざしました。もはやこの地に昭和の、平成の、令和の力が届く事はありません」
「なんだって!? 何を企んでいる、飛流! 灰ウォズ!」
なによ、その理屈? なんでその理屈でジオウの力が封じられるのよ?
いや、ジオウの場合はその力が概念の域に達しているので、ありえるのか?
驚いている俺をよそに、今度は加古川が意気揚々と宣言する。
「この世界はな、俺が新たな力を得るための繭に過ぎないのさ。本来ならジオウの力を奪い完成させるつもりだったが、代用品でも思った以上に使えた様だな。褒美として、俺の勝利の生き証人として生かしておいてやろうか」
「なんだと!? 舐めているのか!」
立ち上がりながら毒づくが、奪われたエネルギーはもう8割近い。
回復が全く追いついていない上に、いまだに奪われ続けている。正直、危険領域に突入していた。
「吠えるな、ショッカーの犬。常磐ソウゴ、貴様には一つ礼を言っておかないとな」
「礼だと?」
何を言っているんだと訝し気な声色の声をジオウが漏らす。
もっとも、そんな様子などかけらも気にすることなく、加古川飛流は楽しそうに、本当に楽しそうにこう話を続ける。
「そう。あの時、貴様が3度目の屈辱を俺に刻み込んだあの時、貴様は俺に過去しか見ていない限り勝てないと言った。ツクヨミは俺が時代から逃げているだけだと言った」
おそらくは奴がアナザーオーマジオウになった時の事であろう。
どういう会話をしたのかは知らないが、何故だかすごく嫌な予感がする。
「そう、俺は過去しか見ていなかった。平成から逃げようとしていた」
見当違いの復讐、負け続けた事への逃避としての暴虐。
こっちの業界の人間には多い特徴ではあるが、それでもこいつぐらい突き抜けている奴はめったにいない。
そして、こういう奴の言う事はたいてい碌な話じゃない。事実、そうであった。
「昭和、平成、令和……。そんなものにこだわっていた。だが、貴様らの言葉で間違いに気が付いた。この閉じた世界で貴様に与えられた屈辱を今度こそ返し俺は羽化をする。その時こそ……」
そこまで言うと、加古川飛流は一拍を置く。
そして、万感の思いを込めてこう宣言した。
「その時こそ、昭和、平成、令和が完全に消え去り、加古川飛流元年が始まるのだ!」
ΩΩΩ<な、なんだってー!