ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話   作:さざみー

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第56話 episode・ZI-O そして時計の針は動きだす。

「ん……」

 

 その日のハルトの朝は、いつもと変わらぬ朝であった。

 朝の教会の鐘の音と共に目を覚ますのもいつも通りだ。半ば寝ぼけた頭で部屋を見回すと、そこには訓練用の折れた槍が……折れた槍!?

 

 ベッドから飛び起きるとハルトは壁に立てかけてあった槍を手に取る。

 父から貰った訓練用の槍だ。

 いつか立派な戦士になりたい、そう考えていたハルトにとってこの槍は宝物であり、ずっと大切に使っていた。

 もちろん、昨日までは折れてなんかいなかった筈。

 

 だが、その槍は半ばからへし折れており、普段は穂先を覆っているカバーは何処にもない。

 それどころか穂先にはこびり付いた何かの跡が……。

 

「これって?」

 

 訓練用の槍とはいえ、いざという時に魔獣と戦えるよう穂先は尖っている。

 確かに刺そうと思えば刺せるが、これで何かを刺したことなど……。

 

 

『君が妹を守ろうとするゴージャスな気持ちがこのカグヤ様に届いたのさ』

 

 

「えっ?」

 

 不意に、脳裏に雷のような衝撃が流れる。

 聞いた事の無いはずの声、見た事の無いはずのつるっぺらな化け物。でも、あの輝きだけは……。

 脳裏に浮かんだ存在しない記憶に頭を悩ませながら、部屋を出て居間に向かう。

 

 いつもと同じなら、朝食を用意している母がいるはず……。

 

 そう、そこにはちゃんと母親がいた。

 

 それだけで、ハルトの目じりに涙が浮かぶ。

 

 だって、妹のエリナがもう泣いていたから。

 

 まだ4歳、泣き虫の少女。いつも自分の後ろに隠れているか、父か母にくっついているか……。

 エリナが母にくっついている事も、泣いている事も珍しい事ではない。

 だけど、ハルトの耳に届いた彼女の嗚咽は、彼の記憶……いや、魂を揺さぶるには十分な物だった。

 

「よかった、ママ生きてる……。おうちもちゃんとある……」

「あらあら、エリナ、怖い夢でも見たの?」

「うん、つるつるのお化けが、パパもママも村のみんなも……」

 

 記憶が揺さぶられる。

 ああ、そうか。きっと、あの悪夢も、あの輝きも決して幻ではない。

 

 家を、村を、国を、世界を襲い滅ぼした邪悪な軍勢も、自分たちを逃がすために仮面の悪魔に立ち向かった父の姿や命懸けの大魔術を使った母の姿も、あの輝きも幻じゃない。

 

 ハルトは目じりに溜まった涙を拭う。

 どうしてこうなったのかはわからない。でも、きっと輝きが世界を救ったのだ。

 ならば、自分は泣いてはいけない。

 

「あら、ハルト。おはよう……えっと、ごめんなさい、ちょっとお使いをお願いしていい?」

「え? なに、母さん?」

「エリナが泣き止まないから、朝ごはんの前にお使いをお願いしていい? パパがお弁当を忘れて行っちゃって」

 

 父は村を守る戦士長の一人だ。かつては王都を守っていた事も有る立派で強い戦士なのだが、ちょっとおっちょこちょいな所が玉に瑕だ。

 お弁当もうっかり忘れて行ったのだろう。

 

「わかったよ、届けてくる!」

 

 ハルトはそう言うと、父のお弁当と折れた槍を持って家を出る。

 お弁当を届けるついでに、この槍を直してもらわないと。そうしないと、訓練が出来なくなる。

 

 そう、遠く離れた世界には、正しい人たちも、邪悪な存在もいるのだ。

 強くならなければならない、皆を守れるように、あの輝きと同じように悲しみを拭える戦士となる為に。

 仮面ライダー……彼のようになるために。

 

 

 

 こうして、ラビリアンの世界を突如として襲った破滅の事件は我が魔王とその仲間たちの活躍により、世界は修復されハッピーエンドに終わるのでありました。

 この本によればラビリアンの少年ハルトはその後、戦士として成長し、やがて妹の魔法使いエリナと共に武者修行の末に世界を渡り仮面……。

 

 おっと、失礼。これはかなり先のお話。

 そう、今回の話とは何ら関係が無い未来のエピソード。

 

 

 

※※※※※

 

 

 

 巨大な爆発が、唐突に巻き戻された映像のように逆回転で急速に萎んでいく。

 何事だ?

 そんな疑問を浮かべる間もなく、爆発の中心地には先ほどジオウにより打倒されたはずのアナザーオーマジオウが存在していた。

 

 もっとも、もう戦う力は残っていないようだ。

 片膝を突き辛うじて倒れないよう耐えているが、肩当や特徴的な肩からかけている金色のバンドは砕け散りわずかな残骸が残るのみ。

 そのほかのパーツも損傷が激しく、かろうじて生きているだけの状態だ。

 

「まだだ、まだ、俺は、俺は……」

 

 ボロボロの体でまだ立ち上がろうとしているあたり、本当にしぶとい。

 ほんと、この精神をもう少し別の方面になぜ使えないのだろうか。

 まぁ、俺が考えても仕方が無い事だ。

 

「いい加減貴様の戯言に付き合う気も失せた。貴様の薄汚い魂、ショッカーに捧げてもらおう」

 

 戦闘中の勢いならともかく、同じ過去を持つ被害者という共通項がある常磐さんは手を下しにくいだろう。

 まぁ、手を汚す事には慣れている。因縁も糞も無いが、俺が介錯をしてやれば一番後腐れがない。

 

「ちょ、ちょっとアイン!?」

 

 そう考えて駆け出す俺にジオウが制止の声をかけてくる。

 もっとも、声程度で俺も止まる気は無い。

 脚部にエネルギーを籠めるとアナザーオーマジオウに向かい飛ぶ。

 

「お前のような雑魚に!」

「何の因縁も無い俺の手に掛かるのがお似合いだよ、お前は」

 

 アナザーオーマジオウの憎悪が籠った声を聞き流し、ライダーキックの態勢で飛ぶ。

 いくらアナザーオーマジオウでも、この一撃で確実に倒せる。

 

 

「最低最悪の魔王殿を倒されるのは困るな」

 

 

 だが、次の瞬間、俺の目の前に現れた本の頁で作られた障壁が俺を弾き飛ばすと、更に本の頁が手足を拘束する

 

「なっ!? これは!」

 

 そして頁によるバリアの動きは、俺を妨害しただけでは終わらない。

 頁のバリアは球状に展開したかと思うと、アナザーオーマジオウを包み込み拘束した。

 

「この声は、灰ウォズか!」

 

 アナザーオーマジオウの声に、奴のすぐ隣の空間に本による小さな竜巻が起こり、その場所に灰ウォズが姿を現す。

 流石に無事とは言い難い姿だ。着ていたスーツは方々がほころび、顔にもいくつかの切り傷が残っている。それでも本を片手にした怪人物は確かな足取りで姿を現すと俺たちを無視してアナザーオーマジオウ……いや、加古川飛流に語り掛けた。

 

「契約を違えられては困るな、最低最悪の魔王殿。せっかくここまで力を回復させたのに、ここで倒れられては我らも大損だよ。撤退するぞ」

「背中を向けろと!」

「私の結界すら破れぬほど弱っているのだろう。それに逃げるなんて今更じゃないか」

 

 小馬鹿にしたかのような態度は変わらず、そして癇癪を起した子供を諭すかのように加古川の言う事を聞く気は無いようだ。

 

「逃がすと思うか、灰ウォズ」

 

 そう声をかけて来たのは、この場に到着したウォズであった。

 よくよく見れば、ゲイツやツクヨミ、うちの改造人間もこの場に到着しており完全に包囲網が完成している。

 

「違和感があったので生きていると思っていたが、こんなに早く出てくるとは」

「いや、完全にやられたよ。ほら、この通り」

 

 そう言った灰ウォズが投げ捨てたのは、真っ二つに叩き斬られたウォッチであった。

 おそらくはあれがアナザーウォズウォッチだったのだろう。あそこまで破壊されているならもう修理不可能だ。

 

「最低最悪の魔王殿から押し付けられたのだが、慣れない物は使うべきではないね」

 

 シノビの力を使うウォズのアナザーなら、忍術か何かで致命傷を避ける事も可能だったのだろう。

 とはいえ、この包囲され、さらにはジオウやレジェンドといった強力無比なライダーもいる状況で自信を崩さないあたり、まだ何か奥の手があるに違いない。

 そして、俺の予想は当然のように当たる。

 

「なので、ここからは本気で抵抗させてもらおう」

 

 その言葉と共に、灰ウォズの手が先ほどから持っていた古めかしい本を掲げる。

 掲げられた本は唐突に輝くと、その姿を小さく縮めていく……って、ちょっと待て!?

 あの本は……ワンダーライドブック!?

 

 本と聖剣を使う仮面ライダーたち。その力の源の一つである神羅万象が記されていたとされる本の断片。

 なんでそんなもんを灰ウォズが?

 驚く俺を余所に、灰ウォズは慣れた仕草でワンダーライドブックをいつの間にか出現していた腰のベルトに装填、右側に納められていた剣の柄を引き抜く

 

【創世救済暦! 慈謳抜刀!】

 

「変身!」

 

【創世救済暦!】

【慈謳一冊 偉大なる慈悲の神が蘇る時、世界は救済の時を迎える!】

 

 その変身のモーションはどう見ても聖剣使い達の変身そのものだ。

 灰ウォズの姿が変わる。

 

 その身は黒い衣装に包まれ、顔はジオウ達と同じ文字の複眼が刻まれる。

 だが、その複眼を覆うように白い兜の面宛の下に隠され、黒い衣装も全身を覆う純白の甲冑の下に埋もれてしまう。

 ふわりとマントを翻す姿は、まるでおとぎ話の正義の騎士のようだ。

 

「仮面ライダーウォズニセイバー。本気の私がお相手しよう」

 

 変身した灰ウォズが名を名乗る。

 その姿を見た瞬間に、俺の中の理性が完全に消し飛んだ。

 

 

「がああああああああああああああああああああ!!」

 

 視界が真っ赤に染まる。

 心が憤怒に支配される。

 手足を縛っていた拘束は噴き出したエネルギーの前に消し飛び、行く手を遮っていた障壁も砕け散る。

 

 もう加古川飛流など眼中には無い。

 俺の視点はただ一点、現れた白いライダーに注がれる。

 

「貴様ああああああアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 怒り任せのエネルギーを込めた拳が、ウォズニセイバーを襲う。

 だが、奴はその一撃を剣で容易に受け止めた。

 

「まずは君が相手……」

「黙れ! 俺を忘れたとは言わせんぞ!」

「えっ!?」

 

 俺の言葉に一瞬だけウォズニセイバーの動きが止まる。

 俺はその隙を見逃さず蹴りを繰り出すが、その蹴りも奴のキックで受け止められてしまう。

 

「どこかで会ったのか?」

「ほざくなぁ!」

 

 思い出す。

 

 目の前で斬り裂かれ倒れた子供たちの姿を。

 海に突き落とされ、波の向こうに消えて行く子供の姿を。

 あの子たちの断末魔の叫びが、助けを求める声が耳から消えた事は一日たりとも無い。

 

 思い出す。

 意識を失い、連れ去られる子供の姿を。

 

 思い出す。

 子供たちが息絶えた戦場を呆然と見つめるミカの姿を。

 守りたかった弟や妹たちを失い慟哭するミカの姿を。

 

「1年前のショッカー本部! あの時の蛮行を忘れたなどとは言わせん!」

 

 そう、あの時。仮面ライダー連合によるショッカー総攻撃が行われたあの日、俺は避難と称してスクールの子供たちと共にショッカーからの逃亡を試みた。

 

 幹部候補生でありライダー殺し、あるいは大幹部の側近として実績と地位を得ていたし、他の幹部は仮面ライダーの迎撃に気を取られていた事もあり、俺は非戦闘員の退避という命令を下す事が出来た。

 その中には、当然俺が保護していたスクールの子供たちも含まれている。逃亡先の選定や逃亡後の子供たちの死の偽装など、準備は完全に済んでいた。

 

 まぁ、俺だけはショッカーに残る必要はあったが、一人ならいくらでもやり様はある。

 

 ライダーたちによるショッカー総攻撃は、千載一遇のチャンスであった。

 

 だが、そんな俺たちの逃亡計画は、謎の仮面ライダーの手によって最悪の結末を迎える事になる。

 

 

※※※※※

 

 

 首を狙った斬撃を完全に回避する事が出来ず、一撃を食らったアインロールドの鋼鉄の仮面が砕け散る。

 

「がふっ……」

 

 辛うじて残っている仮面の隙間から、吐き出した血が滴る。

 複眼は片側が砕け肉眼が露出している。わずかに残った脳と補助AIのリンクシステムが、全身の損傷を伝え即時撤退を訴える。

 

 無理もない。彼はすでに左足を失っており歩く事すらできない。右腕も肩から先は斬り飛ばされ死体の山の中に埋もれている。

 強化戦闘服の正面は大きく切り裂かれ、流血を続けていた。

 

「まだ生きているか」

 

 そんな惨状にもかかわらず、未だにこちらを睨みつけてくるアインロールドに白い甲冑姿の仮面ライダーは呆れ声を上げる。

 

「死ねるものか……。貴様を倒すまではな……」

 

 アインロールドの目に映るのは、地獄のような惨状であった。

 辺りに倒れ伏し物言わぬ死体になっているのは、10歳前後の子供たちだ。

 

 ショッカーチルドレン計画。優秀な遺伝子をかけ合わせて作るショッカーの次期構成員試作品。その実験で生み出された子供でありアインロールドの守るべき対象であった。

 だが、唐突に現れた白い仮面ライダーの手により次々と殺され、生きている者はあと僅かだ。

 

 そう、数人だがまだ生きている子供たちはいる。

 だが、意識を失った子供たちは謎の仮面ライダーの操るドローンに捕らえられ、どこかへ連れて行かれようとしていた。

 

「腕と足を失い、まだ吠えるとは。見上げた闘志だ……。良いだろう、貴様に死をくれてやる」

 

 そう言うと白いライダーが持つ剣が純白の光を放ちだす。

 まばゆいばかりの輝きに、夜の海岸が照らし出される。

 

 白いライダーの必殺技なのだろう。

 だが、その最大の危機こそアインロールドが唯一見出したチャンスだ。

 すでにベルトに内蔵された反応炉は機能の大半を停止している。動けるのはあと一回。

 生命力すら込めた全エネルギーを解き放ち、白い仮面ライダーにカウンター攻撃を仕掛ける。

 

(片腕と片足、残した事を後悔させてやる)

 

 自分はこの場で死ぬだろう。

 しかし、こいつさえ倒してしまえば、遅れて合流してくる予定のウェスト博士が何とかしてくれる。

 

 だが、そんなチャンスは永遠に訪れなかった。

 

 ガサリ。

 

 茂みを掻き分け、戦場に誰かが足を踏み入れる。

 それは黄金色の髪をした10代前半の少女。

 

「な、なんなの……これ? な、なにが……」

 

 ミカ・ウェストは目の前の惨劇への理解が追い付かずその場で固まる。

 その存在を視界の片隅に入れた白いライダーが、つまらなそうに吐き捨てる。

 

「失敗作がまだいたのか」

 

 逃げられたら面倒か。

 ミカの存在を横目で確認した白いライダーは、瀕死のアインロールドから視線を動かさず、剣だけを動かし蓄えたエネルギーを少女に向かい解き放つ。

 剣の形状となった白いエネルギーは、一直線にミカへとへ向かう。

 

 このままなら、ミカも他の子供たちと同じ末路を辿った事であろう。

 だが、そうなる直前、アインロールドは最後の力を振り絞った。

 

 アインロールドは残った片足に全エネルギーを籠めると跳躍し、白いライダーとミカの間に我が身を潜り込ませる。

 

「ウェスト博士! 危ない!」

 

 その献身は、確かな結果を生んだ。

 白いライダーの放ったエネルギーはミカを傷つける事はついには無かった。アインロールドの身体が盾となり、ミカを守ったのだ。

 だが、その代償はアインロールドの腰にある命のベルトであった。

 

 もっとも強固であるはずのベルトに、純白のエネルギーの剣が突き立てられ、内部の機械がことごとく焼き払われる。

 その勢いのままアインロールドの、少年の腹部を貫く。

 

 元々機能の大半は停止していたベルトは、ついには砕け散り単なる残骸へと変わる。

 残った強化戦闘服も単なる襤褸切れとなり下がり、もはや機能を果たす事は無い。

 

「アインロールド!? アインロールド!!」

 

 ようやく事態の衝撃による金縛りが解けたミカが、もはや死を待つばかりとなったアインロールドの名前を叫ぶ。

 少女が無事であった事を確認したアインロールドは、本当に最後の力を使い果たし仰向けに倒れる。

 

「無事でよかった……。逃げるんだ、ウェスト博士……」

 

 虫の息のアインロールドが、何とか言葉を紡ぐがその言葉はあまりにも現実に則してはいなかった。

 なぜなら、白い仮面ライダーは彼らを逃がす気など無かったからだ。

 

「存外つまらない終わりだったな。いや、手間が省けたと言うべきか」

 

 もはや焦る必要などない。

 剣を片手にゆっくりと倒れたアインロールドと、少女の元へ歩みを進める。

 

 このままなら、彼らの命運は尽きる事だろう。

 この世界ならよくある、誰も知らない悲劇の一つとして幕を閉じたはずだ。

 

 

 だが、助けを求める声がある限り、仮面ライダーは必ず蘇る。

 

 

「待てい!」

 

 朦朧とするアインロールドの耳に、雄々しい男の声が届く。

 疾風のような影が颯爽と現れる。

 

 重厚な甲冑を思わせる緑のスーツであった。

 頭部を覆うのも、赤い複眼を持つ鋼のヘルメット。腰に回るのは赤い風車が回るベルト。

 そして風にたなびく赤いマフラー。

 

「ライダーパンチ!」

 

 その男は戦場に飛び込むや否や鋼の拳を振るう。

 白ライダーは手に持った剣でその拳を受け止めるが、受け止めきれなかった。

 その圧倒的なパワーの前に、受け止めた姿勢のまま跳ね飛ばされ大きく後退を余儀なくされた。

 

「貴方……は……」

 

 瀕死だったアインロールドの視界には、大きな男の背中の身が映る。

 あまりにも大きな、かつて憧れた姿であり、今も密かにあこがれた背中だ。

 

 その男の名は本郷猛。またの名を、仮面ライダー1号。

 

「大丈夫か、少年」

 

 彼は振り向く事無く、仰向けに倒れるアインロールドに声をかける。

 頼もしい、人を安心させる低い声。

 

 ああ、これでウェスト博士は助かる。

 そう確信し、アインロールドの意識は闇に堕ちて行った。

 

 

※※※※※

 

 

 俺とミカがショッカーに戻ったのは、俺たちを襲った仮面ライダーを探すためであり、俺たちの逃亡をリークしただろう奴を探し出すためだ。

 そして、その謎のライダーとは、目の前にいるウォズニセイバーに他ならなかった。

 

「1年前? なるほど……」

「思い出したか!」

 

 拳と剣が幾度となくぶつかり合い、俺の拳から迸る赤いエネルギーと、奴の剣を覆う白い閃光があたり一帯に飛び散る。

 草原を焼き、岩を砕き、木々を焼き払うエネルギーの奔流に、ジオウ達ですら容易に近づく事は出来ないでいた。

 

「さて、どうだろうね。なんせ、使命に関係ない事は覚えられない質なのでね」

「ふざけるなああああああああああ!」

 

 ウォズニセイバーの言葉に、俺はさらなる激昂を余儀なくされる。

 

 怒りに呼応し、ベルトが限界を超えたエネルギーを生み出す。

 

 普段は手足の先端のみを覆う赤いエネルギーは、徐々に俺の腕を、足を、全身を覆い始める。

 それと同時に身体能力がどんどんと跳ね上がっていく。

 

 残像すら残さない速度で周囲を飛び回る。

 徐々に俺の速度と力はウォズニセイバーを上回り始める。

 

「うぉおおおおおお!」

 

 だが、それでも俺の拳はウォズニセイバーには届かない。

 まるで未来を先読みされているかの如く……いや、恐らくは未来を先読みされていたのだろう。繰り出される拳はことごとくガードされる。

 

 もっとだ、もっと力がいる。

 こいつを倒す力を、あの子たちを取り戻す力を!

 

 さらにエネルギーを引き出し身体能力を強化していく俺の目前に、ウォズニセイバーの剣が迫る。

 咄嗟にガードが間に合ったのは、運が良かったからだ。

 それでもカウンター気味に入ったその攻撃に、俺は火花を散らしながら弾き飛ばされる。 

 

「やれやれ、まるで闘牛でもやっている気分だ」

 

 まるで余裕を崩さないウォズニセイバーはこう呟いた。

 

「だが、君が探しているだろう子供たちの事を私は確かに知っているよ」

「なっ!?」

 

 その言葉に一瞬だが俺の動きは止まる。

 

 そのわずかな隙に割り込んだのは、一発の銃声だった。

 

 俺とウォズニセイバーの間を狙ったその一発。俺は横目で銃弾の放たれた先を見て、今度こそ肉体が硬直してしまう。

 全身を覆っていたエネルギーどころか、構えすら解いてしまう。それほどの衝撃だった。

 

 そこにいたのは青いフードを被った、巨大すぎるライフルを抱えた12歳の少女だった。

 銃撃の衝撃でフードが流され素顔が晒される。整った顔立ち、ミカと同じ黄金色の髪をショートヘアーでまとめている。

 いつもニコニコしている子で、俺たちが配ったお菓子は年下の子に分け与えていた。

 心優しい子だった。

 

「アニータ……」

 

 無意識のうちにその子の名前をつぶやく。

 呆然としている間にも、次なる刺客はやってくる。

 

 炎を宿した巨大な戦斧が俺の頭部を狙い振り下ろされる。

 

 心はぐちゃぐちゃなのに、鍛え上げられた身体は自然と動く。

 振り向きざまに斧の側面を叩き軌道を逸らす。

 それと同時に襲ってきた相手に拳を叩きこもうとして、寸前でその動きが止まる。

 

「キャロル……」

 

 そこにいたのは13歳の女の子だ。

 ミカと同じ金色の髪の女の子。水着のような、レオタードのような妙な衣装を着て、巨大な戦斧を振り回している。

 

 生意気で騒がしく、それでいて寂しがり屋の子だった。

 普段はまるで寄り付かないのに、何かあると真っ先に飛びついてきた。

 猫みたいな、そんな子だった。

 

 心が、動きが固まる。

 

 そして最後の襲撃者が現れる。

 その襲撃者は遥か上空から無数の剣と共に現れた。

 

 漆黒の剣は俺だけでなく、周囲で様子を伺っていたジオウたちやショッカーの面々にも等しく降り注ぐ。

 

「ミク……」

 

 彼女の歳は14歳。ミカと同い年の、ショッカーチルドレン・ファーストロットの生き残りの一人だ。

 冷静沈着、子供とは思えない大人びた態度と冷たさで俺に接していたミカと違い、いかにも年頃の女の子といった雰囲気の子だった。

 ミカの陰に隠れオドオドしてたところはあったが、それでも子供たちのお姉さんという事もありまとめ役の一人として頑張っていた。

 

 そんな彼女は、長く伸ばした黄金色の髪をなびかせ、黒いドレスを身に纏い宙を舞い、冷たい視線で俺たちを見下ろしていた。

 

「いつまで遊んでおられるのですか、灰ウォズ。アナザーオーマジオウの力を回復させたのであるのなら、早々に戻って来なさい」

「別に遊んでいた訳では無いのだが、巫女様方がわざわざ出陣とは思いもよらなかったよ」

 

 巫女? 巫女とはなんだ?

 何が、一体何が起きているっていうんだ?

 

「アニータ! キャロル! ミク!」

 

 連れ去られた子供たち。そのうちの3人の名前を叫ぶ。

 

 

 なぜ暴走モードが発動しなかったのか、ようやく俺は理解する。

 

 俺の暴走モードはミカの影響下では発動しない。だが、これは少々正確ではない。

 暴走モードが発動しない条件は、最優先護衛対象の影響下にいる事なのだ。おそらくはミカが最初に設定した自身とスクールの子供たちを守る、その命令が危険な暴走を抑えているのだろう。

 アニータ、キャロル、ミク。彼女たちは連れ去られたスクールの子供たちであり、当然俺の最優先護衛対象に設定されている。

 

 この世界の傍に彼女たちがいた。それ故に俺は暴走をしなかった。

 そんな簡単な理由だった。

 

 

 狼狽える俺に少女たちは冷めた視線を一瞬だけ向けるが、すぐさま興味を失ったかのようにジオウ達に警戒の視線を向ける。

 当然だろう。この場で一番厄介なのは間違いなくジオウなのだ。

 だが、だからこそ俺は狼狽し、ウォズニセイバーに向かい大声で詰問をする。

 

「なんで、何でお前たちが!? 灰ウォズ! あの子たちに何をした!」

「私は何も。救済神の眷属として、運命と使命を知らせただけさ」

「何かしたって事だろうがぁ!」

 

 再度全身を赤いエネルギーが覆う。

 だが、俺が動くより先に3人の少女の行動が早かった。

 

「黒き仮面ライダーよ、我ら光の創生者の邪魔をする事は許されない」

 

 アニータの構えたライフルが火を噴く。

 足元の大地が抉れ、飛び散った土砂が俺の身体にぶつかる。

 

「救世はなされなければならない。下がれ、仮面ライダー!」

 

 キャロルが灼熱の戦斧を振るう。

 防御こそ間に合うが、反撃もできず俺は弾き飛ばされ後方に弾かれる。

 

「さらばだ、仮面ライダー。我らが神による救世を待つがよい」

 

 再び周囲に黒い剣の雨が降り注ぐ。

 それは先ほどを遥かに上回る数であり俺とウォズニセイバー、そして少女たちとの間の壁となる。

 

「まて、待つんだ! 待ってくれ!」

「やめるんだ! アイン!」

 

 剣の雨の中に突っ込もうとした俺の腕を掴み止めたのはジオウだった。

 当然だ、いかに防御力に優れている俺とて、あの中に入ればひとたまりもない。

 だが、この時の俺はそんな事など考える余裕など無かった。

 

「放せ、放してくれ常磐さん! あの子たちが! あの子たちがいるんだ!」

「事情は分からないけど、冷静になるんだ!」

 

 それを何とか振りほどこうともがくも、ジオウの力は強く振りほどく事は出来ない。

 やがて、剣の雨が消えたその時には、もう灰ウォズも、加古川飛流も、3人の少女たちもその姿を消してしまっていた。

 




まさか、あの颯爽と登場したいかしたエージェントが、良太郎並みの不幸体質で翔太朗に匹敵するかっこつけマンだったとは……。

次で本エピソードのエピローグ。
その次あたりから次のエピソードに進みます。

さて、そろそろ次回のライダーのチョイスを……。

  • だいたいわかった
  • さあ、ここからがクライマックスだ
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