ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話   作:さざみー

59 / 102
第58話 episode・GAVV 唐突な通知を受けました

 夕日が沈んでいく。町が赤く染まる中、俺はと言うと一人ブランコに座り意味も無くゆらゆら揺れていた。

 いや、ほんと途方に暮れて思考が全くまとまらない。

 そうやって一人ぼんやりしていた俺に、通りすがりの男性が声をかけてくる。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 まだ若い青年からかけられた声に、俺は顔を上げる。

 買い物帰りなのか紙袋を抱えたその男性は、一人でブランコに座る俺を心配そうに見つめていた。

 

「え、えっと……」

「いや、昼からずっとそこに座っているみたいだから……」

 

 きっと買い物に行く時に俺を見かけ、帰ってきてもいたので思わず声をかけて来たのだろう。

 そういや昼からずっと座ってたっけ。

 俺は起きた出来事を思い出しながら、ずいぶんと長く座っていた事にようやく気が付いた。

 

 

※※※※※

 

 

 系列組織による定例会議。警備の責任者である俺はいつも以上に忙しい状況に置かれていた。

 それというのも、今回はいつもと様子が違っていたからだ。

 

「ゲルショッカーにゲドン、ブラックサタンまで来るのか?」

 

 部下からの報告に俺は驚きの声を上げる。

 

 定例の系列組織会議は実質上はショッカーとデストロン、GOD機関の三機関の会議となっていた。

 まぁ、悪の秘密結社での代表のくせに毎回律儀に出席するミカやテオドラやヘンリーのおっさんがおかしいのだが、それを言わないのが華だろう。この3人以外が来てもまともな話になるとは思えないし。

 

「ゼロ三世大帝閣下は来ていないのか?」

「そちらは例によって本人は欠席の連絡が入っております。ただ、今回は名代としてお嬢様が……」

 

 ゼロ三世大帝は相変わらずアマゾンと南米でやりあっていて動けないらしい。

 今は腕輪が揃っていないと聞くが、腕輪が揃っていなくても仮面ライダーアマゾンは強豪ライダーだ。しかも、どうやら他にもライダーが南米にいるという噂で、爆散していたり丸焼けになったりとアマゾン以外にやられた獣人が多数いるらしい。

 

 しかし、めんどくさい三世が来ないのはありがたいが、名代で来ているのあいつかよ……。

 めんどくさい事は変わらないじゃないか。

 

「とりあえず、部屋で待機しておくように要請しておけ。話が通じない相手ではない。あと、ウェスト博士とテオドラ閣下には間違っても会わせるなよ。殺し合いが始まったらたまらん。他は?」

 

 ミカとテオドラも仲が良い訳じゃないが、あの二人の諍いはじゃれあいみたいな物だ。殺し合いには発展しないと断言できるし、何ならノータイムで助け合いもする。

 一方、ゼロ三世の娘は本気で殺し合いに発展しかねない。特にテオドラとは水と油なので会わせないに限る。

 

「ブラックサタン閣下は来賓室にて待機しておられます。ただ、手が空いたらアインロールド様に顔を出すようにと言伝を……」

「そっちは了解したと伝えておけ。それ以外は会場の準備が整うまで何もしなくていい」

 

 ブラックサタンの指導者は再生ブラックサタンだ。オリジナルのブラックサタンは仮面ライダーストロンガーとの戦いで滅んだが、残っていたサタン虫の卵をふ化させ再生させた存在である。

 警戒心や猜疑心が強く、沸点が何処にあるかわからずキレると暴れ出す危険人物だ。定例会議に姿を現さなかったのも、その警戒心ゆえだろう。

 あと俺の洗脳に関わっているからか、何故か人を同胞扱いしてくる。

 

「ゲドンのユム・キミル閣下も到着しております」

「そちらは丁寧におもてなしをしておけ。化け物に変えられたくなければ粗相をするなよ」

「イッー!」

 

 秘密結社ゲドンを率いるのは十面鬼ユム・キミルだ。マヤ文明の石像を思わせる風貌の怪人だが、残忍であった十面鬼ゴルゴスとは対照的に物腰は柔らかい。

 本人は穏健派的な思想の持ち主ではあるが、力の強い過激派改造人間を多数配下に納めている事からもわかるように強い野心を持つ。現在は支配した国の更なる掌握を進めている。

 

「後はゲルショッカーのダーク将軍か。まだ到着していないのか?」

「私なら今しがた到着したところだ、アインロールド」

 

 廊下で移動しながら部下の報告を聞いていたのがいけなかったのだろう。

 

 俺たちの背後から複数人の集団がこちらにやってくる。

 その先頭に立つのは改造軍服を身に纏った長身の柔和な印象を受ける眉目秀麗な青年だった。腰まで伸ばした黒髪と、腰に佩く見事な装飾の施された儀礼用サーベルが印象的であった。

 こいつの名はダーク将軍。現在のゲルショッカーを率いる男だ。

 

「お久しぶりです、ダーク将軍」

「久しぶりだね、アインロールド」

 

 仮面を被っていて本当に良かった。今の俺はほんと嫌そうな表情をしている事であろう。

 引き連れている美男美女軍団がこちらを睨んでいる気がするが、こちらも無視。幹部候補生時代の同期だが、こいつらに関しちゃ良い記憶は無い。

 

 一見柔和に見えるダーク将軍だが、会議の無断ボイコットをしていた事からも分かるように問題児のクソ野郎である。

 とにかく自分の気に入った存在には寛容、嫌ったものには苛烈という二面性の持ち主。会議に来なかったのも、自分好みじゃない連中と会いたくなかった程度の理由だろう。

 

「ところで、うちへの移籍を考えてくれたかい? 君なら四天王……いや、その上の地位を与えても良いと思っているが?」

「高い評価を頂き誠にありがとうございます。ただ、それに関しては以前も申し上げた通り、お断りさせていただきます」

 

 そして、こいつも俺を勧誘してくる奴の一人である。ただ、ミカとよく喧嘩をしているテオドラですら俺とミカのセットでの勧誘なのだが、こいつに関しちゃ俺だけだ。

 正直、あの美形軍団の中に混じるのは生理的に無理なので勘弁願いたいのだが、割としつこく聞いてくる。

 

「それは残念だ。だが、気が変わったらいつでも来てくれ。君ならいつでも大歓迎だ。行くぞ、お前ら」

「はっ!」

 

 すれ違いざまにお付きの何人かが睨んできたが、やはり無視。

 もうね、嫉妬バリバリの視線を投げかけてくるんですよ、こいつら。こんな所に行きたくは無いですよ。

 俺は連中が廊下の向こうに行った事を確認すると、小さくため息をつく。

 

 そう、まだ定例会議は始まってすらいないのだ。

 本当に先が思いやられる。

 

 

 

 まぁ、結局問題児の相手をしながらも会議の時間となった。

 

 本来定例会議のある円卓の間には各組織のトップ1名しか入れない。例外は此処の警備責任者である俺だけだ。

 まぁ、なんかあった場合は肉壁になれって事なのだが、それはどうでも良い。

 

 部屋の中央にある巨大な円卓。その席には8つの席がある。

 ショッカー、ゲルショッカー、デストロン、GOD機関、ゲドン、ガランダー、ブラックサタン、そしてデルザー軍団の席だ。

 そしてその円卓を見下ろす一段高い席こそが、大首領の玉座となっている。

 

 このうち、デルザー軍団の席と大首領の玉座はこの部屋が作られてから一度も使用された事が無かった。

 デルザー軍団は大首領の親衛隊という本来の任務に戻り、基本的に俺たちの前に姿を見せる事は無い。ごくまれに任務で姿を現すか、個人的なコネで顔を合わせるかぐらいだ。

 大首領に関してはレリーフを使った通信による対話のみで、姿を見せた事は一度も無い。

 

 そして、それぞれの壁には会場設営に俺たちが使う入り口のほかに、各組織のトップのみが通れる扉が設置されている。

 正直無駄な演出だなと庶民派の俺なんかは思うのだが、これをつぶやいたところ組織として威光を保つためには必要な事らしい。テオドラから懇々と説明を受けたが、正直俺にはよくわからなかった。

 それはともかく、各代表が円卓の間に続々とやってきているのを眺めていたが、ふと異変が起きつつあることに気が付く。

 

 組織の代表は良い。

 

 だが、なんで大首領のみが使える扉が開く?

 

「どうしたの、アインロールド……って、え?」

 

 狼狽している俺に気が付いたのだろう。ミカも俺の視線の先を追い、唐突に固まる。

 ミカだけではない、テオドラも、ダーク将軍も、ブラックサタンも、ユム・キミルもあり得ない事態に固まる。

 そして、大首領の扉が完全に開いたその先から出てきたのは、黒いコートの男だった。

 

 身長は180センチを超えるだろうか。かなりの長身だ。

 黒いロングコートに、黒いバケットハット帽子の鍔に隠れ顔はよくわからない。

 あと、特徴的なのは首からかけたピンクのカメラ……って?

 

 ちょっとまて、あのカメラ見覚えがあるぞ!?

 というか、ピンクじゃなくてマゼンダか、もしかして!?

 

 俺が驚愕している間にも事態は動く。

 大首領の扉から出てきた男はそのまま大首領の玉座にドカッと座ると、その長い足を組む。

 

 あまりにも不敬な態度だが、実に様になっている。

 

「貴様、その玉座が誰のものか知っての狼藉か!」

 

 真っ先に反応したのは真面目なテオドラだった。

 怒りに頬を朱に染め、腰の剣を引き抜こうと……。

 

「まて、テオドラ!」

 

 俺は慌てて高速機動を発動させると彼女の挙動を止める。

 剣の柄に手をやって、剣を引き抜く動作を止めた。

 

「アインロールド様!?」

 

 その事にテオドラが驚きの声を上げるが、悪いが今は彼女の驚きにかまっている暇はない。

 横目でミカを見る。あっちは俺の様子がおかしい事に気が付いたのか、いつでも逃げれるように既に下がっている。

 テオドラを庇うように一歩前に出ると、唐突にやって来た黒いコートの男に詰問を行う。

 

「何故貴様がそこにいる、門矢士。いや、仮面ライダーディケイド!」

 

 油断なく構えながら、俺はその男の名を口にする。

 俺の声に、男はニヤリと口元を吊り上げると、右手の人差し指で帽子の鍔をくいっと上げる。

 

「一瞬で気が付くか。流石は仮面ライダーアインロールド」

「誰が仮面ライダーだ。もう一度聞く、何故貴様がここに居る?」

 

 面識は無いが、知っている顔だ。

 前世の画面越しで、あるいは今世のショッカーの資料越しで何度も見ている顔だ。

 門矢士、またの名を仮面ライダーディケイド。並行世界を旅する物語を持たない世界の破壊者。

 伝説ともいえる仮面ライダーの一人だ。その男が我らショッカーの前に唐突に表れたのだ。

 

 警戒し門矢士と対峙する俺に、他の幹部連中もようやく俺が最大限の警戒を行っている意味を知る。

 

 この場で戦闘能力の無いミカのみは一歩下がるが、他の幹部連中はそれぞれ武器を構え戦闘態勢を取る。

 あたりまえだ。ディケイドと言えば元はこの世界へ侵略に来た大ショッカーの大首領にして、宿敵である仮面ライダーの一人でもあるのだ。

 

「俺がここに居る理由か? 簡単だ。今日から俺が全ショッカーの総指揮官になるからだ」

「なにっ!?」

 

 唐突に何を言い出すんだ、こいつ!?

 俺だけではなく、この場にいる全員が驚きに固まる中、門矢士の背後にあった大首領の鷹のレリーフの目が赤く輝く。

 

「聞けぃ、我が精鋭たちよ!」

 

 その声は、まさしく大首領のものだった。

 唐突に響いたその声に、大幹部たちは自然に膝を突き首を垂れる。

 

 唯一俺だけが門矢士を警戒し、膝を折る事が出来ずにいる。

 

 まぁ、俺は大幹部では無く警備担当者だから当然と言えば当然なんだが。

 

 そのような状況の中、大首領の声が円卓の間に響き渡る。

 

「我が精鋭たちよ! 今日この時をもち、我が名を以てこの門矢士を全ショッカーの総指揮官に任命する!」

 

 ちょ、まて!? ディケイドをショッカーの総指揮官に?

 それってどういう事だよ。

 

「お、お待ちください、大首領! ディケイドを総指揮官にするとはどういう事で!?」

 

 古代南米の石像を思わせる怪人が狼狽し、思わず大首領にこう尋ねる。

 普段なら不敬も良いところだが、十面鬼ユム・キミルが大慌てで発言するのは無理の無い事であろう。

 それほどまでに、あまりにも唐突にであり、あまりにも突飛な人事だ。

 

「儂の決定に逆らうのか、十面鬼よ!」

「いえ、決してそのような事は……」

「ならば黙って受け入れるがよい! 門矢士の言葉は我が言葉と思うが好い。そして門矢士よ、我が信頼を裏切るではないぞ!」

「ああ、精々働いてやるさ」

 

 大首領の玉座に座ったまま肩をすくめる門矢士の姿はあまりにも不遜だった。

 奴を見つめる大幹部の視線に殺気が混ざっているのも道理だ。

 

「さて、俺が大首領の信任を受けている事は分かったな。いい加減に跪いていられても話しにならないから席に着け」

 

 不遜な態度のままそう命じる門矢士に、大幹部たちは仕方なしに各々の席に向かう。

 こうなると仕方ない。俺も自らの定位置に向かおう。

 そう考えて動き出した俺を、門矢士が呼び止める。

 

「まて、アインロールド。お前には伝える事がある」

「私にですか?」

 

 基本的にこの会議において俺は置物に過ぎない。

 求められれば何かを言う事はあるが、一組織の幹部に過ぎない俺には発言権が無いのだ。

 

「ああ、そうだ。アインロールド。お前は本日この時を以てショッカーをクビだ。追放処分とする」

 

 え?

 

 今何とおっしゃられましたことでございますか?

 

 唐突な門矢士の言葉に俺が硬直する一方で、大幹部たちが一斉に騒めきだす。

 

「ま、まて、ディケイド!? それはいったいどういう事だ!?」

「言った通りだ。アインロールドは本日を以て追放処分とする」

 

 その発言にブラックサタンが猛反発を始める。

 髑髏の頭部を持つ紫の怪人は、珍しく積極的な意見を口にした。

 

「これまで組織に多大な貢献を行った、我が子アインロールドを追放とはどういう事だ!?」

「わ、我が子?」

 

 ブラックサタンの言葉に、門矢士が一瞬だけぎょっとした表情を浮かべる。

 あ、勝手に言っているだけです。当然だが虫と血縁なんて一切無いです。

 俺の洗脳作業して以降、どこをどうバグったのか俺を息子と認識しているんです、その人。

 

「まあいい。先日の作戦でアナザーオーマジオウである加古川飛流を取り逃がした。その失敗は万死に値するとは思わないか?」

「で、ですがアインロールド様ほどの勇士を追放するなど……。それなら、失敗を償うための降格か追跡の任に付けるべきでは!?」

 

 そう俺を庇ったのはテオドラだ。

 別に組織に愛着があるというほどでも無いが、今までの働きや部下の事を考えるといきなり追放と言われても正直困る。

 

「そ、そうです。ネオショッカー大首領を撃破した勇者を追放などと?」

 

 十面鬼にとってもあまりにも酷い処分と映ったようで、俺を庇う発言をする。

 だが、門矢士の決定は絶対であった。

 奴は慌てる俺たちを鼻で笑うと、こう宣言する。

 

「この世界のショッカーはずいぶんと仲が良いようだな。だが、俺の言葉は大首領の言葉と同じだ」

 

 それは先ほど大首領自らが宣言した言葉だ。

 大首領の言葉は絶対。それがショッカーの系列組織の絶対のルールであった。

 門矢士の言葉に、大幹部たちの発言が止まる。

 それほどまでに大首領の存在は重い。

 

「むしろ、これまでの功績を鑑み、失態に対して処刑だけは勘弁してやっただけだ。じゃあな、仮面ライダーアインロールド」

 

 その言葉と共に、門矢士が突き出した手のひらから鏡のような空間の断層、オーロラカーテンが出現する。

 カーテンは門矢士の意志を受け、そのまま一直線に俺に向かってくる。

 

 そして俺は回避する間もなくカーテンに飲み込まれ、ここではない何処かへと飛ばされた。

 

 

※※※※※

 

 

 いや、ほんとなんで門矢士がショッカーの総司令になっているの?

 何考えているのよ、大首領。

 

 まったく、ミク達3人を見つけたと気合を入れなおした矢先にこれだ。

 ほんと、俺って奴は何をやっているんだろうな。ショッカーに愛着なんて無いはずだが、こう唐突に追放されると途方に暮れる。

 

「あ、あの」

「え、何でしょう?」

 

 また一人で考えこみそうになった俺に、目の前の男性が声をかけてくる。

 いかんいかん、見ず知らずの人とはいえ心配して声をかけてくれる人がいるのにぼんやりし過ぎだ。

 

「いや、ずいぶんと辛そうだから、これを……」

 

 その青年は俺の隣のブランコに腰を掛けると、紙袋の中から何かを取り出して渡してくる。

 彼が手渡してきたのは、ごくふつうのお菓子だった。

 その辺のコンビニやスーパー、あるいは駄菓子屋でよく売っているようなふわふわの生地に甘いクリームが挟まっている定番お菓子だ。

 

「あの、これ?」

「いや、君、なんか辛そうだったから。何が辛いかはわかってあげられないけど、ほら、お菓子を食べると元気が出るから」

「すいません……」

 

 いや、そんな落ち込んでいたかのように見えたのか、俺。

 ニコニコと毒気なく微笑む青年に、流石に自分の姿を顧みる。

 お菓子は……うん、食べないと悪いかな。

 

 俺は包装を開けふわふわの生地を取り出し口に運ぶ。

 

 ふわりとした生地の歯ごたえと甘味の直後に、クリームの甘さが口いっぱいに広がる。

 

「ね、美味しいでしょ。お菓子を食べていると、少し幸せな気持ちになりません?」

 

 まぁ、そうだな……。お菓子は幸せな味だ。

 そういや、キャロルの奴はこのお菓子が好きだったな。一回で食べきるのがもったいないって、ベッドに隠していたっけ。

 アニータの奴はあんまり自分で食べないで、小さな子供に配ってたな。ミクは半分こにして俺に渡してきたっけ。

 そんな俺たちをミカはどこか苦々し気に、でも実際は嬉しそうに見ていたな。

 

 そのうちテオドラの奴も遊びに来るようになってケーキを持ってきたり……。子供たちがいて、ミカがいて、テオドラがいて……。

 何度も人に手をかけた。

 地獄みたいな場所だったけど……でも……。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 あ、いかん……あいつらの事を、あの頃を思い出して涙が……。

 人前だというのに、目から涙がとまらなかった。

 

 どれだけ泣いていただろうか。気が付いたら日が暮れていた。

 それほどの時間が経っていたのに、先ほどの青年は俺の傍を離れなかった。

 

 よほど弱って見えていたのだろう。

 これもそれも全部ディケイドが悪い。

 

「すいません。もう大丈夫です」

 

 俺は涙を拭くとブランコから立ち上がる。

 ショッカーから追放されたとはいえ、やる事はあるのだ。

 いや、むしろ時間が出来た分、あいつらの探索に時間をかける事が出来ると考える事だってできる。

 そう気合を入れなおした俺に、青年が優しく微笑む。

 

「よかった、元気が出たみたいで」

「いや、本当にご迷惑をおかけしました。お菓子までくれてありが……」

 

 そう礼を言い、青年と別れる。

 それだけの筈であった。

 

 だが、この世界はそんなに甘くは無い。

 俺はそれを知っている。

 

 俺の耳に、誰かの悲鳴が届く。この声は子供か!?

 ほんと嫌になる。またどこかの馬鹿が堅気の一般人を襲っているのか!?

 

「すいません。お菓子ありがとうございました。俺は行くところがあるので」

 

 そう言って俺は駆け出す。

 何が起きているのか分からないが見逃すわけには……。

 

「ちょ、ちょっとまって!」

 

 駆け出した俺の脚に、その青年が平然と並走してくる。

 って、ちょっとまて!? 俺改造人間だぞ? どこかの陸上競技の選手か何かか、この人?

 

 駆けつけた高架の下にいたのは小学生ぐらいの子供たちだ。

 

「ったく、まとめて捕まれば良い物を、器用に避けやがって……。質が落ちるじゃねえか……」

「あっ、ああああっ……」

 

 塾の帰りなのか、行きなのかはわからないが、友達と話しながら移動していたのだろう。よく見れば自転車が倒れ転がっている。

 その子供たちの目の前には熊の様な怪物が。手には赤い紐が結ばれたアクスタらしきものを数枚持ち、腹には口が……。って、いつぞやの人食い異世界人の同族か!?

 

「まちやがれ!」

 

 俺はそれを確認するや否や、飛び上がり怪物の頭に向かって飛び蹴りをかます。

 横手からの唐突な蹴りは予想外だったのか、怪物は俺の蹴りを躱す事など出来ず横手によろける。

 

 怪物がよろけた事を良い事に、手に持っていたアクスタも取り上げる。

 

 子供の姿のアクスタ。この人食い種族の特殊能力か何かだ。

 ショッカーでもいくつか保管しているんだが、どうやったら元に戻せるかわかっていないんだよなぁ。強度があまりなさそうなので手を出しにくいって、技術部の連中は言っていたっけ。

 

「君たち、大丈夫!? 立てる? 立てるなら早く逃げるんだ!」

 

 俺についてきた先ほどの青年が、子供たちを立ち上がらせ、逃がしていた。

 ナイスフォローだ。

 

「貴方も早く逃げて!」

 

 そして子供たちを逃がした青年が俺にそう声をかけてくる。

 いや、俺も見た目は高校生だから言いたくなる気持ちは分かるが、この人食いの怪物相手に残るなんて無謀だ。

 野生の猛獣よりもよほどまずい生き物なのだ、こいつらは。

 

「何を言っているんだ、あんた! あんたこそ早く逃げろ!」

 

 俺は必死に叫ぶが、青年は逃げる様子が無い。

 一方、俺の蹴りを食らった怪物は体勢を立て直しこちらを睨みつけてきた。

 

「何言っているんだ、てめえら。せっかくの獲物を逃がしやがって。お前たちで帳尻を合わせてやる!」

 

 くそ、完全に体勢を立て直したか。

 まぁ、良い。別にそこまで気を使って正体を隠しているわけじゃない。

 俺は力を籠めると、腰のベルトを出現させる。

 

「くっ。仕方ない! って、え?」

 

 ん?

 

 俺がベルトを出現させるのと同じタイミングで、青年が着ていた水色の服の腹部にあったジッパーを勢いよく開く。

 そこには赤い口のような物があった。彼はそこに何か箱状のカートリッジをはめ込む。

 

「グミ」

 

 そしてそのタイミングで俺の腹にベルトが出現した事にも気が付くが、お互いにもう止める時間は無い。

 というか、もしかして……。いや、しかし見た事ないぞ、あんなシステム!?

 

「イートグミ! イートグミ!」

 

 腰の赤い物体の横のレバーを回転させる。

 カートリッジが何か声を上げているみたいだが、ほんとなんだありゃ?

 

 いや、それどころじゃない。

 期せずして、俺と青年はほぼ同じタイミングで同じ言葉を口にした。

 

「変身!」

「変身!」

 

 全身のナノマシンが活性化する。

 腕に、足に、ベルトから供給されたエネルギーがいきわたり力がみなぎる。

 ナノマシン生成された黒い強化戦闘服が全身を包み込み、頭部に赤い複眼のヘルメットが装着される。

 最後に赤いマフラーが首を覆う。

 

 俺が俺に変わる。

 

 アインロールド。それが俺の今の名前。

 

 そして、俺と全く違うが同じ変化が青年にも起こる。

 青年の目が怪しく紫に輝いたかと思うと、彼の周囲に柔らかそうな不思議なグミ状の物体が出現する。

 彼が腰の赤い物体の横のスイッチを押すと、そのグミは勢いよく吹き出し青年の身を覆っていく。

 

 グミ状の物質は彼の身を完全に覆い隠すと、紫の鎧へと姿を変える。

 頭部の黄色い複眼が闇夜に輝く。

 

「ポッピングミ! ジューシー!」

 

 まさか、まさか、あの青年が噂の……。

 

「仮面ライダーガヴ……」

 

 彼の名を口にする。

 そう、ショッカーの資料で見た事のある姿だ。彼が今噂の、仮面ライダー。

 

「君も仮面ライダーだったの?」

 

 ガヴがそう問いかけてくる。

 彼の質問は当然だろう。俺の姿は仮面ライダー1号と酷似している。

 知らない人間が見たら仮面ライダーと思うだろう。

 

 だけど、俺は仮面ライダーではない。

 ショッカーライダーでもなくなった。

 今の俺は一体何なのだろう。

 

「アインロールド。それが俺の名だ」

 

 彼の問いかけに、俺はこう答えるしかできなかった。

 




追放からのざまぁは最近の流行りですね!

時系列的にはゴチポット入手前。
破壊者さんは今回は顔見せなのだ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。