ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
「アインロールド。それが俺の名だ」
彼の問いかけに答えながら、自身の体の具合を確認する。
アインロールドとしての機能は普段と同じで何ら制限を受けている感じが無い。
本当にただ、ショッカーからおっぽり出されただけのようだ。
一方、暴走モードにはなっていない。
いや、発動していない訳ではない。確かに俺の中で暴走モードの発動を感じる。だが、その暴走モードは何というかすごく力が弱いのだ。
例えるならぐにゃぁと曲がって『俺が……クビ!? ありえない、そんな事ありえない……何かの、間違い……圧倒的、ミスジャッジ』という感じにぶつぶつ呟いていると言ったところか。
正直迷惑以外の何物でもないのでざまぁみろとしか思わない。このまま消えてくれた方が有難い位だ。
「とりあえず話は後だ」
俺はそう言うと、結果的にガヴと俺に挟まれる形となった怪物を睨みつける。
確かに話している場合ではないと思ったのだろう。
ガヴも腰を下げる独特の戦闘の構えを取り、怪物を睨みつけた。
「確かにそうだな」
じりじりと狭まる包囲網に、怪物が怒声を上げる。
「グラニュートハンターだったのかよ! ついていねぇ!」
グラニュートハンター?
聞き覚えの無い単語だが俺たちの言語と同じなら、グラニュートというのがこの人食いの怪物どもの種族名になるのか。
そんな事を考えていると、熊のグラニュートは両手の巨大なかぎ爪を広げたかと思うと、両腕を雑に左右に振るう。
次の瞬間、かぎ爪から斬撃がこちらに向かって飛んでくる。
よくある能力ではあるが、それだけ面で襲ってくる飛び道具というのは使い勝手が良いのだろう。
まぁ、よくある能力だけの対処法など身に着けている。
俺は右腕に力を溜めると、飛んできた斬撃に向かい振り下ろす。
「ライダーチョップ!」
赤い輝きを宿した手刀の前に、グラニュートの放った飛ぶ斬撃はガラスが割れるような音を立てながら粉々に霧散する。
当然だ。こいつの攻撃がネオショッカー大首領の炎より威力がある筈などない。
「な、なにぃ!?」
避けられる事や止められる事は想像していたのだろうが、まさかチョップ一発で打ち消されたのは想定外だったのだろう。
かなり間抜けなポーズを晒し、驚愕で目を見開いている。
「良いのか、そんな隙だらけで?」
挑発するようにグラニュートに声をかける。
こっちに注目を集めれば程度の牽制だったが、必要は無かったようだ。
そう、この明確な隙を見逃すガヴでは無かった。
「でやあああああっ!」
いつの間にか取り出していた剣を全力で振るう。
火花を飛び散らせながら、剣はグラニュートの背中を切り裂いていく。
ガヴに変身した青年は随分と優しそうに見えたが、なかなかクレバーで思いっきりが良いな。
背中を切り裂かれふらつくグラニュートがフラフラとこちらに寄ってくる。
丁度いい間合いだ。
俺は再び拳に力を集中させると、アッパー気味に低い体勢から拳を振り上げる。
「ライダーパンチ!」
身長は2メートルを優に超え体重も100キロを軽く超える巨体だろうが、ライダーのパワーの前には枯れ木も同然だ。
グラニュートは身体をくの字に曲げた姿勢のまま大きく打ち上げられ、そのまま轟音を立てて高架の柱に叩きつけられた。
そのまま地面に落下し、尻餅をつく。
奴の右正面には俺、左正面にはガヴ、そして背後には頑丈な柱。
もう、こいつには逃げ場はない。
そのはずだった。
「ちくしょー! やってられるかぁ!」
唐突にそのグラニュートは叫び出すと、その鋭い爪を下の地面に突き刺す。
同時に奴の巨体を覆い隠すほどの土砂と砂利が周囲に飛び散る。
「なっ!?」
「しまった!?」
余裕ぶっていたつもりは無いが、これは流石に予想外であった。
あの一瞬でグラニュートは地面に潜り、そのまま逃亡をしてしまったのだ。
熊じゃなくてアナグマだったのか、あいつ。
一応頭部のスーパーセンサーで周囲を確認するが、あのグラニュートの反応は無い。
浅い部分や地下構造物の有無ならともかく、地中深くまでは流石に調べられないからなぁ……。
あ、おっと……。
「なるほど、こっちか……」
「ちょっと、どうしたの? って、あっ!」
センサーで見つけた場所、高架下公園の植え込みを調べる。
俺について来たガヴも同時に同じものを発見し声を上げる。
そこにあったのは先ほどのグラニュートが出てきたと思しき穴の痕跡と置き去りにされたカバンであった。
「おそらく穴を掘って潜み、通りすがりの人間を襲ったのだろうな」
「なるほど」
恐らくは先ほどの子供たちは自転車で移動していて、思ったより速度が出ていたため運よく数人が捕まらなかったのだろう。
そこでしびれを切らし姿を見せ、子供たちが悲鳴を上げた……。そんなところだ。
ガヴが鞄を手に取り無造作に開ける。
そこには俺の手元にあるアクスタもどきと同じように、赤いリボンを巻かれたアクスタもどきが数枚入っていた。
あいつら一瞬で人をアクスタもどきに変えるから、被害者は何が起きたのか気が付く暇もなかったのだろう。
かなり怖い人食い怪物である。
「よかった。逃げるのに必死でヒトプレスを持っていけなかったんだ」
ヒトプレス? これがこのアクスタもどきの名前か?
しかし、これが無事でも……。
「だが、こうなってしまっては……」
ショッカーでの調査でこの状態でもアクスタもどき、いや、ヒトプレスか? このヒトプレス化した人間は生命活動を続けている事はわかっている。
とはいえ、この状態では死んでいるのも同然だ。
そんな事を考えていると、ガヴはヒトプレスを鞄から取り出し、巻かれていた赤いリボンを剣でスパッと断ち切る。
次の瞬間、ヒトプレスにされていた人間たちが輝きながら元の姿に戻った。
「えっ!? そんな簡単に元に戻るの!?」
何やってるんだ、ショッカー技術部!
いや、サンプルが数枚しかなかった上に、ヒトプレスを再現できるなら移動や医療、軍事において有望すぎるので慎重にならざるを得なかったけどさぁ。
そう言えば、次は生け捕りにしてくれとか無茶な事も言われていたっけ。
余りにもあっさりと元に戻され、流石の俺も目が点になる。
「そっちもこっちに」
「あ、はい」
思わず言われるままに素直に渡す。
俺が取り返したヒトプレスも、ガヴがリボンを断ち切るとすぐに人に戻った。
なんというか、難しく考えすぎってあるんだと思いました。
「えっと、俺の名前はショウマ。君は」
「アインロールド」
「そっか、よろしくね、アイン」
なぜ如月さんといい、ショウマさんといい何故人の名前を略す。
いや、未登録品なんて人の名前としちゃ変だし、仮面ライダーアインなんて呼ばれるよりはマシだから良いけどさ。
あの後アナグマグラニュートが完全に逃亡をしたことを確認した俺たちは、ヒトプレスにされていた人が意識を戻すのと同時にあの場を後にして元の公園に戻ってきた。
幸い、ショウマさんの荷物はそのままだった。なんか紙袋一杯のお菓子だったことは気にしないでおこう。
戦ったり、安全確認をしたりと時間はだいぶ遅い。
「俺たち以外の仮面ライダーなんて久しぶりに会ったよ」
「久しぶり? 他にも?」
噂通りなら、ガヴはヴァレンとヴラムという仲間がいるはずだ。
それ以外にも知り合いがいるのか?
「うん、少し前に士って仮面ライダーに頼まれて人助けを……って、どうしたの?」
「あ、いや、なんでもないです。ちょこっと、いやかなーり、門矢士って奴をぶん殴りたくなっただけですから」
あの野郎、ショウマさんと俺を接触させる為にここに飛ばしやがったな。
人をクビとかぬかしつつ、何かをさせる気満々じゃねえか。
いや、あいつらを見つけてセンチな気分になっていたり、クビの衝撃とかですっ飛んでいたが、門矢士が裏でいろいろ企むタイプだって知っていただろう、俺。
「いや、なにかあったの?」
「ははははは、いや、唐突に上司になったと思ったら速攻でクビにされただけだから気にしないでください。ショウマさんが悪い訳じゃないんで、あの野郎今度会ったらぶっ飛ばす」
クソジジイに次いでぶっ飛ばすリストにディケイドが入ったぞ、今この瞬間。
ブッ飛ばした後にゴージャスにラッピングしてカグヤさんの所に送りつけてやる。
「いや、全然分かんないよ……」
会ったばかりのショウマさんに盛大に呆れられている。
まぁ、門矢士の事はそれは横に置いておこう。あれの知り合いみたいだが、そこまで深い付き合いがある反応じゃない。
それよりも先に聞いておくことがある。
「あの、時間大丈夫ですか? できればさっきのグラニュートって奴の事を聞きたい。あとヒトプレス……だっけ? あれの事も」
「え……あっ! もうこんな時間!?」
手元の時計を見てみれば、時刻はもう夜の9時近い。
俺は無職のプーになって……あ、いや、まだ学生の身分は残っているかな?
とにかく、俺はともかくショウマさんは流石に遅くまでってわけにもいかないだろう。
「良かったら明日にでも教えてもらえませんか? 俺から出向きますので」
「いいの?」
「時間はありますし、あのアナグマ野郎を放置していくわけにもいかないですし」
アナグマ野郎の発言から、ショウマさんはグラニュートを中心に退治してきたのだろう。
ならば任せて自分の事をやっても良いのだが、それはそれでおさまりが悪い。
人食いの化け物であるグラニュートやヒトプレスの事も聞きたかったし、ちょいと一働きするのも悪くないだろう。
こうして、俺はショウマさんと明日会う約束をして一旦分かれる事にした。
敵対しているわけでも無い仮面ライダーに迷惑をかける訳にもいかないので、これぐらいの距離感で良いだろう。
ショッカーはクビになったが、結局のところ俺はもう悪党なんだよなぁ。
例えばこんな事に慣れきってしまっている。
「そろそろ出てきていいぞ。ショウマさん……ガヴはもう行った」
俺は公園のベンチに深く腰を掛けると、振り向く事無く声をかけた。
それと同時に、それまで存在しなかった人の気配が突如湧いて出てくる。
「気配は完全に消しておりましたが、気が付いておられましたか」
ポニーテールの茶髪に、ジーンズとジャケットという活動的な服装。
一見すれば体育会系の女子大生と言ったところだ。いや、一応はカバーで大学に通っているので現役女子大生か。
無論、気配を消すような真似ができる女がただの女子大生の筈がない。
「急に気配を消しすぎだ。気が付く奴は気が付くぞ」
「それで気が付くのは御屋形様ぐらいかと」
「誰が御屋形だ、誰が……」
本郷さんやクソジジイなら絶対に気が付くぞ。
あと、ショッカー内での立場は同格なのだから、御屋形様はやめろって何度も言っているのに一向に止める気配が無い。
もう俺も慣れすぎて、御屋形様ロールプレイが定着しちまったよ。
そう、急に出現したこの女の名はハチ女系諜報特化型の改造人間であるシノビバチ。うちの諜報部門のトップを務めている改造人間だ。
再生ショッカー壊滅後は落ち延び放浪していたのだが、パチモンライダーに見つかりあわやという所を俺が助けた経緯がある。そのせいか、俺を御屋形様と呼び忠誠を誓っている。
ちなみに、御屋形様呼ばわり等の忍者コスプレはこいつの趣味であり、誰も強制していない。
「まあいい。ショッカーはどうだ?」
「平静を保っております」
「わかった。先走る奴はいないと思うが、抑えるように伝えておけ。山代なら抑えられる筈だ」
下手にディケイド体制に反発して反乱でも起こされると事が事だ。
別にショッカーに愛着があるわけじゃない……が、いや、うん……今の部下には愛着はあるか。
とにかく、こっちを敵視してくるような過激派がどうなろうが知った事じゃないが、人類存続を考えている穏健派や存続派を無駄死にさせる気は無い。
あいつらに追われるなら素直に消えるが、追われていないのなら……と、考えてしまう。
組織内にいたときはグチグチ考えていたのに、ほんと何やっているんだか。
「そのクモ男からの伝言です。『お帰りをお待ちしております』と」
「取って代わる気は無いのか? 今なら無血で戦闘部門のトップに立てるぞ」
「追加の伝言です。『そんな面倒はやなこった』との事です」
あの野郎……。俺が戻らなかったらどうするつもりなんだ。
問い詰めたいところだったが、あの古参の改造人間にはのらりくらりと誤魔化されそうなので、この場は苦笑いだけで済ませる事にした。
「ミカの様子は?」
「会議からお帰りの後は、ラボに閉じこもっております」
少なくとも荒れている様子は無いか。いや、荒れてはいるだろうが、シノビバチに伝言も寄越さず閉じこもるって事は何かやる事があるのだろう。
普段は妹ムーブをしているが、あいつはあいつでショッカーの科学者なのだ。荒れていながらも自分で考えて行動できる。
俺は少しだけ考え、シノビバチにミカに対する伝言を伝えた。
「学校にちゃんと行っておくように伝えてくれ。それと、野菜をちゃんと食べる事と夜更かしをしすぎないように」
伝えたのは『兄』としての伝言だけだ。
あいつが自分で考えてやる事があるなら、アインロールドとしての伝言は必要ない。
「家には帰らないので?」
「ディケイドは俺を粛清する気など無いだろうが、おいそれミカと接触は出来んよ。皆には悪いが、もうショッカーに戻れない事も覚悟しておいてくれ」
まぁ、その時は門矢士がショッカーに何らかのリアクションを起こすだろう。
今のところは何も無いようだが、俺の組織内の影響力を知らないわけではあるまい。
門矢士は故意に俺とショウマさんを接触させた。
何をさせる気かは今のところ分からないし、意のまま動いてやる気はさらさらない。
だが、後への布石となる重要な事をやらせる気な事だけは確実だ。
何とも情けない話だが、一通りショックを受け、泣いて、悪党と戦ったらどんどんと普段の調子に戻っていっているのが自分でも分かる。
「その時は私もショッカーを抜けお供いたします」
「粛清されるぞ、二度と言うな」
「申し訳ございません」
どこに目があるかわからない以上、迂闊な事は言わないほうが良い。
それなりに付き合いがある、こいつに死なれると悲しいだろう。
今のところ周囲に怪しい気配はないけどね。
その後幾つかの引継ぎ事項や伝言を伝えると、シノビバチは何かを思い出したかのように聞いてくる。
「お住まいはどうするおつもりで? なんなら、ご用意いたしましょうか?」
「ショッカーで準備するわけにはいかないだろう。一応はクビになった身だ。適当なセーフティハウスを使うさ。資金もそれなりにキープしてあるしな」
こんな事態を想定したわけじゃないが、ショッカーとは関係の無いセーフティハウスを幾つかキープしているし、資金もそれなりに準備していた。
少なくともすぐさま困るような事は無い。
「場所は知っているな。何かあったら伝言を放り込んでおいてくれ」
「はい」
そこまで話して、ふと伝え忘れていた事に気が付く。
どうでも良い事が2つと、重要な事が1つだ。
「ああ、それとこれはお願いなんだが……。学校の件だが」
表向きの身分だが、これに関しちゃもう戻らない物として処分しておいたほうが良いだろう。
そう考え口にしようとした俺の機先を制し、シノビバチがこう答える。
「そちらは変身能力を持つ者が代理で行く手筈が整っております」
「え? いや、そこまでしなくても……」
みな忙しいだろうし……。
休学か、最悪退学で構わないのよ?
「大丈夫です。諜報部にお任せください」
自信満々みたいだから良いけど……大丈夫か?
「それと、蛇女の事だが……絶対に家に入れないよう見張っておいてくれ、頼む」
拝み倒さんばかりの勢いで頼む俺にシノビバチは一瞬呆れるが、俺が何を危惧しているのか思い出してくれたようだ。
すぐさま真顔に戻ると、うんうんと頷きうこう返した
「それは……たしかに。見張っておきますね」
シノビバチが俺に忠誠を誓っている口なら、ミカの秘書官である蛇女はミカ個人に忠誠を誓っている口だ。
改造人間としても秘書としても非常に優秀であり、業務や護衛がいれば事が済む。
ただ、ちょっと私生活がね……。帰れるかどうかは分からないけど、帰ったらカップヤキソバとから揚げとビールの缶のゴミの山は勘弁してほしい。
「最後だ……俺がいない間、ゲルショッカーとダーク将軍には気を付けろ。ただ、間違っても深入りはするな。何か怪しい動きがあれば俺に伝えろ」
「ヨロイ一族ではなくてですか?」
「そちらはテオドラが抑えるだろうから最低限で良い。それに、当主派と元帥派の内部抗争でしばらくは動けないだろう」
表向き、系列組織と俺の関係は良い。
俺自身に大それた野心は無いし、そのようにアピールしてきた。例外はヨロイ一族くらいだが、あいつらを徹底的に叩いたのもある種のアピールでもあった。
ショッカーの英雄、ライダー殺しのアインロールドは取って代わるような野心は無い。だが、敵対した者には容赦しない。天才科学者ミカ・ウェストが生み出した最強の戦士アインロールド。
これが幹部連中の俺に対する認識だろう。基本的に俺とミカはセットなのだ。
そんな中、俺だけを執拗に陣営に取り込もうとするのがダーク将軍だった。価値だけなら所詮は一介の戦士でしかない俺よりもミカの方が高いというのにだ。
正直腹の底が読めない不気味さが奴にはある。
ただショッカーの頂点を目指しているだけなら良いが、別の何かがあるような気がしてならないのだ。
こうして、シノビバチに命令を下した俺は一人セーフティハウスへと向かう。
ほんと、クビになったかどうかは関係ない。自然と組織の人間として行動が出来てしまう。
上っ面ではショッカーなんてと考えていても、居場所を作ってしまっている。
もう、俺は骨の髄からショッカーなのだ。
クビになった時はちょっと考えてしまったが、やはり俺は仮面ライダーなどといった正義の名前は名乗れそうもない。
ざまぁ展開(対象自分)