ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話   作:さざみー

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第60話 episode・GAVV 幕間・二つ分かれてはなればなれ

「お兄ちゃん!」

 

 オーロラカーテンに飲み込まれたアインロールドに向かい必死に手を伸ばすが、ミカの指は宙を切るのみであった。

 届く位置に居なかったし、仮に届いても彼女の力では止める事など出来なかったであろう。

 

「アインロールド様?」

「そ、そんな……」

 

 あまりにも唐突で無茶な追放劇に、幹部たちの誰もが硬直する。

 

 それはそうだ。

 

 現在戦力の激減しているショッカー系列組織にとって仮面ライダーと互角に戦い、単独任務と前線指揮官の両方を器用にこなすアインロールドは貴重な戦力だ。

 それを何の弁明もなしに追放するなどありえない。

 

 そして、それ以上に重大な懸念を幹部の誰もが抱いていた。

 

 アインロールドがその気ならいつでも逃亡できる力量があり、今のショッカーに彼を追う力は無い。

 だが、彼は逃亡を選ばず、ショッカーの指揮官として辣腕を振るっている。部下や同僚からの信頼も厚く裏切らない。最悪、対立しようとも組織内のいざこざで納める度量と知恵もある。

 ある種理想的な幹部の姿だ。

 

 だが、その性根は自分達とは真逆の善意の人間であり、本質は仮面ライダーたちと同じ側の人間だ。

 

 彼が向こう側に行っていないのは偶々だ。

 幹部の誰もがそれを知っている。

 あの性格なので唐突に敵対する事は無いだろう。だが、それも時間の問題だ。いずれは正真正銘の仮面ライダーとして自分たちの前に立ちふさがる。

 

 組織内にいる限り、人類の存続という大義名分を捨てない限り、彼は頼もしい味方だ。

 だが、外に出ればいずれは最悪の敵の一人へと変わるだろう。

 ショッカースクールの子供たちや改造人間たちを見捨てられなかったように、あれは誰かを見捨てられない。

 そういう男だ。

 

 幹部達に殺気が混じる。

 当たり前だ。外様の指揮官が唐突に理不尽に味方を敵に変えたのだ。しかも、その外様は仮面ライダーディケイドだ。

 

 一騎当千の幹部たちが放つ殺気に会場外に待機していた者達が騒めくが、当の士は涼しい顔だ。

 大首領のみが座る事を許されている玉座に深く腰を掛けたまま、むしろその様子を面白そうに眺めている。

 

 そんな中で真っ先に動いたのがGOD機関を率いるヘンリーであった。

 もっとも、それは士に対する敵対ではない。態々大きな音を立て、腕を組みながら自らの席に腰を掛ける。

 

「ヘンリー殿!?」

 

 それは、士の決定を肯定するかのような行動だ。

 十面鬼ユム・キミルが咎めるような声を上げるが、彼が極めて険しい表情を崩していない様子に若干の安堵を覚える。

 

「大首領がそいつを認めた以上、従うしかない」

 

 苦々し気に言葉を選ぶヘンリーを見て、士が口元を吊り上げながらこう返す。

 

「賢明な判断だ」

「門矢士、お前のやり口に納得した訳じゃねえぞ」

 

 戦闘力など無いはずのアナリストが、周囲に息を吞ませるほどの不機嫌さで仮面ライダーと睨み合っている。

 その事実に、幹部達も毒気を抜かれ次々に自分の席に腰を掛ける。

 最後まで立っていたミカも動きを見せようとした時、士が手に持っていた何かをミカに向かって放り投げた。

 

 運動神経が悪い訳ではないミカは、士が投げてよこしたものを掴みとる。

 彼が投げたのは、ミカが一度だけ見た事がある希少物質と集積回路を組み合わせた部品であった。

 

「あんた、これをどこで!?」

 

 驚きの声を上げるミカに、士はつまらなそうにこう返す。

 

「ある爺さんからの預かり物だ。そろそろ必要になるだろうから、お前とあの小僧に渡してくれとな」

 

 ミカがその物質の能力と、この男が自分に何を作らせようとしているのかを悟り、厳しい声で詰問をしようとする。

 だが、そんな少女の話などあっさりと無視をして、士は一方的に言いたい事だけを口にした。

 

「いつまでも縋っていると、本気で走り出した奴らに振り落とされるぞ」

 

 何も知らないはずの男に言われたくない言葉だ。

 そのはずなのに、ミカは何も言い返せず沈黙するより他なかった。

 

 

※※※※※

 

 

 その後の定例会議は恙なく終わる事となる。

 やはりディケイドを警戒し、当たり障りの無い話題以外できなかったからだ。

 

「ディケイドを引き入れるだけならまだしも……。大首領は何をお考えなのだ」

「何かお考えがあるのでしょうが……」

 

 普段なら会議が終われば早々に帰る面子ではあるのだが、この日ばかりは衝撃の多さに廊下での雑談を余儀なくされた。

 

 切っ掛けを作ったのは大柄な南米の石像を思わせる怪人、十面鬼ユム・キミルだ。

 彼は立ち止まると、横を歩いていた鎧姿の女性テオドラと、髑髏の頭部を持つ人型の虫ブラックサタンにこう問いかける。

 

「私は貴殿たちほどアインロールド殿とそれほど付き合いがある訳では無いが……。彼はどう動くと思う?」

「積極的に敵対はしてこないでしょう。ですが、作戦内容によっていずれは……」

 

 十面鬼の問いかけに、テオドラが言葉を選びながらこう返した。

 

 テオドラとてデストロンの指揮官だ。

 世界征服への作戦の陣頭指揮に立つこともある。人類にダメージを残すような作戦は好まないが、逆に言えば必要となれば手を染める。

 どう考えても、いずれは彼と戦場で相まみえる事になる可能性が高い。

 その時、自分はどうするのか。指揮官として、少女としてテオドラが思い悩む。

 

「消すべきか?」

 

 一方の十面鬼の判断は組織の長としては間違っていない。

 この先強大な敵として立ちふさがる可能性があるのなら、先回りをして消してしまうというのもあながち間違った判断ではない。

 そんな中、二人の話を聞いていたブラックサタンがぽつりと呟く。

 

「今のところ割に合わないな。なにより、我が子との接触を禁じられたわけでは無い」 

 

 無論、ブラックサタンの言い分は子供の屁理屈に近い。普通に考えれば態々言葉にしないだけで、常識的に考えれば追放処分となった者への接触は反逆行為と取られても仕方がない行為である。

 だが、同時に組織壊滅前には大幹部の教えを受け、互角の戦いを演じてみせたアインロールドを刺激する事は極めて危険な行為とも言えた。

 

「我は時機を見て我が子との接触をするつもりだ」

 

 その骸骨の暗い目の中で何を考えているのかは誰にもわからない。

 だが、この状況をある種の奇貨とし最大の利益を得る気がブラックサタンにはあった。

 

 

※※※※※

 

 

「ああああああっ、くっそう、腹が、背中が痛てぇええええ!」

 

 アジトとしている廃屋の一室でアナグマのグラニュートは人の姿に擬態し、腹を押さえゴロゴロと転がりまわる。

 元々頑丈なグラニュートだ。アインロールドやガヴから受けたダメージはすでに問題が無いレベルまで回復をしている。

 だからといっても傷が痛いものは痛い。

 さらに言えば、もう一つグラニュートには悩みの種があった。

 

「くそう、慌てて逃げたからヒトプレスを全部置いて来ちまった」

 

 ここしばらくの稼ぎを全部置いて逃げざるを得なかった。

 おかげで手元には納品できるヒトプレスは一枚も無い。

 アジトに置いておいて他のバイトに盗まれることを警戒して常に持ち歩いていたのだが、それが裏目に出た形だ。

 

「今からでも狩りに行くか? でも、あいつらがうろついているだろうし……」

 

 狩場が見つかった以上、グラニュートハンターたちが周辺をうろついている可能性は高い。

 今から再度狩りに行くのは発見される危険が高い。

 だが、納期まで時間はもうない。

 

「今回は闇菓子をあきらめる? 無い無い無い無い! それはありえない!」

 

 あの魅惑の味をあきらめるなど、あってはならない。何としても納期までに質の良いヒトプレスをできるだけ多く用意しなければ……。

 焦る感情を抑えようと、グラニュートは一人声を出して考えをまとめようとする。

 

「別の狩場まで移動するか。いや、良い狩場を探すには時間がかかる。やはり近場で狩るか。とにかく数だ、質の良いヒトプレスの数がいる。でなきゃ闇菓子が手に入らねぇ」

 

 質の悪い闇菓子を一つ二つ渡されても味わいが悪い。

 あの蕩けるような質の良い闇菓子を一度でも味わってしまえばもう戻れない。

 やはり近場で、人気が無くそれでいて人の集まる場所の傍。それが自分の考える最高の狩りポイントだ。

 

 必死に考えるグラニュートであったが、不意に彼の背後からこんな声が響く。

 

「この本によれば、闇菓子によるグラニュート界の掌握を狙うランゴ・ストマックは、原料である人間を誘拐するために闇菓子に魅入られたグラニュートたちを人間界に送り込んだという」

「だ、誰だ!?」

 

 このアジトには誰も居なかったはず!? 唐突な声に驚きながら、グラニュートは慌てて振り向く。

 そこにいたのは一人の人間であった。

 長い髪に白いスーツの細身の男性、手には古めかしい一冊の本を持っている。

 

「初めまして。私の名はウォズ、君の悩みを解決しにやって来たものだ」

「何を言っていやがる!? 食らいやがれ!」

 

 相手は人間。そう悟ったグラニュートは服をたくし上げると咄嗟に腹の口から舌を伸ばす。

 ある意味正しい判断だ。人間相手なら回避されない限り、その一発で相手をヒトプレスにして無力化できる。

 だが、それは常人に限っての話だ。

 

 グラニュートの放った舌は灰ウォズには届かず、それどころか彼が片腕を突き出すと、その瞬間にグラニュートの動きは時間を完全に止められてしまう。

 な、何が? そう考える事は出来るが、指一本動かす事は出来ない。

 

「やれやれ。人の話は最後まで聞くようご両親から教わらなかったのかね? それとも、グラニュートの常識は違うのかな?」

 

 灰ウォズはグラニュートの舌を払いのけると、無造作に近づいていく。

 さらに、手に持っていた本を閉じて小脇に抱えると、逆の手で懐から懐中時計のような道具を取り出した。

 

「意識だけは動くよう調整したので、私の声は聞こえているね? 私は君に良い取引を持ち掛けに来たのだよ」

 

 相手の時間を止めておいて取引もへったくれも無いものだが、そんな事は灰ウォズはお構いなしだ。

 そもそも、彼にグラニュートの意志を尊重する気など欠片も無い。

 

「手持ちのヒトプレスをすべて無くし、闇菓子の入手手段を失った君にヒトプレスを好きなだけ手に入れる手段を贈呈しようではないか」

 

 その言葉と共に、手に持った懐中時計のような道具の縁のダイヤルを回す。

 道具に刻まれた絵柄が、紫の顔の乱杭歯の怪人へと切り替わる。

 その道具の名前はアナザーウォッチ。歪めた歴史の力を宿す、神秘の時計だ。

 

【GAVV!】

 

 闇菓子に纏わる幾多の悲劇を終わらせる若者の、もう一つの名前をアナザーウォッチが謳う。

 悲劇を終わらせる事が仮面ライダーの使命であるのならば、アナザーウォッチに宿った歴史は……。

 

 そう、アナザーライダーの歴史は悲劇が終わらなかった歴史そのものだ。

 

「うぉおおおおおおおおおおっ!」

 

 グラニュートの肉体にこれまでにない力が流れ込む。

 頑丈なグラニュートゆえだろう。人間では耐えられないほどの歴史が流れ込み、グラニュートの肉体を大きく、禍々しく改造していく。

 肉体は巨大な球体状に膨れ上がり、肉体を食い破り全身のいたるところに巨大な口が浮かび上がる。

 

 もはやグラニュートですらない異形の怪物を前に、灰ウォズは高らかに笑う。

 

「さあ、街に出て破壊の限りを尽くしてくれ。君は大好きな闇菓子を好きなだけ貪り食い世界を破壊する。私はアインロールドの力を測る。実にウィン=ウィンな関係だ」

 

 歪に膨れ上がり姿を変えていくグラニュートを嘲笑いながら、灰ウォズは身勝手な契約を口にするのであった。




おのれジオウ! 昭和や令和が平成に侵されてしまった!(マテ
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