ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
「うわっと、すいません」
あまり人通りの無い住宅地の道路だったとはいえ、資料を読みながら歩いたのは失敗だった。十字路にて出会い頭にぶつかりそうになった学生たちに、辛木田絆斗はぺこりと頭を下げる。
その声に自転車で道行く人や、散歩中の老人が一斉に振り向くが、これは仕方がない事だろう。
一方、おしゃべりの中断を余儀なくされた中高生だろう子供たちは、一瞬不快そうに絆斗を見てこう言った。
「気を付けなよ、おじさん」
「おじ……」
学生たちの言葉に絆斗はショックを受けるが、23歳は中高生からしてみればおじさん扱いである。
茶色い髪にそれなりの長身、情緒が顔に出るまだまだ若い青年なのだが、柄シャツにサングラスという服装がいけなかった。こざっぱりとしており身元を疑われるような服装では無いが、いかんせん年齢も分からない。
絆斗のショックはさておき、学生たちはすぐに彼の事など忘れ楽しいおしゃべりに没頭していく。
そんな彼ら彼女らを呆然と見送った絆斗だが、気を取り直すと同じ失敗をしないように手元の資料を鞄の中に仕舞うと路地を曲がり……。
ガシャン……。
不意に耳に届いたのは何か金属が転がる音。そして、死線を潜り抜けた経験からか、自分が置かれた状況に強烈な違和感を感じる。
慌てて来た道を戻った絆斗の前には、誰も存在していなかった。
そう、誰もだ。
町並みは元のままだ。
だが、そこに居て然るべき存在がどこにもいない。
先ほどの学生も、散歩をしていた老人も、子供の保育園に向かっていた母子もそこにはいなかった。
いや老人が持っていただろう杖や、無人の電動自転車は道路に残ったままだ。
ふと視線を感じ、住宅を覆う塀の上を見上げる。
そこには、ピンク色の肉のようなもので出来た細長い存在が、鎌首をもたげこちらを伺っていた。
「グラニュートか!?」
辛木田絆斗、またの名を仮面ライダーヴァレン。
人を闇菓子の材料として連れ去っていくグラニュートとの戦いに身を投じる彼が、この不可解な状況を説明が出来る存在はグラニュートだけだ。
不意打ちを狙っていたのか、絆斗に気が付かれた事を悟った舌のような存在は塀の向こうに消える。
「待ちやがれ!」
慌てて塀を乗り越え追うものの、そこに人の姿は疎かグラニュートの姿も無かった。
逃げた?
いや、舌が見えてすぐに塀を乗り越えたのだ。逃げたにしてもあまりにも早すぎる。
グラニュートは人間をアクスタ状の物体、ヒトプレスに加工して連れ去る。
ヒトプレス化は加工された本人ですら気が付かないほどの一瞬で行われるが、それを行う為にはグラニュートは自らの腹部の口を露出させ舌を出さなければならない。
人があまり通らない道とはいえ、誰一人声を出す暇もなく攫われたのだ。いったいどんな手を使ったというのだ?
せめて、手掛かりは残っていないのか。
辺りを調べはじめる絆斗の視界に、足元で動く存在に気が付く。
お菓子のパッケージを模した、小さな箱状の不思議な存在だった。
「ゴチゾウ? お前たちいたのか!? ここで何か……?」
一部の例外はあるが、ゴチゾウはショウマの生み出す眷属だ。こいつらもそうだと思い声をかける絆斗だったが、その声は自然と小さくなる。
何故なら、まずサイズがショウマのゴチゾウとは違いすぎる。
ショウマのゴチゾウは一部例外はあるものの、基本的には手のひらサイズだ。
だが、今絆斗の足元にいるゴチゾウはそれよりはるかに大きい。高さで20センチはあるだろうか。
そして何よりの違いは、そのゴチゾウのような存在たちは自らの体を開くと、せっせと内部にヒトプレスを収納していた。
「てめえら、何モンだ!? それをどうするつもりだ!?」
絆斗の声が自然と厳しい物へと変わる。
その詰問の声に、ゴチゾウのようなものの目が鋭くなり、その口を開いたかと思うと鋭い舌が飛び出してきた。
「なっ!?」
間一髪だった。
これまで幾多の戦いを潜り抜けてきた絆斗はその直感に従い身をよじる。
一瞬前まで絆斗がいた空間を鋭い舌が通り過ぎ、背後のブロック塀を容易に貫く。
あんなものを生身の人間が受けたらひとたまりも無いだろう。
絆斗の体勢が崩れた事を確認したゴチゾウの様なもの達はその身を翻すと一斉に逃亡を図る。
「あっ、お前ら! 待ちやがれ!」
早朝の河原特有のひんやりと澄んだ空気と眩い朝日を見て、その青年は日の光を片手で遮りながらぽつりと小さく呟く。
「だるっ……」
さわやかな朝に反した気だるげな雰囲気の青年の名はラキア・アマルガと言う。
180センチを優に超え190センチ近い長身に白いロングベスト、明るく染めた髪のダウナー系の若者だが、彼は人間界の出身ではない。
彼はグラニュート界生まれの青年であり、様々な経緯を経て、人間を害する闇菓子に魅入られた者達と戦う事を決意したグラニュートの青年であった。
そんな彼が早朝から河原まで出向いたのは、グラニュートの食料となる石を採取するためである。
ここ数日グラニュートの起こした事件を追う事に忙しく、備蓄が尽きかけていた。
早朝から態々河原までやってきたのは、あまり人が多い時間に石探しをしていると人間の目が煩わしいからだ。
この時間なら精々朝釣りをするごく少数の老人と、ジョギングを楽しむ者がたまに通り過ぎる程度である。
なお、近所の住民には石収集をしている長身のイケメンとして割と有名なのだが、当のラキアはそのような事は知らない。
「それじゃ、いつも通りの石を探してくれ」
お供のどっプリンゴチゾウとぷるゼリーゴチゾウに石探しを頼むと、自分も河原の石を検分する。
人間界の石もなかなかいい味をしている。そんな事をぼんやりと考えながら歩んでいると、ふと釣りをしていた老人がこちらを見ている事に気が付く。
何度も見ている顔だが、そこまで怪しい行動はとっていないはずだが?
そう思い老人を観察すると、どうやら彼は自分を見ていない事に気が付く。
自分を通り越し、背後の土手を見ているようで……。
ラキアも老人につられ土手を見るが、そこには何もない。
「うわっ、ひゃああ!?」
彼が振り向いた次の瞬間、老人が何やら悲鳴を上げる。
慌てて振り向くと、尻もちをついた老人と川の中から頭をもたげたピンク色の蛇のような存在がいた。
今にも襲われそうな老人を見て、ラキアの体が反射的に動く。
彼はその膂力で一気に距離を詰めると、老人を抱きかかえ横に飛ぶ。
それとほぼ同時に、ピンク色の蛇は一瞬前まで老人がいた場所を、彼が落とした釣り竿ごと強かに打ち付ける。
釣り竿が折れる音が河原に響く中、老人を捕まえ損ねた事を悟ったのかピンクの蛇は川面に沈み消えて行った。
「爺さん、大丈夫か?」
「あ、ああ。あ、ありがとう」
「あんなのこの辺りにいたか?」
「い、いや、知らん。は、初めて見た」
半ば呆然としながらラキアと同じ河原を見つめる老人と会話をしながら、ラキアには一つだけ思い当たる物があった。
それは、闇菓子を製造するストマック社のバイトが人間をヒトプレスにする際に伸ばす改造された舌だ。
だが、あれは人間を絡め取る関係上、射程はそこまで長くはない。身体能力に劣る人間を捕まえる為には十分な長さではあるが、姿を隠して遠方から使える道具ではなかった。
そして、この河原にグラニュートの姿はどこにもない。
「何処にいる?」
周辺を警戒するラキアの耳に、茂みをかき分け何かが動いている音が届く。
何事だ? そう思い振り返ると、そこにはこの場を去って行こうとするゴチゾウたちの姿があった。
「ショウマのゴチゾウ……じゃない?」
あれは……何かが違う。
新種の可能性もあるが、それにしてもサイズが大きすぎる。
それに、なぜ自分たちから逃げて行くような動きを見せる?
どういう事だ? あれはニエルブが新たに作ったゴチゾウなのか?
そう考える一方で、ラキアは肩の上に上がってきたぷるゼリーゴチゾウに命令を伝える。
「お前はあいつらを追え。俺も辺りを調べたらすぐに追う」
勢いよく大きなゴチゾウたちを追いかけ始めるぷるゼリーゴチゾウを見送りながら、ラキアは小声で呟いた。
「だるっ……」
どうやら、今日もゆっくりと食料探しをしている暇は無いようだ。
ラキアはいつもの口癖をつぶやきつつも、新たな事件の予兆に顔を顰めるのだった。
※※※※※
人目が無ければ頭を抱えたいほどには、ショウマさんから聞いた話は衝撃的だった。
アナグマグラニュートを取り逃がした翌日、俺はあの時お菓子をくれた仮面ライダーガヴに変身する青年、ショウマさんの話を聞いた。
実のところ人食いの化け物というのはこの世界に割といる。直接人肉を食べるのだとアマゾンや魔化魍。他にもエネルギー吸収だとか、同化するとか広義の意味で人間を捕食する怪物は色々といる。
さすがに旧式になった為に今はいないが、ショッカー系列組織にもいた筈だ。
それにしても、本当にお菓子の材料にして人を食べる種族がいたとは世界は広い。
いや、以前グラニュートと対峙した時に『人間? お菓子の材料にするんだよ!』とか言っていたが、その時は皮肉や挑発で言っている物だとばかり思っていた。まさか、文字通り菓子の材料だったとは……。
ショウマさんの話が本当なら、人間を材料とした闇菓子というのを一口食べたら多幸感を感じ、二度と止められなくなるなんて、はっきり言ってヤバい薬そのものだ。
しかも、闇菓子中毒になったグラニュートが製造元のストマック社という会社に雇われ、更なる闇菓子の材料を求め人間界に送り込まれるという。
どう考えてもそのグラニュートの人生と人間関係と幸せを粉微塵に粉砕しています。人間どころかグラニュートにとっても酷すぎる話だ。
いや、俺に他の悪党をとやかく言う資格は無いけどさ。
「いや、ありがとうございます。まさかそんな話だったとは……」
しかしこの情報どうすっか。
ショウマさんにも仲間はいるらしいが、あくまでも戦う仲間というだけで、こっちの業界に詳しいサポートをしてくれる仲間はいないのだろう。というか、誰か他のライダーや警察に伝えていれば回り回って俺の耳にも届いている。
いや、一人会っていたな、門矢士。
危機の規模としてはヤカラが薬欲しさに暴れているだけとも言えるので比較的小さいが、目的が人間という生物に絞られている為に人的被害は計り知れないぞ、これ。
あの野郎、ショウマさんにコネが無いなんて少し話せばわかるんだから、他のライダーにも話を通しておけよ。
あんにゃろうに会ったら顔面に一発入れる事を再度心に誓いつつ、俺はショウマさんに礼を述べる。
「いや、俺も仲間以外の他の仮面ライダーとちゃんと話したことは無くて……」
「聞いた話は俺から知り合いに伝えておきます」
「ありがとう、アイン」
素直にお礼の言葉を述べるショウマさんを尻目に、俺はこの情報を伝える先の事を考える。
まずは当然ショッカーだ。
誰かが接触して来たら伝えれば良いだろう。
この話を聞いたら大首領が怒り狂いそうだな。まぁ、一介の悪徳企業が入り込んでいるだけなんで、グラニュート界ごと消し飛ばせとか無茶な命令は出ないだろう、たぶん。
あとは、ライダーどもにも伝えておけばグラニュートに対して警戒をするだろう。
まずは桐矢さんにでも伝えておくか。彼に話せば支援組織の猛士を通して各方面に情報が共有される。
常磐さんもショウマさんと同じくこっちの業界には詳しくないだろうが、ウォズさんがいるので何とかなるか。知り合いも多そうだし。
火野さんと氷室さんはどうするか。向こうは俺があの時使った偽名しか知らないだろう。まぁ、政治家だしアインロールドの名前で流しておけば大丈夫か。
ついでに居場所がはっきりしているWとスーパー1も垂れ込んでおくか。
クソジジイと結城博士はそもそも連絡先を知らないので除外。
如月さんに伝えるかは割と悩む。こっちは注意喚起のつもりでも、生徒やダチの為に自分から首を突っ込んでいく姿が容易に想像できるからだ。
最後に本郷さんたちだが、伝言を送るルートは知っている。だが、その伝言をどのタイミングで見るかは完全に運次第だ。
……。
……。
……。
いつの間にかライダーの知り合いがすごい勢いで増えてないか、俺? これだけいるのにまともに戦ったの3人だけだよ?
いや、直通の連絡先を知っているのは桐矢さんだけで、後は居場所に情報を投げておくだけの、あくまで顔見知りレベルだけど。
ショッカーライダーだよな、俺? 地獄の一員だよな、俺?
「どうしたの、難しい顔をして?」
「いや、ちょっと自分の存在意義を考えてしまって」
まぁ、考えていても仕方がない。
とりあえずグラニュートの事とヒトプレスの事は聞けた。
ショウマさんが戦う事情は聞いていない。それは通りすがりの俺が聞く事では無いだろう。
「とりあえず、俺もやる事があるんでいつまでもこの町にはいられませんけど、しばらくは滞在する気なので何かあったら連絡してください」
そう言うとメモ用紙に今朝仕入れたばかりのスマホの電話番号を書き記しショウマさんに手渡す。
いつまでこの番号を使うかは不明だが、しばらくはこれで大丈夫だろう。
お互いに連絡先を交換し、喫茶店の会計を済ませようとする。
店員さんは奥の厨房にいるのかレジにはいない。呼び鈴をならしたが反応がない。
「あ、すいません。山田さん、お客さん会計待ちよ」
それを見て、客の注文を聞いていた他の店員が戻ってくると奥の厨房を覗き込む。
俺とショウマさんも自然とつられてそちらを見る。
次の瞬間、俺とショウマさんは一斉に動いた。
「危ない!」
「えっ!? きゃっ!?」
俺はその店員さんの腕を掴むと引き寄せながらその場から飛ぶ。
その次の瞬間、店員さんがいた空間を何かが通り過ぎた。
「えっ!? このぉ!!」
ショウマさんはその何かに対して一瞬は驚くものの、すぐにカウンターにあった金属製のトレーを掴むと流れるような動作で投擲しぶつける。
高速で回転したトレーはその何かにぶつかると、大きな金属音を立ててひしゃげる。
いや、正確な投擲な上に威力がすごい。腹に何かがくっついていたし、この人も改造人間か何かか?
俺が投擲の威力に驚いている一方で、当のショウマさんは俺とは別の事に驚いていた。
「え? ゴチゾウ!? でも俺の知らないゴチゾウ!?」
ゴチゾウは、確かショウマさんが変身の時に使うデバイスの名前か。自立行動するんだっけか?
確かにトレーとぶつかり目を回し倒れているのは、先ほどショウマさんが一つだけ見せてくれたゴチゾウによく似ている。
だが、ショウマさんのゴチゾウよりはるかに大きい。ちょっとしたお菓子の缶ぐらいのサイズがあった。
「キャー!」
俺たち二人に気が付かれ形勢不利と悟ったのか、ビッグサイズのゴチゾウたちが一斉に物陰から飛び出し喫茶店の入り口に向かう。
いつの間に忍び込んでいたのか、戸棚や椅子の影、更には冷蔵庫の裏などあちらこちらから飛び出してくる。
「ちょ!?」
「えっ!? なに、これっ!?」
驚きの声を上げる俺達であったが、奴らの一体が咥えていた物を見て表情が引き締まる。
そりゃそうだ、あのビックサイズゴチゾウたちが持っていたのは、恐らくは此処にいた店員さんだろうヒトプレスだった。
「ショウマさん!」
「うん、俺も見た!」
だが、どうやってヒトプレス化をしたんだ?
一応はグラニュートが行う人間のヒトプレス化プロセスは聞いている。腹部の口から延ばした舌で絡める事により、人間を変化させるそうだ。
だが、店の奥は物置に毛が生えたような構造で、グラニュートが逃げるような出入り口は無い。
「追わないと! アイン、ここはお願い!」
「あ、ショウマさん! くそっ!?」
ショウマさんがビッグサイズゴチゾウを追いかけて行くのを横目で見ながら周囲の確認をする。
侵入経路は分からないな。まぁ、ビッグサイズとはいえ小さい事は小さいあのゴチゾウたちがどこから入り込んだのか分からないのは仕方がない。
グラニュートはやはりいない。変身前とは言え、俺のセンサーを長時間誤魔化しきれるとも思えないので本当にいないのか。
「店員さん! 釣りはいらない、取っておいてくれ!」
「えっ!? あっ!? えっ!?」
尻餅をつき呆然としている店員さんに1万円札を押し付けると、ショウマさんの後を追う事にする。
もっとも、よほど健脚なのか彼の姿はどこにも見えない。
なら……。
「サイクロンヘル!」
俺の呼びかけに応え、どこからともなく俺の愛車が音を立てて姿を現す。
やっぱり勝手に来てたか。頼もしい相棒に跨りながら指示を出す。
「さっき飛び出していったショウマさんは追っているな。向かうぞ!」
サイクロンヘルのメーターの上に付いている、一見すると小型の液晶モニターにしか見えない画面が輝きこの町の地図を映し出す。
この赤い光点がショウマさんか。かなりの速度で走っている……このままだと自然公園に行くな。
「偵察用のドローンを全機射出。一応グラニュートがいないか監視を。警察は呼ぶわけにはいかないな」
あれがグラニュートの仕業なら、警官を向かわせるのは危険だろう。ショッカーの連中ならまだしも、生身の警官など餌をくれてやるようなものだ。
バージョンアップを繰り返し魔法にすら耐性を持つ現在のG3ユニットなら対抗できるかもしれないが、数があるわけじゃないから期待はできない。
結局、俺かショウマさんがあれのグラニュートを見つけ出し、倒すしかないのだ。
俺がショウマさんに追いついたのは、自然公園であった。
さすがに街中をフルで飛ばしていたわけじゃないが、それでも変身していない状態でバイクで追いつけないってこの人何者よ?
やはり改造人間か何かか?
まぁ、彼の正体を勘ぐっている場合でもない。
追いついて早々だが、この事件の黒幕とご対面と相成ったわけだ。
ビッグサイズゴチゾウたちが逃げ込んだ公園の中央には、態々昨日のアナグマグラニュートが待ち構えていた。
奴の周りでビッグサイズゴチゾウたちが飛び回っているところを見ると、あれを操っているという事なのだろう。
「くわー、昨日のグラニュートハンターかよ! ほんとついていねぇぜ!」
いや、嘘だろう。明らかに俺たちを誘いこんだだろう。待ち構えていたよな。
わざとらしくお道化ている姿は、明らかに新たに得ただろう力に酔っている姿であった。
「俺たちを誘い込んで、昨日の仕返しってわけか?」
「貴様らに関わりたくは無かったが、安心できる狩場とお前らの首に掛かった特別ボーナスも欲しかったんでな」
舌なめずりをしながら俺たちを見つめるやつの目に、昨晩敗走したとは思えない自信の輝きが灯っている。
一晩で自信を持つほどの何かを手に入れたか。
「その大きなゴチゾウ、どこで手に入れた?」
俺の隣から、横で聞いていてゾッとするほどの低い声が響く。
声の主はもちろんショウマさんだ。先ほど喫茶店で話していたときのぽよぽよっぷりはどこにも無い。
俺の様に特に演じているわけでは無い、二面性がショウマさんにはあった。
「教えると思っているのかぁ!? いや、教えても無駄だろう、この場でお前らは死ぬんだからなぁ!」
そう叫ぶと、アナグマグラニュートは何か円盤状の機械を取り出す。
いや、すごく見覚えがあるというか、先日見たばかりというか……。
グラニュートは鉤爪の付いた手を器用に動かし、その紫の懐中時計ッぽい機械のダイヤルとボタンを操作する。
懐中時計……いや、もういいや。アナザーウォッチに紫の顔の怪人が映し出され、起動音が響き分かる。
【GAVV!】
うわああああ、やっぱガヴのアナザーウォッチじゃねえか!
ガヴのアナザーウォッチがグラニュートの肉体に吸収されていく。
それと同時にグラニュートの肉体が大きく、歪に変化していく。
2メートル近かった身長は3メートル近くに伸び、肉体も相応しい厚みに膨れ上がる。腹の口は一回り巨大に、さらに両肩と膝にも口が生まれていた。
両手両足の鉤爪はさらに大きくなり、全身を紫色の軟質の甲冑が包んでいく。ガヴの頭にも似た、妙な紋様の頭部。
あれがアナザーガヴの姿か……。
「ごめん、ショウマさん。あれの出所分かったわ」
「え? 知っているの?」
「終わったら説明する」
まずあれの出所は加古川飛流と灰ウォズ、光の創生者だろう。
どういう繋がりかは分からないが、敗走後に接触したのは間違いない。
俺はベルトを出現させ腰に手を当てる。暴走モードは……まだ引き籠っているか。
ショウマさんも服のジッパーを勢いよく開くと、ゴチゾウをガヴにセットしてハンドルを回す。
「イートグミ! イートグミ!」
ガヴに収まったゴチゾウの声が周囲に響き、ショウマさんの瞳が紫の怪しい光を灯す。
俺とショウマさんは、同時に最後のキーワードを口にした。
「変身!」
「変身!」
全身のナノマシンが活性化し、空間に生成された黒い強化戦闘服が俺の身体を覆っていく。
赤い複眼のヘルメットが頭部に装着され強い光を放つ。
首に巻かれた赤いマフラーが風にたなびき、俺の姿はアインロールドへと変わる。
ショウマさんの周囲を七色のグミが吹き荒れる。
グミはショウマさんの肉体に触れると、彼の肉体に溶け込むよう紫と黄色のグラデーション鎧を形成していく。
頭部を覆う黄色い複眼が鈍く輝き、ショウマさんの姿が仮面ライダーガヴへと変わる。
「ポッピングミ! ジューシー!」
再びまみえる二人のライダー。昨晩の無様な敗走があるのにもかかわらず、アナザーガヴのふてぶてしい態度は変わらない。
むしろ、凶暴な含み笑いを漏らしている。
「昨晩奪われたヒトプレスの借りを返してやるぜ」
「人間はお前らの物じゃない!」
奴の言葉に対する返答は、ショウマさんの怒りと闘志だった。
戦いの準備はすでに整った。ならば、もう衝突するのみ。
火ぶたを切ったのは、アナザーガヴの周囲を飛び回るビッグサイズゴチゾウであった。
奴らは口を一斉に開くと、その中から鋭い舌を勢い良く伸ばしてくる。
これは、先ほど話に聞いたグラニュートの舌か?
喫茶店の店員さんをヒトプレスにしたのはビッグサイズゴチゾウだったという訳か!
俺とガヴは槍の様に鋭い舌をバックステップで躱す。
寸前まで俺たちがいた場所の舗装された地面が、舌の直撃を受けて音を立てて砕け散る。
なんつー威力だよ!
身をかわした俺たちを追いかけ、別のビッグサイズゴチゾウが迫りくる。
その大きく開かれた口には鋭い乱杭歯が並んでいる。
舌の攻撃力から考えて、噛みつかれれば相応のダメージがあるだろう。
「でやぁ!」
とはいえ、噛みつかれたらの話だ。
その動きは俺達からしてみればそこまで速いわけでは無い。
ガヴはビッグサイズゴチゾウをワンステップで躱すと、その横っ面に拳の一発を叩きこむ。
それだけで身体の軽いビッグサイズゴチゾウは勢いよく飛んでいき、公園のオブジェにぶつかり爆発して消滅した。
「ライダーチョップ」
そして俺はといえば、回避行動すらとらず手刀を横に振る。
赤いエネルギーに包まれたチョップを食らったビッグサイズゴチゾウは一瞬だけ空中で停止をすると、次の瞬間爆発を引き起こす。
俺たちの攻撃に手下であるビッグサイズゴチゾウが一瞬で消えたというのに、アナザーガヴは余裕の態度を崩していない。
それもそのはずだ。奴が言い放った次の言葉は、俺たち二人を硬直させるには十分な威力を持っていたからだ。
「あーあ、爆発させちまった。いいのかぁ、そいつらは狩ったヒトプレスを中に入れているんだぜぇ!」
「なっ!?」
「そ、そんな!?」
そう、あの店員をヒトプレスにして誘拐したのはビッグサイズゴチゾウだった。
その体内に、まだヒトプレスがあるというのなら、迂闊な攻撃は出来ない!?
俺とガヴが絶句する中、アナザーガヴの耳障りな哄笑が公園に響き渡った。
ニエルブ「何もやっていないのに疑われた、訴訟。でも、そのアナザーウォッチとやらは興味を惹かれるね……」
ガヴって平成以降のライダーとしては珍しく、組織とは無縁のライダーなんですよね……。
なので、本作ではショウマたちでグラニュート関連の情報は止まっており、詳しい情報はほぼ出回っていないという設定にさせていただきました。(酸賀さんあたりから聞いた一部のマッド仲間が個人的に知っているぐらい)
Vシネで実はになったらどうしよう……(ガクブル
ちなみに、前回のアンケートでギーツが選ばれていた場合、ライダーバトル編となっていました。
ちょっと早いけど次のライダーは……。
-
天の道を往き、総てを司る男
-
ひとっ走り付き合えよ