ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
「あーあ、爆発させちまった。いいのかぁ、そいつらは狩ったヒトプレスを中に入れているんだぜぇ!」
最悪の言葉をアナザーガヴは口にする。
「ブラフだ。ヒトプレスの破片は混じっていない」
「どうかな、だったら全部攻撃してみな。さぞかしスプラッターで芸術的な場面が見られるぜぇ!」
「くっ!」
普通に考えればブラフだ。
グラニュートが人間界にやってくる理由はヒトプレスを集め闇菓子と交換するためだ。闇菓子欲しさに自分たちの世界から飛び出してまでやってきている連中が、わざわざ交換材料であるヒトプレスを失いかねない真似をする筈がない。
だが、同時にガヴを倒し安全な人間狩りを優先させるのならば、多少の損失を受け入れる可能性も十分にある。
まぁ、この手の小賢しい悪党の思考は慣れている。
おそらくはすべてのビッグサイズゴチゾウにヒトプレスを預けているわけではないだろう。だが、俺たちはビッグサイズゴチゾウがヒトプレスを運んでいる場面を目撃している。
数枚は持たせている可能性が高い。
そして、その可能性だけで俺はともかくガヴはビッグサイズゴチゾウを攻撃できなくなる。
「さあ、どんどんいくぜぇ!」
アナザーガヴの五つの口が一斉に光ると、口の中からビッグサイズゴチゾウが次々に姿を現す。
予想はしていたけど、やっぱ量産可能か!
ビッグサイズゴチゾウが一斉に動き出す。その腹部の大口を開けると、一斉に舌を伸ばし俺たちに襲い掛かる。
岩をも砕く槍のような鋭い舌の先だ。俺の装甲といえどもまともに当たればかなりのダメージを負う。
後方に下がりながら襲い来る舌の槍を回避し続けていると、側面から回り込んだビッグサイズゴチゾウが牙を剥きだし襲い掛かってきた。
くそっ! 動きそのものはそこまで速くない。だが、とにかく数がいるうえヒトプレスを持っている可能性がある為、倒せないのがうっとおしい。
しかたない。掴んでサイクロンヘルのウィンチで縛るか、それともどこか遠くにぶん投げるか。
そう考えて、ビッグサイズゴチゾウを掴んだその瞬間だった。
掴んだビッグサイズゴチゾウが一瞬まばゆい光を放ったかと思うと、次の瞬間轟音を立て爆発を起こす。
これは流石に予想外だった。
ビッグサイズゴチゾウを掴んでいた俺は回避する事も出来ず、吹き飛ばされ地面に転がる。
「アイン!」
「大丈夫だ、この程度!」
剣でビッグサイズゴチゾウの攻撃を捌いていたガヴの声に、俺はすぐさま立ち上がりながら答える。
実際、爆発の規模的には大したものではない。何発も同時に食らったならまだしも、数回程度なら防御力とナノマシンの回復の許容範囲内に収まっている。
だが、舌の槍に噛みつき、それに爆発。しかもこちらから攻撃が出来ないときている。
厄介な事この上ない敵だ。
「ひゃっはっはっはっは、こいつは気持ちいいぜ! 上流階級の眷属もこんな感じなのかねぇ!」
俺が吹き飛んだことに気を良くしたのか、アナザーガヴはさらなるビッグサイズゴチゾウを生み出しこちらに向かわせてくる。
爆発があるなら、徒手空拳である俺は受けることすら危険だ。
後方に下がりながら、ビッグサイズゴチゾウの突撃をやり過ごす。
「だったら、これで!」
そう言ってガヴが取り出したのは、円錐に水色のボール……、コーンに乗ったアイスクリームのような形状のゴチゾウであった。
彼はそのゴチゾウをベルトにセットしてハンドルを回す。コーンのようなパーツが開き、風車のような形になる。
その回転に合わせ、ゴチゾウが独特な声を上げる。
「アイス!」
「イートアーイス!」
「変身!」
「いやぁ〜あ〜!」
アイスのような……いや、コーンに乗ったアイスそのものとしか言いようのないよくわからない物が何本も周りを囲い、白い冷気をガヴに吹き付ける。
それと同時に姿が大きく変わっていく。スーツの装飾がすべて剥がれ、複眼も青い物と変わる。
宙に浮いていたアイスの様なものがガヴに吸い込まれ、ヨロイを形成していく。
「ブリザードソルベ! ヒエヒエ!」
紫のライダーは爽やかな青いボディースーツと金色の装飾が施された戦士へと姿へと変化を遂げた。
なんか実に独特な変身システムだが、ライダーのシステムなんて大体そんなものだ。
ブリザードソルベガヴは白い外観に赤いアクセントの槍を取り出すと、その先端をビッグサイズゴチゾウたちに向ける。
槍から何かが噴き出すと、白い頭部に槍を持った兵士が唐突に出現した。
ほんと、独特なシステムだな、ガヴ……。
それはともかくとして、ガヴが生み出した兵隊の一体が槍で攻撃を受け流しながら、もう一体の相方が素手でビッグサイズゴチゾウを抑え込む。
下手に槍で突き刺すと爆発しそうだから仕方が無いのか。
「ありがとう! これで!」
抑え込まれたビッグサイズゴチゾウにガウが槍を叩きこむ。
もっとも、それは打撃ではない。槍の先端に触れた途端にゴチゾウたちが次々に凍り付いていく。
そう、足止めと爆発阻止のために凍りつかせたのだ!
ガヴの氷結攻撃に巻き込まれ、あたり一帯の地面も氷が広がっていく。
滑りやすいのだろう、ビッグサイズゴチゾウたちの動きが鈍る。
丁度いい!
氷の道は慣れている。
凍りついたビッグサイズゴチゾウを蹴り砕かぬよう走る。
アナザーガヴの性能がどの程度かは分からないが、今一番厄介なのはビッグサイズゴチゾウとの連携だ。
投げ飛ばして連携を絶つ、それがまず第一だ。
そう考え奴の傍に立ったその瞬間だった。
俺の視界に、アナザーガヴの腹に収まっているビッグサイズゴチゾウが映る。その開いた口の中に納まっているのは、恐怖の表情を浮かべる一枚のヒトプレスだ。
思わず俺は動きを止めてしまう。
アナザーガヴはその隙を見逃さない。唐突に表れた俺にその両腕の鋭い鉤爪を振るう。
その鋭さとパワーに、火花を飛び散らしながらガウの傍まで吹き飛ばされた。
「アイン!」
「この程度は問題ない。それよりも、あいつの腹の中にゴチゾウとヒトプレスを確認した」
「やっぱり仕込んでいたの!?」
「ひゃっはっはっはっは、質の悪いヒトプレスの有効活用だよ! しかしあいつの言う通りだったわ、ここまで効果的とはねぇ……。ボーナスはいただきだな」
舌舐めずりをしながら、アナザーガヴが迫りくる。
さらに、これ見よがしに脇に控えさせたビッグサイズゴチゾウの口を開かせると、中のヒトプレスを見せつけてくる。
口の中を確認する。自分からヒントを寄こしてくれたのはありがたいが、次々に生み出されるビッグサイズゴチゾウの口の中をいちいち確認する余裕はあるかどうかも疑問だ……。
ガヴの氷結能力でビッグサイズゴチゾウを凍らせるくらいしか現状では有効な手段がない。しかも、自爆能力ありではいずれ対策されてしまう。
攻めあぐねる俺たちに、アナザーガヴが調子に乗った猛攻を繰り返す。
俺が前に出てビッグサイズゴチゾウを受け流しつつ、ガヴが片っ端から凍り付かせているが、それでも噛みつき、舌の槍、そして自爆の三段攻撃とヒトプレスという人質にさすがの俺たちも攻めあぐねる。
そんな中、戦場に異変が起こる。
ガヴのベルトの中心に装着されていたブリザードソルベエゴチゾウが、唐突に溶けて消えてしまう。
「しまった!?」
ショウマさんの表情に驚きと焦りが浮かぶ。
時間制限ありかよ、それ! いや、あの凍結能力なら仕方がないのか? 俺の知っている氷結能力持ちも、大規模攻撃をするには準備が必要という弱点があるし。
「いまだ、お前らいけぇ!」
好機と見たアナザーガヴがビッグサイズゴチゾウに突撃命令を下す。
10を超えるビッグサイズゴチゾウの群れが一斉にショウマさんに向かい迫りくる。
「くそっ! 下がれ!」
ショウマさんを後ろにつき飛ばしつつ、俺は盾になるべく前に出る。
無数の槍が、牙が俺に一斉に襲い掛かる。
だが、そんな無数の攻撃以上に、俺を驚愕させたのは正面から迫りくる一体のビッグサイズゴチゾウだ。
牙をむき出しに迫りくるそのビッグサイズゴチゾウの口の中にはヒトプレスが隠されていた。
あのやろう、確実に俺たちを仕留めるために逃げられないようヒトプレス入りを混ぜやがったな!?
俺はセンサーアイを最大限に稼働させる。
迫りくるビッグサイズゴチゾウでヒトプレスを抱えているのは正面の一体のみ。舌の槍を繰り出しているゴチゾウはヒトプレスを持っていない。
なら……。
右の拳にエネルギーを収束させる。
精密なエネルギー操作が必要だが、もうやるしかない。
舌の槍はすべて無視。当たればいい。
いいぜ、付き合ってやるよ。
「ライダーパンチ!」
舌の槍が太ももやわき腹に突き刺さる。肩口やふくらはぎに噛みつかれる。
そんな中、俺の拳が真正面から迫ってきていたビッグサイズゴチゾウを貫く。
赤いエネルギーの奔流に貫かれたビッグサイズゴチゾウが粉々に砕け消滅する。
「ひゃはははははは! ついにやっちまったなぁ! 止めだ!」
貫き、噛みついていたビッグサイズゴチゾウたちが一斉に爆発する。
轟音と共に、俺の視界を爆炎が覆う。
「アイン!」
ショウマの叫び声が響く。
まったく、本当に不甲斐ない。
俺はオレに変わる。
「まったく、何をやっているのだ」
最新最高の肉体を持ちながら、この程度の状況に躊躇するとは情けない。
ショッカーの戦士として自覚が無いから、破壊者ごときに後れを取るのだ。しかも、あのような席で追放劇など……腹立たしい。
オレは右手の中で傷一つなく無事なヒトプレスを見ながら、呆れ半分に呟く。
まったく、毎度毎度反吐が出る甘さだ。あの程度の攻撃など、全てカウンターで砕けただろうに、あえて全てを受けたのだ。このヒトプレスを自身のエネルギーフィールドで覆い、無事に摘出する為に全神経を集中させたのだ。
自身が傷ついてまでする事か、愚かとしか言いようがない。
オレは手の中のヒトプレスをどうするかと考える。
握りつぶしても良かったのだが、特に意味のない破壊をするのも面倒くさい。
結局、適当に後ろに投げ捨てる。
「アイン、大丈夫!? って、うわっとっと!?」
ショウマがキャッチしたようだが、どうでもいい。
仮面ライダーではあるが、ガヴは俺の記憶に無い存在だ。仮面ライダーなんぞ掃いて捨てるほど存在している世界だ。スーパー1やフォーゼのようにショッカーに敵対した過去があるわけでもない。
そもそも、既にショッカーから追放された身だ。
異世界からの侵略者が目の前にいる以上、後回しでも問題ないだろう。
「それを持って失せろ。遊びは終わりだ」
「ちっ、無事だったか! だが、そんな身体で何が出来る!」
オレの無事にイラついたのか、アナザーガヴが再度ビッグサイズゴチゾウを突撃させてくる。
その数は10。まったく舐められたものだ。
「侮るな」
まずは汚らしい舌を伸ばしてきたビッグサイズゴチゾウの懐に迫ると、そのままパンチを繰り出す。
大したエネルギーなど込めていないただのパンチで、ビッグサイズゴチゾウたちは吹き飛び爆散する。
「なっ!?」
さらに噛みついて来たゴチゾウたち両手で掴み、瞬時に握りつぶす。
「イッ!? ヒャアアアア!?」
腕の中で爆発するものの、1体2体程度ならオレが纏うエネルギーフィールドで十分に抑え込める威力だ。
爆発で汚れた手を軽く振り払いながら、残りのビッグサイズゴチゾウたちに回し蹴りをくらわす。
その衝撃に次々とビッグサイズゴチゾウたちは爆散し、宙に消えていった。
「て、てめぇ!?」
「ヒトプレスによる人質作戦だと。下らん、実に下らん。先ほどまでの甘ちゃんの俺ならともかく、今のオレにその程度の奸計が通用すると思うな」
大首領が御意向は人類の存続。個々の人命など、人類存続の前の些事に過ぎない。
異次元からの侵略者を相手にするなら、少々の犠牲など気にしている場合ではない。
大事の前の小事に気を回し過ぎだ。
「異世界人、その薄汚い命をショッカーに捧げてもらおう」
「ふ、ふざけるなぁ!」
馬鹿の一つ覚えにビッグサイズゴチゾウどもをけしかけてくるが、こいつらではオレの相手にならない事が理解できないらしい。
飛び掛かってくる有象無象を拳と蹴りの一撃で葬りながら、俺はゆっくりと前進を続ける。
加速はギリギリまで使わない。ガヴのアナザーと考えれば、何らかの隠し技の一つや二つは持ち合わせている可能性があるからだ。
「ヒ、ヒトプレスが、どうなっても良いのか?」
「センスの無い命乞いだな」
数だけは多いビッグサイズゴチゾウを砕きつつ進む。
アナザーガヴが次々にビッグサイズゴチゾウを生み出すが、本当に無駄だという事を理解して……。
「やめるんだ! アイン!」
ビッグサイズゴチゾウを砕こうと振り上げた拳を止めていたのはいつの間にか紫の姿に変身していたガヴであった。
まったく、せっかく慈悲を見せて失せろと言ってやったというのに、何を考えている。
「何のつもりだ?」
「やめるんだ、アイン。よく見て、ヒトプレスが入っている!」
その言葉に今破壊しようとしたビッグサイズゴチゾウを見てみると、確かに口の中にヒトプレスが入っている。
なるほど。人々の自由と平和を守る仮面ライダーらしい甘ったるさだ。
反吐が出る。
「確かにな。だから、どうした?」
「なっ!?」
ガヴの腕を振り払うと、そのまま奴の顔面に拳を叩きこむ。
オレから攻撃を受けるとは思わなかったのだろう。大した受け身も出来ずに吹き飛び転がる。
「勘違いするな。オレは貴様ら仮面ライダーのような甘ったれとは違う」
「何を……」
「オレはこの世界を我が物とし、人類を永遠に存続させる存在だ」
オレの存在意義を聞き、ガヴが驚きのあまり動きを止める。
「あの異世界からのゴミは俺が処分しよう。立ち去らなければ貴様もあのゴミと共に消す。これが最後の警告だ」
「ヒトプレスは……。捕まった人をどうする気だ?」
「諦めろ」
一人二人の犠牲など些細な事だ。それに助ける義理が無い。
そう言い放つオレに、ガヴは立ち上がると構えを取る。所詮は仮面ライダーと言う事か。
オレは半ば呆れながら奴に対する処分も宣言する。
「去らないか。ならば覚悟してもらおう」
「ははっ! ここにきて仲間割れかよ! いいぜ、まとめて死にやがれ!」
オレとガヴの問答を見て好機と見たアナザーガヴが、馬鹿の一つ覚えにビッグサイズゴチゾウを差し向けてくる。
もっとも、流石にオレ相手に接近戦はまずいと考えたのか、馬鹿のように大口を開けたビッグサイズゴチゾウたちが舌の槍を繰り出してくる。
飽和攻撃で足止めをする気なのだろうが、オレ相手には甘すぎる作戦だ。
「下らん」
僅かに身を反らして舌の槍をすべて避ける。
威力はさておき、舌の槍は速度が遅すぎだ。近接と組み合わせればそれなりに脅威だが、舌の槍だけならさほど脅威ではない。
その内一体の舌をつかみ取ると、力任せに引っ張り手元に手繰り寄せた。
「!?!?!?!?」
自らの身に何が起きたのか理解できていないのだろう。
オレは大きく振りかぶると、目を白黒させるビッグサイズゴチゾウをゴチゾウの群れの中に投げ込む。
「!?!?!?!?」
悲鳴にならない悲鳴を上げながらビッグサイズゴチゾウは同族に勢いよくぶつかると、数体を巻き込み爆発を起こした。
辺りにビッグサイズゴチゾウと地面の破片が飛び散る中、俺は大地を蹴ってアナザーガヴの懐に入り込む。
「このチビスケがぁ!」
「ウドの大木が何を言う」
アナザーガヴが怒り任せにかぎ爪を振るうが、その程度の攻撃に当たってやるオレではない。
かぎ爪を無視し腕を掴むと、力任せに投げ飛ばす。
奴の身長は3メートル近く。身長差は1メートルを超える。体重差はいかほどだろうか?
だが、その程度の差などオレのパワーの前には無きに等しい。
軽々と奴の巨体を持ち上げると、頭から真っ逆さまに地面へと叩きつけた。
鈍い音が響き、公園の舗装が砕け散る。
「ぐえっ!」
「そのご自慢の腹の口を砕いてやろう!」
赤いエネルギーが右の拳に収束する。
このまま腹の中にセットしたビッグサイズゴチゾウごと奴をぶち抜く。
「ライダー……」
「やめるんだ、アイン!」
そんなアナザーガヴをかばったのは、やはりガヴであった。オレの腕にしがみつき、パンチの動作を止める。
正確には奴の腹の中のゴチゾウ、その中に納められたヒトプレスを守ったのであろう。
まったく、余程先に死にたいらしい。
「そんなに先に死にたいのなら、貴様から地獄に送ってやろう」
アナザーガヴに叩き込もうとして集めていた拳のエネルギーを、裏拳の要領でガヴの頭部に叩き込む。
必殺の拳ほどではないにせよ、その威力は岩すら容易に砕く。
爆発音を立てて、ガヴが大きく後ろに吹き飛ぶ。
「く、くそ、くそ、くそ、あの野郎、何が『ヒトプレスを盾にすれば大丈夫ですよ』だ! フカシやがって!」
オレがガヴを攻撃したその隙に、アナザーガヴがそのかぎ爪を地面に突き刺す。
なるほど、昨晩見せた逃走術か。奴の巨体が見る見るうちに地面の中に消えて行く。さらには、凍り付いたままのビッグサイズゴチゾウを放置し他のビッグサイズゴチゾウたちも穴の中に消えて行った。
逃げ足だけは速い。その点の判断の速さは面倒だ。
まぁ、良い。次は仕留める。
そう考えながら、もう一人の処刑対象に振り向く。
もちろん、その相手はガヴである。
「さて、オレの邪魔をした貴様を生かしておく理由は無いな」
「アイン、君は……いや、お前は何者なんだ?」
ガヴの言い回しに、オレは一瞬だけ動きを止め関心する。
初めて会った時の緩さからは考えられないほど、クレバーな観察眼を持っている。
さすがは、噂になるレベルの仮面ライダーだ。
なにせ初対面のスーパー1は仕方ないにせよ、フォーゼは気が付きもしなかった。
それどころか、俺やオレすらオレの存在には気が付いていなかった。単なるシステム障害、暴走としかとらえていない。
無理もない。オレが表に出てこれたのはこれで2回目だ。
普段のオレは俺の意識の底で一体化し、変身時に暴走させる程度の残滓でしかなく、当然だがオレという人格や意識は存在していない。
だが、どうやら戦闘時のトラブルによっては俺はオレという人格を再定義できるようだ。
「オレが何者か……」
ガヴの問いかけは、ある意味俺の存在意義に関わる問いである。
もう、この肉体がオレの物となる事は無い。
生まれる前に、オレという存在は何一つなす事もなく俺の中に消えてしまった。
そんなオレは、果たして何者なのだろうか。ショッカーの栄光すらも、オレから剝奪された。
「さてな……」
もはや我が身はショッカーライダーですらない。
俺が密かに誇りとしている本郷猛から授かった数々の技は、俺の物であってオレの物ではない。
ライダー殺しの名声も俺が築いたものだ。
アインロールドの名前はもはや俺の物であってオレの物ではない。
初期起動時、微睡の時の僅かな活動期間はあったが、日本支部の愚物どもの命じるまま殺戮を繰り返したが、誉となる戦いは一度も無かった。
オレという存在を証明できるものは何一つない。
次にいつ出てこれるかはわからない。
そもそも俺自身はまだ気が付いていないだろうが、暴走の強制力自体が徐々に弱くなってきている。オレは完全に消滅しつつあるのだろう。
そして、俺とオレの記憶や知識は共有される。今この場でオレが考えている事は俺に筒抜けだ。
もしかすると、次の機会など無いのかもしれない。
その事を自覚した時、オレの中に一つの願望が生まれる。
俺には無い、オレだけの証明が欲しい。
「オレが何者か知りたければ、オレと戦えガヴ」
「一体何を言っているの!?」
一度自覚をしてしまえば、その欲求は抑えられない。
獲物は、目の前にいる。
仮面ライダーガヴ……。俺の知らない未知のライダー。まだまだ粗削りではあるが、忌わしき……いや、栄光の7人にすら届きうるだろう逸材。
「貴様に選択肢は無い」
オレにはもう機会が無い。
「勝っても負けても何も無いがな。オレの八つ当たりに付き合え」
ガヴには何の得も無い、本当に無駄な戦いだ。
そんな事はガヴも分かっているだろう。グラニュートとオレは何ら関わりが無い。
だが奴は姿勢を低くする獣のような独特の構えを取った。
「君の事は良くわからないけど、今君を見逃すのは危ない。その事だけは分かる」
「それでこそ仮面ライダーを名乗る者!」
その言葉を切っ掛けに、オレは大地を蹴る。
くだらない小手先のフェイントなどいらぬ。全力でガヴを打倒するのみ。それこそ礼儀。
これまでとは違う緑に輝く拳がガヴに襲い掛かる。
一方のガヴも、大地を蹴りこちらに迫りくる。
スピードもパワーも現状では俺が圧倒的に上。だが、ガヴはその一撃を紙一重で避ける。
それどころか、カウンター気味に入ったキックが俺の胴体に突き刺さる。
「くっ……やる!」
やはり戦い慣れている。相当な激戦を潜り抜けてきたのだろう。
一方のオレは雑魚狩りならともかく強敵との戦闘経験はスーパー1程度だ。それ以外、俺の経験や技は封じている。
その経験は俺の物であって、オレの物ではない。
オレは突き刺さったガヴの脚を掴むと、そのまま腕力任せに振り回し投げ飛ばす。
「だが! オレの装甲は抜けない!」
「うわっ!?」
力任せに、ガヴを公園の遊具に叩きつけようとする。
だが、空中で姿勢を立て直したガヴはすぐさまゴチゾウを入れ替えハンドルを回す。
「チョコダン!」
「パキパキー!」
濃い茶色の板状のパーツを組み合わせた、西部劇のガンマンを思わせる風貌。
姿を変じたガヴは両手に板チョコの様な銃を握ると、俺に向かって引き金を引く。
「まずは足を止めて削る!」
「ちぃっ!」
これまでの俺が散々肉弾戦を繰り返してきたのだ。
オレに飛び道具が無いのは察していたのだろう。
だが、飛び道具が無いだけで対処法が無いわけでは無い。
「ブーストパワー!」
弾丸を避けるため後方の街路樹の傍に降り立つ。
無論、木を盾にするためではない。そんな事をしても無駄だ。
「何をする気なんだ!?」
「こうするのさ」
そのまま木に拳を突き立てると、へし折ってしまう。
これで飛び道具は手に入れた。
「くらえ、ガヴ!」
へし折った木をそのままガヴに投げつける。
一瞬で消滅させるような火力があるならともかく、質量とオレのパワーで投げたスピードはライダーの装甲と言えども防ぎきれるものではない。
流石のガヴもこれはまずいと思ったのか横に転がり街路樹を避ける。
「弾幕は止まったぞ!」
弾幕さえ無ければ接近は難しくない。
体勢が崩れたガヴの懐に飛び込む。
「は、早い!?」
「食らえ!」
再び緑のエネルギーを込めた拳を振り下ろす。
今度はカウンターなどは許さない。まともにオレの拳を受けたガヴは吹き飛び大地に転がる。
それと同時に、奴の茶色の装甲が砕けて消えて、元の紫のグラデーションの姿へと戻った。
「続けるぞ、この程度で死んでくれるなよ!」
脚部にエネルギーを籠め、必殺のキックの態勢に移行する。
緑の閃光が足に灯り、その余波だけで舗装が砕け始めた。
これまでにないエネルギーの迸りに、オレはこれまでにない生きている実感に心を奪われる。
「行くぞ、ライダーキック!」
強く一歩踏み込むと、左足を軸にガヴに向かい回し蹴りを叩きこもうと足を振り上げる。
「フラッペカスタム!」
「シャリシャリ!」
不意に、誰かの声が……いや、ゴチゾウの変身音が俺の耳に届く。
それと同時に、オレのキックの軌道に何者かが割り込んでくる。
その割り込んできた誰かは、巨大な氷塊と共に俺のキックを拳で止めてしまったではないか!
「何だかよくわからねえけど、大丈夫かショウマ!」
白く四角い複眼に、金色と赤、そして茶色の装甲とボディースーツ。
左右非対称の甲冑を身に纏った知らないライダーは、氷塊にエネルギーを供給しながら必死にオレのキックを拳で相殺しようと踏みとどまっている。
このまま力を籠めれば蹴り砕ける可能性もあった。
だが、オレはあえてエネルギーの供給を止めキックの態勢を解除する。
無論、手を抜いたわけでも、情けを掛けたわけでもない。
次なる攻撃に対処するためだ。
サイクロンヘルにはステルス機能が付いている。
そんなバイクを乗りこなす為、不可視の存在に対する対策が施されている。
そのセンサーが、後方から接近する何かに対する警告を発していたのだ。
無造作に突き出した腕と、何もない空間からの攻撃がぶつかり合う。
耳障りな駆動音が唐突に鳴り響き、それと同時に誰も居なかった場所が歪みその下から濃い桜色の装甲を纏った新たなライダーが出現する。
その顔を覆う巨大なマスクは、どこか忍びを連想させる。
「仕留め損ねたか……」
「残念だったな。俺にステルスは通用せん!」
オレと新たなライダーとの力比べはほんの一瞬であった。
このままでは埒が明かない。相手もそう考えたのであろう。
どちらからともなく仕切り直しに後方に跳ぶ。それとほぼ同時にガヴも態勢を立て直し、新たな二人のライダーの隣へと歩みを進めた。
「助かったよ、絆斗、ラキア」
戦っていればそのうち姿を見せるとは思っていたが、あれがガヴの仲間か。
ショッカーで見た情報通りなら、白い複眼のライダーがヴァレンだろう。資料で見た黄色い特殊装甲とは違うが、桜色の鎧はフォームチェンジをしたヴラムという事になる。
「なんだよ、あれ!? グラニュートじゃ無いみたいだが? いや、噂に聞く仮面ライダーにそっくりだが」
「だが、敵という事で間違いは無さそうだな」
「えっと、敵じゃないというか、なんか急におかしくなっているというか……」
人類に対する密猟が目的である為に人的被害は莫大だが、グラニュートによる社会的な破壊は最低限だ。しかも組織や拠点は異世界にある為、我らやライダーの目に留まりにくかったのだろう。
それゆえに、グラニュートと戦う彼らは、やはり他のライダーとの接触経験が乏しいようだ。
言葉の端々に困惑の感情が見て取れる。
「違うな、ガヴ。俺は貴様らの敵だ」
3対1? 構うものか。
この状態がどれだけ維持できるかわからない以上、これがオレにとって最初で最後のオレだけの戦いだ。
オレは再び大地を蹴る。
まず狙ったのは、攻撃型であるだろうヴァレンだ。
ぶつかった感触では、こいつが一番脆い。まずは数を減らす。
力任せに振るった拳をヴァレンは腕を交差させガードする。このまま押し切れる感触はあるが、一撃で砕ききれなかった以上はいつまでも長居は出来ない。
「させるか!」
「アイン! 止めるんだ!」
3対1の数の差は、一瞬でも膠着すればすぐさま相手の反撃をもたらすという事だ。
右からは鎌と弓を組み合わせた武器を持つヴラムが、左からは赤い剣を振るうガヴが迫る。
オレは咄嗟にヴァレンの身体を壁にヴラムの攻撃をやり過ごすが、ガヴの攻撃までは回避できるはずもない。
ガヴの剣が俺の左肩を浅く切り裂く。
「くっ、やはり……」
俺であればこの程度なら防御できていたはずだ。
だが、奴の経験を封じたオレの戦術では一人の攻撃をやり過ごす事が限界か……。
ガヴの攻撃で体勢が崩れたオレに対して、さらにヴラムの鎌が襲い掛かる。
チェインソー状となっている歯が俺の胴体に突き刺さった
「ショウマの知り合いの様だが!」
さらに切り刻もうと、ヴラムは刃を押し込んでくる。耳障りな音を立ててチェインソーが正面の装甲を削り斬っていく。
だが……
「うぉおおおおおおお!」
「なにっ!?」
装甲にエネルギーを供給、ナノマシンの結合を強化し刃が食い込むことを止める。
それと同時にヴラムの腕を掴むと力任せに投げ飛ばす。
「ラキア! こんのぉ! てめぇ!」
壁にしたヴァレンが動く。
再び拳に氷塊を纏わせると、ショートカット気味にオレの顔面を狙い拳を繰り出す。
拳に勢いが乗り切る前に、左の手で奴のパンチを止める。
だが、止めた左の腕が凍り付いて……。
「邪魔だ、ヴァレン!」
このままではまずい。そう悟ったオレはヴァレンの腹を蹴り飛ばし、距離を空ける。
ヴラムと逆側にヴァレンが転がっていく。
被害は小さくない。左腕は凍り付き、しばらくは使い物にならないだろう。
とはいえ、残ったのはガヴのみ!
「キッキングミ!」
「チャージミー! チャージミー!」
僅かでもガヴから注意を逸らしたのがいけなかった。
いつの間にかゴチゾウをセットしていたガヴの右足が、オレンジ色に輝くグミ状の巨大なブーツに換装されているではないか。
仲間たちが戦いオレがそれに対処をしている中、ガヴは俺を仕留めるべくエネルギーを貯めていたのだ。
「アイン! これで正気に戻ってもらうよ!」
ガヴが天高く跳躍し、最頂点で身をひねる。
オレンジのブーツから果汁の様なエネルギーが迸る!
「そんな物! オレには無い!」
ガヴの必殺キックに対抗するべく、オレも左足にエネルギーを集中させる。
緑色の輝きが迸り、脚部が極限まで強化される。
「ライダァァァァァァキィィィィック!」
オレも同じように空中に飛び上がり、最頂点で前転をするとガヴに向かい必殺のキックを繰り出す。
空中でガヴとオレのキックがぶつかりあい、互いの脚の先端から放出されたエネルギーの奔流は大地を揺らす。
一見すると互角の攻防。
エネルギー量は無限動力を持つ俺が勝っている。このまま……。
「ぐあっ!」
この。オレにとって至福の攻防はある妨害者により唐突に終止符が打たれる。
それは、一発のビーム弾であった。
ダメージとしては小さい。効いているわけでは無い。
だが、視線の片隅に映るのは、車体前方のビームバルカンをこちらに向けているサイクロンヘルの姿。
そうか、お前も……
「でやああああああああ!」
オレが見せた一瞬の隙。
その隙を見逃すガヴではない。裂帛の掛け声とともに、脚部にエネルギーを集中させる。
一瞬でも意識を逸らしたオレに、そのエネルギーを逸らす事など出来なかった。
ガヴのキックの全エネルギーがオレの身体を貫く。
オレは空中で体勢を崩し、地面へと落下、激突する。
「アイン!」
一方、キックを決め体勢を立て直したガヴが慌ててこちらを振り向く。
まったく、敵対したというのに、暴れたというのに何とも人の良い事だ。
オレは片膝を突き何とか上体を起こす。
「オレはアインロールドではない……。あんな仮面ライダーとは違う」
オレは未登録品ではない。
誰からも認められる、未登録品は俺のものだ。
「オレの名は……」
アインロールドは俺の名前だ。オレにはふさわしくは無い。
生まれる前に消え去った残滓。ただの不要部品。
「オレの名は
息も絶え絶えに、せめてもの証明に即興でオレだけの名を述べる。
明日には忘れ去られているだろう。ガヴに、ショウマという人物とオレに何らかの繋がりがあったわけでは無い。
それでも、オレは誰かに俺と言う存在がいた事を伝えたかった。
「迷惑をかけた。ショウマさん……、ごめん……」
こうして、オレという存在は消えていっ……。
……。
……。
暴走モード、死亡確認!
八つ当たりに暴れるだけ暴れました。ショウマからすると、唐突以外の何物でも無いですねほんと。
投票は現在329(57%)対245(43%)で天の道を往く男有利!
カブトを再履修しないと……。
ちょっと早いけど次のライダーは……。
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天の道を往き、総てを司る男
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ひとっ走り付き合えよ