ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話   作:さざみー

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遅くなり大変申し訳ありません。l
再開いたします。


第65話 episode・GAVV 相変わらず自重という物を知らない奴がいます

 変身後、感じるものは何もなかった。

 普段感じていた高揚感や狂暴性は欠片も感じない。

 ただ静かに闘志が内より湧き出してくる。

 

 全システムオールグリーン、問題はない。

 

 暴走モードとの繋がりが消えた事に対する不安は感じない。最初の頃は暴走モードなんて存在していなかったのだから当然だ。

 俺は静かに戦場の様子を確認する。

 

「アイン、君は……」

「気にするな、あれは個人的事情だ。まず先に奴を片付ける」

 

 無様を晒すのは一度で十分だ。

 

 ディケイドとウォズニセイバーは俺の事などを忘れたかのように剣を切り結んでいる。性格は悪いが世界の破壊者の力は間違いないだろう。

 あれを逃がす気は無い。

 だが、何事にも順序という物がある。

 ここに来た目的はウォズニセイバーでは無く目の前のアナザーガヴの撃破であり、ヒトプレスの奪還だ。

 

 ともすれば漏れそうになる殺気を抑え、目の前の雑事に集中する。

 

「ありがとう、アイン」

 

 むしろ詫びなければならないのは俺の方だが、それを言うのも野暮だろう。

 俺とガヴはアナザーガヴと対峙し、構えを取る。

 

「ここでお前ら纏めて死にやがれ!」

 

 ヒトプレスを奪還され闇菓子がまだ手に入っていない。

 そんな怒りと焦りがミックスされた叫びと共に、身体の各所に存在する5つの口が輝き同数のビッグサイズゴチゾウたちが一斉に出現する。

 空中に浮かんだビッグサイズゴチゾウたちはこちらを一瞥すると、口をあんぐりと開き鋭く尖った舌を繰り出してくる。

 

 馬鹿の一つ覚えだが、ある程度の質が担保されるなら数を揃える事は基本であり脅威である。

 もっとも、あくまでも大軍を用意した時の話だ。数が足りていなければ意味は無い。

 

 俺は伸びてきた舌を両腕でキャッチすると、そのまま力任せに引っ張る。

 ビッグサイズゴチゾウはその小柄な姿に反して自動車を軽々と持ち上げる膂力を持つ。とはいえ、あくまでも小型サイズ。仮面ライダーたちと単独で戦えるだけの力を持つ俺に抗えるわけもない。

 俺に引っ張られビッグサイズゴチゾウたちは宙を飛びこちらに向かい飛んできた。

 

「ライダーチョップ」

 

 引き寄せられ空中で体勢を崩したビッグサイズゴチゾウたちに向かい手刀を一閃する。

 その一撃で5体のビッグサイズゴチゾウたちは致命的な破損を負い、次々に爆散していく。

 

「なっ!?」

 

 余りにもあっさりとビッグサイズゴチゾウの破壊に移行した俺にアナザーガヴが驚いている隙をつき、ガヴが間合いを詰めた。

 

「イート、スナック! イート、スナック!」

 

「ザクザクチップス! ザックザク~!」

 

 ガヴが巨大な肩当を装着した黄色い硬質な鎧姿へと変わる。

 もう一つ特徴的なのが、両手に握った黄色い下地にひび割れたかのような装飾を施された複雑なラインを描く双剣だろう。得物から推測するに、近接特化フォームか?

 

「くらえっ!」

 

 邪魔をするビッグサイズゴチゾウがいなければ接近も容易だ。

 アナザーガヴの懐に飛び込むと、双剣で勢いよく切りつける。二本のラインがアナザーガヴの胴体に刻まれる。

 反撃も出来ず、素早く動くガヴに数回切り付けられた後、アナザーガヴはその鋭いかぎ爪を振るい剣を受け止める。

 双剣とかぎ爪。その衝突に甲高い音が廃工場に響き渡り、意外にもガヴの持つ双剣が粉々に砕け散った。

 

「くそっ!」

 

 双剣の破片があたり一面に散らばった。

 相手が武器を失った事を好機と見たアナザーガヴがジャンプをして、廃工場の二階フロアに飛び乗る。

 一方、意外な脆さを見せたガヴの双剣は、すぐさまその刀身を復活させていた。

 

「てっ、てめえら! 人質がどうなっても……」

 

 距離を取って安心したのか、アナザーガヴが手すりに手をつきながら悪態をつく。

 そんな奴に、俺は冷たい声でこう返す。 

 

「入っていなかっただろう」

「なっ!」

 

 サポートを主な任務とするサイクロンヘルには劣るものの、俺にも高性能のセンサーが搭載されている。

 乱戦中にビッグサイズゴチゾウの口を一々確認するのは流石に厳しいが、開幕早々ならば見極める事は難しくない。

 さらに言えば口の中に隠している関係上、舌を伸ばしてくるビッグサイズゴチゾウの中にはヒトプレスは隠されていない。これはゴチゾウとサイクロンヘル双方の記録から確認済みだ。

 事前の情報と今回の確認。これはほぼ間違いないだろう。

 

 さらに言えばこの手の奴の思考パターンは嫌というほど知っている。

 楽観的で刹那的な思考をしており、目先にあった闇菓子の入手の為ならば、後先を考えずあらかた吐き出してしまっている事だろう。

 

「先ほどの取引で手持ちのヒトプレスはあらかた渡したんだろう。あと何枚持っている? すべて返してもらうぞ」

 

 俺の言葉を引き継いだのはガヴだった。

 声を張り上げた訳でもない静かな宣告だが、不思議と聞く者の心を震わせる迫力がこもった言葉だった。

 横で聞いていた俺ですらぞっとするほどの冷たい響きに、アナザーガヴも気圧され後ずさる。

 

 だが、そんな恐怖し逃げる事を訴えた本能に対して、奴の浅薄な理性が選んだ行動は激高であった。

 

「ふ、ふざけんなぁ! てめえらの物じゃねえだろう! これは俺が狩った獲物だ!」

「お前の物でもない。人間はお前らの食べ物なんかじゃない」

 

 やはり隠し持っていたか。

 何処からともなく取り出した5枚のヒトプレスを誇示しながら叫ぶアナザーガヴに対し、ガヴの、ショウマさんの返答は何処までも硬質で熱く、そして冷たかった。

 

「闇菓子の材料が食い物じゃなけりゃ、何だって言うんだ! これを見やがれ!」

 

 そう叫ぶとアナザーガヴは二十体以上のビッグサイズゴチゾウを全身の口から吐き出す。

 そして手に持ったヒトプレスを宙に投げたかと思うと、ビッグサイズゴチゾウたちが空中で咥えて飲み込む。

 さらにはそのまま空中を高速で飛び交う……シャッフルか。

 

 ここまでは予想内。奴がヒトプレスを隠し持っていないか、隠し持っていたら出させるための脅しだ。

 

「ねえ、アイン。ちょっと無茶を頼んでいいかな?」

「何ですか?」

 

 いつの間にか俺の隣に来ていたガヴが小声で俺に話しかけてくる。

 しかし、無茶とは何のことか?

 

「ソルベをもう少し温存したい。凍結を無しでヒトプレスの回収、頼んでいいかな?」

 

 

 ヒトプレスを抱え持っているビッグサイズゴチゾウを見抜き、爆発する前に取上げろというのか。

 優しげな顔をしながら、中々厳しい注文をしてくる人だ。

 まぁ、可能不可能であれば十分に可能な範疇の話であり、最悪はエネルギーフィールドによる保護を使うという保険もある。

 

「大丈夫。任せてください」

 

 瞬時に勝算をはじき出した俺は、ガヴの注文を請け負う。

 なにせ視界の片隅ではセイバーとウォズニセイバーが鍔迫り合いを繰り広げ、外からはヴァレンとヴラムがエージェントと戦っているだろう爆発音が聞こえてくる。

 ガヴの切り札の一つがソルベだという。この状況下で温存したいというガヴの気持ちはわかる。

 

 ……ん?

 

 ちょっとまて!?

 今、何かおかしな物が見えなかったか!?

 

 

 ※※※※※

 

 

「おっと、大首領からの伝言を伝え忘れていた。『世界を滅ぼさんとする貴様らの愚行、容赦はせぬ』だとさ」

 

 ソードモードに切り替えたライドブッカーを肩に担ぎながら、ディケイドは相対したウォズニセイバーに語り掛ける。

 その口調はいつもの超然としたものであり、自らの優位を疑わない傲慢なものだ。

 そんな破壊者の態度や大首領からの最後通牒の言葉にウォズニセイバーは怒る事も無く、それどころかどこか楽し気な声色でこう返す。

 

「世界を蝕む大老害となり果てた大首領殿に言われる筋合いはありませんね。神による救済を待つよう返しておいてください……まぁ、生かして返す気はありませんから伝言は出来ないと思いますが」

「やれやれ、分かってはいたが止まる気は無いか」

「止まれませんよ。救済は成さねばなりません」

 

 二人は仮面の戦士だ。

 それゆえに仮面と複眼に阻まれ互いの表情は誰にもわからない。

 それこそ、表情を浮かべている本人にも……。

 

 会話はそこまでだった。

 言葉によるぶつかり合いの次に始まるのは、力によるぶつかり合いだ。

 ライドブッカーと聖剣が火花を散らしぶつかり合う。

 

 ディケイドの切り上げをウォズニセイバーが上段から振り下ろした剣で抑え込む。

 下手に引けば自由になった切っ先は自身に向かう。

 それを悟ったディケイドはウォズニセイバーの剣の力が向かう先を反らすべく身体の位置を動かす。

 一方のウォズニセイバーも、そのまま押し切ろうと力を籠める。

 

 結果、二人のライダーは剣を交差させた体勢のまま、地面に転がったガラクタを蹴散らしながら横に移動を繰り返す。

 

 二人のライダーの鍔迫り合い。それを制したのはウォズニセイバーであった。

 圧力に耐えきれなくなり僅かに後退した隙を見逃さず、交差した剣を逸らし、そのままの勢いでディケイドの胴体に向かい斬撃を繰り出す。

 

「ぐうううっ……」

 

 流石に幾多の世界を破壊してきた男はその一撃で倒されるほど軟では無いが、それでも胴体から火花をまき散らしながらさらなる後退を余儀なくされる。

 

「流石はセイバーの名を冠するだけはあるか……。剣の勝負は分が悪いか」

 

 苦痛に仮面の下の顔を歪めながら、ディケイドが呟く。

 ディケイドがセイバーと比べ劣っているわけでは無い。

 ただ、聖剣の運用を前提で生み出された聖剣使い系列のライダーと、様々な状況に適応するべく汎用性を前提に設計されたディケイドの性質の差であった。

 

「銃を使いますか? むしろそちらの対処は得意ですよ」

 

 あからさまなウォズニセイバーの挑発に、ディケイドはいつもの超然とした態度を崩さず答える。

 

「いや、このまま行くさ」

「ほう」

「セイバーの力にはセイバーの力だ」

 

 そう言うが早いが、ライドブッカーから一枚のカードを取り出す。

 そのカードには燃え盛る炎のような装飾が施された仮面の戦士、仮面ライダーセイバーの姿が描かれていた。

 ディケイドは流れるような動作でベルトにカードを挿入し、その力を解き放った。

 

『KAMENRIDE SABER!』

 

 二次元の影法師が周りを回転し、ディケイドの身体に吸い込まれていく。

 影はディケイドの身体に吸い込まれると立体を取りもどし、同時に宿主の身体を別の物へと置き換える。

 最後に影法師は色を取り戻し、ディケイドの象徴たるディケイドライバーと手に持ったライドブッカーを除き、仮面ライダーセイバーの姿を再現してみせた。

 

「なっ! まさかセイバーの力まで!?」

「持っていて悪いか? 行くぞ」

 

 白いディケイドライバーのディケイドが平成以降のライダーの力まで既に集めていた事実に、灰ウォズは驚きの声を上げる。

 そんな相手の驚きなど知った事かとばかりに、ディケイドセイバーがウォズニセイバーに襲いかかった。

 

 一太刀、二太刀、三太刀。剣同士がぶつかるたびに火花が飛び散る。

 先ほどよりも速度や力の増した斬撃に、今度はウォズニセイバーが受けに回る。

 このままでは押し込まれる。そう悟ったウォズニセイバーが距離を取ろうと受け流す。 

 

 だが、実戦経験の豊富さと手数の多さはディケイドセイバーが上回っていた。

 瞬時にウォズニセイバーの企みを見抜くと、引こうとした瞬間に蹴りを繰り出す。

 

「くっ!?」

「まだだ、行くぞ!」

 

 体勢が崩れた瞬間にねじ込まれた太刀が煌めくと同時に、ウォズニセイバーの胴体に十字の火花が飛び散る。

 目にもとまらぬほどの素早い太刀筋がその身を捉えたのだ。

 

「がぁっ!」

 

 その衝撃に堪らず口から苦痛のうめきが漏れる。

 重い一撃の前に、流石のウォズニセイバーも片膝をつく。

 

 明らかに優位になったディケイドセイバーはセイバーの姿を解き、元のディケイドに戻ると剣の平で自らの掌を叩きながらこう返す。

 

「見え透いた演技は止めろ」

「演技では無いんですけどね。今のはかなり効きましたよ……」

 

 ウォズニセイバーの言葉に嘘はない。

 強固な装甲を誇るウォズニセイバーではあったが、ディケイドセイバーの一撃は受け止めきれるものではない。

 決して軽くはないダメージを負ったのは事実であった。

 

「それじゃ、言い換えてやろうか。何時まで三味線を弾いている気だ? 本気を出さないのなら、このまま仕留めるぞ」

 

 余裕ではないのだろう。敵を前に無意味に悠長な事をするほどなまっちょろい男ではない。

 おそらくは、他の教徒と戦う前の試し。教団の戦力を図るための試金石にする気か。

 

 灰ウォズは正確にディケイドの企みを見抜く。

 

 セイバーの姿を取っただけで、劣る剣技を上回って見せたのだ。世界の破壊者の力は測り知れない。

 この場で真の力を見せなければ負けるのは自分。その事も悟る。

 

「良いだろう。ならばこのウォズニセイバーの真の力を見せてやろう」

 

 ショッカー大首領に捕捉されディケイドが出てきた以上、もはや力を隠しておく意味も無い。

 ウォズニセイバーは宣言とともに深紅のライドブックを取り出す。

 

「それは?」

「大した変わり種というわけではないがね。特に君にとってはな」

 

 新たなライドブックが腰のドライバーにセットされ、ページが展開してく。

 それと同時に周囲に力を秘めた記述の声が高らかに響き渡る。

 

 

【この男が天を指す時、新たなる格言が生まれる……】

 

 

 次の瞬間、ウォズニセイバーの姿が変わる。

 強固だった純白の甲冑はウォズニセイバーの身体から離れていく。甲冑は空中に留まると、先ほどまでの金属質の硬さを失い、まるでゴムのような奇妙な動きでぐるりと回転し裏返る。

 裏返った甲冑が深紅に輝くと、再びウォズニセイバーの身に張り付いていく。

 

 これまでとは全く違う姿だった。

 巨大な深紅の肩当、腰を覆う甲虫の羽根を思わせる腰鎧、手足を守る鋭い棘。

 どこか騎士を思わせる佇まいと、それでいて近代的なメカニカルな意匠が施された甲冑。

 その頭部を守るのは、青い複眼に天を衝く二股に分かれた角。

 

 手に持つ聖剣こそ変わらぬが、彼はもうウォズニセイバーではなかった。

 彼の新たな名。それは……。

 

『仮面ライダーカブトニセイバー……降臨!』

 

「様々なライダーの力を秘めたレジェンドライダーワンダーライドブック。カブトとセイバーの力を併せ持つ全く新しい仮面ライダー。教団の切り札を見せた以上、覚悟してもらおう」

「なるほどな。確かに変わり種というほどではない……、か」

 

 他のライダーの力を秘めたアイテムは多い。確かに言うほど変わり種というわけではない。

 もっとも、肌で感じるその力は舐めてかかって良い物でもなさそうだ。

 ただカブトを再現しただけではない力があるのだろう。

 

「さてと、私についてこれるか、ディケイド」

 

『CLOCK UP!』

 

 カブトニセイバーの持つ聖剣が力ある言葉を吠える。

 次の瞬間、カブトニセイバーの姿がこの世界から忽然と消え去る。

 

 ゼクト系ライダーの切り札、クロックアップ。並みの相手……、いや、相当な強敵ですら一方的に嬲れる時間すら置き去りにする超高速戦闘を開始した敵を見てもディケイドは動じない。

 それはそうだ。

 彼は世界を繋ぎ様々なライダーたちの力を得た存在。

 

「仕方ない、付き合ってやるか」

 

『KAMENRIDE KABUTO!』

 

 

 ※※※※※

 

 

「待てっ!」

「待てと言われて、待つ馬鹿がいるかよ!」

 

 一抱えあるダンボール箱を抱えながら、しかも発砲も辞さない異形の追跡者を躱し続ける絆斗は中々の健脚だ。

 とはいえ、人間の身では自ずと限界はある。

 まして、追手のエージェントは二体なのだ。

 

「追い詰めたぞ」

 

 ついには廃工場群の一角、狭い一本道に絆斗は追い込まれる。

 前方には男性型エージェント、後方には女性型エージェント、絶体絶命のピンチだ。

 

 せめて変身できれば。そう思うものの、腕に抱えるヒトプレスの詰まったダンボール箱のせいで腕が空かない。

 

 冷静に考えればダンボール箱を投げ捨ててでも戦うべきであろう。絆斗が討たれればヒトプレスの全てはストマック社の手に落ちるのだ。

 だが、ヒトプレス、つまりは人だ。

 彼らの命がかかっているという意識が、絆斗の動きを鈍らせる。

 

 どうするべきか、そのぎりぎりの選択を迫る状況。

 だが、この時ばかりは騎兵隊が間に合った。

 

 それまで何もなかったはずの無音の空間から唐突に大地を揺るがす爆音が響き渡る。

 

「なにっ!?」

 

 その音にエージェントの一体が反応するが、あまりにも遅い行動であった。

 絆斗を挟み撃ちにしようとしていたエージェントの一体に、雨あられのごとくレーザービームが降り注ぐ。

 

「くっ!?」

 

 咄嗟に回避が出来たのは、そのエージェントがストマック家の長子の眷属であり高性能であったからだ。

 数発は食らうものの、絆斗に当たらぬよう撃ち込まれた牽制の一撃と見抜いたエージェントは、安全な回避先を見抜き身を隠す。

 

 残されたもう一体のエージェントに対し襲い掛かったのは、純白のモンスターマシンを駆る髪を染めた長身の青年であった。

 走り込んできた高速のバイクは間に割り込むと、ドリフト走行でその場でターンを決め、エージェントを襲う。

 

「なんと!?」

 

 巨大な質量と速度による衝突だ。

 いかに屈強なエージェントと言えども食らえばひとたまりもない。驚きの声と共に身をひるがえし何とか回避をする。

 だが、バイクの乗り手はそれを見逃すお人よしではない。

 

 身をひるがえすと、バイクのターンの勢いをのせた蹴りを繰り出す。

 バイクのぶちかましを回避した直後のエージェントにそれを回避できる余裕などない。

 腹に厳しい一撃を受けると、踏ん張る事も出来ず大きく弾き飛ばされドラム缶や資材の積まれた一角を巻き込み轟音と共に消えて行く。

 

「遅いぞ、ラキア!」

 

 そう、やってきたのはアインロールドからサイクロンヘルを預かっていたラキアだった。

 本来はヒトプレス奪還のために後から突入するために隠れて様子を窺っていた一人と一台だったが、絆斗がヒトプレスを奪還したのを見て慌てて追ってきたのだ。

 

「お前が明後日の方向に逃げるからだ。逃げるなら俺たちが居た方向に逃げて来い」

「うぐっ……! こいつらが回り込んできてそっちに行けなかったんだよ!」

「どうだか」

 

 思わず文句を言う絆斗に、サイクロンヘルから降りヘルメットを脱ぎ捨てたラキアが呆れ声を上げる。

 そう、絆斗が逃げた方向は、ラキアたちが待機していた場所の逆方向であったのだ。そのおかげで、廃材が転がる工場跡をバイクでやってくるのには迂回が必要であり少々遅れてしまった。

 

 険悪というわけではないが、随分と間の抜けた会話をする二人の仲裁に入ったのはサイクロンヘルだ。

 先ほどの爆音とはちがう、大人しいエンジン音を響かせ絆斗の前に行くと、パカリとシートを開いて見せる。

 おそらくはアインロールドが言っていた耐衝撃構造のヘルメット等を入れるスペースなのだろう。ここにヒトプレスを入れろという事か。

 

「ああ、すまねえ。これ頼むわ」

 

 サイクロンヘルの意図を読み取った絆斗が抱えていた段ボール箱を何気なく収める。

 ミカン箱ほどの大きさのダンボール箱は、あっさりとヘルメットの収納スペースに収まった。

 

「ん? あれ? 今サイズ感おかしくなかったか?」

 

 ふと、ちょっと目の錯覚かなと思うサイズ差に絆斗が思わずツッコミを入れる。

 あきらかにダンボール箱のサイズが大きかったような……。

 

「だるっ……。別に変わり種ってわけじゃないだろう」

 

 そんなどうでも良い事を気にする絆斗に、ラキアが冷たい視線を向ける。

 そりゃそうだ。ガヴを始めとしたライダーシステムにヒトプレス、ミミックキー、世界移動、その他もろもろに比べれば収納のサイズ差など些細な話だ。

 とはいえ、一度気になると、どうしても気にしてしまうのもまた人情というものだ。

 

「いや、そりゃそうだけど」

「下らんことを気にしている場合じゃない。来るぞ」

 

 確かにラキアの言う通りであった。

 少なからずダメージを受けただろう二体のエージェントたちであったが、ほんのわずかに足止めを成功させただけであった。

 瓦礫や廃材を押しのけ、あるいは物陰から歩みを進めエージェントたちがその姿を再び現す。

 会話は無駄だ。戦って切り抜けるしかない。

 

「確かにな」

 

 絆斗は鞄からまるでクレーンのアームを思わせる黒い特殊な銃、ヴァレンバスターを取り出すとショウマから譲り受けたチョコドンゴチゾウを銃身の中央にセットする。

 ヒトプレスは預けた以上、もう逃げ回る必要は無い。

 

「まったく……」

 

 一方のラキアもぼやきながらコートの内ポケットからヴラスタムギアを取り出し、いつの間にか肩に登ってきていたどっプリンゴチゾウを手に取る。

 腰にベルトを装着するとゴチゾウをギア上部に配置しギアのレバーを引く。

 

「変身!」

「変身!」

 

 二人の男の掛け声が工場跡に響く。

 

 

「チョコドン パキパキ!」

 

 絆斗は構えたヴァレンバスターを地面に突き刺すと、引き金を引いた。

 ヴァレンバスターを中心にチョコレートの沼が広がり、沼はまるで意思があるかのように絆斗の姿を覆う。

 チョコレートは絆斗の身を完全に覆うと、硬質化していく。

 硬質化の終了と共に、絆斗があらたなる甲冑を覆う銀色のフィールドを振り払った。

 

 そう、そこにいたのは絆斗であって、絆斗ではない。

 赤と白、そしてチョコレート色のボディに白く四角い複眼の戦士、彼の名は仮面ライダーヴァレン。グラニュートから人間を守る人間の戦士であった。

 

 

「プディング ヴラムシステム!」

 

 ラキアの周りを白い皿状のフィールドと、コップを逆さまにしたかのようなバリアが覆う。

 バリアを満たすかのように、ゴチゾウから滝のようにあふれ出した薄い黄色の……プリンの色をしたエネルギーが充填していく。

 エネルギーが完全にラキアの姿を覆い隠した次の瞬間、突如現れたスプーンがエネルギーのプリンを掬い上げ埋もれたラキアの姿を掘り起こす。

 

 いや、そこにいる存在をラキアと呼ぶのは間違っているだろう。

 黒いアンダースーツにプリン色の特殊装甲、そして黄色い複眼。

 彼の名は仮面ライダーヴラム。今はまだ、復讐に身を焦がしながらも人を守る心を取り戻しつつある男だった。

 

 

「さて、良くも追い掛け回してくれたな。ここからは反撃の時間だ」

「ショウマが心配だ。速攻で決めるぞ」

 

 二人のライダーは互いに背を預け、それぞれ相手とするエージェントを見据える。

 真っ先に動いたのはヴァレンであった。

 ヴァレンバスターを正面に構えると乱射をしながら一気にエージェントに接近を試みる。

 

 狙われたエージェントは再び建物の陰に隠れながらも、手に持ったハンドガンで応戦を試みる。

 建物を陰にした射撃戦。だが、互いに狙いは弾幕を掻い潜り相手に向かい接近を試みる事だ。

 

 互いに障害物を潜り抜けながら行う射撃戦は、唐突に終わりを告げる。

 障害物である廃材の山を抜けた先、そこでエージェントからの火線が途切れる。

 無論、逃げた訳ではない。

 

「くらえ」

 

 そう、このままでは埒が明かないと考えたエージェントは、その廃材の山に姿を隠した瞬間に、もう一つの得物であるナイフを抜き放ち跳躍。

 廃材の山を飛び越えて、上から襲撃をする白兵戦へと切り替えたのだ。

 

「なっ!? しまった!?」

 

 油断していた訳ではない。

 だが、戦闘用に作られたエージェントと人間である絆斗の戦闘勘の違いだろう。

 ナイフによる刺突こそヴァレンは回避するものの、落下してきたエージェントに組み付かれ、その勢いのまま押し倒され投げ飛ばされてしまう。

 

「!? くそっ!」

 

 何度か転がり辛うじて上半身を起こすと、ヴァレンバスターをエージェントに向ける。

 だが、起き上がりざまの不安定な体勢。そのような状態で撃った弾など当たる筈もない。

 エージェントは射線から身を反らし回避すると、ヴァレンに向かってナイフを繰り出した。

 

 

 サイクロンヘルは再びステルス機能を発動させ、その姿を虚空に消す。

 これでひとまずヒトプレスは大丈夫であろう。

 

 憂いが一つ無くなったことを確認したヴラムは廃材の山をどかしながら姿を現すエージェントを見据える。

 人間形態でのキックだ。バイクの勢いをのせていたとはいえ、さほどダメージを受けていないだろう。実際、蹴りによるダメージより廃材を退かす事に手間取っていただけで、戦闘能力が失われた様子もない。

 

「だるっ……。やはりエージェントは楽な相手じゃないな」

 

 エージェントは何処からともなくナイフを取り出し襲い掛かってくる。

 対するヴラムも専用武器である青い柄にオレンジ色のチェインソー状の刃を持つヴラムブレイカーの鎌で迎え撃つ。

 

 エージェントの持つ超常のナイフとヴラムブレイカーの刃がぶつかり合い、火花を散らす。

 互いに目にもとまらぬほどの斬撃を繰り返すものの、有効打となる打撃はどちらも与えられない。

 

 何度打ち合っただろうか。先に距離を取ったのはヴラムであった。

 ヴラムブレイカーは鎌形態による近接攻撃の他にも、弓形態による遠距離攻撃も可能である。

 瞬時に武器の形態を切り替えたヴラムは、距離を取ったエージェントに向かいエネルギーアローを放つ。

 

「くらえ」

 

 超高速の光の矢は正確にエージェントのいた場所を打ち抜く。

 だが、エージェントとて超常の存在。

 

 通常なら回避する事など叶わない近距離からの射撃にもかかわらず、素早く左右に飛び射線からその身を退ける。

 荒れたアスファルトに幾本ものエネルギーアローが着弾し、音を立てて爆発を起こす。

 

 焼けただれ、飛び散るアスファルトの陰で、動いたのはエージェントであった。

 

「お返しだ!」

 

 彼はそう言うと、手に持ったナイフを投擲する。

 一直線にヴラムに向かい飛ぶ白刃。

 

「この程度!」

 

 無論、ヴラムとて歴戦の仮面ライダー。投擲されたナイフ程度でやすやすとやられるわけがない。

 ヴラムブレイカーを横に振り、ナイフを叩き落とす。

 

 本来なら隙にもならぬほどの防御動作。

 だが、エージェントが待ち望んだのが、この瞬間であった。

 

 ヴラムブレイカーは遠近両用の切り替え武器。それゆえに、投擲攻撃に対し回避では無く武器による迎撃を選択する。そうエージェントは読んだのだ。

 そしてその通りにヴラムは動き、一瞬ではあるが武器を振り払い無防備になったのだ。

 

 ナイフを投擲したのと逆の手にいつの間にか準備していたハンドガンの引き金を引く。

 正確な射撃だが、ヴラムも予想していなかったわけではない。なんとか横に転がり弾丸を避ける。

 そのまま、崩れた体勢でヴラムブレイカーのエネルギーアローを解き放つ。

 

 だが、体勢を崩した状態で、弓のような取り扱いの難しい武器による射撃の狙いなどどれほどの物か。

 エージェントはエネルギーアローを易々と躱し、再びハンドガンの引き金を引こうとして……。

 

 

 背後からの唐突な衝撃に前方に倒れ込む。

 

 

 ヴァレンの放った弾丸は、正確にヴラムを撃とうとしていたエージェントの背中を打ち抜いた。

 

「なっ!? ぐあっ!?」

 

 ナイフを片手に驚きの声を上げるエージェントであったが、そんな彼女も次の瞬間にダメージによる悲鳴を上げる。

 そう、彼女の背中には光り輝くエネルギーアローが突き刺さっていたのだ。

 

 そう、ヴァレンが狙ったのは直前まで戦っていたナイフを持ったエージェントではない。

 ヴラムが狙ったのも、ハンドガンを撃とうとしていたエージェントではない。

 

 狙ったのは、互いに相方が戦っていたエージェントの背中だ。

 

 戦場の移動により通った射線。ヴァレンとヴラム、二人のライダーの視線が交錯し、次の瞬間に二人は同時に同じ選択を取ったのだ。

 すなわち、相方への援護射撃。

 予想外からの一撃に、二人のエージェントはダメージを負い体勢を崩す。

 

 そして、その好機を見逃す二人では無かった。

 

 

「チョーコードーンー!!」

 

 ヴァレンのもつヴァレンバスターの先端に、チョコレートの巨大な球体が生まれる。

 無論、それがただのチョコレートのはずがない。

 強力な破壊エネルギーを秘めた仮面ライダーヴァレンの必殺技だ。

 

 背後からの不意打ちに体勢を崩したエージェントにそれを回避する術はない。

 解き放たれたチョコレートの球体に押しつぶされ、吹き飛ばされていく。

 

「うぉぉぉぉっ!?」

 

 

「セット! ヴラムシューティング!」

 

 ヴラムブレイカーを構えたヴラムの前方にエネルギーウォールが展開される。

 無数のエネルギーアローがウォールに形成され、一斉にエージェントに向かい解き放たれる。

 ヴラムシューティング。仮面ライダーヴラムの必殺技の一つであり、その破壊力は巨大な施設を一撃で灰塵に帰するほどだ。

 

 無数の輝く矢に貫かれ、エージェントは弾き飛ばされる。

 さらには、後から続く矢がエージェントの身体をさらに弾き飛ばす。

 

「がああっ!?」

 

 弾き飛ばされたエージェントがぶつかったのは、ヴァレンと戦っていたエージェントの背中。

 破壊力を秘めたチョコレートの球体と、無数のエネルギーアロー。

 その強力な攻撃に挟まれ、ついには二人のエージェントはとどめを刺される。

 

 巨大な爆発が起こり、エージェントはその爆炎の中で構成要素を粉々に砕かれ、悲鳴を上げる暇もなく消滅していった。

 

 




Q・ノーマルディケイドがなぜセイバーの力を持っているんですか?
A・おのれディケイド! セイバーの世界も破壊されてしまった!(いつもの


ラキアのバイクアクションを書きたいだけだった……。
でも、役者さんの高身長も相まって絶対に映えると思うんだ。

ちょっと読み辛いので、今回から電子音計を【】から『』に変更。
過去話も順次訂正していきます。
でもゴチゾウは「」を変えない決意。だってあの子たちはキャラだもん。


アンケート結果
585(59%)対408(41%)
やはり天道(カブト)は強かった。進ノ介(ドライブ)もだいぶ善戦していて一時は逆転したのですが、再度逆転されてからは追いつけませんでした。

というわけで、次回でガヴ編完結(予定)
次からは「天の道を征き、総てを司る男」編の開始です。
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