ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話   作:さざみー

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第66話 episode・GAVV 逃がす気は無い

「はっ!」

 

 平手でビッグサイズゴチゾウの舌を反らす。

 射線を反らされた舌はそのまま床のコンクリートを貫き突き刺さる。舌が引き戻される一瞬の隙に間合いを詰めると、俺はビッグサイズゴチゾウに対して拳を叩き込む。

 

「ライダーパンチ!」

 

 その一撃で砕け散り、粒子となって消える。

 一瞬だけ羽根と輪を付けたビッグサイズゴチゾウの姿が見えた気もするが気にしない。主が悪かったと諦めてもらおう。

 そんな事を考えていると、今度は牙をむき出しにしたゴチゾウが背後から迫ってくる。

 

 もっとも、俺が迎撃する必要など無かった。

 

「危ない! アイン!」

 

 俺の背後でフォローをしていたガヴの双剣がビッグサイズゴチゾウを正確に捉え両断する。

 真っ二つになったビッグサイズゴチゾウが粒子となり天に昇っていく。

 

 数は多いが、対処できないほどの量ではない。

 ショウマさんのゴチゾウと違い、変身していない時は維持できないのかもしれない。

 

 いや、この数でも屋外や、障害物の多い屋内であったらもう少し手こずったかもしれない。だが隠れる場所に乏しい限定空間はビッグサイズゴチゾウにとって最も相性の悪い戦場であった。

 数の利やその小ささを全く発揮できない戦場がこの廃工場跡であった。

 

 そんな戦場で俺はビッグサイズゴチゾウたちを観察する。

 舌を伸ばしてくる奴や噛みつき攻撃を仕掛けてくる奴は除外。初めからヒトプレスを持っていない。

 自爆攻撃の為に様子をうかがい周囲を飛び回るビッグサイズゴチゾウも除外していい。

 

 なんせヒトプレスはグラニュートが求めてやまない闇菓子を手に入れるためのチケットだ。

 欲の皮が張った主は人質として使いながらも、壊さないようぎりぎりまで温存するよう指示を出すだろう。

 

 俺のセンサーが周囲のビッグサイズゴチゾウたちの機動を捉える。

 探し出すのは一定の距離を保ち続けている攻撃に参加をしていない個体だ。

 

 ……いた!

 

「ブースト」

 

 そいつを見つけた瞬間、俺は高速機動を発動させる。

 そのビッグサイズゴチゾウの目の前に一気に駆け抜け、俺は上あごと下あごに手をかけると力まかせに上下に開く。

 

「!?!?!?!?」

 

 唐突な事態にビッグサイズゴチゾウが目を白黒させてジタバタするが、俺はお構いなしに強引にこじ開けた。

 そして、俺の予想通り、口の中からひきつった表情のヒトプレスが転がり落ちてくる。

 俺はそれを空中でキャッチすると、ビッグサイズゴチゾウを投げ捨ててジャンプ一発でガヴのいる場所まで戻る。

 

「これで3枚目……」

「ありがとう、アイン」

 

 振り向きもせずにヒトプレスをガヴに押し付けながら、俺は奪還したヒトプレスの数を数えた。

 今の動きで3回目。3枚のヒトプレスの奪還に成功している。

 

「な、なんで、何で正確にヒトプレスを持っている奴がわかるんだよ!?」

 

 俺たちの一連の動きを後ろから見ていたアナザーガヴが恐怖に慄き悲鳴を上げる。

 そんな奴の言葉を鼻で笑いこう返す。

 

「知らんのか? ライダーは助けを求める声を聴く力があると」

「ふ、ふざけんなぁ! そんなもんあるわけないだろう!」

 

 無論、そんな力はない。仮にあっても仮面ライダーはともかく、ショッカーライダーアインロールドの俺には備わってない事は決定的に明らかだ。

 

 

 実のところアナザーガヴは三つの失敗を犯していた。

 

 一つは暴走モードの俺が攻撃に転じた際に、早々に逃げ出した事だ。

 あの時俺はもとよりガヴも混乱状態であった。付け込む隙はいくらでもあったはずなのに、攻撃を受け早々に逃亡を選択してしまった。

 結果的に暴走モードの俺はガヴに敗北、立て直す時間を得た。

 

 二つ目は慎重な立ち回りを要求される人質作戦を行っているのにも拘わらず、俺たちに情報を与え過ぎた事だ。

 ビッグサイズゴチゾウの口から中に隠したヒトプレスが見える事などその最たるものであろう。

 

 三つ目はヒトプレスの底を俺たちに悟らせた事だ。

 俺たちが追っている事はわかっていただろうに、持っていたヒトプレスの大半を取引に出してしまい、さらにはその取引現場に踏み込まれた。それゆえに焦って5枚のヒトプレスを派手にビッグサイズゴチゾウに持たせてみせたのだろう。

 脅迫のつもりだったのかもしれないが逆効果だ。本当に量があるのなら、もう少し戦略的に動く。

 あれで俺は手持ちのヒトプレスが底をついた事を確信した。ショウマさんはもう少し隠している事を警戒してソルベを温存したようだ。

 

 実際、初見であれば俺やガヴはあの場で対処ができず、あのまま戦闘が続けばヒトプレスにされた人が何人か犠牲になっていただろう。

 奴が逃げて再戦となった事で、俺たちは分析と作戦を組み立てる時間を得た。

 

 もし追手と戦う為に闇菓子の入手を諦め、人質にするヒトプレスを大量に保有していれば、俺たちの戦術は相当絞られていたはずだ。

 あのダンボール箱に入っていたヒトプレスが全部……、いや、半分でも人質に使われていた場合、俺のセンサーではビッグサイズゴチゾウを追う事は難しかった。

 いや、それどころかサイクロンヘルのセンサーと分析能力やガヴの氷結攻撃を以てしても犠牲が出ていた可能性は高い。

 

 二度も取り逃がした間抜けの俺が言えた義理でも無いが、臆病さが慎重さに繋がらず状況を楽観視し誘惑に弱いとは、実に人間臭い奴だ。

 案外グラニュートという異世界人は、文化的な差異はあれども精神構造は人類に近いのかもしれない。

 

 

「ライダーパンチ!」

 

 襲い掛かってくるビッグサイズゴチゾウに拳を叩き込み破壊をしていると、その腕にビッグサイズゴチゾウがまとわりついてくる。

 センサー稼働、確認。ヒトプレスは持っていない。エネルギー値上昇、自爆するつもりか。

 

「付き合っていられるか」

 

 投げ飛ばして巻き込んでもたまらない。

 強引に引きはがすとコンクリートの床にビッグサイズゴチゾウを叩きつける。

 ビッグサイズゴチゾウの爆発は腕に張ったエネルギーフィールドを突破する事が出来ず、床を焦がすだけに終わった。

 

「アイン! しゃがんで!」

 

 ビッグサイズゴチゾウたちを処理していると、背後からガヴが声をかけてくる。

 その声に従いしゃがんだ俺の背中をガヴが飛び越え横に回転しながら双剣の斬撃を放つ。

 爆破処理をしていた俺に噛みつこうと迫ってきたていたビッグサイズゴチゾウが数体、その斬撃に巻き込まれ真っ二つになり地面に転がる。

 

「そこだ!」

 

 ガヴの猛攻はそれだけでは終わらない。

 斬撃を放り着地をすると、低い姿勢からワンステップで駆けだす。

 

 狙うのは攻撃に参加せずに周回していたビッグサイズゴチゾウだ。

 そいつはガヴに狙われたことに気が付き大慌てで逃げようとするが、それよりもガヴの動きははるかに速かった。

 双剣を十字に振るうと、次の瞬間ビッグサイズゴチゾウの外装に切れ目が走りパカリと音を立ててバラバラに切れ飛び散る。

 

「!?!?!?!?」

 

 余りにも鋭い一撃に何が起きたかわからないビッグサイズゴチゾウに、一斉にショウマさんのゴチゾウたちが群がったかと思うと、咥えていたヒトプレスを取り出し、エイヤホイヤと柱の影に神輿のように担いで持ち去っていく。

 ヒトプレスが安全な位置に保護された事を確認したガヴがとどめの一撃を放つ。

 無造作に振るわれた剣がビッグサイズゴチゾウを真っ二つに切り裂き真っ二つにした。

 

「これで4つ」

 

 残るヒトプレスはあと1枚。

 俺とガヴはアナザーガヴの正面に立つ。

 

「ふ、ふざけるな! お前ら盾になれ! お、俺はこんなところにいられるか!」

 

 この事態になり、アナザーガヴが恐怖と焦りに満ちた悲鳴を上げる。

 また逃亡を企てる気なのだろう。

 

「三度も逃がすか!」

 

 俺たちが駆け出す一方で、残りのビッグサイズゴチゾウたちがアナザーガヴとの間に壁になろうと立ちふさがる。

 奴の爪ならコンクリートの床も一瞬で穴を掘れるのだろう。

 ったく、面倒な!

 

「うるせぇ! ばーか! 追いかけられてたまるか!」

 

 そう言って、アナザーガヴは地面に爪を突き立てる。

 土砂が宙を舞い、俺が超加速を使おうとした、その瞬間であった。

 

「いっ!? ぎゃあああああああああああ!」

 

 唐突に悲鳴を上げたのは、他でもない今逃げようとしたアナザーガウであった。

 よくよく見れば、床から吹きあがった何かが奴の全身に突き刺さっている。

 

 あれは……、開幕早々に一度砕けたガヴの持つ双剣の破片!?

 

 まさか、ガヴは一度砕けたあの剣の破片をコントロールできるのか!?

 いや、だとすると……あのザクザクチップスフォームを維持したのは、逃亡阻止のため? ヒトプレスの回収が十分可能な事を考慮し、奴がピンチになったら即座に地面にばらまいておいた剣の破片で攻撃に移る為か!?

 驚きを感じつつも、俺の身体はこの状況でやるべき事の為に自然と動く。

 

 壁になったビッグサイズゴチゾウたちをキックで蹴り飛ばすと、アナザーガヴの懐に飛び込む。

 

「もう逃がさんぞ、ライダーチョップ!」

 

 赤いエネルギーを纏った手刀を一閃する。

 チョップが通った軌道、その通り道にあった奴の両腕の爪が根元から斬り飛ばされ、コンクリートの床とぶつかり乾いた音を立てる。

 

「ひっ!? お、俺の爪が!?」

「最後のヒトプレス、返してもらうぞ!」

 

 俺に遅れてアナザーガヴの懐に飛び込んだガヴが剣を振るう。

 奴の腹の口、そこに生えていた牙が斬り飛ばされ口内がむき出しとなる。

 そこにはいつの間にか一体のビッグサイズゴチゾウが収まっており、さらにビッグサイズゴチゾウはヒトプレスを口にくわえていた。

 

「分かりやすいな」

 

 攻撃を受けそうになった時に人質にするために、懐に忍ばせておいたのだろう。

 こういったチンピラの思考は実に読みやすい。

 

 俺は奴の腹の口に両腕を突っ込むと、ビッグサイズゴチゾウをがっしりと掴み力任せに引き抜く。

 

「か、返せ!?」

「ガヴでは無いが、貴様の物ではあるまい。いや、こいつは返すか!」

 

 ビッグサイズゴチゾウからヒトプレスを取り上げると、残ったビッグサイズゴチゾウを元あった奴の腹の口に強引に押し込むと、ついでとばかりにパンチを一発叩き込んでおく。

 無理やり押し込んだのがいけなかったのだろうか。ビッグサイズゴチゾウが奴の腹の口の中で爆発を起こす。

 

「チャージミー! チャージミー! ザクザクチップス! フィニッシュ!!」

 

 さらに、ガヴが腰のレバーを回転させると、収まっていたゴチゾウが必殺技の力を解き放つ。

 ガヴの持っていた双剣が再び粉々に砕けると、その破片がアナザーガヴの身を包み込み高速で飛び回る。

 その鋭い破片に奴の身体は全身がずたずたに切り裂かれていく。

 

「これでっ!」

 

 さらに飛び込んだガヴの真正面から振り下ろした斬撃が奴の身を襲う。

 紫の滑った装甲が一直線に切り裂かれ、さらにはその下から真っ二つとなったアナザーガヴウォッチが転がり落ちて来た。

 ウォッチはそのまま煙を上げ、色を失っていく。

 

「ひぇっ!? うわあああああ!?」

 

 次の瞬間、3mはあろうかという巨体だったアナザーガヴの身が見る見るうちにしぼんでいく。

 後に残されたのは、自慢の爪を失い全身を切り刻まれ尻餅をつくアナグマグラニュートが残るのみだ。

 

 後はこいつを倒すのみ。そう俺が考える俺に紫のフォームに戻ったガヴが片手でハンドサインを送りながら、同時にアナグマグラニュートにこう問いかけた。

 

「どうする? 二度と闇菓子に関わらないか……、この場で俺たちに倒されるか!」

 

 まさか、この状態でも勧告を出すとは。

 ある意味こいつも闇菓子という危険物の被害者なのだろうが、それにしても優しいというか、痛々しいというか……。

 なにせ、言葉とは裏腹に腰を低く落とし、腰のベルトには新たなゴチゾウがセットされており、片足にはオレンジのグミのブーツが装着されている。

 

 どのような回答がもたらされるのか、分かってはいるのだろう。

 

 そしてショウマさんの淡い願望を打ち砕くように、アナグマグラニュートは触れてはいけない品に魅入られた愚かな回答を導き出していた。

 

「や、闇菓子を食べるなって言うのか!?  な、何を馬鹿な事を言っていやがる! 闇菓子を味わえない生活になんて戻れるかぁ!」

 

 そう叫ぶと、鉤爪が半ば折れた腕を振り上げガヴに向かってくる。

 俺は二人の間に立ち入ると、奴の腕を掴み取った。

 言葉は掛けない。ショッカーライダーの俺に何か言えた義理ではないからだ。

 

 ただ、無言でつかんだ腕を固める動作のまま、奴の身を宙に投げ飛ばす。

 廃工場の天井をぶち破り、アナグマグラニュートは空高くに舞い上がる。

 

 そして、俺とガヴはほぼ同時に跳躍をした。

 

「チャージミー! チャージミー! キッキングミ!」

 

 ショウマさんのゴチゾウの軽快な叫びを耳にしながら、俺とガヴは同時に宙を反転し、キックの体勢を取る。

 

「ライダーキック!」

「でやああああああ!」

 

 次の瞬間、俺とショウマさんの脚がアナグマグラニュートの胴体に突き刺さる。

 投げ飛ばされた時以上の速度でグラニュートは遥か天高くまで吹き飛ばされ、そして粉々に砕け爆散した。

 それを確認した俺たちは、やはりほぼ同時に着地をした。

 

「ヒトプレスは頼む。俺はいかなきゃならない」

 

 グラニュートとの戦いは人類を守るための戦いかもしれないが、ここからは悪党同士の小競り合いだ。

 仮面ライダーが関わるべきではない。

 そんな俺の言葉に、ショウマさんは首を横に振りこう答えた。

 

「そう言う訳にはいかないよ。俺も行くよ。今度は俺が助ける番だ」

 

 

 ※※※※※

 

 

 ディケイドとウォズニセイバーの攻防は一進一退の様子を呈していた。

 双方カブトの力、クロックアップを発動しての超高速の戦闘だ。タキオンを観測できる俺の目でも追うのがやっとだ。

 そんな中、ディケイドカブトとカブトニセイバーはまるで剣舞のような精密な動きで剣を打ち合う。

 止まった時の中で時折硬音と火花が飛び散る。

 

 そんな実力者同士の超高速の戦闘にも終わりは来る。

 クロックアップの制限時間が到達するとともに、二人は通常の空間に滲みだしてきた。

 

「やりますね」

 

 距離を取り再び相対するライダーたちは、どちらも大きなダメージは負っていないようだ。

 カブトニセイバーは聖剣を片手で構え、ディケイドカブトは刀身を掌で弄ぶいつものポーズをとっている。

 世界の破壊者は元より、やはりウォズニセイバーも相当な力の持ち主だ。

 

「余裕ぶっている場合か? 他は片付いたようだぞ」 

 

 俺たちの接近に気が付いたのだろう、ディケイドがウォズニセイバーに言葉を投げかける。

 もっとも、その言葉に悪態で返したのは俺だったが。

 

「お前が遅いだけだ。まぁ、都合は良いがな」

 

 グラニュートを倒した俺とガヴだけではなく、追手だったエージェントを倒したのであろうヴァレンとヴラムもそれぞれの得物を構えた姿勢で廃工場の入り口に姿を現す。

 ちょうど、三方向からウォズニセイバーを包囲した形だ。

 

「やれやれ、エージェントとやらも存外だらしがない。足止めにすらならないとは」

 

 余裕の態度を崩さないウォズニセイバーに苛立ちを覚える。

 もっとも、奴の贖罪の言葉などを求めている訳では無い。

 湧き出る殺意を胸の奥底に沈め、灰ウォズの戯言を無視し聞きたい事だけを口にする。

 

「ミクたちの居場所、吐いてもらうぞ」

「巫女様たちの事を聞いてどうすると?」

「取り戻す。その上で貴様らを一人残らず叩き潰す」

 

 俺はショウマさんのような善人ではない。

 改心を期待する気などなく、子供たちの仇であるこいつを許す気など一片たりとも無かった。

 

「彼女たちは自分の意思で教団に残っているのだけどね。ショッカーにいる君と同じように」

「黙れ。そのような事は聞いていない」

 

 仮にそうだとしても、俺のやる事は変わりがない。

 あの子たちが自分の意思だというのなら……それは……。

 

「やれやれ、せい……」

「黙れ! 質問にだけ答えろ!」

 

 限界だった。

 奴が何か言おうと察した瞬間、俺の身体が動く。

 赤いエネルギーを纏った俺の拳と、奴の持つ聖剣がぶつかり合う。

 

 かつては俺の腕や脚を切り捨てたその刃は、今の俺が放つエネルギーフィールドならばそうやすやすとは突破はさせない。

 

 互いのエネルギーが飛び散り、廃工場に残されていたガラクタを貫き炎上させる。

 その衝撃はガヴやその仲間たちが思わず身を守る程だ。

 

「口を割らせる実力も無いのによく吠える。今日は試しに来ただけなのでお暇させていただこう」

 

 

 拳と刃の鍔迫り合いの中、ウォズニセイバーがこんな事を口にする。

 どこまでも舐めた奴だ。

 奴が振るう強めの斬撃を回避しながら、俺は怒りの叫びをあげる。

 

「逃がすかっ!」

「いいや、逃げるね!」

 

 現在のカブトニセイバーの姿なら、クロックアップで逃げる気か?

 確かに、あの超高速の動きなら並のライダーどころか伝説級からですら逃げおおせる可能性はある。

 だが、あれなら対応可能だ。

 

 センサーの感知度を上げ警戒する俺だったが、ウォズニセイバーの行動は予想の外であった。

 奴は腰のバックルからカブトのレジェンドライダーワンダーライドブックを取り外し、その手で本を掲げる。

 

「使いたくは無いが、この事態だ。封じられし天の道に纏わる伝説よ、大神官ウォズの名の下に顕現せよ!」

 

 次の瞬間、唐突に変化は起こった。

 奴の手の中の本がまばゆく輝いたかと思うと、そこには4騎の仮面ライダーが出現していた。

 

 片手に羽根の生えた銃を持つ青い複眼とアシンメトリーな水色の甲冑を纏った仮面ライダー。その名は仮面ライダードレイク。

 黒いスーツに濃いメタリックイエローの装甲。腕に装着する蜂型の機械。仮面ライダーザビー。

 紫の鎧にエメラルドの複眼。片手に持つのは白金の剣。その名は仮面ライダーサソード

 

 そして、赤いスーツに青い複眼。天を突くアンテナ。仮面ライダーカブト。

 

 ガタックやパンチホッパー、キックホッパーの姿が無いのは、パーフェクトゼクターの構成要素を満たす仮面ライダーのみを呼び寄せたからか。

 いや、しかし見た目こそライドブックだが、機能的にはライドウォッチに近いのか、あの本?

 

 いや、考えるのは後だ。

 突如呼び出されたライダーたちの複眼が一斉に輝き、ゆっくりと動き出す。

 まずい!?

 

「ショウマ! ソルベを使え!」

 

 ディケイドカブトが召喚カブトと相対しながら叫ぶ。

 そうか、広範囲に氷結を放てるガヴのソルベなら!

 

 もっとも、その声に反応したのはガヴだけではない。

 召喚サソードと召喚ザビーが一斉にガヴに向かい動き出す。

 

「ショウマ!? くそ、何だよこいつ!?」

「ぼさっとするな!」

 

 ヴァレンとヴラムがガヴを守ろうと動き出すが、それよりも召喚ドレイクの動きが速かった。

 手に持った銃を二人に向けると足元に向かい弾幕を張る。

 

 出鼻をくじかれた二人の動きが止まる中、ザビーとサソードのゼクターから電子音が響き渡る。

 

『CLOCK UP!』

 

 次の瞬間、二人の召喚ライダーの姿がこの世界から掻き消える。

 俺の目の前には怨敵のウォズニセイバーが、ガヴなら対抗できるかもしれない……しれないが……。

 

「畜生!! ブースト!」

 

 次の瞬間、俺の姿もこの世界から掻き消えた事だろう。

 少し前の事件で、クロックアップがなされた停止時間世界への突入方法は身に着けている。

 長時間動けるわけではないが、それでもガヴを守るには十分だ。

 

 俺から見れば緩慢な動きにしか見えない召喚サソードが剣を振り上げガヴに向かっている。

 遅い、あまりにも遅い。かつて戦ったゼクター系ライダーのクロックアップとは雲泥の差だ。

 

 これならクロックアップの世界に突入しなくても、単なる超高速でも対応できるかもしれない。

 制御が甘いのか、そもそも能力自体が劣化しているのか知らないが、これならやれる。

 

 俺は横合いから召喚サソードの頭を回し蹴りで蹴り飛ばす。

 クロックアップの世界で攻撃を受けると思っていなかったのか、召喚サソードはゴムまりのように弾き飛ばされ、廃工場の鉄柱にその身を強かに打ち付けられ動きを止める。

 そんな俺に召喚ザビーが襲い掛かってくる。

 だが、それも緩慢な動きだ。ライダースティングのつもりなのかもしれないが、左腕の動きが丸見えだ。

 奴の腕を受け止めると、そのまま一本背負いに投げ飛ばす。召喚ザビーも何度か地面にバウンドし、廃材の山にぶつかり動きを止める。

 

 もっとも、劣化品と言えどもそこはゼクト系ライダーだ。

 すぐさま膝立ちになり態勢を立て直そうとしている。

 

 それと同時に、クロックアップの世界が消滅する。

 

「ショウマさん、見えていた!?」

「今のは!?」

 

 どうやら、今の動きを感知は出来ていたようだ。

 ほんとこの人、俺の知らない未来の主役ライダーなのかもしれないな。

 

「クロックアップ、詳しい理屈は省くがこいつらが使う時間系超高速機動だ!」

 

 厳密には別物と言って良い能力なのだが、そこまで説明している余裕はない。

 俺やディケイドの焦りを、あるいは考えを悟ったのだろう。ガヴが腰のベルトにアイスクリーム状のブリザードソルベゴチゾウを組み込む。

 

「ブリザードソルベ! ヒエヒエ!」

 

 以前も見た、金色と水色の氷を使うガヴのブリザードソルベフォームがその姿を現す。

 彼はその右腕に力を籠めると、力任せに地面に叩きつける。

 次の瞬間、分厚い氷の板が周囲を廃工場の内部を覆いつくす。

 

 ショウマさんの仲間や俺やディケイドはその氷を飛び上がり回避するが、まだ膝立ちの召喚ザビーや召喚サソードは元より、ヴァレンたちと銃撃戦を行っていたドレイクまでもが足元を氷で固められ動きを止める。

 唯一、ディケイドカブトと戦っていた召喚カブトのみは跳躍して氷の濁流の回避を試みるものの、相対していた奴が悪かった。

 

「逃がすか。お前も凍り付け」

 

 召喚カブトを上回る跳躍を見せたディケイドカブトが跳躍した召喚カブトをキックで叩き落す。

 そのまま奴は氷の濁流にのまれ消えて行った。

 

 召喚ライダーはこれでいい、問題はウォズニセイバーだ。

 この一瞬の攻防の隙に、奴は以前も見た本のページを使ったワープゲートを開いていた。

 このままならば、奴はまた逃げる。通常の加速では間に合わない。

 

「逃がすかぁ!」

 

 すでに二度経験していた。

 コツは掴んだ。

 俺は時間すらエネルギーに変換している。

 

 出来ない理由などどこにも無い。

 

「クロック……ブースト!」

 

 次の瞬間、俺の姿が再びこの世界から掻き消える。

 全身から垂れ流しにされる赤いエネルギーの奔流が、全身の細胞を沸騰させる。

 摂理を無視した存在を縛ろうと纏わりつく時の鎖を引きちぎりながら、俺はウォズニセイバーに向かい跳躍する。

 複眼越しのステータスが真っ赤に染まっていくのも無視して突き進む。

 

 コツは掴んだ。クロックアップに匹敵するもう一段階上の超高速機動、必要ならやるだけだ。

 

「なっ!?  まさかそんな事まで!?」

 

 奴が生み出したワープゲートの端に到達、強引に腕を突き立てる。

 

「あの子たちの仇を、ミクたちへの手がかりを逃がすものか!」

 

 何とか奴を掴もうと、次元の裂け目に切り裂かれながらも腕を伸ばす。

 その腕が、ウォズニセイバーの持つ、すでに抜け殻となっていた本に触れた。その瞬間であった。

 

 

【那由多の世界を超え、赤き瞳は世界を見つめる……】

 

 

 唐突に、ワンダーライドブックに輝きが灯る。

 色が無かったはずの本が黒い色を宿す。

 

 それと同時に、先ほどとは違うベクトルの力が俺とウォズニセイバーを弾き飛ばす。

 叩きつけられるはずの地面は俺の背後には無く、どこともない空間に俺の身体は吸い込まれていった。

 

「アイン!」

「アインロールド!」

 

 ショウマさんと門矢士の焦りを含んだ叫びが俺の耳に届くと同時に、俺の意識は強制的にシャットダウンをさせられた。

 

 

 ※※※※※

 

 

 ここは……

 

 そして俺の意識は回復する。

 辺りはもうだいぶ薄暗い。だいぶ意識を失っていたようだ。

 

 饐えた匂いがするので見渡してみれば、どうやらゴミ袋の山に埋まっていたようだ。

 辺りを見渡せば随分と狭い路地が見える。

 

 どうやら変身は解除されているようだ。

 

 ウォズニセイバーの転移を阻止しようとして、どこか別の場所に飛ばされたという所か。

 

「畜生! 畜生! 畜生!」

 

 苛立ちを籠めて、ビルの壁をぶん殴る。

 変身前の柔な拳の皮が剥け、血がにじむ。

 それもお構いなしに、俺は拳を壁に叩き込み続ける。

 

「チャンスだったんだぞ! 何をやってるんだ!」

 

 灰ウォズが現れたのだ。あの子たちの行方を知る大きなチャンスだったのに。

 仇を討つ絶好の機会だったのに。

 

 鍛え上げたつもりだったのに……。

 

 なぜ、もっと速く動けなかった。

 なぜ、あの程度の衝撃に弾き飛ばされた。

 自身の脆弱さが恨めしい。

 

「畜生!」

 

 最後にもう一発だけ拳を壁に叩き込む。

 少しだけ、ほんの少しだけ落ち着いた。

 

 奴が動き出したのだ。試すためだとほざいていたのなら、また奴は姿を現すはずだ。

 今度こそ、今度こそ逃がさない。

 

 そう考え、路地を離れようとした時だ。

 その路地に、誰かが飛び込んできた。

 

「きゃっ!? 回り込まれて!? えっ!?」

 

 やってきたのは女の子だ。

 まぁ、贔屓目を抜きにしても可愛らしい顔だろう。長く伸ばした髪は金色ではあるが、ミカのように地毛ではない。本来は俺と同じ真っ黒な髪を無理やり金色に染めているのだ。

 だいぶ濃い化粧はしているが、正直似合っていない。俺の記憶が間違ってなければ14歳だ。濃い化粧などをしても滑稽なだけの年齢だ。

 

 学校の制服を着崩しており、無理をした化粧をしている少女。

 恐らくは街を歩けばどこにでも似たような子はいる、そんな少女だ。

 

 それだけなのだが……。

 

「え? 誠太郎? 本物の……?」

「凛……」

 

 俺が知っていたのは小学生の頃だ。

 それより少しだけ背が伸びた少女……、実の妹。

 

 俺という化け物の存在に傷つけられ、泣いていた子供……。

 

 ショッカーに戻る事を決意した時に捨てた過去だった筈なのに、再び過去が俺の目の前に姿を現したのであった。




ガヴ編はひとまず幕を閉じて、次回よりカブト編始まります。

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