ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
全て俺が悪いのだ。
家族との関係は、悪くはなかったと思う。
悪くなかっただけだ。良くも無い。
どこぞかの世界で死んだ何某は、ふと気が付いたらごく平凡より少しだけ裕福な家庭の長男、渡世誠太郎という人間に生まれ変わっていた。
前世の記憶がある事を自覚したのは幼稚園ぐらいか。
今まではっきりとしていなかった記憶が唐突に思い出せるようになったのだ。おそらくは成長に伴い、脳の機能が働きだし過去の記憶が引き出せるようになったのであろう。
そこからは、勉学に勤しんだ。
子供の学習能力を試すのが楽しかった。鍛えれば鍛えるほど運動能力が上がっていくのが楽しかった。
でも、実際の所は単なる現実逃避だ。
前世持ちという化け物を育てる羽目になってしまった両親に対する罪悪感に向き合えなかっただけだった。
そんな奇妙な子供に困惑しつつも親としての責務を果たそうとする両親。彼らに向き合えず、己を鍛える事にのめり込んでいく自分。
そんな中、妹の凜から徐々に嫌われていた。
家族から見たらガリ勉の変な子供でも、周囲からの評価は文武両道の神童だ。
『あれが渡世の妹か……』
『兄に比べて大した事ないな』
『お兄さんを見習ってもっと頑張りなさい』
子供相手に悪意があったわけではないだろう。
だが、無遠慮な評価が凜を襲う。
上手くいけば流石は渡世の妹、失敗すれば渡世の妹も大したことが無いな。そう言われていたらしい。
彼女が元凶の俺を疎み、嫌うまでそう時間はかからなかった。
俺や両親が気が付いた時には、もう後の祭りだ。
『くそ、ショッカーか、こいつら!? 警察を呼んでくるんだ!』
『せ、誠太郎!?」
結局、関係を改善できぬまま、俺は凜の目の前でショッカーに誘拐された。
そして、俺自身のエゴで帰る機会を自らの手で捨てた。
もう一度言おう。全て俺が悪いのだ。
「え? 誠太郎? 本物の……?」
「凛……」
何でこの子がいる?
ウォズニセイバーとの戦闘中に唐突に開いた転送ゲートに落ちたんだよな、俺?
普通に考えれば突発的な事故で凛のいる場所に転移する事などありえない。
「なんで、こんな所に。お前、あのへんな連中に攫われて……。3年以上も、どこをほっつき歩いていたんだよ!」
おそらくは転移の際に何かの力が働いたのだろう。
あの場でそんな真似が出来そうなのはディケイドと灰ウォズだが、あの時の二人にそこまでの余裕は無かったはずだ。
ウォズニセイバーの持つライドブックが何か反応していたのでその効果か、あるいは力ある第三者、しかも俺の事をよく知っている者の干渉の可能性が高い。
前者の場合はもう考察不能なので横に置いておいて、後者の場合は一番の容疑者はショッカー関係者だ。
転移に干渉できる超能力の使い手となると相当数が限られる。
各組織の幹部クラスか、デルザー軍団の誰かだろうか。俺の知る限りこんな真似が出来そうなのは……。
「おい、何とか答えろよ! だんまりかよ、誠太郎!」
そんな事を考えていた俺は、唐突に胸ぐらをつかまれた衝撃で我に返る。
凜の表情は怒りに染まりながらも、目の端には涙がにじんでいた。
誘拐されたはずの兄が唐突に現れたのだ。当然の反応と言えば当然の反応であった。
「あたしの話は無視かよ! 相変わらずだな、クソ野郎!」
「いや、無視していた訳じゃないんだが……」
正直驚きすぎていて、考察に意識を割く事で心の平穏を守っていた事は否めない。
それに、世界征服の片棒を担いでいたなど聞かれても答えられるような話ではなかった。
「ごめん、何も言えない」
結局、こんな拒絶の言葉しか俺は口にできない。
だが、この言葉は当然だが凜を激怒させるには十分な物であった
「何も言えない! 家族にもかよ! 親父とお袋がどれだけ心配していると思うんだ! お前のせいで! お前のせいでうちは無茶苦茶だ!」
本当に彼女の怒りは正当だ。家庭が無茶苦茶になっている事実を俺は知っている。
かつてヨロイ一族ともめた時、家族を人質にしようとした奴がいた。
そちらは二度と同じ考えを起こす奴が出ないよう念入りに始末しておいたのだが、その後も何かあったら情報だけは入る様にしておいたのだ。
その後は特に何もなかったのだが、それでも父が仕事の伝を使い俺を探し続けている事も、母が気を病んでいる事も知っていた。
凜が周囲の視線に耐えきれず遠くの私立中学に入学した事も、そこでもなじめないでいる事も知っている。
ショッカーに攫われた当初はともかく、殺された子供たちの敵討ちや、俺たちの情報を外部に漏らした者への報復、そして攫われた子供の奪還を成し遂げるためにショッカーに残ったのは俺の意思だ。
その為に世界征服という悪事に手を染めるなど分かり切っていたのに、俺はショッカーに戻った。
両親や妹を苦しませることもわかっていた。
凜の言う通りどうしょうもない悪党のクソ野郎なのだ、俺は。
「おい、ガキがいたぞ! こっちだ!」
妹の怒りに何も返せずに立つ尽くしていると、不意に凜が駆け込んで来た路地の入口から男たちの叫び声と複数人の足音が響いてくる。
振り向いてみれば、赤青黄色の頭をした黒いダボっとした服の男が三人ほど駆け込んできていた、そのうち赤頭デブがこちらを指さしている。
どう見てもチーマーか半グレだ。
「やっべ、アニキに気を取られて!」
「友達?」
「どうすればそう見えるんだよ! 目ん玉おかしいのか?」
呆れ顔で半グレを見ながら問いかける俺に、凜が苛立たし気に答える。
良かった。頭が真っ金々になって似合っていない化粧をしてたから少し心配していたが、あんなやつらの仲間になったわけでは無いようである。
まぁ、丁度いいから凜を逃がしてあいつらを叩きのめすか……。
そのまま姿を消せば良い。凜には悪いが、俺と出会ったこと自体が事故みたいなものだ。
「逃げるよ!」
凜は俺の手を引っ張り、半グレ連中が来た方向と逆に走り出す。
ちょ、ちょっとまて!?
「えっ!?」
「何やってたか知らないけど、そんな腑抜けた顔のままならどうせ喧嘩なんてした事ないんだろう!」
え、いや、まぁ、半グレやチーマーやヤクザと喧嘩なんてした事は無い。
連中の相手をするときは掃除がてらに立場をわからせる為の作業だ。
って、引っ張るな、おい!
と、まぁ、俺は凜に引っ張られるまま路地を駆け出し街中に出る。
狭い路地にいた時は夜かと思ったが、まだ日没直後程度でそこまで暗くは無かった。
帰路だろう、人々が進む道を俺と凜は駆けていく。
もっとも、俺はともかく中学生女子である凜の足で男たちを振り切るのは至難の業だ。
もう、面倒だから凜を抱えて走るかな。そうすりゃ楽に振り切れるし。
「うわわっ!? 気を付けろ!」
「すいません!」
「謝っている場合か!」
俺たちは人通りの少ない生活道路を駆けていく。
仕事帰りだろう中年サラリーマンを躱し、金属製のボウルを持った作務衣姿の男とぶつかりそうになりながら俺たちはさらに駆けていく。
とはいえ、相変わらずチンピラ連中の足音は振り切れない。
「待ちやがれ!」
「邪魔だ、どきやがれ!」
唐突に何かを殴打する音と、誰かが転ぶ音が聞こえてくる。
慌てて振り返ってみれば、先ほどぶつかりそうになったサラリーマンを、赤髪デブが付き飛ばしていた。
あの連中、見境ないな。
流石にこれ以上は見過ごしておけないか。俺は凜の腕を振りほどくとその場で足を止める。
「ちょっ、ちょっと誠太郎!?」
「凜、お前は逃げておけ」
凜が慌てて俺を引き留めようとするが、流石に一般人に危害を加えるチンピラを放置はできない。
実際、青頭ののっぽが進路上を歩いていた作務衣の男までつき飛ばそうと腕を振るっていた。
「てめえ、邪魔だ! 退きやがれ!」
流石にこの位置からでは間に会わないか!?
チンピラたちの暴力を止めようと駆け出す俺であったが、そこから正しく神業を目にする。
「なぜ俺が退く必要がある?」
素人ではあるが、格闘経験があるのか、もしくは筋トレをやっているタイプだったのだろう。
青髪のっぽは意外と力強く、作務衣姿の男を突き飛ばそうと腕を振るう。
荒事に慣れていない普通の人間なら、回避する事は難しいだろう。
だが、作務衣の男は軽く上半身を反らしただけで青髪のっぽの腕を避ける。
手に持っているボウルを揺らさない。鍛え上げられた体幹と超人めいた度胸を持つ者のみに許された最小限の動きだ。
男を突き飛ばすために振るわれた腕は、寸前で当たる先を失った青髪のっぽは、自分でつけた勢いを殺す事が出来ずに体勢を崩す事になる。
「俺の行く道は俺が決める。通りすがりの指図など聞く必要などない」
それだけではない。
作務衣の男は腕が通り過ぎた次の瞬間には、反らした体勢を元に戻していた。
彼の動きは本当にそれだけだ。
だが、青髪のっぽの目には作務衣の男に唐突に接近されたかのように映っただろう。
ここからは、生理現象に伴う反射的な動きだ。青髪のっぽは衝突を避けるべく身体をひねってしまい、上半身と下半身の動きがバラバラになる。
元々体勢が崩れていたところに、回避運動による上半身と下半身の動きの不一致。その結果彼は足をもつれさせて盛大に転倒をする。
そのまま転倒した青髪のっぽは作務衣の男とは反対方向、横を通り過ぎようとした黄色髪チビに向かって倒れ込む。
「え、いや、うわわわわっ!?」
「ひ、なにを!? うわわわわっ!?」
黄色髪チビにとっては完全なる不意打ちだ。
抵抗などする事も出来ず青髪のっぽの転倒に巻き込まれ、受け身も取れずにアスファルトの道路にダイブをする。
ありゃ盛大に擦りむいたな。
それにしても、僅かな回避動作だけで青髪のっぽの動きを支配し、転倒にまで持っていった。しかも、黄色髪チビを巻き込む形もおそらくは計算の内だ。
あの作務衣の男、何らかの武術の達人か何かか?
「て、てめえ! 何しやがる!」
一方、邪魔なサラリーマンを突き飛ばしながらようやく追いついて来た赤頭デブが派手に転倒をした二人を見て血相を変える。
頭のメモリ数が低いのか、奴の怒りに満ちた目は追っていたはずの俺たちでは無く、この事態を引き起こした作務衣の男に向く。
「なめやがって!」
そのまま赤髪デブはオーバーアクションで拳を振りかざすと、作務衣の男に向かう。
見た感じ、3人組の中では一番力がありそうだ。
でもね……。
「隙だらけだ」
そんな赤頭の懐に入り込んでいたのは、当然俺だ。
ぶっちゃけ、こんなチャンスを見逃してやる気は無い。
「ぐぇぇぇぇ!」
まずは腰の入ったパンチを一発、奴の腹に叩き込んでやる。
当然だが改造人間のパワーは使っていない。色々叩き込まれた戦闘技術だけで十分だ。
その一発だけで、赤髪デブは口からなんか液体を垂らしながら、くの字に体を曲げて悶絶する。
「とりあえず寝ておけ」
丁度良い位置に顎が落ちて来た。
予備動作など抜きに、拳を天に向かって振り上げる。狙うのは赤髪デブのあごの先端。
正確に降りぬかれた拳の衝撃は、男の脳に伝わり奴の意識をあっさりと刈り取る。
さらに仕上げとばかりに回し蹴りを一発。
意識を失い抵抗する術を失った赤髪デブは、俺の狙い通りに転倒していた青髪のっぽと黄色髪チビの傍までよろけると、どさりと倒れた。
「ほう」
作務衣の男だろう。俺の手際を見て関心したかのような声を上げる。やはり何かの達人か何かか。
一方の青頭と黄色頭は、一瞬でのされた赤髪を見て目を白黒させていた。
「どうする、事情は分からんが、うちの妹に何の用だ? これ以上暴れるなら容赦はしないぞ」
言葉の片隅に、自ら放つ気迫にゴリッとしたものをあえて混ぜる。
素人さんに向ける気配では無いが、無駄に痛めつけて医療費を掛けさせるよりは良いだろう。
「く、くそう! 逃げるぞ!」
「面は覚えたからな! リョーマさんが出てきたらこんなもんじゃ済まねえぞ、クソガキども!」
リョーマさんって、こいつらのボスか何かか。まぁ、どうでも良いか。
男たちはテンプレとも言って良い捨て台詞を吐くと、慌てて立ち上がりまだ伸びている赤頭デブを抱え、来た道を逃げ去っていく。
まあ、とりあえずはアレは後で良いだろう。
事情は凜から聞くか。教えてもらえないかもしれないけど、こっそり何とかするのは得意技だ。
それと、迷惑をかけた作務衣姿の男とサラリーマンさんを……って、サラリーマンさんはいないな。
作務衣の人にはちゃんとお礼をしておかないとな。別に俺が何かをしたわけじゃないが、迷惑をかけた形になったわけだし。
「助けていただきありがとうございます。すいません、ご迷惑をおかけしました」
そして、ここまで礼の言葉をちゃんと言えた事を褒めて欲しい。
改め作務衣の男の顔を確認した時、俺が受けた衝撃は相当なものであったのだ。
鋭い目つきの整った顔立ちの男だった。髪型はだいぶワイルドな髪量の多い形だが、不思議と粗暴感は感じられない。
この男の持つ知性と自信が、下手をすれば粗野に見えかねない容姿を気品あるものに変換しているのだろう。
その作務衣の男は知っている顔だ。だが、直接面識がある訳では無い。
「迷惑という程ではない。目の前の小石をはねのけただけだ」
ああ、うん。
あんたならそうだろう。この程度危機という程ではない。
「せ、誠太郎!? って、何、こいつ」
チンピラが逃げて行ったことを確認した凜が、恐る恐る引き返してくる。
恩人に対して失礼だろうと思う反面、あっという間にチンピラ二人をのしてしまった相手を疑問に思う気持ちはよくわかる。
そんな凜の疑問に、目の前の男はその指を天に向けながらこう返した。
「おばあちゃんはこう言っていた。天の道を往き、総てを司る男」
そう言うと、男は俺たちに振り向き指をさす。
「俺の名は、天道総司」
そう、男の名は天道総司。そしてもう一つの名前は、仮面ライダーカブト。
かつて地球を侵略しようとした二種の宇宙人、ワームとネイティブを相手に戦い抜き、ついには地球を救った伝説の男が俺の目の前に立っていた。
やはり天道にはこれを言わせないと……。
最近文字数が1万字前後になり更新が滞っていたので、4000~6000字を目指してみる。
実際、どれくらいの数量が読みやすいのか割と悩んでいます。