ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
余りにも唐突な事態だった。
ウォズニセイバーという敵ライダーと戦っていた仮面ライダーアインロールドが、謎のワームホールに飲み込まれ唐突に行方不明となってしまったのだ。
知り合ったばかりの相手ではあるが、だからと言って唐突に消えて良い訳が無い。
この状況を少しでも理解していそうな門矢士も、ウォズニセイバーが逃げるといつの間にかいずこかに消えていた。
アインロールドが士に怒る理由もわかるなーなどと、流石のショウマも少し呆れたのは此処だけの秘密だ。
かつてとあるマッドサイエンティストが狂気の実験を繰り返していた魔窟、そして現在はラキアが拠点として使っている部屋に小さな箱のような一団が駆け込んでくる。
それに気が付いたショウマはしゃがみ込むと、その一団を掌に載せ、彼らの言葉に耳を傾ける。
「駄目だ、少なくともこの町にはいないみたいだ」
ショウマのお願いを聞いてアインロールドを探し回っていたゴチゾウたち。その最後の一団の報告を聞いたショウマが仲間たちにそう告げる。
大量にいるゴチゾウが行う人海戦術はショウマの強みの一つだ。その時々にもよるが百体以上のゴチゾウが町に放たれれば、大抵の情報を集める事が可能である。
だが、そのゴチゾウ軍団の探索網を以てしても消えたアインロールドを見つける事は出来なかった。
こうなると、まったく別の場所に飛ばされたと考えるより他はない。
「大丈夫かな」
「仮面ライダーなのだろう。そう簡単にくたばりはしないだろう」
心配そうなショウマに対して、ラキアはどこか冷淡だ。
短い時間ではあったが人となりを見ていたショウマと、怪しい協力者の域を出ないラキアの差でしかない。
そんな中、一人端末を操作していた絆斗が、唐突に大きな声を上げた。
「やっぱり、こいつだ!」
「ちょっ、どうしたの絆斗?」
余りの大声にびっくりしたゴチゾウたちが転げ落ちる中、ショウマとラキアが絆斗に振り向いた。
一方の絆斗は大声を上げてしまった事をまず反省し、次にライターとしての職業倫理を一瞬考える。
情報に関する取扱いに関するコンプライアンス意識は、耳にタコができるほど師匠から叩き込まれていた。
とはいえ、人命が掛かっている状況だ。隠している場合でもないだろう。
絆斗は端末を持ち上げると、ショウマとラキアに画面を見せた。
画面を覗き込んだ二人が見たのは、中学校の制服だろうブレザー姿の少年の姿であった。
「えっ? これって?」
「アインロールドか?」
そう、自分たちが見た少年より若干幼いものの、そこに映っていたのはアインロールドと名乗った少年の姿だった。
「こいつの名前は渡世誠太郎。怪物に連れ去られた中学生だ」
絆斗は自らの母を連れ去った怪人を追いかけるべく、以前より自らと同じ境遇の人々から情報を集めていた。
この渡世誠太郎も絆斗が取材した人間の一人だ。
「小学生だった妹の送り迎えをしている最中に怪物に襲われ、妹を逃がすために一人残り連れ去られたらしい」
当時、不審者の目撃情報が警察に寄せられていた。そのため、仕事で忙しい母に替わり妹の送り迎えをやっていたそうだ。
そこを怪物に襲われ、妹を逃がすために一人その場に残り連れ去られたという。
「目撃者は妹のみ、遺留品から誘拐されたと見て警察は捜索を行ったが発見には至らなかった」
取材で何度も経験した光景ではあったが、憔悴した両親と、荒れた雰囲気の妹が印象的であった。
特に妹と個人的に話す機会を得たが、目の前で兄が攫われた事は彼女の心に大きな傷を残しているようであった。
「まって、なんでそんな連れ去られた奴が仮面ライダーに?」
「そこで改造されたのだろうな。だが、家族がいるか……」
ラキアの呟きは、多分に憤りと困惑が混ざっている。
それはこの場にいる者たちすべてに共通する、大切な存在を理不尽に奪われた者の感情ではあった。
だが、そんな中ショウマはふと何かに気が付く。
「あれ? 絆斗。アイン……いや、誠太郎君の家族に会ったの?」
「ああ、半年ぐらい前にな。それがどうした?」
「でも、あのウォズニセイバーが言っていたんだ。『妹や弟の仇』『誘拐した』って」
「えっ? ちょっとまて!? 家族は両親と妹だけの筈だぞ?」
「でも……。アインの怒りは本物だった」
ショウマの疑問に取材メモを確認するが、絆斗が話を聞いた凜以外の妹はいなかった。
「いったい、どういう事だ?」
ショウマたちが困惑するのも無理もない。
血縁者ではない別の子供たちから兄と呼ばれ慕われていたというだけの話なのだが、そんな事は彼らにはわからない。
しばらく3人は押し黙り、動く事を決意したのはやはり絆斗であった。
「わり、ちょっと俺出かけてくるわ。このままにしておくのは気持ちが悪い」
グラニュートとは関係の無い話だろう。家族の敵討ちを、あるいはグラニュートによる闇菓子製造を阻止するために戦っている絆斗が行く意味はない。
だが、そこで何もしないでいられる程、辛木田絆斗という人間は物分かりがよくなかった。
「あ、ちょっと絆斗!?」
「まて、ショウマ。ここはあいつに任せよう」
「え……。あ、そうだね」
言うが早いが飛び出していく絆斗を追おうとするが、グラニュートたちが多数潜伏し、闇菓子の材料に人を攫っているこの町から全員が離れるのはまずかった。
なにより、ショウマやラキアは人間界に詳しくはない。住み慣れた町ならまだしも、遠くに出向いて役に立てるとは思えなかった。
※※※※※
あちゃー、完全に壊れているわ。
俺は何も映らなくなったスマホを懐に戻し小さくため息をつく。
共闘した義理でショウマさんたちに無事な事だけ連絡を入れておきたかったのだが、これでは無理だな。
本郷さんや結城博士あたりなら一回電話番号を聞けば覚えてしまうのだろうが、残念ながら俺は超人じみた記憶力を持っていない。
まぁ、いいや。
ショッカーの連中が接触してくるだろうから、その時に修理を頼もう。
「何スマホを見ているんだよ、誠太郎」
「壊れてるんだよ、ほら」
お手洗いから戻ってきた凜がスマホをいじっていた事を目ざとく見つけ問い詰めてくる。
まぁ、行方不明だった奴が何処に連絡をしていたのだと思う気持ちはわかるけど。
「あ、本当だ。割れているじゃん」
あの後、チンピラを追い返した俺たちは作務衣姿の謎の男、天道総司にお礼の言葉を言って早々に別れた。
そりゃそうだ、彼と行動を共にする理由は無い。
んで、これからどうするかと考え、とりあえずは喫茶店で一時休憩をすることにしたわけだ。
お互いに問いただしたい事があるしな。
「そっちはいいや。で、3年間何処で何をしていたんだよ、あんた」
似合わない化粧をトイレで落としたのだろう。髪が金色の事を除いては、記憶の中にある凜と同じ顔に戻っている。
もっとも、目つきは相変わらず鋭いというか、怖い。
「色々だ」
ショッカーでおおよその悪事には加担している。
人様に胸を張って言えるようなことはしていない。
俺は小さくため息をつき答えた。
「色々って……まだそんな事を!」
「そういうお前はなんなんだ、なんであんなチンピラに追われていたんだよ」
「……人を探してたんだよ」
「人?」
んで、人探しをしていたらあのチンピラ連中に絡まれたという訳か。
まったく、中学生のやる事じゃない。
「お前な、何を危ない事を……」
「あんたが、誠太郎がいるって聞いたんだよ!」
思わず昔のように注意しそうになった俺の声を遮ったのは、凜の叫び声だった。
椅子を転倒させる勢いで立ち上がり、机を叩くその姿に一瞬店の注目がこちらに集まる。
だが、俺はそれを聞いた瞬間に世界が暗転した、その気分を味わった。
「おい、まて。凜。今なんて言った」
「聞いたんだよ、田中さんがあんたを渋谷で見たって……変な連中と一緒にいたって……。親父とお袋も心配していて……お母さんなんか見ていられなくて……」
「田中って中学生の時の? いや、まて……」
いや、変な連中は周りに多いのでそこは置いておくとして、それはおかしい。
「凜、それはいつの話だ?」
「え、な、何を……?」
「良いから話してくれ。俺の予想が正しければ……」
急いで動かないと大変な事態になる。いや、下手すりゃもうなっている可能性もある。
急に雰囲気が変わり焦りだした俺に面を食らったのか、凜は椅子に座りなおしながら素直にこう答える。
「え、えっと、聞いたのは3日前。先週見たって」
「くそっ、確定だ」
舐めた真似をしやがって……。
田中ってのは中学生の時の同級生の事だが、そいつの事はとりあえずどうでも良い。
問題は俺を見かけたと言った事だ。
先週の俺は会議の準備の為にショッカーの基地と日常の往復で終わっており渋谷などに行っていない。
それどころか、ショッカーに誘拐されてから素顔で渋谷に行った事は一度も無かった。
アインロールドとしてなら狩りで数回立ち入ったが、その場合は用件が済んだら速やかに撤退をしており、あの町で素顔を晒した記憶は無い。
そもそも、隕石落下事件で一度壊滅して以降、渋谷はこちらの住民にとっては色々と面倒な土地の一つとなっている。
復興が進みかつてと遜色のない繁華街に戻った現在でも、ある種のパワースポット扱いだ。
そんな土地に、俺と同じ姿の存在がいた。
ワームやネイティブ、ロイミュードの例を上げるまでもなく、人間に擬態できる存在は多い。
俺を狙ったのか、渡世誠太郎の姿が必要だったのかは分からないが、何かしらの目的があるのは確実だ。
「凜、家に帰れ……いや、今帰るのはまずいか」
「ちょ、何だよ、いきなり命令して!」
唐突に仕切りだした俺に凜が気色ばむが、そんな事を気にしている余裕は無かった。
くそ、こうなるとスマホの故障が痛いな。サイクロンヘルは……こっちに向かって来ているがまだ遠いな。俺の位置情報が確認できて直ぐ動き出したのだろうが、まだ合流には時間がかかる。
連絡手段の喪失が正直痛い。
「そういう場合じゃないんだ。そうだ、凜。父さんか母さんに電話は出来るか?」
「え、そりゃできるけど……。何を……」
「連絡……。いや、ワームだと。すぐ行かないと」
ロイミュードあたりならそうでもないが、ワームは姿だけでなく相手の記憶までコピーをするので判別が難しかった。
電話で会話をした程度でぼろを出すとは思えない。
慌てて椅子を立ち上がろうとした俺だったが、その腕を当然のごとく凜が掴む。
「勝手にどこ行こうとするんだよ!」
「どこってな……」
凜からしてみりゃ行方不明人がまた勝手にどこかに行こうとするのは止めるか。
とはいえ、急いで両親の安否を確認しないとまずい。
「あんたを逃がすわけにはいかないんだよ」
何を?
一瞬、この凜も……などと思ったが、そういう話では無かった。
ちょうどこのタイミングで、入り口が開き店に2人の男が入ってきた。彼らはこちらを確認すると一直線に俺たちの席にやってくる。
二人とも身分証明書を提示しながらだ。
うん、警察なんだ。
「渡世凜さんですね」
「はい」
「凜、お前なぁ……トイレで通報したのか?」
つまり、こういう事なのだろう。先ほどトイレに行った時に警察に通報しやがったな、こいつ。
呆れる俺に、凜がふふんと勝ち誇った顔でこう言った。
「そうよ。3年間も行方不明だったんだ。見つけたら警察ぐらい呼ぶわ」
そこまで逃がさない気かよ!
うん、逃がさないよね、普通。
まぁ、後で消えるからそこはどうでも良いとして、ここで暴れる訳にもいかないよなぁ……。
「渡世誠太郎君だね。悪いけど……」
「ついて来いっていうんでしょう」
ため息をつくと、俺は椅子から立ち上がる。
とりあえず凜だけは守らんとなぁ……。
俺はそんな事を考えながら警官たちについていく。凜は……。隣だな。
とりあえず手だけ繋いでおくか。念の為だ。
「誠太郎?」
「良いから、少し黙っていろ」
唐突に手を繋いできたきしょい兄だが、ここは我慢してもらおう。
店を出ると、広い駐車場の片隅を白と黒で塗られたパトカーが占拠していた。
問題はそのパトカーの前になにやら赤いバイクとやたら偉そうな男が待っていた事だ。
ああ、やっぱり……。
「お、お前は?」
「渡世誠太郎だな」
偉そうな不審者へ警察が声をかける一方で、声を掛けられた偉そうな男は警官などいないかのように俺に話しかけてくる。
まぁ、そういう男ですよね、あなた。
今日何度目だろうか。深いため息をつきながら唐突に表れた天道さんの問いかけに応える。
「天道さんでしたっけ。夕方に会ったのは偶然じゃなかったのかな?」
「いや、あれは偶然だ。最近美味い豆腐屋が出来たと聞いたのでな」
すごい確率だな、それは。
誰かのお膳立てもあるのだろうが、この場合は文句より感謝するべきだろう。
まったく、厄介事だけが押し寄せてきて嫌になるよ。
「渡世君、君の知りあ……」
不審者と朗らかに話す俺の態度に警察が困惑する中、もし普通の人間だったらごめんなさいと内心で謝罪の言葉を述べつつ、右にいた警官に対して唐突に回し蹴りを決める。
それも、夕方のチンピラに対しての手加減モードではない。改造人間として変身前の全力のキックだ。
変身前とて、標識板のポールを軽くへし折る程度の事が出来るキックだ。
唐突な攻撃を受けた警官は、俺のキックに吹き飛ばされ……やっぱ踏みとどまったか。
そんな気はしていた。
「誠太郎!?」
凜が驚きの声を上げるが、それにかまわずもう一人の警官を殴り飛ばす。
キックほどの不意打ちにはならなかったようで、改造人間のパワーでも後退させるのが精いっぱいであった。
こっちもか……。
日本の警察は間違いなく優秀だ。だが、それでも緊急性が無い場合、しかも中学生からの通報なら出動まで時間がかかる。
凜がトイレで通報してから数分。
網を張っていない限り、警察の動きが早すぎるのだ。
「夕方も思ったが、良い動きだな」
「ありがとうございます。あまり褒められた特技じゃないんですけどね」
悪魔の技を無理やり叩き込まれたか、人を守るべき技術を盗んだか。どのみち褒められた特技ではない。
「おばあちゃんが言っていた。鍛え上げられた技は全てが尊い。要は使い方だ」
なら俺は失格だな。
そんな事を考えている最中に変化は起こる。
警官たちの姿が不意に歪む。
表面が溶けるように、テスクチャを張り替えるように人の姿が歪み、その奥底からサナギやダンゴムシを連想させる巨大な頭部を持つ緑色の化け物がにじみ出てくる。
ワーム、かつてこの地球を侵略しようとやって来た宇宙人の一種。
その最大の特徴は姿かたちどころか記憶すら完全に複製する擬態化能力と、成虫に進化すると使用可能になる超高速機動、クロックアップだろう。
対話はほぼ不能。一部例外はあるが、本能の赴くままに自らの種を増やし、敵対種を滅ぼそうとする宇宙の害悪だ。
かつて、ある男の執念と献身の末に地球上のワームは完全に駆逐された。
だが、近年地球を襲った隕石雨に紛れ、再び地球にその姿を現した人類の外敵だ。
「お、お巡りさん!? へ、え?」
唐突に姿を変えた警官たちに、凜が呆然とした表情で立ち尽くす。
まぁ、無理もない。再度姿を現すようになったとはいえ、かつてに比べれば小勢力だ。
知識としては知っていても、あれが何なのか凜にはわからないだろう。
しかたない、害虫駆除と……。
「今はやめておけ。ややこしくなる」
変身をしようとした俺を、いつの間にか側に来ていた天道さんが手の動きで制する。
「お前は妹を守っておけ」
彼は俺を制した手の動きを止めることなく、その指は天を衝く。
その動きに導かれ、赤い閃光が夜空を切り裂く。
二体のワームの目前を横切ったそれは、この時を待ちわびたかのように、主の掌に収まる。
それはカブトムシを模した赤いマシン、カブトゼクター。
「変身!」
天道さんはゆっくりと腕を顔の前を通過させ、腰の位置まで落とすと一気にカブトゼクターを腰のベルトにセットする。
『HENSSHIN!』
カブトゼクターより六角形のヘクスが天道さんの身を包んでいく。
重厚な銀の甲冑がその肢体を覆い、青い複眼のヘルメットが頭部を守る。
その名は、仮面ライダーカブト。
俺たちの目の前に、伝説の仮面ライダーがまた一人その姿を現すのであった。
Q.なぜ天道が主人公の事を知っているのか
A.天道だから