ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
鳴海探偵事務所のそう広くないオフィスに、タイプライターが軽快な音を奏でる。
事件が終われば、当然だがその記録を残さなければならない。
それは先代の頃より使われている、もはや骨董品とも呼べるタイプライターの役目だった。
姉ヶ崎峰子は逮捕された……ものの、その身柄を錬金連合と警察、どちらが抑えるかでもめているらしい……というのは、黒鋼スパナと照井からの情報だ。
その後の調査でガイアメモリの使用のみならず、学生時代からの余罪がボロボロと出てきた。さらにはショッカーなどの特殊犯罪を行う組織に所属していた時期もあるらしく、いくつかの超常事件への関与が疑われているらしい。
このあたりの組織間の政治取引は翔太郎と関わりの無い世界の話だが、できうる限りあの女性の罪が裁かれ、出来ることなら自身の罪と……目を背け続けていたものと向き合ってほしいと翔太郎は勝手ながら願った。
茂木健太に関しては、なんとも妙な事態になった。
まず、警察で保管されていた彼の遺体のサンプルがすべて消滅したらしい。スパナの予測通り、ここ1年ほど活動していた茂木は峰子の作り出したホムンクルスだった。
そして本物の茂木だが、どうも峰子と再会してすぐにすり替わっていたらしく、ここ1年の彼女の違法行為の数々とは何の関わりもなかった。
もっとも、茂木自身も過去の余罪はあった。
翔太郎の予想した通り学生時代の彼は超常の技術に魅せられ、それを求めショッカーのフロント企業の疑いのある八伊木製薬の奨学生となった。だが、奨学生がそのような技術に触れる機会などある筈もなく、悶々とした日々を過ごしていた所、錬金術を使う姉ヶ崎峰子の存在を知り、言葉巧みに彼女に近づいたらしい。
だが、実際に超常の技術……姉ヶ崎に近づいてみたものの、彼女の行う非道な実験の数々に怖気づき、大学卒業とともに峰子が錬金連合を離れる事もあり関係を断ち超常の技術に対する探究も諦めたそうだ。
その後地元に帰り八伊木製薬に就職、平凡な日々を過ごしていたのだが……悪縁は巡るようで風都で彼女と再会して囚われたようだ。
救出された茂木は警察に保護されるや否や、聞かれもしない超常犯罪を含む余罪をべらべらと自白したらしい。本人も罪を償う意思はあるようなので、罪を償い更正して欲しいものだ。
八伊木製薬だが、当然だが捜査のメスが入った……のだが、こちらも大混乱しているそうだ。問題の風都研究所は所長の茂木以下、主要な人間はホムンクルスに入れ替えられるか洗脳されていた。本社側は違法な研究や武器の調達に関して一切の関わりが無かった。
さらに、兼ねてから噂だったショッカーのフロント企業の一件だが、押収した資料には証拠となるものは何も残っていなかった。
役員や関係者に対する取り調べは続いているものの、このままでは峰子の個人的な犯罪……となる公算が高かった。
とりあえず姉ヶ崎峰子が持ち込んだ、一つの事件は終わった。
そう、終わったのだが……。
「ここのところ難しい顔をしているね、翔太郎」
「まあな、事件が終わった気がしねぇ」
相棒のフィリップの言葉に、振り向きもせず翔太郎は答える。
「謎だけを残していったよね、彼……」
フィリップも苦い表情を浮かべ、公園での戦いの後の事を思い出した。
セーブドーパントは消滅し、意識を失った姉ヶ崎峰子のみが残る。ガイアメモリは砕かれ、簡易ホムンクルスから作られた魔獣もすべて消えた。
だが、二人のライダーは変身を解かず、警戒を一切緩めない。それはこの場にいる第三のライダーを警戒しての事だ。
当の第三のライダー……アインロールドはどこか飄々とした様子でこちらを眺めていたが、不意にその姿が掻き消える。
「なっ!?」
警戒を解いてはいない、油断をしたわけでもない。注意も逸らしていない。
だが、二人の目前からアインロールドは姿を消し、次の瞬間には倒れている峰子の傍で片膝をつき、何かを物色していた。やがて小さな水筒程度の筒を取り出し独り言をつぶやく。
「研究所には無かったが……、こいつ自身が持っていたか……」
「ブラックライダー、てめぇ……え?」
翔太郎が怒りの感情を表そうとして、だがその感情が急速にしぼむ。
それほどアインロールドの姿は痛ましかった。赤い複眼の片方にはひびが入り、硬質のパーツには爪痕が残る。業火にあぶられ続けた強化スーツは、あちこちに焦げ跡が残っていた。
短時間とはいえ30体以上の魔獣を一人で引き受けたのだ。動けないほどではないにせよ、満身創痍には違いない。
この姿を見て怒りを維持できるほど、左翔太郎という人間は厳しく成り切れない。
「何のつもりだ、ブラックライダーとやら」
言葉に詰まった翔太郎を引き継ぐ形で、ヴァルバラドがいつでも飛び掛かれる構えをとりながら問いかける。
「何もどうも、俺の任務を果たさせてもらっただけだ」
「任務?」
おそらくはあの筒がそうなのだろう。
これ以上の答えは無いか……そう考えるがアインロールドは意外にも素直に答える。
「この女が調達したネビュラガスだ。これが俺の目的なのでな」
「ネビュラガス!?」
ネビュラガス……最近闇のマーケットで出回っている、宇宙由来といわれる特殊な物質だ。人体に投与することにより、人を怪物へと改造するという。
当然だがWの二人もヴァルバラドもその危険なガスの事は知っていた。ゆえに、二人のライダーが最大限の警戒を示す。
「貴様、それをどうするつもりだ!? 回答によっては……」
「どうするもこうするもな……、こうするのさ」
芝居ががった仕草で右手に握った特殊ケースを見せるアインロールドだが、次の瞬間エネルギーを込めて筒を握り潰し、更には中身のガスも手に込めたエネルギーで消し飛ばす。
危険なガスはアインロールドの放つエネルギーに触れると焼き払われ、何の悪意を振りまくことも無くこの世から消滅していった。
「なっ!?」
ショッカーライダーとは思えない行動に、翔太郎だけでなくヴァルバラドも絶句する。
「アマゾン細胞とネビュラガス……この両物質の奪取ないし処分が俺の任務だ。今から貴様らと一戦を交えるのは骨なのでな、ここで消し飛ばさせてもらった」
「つまり、目的は果たしたと?」
フィリップの問いかけに、アインロールドは気負わず答える。
「ああ、早々に退散させてもらうとしよう」
「逃がすと思うか! ブラックライダー!」
「俺をブラックと呼ぶな……」
気色ばみ踏み込もうとするヴァルバラドの機先を制し、アインロールドは再び姿を消す。
気が付くと、かなり距離の離れた場所にその姿があった。
「そうそう、一つ忠告しておこう。我らショッカーが貴様ら仮面ライダーにより打撃を受けてからおよそ一年……そろそろ次の戦いが起きるぞ」
「何を企んでいる!?」
「我らは何も。だが、ショッカーという重石が消え闇の勢力の動きが活発化してきている。そこの愚か者が危険な物質を手に入れられたのは、どこぞの組織が貴様らを牽制するため。……今後起こるだろう数々の戦いの予兆に過ぎない」
闇の世界の勢力図が大きく動く。
アインロールドの言葉にライダーたちに緊張が走る。彼の言葉が嘘とは思えなかった。
「それをなぜ俺たちに伝える」
翔太郎の言葉に、アインロールドは一瞬だけ、本当に一瞬だけまるで困ったかのような、妙な幼さを見せる仕草を見せる。
だが、次の瞬間には再び高慢な姿を取り戻した。
「なあに、俺個人が貴様ら……仮面ライダーの活躍を期待しているのさ」
本気なのか馬鹿にしているのか……なんとも判断が付きにくい言葉を残し、今度こそ本当にアインロールドの姿は風の中に消えていった。
「好き勝手やって立ち去っていきやがったな、あいつ……」
「忠告と言いながら、何も言っていないに等しいしね」
こちらの気勢を削ぎ煙に巻く気で会話を続けたのだろう。嘘は言っていないだろうが、会話の中身は無いに等しかった。
あのブラックライダー……アインロールドに関しては行方は杳として知れない。
出し抜かれた。その思いが二人の気持ちを暗くする。
そんな二人の話を横で聞いていた亜樹子が、あえて明るい調子でこう話しかけた。
「でもさ、探偵ものだったらよくある話じゃない? 謎の怪人が謎だけ置いて去っていくってさ」
その言葉が本気で言っているわけでなく、気落ちする二人の気を紛らわせるための言葉だと察した翔太郎は、あえてその言葉に乗る。
「あんなー、亜樹子。そういうのはホームズとか冒険をするようなそっち系の探偵だろうが。俺はな、そういった探偵じゃなくてハードボイルドな探偵なんだよ」
「うんうん、そうだね、ハードボイルドハードボイルド……って、ハードボイルドな探偵がそんな自己主張するかぁ!」
ビシッと翔太郎に突き付けられるスリッパ。
ある意味いつもの光景に、さすがのフィリップも苦笑いをする。確かに、深刻に考え込んでいても何か答えが出るわけではない。
「ま、そうだね。よくある話だ。次に出会った時に、彼が残した謎を暴けば僕たちの勝ちさ」
「フィリップ、お前までなぁ……」
2対1になるとどうしても弱い。そもそも翔太郎をハードボイルドだと思っている人間が果たしているのかという話でもあるのだが……。
とはいえ、心配をかけていたのも事実、相棒が気分を一新すると決めたのも事実。ならば、自分だけがグダグダ考えていても仕方がない。
「まっ、そうだな……。次に出会った時は、その仮面の下を暴き立ててやるさ」
そういって浮かべた翔太郎の笑みは、謎という獲物を追う獰猛な狩人の笑みであった。
彼が再びアインロールドと出会う日が来るかどうかは、神のみぞ知る……。
次回、長らく出番のなかった主人公パートでエピソード・Wはいったん終わり。
イチャイチャ果たしてどこに行ったのか!?
主人公の次の任務は?
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要人警護
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要人暗殺