ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
「新ちゃん、新ちゃん」
「こ、これは理事官。どのような御用で!」
超常犯罪捜査一課で一人捜査資料とにらめっこを続けていた加賀美新は、本願寺理事官の突然の来訪に椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がり敬礼をする。
かつてロイミュードの事件で特状課を結成し見事解決に導いた敏腕理事官であり、加賀美にとっては雲の上の存在だ。彼が緊張するのは無理もない。
もっとも、その対象である本願寺は『経歴だけなら君もどっこいなのに』になどと思いつつ、先日顔を合わせた元部下のボヤキを思い出す。
「最近根を詰めているんだって? 泊ちゃんが心配していたよ」
「あ、いえ、はい。少々厄介な事件を担当しておりまして」
実際、本願寺の言う通り、ここ数日は資料が揃った事も有り加賀美は家に帰っていない。
麻薬捜査課から相談、協力要請を受けた一件がどうにも気になった為に仕事に精を出していたのだ。
同僚に、少し休むべきじゃないかとも言われていたのだが、どうしてもそんな気にはならなかった。
「そうだ。おばあちゃんが言っていた、適度に休むことがパフォーマンスを維持する秘訣だとな」
不意に本願寺の背後から聞きなれてしまった声が唐突に聞こえてくる。
この場にいるはずがないというか、警視庁の内部にいてはいけない人物の声だ。
加賀美は壊れた人形のように、ギギギギと奇妙な動作でゆっくりと本願寺の背後のドアを盗み見る。
そこには当然のごとく、傲岸不遜唯我独尊絶対無敵な男が何やら巨大な風呂敷包みを抱え立っていた。
「て、天道!?」
「俺以外の何だというんだ?」
「いや、何だというんだというか、何で此処にいるんだ!?」
「俺がいる場所は俺が決める。俺が何処にいようと問題は無いだろう」
いや、問題はある。
ここは警視庁の中だ。一般人がおいそれ立ち入っていい場所ではない。
天道がはたして一般人かどうかは議論の余地があるけど。
「あ、そうそう。私は用事があった訳じゃないのだけど、彼が君を探していたから案内してきたんだよ」
すっとんきょうな問答を繰り広げる加賀美と天道を見つめていた本願寺が、まるで思い出したかのように来た理由を述べる。
「り、理事官!?」
偉い人が何やっているんだ。気さくにも程があるだろう!
喉元まで出かかった言葉を加賀美は飲み込む。
なにせこの気さくなおっさんにしか見えない本願寺だが、様々な役職を歴任し仮面ライダーのサポート組織を警察内部に設立させてしまった剛腕の持ち主だ。
その在り様は、タイプこそ違うが父である加賀美陸に近い。何を言っても自分では丸め込まれてしまうのが関の山だ。
加賀美は万夫不当と狸親父から一回視線を外すと、深く深くどこまでも深く深呼吸を行う。
そのついでに室内を見回すが、他の連中は皆とっくに逃亡……もとい、仕事で出払い済みだ。
ちょっと別の入り口に泊の姿が見えた気がしないでもないが、天道と本願寺という二人の切れ者が放つ異様な雰囲気を察し、華麗なドリフトターンを決めたのちアクセルを全開にして走り去っていった。
ちくしょう! 赤いライダーは碌な奴がいない!
元祖赤い仮面とかリントの戦士とか風都の不死身の男とか、俺は赤じゃなくマゼンダだとかなどなど、色々な所から苦情が来そうな加賀美の内心の絶叫はさておき、とりあえず天道の用事を確認する事にした。
「よし、とりあえず天道。お前何しに警察の中まで来たんだ?」
「来てはまずいのか?」
「あのな、ここは一般人……」
「ひよりが作った弁当を届けに来たのだが。いらないのか?」
どん。机の上に置かれた風呂敷包みがはらりと広がる。
そこに鎮座していたのは、美しい漆塗りの五段重。さらには汁物とお茶それぞれが入った水筒に、食後のフルーツを中心としたデザートを収納したクーラーボックス。
蓋を開ければ、食欲を刺激する良い香りが室内に漂う。
中々ご機嫌なお弁当であった。
「えっ!?」
忙しく家に帰れない加賀美を心配し、ひよりが(仏頂面で)腕によりをかけて作ったお弁当だ。
こんなもの美味しくないはずがない。
「あらー、せっかく彼女さんが作った弁当をいらないと。こりゃ大変だ」
「り、理事官!?」
事情を察した、あるいは天道に加担した本願寺がわざとらしい驚きの声を上げる。
その声に乗ったのか天然なのか、天道がため息をつきながら相槌を打つ。
「せっかく届けに来たのに。ひよりが悲しむな」
そう言いながら、天道はお重を風呂敷に戻そうと手を動かし始める。
これでは明らかに加賀美が悪役である。
僅か一瞬で百面相を繰り広げた加賀美であったが、結局のところ彼の手は天道の腕を掴み動作を止めた。
「いや、まて、天道」
「どうした? いらないのじゃないのか?」
「誰がいらないと言った。食べる、食べるから」
「そうか、無駄にならなくてよかった」
結局の所、加賀美は屈した。
何に負けたのかは、定かではない。
「いやー、すまないね。私までご相伴に預かって。さすがは加賀美先輩……警視総監殿が絶賛する料理だ」
当たり前の話ではあるが、若い男性とはいえ大きな五重の重箱に詰められた弁当を一人で食べきれるわけもない。
元々複数人で食べる事を想定していたのだろう。取り皿やお椀、箸などは複数準備されていた。
もっとも、捜査一課は全員逃げて……もとい、外出しており、ご相伴に預かれたのは本願寺だけだ。
「お粗末様」
「いや、お前な……」
ひよりが腕によりをかけて作ったお弁当による満足感を感じながらも、理事官の前で堂々と捜査資料を読んでいる天道に加賀美は内心で頭を抱える。
とはいえ、理事官が態々連れてきてこの状況を咎めもしないでお茶をすすっているという事は、そういう事なのだろう。
警察官になってそれなりに経つ。青かった加賀美もそれなりに腹芸を覚えるというものだ。
「GSL。渋谷復興特区の若者を中心に急速に広がっている合成麻薬だ」
苦々し気に話す加賀美の声を、天道は資料から目をそらさず黙って聞く。
本願寺は一見すれば我関せずデザートを食べながらお茶をすすっているが、その目は欠片も笑っておらず鋭い目付きで二人を見つめていた。
「無論、これは単なる麻薬じゃない。それならうちに話は来ない。GSLは地球外生命体由来の物質……ネイティブの体液を主原料として作られた麻薬だ」
この事実が発覚した後、隠れ住むネイティブを調査したところ数名が行方不明となっていた。
行方不明人が出れば警察は捜査を行うが、これが成年だと少々話が変わってしまう。特に事件性が無い場合、自分の意思で失踪した可能性を考慮し、積極的な捜査を控える傾向があるのだ。
誘拐されたと思しきネイティブたちも全員が成人男性に擬態しており、直前まで真っ当な生活を営んでいた。その為にそれぞれがバラバラの失踪と処理されてしまい、GSLの成分分析が行われるまで事件を繋げて考える者などいなかったのだ。
加賀美が本件で根を詰めるのも、もし失踪したのがひよりだったら。そう考えてしまったからである。
そして、天道が首を突っ込んできたのも、同じ事を考えたのだろう。
「そのGSLの出所が、こいつらという事か」
天道は読んでいた資料をテーブルに投げ出す。
パサリと音を立てて開いたページには、二枚の男の写真が掲載されていた。
「半グレ集団、影蜂連合。そのリーダー格と見られているリョーマとセイだ」
まだ若い。どちらも十代だろう。
鍛え上げられた筋肉を誇示するかのような薄手のジャケットを身に纏い髪を刈り上げた少年がリョーマ。ブランド物の上下で揃え、髪を後ろ手になでつけた少年がセイだという。
リョーマ、本名は越後谷竜馬に関しては都内の名門スポーツ校に柔道の特待生として入学するものの、その後成績を残せずさらに素行の悪さから退学に。その後は半グレに身を堕としたという経歴が分かっている。
問題は、セイと呼ばれる少年の事だ。
「およそ3年前、ショッカーに誘拐された渡世誠太郎くん……に見えるんだが」
普通に考えれば、この麻薬の売買にショッカーが絡んでおり、ショッカーに改造された誠太郎がその陣頭指揮を行っていると考えられるだろう。
「俺はこいつに一度会っているんだよなぁ……」
お茶を飲み干しつつ、加賀美が思い出しながらぼやく。
ほんの一瞬の邂逅、ほぼすれ違っただけだ。
だが、東雲議員を狙ったテロ事件の最中に出会った、議員とその孫娘を護衛していた少年は確かに彼だった。
そして、おそらくは彼こそが……。
「噂のショッカーの仮面ライダー、アインロールドですか」
二人の会話を黙って聞いていた本願寺がここではじめて口を挟む。
それまで裏の世界で最強の処刑人、ライダー殺しの噂は常々流れていた。
そんなショッカーの仮面ライダー、アインロールドが大舞台に姿を現したのは3回。
東雲議員を狙った都内での大規模テロ事件、京都でのネオショッカー大首領復活事件、そして先日域里道であった魔化魍大量出現事件だ。
その3回とも彼は仮面ライダーと協力し、人類の為に戦っていた。
特に京都の事件では単身でネオショッカー基地を壊滅させ、捕らわれていた民間人の救出までやっている。
これのどこがショッカーなのかと加賀美は思うが、本人は頑なにショッカーを名乗っているらしい。
この場に本人がいれば『悪党の気まぐれだ』『単なる成り行きだ』などと言うだろうが、この場に本人はいない。
「悪人の気まぐれ、と言うには彼の行動には不可解な点が多すぎる」
行動もそうだが、直接会った人間の印象が違い過ぎる。
加賀美は捜査で聞き込みを行った、火野映司議員の秘書……アンクという青年の言葉を思い出していた。
「そんなに似ているか? 別人だな」
写真を一瞥するなり、アンクはそう言い捨てると興味を失ったかのように冷蔵庫から取り出したアイスキャンディーを口に含む。
客がいるのに……などとは言わない。
仮面ライダー相手にそんな気遣いしてもしょうがないので映司も咎める事はしない。
それよりも気になるのは、訪問してきた加賀美の持ってきた写真だ。
確かに映っていたのはあの時の、アインロールドだろう誠也と名乗っていた護衛の少年だった。
だが、このブランド物に身を包んだ少年は、あの時の護衛の優し気な子とは表情の作りが違う。そう思えてならないのだ。
「写真だけなら本人だ。だけど、アンクの言う通りどこか違う気がします」
だが、根拠はない。だから曖昧な返ししかできない。
もっとも、アンクにはその曖昧さが気に食わなかったようで、改めて口を挟んでくる。
「似ているものか。あいつ、お前の同類だぞ」
「俺の同類!?」
「どういう事ですか?」
食べ終わったアイスの棒をゴミ箱に投げ入れると、アンクは加賀美が持ってきた写真を持ち上げじっと見つめる。
もっとも、すぐに飽きたようでテーブルの上に投げ捨てるとこう付け加えた。
「ああ、やっぱり別人だ。こいつからは欲望の香りがしない」
「欲望の香り?」
意味の分からない言葉を投げかけられ混乱する加賀美の事などお構いなしに、アンクは映司の横にどかりと座りながらこう続ける。
「あいつは映司と同じ、無自覚に分不相応で強大な欲望で身を焦がしているタイプだ。それこそ、写真を見ればわかる程な」
加賀美が持ち込んだのは日常の一コマを切り出した盗撮写真だろう。
アンクに欲望を嗅ぎ分ける力がある訳では無い。
ただ、彼は巨大すぎる欲望と渇望を抱えた火野英司という人間を一番傍で見ていた。
だから、わかるのだ。
服装、仕草、目線。あの少年が見せた渇望の影が、写真の少年には無い。
確かに見た目は同じだ。だが、アンクにはどうしても、あの少年と同一人物とは思えなかった。
ここまで断言したのはアンクだけであったが、残り二つの事件の関係者と話してもアインロールドという仮面ライダーが心の奥底から悪党だという話は一つも聞けなかった。
「俺はすれ違っただけだ。でも、それなりに接触しただろう人間が口をそろえて似たような事を言う。『あいつはそんな悪い奴じゃない』って」
「印象を操作できる、芸達者な人間は少なくない。でも、決して無視できる要因ではない」
今までの印象が全て偽りなのかもしれない。
ショッカーの命令で本人の意思と関係なく事件に加担しているのかもしれない。
あるいは、このセイとアインロールドは別人なのかもしれない。
考えられる可能性は、あまりにも多数にわたる。
正直どう手を付けるべきか。
その事を加賀美は延々と悩んでいたわけだが、天道からすればどうすればいいかなど簡単な話であった。
「そうか。それなら簡単だ」
「簡単?」
加賀美の考えを静かに聞いていた天道であったが、彼は話が一区切りつくと素早くお重を片付け席を立つ。
そのついでとばかりに、加賀美のデスクに引っかけてあったスマートキーを懐に仕舞い込んだ。
「おい、天道? 何をするつもりだ、お前? あと、俺のバイクのキーをどうする気だ?」
「そいつがどんな奴かは、本人に確認をすればいい。バイクは借りていくぞ、足が無いんでな」
「え、おい、まて、天道!?」
慌てて止めようと動くが後の祭りだ。
止めようとして追いかけるものの、天道はあっさりとそれを躱し駐車場に向かう。
追いかけて来た加賀美に一瞥をくれる事も無く、叫びをBGMにしてバイクで立ち去っていく。
目星はもうついているのだ。あとは順番に確認していくだけだ。
「やれやれ、若いのはいいね」
まだローンが残るバイクを持ち去られた加賀美の悲鳴を遠くに聞きながら、本願寺は残っていた最後の茶菓子を味わうと自身の仕事に戻っていった。
重大なネタバレ:前回天道が貸したのは加賀美のバイク。
主人公、自分の映像を残すようなヘマはしていないのに、意外な所から顔が出回る事故に会うの巻。
絆斗側の話まで行かなかった。
あと、ちょこっと出てきたのはモブ泊進之介ですぞ!