ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
「誠太郎!」
「せいちゃん!」
「父さん! 母さん!」
渡世夫妻を警察の応接室で待っていたのは、3年ぶりに再会する我が子であった。
記憶にある誠太郎より背は伸び、体格もがっしりとしたものになっている。かつての優し気な風貌は少々鋭いものとなっていたが、誘拐されてから3年で苦労したのだろう。
3年間。口で言うのは簡単だ。
だが、決して短い時間ではない。心のどこかで、どこか諦めの感情が芽生え始めるのには十分な時間であった。
そんな中、無事に姿を現してくれた。
「良かった……。本当に良かった……」
感極まって誠太郎を抱きしめながら崩れ落ちる母を、誠太郎は支える。
「ごめん、母さん。父さん……」
「いや、お前が謝るような事じゃない。誘拐されて……」
息子と妻の姿に父も力なく背後のソファに崩れ落ちる。
この3年間の彼らの心労はどれほどのものだったのか。セイでは想像もつかない。
「そうじゃないんだ。誘拐されたわけじゃないんだ……」
「なっ!?」
「どういう……」
息子の思わぬ発言に夫婦の表情が変わる。
誘拐されていなければ、何故3年間も姿を隠していたというのだ?
一方、セイから話を聞いているのだろう警察署の署長は微妙な表情を見せる。
「あの日……。ショッカーに襲われて凜を逃がした後、俺も隙を見て何とか逃げ出したんだけど……そこで大怪我を負って」
誠太郎は隙を見てショッカーの車から逃げ出し、その際に怪人からの狙撃を受けて大怪我を負っていた。
対怪物用の狙撃を受けて命があったのは、至近弾の余波を受けただけであったのと純粋な運が良かっただけの話だ。
「何とか逃げる事には成功したんだけど……。もう駄目かって時にリョーマに拾われて、匿われていた」
「リョーマ?」
「ほら、中学の先輩の」
「あっ!」
その言葉に、そんな名前の不良がいたと思い出す。
あの不良が息子を匿うとは俄かに信じがたいが、態々嘘を言う意味も無いだろう。
その部分はそう納得したが、それでも聞きたい事があった。
「なら、なんで帰ってこなかったの!」
「あいつらの狙いは俺だった。あのままだと、またショッカーが襲ってくる可能性があったから……逃げるしかなかった」
家族を巻き込みたくなかった。
そう力無く呟く息子に、夫妻は言葉が無かった。
彼が悪いわけでは無い。憎むべきはショッカーという組織だ。
動揺する夫妻の姿に、セイはあえて気楽に、気軽にこう言葉を続ける。
「大丈夫、もう何とかなるようになったから。だから、ようやく帰ってこれた」
そう言って笑う息子の姿は、3年前と同じに見えた。
そのはずだった。
セイから3年間に何があったのか、それ以上の話は聞けなかった。
警察からも、今は興奮しているだろうから根掘り葉掘り聞く事は良くないとのアドバイスを受けていたため、夫妻もそれ以上聞こうとはしなかった。
夜も遅いため、パトカーで家へ送る事になった。
特に何事も無く、自宅前につく。
何事も無かったのはそこまでだ。
彼らが自宅に到着するのとほぼ同時に、一台のバイクが同じ場所に到着していた。
※※※※※
この短時間でいくつミスを重ねているんだ、俺。
パトカーから降りてくる3年ぶりに見る両親の姿と、一緒に降りてくる警官。
そして俺と同じ顔をした存在。
普段ならこの程度の状況は予測できた筈だ。
凜は置いてくるべきだった。天道さんなら、きっと何も言わずに預かってくれただろう。
そもそも、凜の姿を確認した時に姿を隠すべきだったのだ。ビルの上にでも飛び乗れば気のせいか何かと思っただろう。その上で影から様子を伺えばよかったのだ。
ここはもう俺がいて良い場所では無いというのに、まだ未練があったのだろう。
顔向けできない事など分かっていた。
許されない事など分かっていた。
ミカたちを普通の世界に逃がして人知れず消える。それだけの存在だったはずなのに。
まったく、何が地獄の悪鬼か。このような無様を晒すとは。
「え? え? 誠太郎? え? え? え?」
向こう側に俺と同じ顔の存在がいる事に、背後の凜が驚きの声を上げている。
まぁ、混乱するだろう。少なくとも見た目は完全に同じだ。
俺はバイクから降りながら、凜にポケットの中の財布を押し付ける。
「ちょ、誠太郎?」
「いいか、すぐにこの場から逃げて、財布の中の連絡先……『たちばな』って店に向かえ。桐矢って人かカマタロスって奴に話せば保護してくれるはずだ。警察は信用できない」
凜にだけ聞こえる小声だ。
以前店に行った時にもらった割引券を入れっぱなしでよかった。
桐矢さんなら、響鬼なら助けてくれるだろう。性格はアレだが、カマタロスもこういう時は頼りになる、多分。
「な、何を言っているんだよ!?」
彼女の疑問の声を、俺はあえて無視した。
というか、これ以上の問答をしている余裕も無い。
「え? 凜!? 誰、その人?」
凜の叫びが聞こえたのだろう。母さんが恐る恐る聞いてくる。
出かけていた愛娘が謎の男のバイクに乗って帰ってきたのなら当然の反応だ。
3年ぶりに聞く母さんの声。
俺は精神を戦闘モードに切り替え、その声を聞き流す。
ヘルメットを脱ぎ、バイクに掛ける。
「え? ええええっ!? せ、誠太郎!?」
3年ぶりに聞く、父さんの声だ。
記憶にある二人より、ずいぶんとやつれている。髪も、だいぶ白い物が混じっていた。
沸き起こりそうになる感情を全て鎮める。
アインロールドに相応しくない感情だ。こんなものを俺は感じてはいけない。
「やはり来たか、ショッカー! 凜、その男から離れるんだ!」
耳障りな鳴き声を上げる、俺と同じ顔をした存在。
まったく、いつの間に人の姿をコピーしたのか。
旧日本支部の連中なら何か知っているかもしれないが、あいにくどいつもこいつも地獄にいるので聞く手段は無い。
「貴様こそ、その人たちから離れろ」
ショッカーであることは間違いないので否定はしない。
凜から離れるのも、当然の事だ。
だが、全てはこの目障りな虫を始末してからの話だ。
「それはこちらのセリフだ、ショッカー!」
「誠太郎、あ、あれはいったい……? 何でお前と同じ顔を!?」
「あれがショッカーの改造人間。自由と平和、そして人類の敵だよ」
言いたい放題だな、あのワーム野郎。
あと、この世界のショッカーは自由と平和はともかく人類の敵じゃねえぞ。
「でも、大丈夫。この日の為に、準備をしてきたんだ」
そう言うと、俺と同じ姿の存在は片手を高々と天に向かい掲げる。
それと同時に月明りに照らされる空が切り裂かれ、その向こうから何かのマシンが音を立てて飛び出してくる。
って、あれはザビーゼクター!?
頭部に当たる部分の形状が少々違うが、その姿は確かにザビーゼクターであった。
あんな代物をどこで手に入れたんだ?
いや、それ以前にここで始める気か、奴は?
家族だけじゃない、ご近所さんの家もあるんだぞ!?
このままじゃ一般人が巻き込まれる!
いや、ワームならそんな物か……。
「お前を倒すために手に入れた仮面ライダーの力だ。いくぞ! 変身!」
『HENSHIN!』
俺と同じ顔をした化け物が、腕のブレスレットにザビーゼクターを装着し半周だけ回転させる。
それと同時に六角形のヘクスが奴の身体を覆う。
ヘクスは瞬時に黄色と銀の重厚な装甲へと変わっていく。
仮面ライダーザビー。
仮面ライダーカブトと同じく秘密組織ZECTにより開発されたマスクドライダーシステムの一つ。ネイティブとの戦いの最中に機能を停止し、その後行方が分からなくなったと聞いている。
あの人の姿を模した奴がどこであんなものを見つけたのかは知らないが、その性能はカブトに勝るとも劣らない。
少なくとも、この状態で戦える相手では無かった。
「まったく、腹が立つな。それは人の未来を繋ぐために使われるべきものだ。貴様ごときが触って良いものではない」
まったく、恥ずかしげも無く仮面ライダーなんて名乗れるよな。
恥知らずなのだろうが、実に羨ましいよ。
俺は恥ずかしくて、仮面ライダーなんて名乗れない。
腕を振りかぶる。
腰にそれまでなかったベルトが出現する。
天道さん、貴方の気遣い嬉しかったが無駄になりそうです。
「ライダー、変身!」
ベルトの風車が激しく回る。
全身を駆け巡るナノマシンが活性化する。腕に、足に、力がこもる。
空中に出現した黒い強化戦闘スーツが俺の身体を覆い隠していく。
頭部を守る赤い複眼のヘルメットが装着される。
システムオールグリーン。
最後に、マフラーが薄暗い闇夜に血のような赤いマフラーが風になびく。
「ショッカーライダー、アインロールド……」
「俺を知っていたか。それで姿を模すとは命知らずな」
「本物の誠太郎は俺だ」
……記憶までコピーするワームだから、奴は気が付いたのかもしれない。
もう、俺が誠太郎と呼べる存在ではない事を。
度重なる洗脳。特にウェスト博士の施した人格消去を含む洗脳は完璧であった。
最優先護衛対象であるミカが俺に救いを求める言葉を、弱音を吐かなければ、俺は人格を取り戻す事は出来なかっただろう。
でも、取り戻せた人格は完璧とは言い難かった。
誠太郎の人格は粉微塵であり、前世のライダー好きだった何がしの人格も砕けている。
二人分の人格を強引に組み合わせたキメラ人格が今の俺、アインロールドの人格だ。以前の誠太郎とは微妙に思考が異なっているのが自分でも分かるのだ。
改造前の俺をコピーしたであろうワームの方が、元の誠太郎の人格に近い筈であった。
「いくぞ! キャストオフ!」
『CAST OFF! CHANGE WASP!』
唐突に飛んでくるザビーのアーマーを、凜にぶつかりそうなものから順次弾き飛ばしていく。
アーマーの一つが天道さんから借りたバイクに突き刺さり、大きく後ろに弾き飛ばされる。ガソリンでも漏れたのだろう、電柱にぶつかったバイクが大きな音を立てて大爆発を起こす。
バイクだけではない。駐車場に止まっていた車や、近所の家の壁などにもアーマーが突き刺さっていく。
くそ、後で弁償しないとな……。
「きゃああああ!」
母さんの悲鳴が耳に届く。
もう、躊躇をしている暇は無い。俺は一気にザビーとの距離を詰めると、奴の手首を取ろうとして……。
「と、止まれ!」
唐突に、警官たちが俺に向かい銃を向ける。
普通なら警告からなのに、恐怖に駆られたか、それともこいつらもワームなのか実弾が飛んでくる。
警官の拳銃程度で俺の防御を抜く事はできないが、この場合流れ弾が怖い。
下手に回避したり弾き飛ばしたりしたら、無関係な一般人に当たりかねない。
「街中だぞ! 何を考えている!」
ショッカーの俺が言う言葉じゃないな。
そう思いつつも、身構え弾丸を体で受け止める。
大した衝撃では無いが、俺が動きを止めた瞬間にザビーが動き出す。
「隙ありだ! 食らえ!」
鋭い突きが俺の胴体に突き刺さる。
警官の拳銃ならともかく、ザビーのパンチを受けて無傷とはいかない。
鈍い痛みと共に、数歩だけだが後退する。
「くそっ……」
「まだまだ!」
俺が後退したのを良い事にザビーは更に攻撃のピッチを上げる。
拳が、キックが俺の体力を削っていく。
「誠太郎!」
逃げろと言ったのに……。
凜の声を背後に聞きながら、仮面の下の口元を苦笑いで歪める。
まったく。蛇蝎の如く嫌ったり心配したりと、あいかわらず良くわからない妹だ。
「舐めるな!」
調子に乗って拳を振り上げたザビーに向かい、顔面に拳を叩きこむ。
パワーそのものは改造人間の俺が上だ。その一発でザビーは倒れ後方に転がる。
「セイちゃん!」
「誠太郎! あ、でもあっちも誠太郎で!?」
父さんと母さんの悲鳴は、だいぶ混乱をしたものであった。
3年間行方不明だった息子が増殖した挙句、変身して殴り合えば混乱するのも仕方のない話だ。
「やはりショッカーライダーは一筋縄ではいかないか……でも、クロックアップ!」
『Clock Up!』
やはり使ってきたか、クロックアップ。
タキオン粒子を利用した時間停止に等しい超高速戦闘。ZECT系ライダーの切り札ともいえる能力だ。
だが、今の俺はクロックアップは学習済み!
「させるか! クロックブースト!」
俺も凍り付いた時の中に突入する。
父さんや母さん、凜どころか、炎の揺らぎすら固まった世界で俺とザビーだけが動く。
互いの拳が、キックが交錯する。
「クロックアップまで攻略するのか!?」
「ワームである貴様に出来て俺に出来ないはずが無いだろう!」
互いの拳が交錯する中、不意に視界の片隅で何かが動く……って、何!?
動いたのは警官たちであった。
いや、あれは警官ではない? 成虫済みのワームだと!?
いや、それだけなら問題は無い。成虫済みでも、クロックアップ能力が無い時でも対処は出来ていた。
問題は奴らが狙っているのは父さんと母さん!?
振り上げた鉤爪が、二人の首を狙う。
「貴様!」
瞬時に攻撃対象を切り替える。
後方に跳躍しザビーから離れると、警官に化けていたワームたちに狙いを定める。
「やらせるか! ライダーキック!」
跳躍から空中を蹴り、高速のキックを二体のワームに叩き込む。
攻撃をされるとは思っていなかったのか、二体のワームは回避しようと動くがそれよりも俺のキックが二体まとめてワームを貫く。
とりあえず、二人は無事だ。
安堵をする俺に対し、爆散するワームたちの影からザビーが突進をしてくる。
くそ、やはりそう来たか。
「ライダースティング!」
『RIDER STING!』
ザビーゼクターの針を乗せた拳が襲い来る。
予測は出来ていた。それ故にガードは間に合った。
だが、ザビーの針は原子崩壊を引き起こす。
原子崩壊攻撃は基本中の基本ゆえに、俺の身体にも防御機能は搭載されている。
とはいえ、それは通用しないという事ではない。
蜂の一刺しは激しい痛みと、身体能力の大幅な低下を俺にもたらす。
大きな衝撃で吹き飛ばされ、塀にぶつかり崩れ落ちる。
互いにクロックアップの世界から弾き出されながら、奴のセリフが耳に届く。
「こうすれば隙を見せると思っていたよ、アインロールド」
有効な戦術だよ、畜生。
あいつらがワームの可能性は考えてはいたが、普通の警察官の可能性があったために排除が出来なかった。
両親や妹の目の前で、残忍な真似ができなかった俺の弱さだ……。
「え? 警察官が!?」
クロックアップの世界が終わる。
両親や凜に何があったのかは分からなかっただろう。ただ、倒れる俺とパンチを決めたザビー。そしていつの間にか消えている警官という変わり果てた状況があるだけだ。
「警察官にまで手を出して、ショッカーライダー!」
再び腕のザビーゼクターを操作しながらザビーがこんなセリフを吐く。
いけしゃあしゃあと何を言うか……。実にワームらしい卑劣さだ。
「行くぞ、これでとどめだ!」
『RIDER STING!』
そう言うとザビーは腕を大きく振り上げる。
再び放たれたライダースティングが、こんどこそ俺の胴体に突き刺さる。
「がああああっ!」
意識が飛びそうなほどの衝撃を、気合の叫びで何とか耐える。
まだ、まだ動ける。
ここで死ねば、両親と凜は殺されワームに入れ替わられるだろう。それだけは許してはいけない。
俺という化け物に振り回された人たちの末路が、それではあまりにも悲しすぎる。
せめて幸せに、普通の世界で生きて欲しい。
だから……!
「この程度で……俺が死ぬかぁ!」
がしりと、動く右腕で奴の頭を鷲掴みにする。
「まだ動くか!」
「動かないでか!」
ザビーが手足をばたつかせ、俺の拘束から逃れようともがく。
だが、このダメージで俺にとれる手段は少ない。
奴の拳が、キックが俺の身体にダメージを蓄積させていく。
まぁ、関係が無い。
凜には桐矢さんの連絡先を渡した。それ以上に、天道さんが動いている。
ショッカーの俺が言う事では無いが、仮面ライダーへのルートはある。
あとは、この場でこいつを排除すれば何とかなる。
「ライダーパワー……フルパワー!」
「な、何を!?」
「地獄に付き合ってもらうぞ、ワーム!」
ザビーの頭部を鷲掴みにしたまま、俺は天高く跳躍する。
それもただのジャンプではない。重力操作をも利用した超跳躍だ。流石にセイリングジャンプのような自由な飛翔とはいかないが、この状態で天高く飛び落下をすれば、ライダーといえども無事では済まない。
「誠太郎!」
「セイちゃん!」
「誠太郎!」
両親の、凜の叫び声が耳に届くが、それもすぐに地上に置いていく。
残っているのは、ワームの放つ耳障りな怒声だけだ。
「ふざけるな! 俺は家族と暮らすんだ!」
「貴様の家族ではあるまい!」
このまま跳躍の果てに、こいつを大地に叩きつける。
その筈であった。
「おいおい、セイ。何やっているんだ」
「リョーマ! ナイスタイミングだ!」
「なっ!?」
不意に、跳躍する俺たちに何者かが声をかけてくる。
それは、一匹の虫であった。巨大な羽根を持ち、四肢には所狭しと鋭い棘が生えている。顔の大半は赤い複眼で構成されており、鋭い牙を持つ口を有している。
そう、人型のハエという所だろうか。
無論、こんなものが尋常な地球の生命の筈がない。
こいつもワーム。ベルゼブワームと言ったところか。
「うちの頭脳担当を連れて行かれちゃ困るんでな、返してもらうぜ仮面ライダー!」
言うが早いがザビーの胴体を掴み強引にもぎ取り、更にはついでとばかりに俺の胴体に蹴りを叩きこむ。
超跳躍中の俺にそれを回避する術などなく、もろに蹴りを食らい体勢を崩し落下していく。
最後の最後で……こんなへまを。
まったく、無様すぎる。
天高く上昇する邪悪な虫たちを見上げながら、俺は一人地上に向かい落下していくのであった。
仮面ライダーアインズ!?
やべ、うちの主役の名前、仮面ライダーアインロールドで固定しなきゃ(焦り