ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
「うおおおおおおおおおお、間に合えええええええええ!」
夜の高速道路に白い閃光が迸る。
速度超過なんてものではない速度で、そのバイクは疾走を続ける。
バイクの名前はサイクロンヘル。それを操作しているのは仮面ライダーヴァレンだ。
「なんだってあいつが落ちてきているんだ!」
仮面ライダーヴァレン、辛木田絆斗がこの町にやってきたのはアインロールドの両親と思しき渡世夫妻に取材をする為だ。
幸い一度取材を受けていた事も有り、アポは簡単に取れた。息子に関する情報があった事も、アポを取れた理由だろう。
だが、アポを取った数時間後、急用によりキャンセルとなった。
急な取材キャンセルはフリーライターをしていれば珍しい話ではない。
だが、あそこまで必死に探していた息子の情報だというのに、キャンセルとはいったい?
ライターとしての勘が働き、この町までやってきたのだ。
町についた途端、いつの間にか消えていた迷子のサイクロンヘルに呼び止められたのは絆斗といえども面を食らった。
何を言っているのかはわからないが、ゴチゾウたち並みに騒がしいバイクらしい。
まぁ、そんなこんなで聞き込み等をしていると町に爆音が響きわたり、サイクロンヘルに促され空を見上げれば探していたアインロールドが落下してきたわけだ。
「くそ、まだ距離がある!」
サイクロンヘルの最高速度は時速600キロを遥かに超える。
とはいえ、それはあくまで何もない直線での話だ。
車両や通行人、あるいは建物などの障害物が多数ある街中でその速度は出せない。そんな速度で傍を通れば、子供や年寄りなどは余波だけで吹き飛ばされるだろう。
通常のバイクではありえない跳躍で高速道路に飛び乗ったものの、アインロールドの落下予測地点まではまだだいぶ距離がある。
明らかに体勢を崩していた。仮面ライダーとてあの体勢で落下をすれば無事では済まない。
「くそっ! 何とか落下地点まで到着できるルートは……」
焦りを見せるヴァレンだが、そんな彼に何者かが声をかける。
「いや、このまま真っ直ぐに進め。もう少し進めば無事にキャッチができる」
「えっ!?」
それは唐突だった。
超高速の世界には、自分とサイクロンヘルしかいないはずの空間。
そのはずなのに自分の背後から知らない男の声がしたのだ。
速度が速度なので振り向く事は出来ない。
だが、ミラーに青い複眼の仮面ライダーが映っている。
「いつの間に……お前は」
「自己紹介は後だ。アインロールドを助けるのだろう」
シートの背後に、速度などものともせずにいつの間にか着陸し、直立していた青い複眼の仮面ライダー。
唐突な謎の男の筈なのに、その声からは確かな自信と温かさが感じられた。
そしてそれ以上に、もう考えている暇がない。
「わかった。あんた、振り落とされるなよ!」
覚悟が決まればヴァレンの行動は早い。
サイクロンヘルのアクセルを全開に吹かすと車両の隙間を縫うように走り出す。
ほんの数秒の前進。だが、射程に入った。
「行くぞ。クロックアップ」
『Clock Up!』
青い複眼の仮面ライダー、カブトはヴァレンの思いっきりの良さに仮面の下で軽く微笑むと、ベルトのサイドを軽く操作しクロックアップを発動させる。
その瞬間、世界の全てが停止する。
夜風にたなびいていた旗も、時速100キロ近くでハイウェイを走っていた自動車も、それを超える速度で疾走していたサイクロンヘルすら凍り付く。
「野暮用を片付けている間に、こうなっていたとは」
カブト……天道は苦々しげにつぶやきながら跳躍する。
落下するアインロールドを救出するために。
※※※※※
「ライダーキック!」
『RIDER KICK』
青い仮面ライダー、ガタックの放った跳躍からの回し蹴りがワームに突き刺さる。
無論、ただの飛び回し蹴りなどではない。タキオン粒子を乗せたそのキックは相手の原子構造を打ち砕く必殺のキックだ。
頭部を砕かれたワームは小爆発を引き起こしながら消滅していく。
この場にいたワームをせん滅した事を確認すると、加賀美はガタックの中で安堵のため息をつき暴行の後も痛々しい鎖でつながれた男に話しかける。
「大丈夫か!?」
そう言いながらも、加賀美は警戒を解く事はしない。
何せ敵は擬態能力を持つワームだ。被害者に成りすましての奇襲位は平然と行う。
そもそもワームが誰かを捕らえるというのが、今までではありえない行為なのだ。
「あまり大丈夫ではありませんが……。助かりました」
自身が警戒されている事はわかっているのだろう。
もっとも、警戒されていると分かっていても何かできるわけもないし、自分が持つ情報を誰かに伝えなければ。その一心で耐えてきたのだ。
その機会に、事情を最大限理解できるだろう人が訪れたことを感謝しなければならないだろう。
「あまりしゃべらないで、拘束を解きます。病院に……」
「私の事よりも、早く何とかしないと大変な事になる。加賀美さん、貴方が来てくれてよかった……」
「俺の名前を!?」
加賀美の中で警戒の度合いが上がる。
拘束されていた男はよろよろと立ち上がりながら、自身の事を語る。
「私も元ZECTですよ……。部署は違いますが。それと、ほら……」
その言葉と共に、男の姿が奇妙に歪む。
人のテクスチャが剥がれ落ち、その下から緑色の異様に頭部が巨大なさなぎのような怪人が姿を現す。
その姿は幼体のワームと酷似をしている。ただ、ワームには無い巨大な角が存在していた。
「あんた、ネイティブなのか?」
「はい」
そう、捕らえられていた男は元ZECTのメンバーであり、ネイティブであった。
「加賀美さん、貴方は此処の情報をどうやって?」
「いや、この辺りでワームが出現しているって情報を得て……」
情報の提供元が天の道を往く男なのはこの際どうでも良い。あいつが何処からともなく情報を得ているのはいつもの話だ。
『ちょっと気になる事がある』と言って電話一本で押し付けられたことも我慢しよう。
勝手に持っていかれたまだ新車のバイクの行方は聞いても答えなかったが気になる。
「そうですか。これこそ天の導きかもしれない。ついてきてください、奥に案内します」
「奥に?」
なぜワームの拠点の奥をこの男は知っているのか?
加賀美の疑問の声には回答せず、ネイティブの男は部屋を出て通路の奥に向かう。
一見行き止まりのその場所にネイティブの男が手をかざすと、行き止まりにしか見えなかった壁の四辺に光が走り、壁が消え去っていく。
その奥には、地下に続く階段が出現していた。
「こ、これは?」
「この奥に根岸の……、いえ、我々ネイティブの恥ずべき遺産があります」
そう言うと、男は加賀美についてくるよう促し先導して地下へと降りていく。
流石に逃げるわけにもいかない。加賀美も息をのみ男についていく。
加賀美が付いて来たのを確認した男は、痛む体に鞭を打ってぽつりぽつりと話を続ける。
「ネイティブの指導者だった根岸が何を企んでいたかは、覚えておられますか?」
「そりゃ、もちろん」
ネイティブの指導者だった根岸は来たるワーム襲来に備え人類と協力し、マスクドライダーシステムの開発などを行っていた……と言うのは表向きの話。
その実態は人類を見下し、人類をネイティブに改造する事により支配を目論む侵略者であった。
紆余曲折があり、根岸の企みは阻止されることになる。
その立役者の一人が仮面ライダーガダックである加賀美であり、当然彼があの事件を忘れる事など無い。
「人類をネイティブに改造する。その計画の為に幾つかのプランが研究されました」
最終的に電波による一斉改造が採用されたが、そこに至るまでいくつものプランが発案、研究されていた。
ネイティブもしくはワームの体液を生成された薬品の投与による改造もその一つだ。
「おい、それってまさか!」
「はい、最近流行している麻薬、GSLの原形となったものです」
材料の確保の問題や改造に期間を要する事、さらには量の確保や毒性など様々な問題がありプランは廃棄されることになる。
「つきました」
階段の終点、そこにあった厳重な扉に男は手を当てる。
男が手を当てた瞬間、扉は音もなく開いていく。
「コードは昔のままか。ネイティブ至上主義は相変わらずか……」
苦々しげに男は吐き捨てると、意を決して奥に入る。
それに続き加賀美も室内に入り、その室内の光景に息をのむ。
そこには壁一面に備え付けられたシリンダーに、ネイティブたちが収められていた。
そのネイティブたちは身体の各所に管が取り付けられ、生きながら体液を抜き取られている。
人間に擬態したままの者、本来の姿に収まった者。お構いなしだ。
「この馬鹿野郎が……」
男はその一角、半ば干からびたネイティブを見つけると加賀美にも聞こえないほどの小声で呟く。
「急ぎましょう。ここのデータを持って帰って治療薬を作らないと。いずれGSL中毒者がワームに変貌してしまう」
「いや、まて! あんたの話が本当ならここはネイティブが作った場所なのだろう!? それがなんでワームがいたんだ?」
加賀美の叫びに、男は一瞬だけきょとんとするが、そこを説明していなかったとすぐに思い出す。
確かに、これまでの話ではネイティブの愚行の部分しか話していない。
「すいません、その部分を話していませんでした。元はワームが出現したことを良い事に、ワームを捕らえGSLを作ろうとした連中がいた。でも……」
「逆襲されて乗っ取られたわけか」
「はい、その通りです」
元々戦闘力の高いワームだ。最初の一匹か二匹を捕らえたところで、成虫済みのワームに強襲され一団は逆に捕まったそうだ。
仲間を助け出したワームはこの施設に目を付け、GSLをネイティブ改造薬からワーム改造麻薬に改造した。
さらに、その際にネイティブたちが使用していた改造ザビーゼクターまで奪われたのだから笑えない。
「あんたは何者なんだ?」
ここまで男の話におかしな点は無かった。
ただ、このネイティブの男の正体と目的がわからない。
「元はZECTの研究員。今はただのしがない町医者ですよ」
元々、彼は人類のネイティブ化の研究員であった。根岸の唱えた人類をネイティブに改造する事による幸福を無邪気に信じていた。
「人類をネイティブ化する技術があれば全ての人が幸せになる。本当に愚かでしたよ……」
結局の所、上層部は自分たちが地球の支配者となる事しか考えていなかった。
彼はその事実に失望してZECTを離れ、田舎の開業医としての生活を送る事にした。
それから数年の時間が流れ頼られる生活に充足感を覚える中、過去が彼に追い付いて来た。
「地元を離れて東京に出ていた子がね、うちに駆け込んで来たんです。先生なら何とかしてくれるって」
その少年は、身体の一部が人外に変異をしていた。
かつて自分が研究していた薬品が使われたのだと一目でわかった。
「かつての同僚がやった事だと悟り止めようとやってきて、この様ですよ。ワームたちに材料にされなかったのは運が良かったからですね」
結果論ではあるが、自分からのこのこワームの巣に突入したのだからとんだお笑い草だ。
先に捕まっていた、あるいは無関係に誘拐されたネイティブたちは次々と生産ポットに放り込まれていった。
あと数日遅ければ、彼も他のネイティブと同じ末路を辿っていただろう。
そう話しながら、男は研究データを調べる手を止めない。
やがて、彼は一つのデータを見つけ出す。
「やっぱり私の研究データも残っていた!」
「研究データ?」
「ネイティブ人間化のデータです。これでGSLに冒された人の治療の目途が……」
立ちます。そう言おうとしたネイティブの言葉がそこで止まる。
その理由は加賀美にも分かった。
階段を下ってくる多数の足音。こんなところにやってくる相手がまともな奴の筈がない。
無数のワームが地下室の入り口をくぐった。
緑色のサナギを思わせる怪物たちが、身体を揺らめかし次々に室内に入ってくる。
その光景に、二人は息を飲む。
「ここの出入り口は?」
「あ、あそこだけです……加賀美さん、データを持って貴方だけでも! このデータを参考にすれば私じゃなくても治療が出来ます!」
ガクブルと震えながらも、気丈にもネイティブの男は加賀美だけでも逃げるよう言う。
彼の勇気と職業倫理に加賀美は微笑み、だがその言葉を真っ向から否定する。
「駄目だ。あんたは帰って患者を治療しなきゃならない。それに、根岸の遺産はまだあるんだろう。その事も話してもらわなきゃならない」
ワームたちが根岸一派の人類ネイティブ化計画を知った以上、奴らは効率的に人類を侵略をするためにその遺産を狙うだろう。
まだ誰も知りえない遺産がある可能性がある以上、彼はどうしても連れて帰る必要があった。
「で、でも、あの数じゃ!」
かつてあったワームの大侵攻を思わせる数に、ネイティブの男は悲鳴を上げる。
だが、加賀美は、ガダックは何事もないかのようにこう答えた。
「この程度のピンチは何度も潜り抜けている。それに、頼もしい援軍も到着した」
「援軍?」
次の瞬間、ワームの群れの一部が唐突に爆発を起こす。
その巨大な音にネイティブの男は反射的に身をすくめ、ワームたちが一斉に振り向き爆発があった場所を注目する。
爆炎と粉塵が舞い散る中、その奥から一人のライダーがゆっくりと姿を現す。
赤いボディ、青い複眼、天を衝く頭部の衝角。
その名は仮面ライダーカブト。天道のもう一つの姿だ。
「やれやれ、今日も帰ってこないとひよりが怒るぞ」
「押し付けたお前が言うか。あとバイクを返せ」
頼もしき友の出現に、加賀美は軽口で答える。
二人なら、この程度の危機など大したものではなかった。
Q.天道さんあちこちに出没しすぎじゃない?
A.だって天道だぞ。
なお、主人公も午前中にアナザーガヴと戦い、夜はザビーと戦うというハードスケジュールをこなしている模様。
というか、よく考えたらショッカーをクビになってからまだ4日です。
あと、本エピソードの時系列状一番最初の時間は天道がお昼のお弁当を届けに行ったシーン。
この話の時点ではまだカガーミンバイクは無事です(30分後に大爆発を起こすカガーミンバイク)