ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
「くそっ!」
カブトにキャッチされ地上に降り立った俺が真っ先に行った事は、怒りに任せ地面を殴る事であった。
ワームの度重なる邪魔が入ったにせよ、仮面ライダーではないただのザビーに後れを取ったのだ。凜と再会してから調子が狂いっぱなしである。
ライダー殺しの二つ名に大した価値は抱いていないが、ここまで無様を晒すとは何より自分に怒りが沸く。
いや、こんな事をしている場合じゃないな。
一瞬の激高を終えた俺は、すぐさま頭を働かせる。
誠太郎に化けたワームの他に成虫済みのワームが複数体。
しかも、あの様子では警察署もワームの巣になっている可能性が高い。
すぐさま引き戻して何とかしないと両親と凜が危なかった。
ただ、その前にまずはこの二人に筋を通しておかないと。
俺は変身を解くと、助けに来てくれた二人に頭を下げる。
「すいません、天道さん、辛木田さん。助かりました。でも、なんでお二人がここに?」
しかし、天道さんはともかく辛木田さんまで此処にいるんだ?
午前中にアナザーガヴからヒトプレスを取り返して、すぐここに来たのだろうか?
「おおう、いや……」
「ワームがらみの事件を追っている」
俺と同じように変身を解除した辛木田さんが何か言おうとするが、それを遮ったのは同じく変身を解除した天道さんであった。
強引な割込みに辛木田さんが言葉を濁したことを良い事に、天道さんは話を続ける。
「少しややこしい事態になっていてな、お前の話を聞きに来た」
「アインロールドに用があるのか?」
意識して、口調をアインロールドの物に切り替える。
ショッカーをクビになった状態だが、仮面ライダーとなれ合うような身の上でもない。
個人としての礼節を捨てる気は無いが、線引きはしておくべきだろう。
そんな俺を不快に思ったのか天道さんは一瞬だけ妙な視線を向けるが、すぐさま何時もの傲岸不遜な表情に戻る。
目的はどちらがワームかを確認しに来たという所か。同じ顔が二人同時に存在していれば、そうなる。
まぁ、前門のワーム、後門のショッカーライダーと言うのは笑えない話だが。
「断っておくが俺がワームは有り得ない。あんた程の者なら、ショッカーがワームをどう扱うかは知っているだろう」
平行異世界に存在する大ショッカーはワームすら傘下に収めていたが、この世界のショッカーに限って言えばそれは有り得ない。
人類の一分一秒でも長い存続を大義とするこの世界のショッカーにとって、人類に擬態し入れ替わる事により社会を乗っ取り、さらには人類を滅亡に追い込もうとするワームは決して許す事の出来ない存在だ。
そんな俺の回答に、天道さんは小さく首を横に振る。
彼の口から飛び出してきたのはこんな言葉だった。
「いや、渡世誠太郎の話をだ」
「俺のですか?」
思わぬ名前に少しだけ顔を顰めながら素に戻る。
ショッカーのアインロールドの持っている情報は決して少なくない。残党ショッカーのナンバー2、戦闘力の無いミカがトップである以上、事実上のトップは俺だと見る者も少なくない。
当然その立ち位置にふさわしい情報が俺の元には常に上がってきていた。この国の闇の情報を多く知っている。
一方で普通の中学生だった渡世誠太郎が知っていることは少ない。
いや、転生者情報はあるにはあるが俺が知っているのはガッチャードの中盤あたりまでであり、すでにこの現実においては終わっている。無価値とは言わないが、相対的に見ればそこまで重要な情報はもう無いだろう。
「答えられる事なら答えますが、そっちは期待しないで下さいよ。それにあまり長話は出来ませんし……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
天道さんに割り込まれ会話に入るタイミングを失っていた辛木田さんがここで口を挟んでくる。
しかし、本当になんでここまで来たのだろうか?
「お前の本名は、渡世誠太郎で間違いないのか、アイン?」
この質問の仕方。天道さんが俺の名前を言ったからではないだろう。
多分、この人は俺の事を以前から知っていた?
いや、そう考えればショウマさんやラキアさん、デンテさんと違い、妙な視線で俺を見ていた事に説明がつく。
「俺の名前をどこで?」
今更否定するのも面倒くさいので素直に認める。
情報交換なら多少時間を使うのも仕方がないが、無駄な問答をしている時間など俺には無い。
そんな俺の問いかけに、唐木田さんは真剣な表情でこう答える。
「怪物に誘拐された人を調べていた。その中にお前の名前があった」
なるほど。
俺を誘拐したのはショッカーの怪人であり、凜はその現場を見ている。
その情報から俺を辿ってきたという所か。
そういや辛木田さん何の仕事をしているんだ? 警察って事は無いだろう。となると探偵か記者あたりか。
とはいえ、この世界で怪人に連れ去られる人間は少なくない。膨大な数だろう被害者の中から俺の姿とプロフィールを記憶していてたどり着くとは優秀な人だ。
「なあ、お前いつから自由だったんだ?」
「さてね。悪いがワームがいる以上は問答をしている時間は無い。共闘をした相手、しかも恩人にこの言葉を言うのは失礼かもしれないが、事件に関係の無い質問ならやめてくれ」
自由なんて無い。俺は自由と平和の敵、ショッカーだ。
辛木田さんの質問に少しだけイラっとした物を感じながら突き放す。
「関係はある。お前、自由に動けるならなんで帰らなかったんだよ」
正義の仮面ライダーらしい質問だ。
恐らくは両親と接触しての発言だろう。人の為に怒れる彼の誠実な人柄がこの言葉だけでもよくわかる。
だからこそ、俺とは関わるべきではない。
彼の質問に冷たくこう答える。
「帰る必要などなかったからだ」
「おまっ! 両親や妹の事を考えた事があるのかよ!」
「知らんな。俺はショッカーの使徒だ。塵芥の過去など捨てたさ」
俺の言葉に、辛木田さんは突然激高し胸ぐらをつかんでくる。
「ふざけんな! てめえ! あの人たちが、残された人がどれだけ苦しむと思っているんだよ!」
「そんな下らぬことをショッカーに問うか? 放せ」
彼の怒りは正当だ。人の為に怒れる彼は仮面ライダーにふさわしい人だ。
だが、彼の怒りに付き合っている暇はない。俺は彼の手首をつかむと、改造人間の膂力を以て引き離そうとする。
締め上げられて痛いだろうに、それでも彼の言葉は止まらない。
「苦しいんだよ! 辛いんだよ! あの時ああしていればよかった、こうしていればよかった。そんな事ばかり考える! ふとした瞬間に、消えちまった人の面影を見つけて胸が引き裂かれそうになる!」
「それで? それが俺に何の意味がある?」
知っている。
その感情は常に俺の胸の中にある。あいつらにどれだけの事をやってやれたか。ずっとそんな後悔ばかりが胸によぎる。
家族に、同じ苦しみを強いている事はわかっている。
誠太郎のような変わった子供を前に、忙しい筈の両親は出来る限り時間を取ろうとしてくれていた。蛇蝎の如く嫌っていた凜だって、その実は優しい子だった。
あんな良い人たちが息子が消えて苦しまないはずがない。
それでも俺は……。
ふと、視界の片隅に天道さんの姿が映る。
その表情は普段と同じ自信に満ち溢れたものだ。だが、その目が俺の底を見抜いているように澄んでいる。
少し
「会いたいんだよ! せめて一目でも会いたい! 言葉を交わしたいんだよ! 知らないところで死んでいた! そんなこと聞きたくねえんだよ! なんでわからないんだよ!」
天道さんに意識がそれた瞬間に、辛木田さんの叫びが耳を打つ。
本当に
脅すつもりで、こう語る。
「なあ、辛木田さん。あんたが戦っているグラニュート、あいつら人間を何人食らっていると思う? 十人かな、百人かな?」
「何を?」
「俺の拳は百人以上の人間の血を吸っている。あいつらと同じ化け物だ」
腕をねじ上げ、軽薄に笑う。
「俺を単なる雑兵と思っているのか? ライダー殺しのアインロールド、ショッカー最強の幹部。それが俺だ」
俺は化け物だ。化け物でなければならない。
いつか討たれるその日まで、化け物であり続けなければならない。
「捨てた家族などどうでも良い。ただ、恩はあるので助けてはやるだけだ」
「そんな……、そんな……」
俺の言葉に唐木田さんは……。
「そんな……事が関係あるかぁ!」
唐突に、本当に唐突にねじ上げていた腕を抜くと人に頭突きをかましてくる。
あまりと言えばあまりにも唐突な行動に、俺は回避も何もできずもろにそれを食らってしまう。
「化け物とかショッカーとかそんな事関係ないだろう! 会いたくないとか思っている奴が、露悪的に振舞うか! あんな必死に戦うか! ああ、家族が無事なのに妹や弟の仇って、わかったぜ! 別の誰かのために戦っているんだろう、お前! そんな情の深い奴が家族をどうでも良いなんて考えるはずが無いだろう!」
本当に
仮面ライダーという存在が、本当に
「会える訳がないだろう! 178人、俺が殺した何の罪も無い人の数だ! それだけじゃない、ショッカーの幹部として、多くの人を不幸にしてきた! どの面下げて家族の元に戻れって言うんだ!」
命じられるままに、俺は多くの人をこの手にかけた。
その人たちに罪があったわけでは無い。ただ、ショッカーに不都合だというだけだ。
子供だけでもと懇願する命乞いの声が今でも耳に残っている。目の前で親を殺された子の嘆きが脳裏にこびりついて離れない。家族の元に帰ろうと這って逃げる男を踏み抜きとどめを刺した。
怨嗟の声が、憎悪の視線が、消える命の感覚が俺の中に残っている。
「洗脳された!? 命じられた!? 関係ない、俺の意思で俺はショッカーに残った!」
俺はミカを許したように、ショッカーも許してしまっている。
忌々しい悪の組織だが、その大義と立て続けに起こる世界の危機、そして大首領の思惑を理解してしまった俺は、ショッカーに怒りの拳を振り下ろす事がもう出来ない。
自ら重ねてしまった罪を償う術などない。
ミクたちを取り戻しミカと共に普通の世界に逃がした後は、討たれるその日まで、人類が戦う力を得るその日まで、俺は悪の道化として生きるしかない。
こんな化け物が、なぜ幸せだったころの場所に戻れるというのだ?
「俺は、悪の化け物なんだ」
「それでも……、変わり果てた姿でも、会いたいんだよ。会いたかったんだよ」
その言葉に気が付く。いや、気が付いて然るべきだった。
この人もきっと、理不尽に奪われた側の人間なのだろう。
彼もまた、俺と家族の姿に失ったものを投影してしまったのだ。
「その辺にしておけ、二人とも。あまり時間がない」
俺たちの会話とも呼べぬ物を黙って聞いていた天道さんが、ここで口を挟んできた。
あいつらは人を殺しすり替わるのだ。ワームたちが両親や凜の傍に居るのなら急いで戻って駆除をする必要がある。
もっとも、この考えは天道さんが語った『ややこしい事態』により、良い意味でも悪い意味でも覆されることになった。
「なんだよ、それ……。闇菓子かよ……。」
GSL麻薬に関しての説明を聞いて、真っ先に絶句をしたのは辛木田さんであった。
最近流行し始めたワームが製造している麻薬の噂は聞いていたが、その正体が人間をワームに変質させる薬だとは思わなかった。
しかもその材料がネイティブとは。
ふと、あるネイティブの少女の事を思い出す。
まったく、ワーム、グラニュート、そして今回の元凶である根岸の遺産を使おうとしたネイティブたち。
どれだけ人をイラつかせる気なのか。
「警察官が次から次にワームになった理由がわかりましたよ。薬を盛られたか」
「多分な」
地球に再度侵入したワームだが、その勢力は以前よりも小さい。
渋谷隕石のような大きな社会的な混乱もなく、以前よりも強化された戦力で表は警察やライダーに裏ではショッカーに狩られているのだ。
今回の件で分かっているだけで6体。数が多いなとは思っていたのだが、なるほど腑に落ちた。
「さっきの話が本当なら治療できるのか?」
「初期症状なら治療は可能だが、完全に変異してしまうと現状では不可能だ」
脳の構造が完全にワームに変貌してしまい、思考も含めワームとなってしまう。しかも、変異中は完全なワームの操り人形だという。
何とかワームを倒し、完全に変貌する前に取り押さえ、治療を施さなければ人間には戻せない。
「俺に擬態して家族に狙いを定めたのもそれか」
父さんはいわゆる大病院の跡取り息子という奴だ。現在は祖父がトップだが、数年前から体調が優れず何もなければ父さんに席を譲っていただろう。
その何かとは俺の件だが……。
それはともかく、父さんに入れ替わるなりワーム化させるなりすれば、病院で使用する薬にGSLを混入させる事も可能だ。
「病院を中心にワームを増やす気か。最悪だ」
俺の言葉の意味を、二人も正確に理解したのだろう。
辛木田さんは顔色を変え、天道さんは俺の言葉に頷く。
「サイクロンヘル。父さんと母さん、凜のいる位置はわかるか?」
いつの間にかやってきていた相棒に尋ねると、簡単に三人の居場所が割れる。
警察無線の記録を再生。どうやらショッカーに襲われたので再び警察に向かうらしい。
白々しいったらありゃしない。
先ほどまでの辛木田さんとの問答時の心の揺らぎが消えて行く。
もう二度と見ないと決めていた家族を見て、心が揺らいでいたのだろう。
自分の立場を思い出した。
もう無様は見せない。やる事はもう決まっている。
頬をぴしゃりと叩くと、ヘルメットを取り出し頭にかぶる。
「ありがとうございます。天道さん、辛木田さん。俺はもう行きますので」
二人にもう一度だけ礼の言葉を述べながら、サイクロンヘルに跨る。
「お、おい。アイン、お前どうするつもりだ?」
「ワームを叩きます。あの害虫どもを放置は出来ない」
家族への情はもう表には出さない。
助けはする。だがそれは家族だからじゃない。人類存続の為の使命の一つだ。
そう自分に言い聞かせる。
あ、そうだ。
「それと天道さん、お借りしたバイクの件ですが、ワームの攻撃に巻き込まれました。後ほど弁償します。それじゃ……」
爆発炎上していたので、どう考えても廃車だ。
いやね、人様のバイクをぶっ壊してそのままっていうのは心情的によくない。
最悪は現金を都合するが、保険会社を通じて何とかしとくかなぁ……。
「何を言っているんだ?」
「え?」
「俺も行く」
そう言うと、いつの間にか天道さんの傍に赤いバイクが止まっている。
無論、俺が借りたバイクとは違う。カブトムシの角を模したアンテナのついたマシン。
あれが噂に名高いZECTのカブトエクステンダーか。
「良いんですか?」
「行かない理由があるのか?」
「ありがとうございます。助かります」
正直、ワームの巣に突っ込む以上味方は一人でも欲しい。
天道さんの申し出は本当にありがたい。
「ま、まて、俺も行くぞ! 乗っけろ、アイン!」
そう言うと辛木田さんは強引に俺の後ろに乗ってくる。
おい、サイクロンヘル。勝手に予備のヘルメット取り出して渡すなよ。
唐突ににょきっと出てきたマジックハンドからヘルメットを受け取りながら辛木田さんは話し続ける。
「あんな話を聞いてそれじゃサヨナラってわけにはいかないだろう! それと……、すまなかった、アイン。お前にも都合ってものがあるって事を考えていなかった」
辛木田さんの口から出たのは謝罪の言葉だった。
いや、貴方の言葉は正しい。人でなしは俺の方なのだ。
「俺こそ、すいません。でも俺は……」
「今は良い。でも、忘れないでくれ。お前の帰りを待っている人がいるって事を」
辛木田さんの言葉に俺はどうこたえるべきであったのだろう。
「はい」
結局、返せたのはこの短い返事だけであった。
ふと、視線に気が付きそちらを見ると、俺たちを満足げな表情で見つめている天道さんがそこに居た。
もっとも、彼がそんな優しい表情を浮かべていたのは一瞬だけだ。
すぐさま厳しい表情を浮かべ、真っ直ぐに正面を見る。
そう、やるべきことは決まっている。
ワームを叩く。
決戦の舞台に向かう為に、2台のバイクはエンジン音を夜の街に木霊させた。
主人公、無自覚に絆斗の地雷を踏む。
絆斗、無自覚に主人公の地雷を踏む。
天道、ものすごく痛まし気な目で二人を見つめる。の巻
さて、次は誰と出会うかな?
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バカ「っしゃぁっ!!」
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「さぁ、ここからがハイライトだ」