ショッカーライダーに転生して好き勝手に生きる(事など出来ない)お話 作:さざみー
「あのー、ミカさんや。そろそろ夕食の準備をしなければならないと存じ上げますのでそろそろ退いていただく事を具申いたす所存なのですが」
「やだ」
今日も今日とて我が家のリビングという名の残党ショッカー日本支部の支部長と実動部隊隊長の極秘じゃない会議室のソファでは、俺を座布団としたミカさんが何やらタブレットをピコピコと操作を続けていた。
時折太ももの上で身じろぎされるのが、何とも精神衛生上よくない。
「えっと、ミカさん?」
「クッションは黙ってなさい」
「はい……」
いや、改造人間だからこんな小柄な少女が1時間乗ろうが2時間乗ろうがなんて事は無いのだが、いかんせんこやつの見た目は小柄で可憐な金髪の美少女だ。太ももに伝わってくる絶妙な柔らかさとか目前で揺れる輝く金髪とか、人の理性をゴリゴリ削る事請け合いだ。
とはいえ、どいてくれと言っても中々どいてくれない。なんせミカさんはお怒り中。どのぐらい怒っているかというと、夕方ぐらいに家に報告という名の様子見に来た蜂女さんや蛇女さんが回れ右をしてさっさと帰ったくらい。
まぁ、勝手に風都まで行ったあげく、怪我をして帰ってきた俺が全面的に悪いんだが……。
しゃーないやん。あのクソ女が関わっていたって知ったら、ぶっとばさないと気が済まなかったんだ……。
本当は自分でぶっとばしたかったけど、Wがぶっ飛ばしてくれたのを見てすっきりしたし……。あいつが錐揉み状に吹っ飛ばされて落ちていく様は、みんな大うけだったじゃん……。
あのクソ女……姉ヶ崎博士との因縁は数年前、まだ再生ショッカーが健在だったころの話だ。
別の支部に所属だったあのクソ女、うちの支部に未改造の人間がいるとどこかで聞きつけたらしく、そいつらを勝手に連れ去って実験材料にしようとしたのだ。しかもその際に止めに入った怪人を殺害。同じショッカー内部と言えども横紙破りも甚だしく、俺はあいつのラボにカチコミを掛けて攫われた連中を奪還した上で、クソ女のラボと子飼いの化け物を完膚なきまでに破壊した。最後にクソ女も……といったところで、通報を受けて本部から駆け付けた幹部に止められて俺は報復を一旦停止する。
その後はその本部幹部の取りなしもあり、横紙破りと遣りすぎという事で相殺、両者お咎め無しとなったのだが……。
あのクソ女からは何度か嫌がらせを受けたんだよなぁ……。
しかも、この時の暴れっぷりが幹部連中に気に入られてしまい幹部候補生に格上げされたり、色々と可愛がられる(ライダーの特訓的な意味ではない)羽目になった。
ショッカー壊滅時に姿が消えていたんでてっきり死んだと思っていたのだが、落ち延びて風都に潜伏してたようだ。
廃工場でWと戦った数日後、蜂女さんから本件の追加報告を受け取ったらあいつが出てきた。どうも八伊木製薬本社の役員は誰も事情を知らず、気が付いた時には風都の研究所はあの女の支配下にあったそうだ。
気が付いた時にさっさとショッカーに報告しておけば面倒なんてなかったものの……。まぁ、これは結果論か。
「どうすっかなー……。ほんと面倒掛けてくれるわ、あの凡人」
ミカがタブレットを操作しながら愚痴を口にする。
今回の事の始末で頭を悩ませているのだろう。
「あのクソ女を持ってきた方が良かったか?」
ポンと顎をミカの肩に置きながら問いかける。かれこれ1時間はクッションに甘んじていたのだ。そろそろ話を進めたいと思うのは人情というものだ。
俺の行動に一瞬だけ頬を赤くしたミカだったが、不機嫌そうにこう返す。
「今更抜かれて困る情報を持っているわけでもないし、どうでも良いわよ。処分するのだって手間なんだから」
「誰があの馬鹿にあんなもん渡したんだよ」
「財団Xじゃないみたいなのよね……」
そっち系に詳しい蛇女がそれとなく探りを入れてみたようだが、あのクソに物資を流したのは財団Xではないらしい。
まぁ、闇のマーケットにちょくちょく流れてくるネビュラガスはともかく、もはや地球上では再生産不能である貴重な溶原性細胞をあのクソに財団Xが流すとは考えにくい。あいつら節操が無いように見えて、損得勘定だけはしっかりしているからなぁ……。
ショッカー壊滅時にサンプルを持ち出した可能性もあるが、あの考え無しが溶原性細胞なんて劇物を手に入れたのなら早々に使ってしまっている可能性が高かった。
「ハチ子さんとヘビ子さんに追加調査をお願いしているけど……時間はかかると思う」
「だよなぁ……。また変な組織でも出来たかな」
「やめてよ、お兄ちゃん。ありそうで嫌だわ」
この世界は一直線の歴史の上に多くのライダーが存在する。それは同時に、同じ歴史の上にライダーが立ち向かう脅威も存在するという事だ。
それらは俺の知っているドラマでは起こりえぬ干渉を繰り返し、予想外の歴史を生み出している。
ライダーの歴史も大筋では似たようなものだが、細部がかなり違うことが多い。
具体的には死ぬ運命の人が生き残ったり、滅ぶ組織が存続していたり、知らない組織が唐突に生まれたり、俺の知らないライダーが唐突に生えてきたりするのだ。
555を劣化コピーした奴が目の前でいきなり灰化した時はリアクションに困ったものだ……
俺の属するショッカーにしてもドラマとは少々性質の異なる組織だ。なんせショッカーの大義が「人類の一秒でも長い存続」であり「脅威に対抗するための世界征服」だ。自身が人類の脅威になっているあたり、トチ狂っている。こんなもん本気で考えているのは一部幹部と大首領の親衛隊ぐらいだろう。
「あの女の嫌がらせと、新組織が喧嘩を売ってきた。お兄ちゃんはどっちだと思う?」
「両方じゃないかな? あとは八伊木の始末か……」
基本被害者。しかも一応は再生ショッカーに籍を置いていた奴の不始末だ。
組織力があったころなら力で押さえつけられたが、今の状況で厳しすぎる事をすると他の傘下が離脱しかねないので難しい。うちが更に弱体化をして喜ぶのはデストロンをはじめとする同業他社だけだ。
あ、デストロンの連中の勝ち誇った顔を思い出したらムカムカしてきた……。くそっ、絶対次の会合で高笑いとセットで嫌味言われるぞ、これ……。
「風都の研究所は当然閉鎖ね。あと、あんなめんどくさい土地に研究所を作る事を主導した役員にはけじめを取ってもらうわ。それだけね、後はちょっと飴を舐めさせておかなきゃ……」
まぁ、その辺が妥当だろう。
処分の決定を伝える操作を行ったミカは端末を絨毯の上にぽいと投げ捨てると、唐突に俺に全体重をかけてくる。研究者に過ぎなかったのが実質トップをやる羽目になったのだから、ストレスも半端が無いのだろう。
俺は彼女の体重を支えながら、俺も体重を完全にソファに預けた。
「しっかし、今回はしんどかったわ。さすがは音に聞こえた風都のWだ」
前世で見たドラマでは悠長に見えたメモリチェンジが一切隙にならない。恐ろしく速い判断スピードに多彩な攻撃。
俺のスペックはWを完全に上回っており、さらには高速機動や能力ブーストもあるというのに、真正面から戦って勝てるビジョンが一切浮かばなかった。ヴァルバラドにしても、何よあの戦闘力と防御力……。俺が苦戦した魔獣相手にほぼ無傷とかさぁ……。
天井を仰ぎ見、二度の遭遇を思い浮かべる。
俺が今まで葬ってきたどの怪人とも、どの似非ライダーとも違う。あれが本物の仮面ライダーか……。
「もう、仮面ライダーと戦ったって聞いた時は本当に驚いたんだから……。やだよ、勝手にいなくなっちゃ」
そういうとミカは姿勢を変え、俺にしなだれかかってきた。
「何を言っているんだよ」
「もう私とお兄ちゃんだけなんだよ……。教室で残っているの……」
胸に彼女の重みを感じる。
彼女の鼓動と、息遣いがうるさいほど耳に届く。
まったく、こいつは悪の科学者だっていうのに……。何度目だろう、こんな会話は……
「俺はどこにも行かないさ。ここじゃない場所に行く時は、お前も一緒に連れて行ってやるよ……」
「約束だよ。もう一人にしないって……」
そう言うとミカはそっと瞳を閉じる。
少しづつ、ゆっくりと近づいてくる少女に、俺は……。
デコピンをかました。
「って、何をするだー」
「中学生がませた真似をしているんじゃありません」
ライダーデコピンは相当痛かったのか、額を押さえるミカに、俺はきっぱりと言い切る。
「こんな美少女に迫られてんのに!」
「自分で美少女言うな。ってか、保護者として許さん」
「お兄ちゃん、高校生でしょ」
まぁ、理性がゴリゴリ削られてはいるが、雰囲気に流されるわけにはいかねー。
これまた何度目かわからないやり取りをしながらも、ミカは俺に体重を預けっぱなしだし、俺もミカを抱き寄せっぱなしだ。
この年齢不詳の少女をおっぽり出す気は、今の俺には無い。
脳改造をされている分を差っ引いても、恋愛とは違う歪な共生関係が俺とミカ・ウェスト博士の関係だった。
to be continued
というわけで、エピソードWは一旦閉幕。
翔ちゃんが動きまくって主人公を食いまくった。さすがハーフボイルド完成系は伊達じゃない。
さて、次の話を進める前にライダーを再履修しなければ……
主人公の次の任務は?
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要人警護
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要人暗殺